vs鳥栖(16節・2020/9/13) 【4312】による前進と急所について

 

柏のプランと【4312】による前進

自陣でのボール保持について

 柏のボール保持から試合が始まりました。鳥栖の非保持は【442】。陣形をミドルゾーンにセットし、2トップは大谷へのパスコースを消しながら、味方の位置に合わせてプレッシングをスタート。後方が整うまでは、柏の前進を牽制するにとどめ、無闇に突っ込まない。鳥栖の2トップは、何度も後方に首を振りながら(味方の位置を確認)プレッシングのスタートタイミングを図る姿勢には洗練を感じました。次郎には持たせるけど、太陽には持たせたくないような印象も受けましたが、気のせいかもしれません。

 なので柏のビルドアップ隊は、一旦時間が得られます。鳥栖が陣形を整えている間は、2トップはプレッシングに来ない。柏は、スンギュ+2CB+大谷の4枚で菱形を作りながら、まったりボール保持から試合に入るという立ち上がりとなりました。

 また、2トップに対して4枚を用意し、後方での数的優位を確保したことで、ボール保持に安定感が生まれました。スンギュがボールを扱えることに加え、大谷が2トップ間に立つことで鳥栖のプレッシングを牽制する動きが見られました。2トップを牽制することで、太陽に時間とボールを届けることが出来ます。(縦パスを通しまくる!)

前進方法について

 続いて、後方でのボール保持に成功した柏がどこから前進したのかを見ていきます。

 【4313】vs【442】。システムの噛み合わせ的にかならず浮く選手、つまりギャップが出てきます。それは柏に限らずお互いに、というのが前提ですが、それは後述します。

 当然ですが、柏はギャップの部分から前進を図ることで【4312】のメリットを享受していきます。具体的には、戸嶋+三原とトップ下の江坂が降り3枚を用意することで、鳥栖のCH2枚に対して数的優位を確保します。

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 CH-CB間で前を向いてボールを受ける場面を複数回確認できたことからも、再現性が認められます。

 そして、鳥栖のSHが内側に絞ることで中央を固めるなら、横幅を取る三丸が空くことになるので、大外からの前進を図ります。複数の前進経路を用意することで、守備の基準点を狂わせること、相手に的を絞らせないことが可能です。

 【442】に対して【4312】を用意した背景には、攻撃で主導権を握りたいとの考え方があったものと思われます。理由としては、鳥栖がボール保持をゲームモデルに採用しているからです。ボールを持ちたい相手にはボールを与えないことで、「ニュートラル」にするネルシーニョ監督らしさが垣間見えました。

 加えて、前節・ガンバ戦は【4312】が嵌ったことで、今季最高とも言えるパフォーマンス、内容を残したことから、「良かったから変えない」という判断に至ったものと思われます。これもネルシーニョ監督らしさが現れています。

 後方でのボール保持の安定を図ながらも、前節同様に前線3枚の準備が整えば躊躇なくロングボールで前進を行います。相手のプレッシングを誘発して背後のスペースを突くという狙いは選択肢として常に頭にあったものと思われます。「繋ぐ」ことができるから、「蹴る」ことが出来る。相手に判断を強いる、迷わせる、それこそが駆け引きです。

【4312】の急所への対処

 では、守備はどうだったのか。

 簡単に【4312】の守備における急所について確認します。セットした状態では、敵陣のサイドの深い位置へのアプローチが遅れること、中盤が3枚なので横幅が足らないことが構造的に抱える急所です。

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 万能なシステムなどはなく、必ずどこかに急所が存在するものですが、その反面、得られるメリットも当然に存在します。得られるメリットと支払うコストの収支にどう折り合いを付けていくか。それを考えることも指揮官の仕事の一つです。対戦相手や自チームの状況に合わせて最適なものを選択していくことが重要です。(全く変えないチームもありますが)

 話は逸れましたが、撤退を強いられる状況は好ましくなかった、というのが本音のところだと思います。守備が噛み合わないというコストを支払ってでも、攻撃で得られるメリットを享受したかった、と解釈しました。

 攻撃でメリットが得られる【4312】。だからこそ柏は、ボールを保持する時間を増やさなければならない。しかし、ボールを保持するためには、相手からボールを奪わなければならない。相手にボールを与えてはならない。ということで、柏はゲーゲンプレスによる即時回収を目指しました。

 ゲーゲンプレス。失った瞬間のプレッシングで相手に時間とボールを与えず、高い位置で奪い返し、再びゴールに迫ります。自分達がボールを持ち続ければ、守備の時間を減らすことができるからです。

 そして、ゲーゲンプレスを仕掛け続けるためには、高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。[攻撃→守備]へ直ちに移行できるように、チーム全体がボールと共に前進する必要がありました。

 その前進については、前述した通りです。後方の数的優位、【4312】vs【442】によるギャップを活かしながら効果的な前進に成功していたように思います。

 つまりは、ボールを保持する時間を増やすことで、【4312】の弱点を隠す狙いがあったのだと思われます。

次第に主導権が鳥栖に流れていく

 しかしながら、次第にボールと主導権が鳥栖に移ろうこととなります。鳥栖のボール保持は、柏としては避けたい状況であったはずです。

 鳥栖にボールと主導権が移った理由は主に2つでふ。鳥栖のプレッシングが変化したこと②プレッシングを受けてロングボールが増えたことです。

鳥栖のプレッシングに変化

 鳥栖のプレッシングに変化が現れます。

 序盤は2トップでタイミングを合わせてプレッシングとマークの受け渡しを行なっていました。しかしながら、給水前後で2トップの1枚が大谷へのコースを消しつつ、もう1枚が柏のボール保持者にアプローチをする対応に変更しました。つまりはタスクの明確化による守備の基準点の整理です。

 やるべきこと、守備の基準点が明確になったことで、プレッシングの強度が次第に向上していきました。ゴールキーパーまで追いかける連動性も見られ、柏は序盤ほど余裕を持ってボールを保持できない時間が増えていきます。

②プレッシングを受けてロングボールが増える柏

 序盤ほどボールを保持できない柏は、次第にロングボールが増加していきます。ロングボールによる前進については、前節・ガンバ戦では効果的に機能したことは周知の通りです。

 しかし、この日はセカンドボールが拾えない。江坂が回収して背後を突くということが出来ない。

 理由は、ロングボールを「蹴った」のではなく「蹴らされた」からだと解釈しました。前節の成功体験から、安易なロングボールが増えた印象を受けました。プレッシングの背後をシンプルに突くという、効率的に見える攻撃も裏を返せばボールを手放すリスクを孕んでいます。

ロングボールの回収から鳥栖のポゼッションと前進経路

 鳥栖は、柏のポゼッションによる前進とネガティブ・トランジションにおけるゲーゲンプレスを受ける形で、自陣でのプレーかつボールの非保持という、哲学とは相入れない体勢で給水タイム近くまでを過ごすこととなりました。

 そこからプレッシングの基準点を整理することで柏のロングボールを誘発し、ボールを回収することに成功したことは既に記しました。

 鳥栖のビルドアップは【3241(325)】です。

 ここで柏はようやく、自分達が避けていた守備の局面に対面することとなります。嵌らないプレッシングによって、ボール保持の時間が減少し、後退を迫られました。

 鳥栖は、柏の2トップに対して3枚のCBでビルドアップを開始し、数的優位を確保します。加えて、ボール保持については、ゲームモデルにも掲げていることから、ストレスなく行うことができるという背景もありました。ボールを持つことを苦としないチームです。

 鳥栖の前進経路は2つ。

 1つ目は、左右のCBです。柏のプレッシングが届かないサイドの深い位置を起点としました。呉屋なのか、江坂なのか、三原なのか。誰かがアプローチに出ると、必ずどこかが空く。柏と同じようギャップからの前進を図ります。

 2つ目は、トップ下の江坂の脇です。変態的な運動量を誇る江坂といえども、自分の脇に2つも起点を作れれるとさすがに対応に苦慮します。鳥栖のビルドアップ隊は状況を見ながら、空いてる方を使いながら前進を図りました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 柏は試合を通して【4312】を継続しました。上記で述べたように、攻撃で得られるメリットを享受したかったものと思われます。ビハインドを追った展開であったことから、是が非でも点が欲しい状況でした。

 しかしながら、攻撃をするためにはボールを保持しなければ、相手からボールを奪い返さなければならない。

 鳥栖にボールを保持される展開の中で、守備が嵌らず奪い返すことができないまま時間が流れていきました。メリットを享受をする以前の問題のように感じました。僕個人としては狙いが読み取れなかったというのが本音です。

 監督の試合後コメントも、アウェイだったことから会見時間が短く戦術についての言及はありませんでした。