vsサガン鳥栖 (2022明治安田生命J1リーグ 第10節)

ルヴァン杯3節からの変更点

 このゲームを戦う上で現場でもスカウティング材料にしたであろうルヴァン杯・3節のレビュー。

hitsujiotoko09.hatenablog.com

柏の【5-4-1】継続に対し、鳥栖は【3-4-2-1】を選択

  • 柏は【5-4-1】を継続し、鳥栖は【4-3-1-2】から【3-4-2-1】へ変更。
  • 柏については、直近リーグ戦で連敗中。ルヴァン杯札幌戦でも結果こそ劇的であったものの、内容は今一歩。時間が空いたこともあり、システムにも変更を加えてくる可能性も考えられた。しかしながら、ターンオーバーの影響か離脱者が多数ということもあり、慣れ親しんだシステムの継続を選択。
  • 鳥栖については、そもそもルヴァン杯・3節がフルメンバーではなかったことから当然の変更。後述するが、柏の【5-4-1】に合わせてきたと考えられる。

開始10分間の駆け引き

 立ち上がりは柏が高強度のハイプレスで主導権を握り掛けたものの、時にロングボールを組み込みながら柏のハイプレスを回避、ボールを保持し、次第にゲームの主導権を握っていく鳥栖――というゲームの構図だった。

  • 柏の立ち上がりは決して悪いものではなかった。ロングボールでの陣地回復から敵陣でのプレッシング、そしてショートカウンターへ移行する流れは好調を維持していたリーグ序盤を想起させるものだった。川崎戦、京都戦と保持に固執するあまりに、悪循環に陥った流れを払拭した印象さえあった。
  • 鳥栖は立ち上がり当初、柏のプレッシングに対して、足下での保持・前進を目指す。細谷のサイドに誘導するプレッシングから狭いエリアに押し込まれる。柏の強度の高いプレッシングを受けてボールを繋ぐことがでぎず、カウンターの機会を与える場面が何度か見られた。
  • 柏は敵陣でのボール奪取からカウンターを繰り出し、PA内への侵入やセットプレーの獲得にまで至るシーンが何度が見られた。WBの三丸がファイナルサードで仕事をしている事からも、好循環でゲームに入ったことが分かる。
  • しかし、鳥栖も黙ってプレッシングを受け続けるような真似はしない。具体的には、ロングボールでの柏のプレッシング回避・無効化を図る。

  • ハイプレスを行う柏は、換言すれば「前傾姿勢」であるとも言える。最終ラインの背後に広大なスペースが生じている。
  • 鳥栖は「保持」をゲームモデルに組み込みながらも、状況に応じて背後のスペースを目掛けてロングボールを蹴ってくる柔軟さを有していた。
  • 鳥栖のロングボールによって、柏はハイプレスを無効化され、ジリジリとラインが後退。ボールの奪取位置が低くなる。
  • ボール奪取位置が低くなった柏は、自陣での保持を余儀なくされる。
  • ロングボールで陣地回復を図った鳥栖は、敵陣(柏陣地)でプレッシングを行うことができる。そのままボールを奪うことができればショートカウンターを繰り出すことができるし、例えボールを奪えなかったとしても、ビルドアップに詰まった柏がロングボールを蹴り出すことになれば鳥栖は自陣からもう一度攻撃を開始することができる。
  • 「自陣からの保持」での攻撃。それは、ポジショナル・プレーを行なう鳥栖にとって、一番得意なシチュエーションである。

修正を入れてきたっぽいハイプレス

サイドで奪ってからカウンター、ロングボールによる前進で陣地回復

  • ポジティブに捉えるならば、あれだけ「保持」のクオリティが高い鳥栖に、ロングボールを使わせた――とも表現できるだろう。
  • 京都戦の失点シーンで露呈したハイプレス時にどこまで付いていくのか問題は徹底した前ズレという解答を用意。特にCHがどこまで行くのかという点においては、「どこまでも」といった印象を受けた。WBもきっちり前にアプローチし、相手に時間を与えない。
  • ハイプレスとは、前傾姿勢になることで背後にスペースが生じるリスクを受け入れることでもある。さすれば【徹底した前ズレ】は、振る舞いとしては正しい。スペースではなく、人やボールを基準に意思決定が行われるべきだと考える。
  • 細谷のサイドに誘導するプレッシングから、サイドの狭いエリアに押し込ん窒息させ、そこからカウンターへ転じる――リーグ序盤、好調を維持していたころに見られたシーンが再現された立ち上がりだった。

自分たちの得意なシチュエーションに持ち込む手段の豊富さ

  • 時間の経過とともに、鳥栖は保持でも柏のプレッシングを回避していく。
  • ロングボールからの前進→トランジションの流れで、柏を自陣に押し込むことに成功した鳥栖は、ビルドアップ隊が時間を保有することになる。
  • 柏としても自陣低い位置からのプレッシングは現実的ではなく、一旦【5-4-1】をセットしたところから守備を始める必要があった。
  • 【5-4-1】は自陣にセットした際、シャドー(サヴィオ、鵜木)が相手のSBを見なければならないことから、細谷が孤立するというデメリットを内包する。一旦、押し込まれると陣地の回復が難しい。
  • プレッシングの上手な細谷と言えども、たった1枚で鳥栖のビルドアップを牽制することは難しい。ましてやゴールキーパーまでもをビルドアップに組み込み、保持を強みとする相手ならば、なおのことである。
  • また、時間の経過とともに柏のプレッシングに慣れていく鳥栖。細谷のプレッシングについて、サイドへの誘導が目的であることを察知すると、1トップで孤立しがちな細谷の周辺から、つまり中央からの前進を行うようになる。

 「保持」を強みとするチームが「保持」の局面に持ち込むための手段――そして「保持」からの振る舞い方、選択肢の豊富さについては、さすがと言うほかなかった。

 そもそも「ポジショナル・プレー=保持・ポゼッション」ではないから当然といえば当然だが、「保持」するためであれば、時としてロングボールでの前進も厭わない柔軟性からは、「なぜ自分達はボールを保持したいのか?」「なぜ自分達はボールを保持するのか?」という戦術そのものが示す考え方・思想がチーム全体に浸透している印象を受けた。

鳥栖の【3-4-2-1】プレッシングと柏の保持について

  • 鳥栖のプレッシングは、【3-4-2-1】でミラー気味。柏のビルドアップに同数で噛み合わせる形を採用。それに対して柏は「保持」という解答を用意。
  • 相手がボールを保持したいならば、自分達がボールを保持し、相手にボールを渡さなければいい。
  • ロジカルではあるものの、ゴールキーパーをビルドアップに組み込まない柏は、パスコースを見つけることができない。探している間にも、鳥栖はボールを奪いにきてしまう。サイドにボールを逃し続け、WBのところでボールが詰まる。時間と選択肢のない状態でボールを受けたWBは、無理なボールを蹴り出す以外になかった。
  • 思うところはあるが、ツイッターの方でぶちまけているので割愛。