vs名古屋グランパス(2024明治安田J1リーグ 第4節)

良いものは変えない!ということで、4戦連続で先発を継続の柏。スタートダッシュの成功というか新しいことにトライしながら結果を出せたことは自信にも繋がるし勝ち点を稼いだことで精神的にも余裕が生まれる。まさしくポジティブ・ループに入っているような印象である。

一方の名古屋はここまで全敗と中々厳しい立ち上がりだ。補強の目玉でもあった山岸が出遅れたことや今季から取り組んでいる【5-3-2】へのアップデートに苦戦している印象でたる。しかし、さすがに4連敗は許されないということで、このゲームでは昨季の形である【5-2-3】へ回帰。柏としてはこのタイミングかよ!とスカウティングが意味を成さない展開。このゲームに関して相手が振る舞いを変えてきた時の引き出しの多さ……言い換えるなら適応力こそがチームの総合力であったりする。

名古屋のロングボール 狙いと真意

【名古屋視点】柏の強みを消しつつ、自分たちの弱点を隠す名古屋のロングボール

試合後の長谷川監督や山岸のコメントにもあるとおり、名古屋は柏の強みを【ハイプレス】と設定し、そこに対して対策を講じてきた。

--今日の試合の攻撃面について。

柏のハイラインをどう突いていくかの1点で、メンバーと戦い方を決めました。選手がしっかりとそれを表現してくれたと思っています(長谷川監督)

【公式】柏vs名古屋の見どころ(明治安田J1リーグ:2024年3月16日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

--山岸選手が前線で起点になるシーンが多く見られました。試合前にゴールキックは僕のところに蹴るという話をしていました。そこで競り勝つこと、胸トラップをして時間を作ることが今日のキーになると思っていたので、最低限の仕事はできたかなと思います。明治安田J1リーグ 第4節:柏レイソル vs 名古屋グランパス | 試合 | 名古屋グランパス公式サイト

その対策とは、柏のプレッシングを飛び越えるロングボールを山岸に蹴っ飛ばすことである。ターゲットが山岸であれば空中戦の勝機も一定程度担保できるし、永井の裏抜けは言わずもがな、森島がセカンドボールを回収できればクリエイティブなプレーが期待できる。
何より名古屋のここまでの敗戦の根底には地上での前進のまずさが由来している感もあったので、状況を踏まえれば納得の選択といえる。また、ロングボールで陣地を回復することが出来れば自分たちの守るゴールから遠い場所で守備を始めることができるというメリットもある。

自陣で守備をするよりも失点のリスクを低減できる上に、敵陣でボールを奪い返すことができれば自陣からの組み立てという苦手なステップを省略しながら相手ゴールに近づくことが可能だ。

つまり、名古屋にとってボールを放棄することは、柏のプレッシングという長所を消すことと同時に自分たちのポゼッションという弱点を隠すことに繋がる手段であった。

【噛み合わせ】ビルドアップの出口を探る柏と対抗する名古屋

見方を変えれば、名古屋がロングボールを選択しボールを放棄するということは、柏のボールを握る時間が長くなることを意味している。

むしろ、名古屋の真の狙いは前述したハイプレス対策ではなく、柏にボールを渡すところにあったのではないかと個人的には思う。

ボールを保持せざるを得なくなった柏の振る舞いを見ていく。神戸や磐田に対してポゼッションで主導権を握った成功体験から「上等だよ!!」と名古屋に対して、ポゼッションという手段で真っ向から勝負を挑む。

神戸や磐田と大きく異なる点は噛み合わせだと思う。神戸も磐田も基本的には【4-4-2】型ブロックのチームであったことから、横幅を使うことでスライドを強いたり、CHのが最終ライン降りることによって相手の守備の基準点を逸らすことができた。

一方の名古屋の非保持は【5-2-3】。初期配置で横幅は埋められている。基本的に柏は素直な立ち位置のままでは、位置的な優位性の確保には至らない噛み合わせである。というか数的にも優位性は得られない。

さあ、どこから前進しよう?と柏はビルドアップの出口を探る作業を始める。

まずはお決まりの最終ラインに白井を落とす戦法。ただ、この場合は相手が3トップでプレッシングを行うことから同数で噛み合う形となり、あまり意味のある行為には思えなかった。

むしろ、後ろに重たくなることから陣地を自ら押し下げる行為であったように思う。おそらく、相手が2トップであるというスカウティングを参考にしていたことから実行された可変と思われる。相手が2トップであれば後方を3枚にすることで数的優位を確保できた。

その次はサヴィオジエゴがSBのポジションでボールを引き出す動きである。この場面も何度か見られたということが、チームは名古屋が【5-3-2】で来ることを想定していたのだろうな、と感じた根拠のひとつである。

名古屋が【5-3-2】であれば、SBでボールを受けることで、相手の守備者は持ち場を離れざるを得ない。

しかしながら、この日の名古屋は【5-2-3】。

CHが降りた場合はぴったり噛み合う形であり、サヴィオジエゴがSBの位置で受けても相手を動かすことにはつながらない。

後はシンプルに名古屋のプレッシングが秀逸であった側面もあるだろう。主に3トップで役割分担を行っていた印象だ。山岸が反対サイドを切りながらサイドを限定し、森島と永井でCBとCHの選択肢を消していく。

サイドを限定しながらのプレッシングで追い込まれるとマンツーマン気味の名古屋に閉じ込められる格好となり、窒息するような展開が続く柏であった。

スカウティング通りであれば、SBの位置が空くのでそこから前進できたはずだった
【柏視点】今季初めての受動的なボール保持

今季初めてボールを「持たされる」展開と遭遇する柏は、サイドに追い込まれたところから無理目のロングボールが増えていく。

京都戦のように自ら選択してボールを放棄するのではなく、消極的な理由によるロングボールであるため効果的な前進が図られない。

古賀→小屋松→サヴィオとコンビネーションから一気に陣地を回復したシーンも見られたが、繰り返されることはなかったことから再現性が高いとは言えない。穿った見方をするなら偶然の産物と表現してもいいだろう。

前述のように名古屋の非保持【5-3-2】配置に対して後方での数的優位を確保し、嚙み合わせをずらすことでの前進を狙ったプランであった。故に、当初の想定とは異なる噛み合わせであったため、どれだけ後方に人を降ろしても盤面に変化は起こらない。

そうこうしている間にビハインドの状況。スコア的にも名古屋がリスクを背負ってまで柏陣地に出てくる訳もなく、相手のブロックの手前でボールを動かしてるうちにじわりじわりと選択肢を削られる展開が終盤まで続いた。

大半の時間でボールポゼッションが名古屋を上回ったものの、攻撃回数が名古屋と変わらなかったことから「名古屋が柏にボールを押し付けた」、「柏にボールを持たせた」展開であったことは明白だ。

高嶺の負傷というアクシデントがなかったとしても、おそらく同じ構図で推移したのではないかというのが個人的な見解である。

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まとめと少しだけ”理想”の話

ポゼッションは未だ途上にあることを突き付けられたゲームだった。

神戸や磐田を相手にポゼッションで主導権を握ることができたのは、「相手が動いてくれた」側面が大きかったのは否定のできない事実だ。【4-4-2】型のブロックに対して噛み合わせが良かったこともある。

もちろん、そういった相手の変化を利用できなかった昨季に比べたら進歩ではある。決して今のチームを否定している訳ではない。ただ、僕はもっと高い場所を目指したいと思うし、それができるチームだと考えている。

少なくとも、昨季のように課題から向き合うことから逃げざるを得ない状況ではないはずだ。

これからの柏に求められるのは、自らで相手を動かしていくことだ。それが意図したポゼッションであろうとなかろうと。押し付けられたポゼッションであろうとなかろうと。

そこを克服しない限り、今後も柏対策としてボールを押し付けてくるチームは増えてくることが予想される。

期待したいプレーを具体的に挙げるのならば、相手の守備者を引き出すようなCBの持ち運びやGKを混ぜたビルドアップ……つまり、ビルドアップの供給部分の梃入れだ。高嶺の離脱がどれほど長くなるのかは分からないが、いずれにせよ、GKやCBといった最後方から時間とスペースを繋いでいく作業に本気で向き合わなければ、誰が出ようと変わらない。

今の柏レイソルが”理想”とするサッカーとは

井原体制のレイソルが目指すサッカーとは、全方位型のチームである。全方位型とはつまり、4局面(攻撃、ネガトラ、守備、ポジトラ)のどの局面でも勝負できるチームだ。

もっと具体的にいうなら、保持でも非保持でも複数の選択肢を有する万能型のチームで、相手の出方に応じて柔軟に戦い方を変えられることを理想としている。

その方向性に異論は全くなく、むしろそういったチームビルディングを個人的にも求めてきた。やはり相手がグーを出してきたらパーを、パーを出してきたらチョキをと変幻自在に自らを変化させる振る舞いは非常に魅力的に感じる。

ただ、それはあくまでも自らの強みの再現性を高めるためにあるべきだと思う。

柏に保持させることが狙いの名古屋に対して、同様にボールを放棄していくことが、本来選択するべき戦術であったと感じる。

京都戦に近いプランで入る、もしくは、スカウティングが外れてしまったなら、途中から変更する柔軟性があれば良かったし、何ならそのための全方位型志向ではないのかと思った。

あくまでも柏の強みは昨季に積み上げたトランジションとプレッシングにある。現段階では。ボールを押し付けてくる相手にポゼッションを選択できる段階にはまだないという冷静さが、直近2ゲームの成功でぼやけてしまった印象を受けた。