vs札幌(1節・2020/2/22) 「トランジション」について考える。

トランジションとは何ぞ


 試合前にもツイートしたが、この試合はトランジションが勝敗を左右する要素となった。
 ネガティブ・トランジションやポジティブ・トランジションといった言葉が存在する。俗に言うネガトラ、ポジトラだ。そもそもの言葉の定義を解釈するところから始めたい。
 サッカーにおける4局面とは、①[攻撃]②[攻撃→守備]③[守備]④[守備→攻撃]だ。トランジションとは、②[攻撃→守備]と④[守備→攻撃]の局面を指す。そのうち、②[攻撃→守備]をネガティブ・トランジション(ネガトラ)、④[守備→攻撃]をポジティブ・トランジション(ポジトラ)と呼ぶ。
 僕自身、トランジションという概念の意味を理解するまでに5年は掛かったし、今でも正直よくわからない。余談だが奈良クラブ・林監督は、以前に講演会で「トランジションなんて存在しない。ボールの保持・非保持の2局面だ(意訳)」と話していた。それでも、自分なりの答えを出さなければ前に進めない、理解が深まらないと思った。だから、今の自分に可能な範囲で解釈を行なってみた。


「攻撃」と「守備」とが絶え間なく繰り返されるゲームの中で、それぞれの局面で再現したい状況があるはずだ。その再現したい状況へ移行するまでの時間のことではないか、と。
「[守備]の局面で再現したい状況」でボールを奪ってから、「[攻撃]の局面で再現したい状況」までの以降の時間という意味ではないか、と。逆も然りで、「[攻撃]の局面で再現したい状況」でボールを失ってから、「[守備]で再現したい状況」までの移行の時間だ。


(例)
「[攻撃]で再現したい状況」:ボール保持によるポゼッションからの前進
「[守備]で再現したい状況」:ボール奪取のためのハイプレス

・[攻撃→守備](ネガトラ)局面ですべき行動:ボールを奪うためにゲーゲンプレスによる即時奪取

・[守備→攻撃](ポジトラ)局面ですべき行動:ボールを保持して相手を崩すためのポジションに移動する。そのために、パス交換でボールを保持しながら、ポジションにつくための時間をつくる。


札幌が抱えるトランジション問題を突く


 札幌は[攻撃]4-1-5(時に505)、[守備]5-4-1。いわゆる、可変システムだ。

(札幌・[攻撃])

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(札幌・[守備])

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※画像は、わかりやすいように極端に抽象化しています

 

 可変システムは、[攻撃]と[守備]とで定められたポジションを取るまでに移動を伴うこととなる。移動を伴うとは、即ち時間を要するということだ。自分たちが得意(理想)とするポジションに着くまでに時間が掛かるのだ。極端に表現すれば、自分たちが得意な局面に試合の推移や展開を固定し、時間を経過させることで強さを発揮するものと考えてもいいかもしれない(ずっと[攻撃]をしている、ずっと[守備]をしているような状況)。


 札幌のポジティブ・トランジション([守備→攻撃])は、柏視点ではネガティブ・トランジション([攻撃→守備])だ。柏の[攻撃→守備]の局面とは、即ち高い位置からのプレッシング、ボールの奪い返しだ。そうだ、昨季からの継続である得意(理想)とする局面ということだ。ネルシーニョも試合後のコメントで高い位置からのプレッシングが嵌ったことで、優位な展開で前半を過ごすことができたと評している。前半の2点はこの局面からであり、再現性のある(ネルシーニョは「生産性」という表現をした)狙い通りの得点だったと言える。


 札幌のネガティブ・トランジション([攻撃→守備])は、柏視点でポジティブ・トランジション([守備→攻撃])だ。

 札幌は今期から[守備]の戦術として、ハイプレスに取り組んでいる。ボールを失った際、前でボールを奪いたいのだ。

札幌ハイプレスに挑戦 琉球に敗れるも監督は前向き - J1 : 日刊スポーツ

 

 柏にボールと時間を与えないために、猛然とボールを奪いにプレッシングが襲い掛かる。柏のビルドアップ隊は、圧力に屈しボールを放棄する選択も可能だった。ビルドアップの局面において、強度の高いプレッシングを前にボールを保持することには、恐怖が伴う。奪われることは失点に直結するからだ(自分たちの守るゴールのすぐそばでボールを失うことになるから)。それでも、ガンバ戦のブログにも書いた通り、高い位置でプレッシングを行うためには、高い位置までボールとチームの前進を図る必要がある。
 そんな時、俺たちのキム・スンギュが頼りになる。[攻撃]やボールを奪った直後の[守備→攻撃]の局面において、スンギュまでボールを戻してもボールを失わないことはもちろん、もう一人のフィールド・プレイヤーとしてビルドアップに加わり、相手のプレッシングの無効化を図ることが可能だ。
 スンギュは、ガンバ戦で言及したロングボールの精度はもちろん、足下でパスを繋ぐ能力を持ってる。最後尾をボールの逃しどころとして使うことが出来るということは、相手を柏陣地の深いところまでおびき寄せることが出来ることでもある。時間とボールを得ることに一役買ってくれるスンギュの存在は、柏が採用できる戦術に幅を持たせることになる。

 相手をおびき寄せるということは、必然的に相手が前掛かりになる状況でもある。その後ろに広がっている景色。それは、柏攻撃陣が数的同数でカウンターの準備をしている景色だ。オルンガに当てればボールのキープが可能だし、裏に蹴ればクリスのランニングでゴールに迫ることができる。札幌に背走を強いることで、柏は陣地の回復が可能になるということだ。数的同数=1対1であり、柏のアタッカーの個の力は言うまでもない。「外国人頼みのクソサッカー」なんてネットスラングが存在するが、柏は個の力を発揮できる仕組みを設計し、チーム全体で共有している。決して「頼み」ではないのだ。

 古賀のコメントがチームで共有されている戦術であることを裏付けている。

古賀太陽「守備の課題はチームの問題としてみんなで取り組んでいきたい」/J1 第1節 柏 vs 札幌【試合終了後コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

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 トランジションで刺す。つまり、素早く[攻撃]に転じることで、札幌に[守備]の局面に移行させないこと、素早い[守備]への移行によって、[攻撃]に移行させないことだ。守備では前から奪いたい札幌だが、そのためのトランジションの設計が曖昧に感じた。全体として押し上げるべきだということは共有されていたように見えるが、柏のアタッカーのポジショニングとそこに高確率でボールが出てくる再現性の高い仕組みを前に迷いが生じていた。トランジションに迷いを生じさせ機能不全に陥らせる。札幌の前後の分断を図ったネルシーニョはさすがと言うべきか、ミシャに時間が足りなかったというべきか・・・。


ボールを持つこと、渡すこと


 ロングボールはあくまでチームを前進させる手段である。
 札幌のプレッシングに対して、単調なロングボールが増えた時間が存在する。2失点を喫した時間帯だ。試合の経過とともに体力はもちろん、判断力や思考力が衰えていく。頭、脳も疲労するということだ。特にこのゲームにおいては、交代カードを負傷交代に割いたことから、疲弊した選手を入れ替えることが難しかった。
 自陣深いところでボールを奪取し、保持へと移行した際に、ボールを繋ぐことに恐怖が伴うことは前述の通りだ。全体が押下げられているということは、前線の選手も守備の配置にポジションを取っていることでもある。全体が押下げられた状態だ。柏は撤退を強いられる中で、裏を取る準備も、セカンドボールを回収する準備も出来ていない状態だ。その状態でのロングボールは、前半のそれとは大きく意味合いが異なる。前進のためのロングボールではなく、ボール保持を放棄するロングボールだ。ボール保持を放棄するロングボールは、局面の移行にはなり得ない。ボールを相手に渡すことだ。[守備]の時間が続くこと、相手に[攻撃]の時間と機会を与えることだ。トランジションの局面が発生しないということは、札幌が持ち込みたい状況、局面で戦うことでもある。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど


 試合後にネルシーニョのコメントは必読だ。

ネルシーニョ監督の会見コメント/J1 第1節 柏 vs 札幌【試合終了後コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

 高い位置でのプレッシングが今季のスタンダードであることや、必要性と妥当性について言及している。
 つまりは、高い位置でプレッシングが行える状況、状態、局面に持ち込む仕組みが必要だ。ロングボールは手段であり、目的ではない。2失点を喫した後、再度ボールを大切にしたことでゲームのクローズに成功したものの、失点を喫した時間帯の振舞いには少し不安を感じた。(負傷交代にカードを使っていなければ、普通にケア出来ていたかもしれない。)
 何度でも繰り返す。[攻撃]の時間を増やし、[守備]の時間を減少させるための高い位置でのプレッシングだ。[攻撃]とはボールの保持だ。ボールの保持を放棄しないこと。失ってもすぐに奪い返すこと。主体的なサッカーだからこそ、選手には考え続けることが求められる。

 ここからは、週2試合の間隔となる。タイトルを狙うからこそ落とせないカップ戦を、どのようなメンバーで戦うのかネルシーニョの選択が楽しみだ。神谷が途中出場で足が攣った(めちゃめちゃ走ってた!!)ように、今の柏の戦い方は、前線の選手の消耗は非常に激しいものと考えられる。リソースは有限だ。