vs名古屋グランパス(2024明治安田J1リーグ 第4節)

良いものは変えない!ということで、4戦連続で先発を継続の柏。スタートダッシュの成功というか新しいことにトライしながら結果を出せたことは自信にも繋がるし勝ち点を稼いだことで精神的にも余裕が生まれる。まさしくポジティブ・ループに入っているような印象である。

一方の名古屋はここまで全敗と中々厳しい立ち上がりだ。補強の目玉でもあった山岸が出遅れたことや今季から取り組んでいる【5-3-2】へのアップデートに苦戦している印象でたる。しかし、さすがに4連敗は許されないということで、このゲームでは昨季の形である【5-2-3】へ回帰。柏としてはこのタイミングかよ!とスカウティングが意味を成さない展開。このゲームに関して相手が振る舞いを変えてきた時の引き出しの多さ……言い換えるなら適応力こそがチームの総合力であったりする。

名古屋のロングボール 狙いと真意

【名古屋視点】柏の強みを消しつつ、自分たちの弱点を隠す名古屋のロングボール

試合後の長谷川監督や山岸のコメントにもあるとおり、名古屋は柏の強みを【ハイプレス】と設定し、そこに対して対策を講じてきた。

--今日の試合の攻撃面について。

柏のハイラインをどう突いていくかの1点で、メンバーと戦い方を決めました。選手がしっかりとそれを表現してくれたと思っています(長谷川監督)

【公式】柏vs名古屋の見どころ(明治安田J1リーグ:2024年3月16日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

--山岸選手が前線で起点になるシーンが多く見られました。試合前にゴールキックは僕のところに蹴るという話をしていました。そこで競り勝つこと、胸トラップをして時間を作ることが今日のキーになると思っていたので、最低限の仕事はできたかなと思います。明治安田J1リーグ 第4節:柏レイソル vs 名古屋グランパス | 試合 | 名古屋グランパス公式サイト

その対策とは、柏のプレッシングを飛び越えるロングボールを山岸に蹴っ飛ばすことである。ターゲットが山岸であれば空中戦の勝機も一定程度担保できるし、永井の裏抜けは言わずもがな、森島がセカンドボールを回収できればクリエイティブなプレーが期待できる。
何より名古屋のここまでの敗戦の根底には地上での前進のまずさが由来している感もあったので、状況を踏まえれば納得の選択といえる。また、ロングボールで陣地を回復することが出来れば自分たちの守るゴールから遠い場所で守備を始めることができるというメリットもある。

自陣で守備をするよりも失点のリスクを低減できる上に、敵陣でボールを奪い返すことができれば自陣からの組み立てという苦手なステップを省略しながら相手ゴールに近づくことが可能だ。

つまり、名古屋にとってボールを放棄することは、柏のプレッシングという長所を消すことと同時に自分たちのポゼッションという弱点を隠すことに繋がる手段であった。

【噛み合わせ】ビルドアップの出口を探る柏と対抗する名古屋

見方を変えれば、名古屋がロングボールを選択しボールを放棄するということは、柏のボールを握る時間が長くなることを意味している。

むしろ、名古屋の真の狙いは前述したハイプレス対策ではなく、柏にボールを渡すところにあったのではないかと個人的には思う。

ボールを保持せざるを得なくなった柏の振る舞いを見ていく。神戸や磐田に対してポゼッションで主導権を握った成功体験から「上等だよ!!」と名古屋に対して、ポゼッションという手段で真っ向から勝負を挑む。

神戸や磐田と大きく異なる点は噛み合わせだと思う。神戸も磐田も基本的には【4-4-2】型ブロックのチームであったことから、横幅を使うことでスライドを強いたり、CHのが最終ライン降りることによって相手の守備の基準点を逸らすことができた。

一方の名古屋の非保持は【5-2-3】。初期配置で横幅は埋められている。基本的に柏は素直な立ち位置のままでは、位置的な優位性の確保には至らない噛み合わせである。というか数的にも優位性は得られない。

さあ、どこから前進しよう?と柏はビルドアップの出口を探る作業を始める。

まずはお決まりの最終ラインに白井を落とす戦法。ただ、この場合は相手が3トップでプレッシングを行うことから同数で噛み合う形となり、あまり意味のある行為には思えなかった。

むしろ、後ろに重たくなることから陣地を自ら押し下げる行為であったように思う。おそらく、相手が2トップであるというスカウティングを参考にしていたことから実行された可変と思われる。相手が2トップであれば後方を3枚にすることで数的優位を確保できた。

その次はサヴィオジエゴがSBのポジションでボールを引き出す動きである。この場面も何度か見られたということが、チームは名古屋が【5-3-2】で来ることを想定していたのだろうな、と感じた根拠のひとつである。

名古屋が【5-3-2】であれば、SBでボールを受けることで、相手の守備者は持ち場を離れざるを得ない。

しかしながら、この日の名古屋は【5-2-3】。

CHが降りた場合はぴったり噛み合う形であり、サヴィオジエゴがSBの位置で受けても相手を動かすことにはつながらない。

後はシンプルに名古屋のプレッシングが秀逸であった側面もあるだろう。主に3トップで役割分担を行っていた印象だ。山岸が反対サイドを切りながらサイドを限定し、森島と永井でCBとCHの選択肢を消していく。

サイドを限定しながらのプレッシングで追い込まれるとマンツーマン気味の名古屋に閉じ込められる格好となり、窒息するような展開が続く柏であった。

スカウティング通りであれば、SBの位置が空くのでそこから前進できたはずだった
【柏視点】今季初めての受動的なボール保持

今季初めてボールを「持たされる」展開と遭遇する柏は、サイドに追い込まれたところから無理目のロングボールが増えていく。

京都戦のように自ら選択してボールを放棄するのではなく、消極的な理由によるロングボールであるため効果的な前進が図られない。

古賀→小屋松→サヴィオとコンビネーションから一気に陣地を回復したシーンも見られたが、繰り返されることはなかったことから再現性が高いとは言えない。穿った見方をするなら偶然の産物と表現してもいいだろう。

前述のように名古屋の非保持【5-3-2】配置に対して後方での数的優位を確保し、嚙み合わせをずらすことでの前進を狙ったプランであった。故に、当初の想定とは異なる噛み合わせであったため、どれだけ後方に人を降ろしても盤面に変化は起こらない。

そうこうしている間にビハインドの状況。スコア的にも名古屋がリスクを背負ってまで柏陣地に出てくる訳もなく、相手のブロックの手前でボールを動かしてるうちにじわりじわりと選択肢を削られる展開が終盤まで続いた。

大半の時間でボールポゼッションが名古屋を上回ったものの、攻撃回数が名古屋と変わらなかったことから「名古屋が柏にボールを押し付けた」、「柏にボールを持たせた」展開であったことは明白だ。

高嶺の負傷というアクシデントがなかったとしても、おそらく同じ構図で推移したのではないかというのが個人的な見解である。

www.football-lab.jp

まとめと少しだけ”理想”の話

ポゼッションは未だ途上にあることを突き付けられたゲームだった。

神戸や磐田を相手にポゼッションで主導権を握ることができたのは、「相手が動いてくれた」側面が大きかったのは否定のできない事実だ。【4-4-2】型のブロックに対して噛み合わせが良かったこともある。

もちろん、そういった相手の変化を利用できなかった昨季に比べたら進歩ではある。決して今のチームを否定している訳ではない。ただ、僕はもっと高い場所を目指したいと思うし、それができるチームだと考えている。

少なくとも、昨季のように課題から向き合うことから逃げざるを得ない状況ではないはずだ。

これからの柏に求められるのは、自らで相手を動かしていくことだ。それが意図したポゼッションであろうとなかろうと。押し付けられたポゼッションであろうとなかろうと。

そこを克服しない限り、今後も柏対策としてボールを押し付けてくるチームは増えてくることが予想される。

期待したいプレーを具体的に挙げるのならば、相手の守備者を引き出すようなCBの持ち運びやGKを混ぜたビルドアップ……つまり、ビルドアップの供給部分の梃入れだ。高嶺の離脱がどれほど長くなるのかは分からないが、いずれにせよ、GKやCBといった最後方から時間とスペースを繋いでいく作業に本気で向き合わなければ、誰が出ようと変わらない。

今の柏レイソルが”理想”とするサッカーとは

井原体制のレイソルが目指すサッカーとは、全方位型のチームである。全方位型とはつまり、4局面(攻撃、ネガトラ、守備、ポジトラ)のどの局面でも勝負できるチームだ。

もっと具体的にいうなら、保持でも非保持でも複数の選択肢を有する万能型のチームで、相手の出方に応じて柔軟に戦い方を変えられることを理想としている。

その方向性に異論は全くなく、むしろそういったチームビルディングを個人的にも求めてきた。やはり相手がグーを出してきたらパーを、パーを出してきたらチョキをと変幻自在に自らを変化させる振る舞いは非常に魅力的に感じる。

ただ、それはあくまでも自らの強みの再現性を高めるためにあるべきだと思う。

柏に保持させることが狙いの名古屋に対して、同様にボールを放棄していくことが、本来選択するべき戦術であったと感じる。

京都戦に近いプランで入る、もしくは、スカウティングが外れてしまったなら、途中から変更する柔軟性があれば良かったし、何ならそのための全方位型志向ではないのかと思った。

あくまでも柏の強みは昨季に積み上げたトランジションとプレッシングにある。現段階では。ボールを押し付けてくる相手にポゼッションを選択できる段階にはまだないという冷静さが、直近2ゲームの成功でぼやけてしまった印象を受けた。

 

vsジュビロ磐田(2024明治安田J1リーグ 第3節)

柏の先発メンバーは前節同様。良いものは変えない!という判断なのか、はたまた磐田とのマッチアップを考えたら継続でいくべし!という判断なのか。あるいはその両方か。

予習でも書いたように磐田陣地で過ごす時間を長くできるか?というのが一つの攻略ポイントであった。

その手段として昨季からの積み上げ部分であるプレッシングやカウンタープレスからのトランジションや今季から取り組んでいるポゼッションがある。

それを発揮できるかどうか?というのが見どころでもあり、チームの完成度を図る一つの試金石となるゲームであったように思う。

風を感じる立ち上がりの15分

しかし事前の予習など参考にならないのがサッカーである。この日のヤマハスタジアムは強風。それもめっちゃ強風。スタンドで観戦していたけれど、ここまで強風のゲームはちょっと記憶にないくらいだった。

間違いなくゲームプランにも影響を及ぼしており、序盤から両チームともに長めのボールが増える展開だった。

風の向きでいえば、前半は柏が風上に立つ展開。書きながら気が付いたが、柏のキックオフからスタートしたということは磐田がコートを選択したはずだが、本当にそれで良かったのか?とは思わなくもない。セオリーでいえば風上を取りたいはずである。

立ち上がり15分を過ぎるまではそれぞれ風を見極めたいという意識からセーフティな選択が多かった。とはいうものの、データを見ると15分までの時間帯ポゼッションは、磐田保持が約60%。

実際に柏はシンプルに蹴り飛ばすシーンが多かったが、ある程度は意図した展開だったというのは井原監督のコメントである。

--風が強い中、戦い方は微調整しましたか?

前半は少しわれわれが風上だったというのもありますし、ピッチの中でボールがなかなか走らない。水を撒いていましたけど、すぐ乾いてしまってボールが走らない状況もあって、ある程度シンプルにボールを入れていく時間帯が多かったと思っています。

【公式】磐田vs柏の試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2024年3月9日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

「繋げるときは繋ぐ」、というのは変わらないけれど無理はせず風を使って長いボールを敵陣へ入れていく。蹴っ飛ばした先でカウンタープレスに移行し、そのままトランジションでゴールへ向うことが出来れば良し、仮に磐田にボールを持たれても敵陣であれば一旦OKといった様子だ。

この時の柏は、反対サイドのSBをターゲットにしているシーンが何度かあった。磐田が【4-4-2】のコンパクトなブロックを形成していることから、反対サイドにボールを飛ばすことでスライドを強いる狙いがあったと思われる。

また、両SBに高さがあることから空中戦が嫌ではないこともこの選択を取れる一因だろう。予め無理して繋ぐ訳ではないことを織り込んでいることから、高嶺やサヴィオがセカンドボールの回収役として事前に準備もできる。

ただ、それは柏側の論理。サッカーの攻略対象には対戦相手も含まれることを忘れてはいけない。

【4-4-2】の綺麗なブロックを敷く磐田による規律の取れたスライドもあって、柏の準備だけでは上回ることができなかった。長いボールを蹴るということは相手にボールを渡すという意味でもあるため、そのままセカンドボールを回収されて磐田の保持する時間でゲームは推移する。

柏も奪われた直後は昨年積み上げたカウンタープレスを実行してパスコースを潰しにはいく。前からプレッシングに行くということはボールを奪いに行くということでもあるが、それが出来なかったのは磐田のプレス回避が成功した側面が大きい。

磐田は自陣でのボール保持で細谷・小屋松の2トップに対してGKやSBを混ぜながら細かいパスでボールを循環させ、柏のプレスを回避していく。特に決まった型がある訳ではなさそうで、再現性のある形での前進を許したかと問われたらそうでもないのだけど。

ただ、引き寄せられて空いた背後のスペースをジャーメインや平川がビルドアップの出口となり、一気に後退を強いられセットプレーを与えた場面は気になる部分ではあった。15分までに二度ほど見られた現象である。

また、ジャーメインが前線のターゲット役として機能したことから、徐々にブロックラインが下がる……というか下げざるを得なかった側面は大きい。先述の通り敵陣でボールを保持される分には構わないという意図もあっただろう。

柏は奪い返すことができた場面はカウンターに転じるられるのだけど……といった展開で、中盤でのボールをめぐる争いに勝利したほうが主導権を握るような一進一退で膠着したまま試合は推移していく。

CHを降ろすことでボールを保持する柏

縦に急ぎ過ぎて怪しい雰囲気を醸し始めた柏は、少しずつ地上での前進を目指すようになる。ここで相手に付き合ってボンボンと長いボールを蹴り合っていたら、ゲームは違う展開になっていたと思う。

磐田のブロックラインがミドルゾーン~自陣寄りでの【4-4-2】だったこともあり、柏から蹴っ飛ばす選択をしなければそれなりボールは保持させてくれる。

あくまでも磐田としては引き込んでからのカウンターを実行したい。磐田に保持されていた0分~15分よりも、柏が保持していた15分~30分の間の方が、磐田のシュート数が多かったということをここで付け加えておこう。

www.football-lab.jp

そこで柏は与えられたボールをどのように動かして磐田を攻略するのか?といった事前に予想した通りのフェーズに入っていく。

その解答として、CHを降ろすことで数的優位を得ようという選択をする。

磐田のブロックラインが低いこともあり、ゴールキーパーではなくCHが降りる。基本的には高嶺ではなく白井が降りていくシーンが多かった。

CHをSBの位置に降ろすことで得られるメリットはいくつかあるが、一つは先述の通り後方での数的優位を確保することである。磐田の2トップ脇から前進することで、SHを引っ張りだしたところからズレを作りながら(人を動かして)、ビルドアップの出口を探していく。

余談だが相手を動かしたスペースに顔を出すのは小屋松で、裏抜け担当は細谷と分担がはっきりしていたのは良かった。それぞれの強みを活かすことのできる役割が与えられていたように感じる。もっとも、役割が固定されているということは対策がしやすいという意味でもあるが、それはまた別の話なので、CHを降ろすことによるメリットに話を戻す。

もう一つはジエゴが高いポジションを取れることだ。白井が低いポジションを取ることで、ジエゴはビルドアップの”出し手”ではなく”受け手”としてのタスクを消化に専念させることができる。ジエゴはスピードやサイズといった質的優位を発揮できるほか、サヴィオと長く組んでいることからコンビネーションによる突破も期待できる。

18分と23分のビルドアップはまさにそのような後方で得られた数的優位を前線に運んだいい例といえるだろう。

地上で前進をするということはチーム全体で陣地を回復しているということでもある。そのため、例えボールを失ったとしてもそのままカウンタープレスへの移行がしやすいというのも副産物といえる。

意外と蹴って来ない磐田とプレッシングを修正する柏

セットプレーからの先制に成功する柏だが、それ以降は磐田の時間帯が続く。

磐田からすればビハインドによって強度を上げざるを得なかったこともあるだろうけれど、柏2トップによるプレッシングが孤立気味だったことも磐田に味方し、後方でのパス交換からボール保持の時間を少しずつ伸ばしいく中で前半が終了する。

コートチェンジよって後半から風上に立つ磐田は、開始から190cmのベイショットを投入。前半のジャーメインもターゲットとしては十分に機能しており、そこから更にもう一枚ターゲット役を配するというのは中々エグい一手であった。もっとも、後半のジャーメインはセカンドボールの回収役を務めることが多かったけれど。いずれにせよあのクオリティで二役をこなせてしまうのは中々ずるいなと思った。

予想外だったのは、磐田はベイショットとジャーメインの2トップへの変更後もそこまでロングボール一辺倒にならなかった点だ。それが柏のプレスを誘いたいが故の判断なのか、あくまでも地上での前進を果たしたかったのかまでは読み取ることができなかった。でも恐らく後者だと思う。

磐田が自陣でボール保持の時間を延ばす中、柏は徐々にプレッシングの精度を高めていく。大きな変化としてはSHだろう。前半のように【4-4】で構えたところからではなく、2トップのプレッシングに連動するようになり、相手のSBを積極的に捕まえにいく。60分のハイプレスからのショートカウンターはまさにその姿勢が明確に表れている。

強度の回復と空中戦に備える交代カードで逃げ切る

前からプレッシングを行うということは相手からボールを奪うことでもある。磐田のポゼッションに対してプレッシングを手当したということは、柏がボールを握る時間が増えることが予想される。

ビハインドの磐田はスコア的にも柏にボールを渡すはずもなく、激しいプレッシングを行うことは目に見えていた。ここで相手の圧力に屈し、エンドレス・サンドバッグ状態となるのが昨季のパターンだ。

そこで柏は65分を越えたところで山本と土屋を投入し、早めの対策を講じる。この采配が非常に効果的であった。

自分たちがボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があった。そのために、この時点で9km近くの走行距離を記録していた小屋松を下げ、フレッシュな山本を投入することでプレッシング強度の維持に成功する。その後も矢継ぎ早に、島村と木下を送り出すことも含めて非常に効果的な交代カードだったように感じる。

前線の選手を入れ替えることで強度を維持するということはロングボールが飛んでくる可能性があるということである。そこに対しては土屋という空中戦でCBをサポートできる選手を投入することで耐え忍び、クリーンシートでの勝利となった。

まとめ

非常によく似たチームの対戦であったこともあり、現在のチーム状況が鮮明に描かれることとなりそうだ、というのが戦前の個人的な予想だった。結果というよりも、内容で相手を上回ることができるかどうかの方が大事であった。

そういった意味では非常にクレバーなゲーム運びができたように感じる。再三にわたって主導権を握られかけたものの、自分たちの振る舞いを変化させることで主導権を握り返すことができた。

保持⇔非保持の両局面で複数の選択肢を持てるようになったことが、戦い方の幅を広げているように感じる。

また、交代カードを含めた采配も非常に効果的だった。1点という僅かなリードの中で強度維持のために前線を入れ替える判断は外から見るほど簡単に講じられる一手ではない。これまでであれば後ろを5枚にするなどといった対応が多かったと思われるが、前線の強度を維持するという構造部分に手を加える采配は今後に期待のできるものだった。

何よりも期待に応えた山本桜大のパフォーマンスが圧巻で、プレッシングの強度を維持するのみならず、ボールをキープすることで時間を作ってくれたのは後方の選手からしても非常に助かった部分だと思う。

唯一得点だけが足りなかったが、間違いなく今後も試合に絡んでくるだろう。

【プレビュー】vsジュビロ磐田(2024明治安田J1リーグ 第3節)

開幕直後だけはやたら威勢が良い。それが戦術ブロガーの生態系。熱量が高いうちにすべてを吐き出してしまうから再現性が低いというかサステナブルではないのだということは、これまでの自分が証明している。こんなプレビューなんて不慣れなことまでしてしまうのだから。

とはいえ、熱量が高くないとこれほどまでにカロリー消費の激しいことなんてできねえよ!というのもまた真理であろう。継続して書くことの重要性は自分自身が一番理解しているものの、どうにもこうにもやらない理由を探し始めてしまう弱い自分に鞭を打ちながらパソコンへ向かう。非緊急かつ重要なタスクにどれだけ取り組むことができるか。ビジネスも同じだろうと戒めも込めて。

柏はどのように戦うべきか【磐田対策】

後述するが磐田は京都や神戸と異なり前からプレッシングを掛けてくるチームではない。

神戸戦ではプレッシングを剥がすことでゲームの主導権を握った柏ではあるけれど、やはり神戸自身が能動的に人を動かしてくれたことで上手く行った側面は大きい。実際、神戸にとっても柏があそこまで繋いでくるとは思っていなかった旨のコメントも見られた。確かにプレッシングのコース取りに甘さも見え、迷いが生じている感はあった。

つまり、奇襲が成功したと表現することができる。

磐田を相手にボールを保持する場合、相手のブロックを自ら動かす必要がある。同じ保持でも先週とは大きく異なる点は刻んでおきたい。

神戸戦の成功体験があるとはいえ、やはり現時点での柏の強みは去年積み上げた敵陣でのプレッシングやカウンターにあると個人的には考える。それを発揮できるシチュエーションでゲームが進むことが望ましい。

そのためにも、まずはボールを手放す必要があるよう思う。プレッシングやカウンターを発動するためには、相手にボールを保持してもらう必要があるからだ。

もっとも、プレッシングを行うということは相手からボールを取り上げることと同義であるため、結局はいかに自分たちがボールを保持しながら相手を動かすことができるのか?といった問題に帰結するのだが。ただ、同じ問題に突き当たるとしても、その過程は大切である。

以下は川崎戦の図だが、ボールサイドのSHが出て行ったときにSBが晒されるのは構造的には狙い目かもしれない。SHを絞らせることで神戸を攻略した直後ではあるが、対磐田ということであれば両SHは大外に張らせたい気はする。

ただ、古賀・犬飼が広めにポジションを取り、二枚で2トップ脇から前進がでるのなら、横幅をSB、内側にSHで攻略できるかもしれない。相手のSBを引っ張り出したところから、SHか細谷が裏抜けすることでスペースの攻略ができる。

なので、古賀・犬飼が磐田のスライドよりも早いスピードで配給できるか否か?といったところが一つの見どころかもしれない。

 

画像

www1.targma.jp

www1.targma.jp

磐田の予習

やはり事前の予習は大切。相手がいつも通りなのか、今日に限って何かを変えてきのかによってゲームの解釈は変わる。いつも通りなのであればスカウティングのクオリティが垣間見えるし、今日だけ変えてきたのなら適応力を図る指標になる。

開幕戦と川崎戦では、非保持【4-4-2】のシステムを採用し、ミドル~ローラインにブロックを構えながら、カウンターの機会を窺うような戦い方であった。昇格組ということで、神戸・川崎という後手に回る可能性が高い相手をリスペクトしての判断なのかもしれないが、昨季の磐田を観ていないのでそのあたりの文脈は分からない。

保持

画像

まずは保持から。主体的にボールを握りたい意欲はそれほど感じなかった。スタッツとう観点から見れば、保持率が相手を上回ったのは神戸戦の60分以降のみだ。

www.football-lab.jp

www.football-lab.jp

一応繋ぐ素振りは見せる。ただ、どちらかといえば神戸・川崎のプレッシングに真っ向から立ち向かうというよりは、相手を引き寄せて蹴っ飛ばすためのアプローチであるような印象だった。

プレッシングによって得たい結果が異なる2チームが相手ではあったけど、磐田の保持における振る舞いにはそれほど変化を感じなかったことも含めて、そこまで保持という局面で主導権を握る設計にはなっていない様子だった。

前進の手段が乏しかったと表現することもできるかもしれない。

特に神戸戦ではパスがつながらない場面も多く、神戸のネガトラ、ブロックの餌食になって、自陣に閉じ込められる場面も多く見られた。

その一方で、修正力も垣間見えたのが川崎戦だった。川崎のIHの裏のスペースを狙い、SHを内側に絞らせるなど相手の出方に応じてビルドアップの出口は用意している印象を受けた。神戸戦でジャーメインへのロングボールが全く機能しなかったことへの修正を施した様子で、セカンドボールを回収したい意図があったかもしれない。

いずれにせよ、自陣で閉じ込められた際にどのように陣地を回復するのか。そもそも自陣で過ごすことを受け入れているのか。おそらく受け入れている訳ではなく、パスで相手を剥がしながら前進がしたかったはず。そして、そのためにショートパスを選択したのが神戸戦。

質的な優位性で対処できた昨季とは違い、J1の強度に慣れる前に2失点でゲームが終わってしまったというのが開幕戦なのだろう。あくまでも個人的な仮説だが。

ジャーメインが攻撃をけん引することは間違いないのだけど、空中戦を競わせるよりも裏抜けに専念させた方が良いのではないかというのは個人的に。CBを押し下げるというかピン留めを図る意味でも。

地上での前進手段という課題と当面は向き合わなくてはならない気はする。柏目線ではボールを敢えてボールを放棄することで、去年からの積み上げた部分を発揮することができる。そういった観点では、戦術的な相性が非常に良いチームといえるだろう。

非保持

一方の非保持は【4-4-2】でゾーン守備。プレスの開始ラインはミドルゾーン。2トップで中央へのパスコースを牽制しながらサイドへ圧縮する仕組み。特に川崎戦ではその意識が非常に強い印象を受けた。

3枚でのビルドアップに対して2枚で牽制することになるので、どうにもこうにも横のスライドが間に合わない。まあ、ある程度織り込み済ではあったと思うけれど。特に開幕節を見てから対策を講じることのできた川崎は、元々ボールを握りたいチームではあるけれど、狙って動かしているような印象を受けた。

2トップ脇のケアはSH。特に川崎戦に関してはそこまで出て行ってもいいのか?と思う場面は結構あった。特に左SHの平川。スライドは何とか間に合うけれど、SH-SB間のスペースが開くというか、SBが孤立する場面が多かったので、柏としてはここが磐田攻略の鍵かもしれない。

画像

 

vsヴィッセル神戸(2024明治安田J1リーグ 第2節)

先発メンバーは京都戦を継続。

京都戦については前回のアーカイブを確認して欲しいが、開幕戦ということとピッチコンディション、相手の戦術的特徴を踏まえてロングボールを選択。アクチュアルタイムは驚異の30分台と極限までリスクを抑えた展開となったため、現時点のチームの完成度を図るにはあまり参考にならないと感じた。

一方の神戸。開幕戦は磐田に快勝。サッカーには4局面存在すると言われて等しいが、さすがは昨季チャンピオンということもあり、いずれの局面においても複数の選択肢を有している印象だ。

最大の長所はやはり大迫。質的優位は正義である。多少ビルドアップに詰まっても前線に明確なターゲットが存在することで時間の確保と陣地回復を実現する。そこから敵陣でのプレッシング、ショートカウンターによるアタックは、まるで柏の上位互換だ。敵陣でのプレー時間を長くするということで主導権を握ろうという姿勢は、柏と非常によく似ている印象を受けた。

試合の雑感

個人的にこのゲームの柏は、京都戦と同じように長いボールを選択すると想定していた。

神戸の印象について「4局面で複数の選択肢を有する」と表現したが、それでも得手不得手は存在する。特にボール保持の部分だ。ボール保持が苦手な相手にボールを渡してしまおうというのはシンプルだが分かり易い。

神戸は大迫というスーパーな選手が存在するがゆえに、必ずしも地上での前進は必要としない側面があったものと思われる。オルンガという質的優位の存在がボール保持という課題解決から目を背けることとなった柏と状況としては似ているかもしれない。

予想外にボール保持を選択する柏

しかし、実際に試合が始まってみると意外にも柏は地上での前進を選択する。神戸のプレッシングに真っ向から挑む構図だ。

神戸は井手口を前に出し、大迫と2枚で柏のCB⇔CH間のパスコースを閉じながら外へ誘導していくプレッシング。一方SHの佐々木と汰木は外に構えることで内側に誘導していく。中央で圧縮して奪うことができれば、守備の形が整っていない柏のゴールに向かって最短距離での攻略を目指すことが出来る。

一方の柏はGK+CB2枚で相手のパスを回しながら神戸のプレッシングを誘い、前進経路を探していく。後方でボールを回すことで人を基準にプレッシングを行う神戸の配置を動かしたい狙いがあったと思われる。

まさに縦と矛。柏が神戸のプレッシングをいかに剥がすことができるか?という観点が主導権を争いのポイントであったように思う。

SHが内側に絞ることのメリット

柏の配置を見ていくとちばぎん杯や開幕戦と大きく異なる点があった。

それはSHがインサイドのレーンを立ち位置としたことだ。

この配置には、

  1. 中央のパスコースを確保する
  2. セカンドボールの回収確率を高める

このような狙いがあったものと思われる。

①中央のパスコースを確保するに関しては文字通りである。テンポよくパスが回り、中央から前進できた場面がいくつかあったが、俗にいう距離感が良い状態だったことが一因といえるだろう。小屋松がタイミングを見ながら+1を作る動きも秀逸だった。

パスコースを確保するというのは、言い換えればどこで数的優位を作るのか?という問いであり、それに対する回答がSHを内側に配置するだった、といえるだろう。

また、②セカンドボールの回収確率を高める狙いもあったように思う。地上での前進を目指すとは言っても、出しどころが見つからない・プレスを受けてロングボールで逃げざるを得ない局面は確実に存在する。

空中戦で勝つことが出来ればベストだが、細谷も小屋松も空中戦を戦えるタイプの選手ではないことから、セカンドボールの回収はゲームの主導権を握るうえでも重要なポイントである。

これまでの柏はSHが大外に開いたポジショニングを取ることが多かった。この場合、ロングボールのセカンドボール回収役はCHが中心となる。

しかしながら、ボールを保持しながらの前進を目指す場合、どうしてもCHの立ち位置は低くなる。するとFWとの距離感が遠くなり、柏の2トップは前線で孤立してしまう。

そこで、SHが内側へ絞りFW⇔CHの中間に位置を取ることで、列間の距離を一定に保ち、セカンドボールの回収を効率的に行う狙いがあったものと思われる。

また、噛み合わせ的にも【4-2-4】配置の神戸のCH脇を取る狙いがあったほか、中央に選手を配することで被ロング・カウンター対策として中央のルートを閉鎖する狙いもあったと思われる。

いずれにせよ、こういった選択ができる背景には相手を見ながらボールを動かすことのできる古賀・犬飼のCBコンビの配給力はもちろん、ジエゴ・関根のプレス耐性に救われた側面は非常に大きい。

キャンプからボールを繋ぐことに取り組んできた成果が少しずつでているのかもしれない。

外切りの外と小屋松の+1

後方でパスを回しながら中央への前進を模索しつつ、序盤は外を切る神戸SHの外から前進を図る機会が多かった。

横幅役として出口となるのは関根とジエゴ。神戸SHの外を切るコースが若干甘かったこともあるけれど、外から脱出する機会が多かった。ボールの循環的にジエゴ側からのルートが多かった気はするけど、それはサヴィオのサイドだからなのかもしれない。ここはもう少し継続的に観察していく。

SBはCBからボールを受けた際、スペースも時間もそこまで多く与えられた訳ではないにも関わらず、致命的なロストはなかった。むしろ冷静に中や縦にボールを繋げるなど、ビルドアップでのジエゴ・関根の貢献は大きく、チームのストロング・ポイントにもなり得ると感じた。

またフリーマン的な役割の小屋松も非常に効果的だった。中央でのパスコースを確保とはイコールで数的優位を確保するという意味でもあることは先述の通りだ。

一例としてビルドアップの出口としての振る舞いを記載しているが、サイドに流れる動きや細谷のサポートなど、常にボール保持者へ選択肢を与え続け、広範な動きでチームを支えた。

プレッシングと自陣でのボール回収

プレッシングが効果的に作用したことでボールを保持できた側面も大きい。

相手からボールを取り上げない限り、自分たちがボールを握ることは不可能なのだ。そういった意味で、どのようにボールを奪うのか?というのは大きなポイントであった。

このゲームに関しては上図の通り、右肩上がりの神戸に対して同数でのプレッシングを選択。敵陣で奪うことができればそのままショートカウンターを繰り出す。それが無理なら地上での前進を阻止し、ロングボールを蹴らせることで自陣でボールを回収する。

最終ライン全員に高さがあることから、どこをターゲットとされても互角に戦うことができるのは強みといえるだろう。プレッシング隊も安心して追い掛けることができるので、迷いをなくすことができる。

大迫も終始勝てる場所を探っているように見えたが、最後まで柏の最終ラインが耐えきった格好だ。

まとめ

このゲームだけでポゼッションが改善したと表現するの少し早い気はする。神戸は監督が不在であったことや主力選手の相次ぐ負傷によって通常のチーム状態でなかった点も大きいだろう。

このゲームで主導権を握ることができた一番の要因は、ポゼッションの改善ではなくスカウティングと表現する方が正しいと思っている。

良くも悪くも、この日の神戸は”いつも通り”。保持時の右肩上がりも、外を切りながらのプレッシングも含めて、チャンピオン・チームであるがゆえに自らの形を持っていると言えるだろう。

言い換えれば、プレッシングに対する脱出ルートの想定やビルドアップへの嵌め方も、スカウティング次第で事前に用意することができるし、それができなかったことが直近シーズンで低迷した大きな要因のひとつだと思う。サッカーは対戦相手次第で最適解が変化していく競技だが、自らの中に答えを見出してしまう状態である。

しかしながらこのゲームでは、強度の高いプレッシングを受けても淡々とボールを繋ぎ、プレッシングについても迷うことなく選手がプレーを判断・実行しているように感じた。

というかこのゲームに限らず開幕戦についても(選択する戦術は違うけれど)迷い自体がなかったという意味で、スカウティングをこれまで以上に重要視している印象を受ける。

あくまでも推測に過ぎないが、相手を見ながら戦うことができれば、もしかしたら飛躍の年になるかもしれないと可能性を感じるゲームであった。

次週の磐田はこれまでの2チームとは大きく異なる戦術を採用するチームであることから、スカウティングをどれほど行っているかという観点でゲームを観てみようと思う。

観戦メモ

 

vs京都サンガF.C.(2024明治安田J1リーグ 第1節)

柏の先発メンバーは先週のちばぎん杯から熊坂→高嶺、木下→細谷へ変更。昨シーズン後半をベースに新加入でいえば白井とルーキーの関根が開幕スタメンを勝ち取った。

今季の柏は保持の時間を長くすることを目標に掲げ、キャンプを過ごしてきた。ただ、テスト的な要素が強かったとはいえ、ちばぎん杯での保持は非常に不安の残るものだった。

プレッシングを強みとしている京都にこの完成度で挑んだら凄惨な結果になりそうだと思ったし、実際に監督・選手からも保持一辺倒、ロングボール一辺倒ではなく使い分ける旨の発言が出ている。

こうした背景を踏まえると昨季のロングボール中心の戦い方を選択するのではないか?というのが個人的な予想であった。

理に適ったロングボールによる前進

京都対策としてのロングボール

実際にゲーム序盤から柏はロングボールでの前進を選択する。

昨季からの課題でありオフで改善に着手したポゼッションによる前進を選択しなかった理由は、開幕戦ということやピッチ・コンディションを考慮しセーフティに入りたかったことも一因ではあるが、それ以上に京都攻略という側面が大きい。

京都はハイプレスからのトランジションを強みとしている。そのため柏が自陣でボールを繋ごうとした場合、京都の強みが発揮されやすい状況といえる。

ネルシーニョ前監督が「ニュートラル」という言葉(相手の強みを消すような状況)を頻繁に使っていたことを思い出すが、このゲームでいえば敢えてボール保持を放棄し、ニュートラルな展開に持ち込むことがファーストプランだった。

ネルシーニョ前監督に長く師事していたこともあり、その影響を感じる采配だった。

試合後の井原監督のコメントを引用しておく。

京都さんは我々のゲームをさせてくれない、前からのプレッシングが非常に強いチームなので、しっかり対策を練ってゲームには入ったし、選手も90分間通してしっかりとゲームはしてくれたと思う。
前半はお互いがかなり長いボールを使った展開にはなったが、後半は我々の狙いがしっかり出せたゲームになったと思う。

ちばぎん杯で見られた保持のクオリティはまだまだ発展途上であったし、そういった事情も鑑みると井原監督の采配は理に適っていたように感じる。

相手の強みに対抗できるほどのクオリティにないのであれば潔く諦めるという選択は、とても手堅い一手であった。

自分たちの強みを出すためのロングボール

ロングボールでの前進を選択することは、先述のとおりプレッシングを掛けてくる京都を引っ繰り返すような形(井原監督は”裏返す”と表現していたが)で、京都の強みを消すことと同時に、昨季終盤に掴んだ柏の強みを発揮することにもつながった。

ここでいう柏の強みとは、敵陣でのプレッシングとネガティブ・トランジションによるショートカウンターを打ち出せる状況だ。昨季は急場を凌ぐために仕方なく打ち出した手段ではあったものの、攻守両面でチームに秩序を与え、結果的に強みへと昇華していった。

特に天皇杯・決勝はその最たるもので、結果的には惜しくも敗戦となったが、川崎を相手に120分間あのゲームをできたことは間違いなくチームの中に成功体験として蓄積されているはずだ。

言い換えれば、今の柏には困ったときに「戻る場所」が存在するという意味でもある。

山田康太も椎橋もいないけれど、それでも大半の主力選手については流出を阻止できたことから、「戻る場所」が存在するということは選択肢を有しているということだ。

常に新しいことにトライしていく姿勢は大切でそれをアップデートと呼ぶと思うけれど、とはいえそれは戻るべき場所が存在するからこそ選択できる側面も大きい。

少なくともこのゲームでは最適解

ロングボールによる前進は陣地を回復し、敵陣にボールを運ぶことができるので、自分たちの守るゴールから遠い場所で守備を開始できる。さらには相手の強みであるプレッシングを回避し、発展途上で失点のリスクが高いポゼッションによるビルドアップを省略することができたという点でまさに一石二鳥の采配だった。

サッカーという競技の攻略対象には対戦相手が含まれる。

そういった意味で京都戦に関しては、選択できる選択肢の中では最も勝利に近い戦術を採用できたのではないかと個人的には考えている。

個人的には昨日の采配は実に真っ当で、非常に優れた選択だと感じた。

ロングボールの勝率を高めるためのポゼッション

試合展開に目を向けると、京都も同じようにロングボールを選択している。

柏同様、敵陣でのプレッシングを強みとしていることから、柏陣地にボールと選手を送りこむことで自らの強みを発揮したいという狙いがあったと思われる。

その結果、お互いにロングボールを蹴り合う展開となり、膠着状態が続く形で前半が終了する。

ロングボールは自分たちの守るゴールからボールを遠ざけるという観点で言えば、リスクを減らす戦い方でもあることから、ゴール前のシーンはそれほど多くはなかった。実際にゴール期待値は両チームともに低位で推移しており、均衡状態にあったと言えるだろう。

安全を優先した前半のロングボール

特に前半はとにかくセーフティを最優先とした。上図はゴールキックからのビルドアップを描いたものである。

2CBをGK脇へ降ろすことには降ろすけど、繋ぐ気配はなかった。繋ぐためにそこにいるというよりは、京都のSHを引っ張り出すことが目的だったように思う。

SHを引っ張り出すことで、柏の両SB(ジエゴ、関根)は京都のSBと数的同数で空中戦を戦うことができる状況といえるからだ。サイズのあるSBを起用していることから、中央へ蹴るよりも勝率は高い。柏の前線4枚はそれほど高さがないため、中央に蹴っても空中戦はじり貧に終わっただろう。

そういった観点も含め、非常にロジカルな選択であったと思う。安全な場所にボールを逃がすことができるため失点のリスクも抑えられるという副産物もついてくる。

右に蹴ることは少なく基本は左サイドを選択した。これはサヴィオというこのチームの質的優位を活用する狙いがあったと考えれる。

均衡を崩す柏の勇気

リスクを極限まで抑えた前半から一転して、柏は後半から少しずつリスクを取り、得点を奪いに行く。

そのための手段としてオフで取り組んだポゼッションが登場する。

古賀が試合後にコメントを残しているが、意図的にチームが起こしたアクションだった。実際に後半30分前後まで柏の保持率が大きく上回る展開で推移している。

(有料部分なので引用は避ける)

www1.targma.jp

とは言っても地上での前進が成功したかといえばそうでもなかった。基本的にはロングボールを中心とした前進だ。

ただ、同じロングボールを蹴るというプレーでも昨季と大きく異なる点がある。それは、明確な狙いがあってそれを実行している点だ。

CBやCHが闇雲にボールを保持し、詰まって逃げのボールを蹴らざを得なかったのではなく、人を捕まえにくる京都のプレッシングを活用して誘き寄せるという狙いが存在した。

京都のCHを引っ張り出したことで、京都は最終ラインでリスクを背負うこととなった。実際、下図のように、柏は勇気をもってCBとCHがボールを繋ぐ意思を見せたことで、前方での数的優位の確保にとどまらず、セカンドボールの回収でも主導権を握ることに成功した。

ポゼッションはポゼッションでも、地上での前進が絶対ではない。相手の背後にスペースがあるのなら優先順位はそこである。あのマンチェスター・シティであっても、決して保持に固執することはなく、案外シンプルに蹴って背後を狙う機会は多い。

疑似カウンターという言葉が存在するくらいだ。

蹴るために繋ぐ必要があること、そしてそれを実行して主導権を握った経験は非常に価値のあるものだと感じた。

まとめ

こうして、相手を見ながら前進手段を選択できるようになったことは非常に大きな進歩といえる。自分たちの中に正解を求めていたのが昨季であるならば、少しずつそこに対戦相手という要素が加わってきた印象だ。

もちろん、地上でクリーンに相手のプレッシングを剥がせることは理想であり、いつかはそれが出来るようにならなくては再び壁にぶつかるだろう。

ただ、そういったサッカーを経験していない監督・スタッフ編成で戦うことを決めた以上、時間を要することは仕方のないことであり、クラブも受けて入れての判断だと思われる。

いずれにせよ、ピッチで表現されるサッカーが全てである。毎週少しずつでも良いから、成長していく様子が見られることを切に願う。

もっとも、緩やかな成長スピードにJ1が待ってくれるのかはまた別の話である。

【柏レイソル】2024シーズン・プレビュー

2024シーズン・編成全体像

本文では、『量』と『質』という二つの観点から、編成を分析していきます。まず『量』のセクションでは、チームの人数とその配置に焦点を当て、続いて『質』のセクションでは、選手の能力や戦略について考察します。

「量」から見た編成

総勢33人編成

まずは量的な観点から確認していきます。

土屋や片山、戸嶋といった複数のポジションを担当できる選手の存在によって不足するポジションはない印象です。

ただ総勢33人というのは、一般的な適正人数よりは多いかもしれません。ルヴァン杯のレギュレーションやACLの不参加を考慮すると、チームの編成はやや大きいと感じます。人数が多いということは、選択肢が増えるという側面がある一方で、試合に絡むことのできない選手が多くなるということでもあるので、一長一短あります。

採用するシステムみたいなものを予想するとしたら、DFラインを基準に考えると3バックも4バックも可能であるように見えますが、その場合はCBならびに右サイドのWBが不足する印象です。

そのため、恐らく前季の【4-4-2】ないしは4バックを継続するのではないかというのが個人的な予想です。

もちろん対戦相手に応じて3枚という選択肢を有することがベストですが、現時点でそこまで期待するのは酷な気はします。

「質」から見た編成と補強戦略

ネガティブな声から考えるデータを活用した補強戦略

Xのタイムラインを眺めていると今季の編成に対してはややネガティブな声が多い印象です。J1経験が比較的乏しいと言いましょうか。

山田康太や椎橋、仙頭といった主力の放出に対してJ1下位~J2クラブからの補強が中心となるなど、他カテゴリーからの補強が続いたことがネガティブな声の正体ではないかと思います。

まずは、なぜそのような補強になったのか?といった点について考えていきたいと思います。

柏レイソルは数年前より、データを活用した補強戦略を採用しています。

データという観点でいう”優れた選手”とは、必然的に出場時間の長い選手となる傾向にあります。切り取り方次第ではあるものの、データの活用にはある程度の量が必要です。サンプル数は多い方が信頼できる、と言い換えることもできるでしょう。

こうした補強戦略もあって、「J1で出場機会の少ない選手<J2で主力級」という選択肢となったのではないでしょうか。

この考え方自体は至極真っ当だと個人的には思います。

実際に「主力の放出」といって嘆かれている山田康太はJ2の山形からの獲得です。戦略としては間違っておらず、見方次第では一貫しているとも言えるのではないでしょうか。

「ボールを保持する」という課題に対して

後述しますが、柏レイソルがこれから取り組むべき課題とは、「ボールを保持する」です。そういった課題に対するソリューションとしての一つが補強であり、その目玉となるのがCBの野田、CHの白井だと個人的には考えています。

「ボールを保持すると言っても、後ろでパスを回すのではなくて」と布部GMが言及されたように、ロングボールだけではなく地上での前進を如何に成功させるか?といった点がポイントになるかと思います。

実際にデータの観点では、野田と白井はパス数を含めたビルドアップに関わる指数でJ2トップクラスの数値を叩き出してきます。プレー集を見ても同じ印象を受けるのではないでしょうか。

www.football-lab.jp

www.football-lab.jp

カウンターによる細谷とサヴィオの質的優位性を活かすことしかなかった少ない得点パターンからの脱却のためには避けて通ることのできない部分だと思います。

なぜこの編成か?不安要素と期待できる要素

J1経験の乏しい編成以上に不安な要素

個人的には、J1経験の乏しい編成以上の不安要素は監督ならびにスタッフ陣だと考えます。

昨年ピッチで表現されたものは結果・内容ともに非常に厳しいものでした。詳細はレビューをご覧ください

hitsujiotoko09.hatenablog.com

こうした背景を踏まえた上で、今季のスタッフ体制を見ていきます。

ヘッドコーチに昇格した栗澤さんについては、S級の受講で不在が増えるのではないかとの懸念があります。そのほか、大谷コーチ、染谷コーチについても長い指導歴がある訳ではありません。名選手が必ずしも名指導者になり得ないことは過去を見れば明らかでしょう。

井原監督についても理論派というよりは、モチベーター・タイプです。積極的にコーチ陣の意見を聞くスタイルですが、それならば尚のこと理論派タイプの人材は必須だったように思います。

栗澤、大谷、染谷の3コーチについては、恐らくクラブとしても今後を任せたいといった長期的な狙いもあるのでしょう。現場で経験を積ませたいという考え方に対する理解はもろんありますし、遠くない未来にそんな瞬間が訪れるのだろうという予感めいたものもあります。

とはいえ、ただ現場で経験を積めばいいという訳ではないと思います。他クラブを見てもアナリストなどスタッフへの投資や人員増強を積極的に行っている中で、どうしても内輪の人事でこねくり回した印象は拭えません。

続投だからこそポジティブな部分

一方で、昨年のサッカーがベースであるのなら、既に明確な課題が存在するという見方もできるかと思います。それは非常にポジティブなことだと考えられます。

なぜなら、それを解決すれば結果が出るのではないか?という仮説を立てられるからです。

前任監督主導の編成で戦わざるを得なかった昨季は、言わば与えられた手札での戦いを強いられたといっても過言ではありません。その中で最低限の結果を出すために打ち出した施策の中で浮き上がった課題は、新たな体制を構築し、そこから課題を導き出すよりも近道かもしれません。

PDCAを回転させる時間を短縮することができるからです。

それ故に不足するポジションや人材が明確であったことは、ストーブリーグを戦う上では非常に有利に働いたのではないでしょうか。他カテゴリーからの補強が多かったとはいえ、個人的にそこまで悲観的ではない要因はそこにあります。

他カテゴリーでの実績がどれほどJ1で通用するのかは非常に未知数で、それは2人の大学組にも同じことが言えるでしょう。

ただ、だからこそ、可能性も感じます。

補強にデータを活用し始めて以降の補強については、非常にポジティブな印象を受けているので、恐らくそれなりのパフォーマンスを見せてくれるのではないかと考えています。

結局のところ、今季はどのようなサッカーをするのか?

布部GMの語る柏レイソルが目指すサッカー

どんなサッカーを目指すのか?という点については、新体制発表会で布部GMが言及しています。


www.youtube.com

ゲームの終盤まで強度を維持したサッカーです。

言い換えれるなら、敵陣でのプレー時間を長くすることです。敵陣制圧と広報日記にもありました。つまりは、天皇杯の決勝があるべき姿と言ってもいいでしょう。

そして、そのサッカーを成し遂げるための手段として、「自分たちがボールを保持(リーグ17位のポゼッション率を向上)する時間を長くする」と布部GMは言っており、そのための補強を実施しました。

昨季ピッチ上でそれら(特にポゼッション)を表現できなかった要因として、シーズン途中の体制変更で時間がなかったことから、今表現出来ている良さを消さないために、敢えて課題を放置したのだというのが監督やスタッフはコメントしています。

戦いを略すると書いて”戦略”と読みます。井原監督は現場の責任者として、取り組まないことを決断したということです。『イシューから始めよ』でいうところの、やらないことを見極めるというやつです。

実際にその戦略は結果に寄与しました。

残留(”結果”と表現していいのかはさておき)に加えて、天皇杯では決勝に進出していいます。

内容や質の探求を一定程度諦めることで、最低限の結果を確保することを優先しました。ある意味で戦略的なチーム運営だったと言えるでしょう。

総括

手放せば始まる。”敢えて手を付けなかった”という言葉を信じて

これから改善に取り組まなければならない課題は、やはりボール保持の時間を長くすることだと思います。数年前から繰り返し言っていることではありますが。

ただ今季についてはここ数年の開幕前とは違う点があります。

それは、ボールを保持する行為が昨季からの方向転換に値するのはではなく、昨年のサッカーを積み上げた続きにあるという点です。

強度の高いプレッシングとネガティブ・トランジションの整備で、ボールを奪うことはできるようになったことで守備の改善は図られました。

そこからゲームをコントロールする術が昨季のチームには不足していました。先述のように敢えて手を付けなかったからです。

細谷やサヴィオの個の力(質的優位性)を活かした”縦に早く”というサッカーは、短期的な結果を求める上では理に適った戦い方でした。

なぜなら、素早くチームの質的優位性へボールを預けること、敵陣へボールを運ぶことは高い位置でのプレー時間が長くなるからです。自分たちの守るゴールから遠い場所でプレーする時間が長くなれば失点のリスクを低減することが可能です。同時に、ビルドアップという構築に時間の要する作業に着手しなくても済むと言うメリットもありました。

一方で、ゲームのテンポが速くなる分だけ体力の消耗は激しく、90分間強度を維持することは困難を極めました。副作用と表現してもいいかもしれません。

ペップはかつて、「早くボールを送れば、その分、早く戻ってくる」と言いました。縦に急げば急ぐほど、守備の時間は長くなるのです。終盤の失点が多かった要因はそこにあります。

敢えて課題に取り組まなかった……それは言い換えれば、取り組む時間とリソースさえあれば解決できる見込みがあるという自信の裏返しでもあると僕は解釈しました。

番外編~お金の話~

柏レイソルはお金がない」問題について

最後に、今オフに度々話題に挙がった「柏レイソルはお金がない」問題について個人的な見解を述べていきます。

データを活用したした補強戦略として、J2からの獲得についての合理性を説きましたが、もちろんJ1の主力級を獲得できれば一番いいのだと思います。

しかし、それが出来ないのはなぜか。

柏が目下のところ悪化した財務状況の改善を図っている最中だからです。

そして、それはリーグ規定によって当会計年度中に債務超過を解消する必要があるという外的要因によるもので、柏の経営状態が悪いということでは決してありません

債務超過を解消する方法は貸借対照表の「スリム化」

債務超過の解消方法は主に2つです。

1つは出資を受けること。そしてもう1つは損益計算書上で債務超過額を上回る利益(258百万円)を捻出することです。

親会社の資本関係や財務戦略を考慮すると1つ目はなかなかハードルが高いと思われるため、柏レイソルは2つめの利益を捻出することで債務超過の解消を図る必要があります。

利益の捻出方法は、収益(売上)を増加させるか、費用(支出)を減少させるかのどちらかです。

そこで、瀧川前社長から「経営のスリム化」という発言がありました。この言葉が少し一人歩きした印象があります。

実際に費用の動きを見ているとそこまで大きな変化がないことが分かります。つまり、お金の使い方は変わっていないのです。どころか、チーム人件費は増加基調にあります。

以下は直近のトップチーム人件費推移です(単位:百万円)。

2020/3 2,940
2021/3 2,879
2022/3 3,105
2023/3 3,188

つまり、キャッシュが不足している訳ではないということです。

それではどのようにスリム化を図っているのかというと後者、移籍金収入の増加による収益アップです。

その結果として貸借対照表を小さくなっており、それが「スリム化」の意味するところです。

以下は総資産の推移ですが、順調にスリム化が図られていることが分かります。

2020/3 2,828
2021/3 2,667
2022/3 2,168
2023/3 2,138

その他収入から、毎期一定程度の移籍金収入を計上していることを読み取ることができます。

2020/3 238
2021/3 1,177
2022/3 260
2023/3 721

よく読めば、スリム化とは言っても、コストカットとは言っていないのです。キャッシュフローは順調……つまり、お金はあるものの、リーグ規定により利益捻出する必要があるから選手を売却しているというのが真理ではないでしょうか。

強いて言うなら、特に固定資産の部分が大きく減少していることから、単年契約であったり、契約が切れるタイミングの選手を獲得しているのではないか?というのが個人的な予想です。移籍金が掛からなければ、償却の必要性はなくなるので、スリム化にも寄与します。

補強に動こうと思えばできるものの、3月の決算を越えて着地が確定するでは様子を見ようといった判断もあるでしょう。

2020年の大型補強の反動も一区切り

これで、2020年の大型補強によって大きく悪化した財務基盤の修復にようやく一区切りといったところでしょうか。

今後、クラブがどのような戦略を描いているのかは分かりませんが、夏もしくは次のオフには一定程度の補強を行うのではないか?というのが個人的には考えております。

勘違いされたくないのは、お金はあるということです。ここでいうお金とはキャッシュを指します。ただ、リーグの規定によって使うことができないというだけの話しです。

柏レイソルはお金がない」といった言説は事実誤認によるクラブのレピュテーションを著しく傷つけるものです。

財務三表は一体であり、PLだけを見てものを語るのは愛するクラブを知らずのうちに貶める行為であることを自覚した方がいいのではないかと思います。

vs名古屋グランパス(2023明治安田生命J1リーグ 第34節)

ボール保持に課題を抱える両チームの対決。と言いつつ、今季の名古屋をそこまで多く見ている訳ではないので、実際にそうなのかは分からない。先入観である。

握ることができないのなら押し付けてしまえばいいじゃない、と思うものの意外とそこまで割り切るチームは少ない。確かに保持でも非保持でも複数の選択肢を持つことは大切だ。それはチョキしか出せないじゃんけんを戦うに等しいのだから。

噛み合わせを見ていく

余談はさておき噛み合わせから。

名古屋の保持は343でスタート。フォーメーション図通りの配置。非保持の柏も同様に442。Google先生はさすがである。

3枚でビルドアップを行う名古屋に対して、柏は2トップでアプローチするため数的不利の状況である。一方、最終ラインでは名古屋のアタッカー3枚に対して4枚。同じ人数で戦うサッカーというゲームの特性上、必ずどこかで辻褄は合うものだ。そういった辻褄をぶっ壊すために存在するのがGKのビルドアップ参加であったりするけれど、先週の鳥栖同様でそれなりにリスクは生じる。話が逸れるのでそれはまたの機会に。

枚数が噛み合うということは、1vs1の局面を剥がすことさえできれば均衡を崩せる可能性が高いということでもある。名古屋のように質的な優位性を保持したチーム、身も蓋もないことを言えば予算のあるチームは、案外こういったシンプルな構図に持ち込んで物量で押し込んでまうことも、サッカーの攻略という意味では一つの解なのかもしれない。

もちろんこれは静的な配置であり、半ば机上の空論。

とはいえ、初期配置で生じるズレは案外馬鹿にならない。名古屋はこの嚙み合わせのズレを活用して、柏の生命線でもあるプレッシングを攻略していく。

名古屋のビルドアップを見ていく

名古屋のビルドアップは3枚で柏の2トップ脇から前進。後ろの3枚でボールを動かしながら柏の2トップを揺さぶる。右から左というボールの循環が多いように感じた。

局面という”具体”に視点をあてるならプレス回避が目的。ただ、ゲーム全体へ”抽象”度を上げるなら、プレッシングが得意な柏2トップの体力を削ることでゲームを優位に進める目的もあったと思う。例え局面での前進が図られなくとも、ボディブローのように相手の体力を消耗させることで、大局を制することを目的としている。因果か相関かはさておき。

当然、無抵抗で殴られる訳にもいかない柏は、山田(雄)が対応することでビルドアップ隊に対して同数で前進を阻止。

柏はここで浮くことになる和泉への対応がチームとして落とし込まれていない印象だ。何となく外を切りながら寄せる山田(雄)ではあったが、チーム全体として共有されている動きではないように感じた。あくまでも外への誘導が最優先であると。実際に一つ前の鳥栖戦でもサイドハーフが引っ張り出されたあとの対処は曖昧で、1失点目もそこから生じていた。

シーズン・レビューで指摘したプレッシングの再現性の低さとはここを指している。列間の連動がないということは、組織的な守備が仕込まれていないと解釈することもできる。仕込まれていないという表現は少し強いかもしれない。確かにチームとしての決め事はあるのだけど、その決め事は2トップのインテリジェンスに頼ったもので再現性は低いというか、初手は決まっているけどその初手に対応された時の対応まで詰めきれていないというか。

残留が最優先課題の中、シーズン途中の監督交代でディティールまで落とし込む余裕はない。そういった状況へのソリューションとしてメンバーを固定して戦ってきた訳であるけれど、弊害として対策を講じられやすい側面もある。

とはいえ、同数で噛み合う形でもあるので局面によって柏のプレッシングが嵌り、ボールの奪取に成功する場面もあった。

そこで再びプレッシングの基準点を逸らそうと試みる名古屋は、米本を最終ラインに降ろすことで柏の3枚に対して+1の数的優位の状況を用意。

また、森島が中盤に降りていくことで、柏のCHを牽制した動きも秀逸だった。柏は人への意識が強い。なので、降りていくCHに付いていった方が思考自体はシンプル。だが、その状況で近くに相手選手が移動してくることで判断を強いられる。付いていくべきなのか、それとも降りてきたシャドーの選手を見るべきなのか。

先述した大外が浮く問題も同様。こうした状況であればSBが縦にズレてアプローチに行くケースが多いけれど、最終ラインが同数であると判断も難しい。特に永井や和泉、ユンカーといったスピードに強みのある選手を放置して背後にスペースを空ける選択は心理的に難しいだろう。

このように、柏のプレッシングに応じてビルドアップを変化させることのできる名古屋がボールを保持してゲームは進んでいく。

そこから先のフェーズで効果的な崩しが出来ていたかはまた別の話。柏目線でいえば、ビルドアップに自由を与える分、後方では辻褄が合う形だ。自陣近くで守ることによるリスクは一定程度ありつつも、相手が前掛かりになってくれたほうがカウンターには出ていきやすい。

……まあ、柏はボール奪取後にポゼッションを選択することも多く、素早く背後を狙う動きはそれほど多いわけではなかったが。

柏のビルドアップを見ていく

柏保持は424のような形。対して名古屋撤退523で片方のサイドへ誘導。

片方に誘導されているということは反対サイドでは数的優位の状況が生まれていることでもある。何度かオープンな状態で左サイドのジエゴ、サヴィオへボールが渡った。小難しいことはせず、シンプルにこのチームの質的優位を使っていく。

一方で、こういった密集を作られるとポジティブ・トランジションで効果的な保持ヘの移行は難しい。ごちゃっとした”カオス”、つまりトランジション合戦の様相を呈して、そこを制したものが一気にゴールへ迫るような局面も見られた。

自陣ポゼッションではGK松本を積極的に組み込んでいくことが特徴で、名古屋との大きな違いでもあった。

その狙いの一つは、相手のプレッシングを誘発し、名古屋の背後にスペースを作ることにある。柏は敵陣でのプレッシングやトランジションが強みではあるが、そこでプレスを行うためにはボールと陣地を前進させる必要がある。とはいえ、先述のとおりポゼッションを落とし込む時間はなかった。

それならば相手の矢印を活用しようという発想だ。名古屋は柏陣地でボールロストした際、そのまま相手のボール保持者へプレスを掛けていく。その力を使い、最後方までボールを戻せば、必然的に名古屋は前傾姿勢になってくれる。

足元での前進よりも、背後への長いボールで前進を図りたいという狙いの下、松本をポゼッションに組み込んだと解釈できる。そこから出てくる長いボールの精度向上は、来季に期待したい部分ではあったけれど。

とは言っても、何でもかんでも蹴っ飛ばす訳にはいかない。地上でパスを繋ぐ必要もあるだろう。

そうした状況では、仙頭が左SBの位置に降りることでビルドアップを支援する形が多かった。もとより攻撃の選手であることからパスやドリブルでボールを前進させるプレー……つまり狭い場所や相手のプレッシングを受けても耐性を有している。

初期配置から異なるレーン、列へ移動することは相手の守備の基準点を逸らす効果がある。加えてジエゴをより高い位置に配することで、崩しの部分で枚数を多く確保することも出来る。

また、名古屋のプレッシング3枚に対して松本、犬飼、古賀、仙頭の4枚と+1を作れたことで、ズレへの対応を強制できた部分は大きい。名古屋のWBを引っ張り出して、その背後へ細谷やサヴィオが走り込ませたいという狙いはうかがえた。

ただ、効果的に地上で前進ができたかというとそうではなかった。要因としては、仙頭のボールを受ける位置にあったと個人的には考える。

列を降りる動きは、相手のプレッシングの基準点を逸らす効果がある一方で、後方に枚数を割く行為でもある。11人という有限なリソースをどこに配するかと考えたときに、その収支はビルドアップの次のフェーズで支払う必要があるのだ。つまり、ビルドアップでの数的優位を得るために、ミドルゾーンやアタッキングサードでは数的同数ないしは数的不利の状況が作られているということである。

また、ブロックの手前でボールを受けることになるため、相手の視野をリセットすることができない。ビルドアップを「時間とスペースの貯金を前線に届けること」と定義するなら、この段階で貯金を使い果たしているとも解釈できる。

個人的意は松本、犬飼、古賀の3枚で相手のプレッシングを越えることが出来れば、より仙頭の強みを活かすことができたのではないかと思う。