vsヴィッセル神戸(2024明治安田J1リーグ 第2節)

先発メンバーは京都戦を継続。

京都戦については前回のアーカイブを確認して欲しいが、開幕戦ということとピッチコンディション、相手の戦術的特徴を踏まえてロングボールを選択。アクチュアルタイムは驚異の30分台と極限までリスクを抑えた展開となったため、現時点のチームの完成度を図るにはあまり参考にならないと感じた。

一方の神戸。開幕戦は磐田に快勝。サッカーには4局面存在すると言われて等しいが、さすがは昨季チャンピオンということもあり、いずれの局面においても複数の選択肢を有している印象だ。

最大の長所はやはり大迫。質的優位は正義である。多少ビルドアップに詰まっても前線に明確なターゲットが存在することで時間の確保と陣地回復を実現する。そこから敵陣でのプレッシング、ショートカウンターによるアタックは、まるで柏の上位互換だ。敵陣でのプレー時間を長くするということで主導権を握ろうという姿勢は、柏と非常によく似ている印象を受けた。

試合の雑感

個人的にこのゲームの柏は、京都戦と同じように長いボールを選択すると想定していた。

神戸の印象について「4局面で複数の選択肢を有する」と表現したが、それでも得手不得手は存在する。特にボール保持の部分だ。ボール保持が苦手な相手にボールを渡してしまおうというのはシンプルだが分かり易い。

神戸は大迫というスーパーな選手が存在するがゆえに、必ずしも地上での前進は必要としない側面があったものと思われる。オルンガという質的優位の存在がボール保持という課題解決から目を背けることとなった柏と状況としては似ているかもしれない。

予想外にボール保持を選択する柏

しかし、実際に試合が始まってみると意外にも柏は地上での前進を選択する。神戸のプレッシングに真っ向から挑む構図だ。

神戸は井手口を前に出し、大迫と2枚で柏のCB⇔CH間のパスコースを閉じながら外へ誘導していくプレッシング。一方SHの佐々木と汰木は外に構えることで内側に誘導していく。中央で圧縮して奪うことができれば、守備の形が整っていない柏のゴールに向かって最短距離での攻略を目指すことが出来る。

一方の柏はGK+CB2枚で相手のパスを回しながら神戸のプレッシングを誘い、前進経路を探していく。後方でボールを回すことで人を基準にプレッシングを行う神戸の配置を動かしたい狙いがあったと思われる。

まさに縦と矛。柏が神戸のプレッシングをいかに剥がすことができるか?という観点が主導権を争いのポイントであったように思う。

SHが内側に絞ることのメリット

柏の配置を見ていくとちばぎん杯や開幕戦と大きく異なる点があった。

それはSHがインサイドのレーンを立ち位置としたことだ。

この配置には、

  1. 中央のパスコースを確保する
  2. セカンドボールの回収確率を高める

このような狙いがあったものと思われる。

①中央のパスコースを確保するに関しては文字通りである。テンポよくパスが回り、中央から前進できた場面がいくつかあったが、俗にいう距離感が良い状態だったことが一因といえるだろう。小屋松がタイミングを見ながら+1を作る動きも秀逸だった。

パスコースを確保するというのは、言い換えればどこで数的優位を作るのか?という問いであり、それに対する回答がSHを内側に配置するだった、といえるだろう。

また、②セカンドボールの回収確率を高める狙いもあったように思う。地上での前進を目指すとは言っても、出しどころが見つからない・プレスを受けてロングボールで逃げざるを得ない局面は確実に存在する。

空中戦で勝つことが出来ればベストだが、細谷も小屋松も空中戦を戦えるタイプの選手ではないことから、セカンドボールの回収はゲームの主導権を握るうえでも重要なポイントである。

これまでの柏はSHが大外に開いたポジショニングを取ることが多かった。この場合、ロングボールのセカンドボール回収役はCHが中心となる。

しかしながら、ボールを保持しながらの前進を目指す場合、どうしてもCHの立ち位置は低くなる。するとFWとの距離感が遠くなり、柏の2トップは前線で孤立してしまう。

そこで、SHが内側へ絞りFW⇔CHの中間に位置を取ることで、列間の距離を一定に保ち、セカンドボールの回収を効率的に行う狙いがあったものと思われる。

また、噛み合わせ的にも【4-2-4】配置の神戸のCH脇を取る狙いがあったほか、中央に選手を配することで被ロング・カウンター対策として中央のルートを閉鎖する狙いもあったと思われる。

いずれにせよ、こういった選択ができる背景には相手を見ながらボールを動かすことのできる古賀・犬飼のCBコンビの配給力はもちろん、ジエゴ・関根のプレス耐性に救われた側面は非常に大きい。

キャンプからボールを繋ぐことに取り組んできた成果が少しずつでているのかもしれない。

外切りの外と小屋松の+1

後方でパスを回しながら中央への前進を模索しつつ、序盤は外を切る神戸SHの外から前進を図る機会が多かった。

横幅役として出口となるのは関根とジエゴ。神戸SHの外を切るコースが若干甘かったこともあるけれど、外から脱出する機会が多かった。ボールの循環的にジエゴ側からのルートが多かった気はするけど、それはサヴィオのサイドだからなのかもしれない。ここはもう少し継続的に観察していく。

SBはCBからボールを受けた際、スペースも時間もそこまで多く与えられた訳ではないにも関わらず、致命的なロストはなかった。むしろ冷静に中や縦にボールを繋げるなど、ビルドアップでのジエゴ・関根の貢献は大きく、チームのストロング・ポイントにもなり得ると感じた。

またフリーマン的な役割の小屋松も非常に効果的だった。中央でのパスコースを確保とはイコールで数的優位を確保するという意味でもあることは先述の通りだ。

一例としてビルドアップの出口としての振る舞いを記載しているが、サイドに流れる動きや細谷のサポートなど、常にボール保持者へ選択肢を与え続け、広範な動きでチームを支えた。

プレッシングと自陣でのボール回収

プレッシングが効果的に作用したことでボールを保持できた側面も大きい。

相手からボールを取り上げない限り、自分たちがボールを握ることは不可能なのだ。そういった意味で、どのようにボールを奪うのか?というのは大きなポイントであった。

このゲームに関しては上図の通り、右肩上がりの神戸に対して同数でのプレッシングを選択。敵陣で奪うことができればそのままショートカウンターを繰り出す。それが無理なら地上での前進を阻止し、ロングボールを蹴らせることで自陣でボールを回収する。

最終ライン全員に高さがあることから、どこをターゲットとされても互角に戦うことができるのは強みといえるだろう。プレッシング隊も安心して追い掛けることができるので、迷いをなくすことができる。

大迫も終始勝てる場所を探っているように見えたが、最後まで柏の最終ラインが耐えきった格好だ。

まとめ

このゲームだけでポゼッションが改善したと表現するの少し早い気はする。神戸は監督が不在であったことや主力選手の相次ぐ負傷によって通常のチーム状態でなかった点も大きいだろう。

このゲームで主導権を握ることができた一番の要因は、ポゼッションの改善ではなくスカウティングと表現する方が正しいと思っている。

良くも悪くも、この日の神戸は”いつも通り”。保持時の右肩上がりも、外を切りながらのプレッシングも含めて、チャンピオン・チームであるがゆえに自らの形を持っていると言えるだろう。

言い換えれば、プレッシングに対する脱出ルートの想定やビルドアップへの嵌め方も、スカウティング次第で事前に用意することができるし、それができなかったことが直近シーズンで低迷した大きな要因のひとつだと思う。サッカーは対戦相手次第で最適解が変化していく競技だが、自らの中に答えを見出してしまう状態である。

しかしながらこのゲームでは、強度の高いプレッシングを受けても淡々とボールを繋ぎ、プレッシングについても迷うことなく選手がプレーを判断・実行しているように感じた。

というかこのゲームに限らず開幕戦についても(選択する戦術は違うけれど)迷い自体がなかったという意味で、スカウティングをこれまで以上に重要視している印象を受ける。

あくまでも推測に過ぎないが、相手を見ながら戦うことができれば、もしかしたら飛躍の年になるかもしれないと可能性を感じるゲームであった。

次週の磐田はこれまでの2チームとは大きく異なる戦術を採用するチームであることから、スカウティングをどれほど行っているかという観点でゲームを観てみようと思う。

観戦メモ