【柏レイソル】2023シーズンの編成について

あけましておめでとうございます。

一年前のことです。僕は2022年のスカッドについて書いたエントリーで、ストロングポイントはCBであると書きました。以下は引用です。

  • また、強度や高さの観点からは、エメルソン、祐治、染谷、上島、そして終盤は右SBにコンバートされていたけど大南も控えています。
  • こうして改めて見るとCBの選手層は普通にリーグ屈指だと思います。間違いなく、ストロングな部分です。

何が起こるのか分からないのがフットボール。まさか一年後に名前を挙げた全選手がいなくなってしまうとは思いもしませんでした。

編成の全体像(※1月13日時点)

余談はさておき、早速はじめましょう。こちらがスカッドの全体像です。

  • 攻撃の選手が多い(追加で外国人獲得の噂も?)
  • 複数ポジションをこなせる選手が多い
  • 放出の多かったCBについても枚数的にはプラスマイナスゼロ
  • 左WBが少し手薄

第一印象はこんなところでしょうか。

今季のテーマは「ボールを保持する」

「昨年までの課題」、「放出した選手」、「加入した選手」といったそれぞれの点を線として繋げたときに浮かび上がる今季のテーマは「ボールを保持する」だと思います。

各ポジションの入れ替えについては後述しますが、大枠としては「ボールを保持する」ために必要な選手を獲得・残留させ、それができない選手は放出となった印象を受けます。

特に守備の選手に顕著な現象となりました。

また、攻撃の選手については、ハードワーク出来る選手が揃ったこともさることながら、枚数がとても多いことが印象的です。

これは、ボールを保持するためには、高強度のネガティブ・トランジションや前線からのプレッシングを90分間継続する必要があり、そのために選手層を厚くする必要があったからだと考えることができます。

まずはざっくり「守備陣」、「攻撃陣」といった大きな括りで見てみましょう。

守備陣は「強度よりも足元」

ビルドアップ問題に終止符を

今季の懸念ポジションとして挙げられるCBですが、第二次ネルシーニョ政権における課題を鑑みるとそれなりに納得感のある回答となりました。

高橋、上島、大南といった主力選手の放出が、懸念とされる理由かと考えられます。3選手はここ数シーズンの主力であった事から「大丈夫なのか?」とネガティブな印象を抱かせるのも無理はないでしょう。

しかしながら、この3選手には共通点が存在します。

それは、「強度」がストロングポイントである半面、「ビルドアップ」に問題を抱えているという点です。

第二次ネルシーニョ政権の主力であった3選手ですが、その期間にわたってボール保持という課題を克服することは出来ませんでした。

無論、仕込む側に問題があった事は否定しませんが、しかし、それを言っても解決はしません。仕込むことが出来ないのならば、出来る選手を連れて来たらいい……それはそれで正解であるような気もします。

ボール保持の局面で力を発揮できる編成

そのような視点で改めて今季のスカッドに目を向けると、古賀と田中は残留させつつ、ジエゴ、立田、(高嶺)を新たに獲得するなど、ボール保持の局面で力を発揮できる編成となっていることが分かります。

課題解決のために必要な選手が揃った形で、非常に論理的なアプローチから編成が行われたように思われます。

ボールを保持して攻撃するに際して、立ち位置の調整や前線の選手がボールを引き出す動きも重要ですが、ここ数シーズンの課題は、間違いなくビルドアップ隊によるボール供給にあったと個人的には解釈しています。

「針の糸を通すような縦パスと狭いライン間でのターン」は、魅力的なシーンではあるものの、それを遂行できる選手はスペシャルであり、再現性が高いとは言えません。

「ビルドアップ」を更に噛み砕いて、「時間とスペースの貯金を前線に届ける事」が出来ずに苦戦を強いられたここ2シーズンです。

昨季は右WBにコンバートされた大南も含め、あれほどの選手達の放出に対して、加入はこれだけなのか?という不安も理解できます。

しかしながら、「第二次ネルシーニョ政権」という大きな時の流れで俯瞰して考えた際に、課題を強化部も認識している事が伝わってきます。(そこまで認識しているなら、他に出来る事があるだろうという指摘は野暮です。)

仕組としての解決がどうなるかは始まってみなければ分からない部分はあるものの、素材は充分に揃ったと言えるでしょう。

攻撃陣は「ボールを保持するために必要な選手層」を確保

ボールを保持するためにはボールを奪わなければならない

攻撃陣については、ドッジ以外はほぼ全員が残留し、その上で仙頭や山田といった即戦力を獲得しました。

その結果、チーム全体の約50%がFWとIHの選手となっています。

なぜこれほど攻撃の選手が多いのでしょうか。

その意味するところを掘り下げると、「敵陣でのプレッシングやトランジションを90分間継続するために選手層を確保した」というのが僕の結論です。

ボールを保持するためには、相手からボールを奪わなければなりません。ボールを失ってからの即時奪回や高い位置からのプレッシングを継続するということは激しい運動量、つまり、消耗戦を強いられることとなります。

その消耗戦に耐えうるための選手層が現時点の編成には備わっているように見えます。

昨シーズン、特に好調を維持し上位を走っていたシーズン前期を振り返ります。

ゲーム序盤こそ強度を保ち敵陣で長くプレーする時間を確保出来たものの、前線の選手の消耗によって相手のビルドアップに牽制が掛からなくなってからは、じりじりとラインが後退する現象が見られました。

そのような展開になった際に、フレッシュな選手を投入して再度プレッシングの強度を高めるという選択が出来ませんでした。

それは、若い選手が多かった事からJ1レベルのプレー強度、スピードに対応できる選手が少なかったことが一因です。

誤解を恐れずに言うなら、選手層が薄かったということです。

今季は、守備陣が強度からビルドアップに重きを置いた編成に変わったという観点からも、J1レベルの強度に耐えられる選手をより多く確保することは必要不可欠でした。昨季一年間を通じて若手に出場機会があったことによる成長も加味すれば、とても充実した陣容になっているのではないでしょうか。

守備陣がボール保持の局面で強みを活かせる陣容になったことと併せて考えれば、やりたい事が何なのかという点は明確です。

2023年スカッドについてまとめ

言葉を尽くしましたが、基本的にはボールを保持できないという課題に対して、それを克服するための編成になったというのが大きなポイントだと思います。

主力の放出に関心が向きがちですが、冷静に見ると論理的なアプローチで編成を行ったように見えます。

素材は揃ったことから、後は料理人次第といったところでしょうか。スペイン料理を作りたくて素材を揃えにも関わらず、料理人は日本食しか作れませんみたいな展開は虚無が過ぎます。

個人的にはボールを保持するサッカーが好きなので、非常に楽しみにしています。

 

度々話題にあがるシステム予想については、個人的には不毛だと思っています。

なぜなら、3バックも4バックも相手に応じて使い分けるべきだからです。

ビルドアップでは、相手が2トップなら3バックで、1トップなら4バックで対応するべきです。プレッシングも同様で、相手の配置に応じて調整するべきです。決して「自分たちのサッカー」を捨てるということではなく、「自分たちのサッカー」に持ち込むために手段として重要なことだという意味です。

昨季はスカウティングに疑問が生じる場面も散見されました。今季はスタッフも増えたことですから、その辺りの精度向上にも期待したいと考えています。

各ポジション

GK

猿田、佐々木、守田、松本

スンギュの移籍後にレギュラー定着した佐々木。荒削りな部分はあるものの、トップカテゴリーでの出場経験は成長を促すものと思われます。引続き期待しておりますが、要望としては「キック」の質向上です。ロングキックはもちろん、後方でのポゼッション時にボールを逃がす場所になって欲しいなと思います。

2022年10月の練習試合で安定したパフォーマンスを見せた守田とのレギュラー争いにも注目です。

CB

古賀、田中、土屋、立田、ジエゴ、(高嶺)

Outは上島、高橋、染谷。Inはジエゴ、立田、(高嶺)。

枚数としてはプラスマイナスゼロです。強度からポゼッションに重点を置いたと述べたものの、それなりに強度も備わっているように見えます。

個人的には2年目の田中隼人に期待です。保持に重きを置くチームになれば輝ける展開も増えるのではないかと思っています。間違いなく世界に羽ばたくことのできるポテンシャルを有しています。

右WB

川口、片山、(中村)

Outは大南、北爪。Inは左右どちらも出来る片山。

安心感のある陣容です。基本は3バックだと思いますので、ビルドアップの出口としての働きが期待されます。

個人的にはボールを握ることの出来る局面における中村慶太の右WBはとても好きなので、今年も見たいなと思っていて、スカウティングが機能すれば効果的なカードだと思います。

左WB

三丸、岩下、(ジエゴ

一番層の薄いポジションだと思います。

なるべくならジエゴはCBで起用して欲しいと思っているので、三丸のフル稼働に期待がかかります。

岩下がバックアップとしてどれだけ試合に絡むことができるか?というのは大きな注目です。昨季は怪我もあったほか、J1の強度に苦労している様子も窺えました。食い込んでくれると非常にありがたいと思います。

CH

椎橋、加藤、三原、高嶺

大谷の引退はあったものの、言うことがないくらい安定感があります。

強みがそれぞれ違うので対戦相手やゲーム展開に応じて使い分けて欲しいと思います。

ちなみに個人的には、後方から時間とスペースを届ける事のできる加藤推しです。ボールを保持する局面での起用に期待しています。

IH

中村、サヴィオ、小屋松、戸嶋、落合、熊澤、仙頭、山田、ファルザン佐名

言うことありません。攻守においてハードワークの出来る選手が揃いました。

ビルドアップの出口としての仕事はもちろん、基本布陣となる【532】では過労死レベルの運動量が求められます。

FW

武藤、細谷、真家、升掛、ドウグラス、山本、オウイエ

無理めの長いボールが飛んでも独力で時間と作るドウグラスがどれだけ稼働できるか(開幕は間に合わない?)は一つの注目です。

IH同様にハードワークが求められるポジションです。その上で苦しいビルドアップの出口になる事や背後へのランニングなども求められるので、何でも出来ないと出場機会を確保することは難しいと思われます。

ここ2シーズンの主力放出について雑感

ここからはクラブ経営の話をします。

ここ2年のオフシーズンは主力の放出が相次ぎましたが、それについて雑感を書いていきます。

「チーム・オルンガ」からの脱却

2021/2022年のオフに攻撃陣の大半が、2022/2023年のオフに守備陣の大半が、それぞれ入れ替わる事となりましたが、これは、2年を掛けて新しいチームを編成したと捉える事もできるでしょう。

その意味するところは、チーム・オルンガからの脱却ではないでしょうか。

2019年のJ2では相対的な質的優位性を発揮したことで、また2020年は低い位置でブロックを構築しつつオルンガのロングカウンター一発でそれぞれ結果を残すシーズンとなりました。

「ポゼッションによる遅攻」よりも、「堅いブロックを構築してからのカウンター」が適した編成であり、それが求められたシーズンであったとも言えるでしょう。

「組織として解決できない問題を圧倒的な個の力で打破していたオルンガ」という見方もできる一方で、ビルドアップやボール保持という戦術への優先度が低かった2シーズンであったと考えることもできると思います。

その代償は大きくオルンガ移籍後の2021シーズン以降、ボールを保持してゲームを進めることができない、ポゼッションで相手のブロックを崩すことができないといった課題が露呈しました。

ボール保持で時計の針を進める事ができないから、相手にボールが渡って守備の時間が増加します。自陣へ閉じ込められるという事はボール奪取の位置も低くなることと同義ですから。

そして、自陣からボール保持による脱出や陣地回復ができないため、長いボールで逃げるほかなくなり、再びボールを失って攻撃権を相手に委ねる負のスパイルに陥った--というのがここ2シーズンにわたって苦戦を強いられた要因です。

「オルンガ最大の被害者は柏」と言われるのは、こうした背景からです。

計画的だったと思われる2年を掛けた編成の再構築

それならばすぐにでも編成の再構築に着手すれば良かったのですが、結局2年もの時間を要しました。

その理由は、2020年3月期の赤字決算による財務状態の悪化です。

2020シーズンは10億円もの赤字を出しながらもタイトルを目指したシーズンで、瞬間最大風速によって資金を捻出し、大型補強を敢行しました。

しかしながら、最終的には無冠のうちにシーズンは終わり、課題を隠していたオルンガを失った時に残ったものは、ビルドアップの出来ない歪な編成と悪化した財務状況でした。

編成の修正を図ろうにも、財務の回復を優先せざるを得ない経営状態で、すぐには身動きが取れず、たくさんの別れや痛みも伴いました。

資金的な余裕がない中では、計画的に編成の再構築を進める必要があり、はじめから2年計画だったのではないか?と今になってみると腑に落ちる部分あります。

ネルシーニョ監督としても守備さえ安定していれば最低限の成績は担保できるとの思惑から、最初に変えるのは攻撃陣(2021/2022年)で、そこの整理が終了した今オフ(2022/2023年)で守備陣の入れ替えに踏み切ったのではないか?というのが、メインシナリオではないかと思っています

真相はさておくとしても、この2年間で大半の主力が入れ替わりました。

編成の再構築が終了し、ようやく軌道修正が図られたものと思われます。

この編成で結果を残すということは、本当の意味でチーム・オルンガからの脱却が果たされたと言えるのではないでしょうか。

無理やりにでもポジティブになる事がこのエントリーの目的ですから、敢えて触れなかった懸念点もたくさんあります。

しかしながら、前述した理由で僕は今季の編成に対して大きな期待を持っています。

ビルドアップは出来ないのではなく、やらなかっただけなのだと。

ビッククラブではないのだから、優先順位を付けていく中で仕方のないことなのだと、そんな事を証明できるシーズンになればいいなと思います。