vs横浜(9節・2020/8/8)この素晴らしいネルシーニョコメントに祝福を

 ネルシーニョ監督のコメントが簡潔明瞭に全ての疑問に答えてくれています。個人的にいくつか生じた疑問がありましたので、ネルシーニョ監督のコメントを参考に解釈していきます。

疑問1:今日のゲームプランは?

答え:撤退で耐えながら、相手の背後にあるスペースをカウンターで突く

 まずは、どのようなプランで試合に臨んだのかを探ります。
 マリノスのサッカーと言えば、ポジショナル・プレーを想像する人も多いのではないでしょうか。ポジショナル・プレーを端的に表現すれば、ボールを保持しながら3つの優位性(位置的優位、数的優位、質的優位)を活かしてプレーすることです。
 ボールを握ることで可能な限り[守備]の局面(時間)を減らします。ボールを失った瞬間(ネガティブ・トランジション)に強度の高いプレッシング(ゲーゲンプレス)を行います。また、相手のビルドアップに対しては、ハイプレスを行います。柏にボールと時間を与えず、[守備]の局面(時間)を減らすことで、[攻撃]にリソースを割くことが目的です。
 攻撃的かつ特徴が明確な相手に対して、ネルシーニョ監督は以下のプランで臨んだと述べています。

相手は非常に攻撃的なチームだが、ネガティブトランジッションであるボールを失ったタイミングで守備が揃わない時間帯は当然あると見ていた。ボールを奪ってから空いたスペースを攻撃的に攻めていこうという狙いを持っていたがなかなかうまくボールを握れず、相手の空けたスペースを効率よく突けなかった部分が当初のプランと違ったところだった。

  横浜がボールの保持を強みとしていることは前述しましたが、ボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があります。そのための手段がゲーゲンプレスやハイプレスです。ゲーゲンプレスやハイプレスを行うためには、チーム全体が高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。つまり、背後には広大なスペースが存在していることとなります。
 ネルシーニョ監督は、横浜のネガティブ・トランジションの強度が低下する瞬間があると分析した上で、相手の背後を素早く突いていくことをプランとしました。背後へのランニングで強さを発揮するミカの存在も非常に大きいです。
 ボールの保持を強みとする相手に対して、こちらもボールの保持で対抗するのではなく、自陣に構えてボールを引っ掛けてから、素早くカウンターで刺すというプランで勝点の獲得を目指しました。

疑問2:あまりにも[守備]の時間が長かったと思うけど?

答え:カウンターに急ぎ過ぎて、ボールを放棄してしまったから

 文字通り手に汗握るゲーム展開となりました。体感時間としては、90分とは思えないほど長く感じました。それは押し込まれる時間、つまり、[守備]をする時間が長かったことが要因だと思われます。最終的なボール保持率は35%程度でした。
 なぜ[守備]の時間が増えたのか?について、ネルシーニョ監督の見解です。

それでも固くしっかりと相手の攻撃を許さない守備ができていたと思うが、(ボールを)引っかけてからカウンターに出ていくタイミングで縦に急ぎすぎて、ボールを入れるがすぐにボールを失うという流れが続いた。(ハーフタイムに)もう少ししっかりとボールを握る必要がある、相手が空けるスペースをしっかりと見つけて、ボールを奪ってから慌てて前に入れるのではなく、じっくりしっかりボールを握ろうと選手たちに伝えた。

 要約すると、縦に急ぎ(カウンターに)過ぎたことから簡単にボールを放棄してしまったことが原因です。換言すれば、ボールを保持できる場面でも手放してしまったということです。カウンターは、陣形の整っていない相手を崩す有効な手段ではあるものの、ボールを大切にする選択肢ではありません。当然、後方でボールを繋ぐ方が安全にボールを保持することが可能です。以下、三丸選手も同様のコメントを残しています。

もう少し自分たちのボールの時間帯を増やしたかった。ハーフタイムに監督からも話があり、ボールを取った後に前に急ぎすぎてしまっていたところもあった。 

 加えてマリノスのハイラインの攻略に苦労したことも要因の一つです。オフサイドに掛かってしまうことで、相手のボール保持が始まってしまう場面が目立ちました。
 カウンターでの攻略がメインプランではあったものの、ボールの保持を強みとする相手に対してボールを与えてしまうことは得策ではありませんでした。ネルシーニョ監督は、ボールを保持できる場面では保持する、何が何でもカウンターではないという、状況に応じた判断を選手に求めています。
 実際にゴールキックから[攻撃]が始まる場面では足元で繋いでいることから、「ボール保持=全て裏を狙う」というプランではなかったことを読み取ることが可能です。

疑問3:後半から良くなったと思うけど?

答え1:後半の立ち上がり選手の立ち位置を変更したから

 後半の立ち上がりから、442(4411)から433に近い形に変更することで、守備の基準点を整理しました。

システムの変更というよりポジショニングの変更だった。(仲間)隼斗をより真ん中に置いたのは相手のサイドバックの小池選手が中に入ってプレーをする時間帯がゲームの序盤から続いていたので、そこで引っかけてからカウンターに出ていくようにという指示を出した。

 前半は44で自陣にブロックを形成する形で守備をセットしました。マリノスのアンカーである喜田選手を江坂選手がマンツーマンで牽制する形です。しかしながら、結果的にはプレッシングが掛からず、前進を許す場面が多く見られました。
 原因は、小池選手がサイドから中央にポジションを移動すること(所謂、ロール)で中央に数的優位を作られてしまったからです。江坂選手は喜田選手を牽制する役目を担っています。CH(ヒシャ・タニ)は持ち場を離れてしまうと中央のスペースを空けることとなるので出られません。このようなギャップを生み出すスキームこそがポジショナル・プレーです。相手のビルドアップに自由を与え過ぎたことから、44でのブロックを動かされる原因となりました。
 相手のビルドアップを牽制することで、前進を制限する必要がありました。そこでネルシーニョ監督は、仲間選手を小池選手に付けることで、見るべき相手を明確にしました。守備の基準点を整理し、ビルドアップの牽制を図りました。

答え2:戸嶋選手の投入によって、守備の強度およびカウンターの質を向上させたから

 後半の開始から瀬川選手→戸嶋選手に交代カードを切りました。

前半なかなか中盤のところを使われて相手にボールを握られるという時間帯が続いていた。彼は左サイドに入って守備だけでなく、ボールを引っかけてから攻撃にもしっかり出てくる特徴の選手なので、少し流れが変わったと思う。

 中央の枚数が噛み合わない場面が多く見られました。相手は中盤が3枚であることに加え、小池選手が中央に入ってくることを通じて中央の攻略を図りました。相手選手を掴まえ切れずに、チャンスを与える場面がありました。
 そこで中盤に枚数を確保し、守備の強度向上を図ることで、ボールを奪うことを目的に戸嶋選手を投入しました。
 また、サイドハーフでの出場も増えてきていることからも、ネルシーニョ監督から攻撃の質を評価されていることが窺えます。前に出ていく走力と前で仕事をできる技術を有しています。本職である瀬川選手と比べ、攻撃の質に若干の見劣りは見えるものの、守備の強度等を含む総合的な判断によって至った意思決定だと思われます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 非常に痺れるゲームでした。カウンターで刺すプランだったものの、構え過ぎてしまあった感は否めませんでした。ボールを保持できなかったことも含めて、ポゼッション志向のチームとの対戦では今後も苦戦を強いられることが予想されます。
 しかしながら、ここからは(大分、セレッソ、神戸)ボールの保持、ポゼッションを得意とするチームでとのゲームが続きます。リーグ戦も上位につけており、ACL圏内が十分に狙えるポジションです。怪我人の回復を待ちながら、何とか乗り越えたいとことです。耐える8月、我慢の8月となりそうです。