柏の先発メンバーは先週のちばぎん杯から熊坂→高嶺、木下→細谷へ変更。昨シーズン後半をベースに新加入でいえば白井とルーキーの関根が開幕スタメンを勝ち取った。
今季の柏は保持の時間を長くすることを目標に掲げ、キャンプを過ごしてきた。ただ、テスト的な要素が強かったとはいえ、ちばぎん杯での保持は非常に不安の残るものだった。
プレッシングを強みとしている京都にこの完成度で挑んだら凄惨な結果になりそうだと思ったし、実際に監督・選手からも保持一辺倒、ロングボール一辺倒ではなく使い分ける旨の発言が出ている。
こうした背景を踏まえると昨季のロングボール中心の戦い方を選択するのではないか?というのが個人的な予想であった。
理に適ったロングボールによる前進
京都対策としてのロングボール
実際にゲーム序盤から柏はロングボールでの前進を選択する。
昨季からの課題でありオフで改善に着手したポゼッションによる前進を選択しなかった理由は、開幕戦ということやピッチ・コンディションを考慮しセーフティに入りたかったことも一因ではあるが、それ以上に京都攻略という側面が大きい。
京都はハイプレスからのトランジションを強みとしている。そのため柏が自陣でボールを繋ごうとした場合、京都の強みが発揮されやすい状況といえる。
ネルシーニョ前監督が「ニュートラル」という言葉(相手の強みを消すような状況)を頻繁に使っていたことを思い出すが、このゲームでいえば敢えてボール保持を放棄し、ニュートラルな展開に持ち込むことがファーストプランだった。
ネルシーニョ前監督に長く師事していたこともあり、その影響を感じる采配だった。
試合後の井原監督のコメントを引用しておく。
京都さんは我々のゲームをさせてくれない、前からのプレッシングが非常に強いチームなので、しっかり対策を練ってゲームには入ったし、選手も90分間通してしっかりとゲームはしてくれたと思う。
前半はお互いがかなり長いボールを使った展開にはなったが、後半は我々の狙いがしっかり出せたゲームになったと思う。
ちばぎん杯で見られた保持のクオリティはまだまだ発展途上であったし、そういった事情も鑑みると井原監督の采配は理に適っていたように感じる。
相手の強みに対抗できるほどのクオリティにないのであれば潔く諦めるという選択は、とても手堅い一手であった。
自分たちの強みを出すためのロングボール
ロングボールでの前進を選択することは、先述のとおりプレッシングを掛けてくる京都を引っ繰り返すような形(井原監督は”裏返す”と表現していたが)で、京都の強みを消すことと同時に、昨季終盤に掴んだ柏の強みを発揮することにもつながった。
ここでいう柏の強みとは、敵陣でのプレッシングとネガティブ・トランジションによるショートカウンターを打ち出せる状況だ。昨季は急場を凌ぐために仕方なく打ち出した手段ではあったものの、攻守両面でチームに秩序を与え、結果的に強みへと昇華していった。
特に天皇杯・決勝はその最たるもので、結果的には惜しくも敗戦となったが、川崎を相手に120分間あのゲームをできたことは間違いなくチームの中に成功体験として蓄積されているはずだ。
言い換えれば、今の柏には困ったときに「戻る場所」が存在するという意味でもある。
山田康太も椎橋もいないけれど、それでも大半の主力選手については流出を阻止できたことから、「戻る場所」が存在するということは選択肢を有しているということだ。
常に新しいことにトライしていく姿勢は大切でそれをアップデートと呼ぶと思うけれど、とはいえそれは戻るべき場所が存在するからこそ選択できる側面も大きい。
少なくともこのゲームでは最適解
ロングボールによる前進は陣地を回復し、敵陣にボールを運ぶことができるので、自分たちの守るゴールから遠い場所で守備を開始できる。さらには相手の強みであるプレッシングを回避し、発展途上で失点のリスクが高いポゼッションによるビルドアップを省略することができたという点でまさに一石二鳥の采配だった。
サッカーという競技の攻略対象には対戦相手が含まれる。
そういった意味で京都戦に関しては、選択できる選択肢の中では最も勝利に近い戦術を採用できたのではないかと個人的には考えている。
個人的には昨日の采配は実に真っ当で、非常に優れた選択だと感じた。
ロングボールの勝率を高めるためのポゼッション
試合展開に目を向けると、京都も同じようにロングボールを選択している。
柏同様、敵陣でのプレッシングを強みとしていることから、柏陣地にボールと選手を送りこむことで自らの強みを発揮したいという狙いがあったと思われる。
その結果、お互いにロングボールを蹴り合う展開となり、膠着状態が続く形で前半が終了する。
ロングボールは自分たちの守るゴールからボールを遠ざけるという観点で言えば、リスクを減らす戦い方でもあることから、ゴール前のシーンはそれほど多くはなかった。実際にゴール期待値は両チームともに低位で推移しており、均衡状態にあったと言えるだろう。
【更新情報】
— SPORTERIA (@SPORTERIA_JP) 2024年2月25日
J1 第1節 #柏 1 - 1 #京都
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安全を優先した前半のロングボール
特に前半はとにかくセーフティを最優先とした。上図はゴールキックからのビルドアップを描いたものである。
2CBをGK脇へ降ろすことには降ろすけど、繋ぐ気配はなかった。繋ぐためにそこにいるというよりは、京都のSHを引っ張り出すことが目的だったように思う。
SHを引っ張り出すことで、柏の両SB(ジエゴ、関根)は京都のSBと数的同数で空中戦を戦うことができる状況といえるからだ。サイズのあるSBを起用していることから、中央へ蹴るよりも勝率は高い。柏の前線4枚はそれほど高さがないため、中央に蹴っても空中戦はじり貧に終わっただろう。
そういった観点も含め、非常にロジカルな選択であったと思う。安全な場所にボールを逃がすことができるため失点のリスクも抑えられるという副産物もついてくる。
右に蹴ることは少なく基本は左サイドを選択した。これはサヴィオというこのチームの質的優位を活用する狙いがあったと考えれる。
均衡を崩す柏の勇気
リスクを極限まで抑えた前半から一転して、柏は後半から少しずつリスクを取り、得点を奪いに行く。
そのための手段としてオフで取り組んだポゼッションが登場する。
古賀が試合後にコメントを残しているが、意図的にチームが起こしたアクションだった。実際に後半30分前後まで柏の保持率が大きく上回る展開で推移している。
(有料部分なので引用は避ける)
とは言っても地上での前進が成功したかといえばそうでもなかった。基本的にはロングボールを中心とした前進だ。
ただ、同じロングボールを蹴るというプレーでも昨季と大きく異なる点がある。それは、明確な狙いがあってそれを実行している点だ。
CBやCHが闇雲にボールを保持し、詰まって逃げのボールを蹴らざを得なかったのではなく、人を捕まえにくる京都のプレッシングを活用して誘き寄せるという狙いが存在した。
京都のCHを引っ張り出したことで、京都は最終ラインでリスクを背負うこととなった。実際、下図のように、柏は勇気をもってCBとCHがボールを繋ぐ意思を見せたことで、前方での数的優位の確保にとどまらず、セカンドボールの回収でも主導権を握ることに成功した。
ポゼッションはポゼッションでも、地上での前進が絶対ではない。相手の背後にスペースがあるのなら優先順位はそこである。あのマンチェスター・シティであっても、決して保持に固執することはなく、案外シンプルに蹴って背後を狙う機会は多い。
疑似カウンターという言葉が存在するくらいだ。
蹴るために繋ぐ必要があること、そしてそれを実行して主導権を握った経験は非常に価値のあるものだと感じた。
まとめ
こうして、相手を見ながら前進手段を選択できるようになったことは非常に大きな進歩といえる。自分たちの中に正解を求めていたのが昨季であるならば、少しずつそこに対戦相手という要素が加わってきた印象だ。
もちろん、地上でクリーンに相手のプレッシングを剥がせることは理想であり、いつかはそれが出来るようにならなくては再び壁にぶつかるだろう。
ただ、そういったサッカーを経験していない監督・スタッフ編成で戦うことを決めた以上、時間を要することは仕方のないことであり、クラブも受けて入れての判断だと思われる。
いずれにせよ、ピッチで表現されるサッカーが全てである。毎週少しずつでも良いから、成長していく様子が見られることを切に願う。
もっとも、緩やかな成長スピードにJ1が待ってくれるのかはまた別の話である。