vs名古屋グランパス(2023明治安田生命J1リーグ 第34節)

ボール保持に課題を抱える両チームの対決。と言いつつ、今季の名古屋をそこまで多く見ている訳ではないので、実際にそうなのかは分からない。先入観である。

握ることができないのなら押し付けてしまえばいいじゃない、と思うものの意外とそこまで割り切るチームは少ない。確かに保持でも非保持でも複数の選択肢を持つことは大切だ。それはチョキしか出せないじゃんけんを戦うに等しいのだから。

噛み合わせを見ていく

余談はさておき噛み合わせから。

名古屋の保持は343でスタート。フォーメーション図通りの配置。非保持の柏も同様に442。Google先生はさすがである。

3枚でビルドアップを行う名古屋に対して、柏は2トップでアプローチするため数的不利の状況である。一方、最終ラインでは名古屋のアタッカー3枚に対して4枚。同じ人数で戦うサッカーというゲームの特性上、必ずどこかで辻褄は合うものだ。そういった辻褄をぶっ壊すために存在するのがGKのビルドアップ参加であったりするけれど、先週の鳥栖同様でそれなりにリスクは生じる。話が逸れるのでそれはまたの機会に。

枚数が噛み合うということは、1vs1の局面を剥がすことさえできれば均衡を崩せる可能性が高いということでもある。名古屋のように質的な優位性を保持したチーム、身も蓋もないことを言えば予算のあるチームは、案外こういったシンプルな構図に持ち込んで物量で押し込んでまうことも、サッカーの攻略という意味では一つの解なのかもしれない。

もちろんこれは静的な配置であり、半ば机上の空論。

とはいえ、初期配置で生じるズレは案外馬鹿にならない。名古屋はこの嚙み合わせのズレを活用して、柏の生命線でもあるプレッシングを攻略していく。

名古屋のビルドアップを見ていく

名古屋のビルドアップは3枚で柏の2トップ脇から前進。後ろの3枚でボールを動かしながら柏の2トップを揺さぶる。右から左というボールの循環が多いように感じた。

局面という”具体”に視点をあてるならプレス回避が目的。ただ、ゲーム全体へ”抽象”度を上げるなら、プレッシングが得意な柏2トップの体力を削ることでゲームを優位に進める目的もあったと思う。例え局面での前進が図られなくとも、ボディブローのように相手の体力を消耗させることで、大局を制することを目的としている。因果か相関かはさておき。

当然、無抵抗で殴られる訳にもいかない柏は、山田(雄)が対応することでビルドアップ隊に対して同数で前進を阻止。

柏はここで浮くことになる和泉への対応がチームとして落とし込まれていない印象だ。何となく外を切りながら寄せる山田(雄)ではあったが、チーム全体として共有されている動きではないように感じた。あくまでも外への誘導が最優先であると。実際に一つ前の鳥栖戦でもサイドハーフが引っ張り出されたあとの対処は曖昧で、1失点目もそこから生じていた。

シーズン・レビューで指摘したプレッシングの再現性の低さとはここを指している。列間の連動がないということは、組織的な守備が仕込まれていないと解釈することもできる。仕込まれていないという表現は少し強いかもしれない。確かにチームとしての決め事はあるのだけど、その決め事は2トップのインテリジェンスに頼ったもので再現性は低いというか、初手は決まっているけどその初手に対応された時の対応まで詰めきれていないというか。

残留が最優先課題の中、シーズン途中の監督交代でディティールまで落とし込む余裕はない。そういった状況へのソリューションとしてメンバーを固定して戦ってきた訳であるけれど、弊害として対策を講じられやすい側面もある。

とはいえ、同数で噛み合う形でもあるので局面によって柏のプレッシングが嵌り、ボールの奪取に成功する場面もあった。

そこで再びプレッシングの基準点を逸らそうと試みる名古屋は、米本を最終ラインに降ろすことで柏の3枚に対して+1の数的優位の状況を用意。

また、森島が中盤に降りていくことで、柏のCHを牽制した動きも秀逸だった。柏は人への意識が強い。なので、降りていくCHに付いていった方が思考自体はシンプル。だが、その状況で近くに相手選手が移動してくることで判断を強いられる。付いていくべきなのか、それとも降りてきたシャドーの選手を見るべきなのか。

先述した大外が浮く問題も同様。こうした状況であればSBが縦にズレてアプローチに行くケースが多いけれど、最終ラインが同数であると判断も難しい。特に永井や和泉、ユンカーといったスピードに強みのある選手を放置して背後にスペースを空ける選択は心理的に難しいだろう。

このように、柏のプレッシングに応じてビルドアップを変化させることのできる名古屋がボールを保持してゲームは進んでいく。

そこから先のフェーズで効果的な崩しが出来ていたかはまた別の話。柏目線でいえば、ビルドアップに自由を与える分、後方では辻褄が合う形だ。自陣近くで守ることによるリスクは一定程度ありつつも、相手が前掛かりになってくれたほうがカウンターには出ていきやすい。

……まあ、柏はボール奪取後にポゼッションを選択することも多く、素早く背後を狙う動きはそれほど多いわけではなかったが。

柏のビルドアップを見ていく

柏保持は424のような形。対して名古屋撤退523で片方のサイドへ誘導。

片方に誘導されているということは反対サイドでは数的優位の状況が生まれていることでもある。何度かオープンな状態で左サイドのジエゴ、サヴィオへボールが渡った。小難しいことはせず、シンプルにこのチームの質的優位を使っていく。

一方で、こういった密集を作られるとポジティブ・トランジションで効果的な保持ヘの移行は難しい。ごちゃっとした”カオス”、つまりトランジション合戦の様相を呈して、そこを制したものが一気にゴールへ迫るような局面も見られた。

自陣ポゼッションではGK松本を積極的に組み込んでいくことが特徴で、名古屋との大きな違いでもあった。

その狙いの一つは、相手のプレッシングを誘発し、名古屋の背後にスペースを作ることにある。柏は敵陣でのプレッシングやトランジションが強みではあるが、そこでプレスを行うためにはボールと陣地を前進させる必要がある。とはいえ、先述のとおりポゼッションを落とし込む時間はなかった。

それならば相手の矢印を活用しようという発想だ。名古屋は柏陣地でボールロストした際、そのまま相手のボール保持者へプレスを掛けていく。その力を使い、最後方までボールを戻せば、必然的に名古屋は前傾姿勢になってくれる。

足元での前進よりも、背後への長いボールで前進を図りたいという狙いの下、松本をポゼッションに組み込んだと解釈できる。そこから出てくる長いボールの精度向上は、来季に期待したい部分ではあったけれど。

とは言っても、何でもかんでも蹴っ飛ばす訳にはいかない。地上でパスを繋ぐ必要もあるだろう。

そうした状況では、仙頭が左SBの位置に降りることでビルドアップを支援する形が多かった。もとより攻撃の選手であることからパスやドリブルでボールを前進させるプレー……つまり狭い場所や相手のプレッシングを受けても耐性を有している。

初期配置から異なるレーン、列へ移動することは相手の守備の基準点を逸らす効果がある。加えてジエゴをより高い位置に配することで、崩しの部分で枚数を多く確保することも出来る。

また、名古屋のプレッシング3枚に対して松本、犬飼、古賀、仙頭の4枚と+1を作れたことで、ズレへの対応を強制できた部分は大きい。名古屋のWBを引っ張り出して、その背後へ細谷やサヴィオが走り込ませたいという狙いはうかがえた。

ただ、効果的に地上で前進ができたかというとそうではなかった。要因としては、仙頭のボールを受ける位置にあったと個人的には考える。

列を降りる動きは、相手のプレッシングの基準点を逸らす効果がある一方で、後方に枚数を割く行為でもある。11人という有限なリソースをどこに配するかと考えたときに、その収支はビルドアップの次のフェーズで支払う必要があるのだ。つまり、ビルドアップでの数的優位を得るために、ミドルゾーンやアタッキングサードでは数的同数ないしは数的不利の状況が作られているということである。

また、ブロックの手前でボールを受けることになるため、相手の視野をリセットすることができない。ビルドアップを「時間とスペースの貯金を前線に届けること」と定義するなら、この段階で貯金を使い果たしているとも解釈できる。

個人的意は松本、犬飼、古賀の3枚で相手のプレッシングを越えることが出来れば、より仙頭の強みを活かすことができたのではないかと思う。