【柏レイソル】2024シーズン・プレビュー

2024シーズン・編成全体像

本文では、『量』と『質』という二つの観点から、編成を分析していきます。まず『量』のセクションでは、チームの人数とその配置に焦点を当て、続いて『質』のセクションでは、選手の能力や戦略について考察します。

「量」から見た編成

総勢33人編成

まずは量的な観点から確認していきます。

土屋や片山、戸嶋といった複数のポジションを担当できる選手の存在によって不足するポジションはない印象です。

ただ総勢33人というのは、一般的な適正人数よりは多いかもしれません。ルヴァン杯のレギュレーションやACLの不参加を考慮すると、チームの編成はやや大きいと感じます。人数が多いということは、選択肢が増えるという側面がある一方で、試合に絡むことのできない選手が多くなるということでもあるので、一長一短あります。

採用するシステムみたいなものを予想するとしたら、DFラインを基準に考えると3バックも4バックも可能であるように見えますが、その場合はCBならびに右サイドのWBが不足する印象です。

そのため、恐らく前季の【4-4-2】ないしは4バックを継続するのではないかというのが個人的な予想です。

もちろん対戦相手に応じて3枚という選択肢を有することがベストですが、現時点でそこまで期待するのは酷な気はします。

「質」から見た編成と補強戦略

ネガティブな声から考えるデータを活用した補強戦略

Xのタイムラインを眺めていると今季の編成に対してはややネガティブな声が多い印象です。J1経験が比較的乏しいと言いましょうか。

山田康太や椎橋、仙頭といった主力の放出に対してJ1下位~J2クラブからの補強が中心となるなど、他カテゴリーからの補強が続いたことがネガティブな声の正体ではないかと思います。

まずは、なぜそのような補強になったのか?といった点について考えていきたいと思います。

柏レイソルは数年前より、データを活用した補強戦略を採用しています。

データという観点でいう”優れた選手”とは、必然的に出場時間の長い選手となる傾向にあります。切り取り方次第ではあるものの、データの活用にはある程度の量が必要です。サンプル数は多い方が信頼できる、と言い換えることもできるでしょう。

こうした補強戦略もあって、「J1で出場機会の少ない選手<J2で主力級」という選択肢となったのではないでしょうか。

この考え方自体は至極真っ当だと個人的には思います。

実際に「主力の放出」といって嘆かれている山田康太はJ2の山形からの獲得です。戦略としては間違っておらず、見方次第では一貫しているとも言えるのではないでしょうか。

「ボールを保持する」という課題に対して

後述しますが、柏レイソルがこれから取り組むべき課題とは、「ボールを保持する」です。そういった課題に対するソリューションとしての一つが補強であり、その目玉となるのがCBの野田、CHの白井だと個人的には考えています。

「ボールを保持すると言っても、後ろでパスを回すのではなくて」と布部GMが言及されたように、ロングボールだけではなく地上での前進を如何に成功させるか?といった点がポイントになるかと思います。

実際にデータの観点では、野田と白井はパス数を含めたビルドアップに関わる指数でJ2トップクラスの数値を叩き出してきます。プレー集を見ても同じ印象を受けるのではないでしょうか。

www.football-lab.jp

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カウンターによる細谷とサヴィオの質的優位性を活かすことしかなかった少ない得点パターンからの脱却のためには避けて通ることのできない部分だと思います。

なぜこの編成か?不安要素と期待できる要素

J1経験の乏しい編成以上に不安な要素

個人的には、J1経験の乏しい編成以上の不安要素は監督ならびにスタッフ陣だと考えます。

昨年ピッチで表現されたものは結果・内容ともに非常に厳しいものでした。詳細はレビューをご覧ください

hitsujiotoko09.hatenablog.com

こうした背景を踏まえた上で、今季のスタッフ体制を見ていきます。

ヘッドコーチに昇格した栗澤さんについては、S級の受講で不在が増えるのではないかとの懸念があります。そのほか、大谷コーチ、染谷コーチについても長い指導歴がある訳ではありません。名選手が必ずしも名指導者になり得ないことは過去を見れば明らかでしょう。

井原監督についても理論派というよりは、モチベーター・タイプです。積極的にコーチ陣の意見を聞くスタイルですが、それならば尚のこと理論派タイプの人材は必須だったように思います。

栗澤、大谷、染谷の3コーチについては、恐らくクラブとしても今後を任せたいといった長期的な狙いもあるのでしょう。現場で経験を積ませたいという考え方に対する理解はもろんありますし、遠くない未来にそんな瞬間が訪れるのだろうという予感めいたものもあります。

とはいえ、ただ現場で経験を積めばいいという訳ではないと思います。他クラブを見てもアナリストなどスタッフへの投資や人員増強を積極的に行っている中で、どうしても内輪の人事でこねくり回した印象は拭えません。

続投だからこそポジティブな部分

一方で、昨年のサッカーがベースであるのなら、既に明確な課題が存在するという見方もできるかと思います。それは非常にポジティブなことだと考えられます。

なぜなら、それを解決すれば結果が出るのではないか?という仮説を立てられるからです。

前任監督主導の編成で戦わざるを得なかった昨季は、言わば与えられた手札での戦いを強いられたといっても過言ではありません。その中で最低限の結果を出すために打ち出した施策の中で浮き上がった課題は、新たな体制を構築し、そこから課題を導き出すよりも近道かもしれません。

PDCAを回転させる時間を短縮することができるからです。

それ故に不足するポジションや人材が明確であったことは、ストーブリーグを戦う上では非常に有利に働いたのではないでしょうか。他カテゴリーからの補強が多かったとはいえ、個人的にそこまで悲観的ではない要因はそこにあります。

他カテゴリーでの実績がどれほどJ1で通用するのかは非常に未知数で、それは2人の大学組にも同じことが言えるでしょう。

ただ、だからこそ、可能性も感じます。

補強にデータを活用し始めて以降の補強については、非常にポジティブな印象を受けているので、恐らくそれなりのパフォーマンスを見せてくれるのではないかと考えています。

結局のところ、今季はどのようなサッカーをするのか?

布部GMの語る柏レイソルが目指すサッカー

どんなサッカーを目指すのか?という点については、新体制発表会で布部GMが言及しています。


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ゲームの終盤まで強度を維持したサッカーです。

言い換えれるなら、敵陣でのプレー時間を長くすることです。敵陣制圧と広報日記にもありました。つまりは、天皇杯の決勝があるべき姿と言ってもいいでしょう。

そして、そのサッカーを成し遂げるための手段として、「自分たちがボールを保持(リーグ17位のポゼッション率を向上)する時間を長くする」と布部GMは言っており、そのための補強を実施しました。

昨季ピッチ上でそれら(特にポゼッション)を表現できなかった要因として、シーズン途中の体制変更で時間がなかったことから、今表現出来ている良さを消さないために、敢えて課題を放置したのだというのが監督やスタッフはコメントしています。

戦いを略すると書いて”戦略”と読みます。井原監督は現場の責任者として、取り組まないことを決断したということです。『イシューから始めよ』でいうところの、やらないことを見極めるというやつです。

実際にその戦略は結果に寄与しました。

残留(”結果”と表現していいのかはさておき)に加えて、天皇杯では決勝に進出していいます。

内容や質の探求を一定程度諦めることで、最低限の結果を確保することを優先しました。ある意味で戦略的なチーム運営だったと言えるでしょう。

総括

手放せば始まる。”敢えて手を付けなかった”という言葉を信じて

これから改善に取り組まなければならない課題は、やはりボール保持の時間を長くすることだと思います。数年前から繰り返し言っていることではありますが。

ただ今季についてはここ数年の開幕前とは違う点があります。

それは、ボールを保持する行為が昨季からの方向転換に値するのはではなく、昨年のサッカーを積み上げた続きにあるという点です。

強度の高いプレッシングとネガティブ・トランジションの整備で、ボールを奪うことはできるようになったことで守備の改善は図られました。

そこからゲームをコントロールする術が昨季のチームには不足していました。先述のように敢えて手を付けなかったからです。

細谷やサヴィオの個の力(質的優位性)を活かした”縦に早く”というサッカーは、短期的な結果を求める上では理に適った戦い方でした。

なぜなら、素早くチームの質的優位性へボールを預けること、敵陣へボールを運ぶことは高い位置でのプレー時間が長くなるからです。自分たちの守るゴールから遠い場所でプレーする時間が長くなれば失点のリスクを低減することが可能です。同時に、ビルドアップという構築に時間の要する作業に着手しなくても済むと言うメリットもありました。

一方で、ゲームのテンポが速くなる分だけ体力の消耗は激しく、90分間強度を維持することは困難を極めました。副作用と表現してもいいかもしれません。

ペップはかつて、「早くボールを送れば、その分、早く戻ってくる」と言いました。縦に急げば急ぐほど、守備の時間は長くなるのです。終盤の失点が多かった要因はそこにあります。

敢えて課題に取り組まなかった……それは言い換えれば、取り組む時間とリソースさえあれば解決できる見込みがあるという自信の裏返しでもあると僕は解釈しました。

番外編~お金の話~

柏レイソルはお金がない」問題について

最後に、今オフに度々話題に挙がった「柏レイソルはお金がない」問題について個人的な見解を述べていきます。

データを活用したした補強戦略として、J2からの獲得についての合理性を説きましたが、もちろんJ1の主力級を獲得できれば一番いいのだと思います。

しかし、それが出来ないのはなぜか。

柏が目下のところ悪化した財務状況の改善を図っている最中だからです。

そして、それはリーグ規定によって当会計年度中に債務超過を解消する必要があるという外的要因によるもので、柏の経営状態が悪いということでは決してありません

債務超過を解消する方法は貸借対照表の「スリム化」

債務超過の解消方法は主に2つです。

1つは出資を受けること。そしてもう1つは損益計算書上で債務超過額を上回る利益(258百万円)を捻出することです。

親会社の資本関係や財務戦略を考慮すると1つ目はなかなかハードルが高いと思われるため、柏レイソルは2つめの利益を捻出することで債務超過の解消を図る必要があります。

利益の捻出方法は、収益(売上)を増加させるか、費用(支出)を減少させるかのどちらかです。

そこで、瀧川前社長から「経営のスリム化」という発言がありました。この言葉が少し一人歩きした印象があります。

実際に費用の動きを見ているとそこまで大きな変化がないことが分かります。つまり、お金の使い方は変わっていないのです。どころか、チーム人件費は増加基調にあります。

以下は直近のトップチーム人件費推移です(単位:百万円)。

2020/3 2,940
2021/3 2,879
2022/3 3,105
2023/3 3,188

つまり、キャッシュが不足している訳ではないということです。

それではどのようにスリム化を図っているのかというと後者、移籍金収入の増加による収益アップです。

その結果として貸借対照表を小さくなっており、それが「スリム化」の意味するところです。

以下は総資産の推移ですが、順調にスリム化が図られていることが分かります。

2020/3 2,828
2021/3 2,667
2022/3 2,168
2023/3 2,138

その他収入から、毎期一定程度の移籍金収入を計上していることを読み取ることができます。

2020/3 238
2021/3 1,177
2022/3 260
2023/3 721

よく読めば、スリム化とは言っても、コストカットとは言っていないのです。キャッシュフローは順調……つまり、お金はあるものの、リーグ規定により利益捻出する必要があるから選手を売却しているというのが真理ではないでしょうか。

強いて言うなら、特に固定資産の部分が大きく減少していることから、単年契約であったり、契約が切れるタイミングの選手を獲得しているのではないか?というのが個人的な予想です。移籍金が掛からなければ、償却の必要性はなくなるので、スリム化にも寄与します。

補強に動こうと思えばできるものの、3月の決算を越えて着地が確定するでは様子を見ようといった判断もあるでしょう。

2020年の大型補強の反動も一区切り

これで、2020年の大型補強によって大きく悪化した財務基盤の修復にようやく一区切りといったところでしょうか。

今後、クラブがどのような戦略を描いているのかは分かりませんが、夏もしくは次のオフには一定程度の補強を行うのではないか?というのが個人的には考えております。

勘違いされたくないのは、お金はあるということです。ここでいうお金とはキャッシュを指します。ただ、リーグの規定によって使うことができないというだけの話しです。

柏レイソルはお金がない」といった言説は事実誤認によるクラブのレピュテーションを著しく傷つけるものです。

財務三表は一体であり、PLだけを見てものを語るのは愛するクラブを知らずのうちに貶める行為であることを自覚した方がいいのではないかと思います。