vs京都サンガF.C. (2022明治安田生命J1リーグ 第9節)

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京都のハイプレスに対してポゼッションでの前進

 京都の【高強度プレッシング】に対して【ポゼッションでの前進】を選択した柏。結果・内容、共に圧倒した磐田戦以降、ビルドアップに自信を持った様子で、良いものは変えないと継続。京都に対しても同様に【ポゼッションでの前進】を目指したものの、結果的に京都が一番得意なシチュエーションでゲームを進めることになった。

京都の【4-3-3】外切りプレッシング

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  • 京都のSHは、柏のCB(GK)→SBへのパスコースを消しながらボールを中央に誘導する【外切りプレッシング】
  • 柏は【ポゼッションでの前進】を目指すものの、ボールの逃し場所を封じられてパスが引っ掛かる
  • 京都は、中央の高い位置でボールを奪取できる上に、その瞬間の柏は可変ビルドアップで配置が崩れた状態
  • 柏の守備が整う前にウタカのフィジカルや両SHのスピードを活かしたショートカウンターでゴールに迫る

柏の回避方法

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  • 対抗する柏は【外切りプレッシング】の外にボール逃がすことで回避を図る
  • 京都SHは柏SBのマークを放置してボールを奪いに来ている=柏SBはフリーな状態
  • なので、京都SHの外側にボールを届ける事が出来れば、SBがボール運んで陣地の回復が可能
  • 左サイドからの前進が多かったのは、太陽の引き出しの多さによるもの。相手を引き付けて(相手を動かして)三丸へのコースを創出したり、小屋松を経由したりするなど、さすがのスキルを感じた

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−京都の強度の激しい守備に対して、どのようにボールを前進させていく狙いがありましたか?「(中略)サイドのスペースを、背後をうまく使っていくところは狙えたシーンは何度もあったと思います」

【ポゼッションでの前進】という選択について

  • 【ポゼッションでの前進】を選択した理由については、京都のプレッシングを「剥がせる」と判断してのものだと思われる
  • しかしながら、プレスの得意なチームが全力でボールを奪いに来た際に逃げ切れるほど、柏のポゼッションは洗練されておらず中々厳しい展開だった
  • 結果的に「剥がせなかった」訳ではあるものの、昨季比で改善傾向にあり、更には磐田戦での成功体験で自信を付けた様子は窺える
  • しかしながら、ポゼッションは手段であるほか、柏の長所は決してポゼッションではない
  • 井原監督代行や太陽もコメントで述べている通り、もう少し長いボールを使ってもよかった
  • 相手がハイプレスを行う=細谷のスピードを活かせる局面でもあったからだ
  • 意図的か偶然かはさておき、シンプルに細谷やサヴィオを背後に走らせて陣地回復を図ったからの敵陣保持は悪くなかったように思う
  • 京都の得意な「ハイプレス」を繰り出すことのできるシチュエーションで戦うことになってしまった点については、どうにも見ていて切ないものがあった
  • これは選手を送り出した監督以下コーチングスタッフに問題がある、と個人的には考えている

京都の前進と柏のプレッシング

 京都の保持からの攻撃は、自陣でボールを繋ぎながら相手のプレスを誘き寄せつつ、背後が手薄になったところに長いボールを刺し込むというもの。ウタカが同数で相手CBと戦うことが出来れば空中戦の勝率向上が図られるほか、スピードのあるSHを活かすことが可能。

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  • GKを組み込んだビルドアップによって、自陣保持で時間を確保する
  • その目的は足下での前進というよりは、相手がプレスに出来てた時に長いボールで相手の背後に逃げるため、といった印象
  • 相手が前傾姿勢になれば、ウタカの空中戦の勝率向上にも繋がるほか、IHがセカンドボールを拾って二次攻撃へと移行しやすい
  • 京都1トップ+SHで柏の5バックを貼り付け(ピン留め)しつつ、プレスを誘発し、中盤にスペースが生じた局面では足下での前進(先制のシーン)
  • 柏はシャドー(サヴィオ、小屋松)の外切りプレスが剥がされた際に、京都のSBを誰が見るのか?という問題を解決できないままゲームが推移し、失点もそこから

  • 昨季から散見される事象で、立ち上がりにプレッシングが嵌まらなかった際に、ゲームを通じて修正が入らない点は非常に危惧するところ

雑感

攻守ともに完敗

  • 勝てば上位と意気込んだゲームでの完敗は中々に堪えるものだった
  • 相手が柏戦に備えて何かを大きく変えた訳ではないにも関わらず、手も足も出なかったところにチームとしての完成度が道半ばであることを痛感させられる内容だった
  • 強度が求められる戦術において、連戦による疲労の蓄積に伴う強度低下は致命的な問題
  • また、今オフにスリム化を図ったことによるスカッドの薄さがここ数試合は不利に働いている点も否定はできない
  • 開幕前にも触れたが、やはり「怪我人を出さない事」と「コンディションを維持すること」は今シーズンを戦う上で必要不可欠である

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「ファーストブロック(1~5節)」感想・雑感・備忘録

降格候補大本命だったはずが、予想外にも好調なスタートを切った我が軍。

負けても一つも悔しくなかった去年と比較しても雲泥の差。

監督から「シーズンを6ブロックに分割、各ブロックで10ポイント獲得を目指す」とあり、昨日の名古屋戦でちょうど1つ目を消化したところ。

開幕からここまでのゲームを備忘録がてら振り返っておきたい。

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【5-3-2】によるハイプレス・ゲーゲンプレスから速攻がメインシナリオ

  • 今季は開幕から【5-3-2】を採用
  • 遅攻よりもカウンター、縦に早く
  • 短所(自陣保持)を隠しつつ、長所(2トップの強さ・豊富なCB)を活かすことができるシステム・戦い方で、現時点の最適解
  • ボール奪取位置を高くすることで、自陣ビルドアップの構築を省略
  • 敵陣で圧力を掛ければ無理目なロングボールが飛んでくるので、強固で人材豊富な守備陣(CB)を活かすことが可能

タスクの多い2トップ

  • 2トップは、攻撃ではターゲットとして空中戦を戦いながら、相手の最終ラインを後退させるために裏抜けしつつ、守備では高強度のプレスが求められる
ロングボールのターゲットとして
  • 敵陣でプレスを掛けるためには、当然ながら、ボールと人を敵陣まで届ける必要がある
  • そこで2トップを活かしたロングボールによる前進、陣地回復
  • 速さ・高さ・強さを備えた2トップ(細谷・ドウグラス)が、相手CBを上回ることで自軍を押し上げる時間を作る(「産み出す」とか「捻出」の方が正しいかも
  • 開幕、2節と続けて相手に退場者が出たが、ずれもCBである。2トップが相手CBに勝負を挑み続けたことが一因
  • 例え空中戦に勝てなかったとしても、相手に自陣から攻撃をやり直させることができれば、高い位置でプレスが掛けられる
  • ただし、2トップが相手CBに上回ることができないと自陣に閉じ込めれて守備の時間が増加
  • 「自陣に閉じ込められる=ボール奪取位置の後退」なので、自陣での保持・ビルドアップが求められる
  • 特に顕著だったのは鹿島戦で、それ以外の各ゲームにおいても、劣勢の時間帯は2トップが前線で時間を作れなかった時である
プレッシングの起点として
  • 2トップのプレスが嵌まらないと当然劣勢に
  • 例えば開幕戦も11人の湘南には全く牽制が掛からなかったし、鹿島戦はロングボールでのプレス回避に後手を踏む
  • 名古屋戦も【5-4-1】へ変更するまでサイドから好き放題前進されて失点
  • 相手のビルドアップに対してのプレスはスカウティングの問題でもある

ビルドアップは改善しているのか?

  • 何となくよくなっている気がする保持・ビルドアップについて
【中村慶太】の存在
  • プレス耐性の高い慶太が時間を作り、ボールを落ち着かせる場面が見られる
  • ネガトラを剥がし、ポゼッションを安定期まで移行できれば、慶太や太陽、小屋松を中心に足元で繋ぎながら前進できる
  • ただ、仕組みで解決したというよりは、【中村慶太】という個の力で成り立っている印象
  • 不在時にどのようなリアクションになるかはもう少し観ないと分からない
  • 名古屋戦で代わりに入った川口は元より、プレス耐性の高い選手なので卒なくこなしているようにも見えた
  • しかしながら、ゲーム序盤、相手のインテンシティが高い状態ではさすがに苦労している様子(相手の運動量の落ちてプレス強度が低下してからはとても良かった)
2トップが背後を狙い続ける副作用
  • ここでも2トップ
  • ドウグラス・細谷が相手の背後を狙い続けることで、ネガトラ時にプレスよりもラインの後退を選択してくれることが増えた
  • 2020年後半に、オルンガ対策としてラインを後退させてボールを持たされることが増えた状況に近い
  • 慶太や小屋松、太陽がボールを運べるから、当時よりも保持がまともに見えるのかもしれない

雑感

  • ここまでの好調は2トップが複雑なタスクをこなしている事が大きい
  • 鹿島戦のようにそもそもプレスが嵌まらない状況を作られると厳しい展開に
  • FWに限らず、「個vs個」を10箇所作るような戦術なので各々が対峙する相手に勝てないとそこから決壊
  • つまり、圧倒的な個がいるチームに弱い(鹿島の鈴木や名古屋のマテウスのような)
  • 物凄くピーキーなチームという印象
  • 早い時間帯の退場であったり、戦術の相性の問題で拾えたゲームも
  • 細谷もこの活躍であれば継続的に代表に呼ばれるだろう
  • 嬉しい反面、疲労によるコンディション悪化が不安(でもそれは選ばれたものの宿命。頑張れ!)
  • 名古屋戦を欠場したドウグラスの安定稼働

羊男の備忘録

  • 湘南戦
    • 60分近くを数的優位で過ごす
    • 湘南は撤退を選択せざるを得ない状況
    • 柏は大半の時間を敵陣で過ごすことに成功
    • プレスが嵌まらず、ハイラインの背後を取られまくる
    • 自陣ビルドアップも論外で相手にボールを渡し続ける
    • もはや決壊寸前というところで相手に退場者
  • マリノス
    • 2トップ(ドウグラス・細谷)が相手のCB2枚に勝ち続ける
    • 結果的に相手のCBを退場へ追い込む
    • 2トップが空中戦を勝てたらそのまま攻撃へ
      • セカンドボールを拾う2列目(サヴィオ)が前を向いてプレーできる
    • 勝てなくても、相手に自陣から攻撃をやり直させる
      • 柏がハイプレスを掛けられる状況
    • 開始早々の失点
    • ビルドアップ・ポゼッションを捨てたシンプルなロングボールによる前進
    • ロングボールによる陣地回復
  • 鹿島戦
    • 柏は敵陣でプレッシングを掛けられずにラインが後退
    • ボール奪取位置が低く、ビルドアップで詰まる
    • ロングボールでの前進を目論むも、ターゲットのドウグラス・細谷が相手のCBを上回れずに時間を作れなかった
    • 「鹿島はボールを保持してくるだろう」という戦前の予想に反し、ロングボールで前進される
  • 福岡戦
    • 慶太のプレス耐性の高さが際立ったゲーム
    • 慶太・小屋松のお陰で、サヴィオがビルドアップに加わらずに高い位置での仕事に専念できた
    • 後半は、プレス強度の低下とともに徐々に劣勢も、守備陣の強さを改めて感じるゲーム
  • 名古屋戦
    • 先制したものの、その後はプレスが嵌まらない、ドウグラス不在で空中戦が細谷頼み
    • さすがの細谷も1枚で名古屋CB2枚を相手にするのは分が悪く、時間を作れず
    • 自陣守備の時間が増えて決壊。神スンギュのお陰で何とか1失点で耐える。
    • 後半は、名古屋のプレス強度が低下し、右からの前進でチャンスクリエイト

vs湘南ベルマーレ(2022明治安田生命J1リーグ 第1節)

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【5-3-2】プレッシングの継続と湘南の解答

  • 柏はちばぎん杯同様の【5-3-2】を採用し、高い位置で奪ってからのカウンターを目指しました。
  • それに対して湘南は、「柏2トップにコースを限定させないビルドアップ」ハイラインの裏とカウンタープレス」という解答を用意します。
  • 湘南の狙いとして、柏陣地でゲームを進める狙いがあったものと思われます。
  • 理由は、柏の強みが高い位置で密集を作ってからのカウンターである一方、自陣でのビルドアップに問題を抱えているためです。
  • つまり、柏の陣地で過ごす時間を増やせば、柏の強みを消すことができるばかりか、柏の苦手な状態を作り出すことができるのです。
  • 柏の攻略手段として、なるべく柏陣地で過ごそう!』と考えるチームは今後も増加していくことが予想されます。

柏2トップにコースを限定させないビルドアップ

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  • 13:30〜、湘南ビルドアップのシーンです。
  • 湘南は最終ラインが幅を取ることで柏の2トップに長い距離を走らせ、コースを限定させないボール運びを行いました。
  • 柏の守備は2トップのプレスをトリガーに、高い位置で密集(コンパクトな陣形)を生み出すことが肝になります。
  •  退場者が出るまでは、2トップがコースを限定できなかったため、中盤でボールが引っかからず、自陣まで撤退を強いられる展開が続くこととなりました。

ハイラインの裏とカウンタープレス

密集を作られたら背後を狙え!(21:40〜)

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  • 21:40〜、湘南の最終ラインに自由を与えないため、IHの山田を一列上げて同数で噛み合うプレッシングを試みる柏です。
  • 元々は山田が見ていた茨田を太陽に受け渡し、高い位置での密集を作り出すことに成功します。
  • しかしながら、否が応にもハイラインになる柏は、最終ラインに広大なスペースが存在します。
  • 湘南は、その広大なスペースへシンプルにボールを入れていくことで、柏の密集を無効化、ラインを後退させることに成功します。
密集を作られなくても背後を狙え(25:30〜)

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  • 湘南は、マリノスや川崎のようにボール保持に命を掛けているわけではないので、数的な優位はあっても、中々効果的な前進が図られない場面もありました。
  • だからもう、細かいことは気にせずハイラインの背後を目掛けて蹴っ飛ばすことで柏の【5-3-2】を攻略するシーンも見られました。
  • 柏はラインを下げざるを得ないほか、山田・椎橋がセカンド回収に、プレッシングに、と上下動を強いられることになりました。
  • 予め蹴ることがわかっていれば、湘南の2列目もセカンド回収の準備ができます。
  • また、最悪セカンドボールの回収ができなくても、柏は自陣でのビルドアップ・ポゼッションが不安定なため、柏陣地でボール渡してしまえば、勢いそのままカウンタープレスに移行してしまえば、もう一度攻撃に転じること・奪い返すことも可能です。
  • 柏に自陣でボールを持たせるように仕向ける、非常に論理的な戦い方だと感じました。
湘南に退場者が出るまでボールが落ち着かなかった理由
  • 湘南に退場者が出るまでボールが落ち着かずにロングボールが増える展開だったのは、湘南のカウンタープレスを剥がすことができず、柏がロングボールを選択することが多かったからと思われます。
  • ロングボールのターゲットである細谷・ドウグラスもさすがに警戒されていたため、勝率はそれほど高くなかったことから、再び湘南ボールで攻撃が開始されるる展開となりました。

退場以降

  • 退場者が出てから前半終了までは柏が一方的にボールを保持し、湘南が【5-3-1】で撤退する時間が続きました。あれだけ引きこもられると、ポゼッション・ビルドアップで主導権を握ることができない柏としては厳しい展開です。
  • 後半、柏の2点リードによって、湘南が「前に出ざるを得ない」「ボールを保持せざるを得ない」状況になってから、柏の躍動感が増していきますが、やはり、ボールを保持するよりも、奪ってからのカウンターに強みがあることを示した格好です。

vsジェフ千葉(ちばぎん杯・2022.02.11)

5-3-2プレッシング

【2:07:狙いを読み解く】

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  • 2トップ(細谷・ドウグラス)でコースを限定し、サイドに誘導、ミドルゾーンよりも前で奪ってカウンターという狙い
    →反対サイドに通されないように蓋をする形でのプレッシング
    →追い込んだあとは、反対サイドへの展開に注意しながら、カウンターの準備(詳細は後述)
  • 相手のCB→CHへのパスによる中央からの前進を防ぐために戸嶋(逆サイドの場合はサヴィオ)椎橋はマンツーマン(人基準)で付いていく
  • ヴィオは絞るだけでいいので、守備タスクが軽減される+カウンターの際に前に出やすくなる
  • CHより後ろは、原則としてマンツーマン(人基準)
    →故に、一つ剥がされると芋づる式に展開される

【9:20:狙い通りの先制点】

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  • 反対サイドでも同様にサイドで窒息させる
  • 2トップは反対サイドへの展開に蓋をする
  • それは同時に、数的同数のポジショニングでもある
    →奪ってから速攻の局面では1vs1の状況なので、質的優位で勝負
    →個人技がモノを言うので、ここで負けると再びボールが相手に渡ってしまう

【4:14:蓋ができないとどうなるか】

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  • 上手くプレッシングが嵌まらなかったり、トランジションの局面で剥がされると、反対サイドに広大なスペースが生じるのが【5-3-2】の泣きどころ
    →これは4分の場面だが、この日も度々散見された。
    ネルシーニョ監督も口酸っぱく言っているようで、25分頃に寄せをサボったサヴィオに対してブチ切れる一幕も
  • 特に後半、守備の時間が増加したのは、運動量が落ちて2トップの誘導が追いつかなくなったことが要因と思われる。というか監督も運動量の低下が原因だと言及している。
  • 陣形が押し下げられると、当然ボールを奪う位置も低くなる。
    →ポゼッションが落とし込めていないので攻撃の開始位置が低くなると無理やりなロングボールが増えて、結局相手にボールを渡してしまう

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雑感

  • 昨季からの課題であるポゼッションは依然として属人的な側面の強い内容であったため、なるべく自陣から攻撃が開始される展開は避けたい。ロングカウンターも再現性のあるシーンは見られなかった。
  • つまり、高い位置で過ごす時間、プレッシングの掛かる展開でゲームを進めたい
  • とはいえ、時間経過とともに運動量が落ちることは人間である以上避けがたく、過密日程の中をどのように戦っていくのか少しばかり不安の残る内容であった。

柏レイソルのスカッドについて(2022シーズン)

 近年、稀に見る阿鼻叫喚なオフシーズンを終え(ほ、本当に終えたのか!?と未だに不安になるが)、気がつけば日程も発表されている今日この頃です。あけましておめでとうございます。

 過去は振り返らない!ということで、早速ではありますが、簡単に2022シーズンのスカッドを見ていきます。 

スカッドを見た印象(ざっくり全体感)

  • CBの選手層はリーグ屈指
  • 2列目より前は「量より質」
 今年のスカッド全体を見たときに抱いた印象です。もはや、この二点に尽きると思います。
 ネガティブな印象の放出が多かったことは否めませんが、しかし、全ポジション満遍なく放出を行ったわけではありません。
 よくよく見ると、
 死守すべきところは死守できたのではないか?
 と。
 また、大放出についても、実際問題そこまで悲観する必要もない……?
 御託を並べても仕方がないので、そのように思った理由を一つずつ掘り下げていきます。

CBの選手層はリーグ屈指

  • 死守すべきところ--それは、つまりCBです。最悪、最終ラインとキーパーが体を張れば失点しませんから(暴論)。
  • まあ、冗談はさておき、なんと言ってもCBは、ほぼ全員の残留に成功
  • 山下の放出はあったものの、田中くんの昇格があるので、実質的な差し引きはゼロ(枚数的に)。
  • なんと言っても、目玉は田中くんの昇格。数年前から指摘されている補強ポイントである左利きCB。
  • 才能の片鱗は、昨季のルヴァン杯で披露済み。普通に試合に絡んでくるものと思われます。というか、すぐに海外へ行ってしまう気がします。
  • さらに、ポジショナル・プレーをやりたいチームに持っていかれると思った太陽と、しばらく音沙汰のなかったエメルソンも残留。
  • 虚無だったビルドアップの部分は、田中くん、太陽、エメルソンと人的リソースは十分なので、あとは戦術に落とし込めるかどうかだと思います。
  • また、強度や高さの観点からは、エメルソン、祐治、染谷、上島、そして終盤は右SBにコンバートされていたけど大南も控えています。
  • こうして改めて見るとCBの選手層は普通にリーグ屈指だ思います。間違いなく、ストロングな部分。強度寄りな気はするものの、そこは監督としても譲れない部分だったのかもしれません。

2列目より前は、「量より質」

  • 「量より質」、我ながら惚れ惚れするくらいポジティブな表現だと思いますが、まるっきり根拠がないわけでもない。
  • 昨季は確かに、あれだけのメンバーを擁していたものの、シーズンを通してメンバーを固定することができませんでした。つまり、最適解を見つけることができなかったのです。
  • その事実を如実にあらわしているデータが【出場時間】です。
  • 二列目より前の選手で、最も【出場時間】が長ったのは、

    クリスティアーノ 28試合先発 2,481分(2,481分/3,420分で72%)

    これは、まあ、印象通りです。
    しかし、その次に長い出場時間を記録したのは、

    江坂 任 15試合先発 1,329分(1,329分/3,420分で38.5%)

    まさかの5月までしか在籍していない選手が二番目!(仲間はCHでカウント)

www.football-lab.jp

  • 定着しなかった理由が、戦術的なものなのか、負傷による離脱なのか、という点は練習が非公開だったので闇の中ですが。
  • 監督もラスト1/3の崩しは選手に任せているので、こうもメンバーを固定できないとコンビネーションの部分で物足らなくなってしまう。
  • ただ、先日の会見で前線の再編成については言及しているので(有料部分なので詳細は省きます)、やっぱりもうどうしようもなくなっていた部分もあったのでしょう。
  • まさしくスクラップ・アンド・ビルド。

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  • 何事においても、「量か?質か?」みたいな議論は永遠のテーマだとは思いますが、2020〜2021が量だとしたら、2022シーズンは「質」
  • ヴィオや武藤といった戦力は維持。新戦力の中村、小屋松、ドウグラスの実力は言うまでもないし、細谷も台頭著しい。森くんも即戦力として計算されているものと思われます。
  • つまり、質は保たれています。
  • だからこそ、負傷者を出さないことはとても重要です。
  • 昨季のように「負傷者続出です」では、質も何もあったものではありません。中断なく流れて行くシーズンになるので、回復を待っている間に次から次へと試合がやってきます。
  • ルヴァン決勝で正月まで戦った昨季とは違い、今年に関しては、オフもプレシーズンもしっかりと時間を取ることができたのでコンディショニングの部分は問題ないだろうと思っています。
  • 「質」の方向性についても聖域なき再編成によって、全員がハードワーク!インテンシティ!を実行できるような構成に。
  • 死ぬ気で前プレ!トランジション!を全員で行ってボールを回収して少ない手数で仕留める、もしくは、長いボールを蹴らせてCB陣に回収してもらう展開になりそうな気がします。

大放出について思うこと。

スクラップ・アンド・ビルドのシーズンに

 ざっくりとした感想はこんなところです。

 敢えてポジティブな側面にスポットを当てて書いてみましたが、総出場時間の30%を上回る選手たちが流出したことはどう考えても苦しい。

 思うところはあります。

 ただ、それでも、2022シーズンをネルシーニョ監督で戦うならば、編成の組み直しは必要不可欠であったとも思います。昨季終盤はチームとしての体をなしていませんでしたから。戦術以前の問題です。

 だから、スクラップ・アンド・ビルド。一度、全てを壊す必要があった、と。「今季をネルシーニョ監督で戦う」、それが前提条件なれば、一度壊すしかない。

 賽は投げられたとでも言いましょうか。

 クラブもそこは理解した上で、一枚岩となって支援している様子が伝わってきますし、腹を括ったなら、そうすべきだと思います。(そうせざるを得ない側面もあるのでしょうし、そうせざるを得ない状況に嫌気が刺すのもわかります)。

 「予想システムは?」みたいなのは相手を全く考慮していないような気がして好きではないのですが、やはり、自分たちの強さ――この厚い(熱い!)CBたちを活かすならば、3バックが合っているでは?と個人的には思います(4枚っぽいですが)。

 というか、3でも4でも対応できなければ、今の時代を勝ち抜くことは難しい。

それでも

 それでも。

 あれだけ悲しみに暮れていたのも束の間、チームが始動し日程も決まると「意外となんとかなるんでは?」と思い初めるおめでたい脳みその持ち主です。

 結局、期待してしまう自分がいるから不思議なもの。たぶん、アウェイもたくさん行くだろうし。

 願わくば、みんなが幸せな一年でありますように、とそんなことを思いながら。

 あ、30周年記念ユニは森選手にしました。

ポジション別

僕が付けていたメモを置いておきます。お暇な方はどうぞ(しっかり検証していないので、抜けている選手がいるかも)。

GK

  • スンギュ、佐々木、猿田、松本
  • 滝本を期限付き。
  • スンギュ神の流出を阻止。
  • 加えて横浜FCから猿田が復帰。
  • 佐々木についてもすでに充分通用することを証明しており、盤石の4枚体制。
  • 少し多い気がするのは、スンギュの離脱(代表招集による隔離とか)を織り込んだもの?

右SB(右WB)

  • 北爪、川口、大南
  • 峻希アウトで1枚減も、大南のコンバートを加味すれば差し引きはゼロ
  • というか、おそらくファーストチョイスは大南。高さ、速さでネルシーニョ監督好みの人材。シーズン終盤は、得点に絡む場面も見られるなど、本人も手応えがあるのでは。
  • 本職の北爪、川口については、SBのタスクによって使い分けたい。高い位置に配してビルドアップの出口役を期待するならば北爪、逆にビルドアップの入り口、配給役なら川口。

CB

  • 祐治、太陽、エメルソン、染谷、田中、上島、(大南)
  • 絶賛大放出のストーブリーグにありながらも、山下の放出のみにとどまり、ほぼほぼ無風。
  • ビルドアップに苦しんだ我が軍、カップ戦ながらも力を示したアカデミー卒の田中くんへの期待は高まるばかり。加えて、太陽、エメルソンもビルドアップ前線に時間を届けることのできる人材。あとはそれを戦術に落とし込むことができるかどうか。
  •  また、祐治、染谷、上島と対人、空中戦で強さを発揮する人材も。
  • 足元や強度とバリエーションに富んだ人材が揃っているため、対戦相手によって使い分けながら戦っていきたい。

左SB(左WB)

  • 三丸、岩下、大嶽、(太陽)
  • 岩下が加入。時折コンバートされる太陽を加えると4枚。大嶽が絡んでこられると幾分、厚い。
  • 昨季は散々だった左からのクロスボール。ドウグラスの加入で良質なクロスボールの供給は貴重な得点源となり得る。岩下は両足を使えるとのことなので、期待しています。

CH

  • 椎橋、大谷、ドッジ、三原、戸嶋、加藤、土屋、山田
  • ヒシャルジソンの流出もドッジ残留。
  • 「怪我人の復帰が最大の補強」ではないが、大谷キャプテンの復帰が待望される。
  • 最終節・大分戦出場の山田が通年でゲームに絡めると心強い。
  • 全体的にはポゼッションよりも強度重視で、なんともネルシーニョ監督好みといった印象。時間をつなぐタイプの選手はドッジぐらいか。山田がそのような仕事を担えると嬉しい。

SH、シャドー、トップ下、IH

  • 中村、サヴィオ、小屋松、細谷、(武藤)
  • (江坂)、仲間、神谷、クリス、瀬川、イッペイと大放出。そして、小屋松、中村を補強。
  • 最も懸念されるポジションではあるが、結局、2021年を通して最適解を見つけられなかった。戦術的な問題か怪我か不明な離脱も多く、真相は闇の中。
  • 大外に張って仕掛けるタイプよりは内側で仕事をする選手が中心。まあ、大外レーンはSBやWBにお任せが主流だからそんなもの。
  • 細谷をサイドで使う旨の報道を見かけた。とはいえ、ネルシーニョ監督の2列目より前の選手は、かなり流動的な部分があるから、普通にトップでも使われそう。
  • クオリティについては申し分のない選手たちばかりなので、試合で出られさえすれば問題ないとは思う。が、やはり圧倒的に層が薄いことは間違いないので、負傷者を出さないこと、コンディションの維持が重要。中断期間もないし。

FW

  • 武藤、アンジェロ、森、枡掛、真家、ドウグラス
  • やはり目玉はドウグラス。空中戦は言わずもがな。稼働率の低さが懸念。
  • 9番を背負う武藤の実力は今更いうまでもなく、クラブからの期待が厚いことが伺える。
  • 台頭著しい細谷が2桁取れたら最高。
  • 森くんも即戦力として結果を残してくれそう。5得点という謙虚な目標はあっさり越えてほしい。
  • 見ての通り、若手に結果を出して貰わないと困るといったところ。
  • アンジェロの刺青が見たい。

 

柏レイソルの2021年3月期決算について 神様仏様スポンサー様

営業収益:前期比+1,473百万円で過去最高を達成

 コロナ禍にありながらも、増収を達成。営業収益は過去最高を記録し、50億円の大台目前に到達。
 しかしながら、【スポンサー収入】の増加は、後述するコロナ対策費用に係るものと推察される。また、【その他収入】の大幅増加についても、オルンガの売却益が大半を占めると考えられる。
 以上のことから、2021年3月期の増収は、一過性・突発的事象によるものであり、今後もこの水準を維持することは難しいものと思われる。

 以下、要因分析。

  • スポンサー収入+687百万円
     【スポンサー収入】の増加分は、【試合関連経費】の増加分(+527百万円)とほぼほぼイコールになることから、コロナ対策費用として支援してもらったのではないか?というのが個人的な見解だ。
     2019シーズンのJ2から2020シーズンはJ1となったことで、増額してくれたスポンサー様もいたのではないかと思われる。

  • 入場料収入▲173百万円
    無観客、観客数制限による減少。

  • Jリーグ配分金+180百万円

  J2からJ1へ

  • アカデミー、物販は割愛
    物販1百万円。スタジアムでのグッズ販売のみを認識しているからだと思われる。
  • その他収入+939百万円
    オルンガの売却益、航輔は0円との報道あり
 

営業費用:前期比+409百万円 「試合関連経費」が増加

 営業費用は、微増にとどまる。増加分についても「試合関連経費」によるもので、コロナ対策関連費用の支出増加が影響したと考えらる。

 以下、要因分析。

  • チーム人件費▲61百万円
     人件費は微減。
     2020シーズン前に大型補強に動いたこともあって依然として高止まり。高級取りと思われるオルンガを放出も、新外国人の大量加入によって、引続き人件費は現水準を維持するものと思われる。
     呉屋の放出が完全だったことで改めて感じたことだが、やはりサラリーや償却負担(移籍金を契約期間に応じて費用計上)を軽くしたい思惑があるのだろうという印象を受けた。売却益が少なかったとしても、選手の保有権を手放し、固定費の圧縮を図ることで、僅かでも損益水準の向上を図りたい、と。
     純利益は昨年の▲10億円を除けば、プラスマイナス0近辺を推移していることから、相当シビアな予算編成であることが推察される。コストに見合わないパフォーマンスであれば、売却益で元が取れなかろうと放出していくことで、固定費の削減を図りながら、浮いた分で新たな選手を獲得していく……という、悪く言えば「ガチャを回し続ける」、良く言えば「新陳代謝を繰り返す」スタンスは変わらない。まあ、それこそが、クラブが主張するところの「現場主義」 であるわけだが。
  • 試合関連経費は割愛
    無観客、観客数制限試合の開催によって減少するかと思ったが、横ばいだった。 
  • トップチーム運営費+527百万円
     主に「移動関連費」や「施設関連費」などが含まれることから、コロナ対策関連費用の増加が一因と推察される。クラブハウス内の感染対策や遠征に際しても相当気を使っていたとの報道あり。
     また、「代理人手数料」などもここに含まれることから、ブラジル人大量獲得に係る手数料の発生も要因と考えられる。 
  • 物販関連経費、販管費は割愛
    特筆すべき変化はなし。

当期純利益は21百万円

 前期の▲1,013百万円からは大幅回復。費用は前期より微増も、大幅増収が補ったことでプラスでの着地を達成。営業収益の大半を「人件費」に投入する経営方針は継続しており、損益構造に特段の変化は見られなかった。

 コロナ禍において入場料収入が減少する中でも、スポンサー収入増加によって増収を達成するなど、さすがは親会社様……というほかない決算内容となった。

 しかしながら、サポーターが経営に与える影響が極めて小さいことを改めて示すものでもある。未だに太鼓が解禁にならない点など、サポーター向けの対応で重い腰が上がらないのには、そういった背景があると個人的には考えている。

 企業として、どこを向いて仕事をするか。株式会社である以上、株主が最優先であるのは当たり前。それならば、次はサポーターか?いやいや、事業活動を営むことがでるのは、誰のお陰?営業収益全体の60%にも及ぶスポンサー料を提供してくれるスポンサー様の存在あってこそ。当然、そこが二番目になる。販売会社に置き換えれば、大して買い物もしないお客様より、一定額を定期的に購入してくれるお客様の方が大切なのは明白。ちまちま日銭を稼いだところで仕方がない。

 企業としては至極真っ当な優先順位に基づいているとは思う。それがサポーターにとって、良いか悪いかはまた別の話。

 余談はさておき、損益水準が例年並みであったことから、貸借対照表に与える影響も限定的となった。特筆すべき変化は見受けられないことから、貸借対照表については、割愛する。

 2020年3月期の10億円もの赤字によって傷んだ財務状態は今のところ放置されている状況ではあるが、きっと、そのうち親会社が何とかしてくれるのであろう。やはり、持つべきものは親会社。世界の日立は半端じゃないことを、改めて思い知らされる柏レイソルの2021年3月期決算だった。

vs横浜F・マリノス(15節・2021.05.22) 課題は克服できたのか?

4月の3連勝も束の間、リーグ戦・カップ戦ともに約1か月にわたって勝利から見放されている我が軍。

今回の相手は横浜F・マリノス。前節は鹿島アントラーズに敗戦を喫したものの、ポステコグルー監督の下、ボール保持での主導権獲得を目指すサッカーを着実に積み上げており、その強さは言うまでもない。

そんな強敵に対して、ネルシーニョ監督の選択した対策を確認していく。 

3バック→4バックへの変更について

そもそも、3バックで戦っていた理由を整理すると、

  • 9節・ガンバ戦以降、3バックを採用
  • その目的は、ボール保持・ビルドアップの改善
  • 4バックでスタートした今季であったものの、昨季からの課題であるビルドアップ・保持という課題の克服には至らずに連敗
  • 4バックではボールを持てないと判断、応急措置的な対応としての3バック

という点が挙げられるが、ここにきて5-4-1から4-4-2へ変更に至った理由を、ネルシーニョ監督は、以下のように言及している。

  • 我々としては相手の最終ラインの背後の空けたスペースをカウンターで取りに行くプランを持っていた。
  • 4バックで臨んだ狙いは、ここ最近5バックでやってきている中で思うように結果が出ていないので何かを変えないといけないと見ていた。
  • 相手の特徴もある中で、まずしっかりとセンターのレーンを固めてライン間で動き回る選手のマークを補強することをポイントに置いていたのも今日4バックにした狙いでもある。
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自分たちの課題を克服するための3バックであったけれど、とりあえずは棚上げ。

今は、目先の勝ち点にこだわる必要があると判断、相手をニュートラルにするという初心へ戻ることを選択したものと思われる。

サッカーというゲームの攻略対象を、「自分たち」から「相手」に変更したと換言することもできるかもしれない。

4-4-2はどうだったのか

立ち上がりから戦前の予想どおり、横浜F・マリノスがボールを支配しながらゲームは進む。後方でのポゼッションで時間を確保しながら、柏レイソル陣内への侵入を目論む。

対する柏レイソル

横浜F・マリノスのボール保持に対して、時間もボールも与えない!強度ぶち上げてガンガンいくぜ!的な前からのプレッシングを採用することも考えられたものの、結果的には、4-4-2のブロックをミドルゾーンにセットすることを採用

ネルシーニョ監督のコメントから、狙いは主に以下の2点であったと推察される。

  1. ボールの「出し手」に圧力を掛けるのではなく、「受け手」を窒息させるコンパクトなブロック形成での対抗を選択。
  2. 中盤に構えることで、マリノスの背後にスペースを作る

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1.ボールの「出し手」に圧力を掛けるのではなく、「受け手」を窒息させるコンパクトなブロック形成での対抗を選択 について

横浜F・マリノスのビルドアップでは、ボールの「受け手(ビルドアップの出口)」であるSBや中盤の選手が流動的に立ち位置を変更することで、プレッシングの回避を目指すといったものである。

SB(松原・ティーラトン)が内側に絞ることや、マルコス・ジュニオール・天野・喜田が柏レイソルの2トップ(細谷・江坂)〜CH(椎橋・ドッジ)周辺を彷徨うことで、前進を目指すシーンが見られた。

横浜F・マリノスとしては、プレッシングに来られることは慣れている。だから、当然にそれを外す手段も擁している。

柏レイソルは、プレッシングに行ったとしても無効化されて前進される……という展開を避ける狙いから、「出し手」よりも「受け手」に基準を合わせたブロックを選択したと思われる。

そしてその選択は、80分以上も得点を与えずにゲームが進んだことから、十分に効果的に作用したと考えて差し支えない。

2.中盤に構えることで、マリノスの背後にスペースを作る について

柏レイソルがミドルゾーンにブロックを構える。そこに、横浜F・マリノスがボールを持って前進してくれれば、背後にスペースを生み出すことができる。

自陣に相手をおびき寄せた上で、コンパクトなブロックの中でボールを奪い、素早く背後を突くカウンターという戦い方は、昨季まで積み上げてきた形である。

オルンガほどの質的優位を有する選手が存在しない分、FWを2枚(細谷・江坂)とすることでターゲットを増やす狙いもあったものと思われる。

また、5-4-1ではなく4-4-2としたことで、重心が下がり過ぎず、スムーズなカウンターへの移行が可能となったことも付け加えておく。

  • 狙い通りに攻守が切り替わったタイミングで空けたスペースをうまくカウンターに出ていくこともできていた。
  • いい守備からカウンターに出ていく流れ、形は非常に良かったが、最後のアタッキングサードに入ってからボックス付近でのラストパスの精度やボールを持った選手がよりいい状態にある味方の選手がいるのに無理してクロスやシュートを打ってしまうことがあった。
  • ただ、今日のゲームに関しては再三チャンスを作れていたことが評価のポイントだと思う。

ネルシーニョ監督のコメントも、最後の精度には言及しつつも、概ねプラン通りの試合運びであった様子が窺える。

課題は克服できたのか

4-4-2選択は実に論理的で、ネルシーニョ監督らしさ溢れるものとなった。プレーする選手たちから迷いは感じられず、コメントからも充実を感じさせる内容となった。

それでは、長いトンネルを抜け、課題の克服に至ったからこその善戦だったのか?というと、答えは否である。

そもそも、4-4-2を選択できたのは、横浜F・マリノスの採用する戦術に起因するもの。

相手がボールを保持するサッカーを採用するチームであったからこそ、柏レイソルはボールを保持しなくても良いシチュエーションでゲームを進めることができた。

ボールを保持しなくても良いシュチュエーションとは、柏レイソルの弱点が露呈しないシチュエーションだ。

少し振り返ると、4月の3連勝についても、コンディション不良であったガンバ大阪はともかく、大分トリニータ徳島ヴォルティスともにボールを保持しながらゲームを進めることを好むチームである。

つまり、横浜F・マリノス戦の善戦は自分たち課題を解決して為し得たものというよりは、戦術的な相性によるものであると考えられる。

 

また、もう一つの懸念材料として、唯一の強みであるカウンターの精度が低調という点が挙げられる。

精度の低下がコンディションによるもの、ゲームの時間経過に伴うインテンシティの低下によるものであれば仕方のない部分があるものの、一見したところ、そんな様子は見られなかった。前半から今一歩であった。

焦りか、不安か。

チームとして結果が出ない中で求められるチーム内の競争が悪い方向に作用していなければいいと思うばかりである。

積み上げたと考えていたカウンターが、実はオルンガの質的な優位性によるものでしかなかったのだとしたら……杞憂で終わって欲しいものだが。

今後のチームの動向を注意深く見守っていきたい。