vs名古屋(8節・2020/8/1)カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

コンパクトな守備から、前線の選手のスピードを生かした速いカウンターを長所としている

 ネルシーニョ監督は、名古屋についてこのように分析しました。一言で表現するならな、堅守速攻です。自陣に442のブロックを形成し、奪った瞬間にアタッカーの質的優位を活かしたカウンターで仕留めることを得意としています。
 ニュートラルにする(相手の長所を消す)ことで、主導権を握るネルシーニョ監督がどのようなプランで試合に臨んだのかを解釈していきます。

カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

 ネルシーニョ監督は、カウンターを強みとする相手にはカウンターを発動させなければ良いというアプローチで攻略を図ります。つまり、名古屋にボールを持たせることで、カウンターという局面を発動しない仕組みで対抗します。

2トップでCBから2CHへのパスコースを遮断する

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 (抽象的な考え方としての図解です。)
 名古屋の保持において、柏の2トップが名古屋CHへのパスコースを牽制することで、中央からの前進を阻止するとともに、名古屋のCBにボールと時間を与えます。これが、ボールを持たせている状況です。柏の守備のスタート(=名古屋の攻撃のスタート)はこの形を基本とするものでした。
 名古屋はカウンターによる攻撃を得意としていることから、ボール保持によるビルドアップに苦慮する様子が窺えました。ジョアン・シミッチ選手の列移動(最終ラインに落ちること)よって、柏プレッシング隊の基準点を逸らし、右サイド(柏の左サイド)から前進を図る場面は見られたものの、チームとして仕込まれたものかは懐疑的でした。シミッチ選手個人の工夫によるものだというのが私の見解です。非常にインテリジェンスの高い選手だと思いました。
 ビルドアップに苦慮する名古屋は、次第にロングボールが増加します。両サイドのSHに高いポジションを取らせ、柏SBの背後を狙うボールで攻略を図るものの、撤退によって背後のスペースを消している柏を崩すには至りませんでした。

柏のボール保持における被カウンター対策

 名古屋のロングボールによる前進が失敗に終わると、柏のボール保持という局面が始まります。柏のボール保持(攻撃)の局面は、名古屋の強みである撤退→カウンターを発動するには都合の良い局面です。なぜなら、柏がボールを保持することで、名古屋はブロックを形成し、カウンターの機会を窺うことが可能だからです。
 ゲームの大きな流れの中で、

名古屋の保持(柏撤退でボールを名古屋に持たせる)→名古屋ビルドアップに苦慮、ロングボール→柏の攻撃(ボール保持)開始→名古屋撤退からカウンター発動の機会

 というサイクルは、戦前より予想できたものと思われます。柏は、名古屋にカウンターを発動させないことで主導権を握ろうとする以上、ボール保持における振る舞いは非常に気を使わなければならない局面です。
 そこでネルシーニョ監督が仕込んだ保持における被カウンター対策は、大谷を最終ラインに加えるビルドアップです。

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 名古屋は撤退によるブロックの形成を選択することから、柏ビルドアップ隊は時間とボールを手にします。そこで、中盤に位置する大谷をCB間に下ろすこと(サリーなんとかっていう名称があるらしい)で前進を図ります。
 しかしながら、この大谷をCB間に下ろすことは、ビルドアップの効率化を図るとともに、被カウンターという局面において最後方に3枚を用意しておくという保険でもありました。中央のルートとは、ゴールへの最短距離です。最短距離を閉鎖することで、サイドへの迂回(時間を掛けさせることで、撤退する時間を確保する)や、カウンターという選択肢を放棄し、ボール保持を選択してもらうことを狙いとしています。

ボールを持たせるための立ち位置

 大谷の列移動はあくまで保険です。構造として、カウンターを発動させないために、ボールを持ってもらう必要があることは前述の通りです。そのために、名古屋がカウンターを諦める配置を整備しておく必要があります。カウンター対策とは、ネガティブ・トランジション([攻撃→守備])です。攻撃局面の時から、カウンターに備える必要がありました。
 この問題への回答は、ハーフスペースに選手を配置することでした。攻撃と守備は表裏一体、シームレスな関係です。ハーフスペースとは、大外でも中央でもない縦のラインを指します。ハーフスペースの重要性は、お近くのペップ・グアルディオラ先生に聞いていただくとして、柏はここから効果的な前進を目指します。
 ヒシャや江坂、両SHなど流動的なポジションチェンジを行っていたものの、ハーフスペースに立つというポイントは抑えているように思われました。
 そして、このハーフスペースにポジショニングすることで、例えボールをロストしたとしても、中央のカウンタールートは閉鎖されていることとなります。つまり名古屋は、サイドからのカウンターを余儀なくされるか、カウンターを諦めてボールの保持を選択することとなります。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 これだけの対応策を講じたものの、被カウンターによって決定機を与える場面は複数回存在しました。やはり、撤退した名古屋の守備ブロックは固く、ボール奪取直後のカウンターは非常に強力なものでした。
 大谷を下ろしたビルドアップや、ハーフスペースにポジションを取るなど、前進の手段は用意したものの、なかなか打開することができず、停滞する時間も存在しました。


 名古屋は、新型コロナ感染者の発生によって、非常にナーバスな一週間を過ごしたことから、柏対策を行う時間を確保できなかったものと思われます。
 柏についても徹底した予防策を講じているものの、いつ感染者が発生してもおかしくない状況に変わりはありません。非日常の中でメンタルやコンディションを維持することの難しさを痛感せずにはいられないゲームでした。