vs仙台(7節・2020/7/26) ボールの保持という選択肢

いかに前節で簡単にボールをロストしていたかを映像を用いて説明をし、選手たちの対話に基づいて戦術の理解を深めようとこのゲームに向けて準備してきた。(中略)前節うまくいかなかったポジティブトランジションという局面でのチームとしての戦術は非常に良くやってくれたと思う。

 ネルシーニョ監督コメントです。「前節うまくいかなったポジティブトランジション」とは、ボールを奪った瞬間の判断を指しています。つまり、カウンターへ移行するのかボールポゼッションの回復かの判断です。
 
 相手の背後のスペースを突くカウンターは、相手が守備を形成する前にゴールへと迫ることが可能です。守備陣形を整える前に攻撃を仕掛けることが可能なことから、比較的容易にゴールへ迫ることができます。
 しかしながら、縦へ急ぐカウンターは、ボールをロストするリスクを内包しています。相手陣地へ少ない人数で侵入することや、自チームの押し上げが追いつかず、全体が間延びしてしまう傾向があるからです。間延びしてしまうことで、失った瞬間にプレッシングが掛からない、セカンドボールが拾えないなどといった現象が起こります。絶え間のない上下運動、つまりは運動量が要求されます。
 自分たちがボールを失うということは、相手にボールが渡るということです。それは、相手の攻撃が始まることであり、自分たちの守備という局面が始まることを意味します。
 究極的に言えば、ボールを保持している限り守備をしなくていいわけです。自分たちがボールを保持している限り、失点することは有り得えないからです。
 しかしながら、ボールを保持し、パスを繋ぐポゼッションで攻撃をするということは、相手に守備の陣形を整える時間を与えることでもあります。整った陣形の相手を崩すことは、それなりの労力と技術を要します。

・航輔というボールの逃げ道

 仙台戦では、航輔がボールに触れる場面を多く見ることが出来ました。最後方にボールを預ける場所、ボールの逃げ道を作ることで、ボールを奪取した直後(ポジティブ・トランジション)の局面において、カウンター以外の選択肢を用意することができました。カウンター以外の選択肢とは、ボールポゼッションです。自分たちがボールを保持することで、不用意なボールロストを防ぎ、ゲームの主導権を握ります。
 また、このゲームで柏は守備時4411での撤退を選択していることから、必然的にボールを奪取する位置が自陣低い位置となります。自陣低い位置でボールを奪った際に、航輔というボールの逃げ道を作ることがポゼッションの回復・安定に寄与したものと思われます。(高い位置で奪うなら、そのままショートカウンターを仕掛ければ良い。)
 

ポゼッション回復後のビルドアップ

 ポゼッションという選択肢が生まれたことについて書いてきました。続いては、ポゼッション回復後のビルドアップについて考えていきます。選択肢を用意したところで、効果的な前進ができなければ意味がありません。
 ビルドアップは、航輔+2CB(大南、高橋)から始まります。この際のポイントは、3枚でのビルドアップによって、2CBが開いたポジションを取ることが可能なことです。

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 CBが開くことや、ビルドアップに3枚を用意することで仙台のプレッシング隊に判断強いる格好です。ビルドアップでCBが開くことで仙台のFWはプレッシングの距離が伸び、牽制が遅れることとなります。また、SHがアプローチに出るべきか?という判断を強いることで、プレッシングの強度を低下させることに成功します。強度の低下によって、柏のビルドアップ隊に時間とボールを確保します。
 柏のCBは、仙台のSHがプレッシングに来ればフリーになったSBをビルドアップの出口にします。三丸がオープンな状態でボールを受けることで前進に成功する場面が多く見られました。SS席で観戦しておりましたが、試合中のネルシーニョ監督は、三丸のポジショニングやボール受けてからの振る舞いに対して細かく指示を与えています。
 太陽サイドからの前進も同様で、後方3枚で時間とボールを握りながら、SBをビルドアップの出口にしたいという思惑、意図を感じました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ボールの保持について書いてきましたが、それでも5得点のうちの大半はカウンターが起点となっています。
 効果的なカウンターが成功したのは、ポゼッションという選択肢があったからだと考えます。2つの選択肢を用意することで、相手に守備の基準を絞らせないことができたからです。
 「ネルシーニョ監督のやりたいこと」というコメントが選手たちから時々出てきます。これまでの監督・選手の発言など勘案すると、要は保持とカウンターのどちらの局面でも「質を求める」という意味だと解釈しています。どっちもできないと勝てない、上位進出は難しいというのは現代サッカーの常識です。
 昨年の序盤、結果が出なかった時期にタニは「監督が『繋げ』と言っても、何がなんでも繋がなくてはいけないわけではない。」とコメントを残しました。つまり、状況に応じて最適な判断、選択をしなさいという意味です。保持もカウンターもあくまで試合を優位に進め、勝つ確率を上げるための手段でしかありません。
 リーグの終盤に向かって徐々にチームとしてのクオリティが向上するのは、判断や選択の基準となる原則の部分が浸透するからだと思われます。特に今季は新加入の選手も多かったことや、コロナの影響で中断が長かったことから例年よりも時間を要するものと考えています。