vsジュビロ磐田(2024明治安田J1リーグ 第3節)

柏の先発メンバーは前節同様。良いものは変えない!という判断なのか、はたまた磐田とのマッチアップを考えたら継続でいくべし!という判断なのか。あるいはその両方か。

予習でも書いたように磐田陣地で過ごす時間を長くできるか?というのが一つの攻略ポイントであった。

その手段として昨季からの積み上げ部分であるプレッシングやカウンタープレスからのトランジションや今季から取り組んでいるポゼッションがある。

それを発揮できるかどうか?というのが見どころでもあり、チームの完成度を図る一つの試金石となるゲームであったように思う。

風を感じる立ち上がりの15分

しかし事前の予習など参考にならないのがサッカーである。この日のヤマハスタジアムは強風。それもめっちゃ強風。スタンドで観戦していたけれど、ここまで強風のゲームはちょっと記憶にないくらいだった。

間違いなくゲームプランにも影響を及ぼしており、序盤から両チームともに長めのボールが増える展開だった。

風の向きでいえば、前半は柏が風上に立つ展開。書きながら気が付いたが、柏のキックオフからスタートしたということは磐田がコートを選択したはずだが、本当にそれで良かったのか?とは思わなくもない。セオリーでいえば風上を取りたいはずである。

立ち上がり15分を過ぎるまではそれぞれ風を見極めたいという意識からセーフティな選択が多かった。とはいうものの、データを見ると15分までの時間帯ポゼッションは、磐田保持が約60%。

実際に柏はシンプルに蹴り飛ばすシーンが多かったが、ある程度は意図した展開だったというのは井原監督のコメントである。

--風が強い中、戦い方は微調整しましたか?

前半は少しわれわれが風上だったというのもありますし、ピッチの中でボールがなかなか走らない。水を撒いていましたけど、すぐ乾いてしまってボールが走らない状況もあって、ある程度シンプルにボールを入れていく時間帯が多かったと思っています。

【公式】磐田vs柏の試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2024年3月9日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)

「繋げるときは繋ぐ」、というのは変わらないけれど無理はせず風を使って長いボールを敵陣へ入れていく。蹴っ飛ばした先でカウンタープレスに移行し、そのままトランジションでゴールへ向うことが出来れば良し、仮に磐田にボールを持たれても敵陣であれば一旦OKといった様子だ。

この時の柏は、反対サイドのSBをターゲットにしているシーンが何度かあった。磐田が【4-4-2】のコンパクトなブロックを形成していることから、反対サイドにボールを飛ばすことでスライドを強いる狙いがあったと思われる。

また、両SBに高さがあることから空中戦が嫌ではないこともこの選択を取れる一因だろう。予め無理して繋ぐ訳ではないことを織り込んでいることから、高嶺やサヴィオがセカンドボールの回収役として事前に準備もできる。

ただ、それは柏側の論理。サッカーの攻略対象には対戦相手も含まれることを忘れてはいけない。

【4-4-2】の綺麗なブロックを敷く磐田による規律の取れたスライドもあって、柏の準備だけでは上回ることができなかった。長いボールを蹴るということは相手にボールを渡すという意味でもあるため、そのままセカンドボールを回収されて磐田の保持する時間でゲームは推移する。

柏も奪われた直後は昨年積み上げたカウンタープレスを実行してパスコースを潰しにはいく。前からプレッシングに行くということはボールを奪いに行くということでもあるが、それが出来なかったのは磐田のプレス回避が成功した側面が大きい。

磐田は自陣でのボール保持で細谷・小屋松の2トップに対してGKやSBを混ぜながら細かいパスでボールを循環させ、柏のプレスを回避していく。特に決まった型がある訳ではなさそうで、再現性のある形での前進を許したかと問われたらそうでもないのだけど。

ただ、引き寄せられて空いた背後のスペースをジャーメインや平川がビルドアップの出口となり、一気に後退を強いられセットプレーを与えた場面は気になる部分ではあった。15分までに二度ほど見られた現象である。

また、ジャーメインが前線のターゲット役として機能したことから、徐々にブロックラインが下がる……というか下げざるを得なかった側面は大きい。先述の通り敵陣でボールを保持される分には構わないという意図もあっただろう。

柏は奪い返すことができた場面はカウンターに転じるられるのだけど……といった展開で、中盤でのボールをめぐる争いに勝利したほうが主導権を握るような一進一退で膠着したまま試合は推移していく。

CHを降ろすことでボールを保持する柏

縦に急ぎ過ぎて怪しい雰囲気を醸し始めた柏は、少しずつ地上での前進を目指すようになる。ここで相手に付き合ってボンボンと長いボールを蹴り合っていたら、ゲームは違う展開になっていたと思う。

磐田のブロックラインがミドルゾーン~自陣寄りでの【4-4-2】だったこともあり、柏から蹴っ飛ばす選択をしなければそれなりボールは保持させてくれる。

あくまでも磐田としては引き込んでからのカウンターを実行したい。磐田に保持されていた0分~15分よりも、柏が保持していた15分~30分の間の方が、磐田のシュート数が多かったということをここで付け加えておこう。

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そこで柏は与えられたボールをどのように動かして磐田を攻略するのか?といった事前に予想した通りのフェーズに入っていく。

その解答として、CHを降ろすことで数的優位を得ようという選択をする。

磐田のブロックラインが低いこともあり、ゴールキーパーではなくCHが降りる。基本的には高嶺ではなく白井が降りていくシーンが多かった。

CHをSBの位置に降ろすことで得られるメリットはいくつかあるが、一つは先述の通り後方での数的優位を確保することである。磐田の2トップ脇から前進することで、SHを引っ張りだしたところからズレを作りながら(人を動かして)、ビルドアップの出口を探していく。

余談だが相手を動かしたスペースに顔を出すのは小屋松で、裏抜け担当は細谷と分担がはっきりしていたのは良かった。それぞれの強みを活かすことのできる役割が与えられていたように感じる。もっとも、役割が固定されているということは対策がしやすいという意味でもあるが、それはまた別の話なので、CHを降ろすことによるメリットに話を戻す。

もう一つはジエゴが高いポジションを取れることだ。白井が低いポジションを取ることで、ジエゴはビルドアップの”出し手”ではなく”受け手”としてのタスクを消化に専念させることができる。ジエゴはスピードやサイズといった質的優位を発揮できるほか、サヴィオと長く組んでいることからコンビネーションによる突破も期待できる。

18分と23分のビルドアップはまさにそのような後方で得られた数的優位を前線に運んだいい例といえるだろう。

地上で前進をするということはチーム全体で陣地を回復しているということでもある。そのため、例えボールを失ったとしてもそのままカウンタープレスへの移行がしやすいというのも副産物といえる。

意外と蹴って来ない磐田とプレッシングを修正する柏

セットプレーからの先制に成功する柏だが、それ以降は磐田の時間帯が続く。

磐田からすればビハインドによって強度を上げざるを得なかったこともあるだろうけれど、柏2トップによるプレッシングが孤立気味だったことも磐田に味方し、後方でのパス交換からボール保持の時間を少しずつ伸ばしいく中で前半が終了する。

コートチェンジよって後半から風上に立つ磐田は、開始から190cmのベイショットを投入。前半のジャーメインもターゲットとしては十分に機能しており、そこから更にもう一枚ターゲット役を配するというのは中々エグい一手であった。もっとも、後半のジャーメインはセカンドボールの回収役を務めることが多かったけれど。いずれにせよあのクオリティで二役をこなせてしまうのは中々ずるいなと思った。

予想外だったのは、磐田はベイショットとジャーメインの2トップへの変更後もそこまでロングボール一辺倒にならなかった点だ。それが柏のプレスを誘いたいが故の判断なのか、あくまでも地上での前進を果たしたかったのかまでは読み取ることができなかった。でも恐らく後者だと思う。

磐田が自陣でボール保持の時間を延ばす中、柏は徐々にプレッシングの精度を高めていく。大きな変化としてはSHだろう。前半のように【4-4】で構えたところからではなく、2トップのプレッシングに連動するようになり、相手のSBを積極的に捕まえにいく。60分のハイプレスからのショートカウンターはまさにその姿勢が明確に表れている。

強度の回復と空中戦に備える交代カードで逃げ切る

前からプレッシングを行うということは相手からボールを奪うことでもある。磐田のポゼッションに対してプレッシングを手当したということは、柏がボールを握る時間が増えることが予想される。

ビハインドの磐田はスコア的にも柏にボールを渡すはずもなく、激しいプレッシングを行うことは目に見えていた。ここで相手の圧力に屈し、エンドレス・サンドバッグ状態となるのが昨季のパターンだ。

そこで柏は65分を越えたところで山本と土屋を投入し、早めの対策を講じる。この采配が非常に効果的であった。

自分たちがボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があった。そのために、この時点で9km近くの走行距離を記録していた小屋松を下げ、フレッシュな山本を投入することでプレッシング強度の維持に成功する。その後も矢継ぎ早に、島村と木下を送り出すことも含めて非常に効果的な交代カードだったように感じる。

前線の選手を入れ替えることで強度を維持するということはロングボールが飛んでくる可能性があるということである。そこに対しては土屋という空中戦でCBをサポートできる選手を投入することで耐え忍び、クリーンシートでの勝利となった。

まとめ

非常によく似たチームの対戦であったこともあり、現在のチーム状況が鮮明に描かれることとなりそうだ、というのが戦前の個人的な予想だった。結果というよりも、内容で相手を上回ることができるかどうかの方が大事であった。

そういった意味では非常にクレバーなゲーム運びができたように感じる。再三にわたって主導権を握られかけたものの、自分たちの振る舞いを変化させることで主導権を握り返すことができた。

保持⇔非保持の両局面で複数の選択肢を持てるようになったことが、戦い方の幅を広げているように感じる。

また、交代カードを含めた采配も非常に効果的だった。1点という僅かなリードの中で強度維持のために前線を入れ替える判断は外から見るほど簡単に講じられる一手ではない。これまでであれば後ろを5枚にするなどといった対応が多かったと思われるが、前線の強度を維持するという構造部分に手を加える采配は今後に期待のできるものだった。

何よりも期待に応えた山本桜大のパフォーマンスが圧巻で、プレッシングの強度を維持するのみならず、ボールをキープすることで時間を作ってくれたのは後方の選手からしても非常に助かった部分だと思う。

唯一得点だけが足りなかったが、間違いなく今後も試合に絡んでくるだろう。