vs浦和レッズ(2025明治安田J1リーグ 第4節)

ポゼッションによる前進
大外レーンへ移動する小泉
【4-4-2】で構えたところからプレッシングを打ち出す浦和に対して、柏は【3-1-4-2】。柏はプレシーズンより継続していた【3-4-2-1】から、3節C大阪戦終盤同様の配置に変更。
この変更はリカルド監督自身が試合後のインタビューで回答しているように、垣田・木下のコンディションが良いことから至った決断とのことで、保持時の噛み合わせとしては初期配置で位置的な優位性を確保できる状況だ。

特に後方から丁寧に前進を図る柏レイソルにとって、ビルドアップ隊と相手プレッシング隊の数的な嚙み合わせは非常に重要な論点である。

浦和はこの数的不利に対して、SHを一列上げることで対応。左右差という意味で言えば前田よりもサヴィオにそのタスクを担わせることが多かった。
しかしながら、この形でプレッシングを受けることは、柏もある程度織り込み済。
久保がWGの位置で相手SBをピン留めしているので前には出てこられないことからサヴィオの裏のスペースが空く。そこに小泉が流れることで、相手のCHを引っ張り出し、熊坂に時間とスペースを渡すことで前進に成功といった場面が(01:43)、(5:45)と立て続けにみられる。
時間軸は前後するが2点目の疑似カウンターにおいて小泉がビルドアップの出口になったことはこの設計による部分が大きかった。大外に小泉、内側に久保を配置できたことで、反対サイドから数的同数で垣田と木下を飛び込ませることができた。
相手の3枚でのプレッシングに対して、もう一枚を降ろした4枚で繋ぐという選択肢もある中で、小泉の大外レーンへの移動で前進を図ったビルドアップは今のチームの完成度を表現していると言っても良い。
3枚よりも4枚の方が当然後ろに重たくなってしまうし、何よりも相手のCHを走らせる、2列目を消耗させるという観点で非常に意味のある動きだったように感じた。無論、3CBのビルドアップ能力……言い換えるならプレス耐性の高さによって実現していることは言うまでもない。
左右に振ることで相手の体力と精神を削る作業
相手の中盤を全体的に(柏から見て)右サイドに横スライドをさせることで、ビルドアップのやり直しにおいて、左サイドの杉岡と小屋松の開放にも繋がった。
対面の前田は原川を見ていたところから小屋松まで出ていかなければならず、移動距離が非常に長くなる。体力を消耗させること加え、攻撃以外のタスクにリソースを割かせることができた点は非常に良かった(08:30)。
序盤は前から同数でのプレッシングを実行する浦和も、柏のポゼッションを前に次第にトーンダウン。10分以降はプレッシングの開始ラインが下がりはじめ、まずはミドルゾーンにブロックを形成してから、といった選択をする。
後方でのポゼッションによって何度も相手にスライドを強いることは、相手から「プレッシングに行っても無駄」と思わせる効果がある。
浦和・松本選手の試合後コメントを引用させていただく。
--通常の[4-4-2]ではなく、相手の3バックに合わせてのプレスだったと思うが。
ボランチがスライドをしながらハメにいく戦術だったんですけど、スライドが遠過ぎて。走っても取れる気がしないというか。ボールを取ったときにはみんな疲弊していて、いろいろと難しい部分が多かったです。
--自身は前半だけで7㎞以上走っていた。走らされている感じか。明らかに走らされ過ぎだと思いますし、相手によって変えるサッカーではありますけど、自分たちのサッカーというか、「俺たちはこうやるんだぞ」という軸が欲しいのはあります。相手に思うように回させて、気持ちよくサッカーをさせてしまったなという感覚はあります。
【公式】浦和vs柏の試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2025年3月2日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)
また、柏の【3-4-1-2】は、ミドルゾーンに撤退する浦和の【4-4-2】に対して、非常に相性が良いのはこれまでも言及してきた通りだ。
前節のC大阪戦と同様反対サイドのWBがオープンな状態でボールを受けられる状態であり、実際に小屋松の先制点は相手を構えさせたところからのサイドチェンジによって生まれたものである。

ボールを保持するためには相手からボールを奪う必要がある
プレッシング時の嚙み合わせ
一方で柏のハイプレッシングは、嚙み合わせ的には浦和のSBが浮く状態だ。久保と小屋松が浦和のSBまで出ていければ同数にはなるもののそれなりに距離がある。

前に出て行ったとして、WBが空けたスペースを使うのがサヴィオと前田ということであれば、リスク・リターンというか収支の差は怪しいものがあった。更に背後も数的同数であったことを鑑みると、シンプルに背後へ蹴っ飛ばされた方が嫌だなと思っていた。
しかしながら、浦和は蹴ることよりも繋ぐことを選択する場面が多く、結果的に柏のプレッシングを真正面から受けることになった。柏視点で言えば、無理目のロングボールを強いることでボール奪取に繋がり、ボール保持の時間を伸ばしていく。
また、嚙み合わせで浦和のSBが浮くというのは自陣に撤退した局面から出ていく場面の話でもあり、前述の通り丁寧なポゼッションによる陣地回復によって全体が押し上がった状態であるならば、そのままトランジション~プレッシングへの移行ができる。
サッカーにおける4局面(①保持②ネガティブ・トランジション③非保持④ポジティブ・トランジション)がシームレスに転換できた前半だった。
徐々に増えていくロングボールと古賀太陽
さすがにプレッシングを受けすぎた浦和は、ビハインドといった試合展開も相まって、少しずつロングボールを増やしていく。前述の通り柏はハイプレッシングを選択していることから、ロングボールを蹴られると後方が数的同数もしくは不利な状況であることが多い。
ハイプレッシング型のチームに必要な人材は前からのプレッシングをさぼらない攻撃陣はもちろんだが、ロングボールに負けない強いCBである。どれだけ前線で追い込んだとしても、ロングボールで競り負けるとそれが脱出ルートとなってしまうからだ。
時計が20分を回った頃から増えてくるサンタナへのロングボールに対して、古賀太陽が上回ることができるか?といった視点が一つのポイントになってくる。
結果としては抑えることに成功したと言えるだろう。古賀自身が上回った側面もありつつ、一列前の熊坂も高さを有することも地味に効いていた。シーズン開始前の個人的な懸念として、最終ラインの強度という点を挙げていたが、4節までを振り返ると杞憂だったと言ってよい。
(C大阪戦で空中戦の強さを発揮したいた杉岡の負傷が大きくないことを願う)
リカルド体制で初めてとなる撤退戦
システム変更の意図
前半の終盤からは自陣でのパスミスや試合展開による浦和の強度上昇もあり、じりじりとラインが下がる柏。杉岡の負傷によるメンバー変更などアクシデントも重なったことから、シンプルなロングボールが増えたことで、非保持の時間が伸びていくこととなった。
以上の展開も鑑み、後半から木下→渡井への交代とシステムを【3-1-4-2】から【3-4-2-1】というプレシーズンから取り組んでいた配置に戻す選択。ボール保持の時間を伸ばすことで、再びゲームをコントロールする狙いがあったものと思われる。
--これまでの試合と比べても、後半のボールを持つ時間は少なかったと思う。要因をどう考えるか。
前半もそうですけど、2トップの収める部分に頼っていたところがあったので。形を変えて、あまりシャドーのスペースが見えなかったのかなというのと、後ろにちょっと重かったので、もう少し背後を狙いながら、相手を押し下げる作業も必要だったかなと思います。
【公式】浦和vs柏の試合結果・データ(明治安田J1リーグ:2025年3月2日):Jリーグ公式サイト(J.LEAGUE.jp)
ボール保持でゲームをコントロールしたいチームがボールを保持できないときに
後半はリカルド体制で初めて保持率が下回る展開となった。
個人的には、スコアを鑑みれば撤退を強いられる展開はある程度受け入れざるを得ないと考える。決して自分たちだけに原因があった訳ではないし、失点をすることもなく、3ポイントを獲得したことから、そこまで悲観する必要はないと考える。
CKをひたすらショートで繋ぐことからも分かるように高さがウィークポイントであることから、やはり自陣で守備の時間を増やすのは望ましくない。事故も起こり得るだろう。
また、スタートから垣田・木下を起用したことから、後半から高さを加えてビルドアップの脱出ルートを用意する選択肢がなかったことも一因かと思われる。
ただ、リカルド監督の選択した交代カードやシステム変更を含めて、そこには明確な意図があり、更に言えばその選択は自分たちが理想と掲げるプレーモデルに沿ったものである。
むしろ一貫性があったという見方もできるだろう。理想に殉じるというのはそういうことだ。
実際に後半10分くらいまでには敵陣でのプレー時間を再度獲得するに至っており、一定の効果はあったものと思われる
開幕からここまで幸いにもそういった展開に持ち込まれなかっただけで、今後も間違いなく起こり得るシチュエーションであることから、言葉を選ばすに言えば、勝ち点を積みながらの演習ができた点を含めて非常に良い時間であった。
恐らく誰もが思った「細谷を投入にして背後に蹴っ飛ばし、ヨーイドン!で陣地回復すればいいじゃないか」といった手段は選択せず、あくまでも繋ぐことで打開を図ろうとしたアプローチは、個人的には嫌いではない。
むしろチームビルディング初期の現段階においては、プレーモデルをチームに根付かせるといった観点からも必要な判断であったのではないだろうか。