迫られるパラダイムシフト
年間30点近くを叩き出すFWの移籍は、否が応でも戦術の変革を迫られます。パラダイムシフトです。
柏レイソルは、これまで最大の武器であった【撤退〜ロング・カウンター】を捨て、【前プレ〜ショート・カウンター】という戦い方を選択することになりました。選択せざるを得なかったともいえますが。
今回は、「なぜそのようなパラダイムシフトが起こったのか?」と「ぶっちゃけ開幕戦どうだったよ?」といったところに触れつつ書いていきたいと思います。
これまでの課題って何だっけ?
オルンガの快足を最大限に活かすべく、【撤退〜ロング・カウンター】を選択した結果、2020年序盤は爆発的な得点力を発揮しました。
しかし一方で、対策が取られ始めた晩夏以降、ボール保持できない・前進(ビルドアップ)できないという課題と向き合うことになります。つまり、「カウンターはエグいけど、保持はザル」というピーキーなチームになってしまいました。
DF陣が保持よりも強度を優先した編成だったことや続出する負傷者、ボール保持を仕込むにしても過密日程でそこまで手が回らないなど、要因はたくさんありましたが、結局最後まで課題解決には至りませんでした。
「カウンターはエグいけど保持はザル」という特徴から、それなら「柏にボールを持たせてしまえ」という対策を実践する相手チームが増加しました。
撤退され(オルンガの走るスペースを消され)、ボールを持たされた挙句、苦し紛れのビルドアップがミスを誘発し、逆にカウンターを喫する展開を繰り返しました。
得点パターンの少なさによって、上位進出を逃すことになりました。
それで、どうして前プレに?
端的に以下の2点だと考えます。
- ボールの奪取位置を低くする(撤退する)必要がなくなった
→オルンガ移籍でロング・カウンターの威力低下 - 高い位置で奪うことができれば、苦手なボール保持・ビルドアップという手段を省略できるから
→ビルドアップ問題は未解決
オルンガが不在となったことで、ロング・カウンターのために撤退を選択する必要がなくなりました。つまり、前からプレッシングを行うという選択が可能になりました。
「前からのプレッシング=高い位置で奪うこと」です。
30点取ったFWの代わりを獲得することは容易ではありません。
それならば、高い位置、敵陣でのプレー時間を増やすことで補おうという解答です。
ボールを奪取する位置を高くすることができれば、自陣での保持・ビルドアップの局面を省略することが可能です。
また、補強でビルドアップ問題を解決できなかったことも要因として挙げられます。
入国制限で新加入の外国籍選手が合流できていないことに加え、足元の技術に長けたCBの補強は叶いませんでした(今朝方、獲得に動いているとの報道あり)。上島のレンタルバックには期待が高まるものの、J1未経験とあって若干不安は残ります。
保持・ビルドアップという課題に対して「人的リソースで解決!(=補強)」という解答を用意できなかったことから、「仕組み(戦術)で解決するしかない!」と前プレを選択したとも考えられます。
不安しかない開幕戦
ここまでパラダイムシフトに至った理由を挙げてきましたが、ネガティブな印象は拭えません。
唯一の武器であったロング・カウンターの威力は低下、もはや、武器ですらなくなってしまった上に、保持・ビルドアップという課題が未解決……厳しい船出となりました。
加えて、始動から開幕戦までの準備期間はわずか3週間程度と、前プレという戦術を仕込む以前にコンディションがやべえんじゃないかと不安しかない開幕戦となりました。
あまり参考にならないかもしれない開幕戦
思いの外、上々だった立ち上がり
守備(前プレについて)
前プレは4312ぽいというか人基準で嵌めながら、撤退は442って感じか……
— 羊男 (@hitsujiotoko09) 2021年2月27日
注目していたボール奪取位置については予想通り高い位置を選択しました。
高強度のプレッシング、即時奪回(ゲーゲンプレス)による主導権の確保は、一定の再現性が認められたものと思われます。
特徴としては、
- 奪ったら縦に早く(ショートカウンター)
- 2トップは外切り気味で中に追い込む
- 江坂はCB→CHのパスコースを隠しながら
- 3CHのタスクは尋常ではない
①横スライドで相手のSBに出たところをケア
②場合によっては相手のCBまでプレッシング
③セカンドボールの回収
④ビルドアップの出口役
保持について
課題の保持については、キャンプでトライ中とのことでしたが、思ったよりも改善が進んでいる印象を受けました。セレッソのプレッシングが緩やかであったことも一因だと思いますが。
少なくとも、仕組みで解決しようという姿勢は感じられました。
自陣ビルドアップは瀬川・大谷・椎橋で中央レーンとハーフスペース埋めつつ、呉屋が降りたりしながら、全体で前進。セレッソのプレッシングが緩いのもあるけれど、多少改善は図られているように見える
— 羊男 (@hitsujiotoko09) 2021年2月27日
ビルドアップは引続きヒシャ・三原・瀬川を中央に配する布陣。去年見られたボール受けに降りてしまうことで、中央に空いたスペースが被カウンターの温床になるケースは今のところ見られない。改善。
— 羊男 (@hitsujiotoko09) 2021年2月27日
上島の退場で覆い隠された今後について
以上のように立ち上がりは準備してきたものを体現できているように見えました。
しかしながら、次第に柏のプレッシングに慣れていくセレッソは、ロングボールやサイドチェンジを行うことで、ボール保持の時間を増やしていきます。
噛み合わせ的にも相手のSBにプレッシングが届きにくいことやCHのスライドが遅れるとサイドにスペースを与えてしまうことになります。
柏は前プレ→ショートカウンターという循環が断ち切られ、次第に守備の時間が増加する展開となりました。
用意したものをぶつけてゲームを支配→対応した相手が主導権を握り返す→対応した相手に対応する……という対話の積み重ねこそがサッカーです。
ですから、柏のプレスに慣れたセレッソに対して、どのように対応していくのか……という点に注目していたところで上島が退場してしまいます。
前からプレスを行うということは、背後にスペースが生ずることでもあるのだよな……と、サッカーは難しいなと考えさせられる場面でもありました。
その後は、一人欠けた状態で前からプレスに出られるはずもなく、撤退を強いられる展開となりました。
ボールを奪う位置が低くなれば、自陣からの保持・ビルドアップを行う必要があります。その部分の課題については、前述した通り未解決であることから、苦しい時間を過ごす展開となりました。
アフター・オルンガとして、撤退→ロングカウンターではなく、奪う位置を高く設定する前プレを選択。立ち上がりは上々も、上島の退場で撤退を強いられる。セレッソのプレッシング強度がそこまでだったこともあって、ボールは保持できたものの、苦手なスカッドであることに変わりはなくジリ貧で終了
— 羊男 (@hitsujiotoko09) 2021年2月27日
締めの言葉というほどのものではないけれど
10人での時間があまりにも長かったことから、開幕戦はあまり参考にはならないのではないか、というのが僕の考えです。
しかしながら、立ち上がり15分間の振る舞いに関してはポジティブな印象を受けました。
プレッシングを剥がされた際のリアクションについては、上島の退場で有耶無耶となってしまいましたが、ネルシーニョ監督はその辺りの”対話”ができる監督だと思います。
オルンガの移籍によってパラダイムシフトを迫られた柏レイソルは、前からのプレッシングによってボール奪取位置を高くするという解答を用意しました。
厳しい状況に変わりありませんが、2021シーズンは始まったばかり……。Jリーグのある週末を、終なきアジアへの旅を、今はただただ楽しみたいと思います。