【柏レイソル】2023シーズンの編成について

あけましておめでとうございます。

一年前のことです。僕は2022年のスカッドについて書いたエントリーで、ストロングポイントはCBであると書きました。以下は引用です。

  • また、強度や高さの観点からは、エメルソン、祐治、染谷、上島、そして終盤は右SBにコンバートされていたけど大南も控えています。
  • こうして改めて見るとCBの選手層は普通にリーグ屈指だと思います。間違いなく、ストロングな部分です。

何が起こるのか分からないのがフットボール。まさか一年後に名前を挙げた全選手がいなくなってしまうとは思いもしませんでした。

編成の全体像(※1月13日時点)

余談はさておき、早速はじめましょう。こちらがスカッドの全体像です。

  • 攻撃の選手が多い(追加で外国人獲得の噂も?)
  • 複数ポジションをこなせる選手が多い
  • 放出の多かったCBについても枚数的にはプラスマイナスゼロ
  • 左WBが少し手薄

第一印象はこんなところでしょうか。

今季のテーマは「ボールを保持する」

「昨年までの課題」、「放出した選手」、「加入した選手」といったそれぞれの点を線として繋げたときに浮かび上がる今季のテーマは「ボールを保持する」だと思います。

各ポジションの入れ替えについては後述しますが、大枠としては「ボールを保持する」ために必要な選手を獲得・残留させ、それができない選手は放出となった印象を受けます。

特に守備の選手に顕著な現象となりました。

また、攻撃の選手については、ハードワーク出来る選手が揃ったこともさることながら、枚数がとても多いことが印象的です。

これは、ボールを保持するためには、高強度のネガティブ・トランジションや前線からのプレッシングを90分間継続する必要があり、そのために選手層を厚くする必要があったからだと考えることができます。

まずはざっくり「守備陣」、「攻撃陣」といった大きな括りで見てみましょう。

守備陣は「強度よりも足元」

ビルドアップ問題に終止符を

今季の懸念ポジションとして挙げられるCBですが、第二次ネルシーニョ政権における課題を鑑みるとそれなりに納得感のある回答となりました。

高橋、上島、大南といった主力選手の放出が、懸念とされる理由かと考えられます。3選手はここ数シーズンの主力であった事から「大丈夫なのか?」とネガティブな印象を抱かせるのも無理はないでしょう。

しかしながら、この3選手には共通点が存在します。

それは、「強度」がストロングポイントである半面、「ビルドアップ」に問題を抱えているという点です。

第二次ネルシーニョ政権の主力であった3選手ですが、その期間にわたってボール保持という課題を克服することは出来ませんでした。

無論、仕込む側に問題があった事は否定しませんが、しかし、それを言っても解決はしません。仕込むことが出来ないのならば、出来る選手を連れて来たらいい……それはそれで正解であるような気もします。

ボール保持の局面で力を発揮できる編成

そのような視点で改めて今季のスカッドに目を向けると、古賀と田中は残留させつつ、ジエゴ、立田、(高嶺)を新たに獲得するなど、ボール保持の局面で力を発揮できる編成となっていることが分かります。

課題解決のために必要な選手が揃った形で、非常に論理的なアプローチから編成が行われたように思われます。

ボールを保持して攻撃するに際して、立ち位置の調整や前線の選手がボールを引き出す動きも重要ですが、ここ数シーズンの課題は、間違いなくビルドアップ隊によるボール供給にあったと個人的には解釈しています。

「針の糸を通すような縦パスと狭いライン間でのターン」は、魅力的なシーンではあるものの、それを遂行できる選手はスペシャルであり、再現性が高いとは言えません。

「ビルドアップ」を更に噛み砕いて、「時間とスペースの貯金を前線に届ける事」が出来ずに苦戦を強いられたここ2シーズンです。

昨季は右WBにコンバートされた大南も含め、あれほどの選手達の放出に対して、加入はこれだけなのか?という不安も理解できます。

しかしながら、「第二次ネルシーニョ政権」という大きな時の流れで俯瞰して考えた際に、課題を強化部も認識している事が伝わってきます。(そこまで認識しているなら、他に出来る事があるだろうという指摘は野暮です。)

仕組としての解決がどうなるかは始まってみなければ分からない部分はあるものの、素材は充分に揃ったと言えるでしょう。

攻撃陣は「ボールを保持するために必要な選手層」を確保

ボールを保持するためにはボールを奪わなければならない

攻撃陣については、ドッジ以外はほぼ全員が残留し、その上で仙頭や山田といった即戦力を獲得しました。

その結果、チーム全体の約50%がFWとIHの選手となっています。

なぜこれほど攻撃の選手が多いのでしょうか。

その意味するところを掘り下げると、「敵陣でのプレッシングやトランジションを90分間継続するために選手層を確保した」というのが僕の結論です。

ボールを保持するためには、相手からボールを奪わなければなりません。ボールを失ってからの即時奪回や高い位置からのプレッシングを継続するということは激しい運動量、つまり、消耗戦を強いられることとなります。

その消耗戦に耐えうるための選手層が現時点の編成には備わっているように見えます。

昨シーズン、特に好調を維持し上位を走っていたシーズン前期を振り返ります。

ゲーム序盤こそ強度を保ち敵陣で長くプレーする時間を確保出来たものの、前線の選手の消耗によって相手のビルドアップに牽制が掛からなくなってからは、じりじりとラインが後退する現象が見られました。

そのような展開になった際に、フレッシュな選手を投入して再度プレッシングの強度を高めるという選択が出来ませんでした。

それは、若い選手が多かった事からJ1レベルのプレー強度、スピードに対応できる選手が少なかったことが一因です。

誤解を恐れずに言うなら、選手層が薄かったということです。

今季は、守備陣が強度からビルドアップに重きを置いた編成に変わったという観点からも、J1レベルの強度に耐えられる選手をより多く確保することは必要不可欠でした。昨季一年間を通じて若手に出場機会があったことによる成長も加味すれば、とても充実した陣容になっているのではないでしょうか。

守備陣がボール保持の局面で強みを活かせる陣容になったことと併せて考えれば、やりたい事が何なのかという点は明確です。

2023年スカッドについてまとめ

言葉を尽くしましたが、基本的にはボールを保持できないという課題に対して、それを克服するための編成になったというのが大きなポイントだと思います。

主力の放出に関心が向きがちですが、冷静に見ると論理的なアプローチで編成を行ったように見えます。

素材は揃ったことから、後は料理人次第といったところでしょうか。スペイン料理を作りたくて素材を揃えにも関わらず、料理人は日本食しか作れませんみたいな展開は虚無が過ぎます。

個人的にはボールを保持するサッカーが好きなので、非常に楽しみにしています。

 

度々話題にあがるシステム予想については、個人的には不毛だと思っています。

なぜなら、3バックも4バックも相手に応じて使い分けるべきだからです。

ビルドアップでは、相手が2トップなら3バックで、1トップなら4バックで対応するべきです。プレッシングも同様で、相手の配置に応じて調整するべきです。決して「自分たちのサッカー」を捨てるということではなく、「自分たちのサッカー」に持ち込むために手段として重要なことだという意味です。

昨季はスカウティングに疑問が生じる場面も散見されました。今季はスタッフも増えたことですから、その辺りの精度向上にも期待したいと考えています。

各ポジション

GK

猿田、佐々木、守田、松本

スンギュの移籍後にレギュラー定着した佐々木。荒削りな部分はあるものの、トップカテゴリーでの出場経験は成長を促すものと思われます。引続き期待しておりますが、要望としては「キック」の質向上です。ロングキックはもちろん、後方でのポゼッション時にボールを逃がす場所になって欲しいなと思います。

2022年10月の練習試合で安定したパフォーマンスを見せた守田とのレギュラー争いにも注目です。

CB

古賀、田中、土屋、立田、ジエゴ、(高嶺)

Outは上島、高橋、染谷。Inはジエゴ、立田、(高嶺)。

枚数としてはプラスマイナスゼロです。強度からポゼッションに重点を置いたと述べたものの、それなりに強度も備わっているように見えます。

個人的には2年目の田中隼人に期待です。保持に重きを置くチームになれば輝ける展開も増えるのではないかと思っています。間違いなく世界に羽ばたくことのできるポテンシャルを有しています。

右WB

川口、片山、(中村)

Outは大南、北爪。Inは左右どちらも出来る片山。

安心感のある陣容です。基本は3バックだと思いますので、ビルドアップの出口としての働きが期待されます。

個人的にはボールを握ることの出来る局面における中村慶太の右WBはとても好きなので、今年も見たいなと思っていて、スカウティングが機能すれば効果的なカードだと思います。

左WB

三丸、岩下、(ジエゴ

一番層の薄いポジションだと思います。

なるべくならジエゴはCBで起用して欲しいと思っているので、三丸のフル稼働に期待がかかります。

岩下がバックアップとしてどれだけ試合に絡むことができるか?というのは大きな注目です。昨季は怪我もあったほか、J1の強度に苦労している様子も窺えました。食い込んでくれると非常にありがたいと思います。

CH

椎橋、加藤、三原、高嶺

大谷の引退はあったものの、言うことがないくらい安定感があります。

強みがそれぞれ違うので対戦相手やゲーム展開に応じて使い分けて欲しいと思います。

ちなみに個人的には、後方から時間とスペースを届ける事のできる加藤推しです。ボールを保持する局面での起用に期待しています。

IH

中村、サヴィオ、小屋松、戸嶋、落合、熊澤、仙頭、山田、ファルザン佐名

言うことありません。攻守においてハードワークの出来る選手が揃いました。

ビルドアップの出口としての仕事はもちろん、基本布陣となる【532】では過労死レベルの運動量が求められます。

FW

武藤、細谷、真家、升掛、ドウグラス、山本、オウイエ

無理めの長いボールが飛んでも独力で時間と作るドウグラスがどれだけ稼働できるか(開幕は間に合わない?)は一つの注目です。

IH同様にハードワークが求められるポジションです。その上で苦しいビルドアップの出口になる事や背後へのランニングなども求められるので、何でも出来ないと出場機会を確保することは難しいと思われます。

ここ2シーズンの主力放出について雑感

ここからはクラブ経営の話をします。

ここ2年のオフシーズンは主力の放出が相次ぎましたが、それについて雑感を書いていきます。

「チーム・オルンガ」からの脱却

2021/2022年のオフに攻撃陣の大半が、2022/2023年のオフに守備陣の大半が、それぞれ入れ替わる事となりましたが、これは、2年を掛けて新しいチームを編成したと捉える事もできるでしょう。

その意味するところは、チーム・オルンガからの脱却ではないでしょうか。

2019年のJ2では相対的な質的優位性を発揮したことで、また2020年は低い位置でブロックを構築しつつオルンガのロングカウンター一発でそれぞれ結果を残すシーズンとなりました。

「ポゼッションによる遅攻」よりも、「堅いブロックを構築してからのカウンター」が適した編成であり、それが求められたシーズンであったとも言えるでしょう。

「組織として解決できない問題を圧倒的な個の力で打破していたオルンガ」という見方もできる一方で、ビルドアップやボール保持という戦術への優先度が低かった2シーズンであったと考えることもできると思います。

その代償は大きくオルンガ移籍後の2021シーズン以降、ボールを保持してゲームを進めることができない、ポゼッションで相手のブロックを崩すことができないといった課題が露呈しました。

ボール保持で時計の針を進める事ができないから、相手にボールが渡って守備の時間が増加します。自陣へ閉じ込められるという事はボール奪取の位置も低くなることと同義ですから。

そして、自陣からボール保持による脱出や陣地回復ができないため、長いボールで逃げるほかなくなり、再びボールを失って攻撃権を相手に委ねる負のスパイルに陥った--というのがここ2シーズンにわたって苦戦を強いられた要因です。

「オルンガ最大の被害者は柏」と言われるのは、こうした背景からです。

計画的だったと思われる2年を掛けた編成の再構築

それならばすぐにでも編成の再構築に着手すれば良かったのですが、結局2年もの時間を要しました。

その理由は、2020年3月期の赤字決算による財務状態の悪化です。

2020シーズンは10億円もの赤字を出しながらもタイトルを目指したシーズンで、瞬間最大風速によって資金を捻出し、大型補強を敢行しました。

しかしながら、最終的には無冠のうちにシーズンは終わり、課題を隠していたオルンガを失った時に残ったものは、ビルドアップの出来ない歪な編成と悪化した財務状況でした。

編成の修正を図ろうにも、財務の回復を優先せざるを得ない経営状態で、すぐには身動きが取れず、たくさんの別れや痛みも伴いました。

資金的な余裕がない中では、計画的に編成の再構築を進める必要があり、はじめから2年計画だったのではないか?と今になってみると腑に落ちる部分あります。

ネルシーニョ監督としても守備さえ安定していれば最低限の成績は担保できるとの思惑から、最初に変えるのは攻撃陣(2021/2022年)で、そこの整理が終了した今オフ(2022/2023年)で守備陣の入れ替えに踏み切ったのではないか?というのが、メインシナリオではないかと思っています

真相はさておくとしても、この2年間で大半の主力が入れ替わりました。

編成の再構築が終了し、ようやく軌道修正が図られたものと思われます。

この編成で結果を残すということは、本当の意味でチーム・オルンガからの脱却が果たされたと言えるのではないでしょうか。

無理やりにでもポジティブになる事がこのエントリーの目的ですから、敢えて触れなかった懸念点もたくさんあります。

しかしながら、前述した理由で僕は今季の編成に対して大きな期待を持っています。

ビルドアップは出来ないのではなく、やらなかっただけなのだと。

ビッククラブではないのだから、優先順位を付けていく中で仕方のないことなのだと、そんな事を証明できるシーズンになればいいなと思います。

【柏レイソル】2022シーズン・レビュー【備忘録】

開幕前の下馬票では降格候補筆頭であった柏レイソル

しかし、実際にシーズンが始まると予想外のスタートダッシュから、一時は暫定ながらも首位に付けるなど大躍進。リーグ終盤までACL出場権が手の届く位置で過ごすことができた。

その一方で、8月6日京都戦の勝利を最後に10戦未勝利のままシーズンは幕を閉じた。

前期の好調と後期の失速――その要因を振り返っていきたい。

hitsujiotoko09.hatenablog.com

結論

2021シーズンからの【課題】は解消されていない

課題とはつまり、ボールを保持しながら、「攻撃を組み立てる事ができない」「時計の針を進めることができない」という点だ(正確には、第2期ネルシーニョ政権発足以降の課題)。

躍進の前期と失速の後期。そんな2022シーズンは、

開幕スタートダッシュによって「チームの雰囲気」「根性」「気合」といった精神的な高揚感がいい方向に作用していたのがリーグ前期で、弱点を隠せなくなり、勝利が遠のいたことで踏ん張りが効かなくなったのが後期

――そんなシーズンだったと僕は考える。

2019後半〜2020中盤まではオルンガという圧倒的な質的優位性で【ビルドアップ問題】を誤魔化す事ができた時期はあったものの、ラインを下げられてボールを持たされるような対策を講じられると手も足も出ない状態が今もなお続いている。

後述するが、シーズンを通してポゼッション率は45.8%でリーグでも下から3番目だった。ボールを保持することが出来ないということは、「勝ちパターン」が極めて限定的なピーキーなチーム状態を指している。

ボールを保持しなくても勝てるパターンというのは「先行逃げ切り」もしくは、「長時間タイスコアで推移する展開」ぐらいだろう。

相手にリードを許せば当然ボールを握らざるを得ない状況になるはずで、その際に相手ブロックを崩すことができなかった。

また、先制点を取ってリードする展開であっても、ボールを保持して時計を進めることができないので、相手にボールを渡し続け、守備の時間が長くなってしまう。

サッカーという競技において、「ボールを相手に渡す」という行為は、相手に攻撃権を委ねる事と限りなくイコールに近い。

内容に反して【結果】が積み上がる 大躍進の前期

内容が伴わないながらも、結果は積み上がるリーグ前期。内容が伴わないとは、主に【ビルドアップ問題】の未解決を指しているが、「この躍進は実力なのか?」と半信半疑のままシーズンは進んでいく。

そのような中でも勝点を積むことができた要因は、以下の4点であると考える。

  1. 開幕スタートダッシュ
  2. 【ビルドアップ問題】を解消する細谷・ドウグラス
  3. 中村慶太のプレス耐性
  4. 相手に助けられて積むことのできた勝ち点は18

①開幕スタートダッシュ

今季のターニングポイントは、間違いなく開幕・湘南戦、2節・マリノス戦だ。ここを連勝で飾れた事が非常に大きかった。スカッドの再構築に取り掛かった事もあり(選手の入れ替えが多かった)、昨季からの空気を引きずらなかったことも一因と思われる。

また、監督自身も早期に結果を示した事で、円滑なマネジメントや発言力を高める要因になったものと思われる。監督への信頼を口にする選手も多く、監督⇔選手間の信頼関係は充分で、チーム内の士気や雰囲気は非常に良好だった。

②【ビルドアップ問題】を解消する細谷・ドウグラス同時起用

開幕連勝の要因は、退場者のお陰?

細谷・ドウグラスの同時起用は、オルンガ無双で課題解決を先伸ばしにした2020シーズンと本質的には変わらない。

【①開幕スタートダッシュ】で挙げた湘南・マリノスの2戦は、内容で相手を上回っていたかと問われると懐疑的だ。「連勝」という結果だけを受け取るのではなく、そこに至った要因・内容を精査していく必要はあるだろう。

というのも、2戦とも前半で相手に退場者が出ており、60分近い時間を数的優位で過ごしているからだ。

だからこそ、①「11対11の時間帯ではどうだったのか?」②「なぜ退場者が出たのか?」という2つの問いに対して答えを探さなくてはならない。

①「11対11の時間帯ではどうだったのか?」に対する答えは、【ビルドアップ】と【プレッシング】が未整備であることを再び露呈する厳しい内容だった。2試合とも試合序盤から相手に主導権を渡し、再三にわたって決定機を与え、マリノス戦に至っては先制点まで献上している。

ボールを保持しながら攻撃が出来ず、相手にボールを渡してしまう。守備においては、効果的なプレッシングでボールを奪い返すことができない。

繰り返すことになるが、サッカーという競技において、「ボールを相手に渡す」「ボールを奪うことができない」というのは、攻撃権を相手に委ねる事を意味する。つまりそれは、守備の時間が増加することとほとんど同義だ。

②「なぜ退場者が出たのか?」に対する答えは、次で触れていく。

【細谷・ドウグラスの質的優位性】2試合とも退場者はCB その意味するところ

ターニング・ポイントとなった湘南・マリノス戦は、ともにCBに退場者が出ている。少し深堀りしてみたい。

今季から本格採用した【532】による細谷・ドウグラスの同時起用は、【ビルドアップ】問題を一時的に解決する要因となった。

【2トップ採用】最大のメリットは、相手守備者がマークを絞る事が出来ずに、マークが分散する所にある。相手が3バックなら【2トップvs3CB】になるし、相手が4バックなら【2トップvs2CB】の数的同数の状況を用意できる。

それは、空中戦はもちろん、背負って収めるプレーに際しても、囲まれにくい状況を作ることに繋がる。

【スピード・高さ・強さ】を備えた質の高い2トップがカウンターの起点となり、背後へのランニングやターゲット役を厭わなかった。こうして、2トップが相手CBへ勝負を挑み続けた結果として得られたものが、湘南・マリノス戦における退場誘発による数的優位だ。

例え【ビルドアップ】が上手く行かず、無理目なボールが2トップに届いたとしても、マークが分散しているため、ボールを収められる可能性が高くなる。細谷・ドウグラスの同時起用でそれぞれのマークが分散したため、質的優位性を相手のCBに直接ぶつける事ができた。

恐らくだが、湘南・マリノスは、分析段階で「柏が相手ならば、前から行けば奪えるはずだ!」という結論に至った。その結果、前傾姿勢になってボールを奪いに来てくれた事で、2トップ(細谷・ドウグラス)が背後のスペースを突く事のできる状況が整った。

「自分たちの論理で勝負できる土俵に持ち込んだ」というよりは、「相手の用意した戦術が偶然にも柏の用意できる最適解に嵌った」と考えた方がより自然だと考えられる。

【ビルドアップ】を仕込めなかった事が、皮肉にも相手の背後にスペースを生む一因となった。

ただ、2トップの質的優位性に依存する戦術は、2019シーズンから続く【ビルドアップ問題】は解決できていない事の証左でもある。

オルンガの質的優位性で【ビルドアップ問題】を覆い隠していた2020シーズンと本質的には変わらないとも解釈できる。実際にシーズンを消化していく中で、それを証明していく事になる。

【532】の横スライドは2トップの負担大

【532】は2トップの負担も大きい。

カウンター時の背後へのスプリントはもちろん、ネガティブ・トランジションに強度が求められるほか、ミドルゾーンで構えた所からのプレッシングは相当な運動量となる。

ゲーム中盤以降は消耗からプレッシングが間に合わず、サイドからの前進を許し、自陣への撤退を余儀なくされる展開が続いた。【541】へのシフトという解決策を用意するも、今度はカウンター時にFWが一枚になることから相手守備者のマークが集中するため、孤立してしまう。時間を作れずカウンターに出ていけなくなる、背負っても囲まれてすぐにボールを失うといった展開が続いた。

「後ろに重たい」状況で、永遠に相手にボールが渡るサンドバック状態だ。細谷・ドウグラスの同時起用で隠していた【ビルドアップ問題】、つまりは、ボールを保持して時計の針を進める事ができない問題は、ここで露呈する。

FW1枚ではマークが集中してしまい、空中戦や背負うプレーでの勝率が低下するのはもはや仕方がない。

そうなった時に打てる対策は、年間を通して用意する事が出来なかった。FWを入れ替え続けて、コンディションのいい選手が気力で相手を上回る以外に解決策がない状態を、僕は勝手にFWガチャと呼んでいた。

③中村慶太のプレス耐性

前半戦の躍進に大きく貢献した選手として、前述の2トップの他に【中村慶太】の存在は欠かせない。

開幕当初、右WBで起用された中村慶太の圧倒的なプレス耐性は、ポジティブ・トランジションからボール保持への移行をスムーズにした。

深い位置に追い込まれプレッシングを受けたとしても、苦し紛れの長いボールを蹴り出して相手にボールを渡すのではなく(2021シーズン)、キーパーや最終ラインの間でボールを落ち着かせることを可能にした。これによって、一度陣形を落ち着かせる事・陣形をリセットする事ができる。

そこからの【ビルドアップ】、つまり【保持→前進】は未整備であったとしても、相手のネガティブ・トランジションやカウンター・プレスを剥がす事で、僅かでもボールを保持して時計の針を進めることが可能だ。「トランジションでカウンター・プレスを仕掛けてもどうせ剥がされる……」と相手に思わせる事で、相手に【撤退】という選択肢も視野に入れさせる。

中村慶太の加入・起用は【ポジティブ・トランジション→保持】を安定的に移行する事に大きく寄与した。

ただ、中村慶太の離脱以降は2021シーズンを再現するかのように蹴り出すばかりの展開となった事から、チーム戦術や仕組を整備した訳ではなく、あくまでも【中村慶太という個の力】に依存する現象であったことは忘れてはいけない。

また、中村慶太のWB起用は保持のフェーズで安定感を得られる一方、守備ではスピードタイプのアタッカーをぶつけられると厳しいことも事実で、マルシーニョにぶっちぎられた4月の川崎戦はその最たる例だった。まさに諸刃の剣といえよう。

④相手に助けられて積むことのできた勝点は18

前期は相手チームに助けられて積むことの出来た勝点も多かった。

前半に退場者が出て、60分近くを数的優位で過ごしたゲームは3つあり(湘南、マリノス、札幌の)、そこで9ポイントを獲得している。

また、5月清水戦、6月神戸戦は、それぞれが監督人事に揺れるチーム状況であったこともあり、内容としては、無策で挑まれたに等しい展開だった。また4月の磐田についても、柏対策より自分たちの論理を優先していた印象で、だからこそあれほどの内容になったと考えられる。

この6ゲームで18ポイントを積み上げている。勝てるゲームを落とさない事の重要性は今更言うまでもなく、2021シーズンと比較すれば大きな進捗と考えられる。

一方で、対策・スカウティングを重要視するクラブからは、勝ち点を積むことができなかった。4月の京都・鳥栖の連敗は言うに及ばず、リカルド・ロドリゲス監督の浦和、片野坂監督のG大阪、アルベル監督のFC東京を相手にした際は、柏の強みである【強度】や【カウンター】を封じられる苦しい展開だった。

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また、個の質的優位性に依存する戦い方であったため、それを上回る個の力には為す術がなかった事も触れておきたい。3節・鹿島戦や9節・川崎戦は典型的な例で、年間を通じて、上位チームとの直接対決で力負けをするゲームが続いた。

質的優位とは相対的なものだ。当然、相手が上位になれば、それだけ相手選手の個の力も高いレベルになってくる。つまり、質的優位性を得られなくなる。

個の質的優位性が重視されるという事は、コンディションや相手選手との相性で上回ることを考慮した先発が望ましいと思われる。

しかしなががら、依然として離脱者は多くコンディション面に不安を抱える選手が多かった。また、先発についても相手との相性よりも自分たちの論理を優先したような印象を受けるチョイスが続き、非常に歯がゆいものとなった。

前期の躍進についてまとめ

  • 開幕スタートダッシュによるチームの士気向上
  • 細谷・ドウグラス同時起用という【ビルドアップ問題】への解答
  • 中村慶太のプレス耐性という【個の力】
  • 相手に助けられて積むことのできた勝点は18

今季のまとめと来季に向けて

【ビルドアップ問題】の解決と【内容】を詰める作業の重要性

開幕戦・2節で強烈なインパクトを与えた2トップによって、相手が「ハイプレスをしない」選択をするようになった。ハイプレス=背後にスペースが生じることだから、後ろに走られたくなければ撤退してしまえばいい、と。2020シーズンに、オルンガ対策として多くのチームが柏に取った対応と非常に似ている。

リーグ序盤、勝点を積んでいく中で、「ビルドアップは解決しているんじゃないの?」という意見も出ていたが、振り返ると、相手が細谷・ドウグラスをリスペクトして

「ボールを保持させてくれた」

と解釈した方がより正確なのではないか、と個人的には考えている。

結果に反して、内容が伴わないリーグ前期。内容が伴わないとは、主に【ビルドアップ問題】の未解決を指しているが、「この躍進は実力なのか?」と半信半疑のままシーズンは進んでいく。

前述の通り、【ビルドアップ問題】が解決されたように見えたのは、選手個人の質的優位性によるものだった。僅かでも解決したように見えた一因であった、ドウグラスと中村慶太の離脱以降は、対策を練ってくる相手には手も足も出ないという試合内容が続く。

内容を詰めていく作業が如何に重要であるのかを思い知ることになる。【結果が出れば良い】という考え方も否定はしないが、しかし、内容を突き詰めなければ結果に【再現性】は与えられない。

安定的にACL出場権を狙う位置に付けたいのであれば、やはり、結果の再現性を詰めていく作業に本気で取り組んでいくべきであろう。

問題は【ビルドアップ】だけでなく、【プレッシング】や【スカウティング】も

来季に向けての不安材料として、【ビルドアップ】のみならず【プレッシング】が嵌まらない状況も非常に懸念点だ。

柏の強みが【強度】であるとしても、そもそも【プレッシング】を相手にぶつける事ができなければ、【強度】を発揮しようがない。

そして、なぜ【プレッシング】が嵌まらないのか?と言うと、【スカウティング】を外すからだ。柏対策として「今日だけ形を変えました!」というのならばともかく、直近ゲームと同様の布陣・入りをされているのにも関わらず、好き放題殴られるゲームが散見され、非常にストレスを感じた。

何度も繰り返した「ボールを保持できない」「ビルドアップできない」というのはあくまでも、一側面の話で、それは換言すれば、効果的なボール奪取が出来ていないから――と考える事もできる。ピッチ上にボールは一つしか存在しないのだから、相手からボールを奪わない限り、こちらがボールを保持することはできない。

スカッドの再構築は花開くのか

とはいえ、大幅なスカッドの入替・再構築を行った初年度だったのも事実だ。チーム・ビルドの一年であったと解釈することもできる。多くの若手に出場機会が与えられ、痺れるような上位戦線を過ごした時間は貴重な経験となったはずだ。

冬の移籍市場でも積極的に補強を行っている様子が伝わり、財務改善も一定程度進んだものと考えられる。

新聞報道では2023シーズンがネルシーニョ監督のラストイヤーとのことだ。今季に蒔いた種が花開き、さらなる飛躍のシーズンとなることを願う。このクラブを前に進めた偉大な監督を笑って送り出せるような、そんなシーズンになりますように。

【大阪遠征①】遠征記という名の自分語り

一向に始まらない遠征

今日が10月1日ということは、つまり、昨日は9月最終日ということです(進次郎構文)。

9月末というのはサラリーマン的にはとても大きな意味を持っている。特に営業推進部門のマネジメントを任されている身としては、それはそれはプレッシャーで眠れない日々が続いていた。リヴァプールのストーミングを想起させる強度のプレッシングが支店長をはじめとする上席から降り掛かった。上積みされるノルマと、やらかす部下、発狂する上司。実に阿鼻叫喚。まさしく地獄絵図に等しい光景を目の当たりにしつつも、淡々と実績を積み上げ、結果的には敗色濃厚からの一発逆転で何とか目標をクリアするという痺れる9月だった。9月30日は夜中まで掛かって残務を処理するなど、怒涛の9月を乗り越え、晴れて漕ぎ着けたのがこの大阪遠征というわけだ。これは楽しまないわけにはいかない!10月の数字のことを考えたら普通に吐きそうになるけど、一旦それはもう良いじゃないかと。

明日できることは明日やれば良い。「明日やろうは馬鹿野郎」とか、馬鹿じゃないの?と名ドラマに喧嘩を喧嘩を売りながら、意気揚々と30周年記念の黒ユニを纏って家を出る。

 

晴れやかな気分で東武アーバンパークラインに乗車し、ジャンプ+で最新話が更新された「2.5次元の誘惑」に涙していたところ、転職エージェントから連絡が入る。

転職エージェント「羊男さん、今日正午締切の適性検査の受験を……」

日常に追われるあまりに完全に失念していた。タスクリストに表示されているものの、もはやそれは風景と化していた。典型的な形骸化だった。

ということで、当日になっても、何なら自宅を出発してもなお僕の遠征は始まらないらしい。昨日は多忙を極めたせいで一口も固形物を口にしておらず、あまりの空腹に頭も回らない。こんなに忙しい時期に転職活動を始めた自分を憎む。あわよくば東京駅で朝食を……との目論見も虚しく、新幹線のホーム、果ては奮発したグリーン車内で適性検査を受ける羽目になる。致命的な計画性のなさだった。

そして、東京駅出発から15分ほど経過した頃にどうにか適性試験の受験を完了し、ようやく遠征が始まった。(別にいっか、とフライングで受験しながらビールを飲んでしまったのはここだけの秘密)

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【遠征×読書】遠征で一番好きな時間

これまでたくさんの遠征を経験してきたが、個人的に一番好きな時間は移動時間だ。

生産性や効率、コストパフォーマンスを意識した忙しない日々が続く僕たち現代人にとって、目的地までの移動時間はこの上なく贅沢な自由時間だと思う。何をしても赦される至福のとき。まあ、日常の延長線と捉えて仕事に勤しむ人もいるのだろうけど、しかし、僕が遠征に出る理由やそれが好きな理由のひとつとして、やはり日常から離れることができるからというのが大きい。だから、なるべく普段やっていることはやらないようにする。例えば、ルーティンとしているジャンプラやマガポケといった漫画アプリの周回も、一度、新幹線や飛行機に乗ったら東京に戻るまではやらない。どうしても日常感が出てしまうから。

そのため、僕は遠征用に必ず一冊の本を買うことにしている。なるべくならばそれは物語が良い。つまり、小説か漫画ということだ。これはお金のなかった大学生サポーター時代からの習慣で、当時は、ブックオフで安くなった中古本を漁ってから敵地に赴いてものだった。今はさすがにKindleだけど。遠征の共として連れて行った小説は、その後も忘れずに記憶に刻まれることが多い。例えば、2014年の徳島遠征では、森博嗣の「スカイ・クロラ」を読んでいたことを今でも覚えている。2015年の神戸遠征では三浦しをんの「船を編む」だった。内容は、風景や景色、試合とともに刻まれている。本とともに旅をするというのも、これまた一興だ。

そんなこんなで、今回の遠征は斜線堂有紀さんの「楽園とは探偵の不在なり」。とある島に訳ありの人物たちが閉じ込められるお話(結局今回の遠征だけでは読み終わらなかった)。個人的に2022年で一番読んだ作家が斜線堂有紀さん。「恋に至る病」はあまりの衝撃と余韻にしばらく立ち直ることができなかった。僕と同い年らしい。

【神座】僕にとっての大阪の味

ビールを飲みながら、時折読書、時折うたた寝を混じえ、ようやく大阪着。まずはここで腹ごしらえ。

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旅先で東京でも食べられるものを選択することに思うところもある。しかしここ「神座」は僕にとっての、大阪の味なのだ。

お金がなかった学生時代の遠征で、なけなしのバイト代を叩いて食べた記憶が今でも鮮明に刻まれている。財布に1,500円しかない状況だったから「絶対に失敗はできない」とTwitterでおすすめを募集したところ、当時から親しくさせていただいてる某koさんに教えて貰ったという一幕もあった。そんなギリギリの状況だったこともあって、その一杯は余りにも僕の心に響いた。まさしく”思い出補正”だろう。確か雨の大阪(2014年)で、落合信彦の「狼たちへの伝言」を読んでいた。

さすがに30歳を目前に控えてお金がないなんてことはなくなったけれど、余裕ができたことで物事に対する反応、感度が落ちている気がする。一杯のラーメンに震えるほど感動できたあの頃の自分を少し羨ましく感じながら、でも、目の前のラーメンに目を向けると当時は泣く泣く諦めたチャーシュートッピングがなされているという。あれから約10年の歳月を経て、僕は、何かを得て、何かを失ったらしい。少し不思議な気分だった。

話は逸れたけど、つまりは、その時の強烈な思い出や記憶のお陰で、未だに大阪へ来る度立ち寄ってしまうのが、ここ「神座」。僕にとっての大阪の味だ。いよいよ大阪に辿り着いた実感が湧いてくる。

【生活感】観光はしない。俺たちは応援に来たのだから。

「観光?しないよ、そんなもの。俺たちは応援に来たのだから」

 

いつだか知り合いのコアサポが言っていた。

当時は「何を言ってるの?」と狂気を感じたものだが、今ならその気持ちが分かる。確かに、大阪くらい頻繁に足を運ぶ場所で、恐らくは来シーズンも最低一度は訪れることが確定している場所だと「まあ、今回は観光はいいか……」という気分にもなる。

余談はさておき、この日は、声出し応援適用ゲーム。自由席の場所取りのために観光もそこそこにスタジアムへと向かう。柏レイソルサポーターにとってはパナソニックスタジアム吹田は四度目?混雑回避を含めた攻略法を各々が編み出しているところだと思うけど、個人的な最適解はJR京都線で新大阪→千里丘。約10分の乗車。そして、そこからパナスタまではひたすら徒歩。これが30分くらい。住宅街のど真ん中を抜けていくのだけど、これが「柏⇔日立台」間の道のりと少しだけ似ている。

今回の吹田に限った話ではないのだけど、僕は遠征先でその土地の生活感に触れる度に、ふと「ああ……柏から遠く離れたこの場所にも確かに人は生きていて、それぞれの生活があるんだよな……」という不思議な感慨に覆われる。

忙しない生活を送る中で、つい自分が生きている場所や属する組織だけが世界の中心だと思い込むことがある。この場所だけが、今いる場所だけが、全てなのだと感じてしまう。

しかし、それはただの執着に他ならない。

新卒入社した会社でそれなりに結果を残して、評価されて、役職を与えられた。慌ただしい日々の中で流れていく時間とともに、いつしか身動きが取れなくなってくる。かつて、学生時代のサポーター活動や遠征を通じて様々な人達と交流を重ねていくうちに描き志した「こんな大人になりたい」という理想さえもいつの日か忘れてしまう。

側から見たら本当にちっぽけで、きっと自分で後から振り返ってもそれほど大切ではない”もの”……、そんな取るに足らない”もの”を、手放すことができないのだと思い込んでいる。この世界はとても広く、どこまでも外へと続いている。だから、臆することなく飛び出して行くべきなのに。

特に今、僕自身が人生の大きな岐路に立っていることもあって、一層センチメンタルな気分にさせられた。遠征先で生活感に触れる度に僕は茫洋とそんなことを考える。

それなりの傾斜。丘を登っていく。

f:id:hitsujiotoko09:20221002193145j:image振り返ると遠くには大阪の街(たぶん)。

f:id:hitsujiotoko09:20221002193149j:image登りきった丘を下ると、もうスタジアムは目の前(写真を取り忘れた)。

と、ここまで書いてまさかの3,000字超。スタジアムまで辿り着かないという。さすがに長いので、一旦ここで切ろうと思う。パート①ということでアップするけど、パート②を書く保証はない。

vsガンバ大阪(2022明治安田生命J1リーグ 第13節)

柏の保持 【4-4-2】に対して【3-1-4-2】の優位性

  • 「ポゼッション」に悩みを抱える柏だが、この日は穏やかにボールを保持しながら攻撃を行なうことができた。
  • ビルドアップ隊からの縦パスがライン間に刺さる場面が多く見られた。また、中盤でボールを受けた選手も、そのままターンしながら前に運び、多くのチャンスを創出することに成功している。
  • なぜこの日に限ってビルドアップが上手くいったのか?
  • それは、【システムの噛み合わせ】が一因であると考えられる。

(7:17、8:10、13:15、16:50、19:10などから抜粋)

  • 柏は【3CB】でビルドアップをスタート。対してガンバのプレッシングは基本的にFWの【2枚】が担当ふる。ここで【3vs2】という数的優位の局面を確保できる。
  • 特に左からの前進が多かった要因として、古賀が【ボールを運ぶこと】が出来るほか、両足でボールを扱うことができるため【パスコース】を選択することができる事が大きい。反対サイドの高橋とのキャラクターの違いと言っていい。
  • 【ビルドアップの出口】についても、柏のCH【3枚】に対して、ガンバのCHは【2枚】。ここでも数的優位を確保できる。どこかを埋めるとどこかが浮く構図。小屋松が状況を見ながらボールを受けに降りていくことも、ガンバの守備者を困らせる要因にもなっていた。
  • このように、初期配置で位置的な優位性を確保できたことが、スムーズなポゼッション、ビルドアップに寄与した。ポゼッションで敵陣まで侵入することで、例えボールを失った際ももう一度敵陣で守備をやり直すことができる。得意のハイプレス〜ネガトラを繰り出すことができるため、二次攻撃へと繋がりペースを握ることに成功した。

柏【5-3-2】の泣き所から生じるズレを使うガンバ

  • 一方のガンバも保持からチャンスを創出する。
  • 柏非保持【5-3-2】に対して、ビルドアップ隊に【GK+2CB+CH】の4枚を組み込みながらボールを握るガンバ。中盤は右SHの石毛を内側に配することで菱形に近い形だった。
  • 柏に限らず【5-3-2】は、【相手のSBへのアプローチ】と【そこから生じるズレの解消】が一つの課題・テーマである。対戦相手としてはそのズレを突くことが攻略に繋がるわけだが、ガンバもしっかりとスカウティングを行っている様子が窺えた。
  • 柏は基本的にWBを上げることで相手のSBを対処し、敵陣でのプレッシングを行いたい。
  • 実際にこのゲームでペースを握った時間帯や広島戦の後半など、大南・三丸の両WBが敵陣までアプローチが出来ている時は内容も伴っていることが多い。

  • 「それならば」とガンバは、大南の空けた背後のスペースを使うことでプレッシングを回避し、柏陣地への侵入を目論む。
  • 大南が相手のSBへアプローチに出た際の背後のスペースに走り込まれて、サイドの深い場所までボールを運ばれるシーンや裏を取られる場面が見られた。(ループシュートのシーンなどが良い例)
  • 繰り返し狙われていた場所でもあり、柏攻略としてスカウティングの段階から仕込まれていたものと思われる(さすが片野坂監督)。
  • また、ガンバのビルドアップ隊4枚(【GK+2CB+CH】)に対して、柏は2トップなのでさすが追いきれない。中央からの前進に蓋をしてサイドに追い込んだとしても、ビルドアップをやり直されて逆サイドに振られてしまうとスライドが追いつかずにジリジリとラインが後退する場面も見られた。
  • 【5-3-2】の泣き所であるサイドのスペースを効果的に攻略した前半のガンバだった。

一転してボールが運べなくなる柏 ガンバの修正

  • 互いに保持からチャンスを創出する見ごたえのある内容だった前半から一転。後半は、膠着した展開となった。
  • 一番大きな変化・要因として、両チームの【システム変更】が挙げられる。
  • 柏は【5-3-2】から【3-4-2-1】へ、ガンバは【4-4-2】から【3-4-2-1】へそれぞれ変更を行ったことでミラーゲームとなる。
  • このシステム変更の意図を探る。
  • まず柏は【5-3-2】でサイドのスペースを使わてしまったことへの修正だ。今季のネルシーニョ監督は【5-3-2】でスタートしても、サイドから崩される時間が増加すると【3-4-2-1】へ変更することが多い(名古屋戦など)。相手のSBにアプローチが掛からず、生じたズレから前進されてしまう状況を解決したかったものと思われる。
  • 一方のガンバも噛み合わせのミスマッチは如何ともし難く……といったところだろう。【4-4-2】で曖昧になったマーカーを明確にする。守備の基準点を整理するシステム変更であった。
  • この変更でペースを掴んだのはガンバだった。
  • 柏は自然体で確保出来ていた位置的優位を手放すことになる。位置的な優位性を使いながらのビルドアップであったため、ピッタリ枚数を合わせてきたガンバの守備に対応できなくなってしまう。
  • 劣勢時に散見されるビルドアップがサイドで詰まり、被カウンターからジリジリとラインが後退する悪循環に陥る。
  • 加えて、前半は【5-3-2】でカウンター要員が2枚だったことに対して、後半は【3-4-2-1】で細谷1枚。ポゼッションで時間が確保できないのならばFWがボールを収めることで時間を作り陣地を回復する必要があるものの、さすがに細谷1枚では相手のマークも集中してしまう。
  • FWが孤立することで空中戦の勝率も低下するほか、セカンドボールの回収も難しくなる。ビルドアップで時間が作れないため、そもそも細谷に入るボールが無理目な質の低いボールになってしまった。
  • 終盤はガンバが強度を落としたことで再び敵陣に押し込む展開となったものの時間切れ。
  • 加藤はよく絡んだと思うが、もう少しプレー時間が欲しいというのも本音のところ。手塚同様に、ビルドアップ隊が時間を届けてあげられたら輝けるタイプだと思う。

雑感

内容の再現性、意図的に確保した優位性だったのか。

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  • あとは決めるだけ……といった内容だった。監督や選手もコメント読む限りではそれほど悲観していない模様。本当に「結果だけ」が足りなかったと。
  • しかしながら、相手に修正が入った途端に劣勢を強いられ、跳ね返すことができないというのも、果たして「内容は良かった」と手放しで喜んで良いものか悩ましいところ。
  • 【3-1-4-2】という「初期配置での位置的優位性」はガンバをスカウティングした上での選択ではなく、広島戦・浦和戦からの継続によるもの。
  • 意図的に確保した優位性ではないと思われることから、内容の再現性については懐疑的に捉えた方が真実に近いような気はする。

vsサンフレッチェ広島(2022明治安田生命J1リーグ 第11節)

【3-4-2-1】から【5-3-2】への変更と意図

  • 柏は前節までの【3-4-2-1】から【5-3-2】へ変更。
  • 意図としては、【ハイプレスを用いる広島の背後を狙う枚数を増やしたかったこと】、守備の時間が続き【自陣に押し込まれた際にFWが孤立してしまう事への対応策】の二点であると考えられる。
  • 実際に前半からアンジェロッティが背後に抜け出して右サイドで勝負する局面が複数回(15分、34分など)見られたほか、同点弾についてもFWが2枚存在したため、中央から崩す事ができた。
  • また、ポゼッションの局面でビルドアップに詰まり、前線にボールを蹴り出したとしても1トップよりも2トップの方がターゲットが多く、マイボールに出来る確率は高くなる。
  • 試合全体を通じた印象としても、現状のスカッドでは【5-3-2】が最適解であるように感じた。ポゼッションで主導権を握る事のできない展開になったとしても、前線で時間を作るための手段を確保することができる。
  • リーグ序盤の好調についても、ポゼッションやビルドアップに代わる【ロングボール】という陣地回復の手段を持っていたことが大きい。
  • 以上のような観点から考えたら、ある意味では原点回帰の【5-3-2】採用であると言える。

柏・広島 それぞれの狙い

広島のハイプレス

  • 広島の狙いはハイプレス。
  • 敵陣での同数プレッシングからショートカウンターへ繋げる。
  • その際、CHやWBまでも敵陣に送り込む。前傾姿勢になり、DFラインが柏のアタッカーと同数になる事やDFラインの背後に広大なスペースが生じるリスクを受け入れてでも、敵陣でボールを奪いに行く。非常にアグレッシブな姿勢だった。

柏の【疑似カウンター】

  • 柏の狙いは、自陣保持で広島を引き付けてから背後のスペースを狙うという【疑似カウンター】にあった。以下、監督と古賀のコメントを抜粋。

「相手も前から守備に出てくるチームでしたし、あとは最終ラインの人数が3枚だけの状態があるので、そこをうまく突いていくというのは、練習から準備してきたところではありました。

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我々がボールを握って主導権を握るだけのスペースはありましたので、相手を引き出してからの判断、相手が空ける背後のスペースをもう少し効率よく突いていけるように選手たちに指示を出し、後半に入ってから選手たちがピッチの中で修正してくれたことで我々が優位にボールを動かせたと思います

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  • 相手の背後のスペースを使うためには、相手に前傾姿勢になってもらう必要があった。そのために柏は、自陣保持から攻撃を組み立てる事を目指していく。2トップを選択した事も辻褄が合う。

広島のプレッシングを越えられない柏

  • 柏は【疑似カウンター】を目指したものの、広島のプレッシングを越えられず、思うような前進ができなかった。
  • ボール保持者に選択肢を与えようと、前線の選手が自陣に降りていく。しかし、同時に広島の選手も付いてきてしまうために、自らパスコースやスペースを潰すことになってしまった。
  • 24分、30分には中村を古賀の横に降ろす場面が見られる。三丸を高い位置に移動させることでポゼッションからの前進を目論むものの、広島のプレッシングを回避するには至らなかった。
  • 稀にシンプルなロングボールを2トップや相手の背後に入れる事で効果的に敵陣へと迫るシーンも見られたが、あくまで保持からの前進を優先しているように見えた。
  • 個人的には2トップを積極的に活用していく意味でも、もう少しロングボールを増やしても良いような印象を受けた。
  • 柏はポゼッションやビルドアップのミスを突かれ、広島の得意なシチュエーションでゲームが推移する。得意なハイプレスから柏陣地でゲームを進める事に成功する広島。

ポゼッションで陣地回復を図る広島

  • ボールを失う回数が増える柏。広島がボールを保持しペースを握る。
  • 広島はポゼッションの局面へ移行した際も、柏の2トップに対して3CBという数的優位を活かした前進によって効果的に陣地を回復していた。
  • 敵陣でボールを奪うためには、陣地を敵陣まで回復しておく必要がある。そのための手段としてポゼッションを選択した広島だった。
  • 【5-3-2】を採用した柏は、全体が高い位置を取る事が出来た際はネガティブ・トランジションへの移行もスムーズである一方、WBがピン留めされると後ろに重たくなってしまう弱点がある。広島のビルドアップ隊に時間を作られてしまい、三丸・大南が中々前へと出ることが出来なかった。

逆転弾は理想的な敵陣でのプレッシングから

  • 主導権を握られ、幾度も決定機を与えた柏。スンギュのビックセーブで何とか失点を凌ぐうちに、次第にペースを握り返す。
  • 後半に入ってからシンプルなロングボールが増加した。早めに縦に付ける。2トップという事もあり、比較的ボールが収まりやすかった。細谷・アンジェロッティ・サヴィオの距離感も近く、セカンドボールの回収も概ね良好だった。
  • 素早く敵陣にボールを送り込みながら陣地を回復する。敵陣でプレーする事が出来れば、例えボールを失ったとしても、自分達が守るべきゴールから最も遠い敵陣で守備を始める事ができる。
  • 逆転弾も敵陣でのプレッシングからショートカウンターである。WBが高い位置までプレッシングに出られており、理想的な展開だった。

  • また、時間経過とともに広島のプレッシングの強度が低下したことも一因と考えられる。相手がボールを奪いに来なければ、こちらがボールを握る時間が増えてくる。サッカーという競技では、フィールド上にボールは一つしか存在しない。
  • 広島のプレッシングには強度が求められる。気温上昇と疲労蓄積の影響でブレーキの掛かるタイミングは必ずある。広島サイドからすれば、前半でゲームを決められなかった事が悔やまれる結果だった。

vsサガン鳥栖 (2022明治安田生命J1リーグ 第10節)

ルヴァン杯3節からの変更点

 このゲームを戦う上で現場でもスカウティング材料にしたであろうルヴァン杯・3節のレビュー。

hitsujiotoko09.hatenablog.com

柏の【5-4-1】継続に対し、鳥栖は【3-4-2-1】を選択

  • 柏は【5-4-1】を継続し、鳥栖は【4-3-1-2】から【3-4-2-1】へ変更。
  • 柏については、直近リーグ戦で連敗中。ルヴァン杯札幌戦でも結果こそ劇的であったものの、内容は今一歩。時間が空いたこともあり、システムにも変更を加えてくる可能性も考えられた。しかしながら、ターンオーバーの影響か離脱者が多数ということもあり、慣れ親しんだシステムの継続を選択。
  • 鳥栖については、そもそもルヴァン杯・3節がフルメンバーではなかったことから当然の変更。後述するが、柏の【5-4-1】に合わせてきたと考えられる。

開始10分間の駆け引き

 立ち上がりは柏が高強度のハイプレスで主導権を握り掛けたものの、時にロングボールを組み込みながら柏のハイプレスを回避、ボールを保持し、次第にゲームの主導権を握っていく鳥栖――というゲームの構図だった。

  • 柏の立ち上がりは決して悪いものではなかった。ロングボールでの陣地回復から敵陣でのプレッシング、そしてショートカウンターへ移行する流れは好調を維持していたリーグ序盤を想起させるものだった。川崎戦、京都戦と保持に固執するあまりに、悪循環に陥った流れを払拭した印象さえあった。
  • 鳥栖は立ち上がり当初、柏のプレッシングに対して、足下での保持・前進を目指す。細谷のサイドに誘導するプレッシングから狭いエリアに押し込まれる。柏の強度の高いプレッシングを受けてボールを繋ぐことがでぎず、カウンターの機会を与える場面が何度か見られた。
  • 柏は敵陣でのボール奪取からカウンターを繰り出し、PA内への侵入やセットプレーの獲得にまで至るシーンが何度が見られた。WBの三丸がファイナルサードで仕事をしている事からも、好循環でゲームに入ったことが分かる。
  • しかし、鳥栖も黙ってプレッシングを受け続けるような真似はしない。具体的には、ロングボールでの柏のプレッシング回避・無効化を図る。

  • ハイプレスを行う柏は、換言すれば「前傾姿勢」であるとも言える。最終ラインの背後に広大なスペースが生じている。
  • 鳥栖は「保持」をゲームモデルに組み込みながらも、状況に応じて背後のスペースを目掛けてロングボールを蹴ってくる柔軟さを有していた。
  • 鳥栖のロングボールによって、柏はハイプレスを無効化され、ジリジリとラインが後退。ボールの奪取位置が低くなる。
  • ボール奪取位置が低くなった柏は、自陣での保持を余儀なくされる。
  • ロングボールで陣地回復を図った鳥栖は、敵陣(柏陣地)でプレッシングを行うことができる。そのままボールを奪うことができればショートカウンターを繰り出すことができるし、例えボールを奪えなかったとしても、ビルドアップに詰まった柏がロングボールを蹴り出すことになれば鳥栖は自陣からもう一度攻撃を開始することができる。
  • 「自陣からの保持」での攻撃。それは、ポジショナル・プレーを行なう鳥栖にとって、一番得意なシチュエーションである。

修正を入れてきたっぽいハイプレス

サイドで奪ってからカウンター、ロングボールによる前進で陣地回復

  • ポジティブに捉えるならば、あれだけ「保持」のクオリティが高い鳥栖に、ロングボールを使わせた――とも表現できるだろう。
  • 京都戦の失点シーンで露呈したハイプレス時にどこまで付いていくのか問題は徹底した前ズレという解答を用意。特にCHがどこまで行くのかという点においては、「どこまでも」といった印象を受けた。WBもきっちり前にアプローチし、相手に時間を与えない。
  • ハイプレスとは、前傾姿勢になることで背後にスペースが生じるリスクを受け入れることでもある。さすれば【徹底した前ズレ】は、振る舞いとしては正しい。スペースではなく、人やボールを基準に意思決定が行われるべきだと考える。
  • 細谷のサイドに誘導するプレッシングから、サイドの狭いエリアに押し込ん窒息させ、そこからカウンターへ転じる――リーグ序盤、好調を維持していたころに見られたシーンが再現された立ち上がりだった。

自分たちの得意なシチュエーションに持ち込む手段の豊富さ

  • 時間の経過とともに、鳥栖は保持でも柏のプレッシングを回避していく。
  • ロングボールからの前進→トランジションの流れで、柏を自陣に押し込むことに成功した鳥栖は、ビルドアップ隊が時間を保有することになる。
  • 柏としても自陣低い位置からのプレッシングは現実的ではなく、一旦【5-4-1】をセットしたところから守備を始める必要があった。
  • 【5-4-1】は自陣にセットした際、シャドー(サヴィオ、鵜木)が相手のSBを見なければならないことから、細谷が孤立するというデメリットを内包する。一旦、押し込まれると陣地の回復が難しい。
  • プレッシングの上手な細谷と言えども、たった1枚で鳥栖のビルドアップを牽制することは難しい。ましてやゴールキーパーまでもをビルドアップに組み込み、保持を強みとする相手ならば、なおのことである。
  • また、時間の経過とともに柏のプレッシングに慣れていく鳥栖。細谷のプレッシングについて、サイドへの誘導が目的であることを察知すると、1トップで孤立しがちな細谷の周辺から、つまり中央からの前進を行うようになる。

 「保持」を強みとするチームが「保持」の局面に持ち込むための手段――そして「保持」からの振る舞い方、選択肢の豊富さについては、さすがと言うほかなかった。

 そもそも「ポジショナル・プレー=保持・ポゼッション」ではないから当然といえば当然だが、「保持」するためであれば、時としてロングボールでの前進も厭わない柔軟性からは、「なぜ自分達はボールを保持したいのか?」「なぜ自分達はボールを保持するのか?」という戦術そのものが示す考え方・思想がチーム全体に浸透している印象を受けた。

鳥栖の【3-4-2-1】プレッシングと柏の保持について

  • 鳥栖のプレッシングは、【3-4-2-1】でミラー気味。柏のビルドアップに同数で噛み合わせる形を採用。それに対して柏は「保持」という解答を用意。
  • 相手がボールを保持したいならば、自分達がボールを保持し、相手にボールを渡さなければいい。
  • ロジカルではあるものの、ゴールキーパーをビルドアップに組み込まない柏は、パスコースを見つけることができない。探している間にも、鳥栖はボールを奪いにきてしまう。サイドにボールを逃し続け、WBのところでボールが詰まる。時間と選択肢のない状態でボールを受けたWBは、無理なボールを蹴り出す以外になかった。
  • 思うところはあるが、ツイッターの方でぶちまけているので割愛。

 

【備忘録・予習】vsサガン鳥栖 (YBCルヴァンカップ グループステージ 第3節)

 多少時系列は前後するものの、ルヴァン杯3節を見返したので備忘録。

 鳥栖がボールを「保持したい」チームであることから、基本的には鳥栖の保持でゲームが推移した。柏としてもボールを持たされる展開よりは、【敵陣でのプレッシングからカウンター】を繰り出せる展開の方が望ましいため、相性としては悪くないはずだった。

 互いに得意な局面・状態でゲームを進められる、いわば矛楯(ほこたて)のような構図。しかしながら、ゲームは圧倒的に鳥栖が支配し、結果こそドロであったものの、内容は柏の完敗に終わる。

ボールを保持され続ける展開

 鳥栖は「保持」をゲームモデルとして掲げていることもあり、ボールを握るために「奪う」こと、そして「保持からの攻撃」には一時の長があった。

 余談ではあるが、前任監督のアレコレや厳しい財務状況によって大幅にメンバーを入れ替えることになったものの、引き継いだ川井監督も「保持」を仕込むことには定評があり、基本的には継続路線。厳しいシーズンになりそうだと思っていた反面、川井監督であればそれなりのチームに仕上がるのではないかという希望もあった。今の順位もそれほど驚くものではないと考える。

鳥栖の【保持からの前進】

 大枠としては、ポジショナル・プレー。ボールを握りながら、配置で相手を殴るサッカーだ。

 GKまで組み込んだ保持で時間を確保しながら、前進〜崩しの部分では、FWが相手CBを、WBが相手SB(WB)をそれぞれピン留め(張り付け)する。IHもしくはシャドーの選手がビルドアップの出口になりつつ、裏抜けまでを担う。前線の選手のピン留め、そしてGKのビルドアップ参加で圧倒的な数的優位を確保しつつ、ボールと時間をコントロールしながら、ゲームの主導権を握るというもの。

  • ビルドアップは「可変」と表現されることも多く、流動的で多彩。
  • 分解していくと【3枚のCB+CH一枚】【GK+右肩上がり4バック化】が基本。
  • しかしながら、相手のプレッシングを見ながら形を変えていく。
  • GKがポゼッションに参加してくるので、プレッシング側はどうしても枚数が足らなくなる場面が見られる。普通のGKであればセーフティに逃げるところも、躊躇なく狭いスペースにボールを入れてくれるので、プレッシング側としても心が折れてしまう。
  • 構造的に守備側は【プレッシング隊】と【ピン留めされる最終ライン】でスペースが開いてしまう。
  • 柏の敵陣プレスは【5-2-3】。3CBにドウグラス、サヴィオ、小屋松をぶつけることで【3vs3の局面】を作り、相手からパスコース・選択肢を奪い、ショートカウンターからの得点を目指した。
  • しかし、GKを組み込んだ横幅を広く使うビルドアップを牽制できない時間が続く。特にドウグラスの負担が大きく(追いかける距離が長い、複数の相手を見なければならないなど)、あっさりと無効化されて中央からの前進を許す場面が立ち上がりに見られる。
  • また、そうした中央からの前進を塞ぐためにシャドーのサヴィオ・小屋松がサポートに入るものの、今度は二人が空けたサイドのスペースから前進されてしまう。
  • 柏のプレッシングを見て、動かしながらの前進はとても洗練されていた。
  • ボール保持者が【時間を届ける】意味と重要性を改めて認識させられる素晴らしいビルドアップだった。

ボールを握るためには

 なぜ前からプレッシングを行うのか?
 なぜネガトラの強度を高めるのか?

 答えは、相手からボールを奪うため。サッカーという競技では、ピッチ上にボールは一つしか存在しない。さすれば、自分たちがボールを握りたければ、【相手からボールを奪う】必要がある。ハイプレスもゲーゲンプレスも相手からボールや時間を奪うための手段でありアクションと考えて良い。

 そこで鳥栖。ボール保持をゲームモデルとしているだけあって、ボールを奪い返す手段の豊富さと強度の高さはさすがという他なかった。

鳥栖の【4-3-1-2】プレッシング

  • 特に興味深く感じたのは2トップ+トップ下のプレッシング。柏保持時にCB→CHへのパスコースを3枚で牽制しつつ、片方のサイドにボールを誘導。
  • サイドにボールが渡った段階で、逆サイドのFWとCHが圧縮して柏の逆サイドへの展開を封じる。(狭いエリアに閉じ込めてしまう)
  • 逆サイドへの展開を封じるFWの立ち位置が、ボールを奪い返したあとの起点となる仕組は実に見事なものだった。

 ポゼッションでの対抗を挑む柏だが、鳥栖の高強度・ハイクオリティなプレッシングを受けて、ボールと時間を前線に届ける事に苦慮。

 ビルドアップ隊に選択肢を与えようと三丸や小屋松がボールを受けに自陣へ降りて行くものの、相手選手までもを同時に連れて行ってしまう。加えて、中盤の選手が降りた結果、前線でドウグラスが孤立する陣形に。

 相手守備者を自陣に引き寄せてしまい、スペースもパスコースを失う。長いボールでのプレッシング回避を試みようにも、最前線のドウグラスは孤立状態で、空中戦の勝率が著しく低下。セカンドボールを拾うタスクを担う小屋松・サヴィオも、ビルドアップ隊の救護のために自陣まで戻っており、再び鳥栖ボールで攻撃が再開される。

鳥栖ボールの攻撃」=「鳥栖の得意とする自分たちがボールを保持する状態」

 これを永遠に繰り返す展開だった。鳥栖のプレッシングに対して、ポゼッションで対抗したことが、結果的に悪循環を招くことになった。

柏の負けパターンとゲームを優位に進めるために必要な事

 リーグ戦直近2ゲームの敗戦も基本的には同様の構図であると考える。

 【プレッシング】が得意な相手に対して【ポゼッション】で挑み悪循環。確かに磐田戦での成功体験は忘れがたい。ポゼッションで圧倒する内容は魅力的かつ、過密日程を戦い抜く上で、自らがボールを握り、ゲームをコントロールする時間も求められるだろう。

 しかしながら、柏の長所はミドル〜ファイナルサードでのプレッシングからのカウンターであることは言うまでもない。

 今季のスカッドを鑑みた際に、最も理想的だも思われる内容は2節マリノス戦であろう。「ボールを握りたい」「ボールを奪いたい」相手のプレッシングに対して、徹底的にボールを放棄し、長いボールをハイラインの裏に落としていく。

 相手を背走させながら陣地を押し上げ、敵陣でのプレー時間を増やす。それならば、例えボールを失ったとしても、そこは柏の得意なハイプレスを繰り出せる敵陣である。守備のフェーズへ移行するに際しても、自陣でボールを失うよりはずっとリスクが低い。

 長くなったが、鳥栖を相手に優位にゲームを進めるためには

  • いかにプレッシングを回避できるか?
  • 敵陣でプレーできるか?

 といった点が分水嶺になるものと思われる。