vs鹿島アントラーズ(2025明治安田J1リーグ 第5節)

嚙み合わせのズレによるメリットを享受するために

柏は保持【3-1-4-2】、鹿島は非保持【4-4-2】という噛み合わせ。柏は初期配置で位置的優位性を確保できる状況にあるものの、鹿島もこの状況はある程度織り込み済み。

嚙み合わせのズレに対する回答として鹿島が用意したのは、ボールの高さによって守備の方法を変えることだった。

敵陣高い位置では、人基準のハイプレッシングを選択。(0:42~、06:34~、09:38~)ゴールキックではGKの小島まで圧力を掛け、柏の地上ポゼッションという選択肢を消していく。ミドルサード~自陣では【4-4-2】のブロックを構えること(01:28~)で、トランジションの局面での優位性やミドル~ロングカウンターの再現性を確保するなど二段構えの格好だ。

柏は自陣でのポゼッションを早々に断念し、前線に長いボールを入れることでプレッシングの回避を選択をする(0:42~、06:34~、09:38~)。ただ、(01:26~)でポゼッションをやり直しているように、決してボールを握ることを放棄したわけではなく、あくまでも「1列目のプレッシングを越えて相手に【4-4-2】のブロックを構えさせる」「ハイプレッシングを諦めさせる」ための手段として、長いボールを多用したものと思われる。

人を基準としたハイプレッシングを受ける場合、ボール保持側としては、位置的優位性を得ることが難しい状況だ。スぺースを重視する守備者に対して二択を迫っていくことがいわゆるポジショナル・プレーだであり、人を基準にされると守備者のタスクが明確になるため、二択を強いることが難しくなる。

一方で、人基準でハイプレッシングを行うということは、自分たちの陣形が崩れてポジティブ・トランジションへの移行での配置が歪になることや最終ラインが数的同数の状況に晒されることと、最終ラインとGKの間に広大なスペースが空くことを意味する。

柏視点で言えば、自陣で相手のハイプレッシングを受けるよりもミドルゾーンに【4-4-2】を構えさせた状況でボールを保持した方が、嚙み合わせのズレという配置的な優位背の確保によってゲームコントロールをコントロールできる。

こうした状況を鑑みると柏が自陣保持で長いボールを選択した理由は、人基準のプレッシングを受ける状況を回避し、配置の優位性を確保できるエリアまで前進したかったこと……言い換えるなら、ハイプレッシングを断念させたかったところにあると思われる。

柏2トップvs鹿島2CBが握る主導権の行方

柏は鹿島のハイプレッシングを織り込んだ上で、垣田と木下の2トップで応戦。細谷ではなくこの組み合わせにしたのはもちろん、空中戦で優位性を得るためだ。浦和戦ではこの戦法が嵌ったことで疑似カウンターを発動させて得点を奪っており、成功体験も後押ししての選択だったものと思われる。

ただ、鹿島としてもハイプレッシングによる守備と柏のラインナップを見れば、長いボールを選択してくることは容易に想像できたはずだ。

柏の2トップが鹿島の2CBに勝てるかどうか?が主導権を握るポイントとなった(0:42~、06:34~、09:38~)。

立ち上がり数本の長いボールでは柏の2トップがボールを収めることに成功し、鹿島のプレッシングを引っ繰り返したところから一気に敵陣に進入もしくは再度のポゼッション選択によってゲームをコントロールしながら時計の針を進めていく。

運ぶことができないのであれば位置的優位は机上の空論

【4-4-2】で構えた鹿島に対して、システム上の嚙み合わせでは柏が優位な状況にあることは先述の通りだ。ただ、ボールを保持してからの前進が効果的であったかといわれるとそうではなかった。

【3-1-4-2】で【4-4-2】をロジカルに上回るためには、両サイドのCBによる持ち運びが求められる。

まずは、2トップに対して3CBという数的優位によるメリットを享受しながら相手の2トップを越えていく。2トップ脇からボールを運び、相手のSHを引っ張す。出てきたところから生まれた時間とスペースをWGもしくはIHへ届けていく作業こそがリカルド体制に求められるビルドアップだ。

実際に浦和戦はSHのサヴィオによるプレッシングで生じたズレを小泉と熊坂で攻略したことで効果的な前進に繋がった。

ただ、この日の鹿島は構えるフェーズではそこまで能動的な選択は少なかった。相手が出てこないのであればCBはボールを持ち運ばなければならない。無論、受け手に時間とスペースがあるのなら別だけれど。

しかし、そうではないのなら、ボールを運ぶことで相手を動かす必要があるが上手く実行ができなあかった。(15:17~、16:32~、19:15~)のビルドアップはまさにそのようなシーンだ。こうした状況から、20分くらいまではボールは握るものの、敵陣深くまで入っていくことができない展開が続く。

しかしながら、20分を過ぎてからのビルドアップでは、CBから持ち運ぶシーンが連続で見られる。現地ではベンチから「運びなさい」といった指示が出ているのを確認できた。(22 :10~)のシーンは田中隼人の持ち運びによって全体が押し上がった良い例だ。

熊坂のミドルシュートに繋がった(24:00~)の流れも、右の原田のポジショニングを調整し、鹿島のプレッシングの基準点を逸らしたことが寄与した。

敵陣でのプレー時間が伸びたことで喫した失点

少しずつ敵陣でのプレー時間が増えたことで今度は柏がハイプレッシングを行う展開に移行する。ボールを保持してゲームをコントロールしたい柏は、当然相手からボールを奪う必要が出てくるため、非保持では前線からの主体的なプレッシングを実行する。

立ち上がりに鹿島が柏に対して行っていた状況に近く、前からプレッシングを行うということは最終ラインが数的同数の状況であり、鈴木優磨やレオ・セアラというリーグトップクラスの質的優位を有する相手との対峙を強いられる。

相手からボールを奪う機会得られるメリットと引き換えに、最終ラインの数的同数というデメリット。双方の収支におけるバランスをどのように調整するのか。はたまたしないのかといった論点。

失点シーンである(24:58~)の鹿島の攻撃は、長いボールを収めた鈴木優磨が起点となったカウンターだ。柏は鈴木優磨にボールが入ることは予測していた中での失点であり、精神的なダメージもそれなりにあったと思われる。(27:40~)も似た構図から展開されている。

負の循環でゲームをコントロールされる

ハイプレッシングを仕掛けてもロングボールで脱出される展開は開幕以降では初めての経験であった。これまではCBと熊坂が相手を上回り自分たちの保持へとつなげてきたが、この日は鹿島の2トップの勝利と言えるだろう。

柏は撤退を強いられ、自陣でのプレー時間が増える。それはつまり、ボールを奪うエリアが低くなることを意味する。自陣でのポゼッションは、冒頭で触れた鹿島のハイプレッシングを受ける状況でもあり、次第にロングボールが増えていく。

蹴っ飛ばすこと自体はミドルゾーンでボールを保持するプランであることから間違った選択だとは思わないものの、次第に鹿島のCBに柏の2トップが上回ることができなくなる。自陣に閉じ込められる負の循環にもがきながら前半が終了する。

受け入れなくてはならないリスクをどのように解釈するか

優位性を得られると思っていた部分で相手の質に屈する構図は、柏のCBが跳ね返せずに撤退を強いられた先制点と似通う部分がある。攻守両面において、個の質で鹿島が上回った90分で、ストロング・ポイントで勝てる展開に持ち込んだ鬼木監督はさすがというほかない。

ただ、柏としてもプレーモデルを遂行する観点では前からのプレッシングは不可欠だ。前述の通り相手からボールを奪わない限り、自分たちがボールを保持することは不可能だからだ。

受け入れなくてはならないリスクであり、一定は飲み込む必要のある失点と敗戦だったと個人的には考える。すべての対戦相手に勝利することが不可能であることを考えると(当然、それを目指しはするけれど)、こういった負け方をそこまで悲観する必要はないのではないか?と。

ロングボールではなく、もう少しボールを繋ぐことでの打開を図って欲しかったという希望はありつつ。

Xでも何度かポストをしたがパーに勝てるグーと遭遇した局面であり、リカと歩む限りは上位チームとの戦いでは向き合い続けることとなる課題だ。戦略として正しい手は打ったものの、戦術レベルで上回られた、理想に殉じるなどと表現して良いかもしれない。

盤面上の戦略や論理は正しくとも、戦術レベルの局地戦で負けることは恐らく今後も経験することになるだろう。僕たちはそんなフットボールで勝とうとしている。