【柏レイソル】2022シーズン・レビュー【備忘録】

開幕前の下馬票では降格候補筆頭であった柏レイソル

しかし、実際にシーズンが始まると予想外のスタートダッシュから、一時は暫定ながらも首位に付けるなど大躍進。リーグ終盤までACL出場権が手の届く位置で過ごすことができた。

その一方で、8月6日京都戦の勝利を最後に10戦未勝利のままシーズンは幕を閉じた。

前期の好調と後期の失速――その要因を振り返っていきたい。

hitsujiotoko09.hatenablog.com

結論

2021シーズンからの【課題】は解消されていない

課題とはつまり、ボールを保持しながら、「攻撃を組み立てる事ができない」「時計の針を進めることができない」という点だ(正確には、第2期ネルシーニョ政権発足以降の課題)。

躍進の前期と失速の後期。そんな2022シーズンは、

開幕スタートダッシュによって「チームの雰囲気」「根性」「気合」といった精神的な高揚感がいい方向に作用していたのがリーグ前期で、弱点を隠せなくなり、勝利が遠のいたことで踏ん張りが効かなくなったのが後期

――そんなシーズンだったと僕は考える。

2019後半〜2020中盤まではオルンガという圧倒的な質的優位性で【ビルドアップ問題】を誤魔化す事ができた時期はあったものの、ラインを下げられてボールを持たされるような対策を講じられると手も足も出ない状態が今もなお続いている。

後述するが、シーズンを通してポゼッション率は45.8%でリーグでも下から3番目だった。ボールを保持することが出来ないということは、「勝ちパターン」が極めて限定的なピーキーなチーム状態を指している。

ボールを保持しなくても勝てるパターンというのは「先行逃げ切り」もしくは、「長時間タイスコアで推移する展開」ぐらいだろう。

相手にリードを許せば当然ボールを握らざるを得ない状況になるはずで、その際に相手ブロックを崩すことができなかった。

また、先制点を取ってリードする展開であっても、ボールを保持して時計を進めることができないので、相手にボールを渡し続け、守備の時間が長くなってしまう。

サッカーという競技において、「ボールを相手に渡す」という行為は、相手に攻撃権を委ねる事と限りなくイコールに近い。

内容に反して【結果】が積み上がる 大躍進の前期

内容が伴わないながらも、結果は積み上がるリーグ前期。内容が伴わないとは、主に【ビルドアップ問題】の未解決を指しているが、「この躍進は実力なのか?」と半信半疑のままシーズンは進んでいく。

そのような中でも勝点を積むことができた要因は、以下の4点であると考える。

  1. 開幕スタートダッシュ
  2. 【ビルドアップ問題】を解消する細谷・ドウグラス
  3. 中村慶太のプレス耐性
  4. 相手に助けられて積むことのできた勝ち点は18

①開幕スタートダッシュ

今季のターニングポイントは、間違いなく開幕・湘南戦、2節・マリノス戦だ。ここを連勝で飾れた事が非常に大きかった。スカッドの再構築に取り掛かった事もあり(選手の入れ替えが多かった)、昨季からの空気を引きずらなかったことも一因と思われる。

また、監督自身も早期に結果を示した事で、円滑なマネジメントや発言力を高める要因になったものと思われる。監督への信頼を口にする選手も多く、監督⇔選手間の信頼関係は充分で、チーム内の士気や雰囲気は非常に良好だった。

②【ビルドアップ問題】を解消する細谷・ドウグラス同時起用

開幕連勝の要因は、退場者のお陰?

細谷・ドウグラスの同時起用は、オルンガ無双で課題解決を先伸ばしにした2020シーズンと本質的には変わらない。

【①開幕スタートダッシュ】で挙げた湘南・マリノスの2戦は、内容で相手を上回っていたかと問われると懐疑的だ。「連勝」という結果だけを受け取るのではなく、そこに至った要因・内容を精査していく必要はあるだろう。

というのも、2戦とも前半で相手に退場者が出ており、60分近い時間を数的優位で過ごしているからだ。

だからこそ、①「11対11の時間帯ではどうだったのか?」②「なぜ退場者が出たのか?」という2つの問いに対して答えを探さなくてはならない。

①「11対11の時間帯ではどうだったのか?」に対する答えは、【ビルドアップ】と【プレッシング】が未整備であることを再び露呈する厳しい内容だった。2試合とも試合序盤から相手に主導権を渡し、再三にわたって決定機を与え、マリノス戦に至っては先制点まで献上している。

ボールを保持しながら攻撃が出来ず、相手にボールを渡してしまう。守備においては、効果的なプレッシングでボールを奪い返すことができない。

繰り返すことになるが、サッカーという競技において、「ボールを相手に渡す」「ボールを奪うことができない」というのは、攻撃権を相手に委ねる事を意味する。つまりそれは、守備の時間が増加することとほとんど同義だ。

②「なぜ退場者が出たのか?」に対する答えは、次で触れていく。

【細谷・ドウグラスの質的優位性】2試合とも退場者はCB その意味するところ

ターニング・ポイントとなった湘南・マリノス戦は、ともにCBに退場者が出ている。少し深堀りしてみたい。

今季から本格採用した【532】による細谷・ドウグラスの同時起用は、【ビルドアップ】問題を一時的に解決する要因となった。

【2トップ採用】最大のメリットは、相手守備者がマークを絞る事が出来ずに、マークが分散する所にある。相手が3バックなら【2トップvs3CB】になるし、相手が4バックなら【2トップvs2CB】の数的同数の状況を用意できる。

それは、空中戦はもちろん、背負って収めるプレーに際しても、囲まれにくい状況を作ることに繋がる。

【スピード・高さ・強さ】を備えた質の高い2トップがカウンターの起点となり、背後へのランニングやターゲット役を厭わなかった。こうして、2トップが相手CBへ勝負を挑み続けた結果として得られたものが、湘南・マリノス戦における退場誘発による数的優位だ。

例え【ビルドアップ】が上手く行かず、無理目なボールが2トップに届いたとしても、マークが分散しているため、ボールを収められる可能性が高くなる。細谷・ドウグラスの同時起用でそれぞれのマークが分散したため、質的優位性を相手のCBに直接ぶつける事ができた。

恐らくだが、湘南・マリノスは、分析段階で「柏が相手ならば、前から行けば奪えるはずだ!」という結論に至った。その結果、前傾姿勢になってボールを奪いに来てくれた事で、2トップ(細谷・ドウグラス)が背後のスペースを突く事のできる状況が整った。

「自分たちの論理で勝負できる土俵に持ち込んだ」というよりは、「相手の用意した戦術が偶然にも柏の用意できる最適解に嵌った」と考えた方がより自然だと考えられる。

【ビルドアップ】を仕込めなかった事が、皮肉にも相手の背後にスペースを生む一因となった。

ただ、2トップの質的優位性に依存する戦術は、2019シーズンから続く【ビルドアップ問題】は解決できていない事の証左でもある。

オルンガの質的優位性で【ビルドアップ問題】を覆い隠していた2020シーズンと本質的には変わらないとも解釈できる。実際にシーズンを消化していく中で、それを証明していく事になる。

【532】の横スライドは2トップの負担大

【532】は2トップの負担も大きい。

カウンター時の背後へのスプリントはもちろん、ネガティブ・トランジションに強度が求められるほか、ミドルゾーンで構えた所からのプレッシングは相当な運動量となる。

ゲーム中盤以降は消耗からプレッシングが間に合わず、サイドからの前進を許し、自陣への撤退を余儀なくされる展開が続いた。【541】へのシフトという解決策を用意するも、今度はカウンター時にFWが一枚になることから相手守備者のマークが集中するため、孤立してしまう。時間を作れずカウンターに出ていけなくなる、背負っても囲まれてすぐにボールを失うといった展開が続いた。

「後ろに重たい」状況で、永遠に相手にボールが渡るサンドバック状態だ。細谷・ドウグラスの同時起用で隠していた【ビルドアップ問題】、つまりは、ボールを保持して時計の針を進める事ができない問題は、ここで露呈する。

FW1枚ではマークが集中してしまい、空中戦や背負うプレーでの勝率が低下するのはもはや仕方がない。

そうなった時に打てる対策は、年間を通して用意する事が出来なかった。FWを入れ替え続けて、コンディションのいい選手が気力で相手を上回る以外に解決策がない状態を、僕は勝手にFWガチャと呼んでいた。

③中村慶太のプレス耐性

前半戦の躍進に大きく貢献した選手として、前述の2トップの他に【中村慶太】の存在は欠かせない。

開幕当初、右WBで起用された中村慶太の圧倒的なプレス耐性は、ポジティブ・トランジションからボール保持への移行をスムーズにした。

深い位置に追い込まれプレッシングを受けたとしても、苦し紛れの長いボールを蹴り出して相手にボールを渡すのではなく(2021シーズン)、キーパーや最終ラインの間でボールを落ち着かせることを可能にした。これによって、一度陣形を落ち着かせる事・陣形をリセットする事ができる。

そこからの【ビルドアップ】、つまり【保持→前進】は未整備であったとしても、相手のネガティブ・トランジションやカウンター・プレスを剥がす事で、僅かでもボールを保持して時計の針を進めることが可能だ。「トランジションでカウンター・プレスを仕掛けてもどうせ剥がされる……」と相手に思わせる事で、相手に【撤退】という選択肢も視野に入れさせる。

中村慶太の加入・起用は【ポジティブ・トランジション→保持】を安定的に移行する事に大きく寄与した。

ただ、中村慶太の離脱以降は2021シーズンを再現するかのように蹴り出すばかりの展開となった事から、チーム戦術や仕組を整備した訳ではなく、あくまでも【中村慶太という個の力】に依存する現象であったことは忘れてはいけない。

また、中村慶太のWB起用は保持のフェーズで安定感を得られる一方、守備ではスピードタイプのアタッカーをぶつけられると厳しいことも事実で、マルシーニョにぶっちぎられた4月の川崎戦はその最たる例だった。まさに諸刃の剣といえよう。

④相手に助けられて積むことのできた勝点は18

前期は相手チームに助けられて積むことの出来た勝点も多かった。

前半に退場者が出て、60分近くを数的優位で過ごしたゲームは3つあり(湘南、マリノス、札幌の)、そこで9ポイントを獲得している。

また、5月清水戦、6月神戸戦は、それぞれが監督人事に揺れるチーム状況であったこともあり、内容としては、無策で挑まれたに等しい展開だった。また4月の磐田についても、柏対策より自分たちの論理を優先していた印象で、だからこそあれほどの内容になったと考えられる。

この6ゲームで18ポイントを積み上げている。勝てるゲームを落とさない事の重要性は今更言うまでもなく、2021シーズンと比較すれば大きな進捗と考えられる。

一方で、対策・スカウティングを重要視するクラブからは、勝ち点を積むことができなかった。4月の京都・鳥栖の連敗は言うに及ばず、リカルド・ロドリゲス監督の浦和、片野坂監督のG大阪、アルベル監督のFC東京を相手にした際は、柏の強みである【強度】や【カウンター】を封じられる苦しい展開だった。

hitsujiotoko09.hatenablog.com

hitsujiotoko09.hatenablog.com

また、個の質的優位性に依存する戦い方であったため、それを上回る個の力には為す術がなかった事も触れておきたい。3節・鹿島戦や9節・川崎戦は典型的な例で、年間を通じて、上位チームとの直接対決で力負けをするゲームが続いた。

質的優位とは相対的なものだ。当然、相手が上位になれば、それだけ相手選手の個の力も高いレベルになってくる。つまり、質的優位性を得られなくなる。

個の質的優位性が重視されるという事は、コンディションや相手選手との相性で上回ることを考慮した先発が望ましいと思われる。

しかしなががら、依然として離脱者は多くコンディション面に不安を抱える選手が多かった。また、先発についても相手との相性よりも自分たちの論理を優先したような印象を受けるチョイスが続き、非常に歯がゆいものとなった。

前期の躍進についてまとめ

  • 開幕スタートダッシュによるチームの士気向上
  • 細谷・ドウグラス同時起用という【ビルドアップ問題】への解答
  • 中村慶太のプレス耐性という【個の力】
  • 相手に助けられて積むことのできた勝点は18

今季のまとめと来季に向けて

【ビルドアップ問題】の解決と【内容】を詰める作業の重要性

開幕戦・2節で強烈なインパクトを与えた2トップによって、相手が「ハイプレスをしない」選択をするようになった。ハイプレス=背後にスペースが生じることだから、後ろに走られたくなければ撤退してしまえばいい、と。2020シーズンに、オルンガ対策として多くのチームが柏に取った対応と非常に似ている。

リーグ序盤、勝点を積んでいく中で、「ビルドアップは解決しているんじゃないの?」という意見も出ていたが、振り返ると、相手が細谷・ドウグラスをリスペクトして

「ボールを保持させてくれた」

と解釈した方がより正確なのではないか、と個人的には考えている。

結果に反して、内容が伴わないリーグ前期。内容が伴わないとは、主に【ビルドアップ問題】の未解決を指しているが、「この躍進は実力なのか?」と半信半疑のままシーズンは進んでいく。

前述の通り、【ビルドアップ問題】が解決されたように見えたのは、選手個人の質的優位性によるものだった。僅かでも解決したように見えた一因であった、ドウグラスと中村慶太の離脱以降は、対策を練ってくる相手には手も足も出ないという試合内容が続く。

内容を詰めていく作業が如何に重要であるのかを思い知ることになる。【結果が出れば良い】という考え方も否定はしないが、しかし、内容を突き詰めなければ結果に【再現性】は与えられない。

安定的にACL出場権を狙う位置に付けたいのであれば、やはり、結果の再現性を詰めていく作業に本気で取り組んでいくべきであろう。

問題は【ビルドアップ】だけでなく、【プレッシング】や【スカウティング】も

来季に向けての不安材料として、【ビルドアップ】のみならず【プレッシング】が嵌まらない状況も非常に懸念点だ。

柏の強みが【強度】であるとしても、そもそも【プレッシング】を相手にぶつける事ができなければ、【強度】を発揮しようがない。

そして、なぜ【プレッシング】が嵌まらないのか?と言うと、【スカウティング】を外すからだ。柏対策として「今日だけ形を変えました!」というのならばともかく、直近ゲームと同様の布陣・入りをされているのにも関わらず、好き放題殴られるゲームが散見され、非常にストレスを感じた。

何度も繰り返した「ボールを保持できない」「ビルドアップできない」というのはあくまでも、一側面の話で、それは換言すれば、効果的なボール奪取が出来ていないから――と考える事もできる。ピッチ上にボールは一つしか存在しないのだから、相手からボールを奪わない限り、こちらがボールを保持することはできない。

スカッドの再構築は花開くのか

とはいえ、大幅なスカッドの入替・再構築を行った初年度だったのも事実だ。チーム・ビルドの一年であったと解釈することもできる。多くの若手に出場機会が与えられ、痺れるような上位戦線を過ごした時間は貴重な経験となったはずだ。

冬の移籍市場でも積極的に補強を行っている様子が伝わり、財務改善も一定程度進んだものと考えられる。

新聞報道では2023シーズンがネルシーニョ監督のラストイヤーとのことだ。今季に蒔いた種が花開き、さらなる飛躍のシーズンとなることを願う。このクラブを前に進めた偉大な監督を笑って送り出せるような、そんなシーズンになりますように。