vsG大阪(ルヴァン杯・2020/2/16) 図解はじめました。

 先発メンバーの世界三大カップとの変更点は、ハムストリングを痛めた航輔→新加入のキム・スンギュと、ルヴァン杯の規定である

「全ての試合において2020年12月31日において満年齢21歳以下の日本国籍選手を1名以上先発に含める」

に基づく、ヒシャ→2年目の山田。
https://www.jleague.jp/sp/aboutj/construction/leaguecup.html

 

守備の基準は明確にしよう

 3142(352)でボールを保持するガンバは、ビルドアップの役割を3CB+アンカーが担う仕組みとなっていた。
 その仕組みに対して柏は、オルンガ+両SHが3枚のCB、江坂がアンカーを見ることで、前から人数を合わせていく格好となった。
 考え方は昨季と同様、[守備→攻撃]の局面で素早くボールを奪うことで[攻撃]の局面・時間を増やすことだ(=守備の時間を減らす)。相手からボールと時間を奪うために、前線からのプレッシングを行う。相手にプレーをするエリア、スペースを与えないために、最後尾からの押し上げを図りコンパクトな陣形を保つ。
 しかしそれは、自分たちの背後に広大なスペースを作ることと同義である。そのスペースを攻略された時、それは即ちゴールキーパーとの1対1を意味する。失点に直結する場面だ。


 裏のスペースを使わせないためには、ボールを奪われた瞬間に相手のボールを奪い返すことが必要となる。素早く[守備→攻撃]に移行して奪い取る、もしくは、考える時間を与えないことによって、[攻撃]の局面への移行を牽制することである。相手に考える時間を与えないほど素早くプレッシングを開始する必要がある。

 だからこそ、予め明確なプレッシングの対象を定めておくことが重要となる。迷いをなくすことで迅速な局面の移行([守備→攻撃])が可能だ。オルンガ+両SH+江坂を人に付けた意味はそこにある。

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光り輝くスンギュさんの足下

 ただ、高い位置でボール奪うためには(高い位置でプレーをするためには)、そもそもボールとチームを高い位置まで前進させる必要がある。自分たちが得意なシチュエーションに持ち込むための手段が必要だというとだ。千葉戦との違いはそのシチュエーションへ持ち込む手段だろう。
 ちばぎん杯では、ジェフのプレッシング強度が高くなかった(激しく奪いにこなかった)ことから、柏のビルドアップ隊には時間とボールが与えられた。3142への可変を行う時間があったのもそのためだ。ボールを保持しながらボールとチームを前進させることができた。
 ガンバの振る舞いを見てみると、柏のビルドアップ隊に対して猛然とプレッシングを行っていた。ボールを奪いに来たのである。それは即ち、柏が時間とボールを保持できない状況である。下さん期のように、ボールを保持することに命を掛けるチームならば、配置や仕組みで打開を図ることも可能かもしれないが。
 そのようなガンバのプレッシングを打開したのは、新加入のキム・スンギュだ。彼の強みとして、ロングキックの精度、ボールを足下で扱う技術を挙げることが出来る。抜群のロングキックは、ピンポイントな配給や裏へのフィードなど、ビルドアップの出口として抜群の存在感を示した。高精度なロングボールがオルンガ、クリスティアーノに渡ることは空中戦における勝率の上昇に繋がる。また、カウンターの起点として一発で裏を取ることが可能となれば、手数を掛けない攻撃が完結する。
 そして、チームで共有し意図を持ったロングボール(予期できるロングボール)は、セカンドボールの回収を前提としたポジショニング、全体の押し上げが可能となる。陣地の回復を図ることは、自分たちが得意とするシチュエーションへの移行だ。自分たちの得意なシチュエーション、それは前述した高い位置でのボール保持、オルンガ+両SH+江坂から連動するプレッシングである。スンギュの高精度なロングボールによってその局面に持ち込むことができた。

 ネルシーニョは試合後に「30分までは戦術的にも我々が上回った」というコメントを残している。恐らくこのスキーム、仕組みによって手繰り寄せた局面を指すものと思われる。

ネルシーニョ監督の会見コメント/YBCルヴァンカップ GS-1 G大阪 vs 柏【試合終了後コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

 

ガンバに渡る主導権


 ただ、ネルシーニョのコメントの通り、30分頃を境に徐々に主導権がガンバに渡っていく。

 この状況をガンバの視点から見てみる。撤退を強いられるということは、攻撃が自陣深いところから始まるということである。しかも、その攻撃のスタート、ビルドアップに対しては、マンツーマンのプレッシングが襲い掛かり、満足な前進ができない状況である。ガンバは試合開始直後の振る舞いでハイプレスを選択している。ボール保持によって主導権を握ることが基本的な考え方だと推察することができる。俗に言う「自分たちのサッカー」ができないフラストレーションは想像に難くない。
 フラストレーションの増大に伴い、徐々にガンバのIHやトップの選手が列の移動(ボールを受けるために後方に降りていく)を始める。初めは戦術として仕込まれたもの(準備されたもの)ではなく、選手個々の判断によって行われていたような印象を受けた。不規則かつ突発的に行われたからだ。しかしながら、選手個人の判断が突破口を開くことになるから、サッカーは面白い。

(列移動の図)

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 前からのプレッシングにおいて明確な基準点(見る人を決めること)を設けた柏は、ガンバの列移動によって迷いが生じる。山田と三原が追い掛けるには距離がある+追いかけたとしても、中央のスペースを空けることになる。ただ、オルンガ+両SH+江坂は見る人が決まっている。「あれ?この人は誰が見るの?」という状況だ。

 迷うこと、それは考える(判断する)時間が発生することである。そしてその時間は平等にガンバの選手にも流れることとなる。時間(ボール)を得ることは、ガンバが得意な局面、シチュエーションである。少しずつ柏はガンバの前進を許し、自陣への撤退を迫られることとなる。それが前半の30分以降、ガンバが主導権を握るようになった際に起こった現象だ。


 後半からは明確に中盤の選手の列移動によってボールの前進を図るガンバであった。
 特に途中投入の遠藤による江坂のピン留めは見事であった。遠藤を守備の基準点としていた江坂を中央から動かさないため、自分もその場に留まる(動かない)という振る舞いだ。江坂が遠藤のそばを離れないことから、オルンガの脇をガンバのCBがボールを持って前進することが出来た。そこで再び突きつけられる「あれ?誰がこの人を見るの?」という状況。瀬川が絞ってプレッシングを掛ければ大外からの前進経路が空き、大外に留まれば中央から前進されてしまうというジレンマを抱えることとなった。
 柏は撤退を強いられ、耐える展開が続く。今季戦うJ1ではこのような展開が増えていくものと思われる。

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インテリジェンスな神谷さん


 走りに走りまくった瀬川はスタミナ切れで交代となった。しかし、それでも代わって投入された神谷のインテリジェンスなプレーから、再び息を吹き返す柏であった。
 つまるところ、プレッシングである。CBにプレッシングを掛けられるかどうかが柏の生命線だ。
 前述の通り、撤退時4411でブロックを作る柏に対して、ガンバのビルドアップ隊は時間を確保した。後方でのパス交換を通じて前進経路、つまり攻めやすい経路を選ぶ時間があった。 ガンバがボール保持を通じて試合の主導権を握る展開だ。

 柏は撤退を迫られたことで、プレスの開始位置が低くなる。当然、得意とする高い位置でのトランジション勝負という局面への移行は難しい。

まずは、ガンバの前進を阻止すること。そして、ボールを奪うことによって、[守備]の時間を減らすことで局面の打開を図ることが打開策となる。自陣でボールを奪うためには、前線の選手によるプレッシングで相手の前進経路を遮断、ないしは限定することが必要だ。前進経路を限定することで、ボールを奪う場所が明確になる。明確になる、とはつまりチーム全体で奪う場所を共有することだ。

 

 神谷の投入により、前線のプレッシング強度が回復した柏は、前進を阻止する機会が増えていく。それは即ち前進経路の限定であり、連動したプレッシングから、ボールを奪うこと([守備]局面の減少)に成功する。投入前に細かい指示があったと思われるが、わずか数メートルのスプリントや立ち位置の調整で横パスを阻止する神谷の守備は圧巻だった。奪い返したあとについても、ボールを保持することの意味([守備]局面の減少)を理解した振る舞いは、インテリジェンスの塊であった。

 この展開で瀬川と代わって投入されることからも、ネルシーニョからの信頼が伺える。新加入選手の中でもっともネルシーニョの心を掴んでいる選手といっていいだろう。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 開始〜30分の試合運びは見事だった。

 ロングボールによる前進によって陣地の回復を図った柏は、ガンバの守備を撤退へと追い込んだ。柏の高い位置からのプレッシングによって、ガンバはボールを放棄することとなる。闇雲(アバウト)なロングボールは、鎌田・染谷が相手FWに競り勝つことで回収に成功する。2人が競り負けることが少なかったことから、ボールの回収に成功し、[攻撃]の局面、ビルドアップへ繋げることができた。これが、アバウトなボールだったとしても収めてしまう、もしくは時間を作れるほど圧倒的な個を持った選手と対峙したときは恐ろしく苦戦を強いられることになると思うが、それはまたの機会にでも・・・。

 最終ラインでボールを回収するということは、1からビルドアップを開始することでもある。3142の守備に対して、噛み合わせで浮くことになるSBからの前進はロジカルであり再現性を感じた。古賀・峻希の両SBが相手を引き寄せてからパスを出すことで、効率的かつスムーズな前進を可能にした。この事象については、いずれ触れるときがくるだろうから、ここでは割愛する。

 相手のプレスを真に受けた時のロングボールによる前進、相手が自陣に構えた際のボール保持による前進という、[攻撃]の局面の中でも複数の前進手段を持っているのは心強く感じた。

 まるでロングボールしか使っていないような書き方をしたものの、ミドルゾーンで奪ったときは、クリスサイドを中心にミドルカウンターも行なっていた。後半、ガンバが瀬川サイドからの前進が増えたのは、クリスに独力で突破されるのが嫌だった可能性も考えられるので、誰か検証してみてください。