vsサガン鳥栖(2023明治安田生命J1リーグ 第33節)

シンプルなゲームの構図

平たく言うと主導権を握るためのアプローチが「守備からのトランジションの柏」vs「ボール保持を重視する鳥栖」というシンプルな構図だった。

柏はゲームを通じた最初のビルドアップから敵陣にボールを放り込む徹底ぶりだ。その目的は空中戦を制して前進を図ることではなく、あくまでも陣地回復を優先したものであった。

そういった選択をさせたのはなぜか?というと細谷と山田康太のプレッシング、トランジションを効果的に反映させるためという答えに辿り着く。

プレッシングやトランジションを繰り出すためには、相手にボールを渡す必要がある。そして奪った先のフェーズであるカウンターを意識した場合、可能な限り敵陣で、それもより高い位置で実行できることが望ましい。なぜなら、相手ゴールに近い場所でボールを奪取できれば、ボール持って前進する距離が短くなるからだ。

ビジネス本の名著である「イシューからはじめよ」では「解くべき問題を見極めよ」とある。最も早く仕事を終わらせる方法は、その仕事をやらないことなのだ。

ビルドアップに課題を抱える柏にとって、「ポゼッションによるビルドアップ」は果たして本当に解くべき問いなのか。敵陣にボールを運ぶ方法は、何も足元でクリーンにパスを繋いでいくだけではないはずである。さすれば、「ポゼッションによるビルドアップ」は少なくとも今この瞬間に解くべき問いではないのだという結論はそれなりに説得力がある。

敵陣でプレッシングやトランジションを実行し、ボールを奪い返すことができれば、ポゼッションによるビルドアップを省略することができる。ポゼッションという課題をそもそも解かないという選択をすることで攻略を図っているとも言えるだろう。大谷コーチからも実際に敢えて攻撃には手を付けなかったという証言があった。戦いを略すると書いて戦略なのだ。

少し脱線したが、例えボールを奪い切れなくても、自分たちの守るゴールから遠い場所で守備をすることができれば失点のリスクを低減することができる。

また、相手から選択肢を削り続けることは、特にボールを握ることで主導権を掴もうとする鳥栖相手ならばとりわけ重要な振る舞いである。

柏のプレッシングによって繋ぐことを断念し、ロングボールを選択させた場合でもクリーンなボールを入れさせない。鳥栖のターゲット役である冨樫に対して、犬飼と立田が効率良く空中戦を戦うためには、やはりその供給元であるビルドアップ隊への高強度なプレッシングは必要不可欠なのである。

鳥栖のビルドアップと柏のプレッシング

2:10のシーン。

そんな柏に対して鳥栖がどのように攻略を図ったのかを見てみる。

鳥栖のビルドアップはSBを内側に入れた2323で、そこにGKを加える形だ。


GKをビルドアップに組み込むことによる最大のメリットは+1の状況を作り出せることにある。守備側のGKが攻撃側のFPをマークできないというサッカーの構造上、ピッチ上では必ず1枚多く用意することができるからだ。

柏の守備の生命線は細谷・山田によるプレッシングにあるというのは前述の通りだが、さすがにGK+2CB+アンカーの4枚で組み立てる鳥栖に対して、2vs4という数的不利の局面では分が悪い。俗に言う守備の基準点を狂わされた状態だ。

加えて人を基準にする柏の守備は、ボール保持側のポジションチェンジによってバランスが崩れやすい。言い換えるなら、スペースを与えやすいということだ。

内側に絞る鳥栖SBに付いて行くのは、柏のサイドハーフ。すると、大外レーンが空く。空いたレーンに顔を出すWGは、ドリブルでボールを運ぶことのできる岩崎。引きずられる形で出ていく片山。サイドの深い位置にスペースが空き、そこから前進されてしまう。

鳥栖は試合を通じて、人への意識が強い柏DFを引っ張り出して(動かして)背後を取る、という動きを徹底していた。入念なスカウティングを感じる振る舞いだった。

鳥栖の前進方法に適応する時間もなく大外でのトランジション合戦の応酬から早々と失点する柏。

柏は前傾姿勢となっているためトランジションで奪い返せないと後方には広大なスペースが広がっている。失点直前の「片山vs岩崎」という構図は質的優位性を鳥栖にとられた格好だが、そもそも仕組まれていた(狙われていた)展開だったといえる。

 

失点後も基本的にはロングボールでの陣地回復を優先する柏だが、ターゲット役である細谷と山田は空中戦に強いタイプの選手ではないため、そこから自分たちのボールにするのは難しいというかそもそもそんな仕事は期待されていない感はあった。

どちかと言えば深さを取ることでチーム全体を押し上げる。そして、ロングボールの次のフェーズであるセカンドボールの回収に貢献することが求められている印象だ。セカンドボールの回収は良い。なぜなら後方からポゼッションで前進を図らずとも、攻撃陣が前を向いてプレーすることができるのだから。

鳥栖鳥栖で足元の前進に固執する様子はなく、大外の選手がフリーの場合や柏の背後を突ける状況であればシンプルに狙っていく柔軟性を備えていた。普通のチームより繋ぐ意識は強いけれど。ポジショナルはイコールでポゼッションではないのだと教えてくれている。

セカンドボールの回収という局面にスポットをあてても、ビルドアップの形が2323である鳥栖としては、IHは対応しやすい。仮に柏の最終ラインが跳ね返したとても再度自分たちのボール保持を再開する準備はできていた。柏のプレッシング強度が高いことを織り込んだ上での二段構えである。

同じロングボールではあっても、トランジション合戦からカオスを生み出したい柏と再度クリーンな形でボールを握りたい鳥栖で、はっきりとチームカラーの分かれる興味深い立ち上がりだった。

しばらく……というより試合を通じて鳥栖の保持で時計の針が進む。

豊富な運動量が自慢な柏2トップでも鳥栖のビルドアップ隊を相手にするのは中々厳しいものがある。ましてや数的振りの局面である。アンカーへのパスコースを消すのが精一杯で、2トップ脇からの前進まではケアできない。

柏はファーストプレッシングを剥がされた際の対応、基準点の再設定ををチームとして用意していない印象だった。サイドハーフがサポートに出るのか、出るならこれまで見ていたSBは放置するのか受け渡すのか。

列間での連動性のなさというか、2トップの運動量頼みという守備の脆さと不安定さはやはり残留の掛かる一戦でも露呈した。サヴィオと山田(雄)自身もどこまで追いかけるべきなのか、誰を見るべきなのか迷いながら守備をしているように見えた。

迷う柏に対して淡々と前進を図る鳥栖。予算的に難しい側面もあるのだろうが、アタッキングサードで質的優位性を確保できるようになったらさらに恐ろしい存在になりそうだと思った。そういう意味で鳥栖にとって岩崎の流出は非常に痛いが、毎年選手を引き抜かれながらもこれだけのチームビルディングを見せる川井監督はとても優秀である。来季も楽しみなチームである。

終わりに

試合の展開に目を移すと、基本的には鳥栖保持→柏のプレッシング→鳥栖が剥がせるか否か?を繰り返す構図で推移していった。柏はHTにサイドハーフの役割を整備し、ゾーンに近い形で守備を行うようになる。正確にはハーフスペース近辺に立たせることで外へ誘導したい印象を受ける。外への誘導は相変わらず2トップ任せの部分があったけれど、それでも予めボールの行きつく先が分かっていれば守備も幾分しやすいだろう。

加えて、プレッシングを継続することで鳥栖からボールを奪い返すことのできる局面もあった。ただ、そこからのポゼッションは想定しておらず、再び鳥栖ボールで……といつも通りの推移でゲームは過ぎていく。

今回はリハビリがてらの更新。1回しか観ていないので事実誤認もあるかもしれないので、そこはご容赦いただきたい。

【柏レイソル】2023シーズン・レビュー

シーズンの振り返りと言っても、ネルシーニョ前監督時の振り返りは一度まとめているので、ここでは監督交代以降を中心に振り返りたい。

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2023シーズンは「整備」の時間だった

チームビルディングに二つのフェーズがあるとしたら、今季はまさしく「整備」の時間だったと言えるだろう。

「整備」と「構築」は別物である。荒れた田畑を耕すことと、そこで何かを栽培することはまるで違う作業だ。

正直、今季ピッチ上で表現されたものはネルシーニョ監督時代とそれほど大きく変わらない印象だ。

もちろん、守備は一定程度の整備が行われ、データという観点からも攻守ともに改善が図られていることが証明されている。

しかしながら、より具体的にピッチで起こった現象を掘り下げていくと、守備においては属人的な部分は否めなかった。攻撃においてもポゼッションでの前進を落とし込むことはできず前体制からの課題は引き継がれている。サステナブルな組織であったかと問われたら疑問符が浮かぶ。

ネルシーニョ体制発足時点からチームを見ていたことから、「チームへの理解」を評価された上で「早期に結果を出す」ことを求めての登板だった。ただ、「整備」までに要した時間や得られた「結果」、ピッチで表現されるサッカーを見ると物足らなさを感じてしまうのも事実だ。

無論、シーズン途中の監督交代であったため、質を追求する時間がなかった側面もあるだろう。敢えて攻撃には手を付けなかったという大谷コーチの証言もあるほか、ネルシーニョ監督時は選手が委縮してしまっていたという言葉も印象的である。内部でどのような変化が起きたのかまでは分からない。

前置きが長くなったが、ここではピッチ上での現象と選手や監督、番記者のコメントを基に今季の井原体制を振り返っていきたい。

攻撃の修正から始まった井原体制

就任会見の質疑応答

ネルシーニョ監督退任時点で得点数はリーグ最下位だった。

そのような状況とあって、就任会見では攻撃に関する質問が多く寄せられている。

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有料部分なので詳細は省くが、攻撃部分の梃入れから着手するような印象を受ける会見内容だった。キーワードとしては「保持の時間を長くする」「相手陣内に押し込む」「ゴール前の人数を増やす」といったところだろうか。

右肩上がりの【3-2-5】可変システム

攻撃という課題に対して井原監督が選択した回答は、右肩上がりの【3-2-5】可変システム採用だった。

保持では縦に急がずパス回しにGKを組み込みながら時間を確保する。その間に右SBを高い位置に移動させることで横幅を広く使い、敵陣に選手を多く送り込むことを意識した。

ミシャ式に限りなく近い考え方で、数的優位の確保を重視する戦い方で得点力改善を図った。

5枚で横幅を確保する戦い方は4バックの相手との相性も良く、就任初戦のヴィッセル神戸戦では変化の兆しも見られたほか、結果的に敗れたものの上位マリノスのプレッシングを相手に地上での前進を成功させる局面も見られた。

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得点自体も「増加」はした。

ただ、この一点のみで攻撃が改善されたと表現するのはやや強引だと個人的には考える。なぜなら、得点増加の大半は乱打戦の札幌戦で稼いだものだからだ。

相手コーナーキックからの独走ドリブルなど再現性の低いゴールもあったほか、札幌自体が失点の多いピーキーなチームでもあるなど、外的要因によるところが大きい。

その証拠に6月10日の17節以降、リーグ戦で複数得点を記録するまで3か月もの時間を要している。

攻守は一体である、故に苦戦する

選手が瞬間移動できない以上、可変システムを効果的に運用するためには、ボール奪取後に配置を変えるための時間を稼ぐ必要がある。

しかしながら、これまで再三言及してきた通り、ポゼッションに関して前体制からの積み上げは全く存在しない。

そのため川崎や新潟、FC東京といったポゼッションで主導権を掴みたい相手との相性は非常に悪い。

付け焼き刃のポゼッションは、もとよりポゼッションを志向するチームを相手に太刀打ちできない。むしろ、中途半端なポゼッションは相手のプレッシングを誘発するトリガーとなった。

なぜなら相手はボールをポゼッションしたいのだから、全力で奪いに来て然るべきなのである。自分たちがボールをポゼッションするためには、相手からボールを奪わなければならない。

相手のプレッシングを回避するために柏の中盤の選手は後方に降りていくようになる。すると前線の選手が孤立し、前後が分断された状態に陥った。

プレッシングを受けてロングボールを蹴らざるを得ない状況になっても、中盤が空洞化している状況のため、セカンドボールの回収役がいない現象が発生する。ターゲット役の細谷は空中戦に強いタイプの選手ではないし、その役割を担えるはずのドウグラスはコンディション不良により欠場が続く。

また、ポゼッションで敵陣への前進に成功した場合も、発想が数的優位の考え方だけでは【4-4】ブロックを構築する相手にしか可変システムの効果は発揮できなかった。5枚で横幅を埋められる対策を取られると途端に苦しい展開となった。

さらに、保持⇔非保持で配置を変えるということは、それだけトランジションで煩雑なタスクを求められることを意味する。元々守備の基準が曖昧だったところにトランジションでの負担も加わり、内容も結果も出ない時間が続く。

いよいよ手詰まりかと勝ち星から遠ざかったところで、恵の中断期間に入る。

夏の中断で行った「守備の整備」

本当に悪いのは攻撃だったのか

ここまで攻撃を中心に振り返ってきたが、この時点(というかネルシーニョ体制)での課題が攻撃だったのかは疑問が残る。

ネルシーニョ体制から継続された課題として、相手が柏対策として特別なことを用意してきた訳ではないゲームにも関わらず守備が嚙み合わない現象が散見された。どれだけ強度の高い選手を集めても、相手のビルドアップに嚙み合わなければ強度は発揮できない。

それは次第に迷いへと繋がる。前から行っても噛み合わない。撤退してもそこから反転の手段がない。「迷い」とは守備の基準が曖昧になっていくことであり、秩序を失っていくことを意味する。

前線からの守備で生じたズレを最終ラインとGKが気合いと根性で何とかする”丸投げ”の構図で勝ち点を落としていった。直近数シーズンの低迷の要因もほぼほぼここに集約される。

ネルシーニョ体制終盤以降は、もはやプレスも撤退も機能せず、基準すら存在しない無秩序な状態だった。

サッカーにおいて、「攻守」はシームレスなものである。相手からボールを奪わなければ攻撃を開始することはできないことを鑑みると、低迷の原因は攻撃だけではなかったと言えるだろう。

そもそも守備の整備とは何か?何を修正したのか?

残留のためには、とにかく失点を減らすことが重要である。なぜなら、失点を0に抑えれば勝てなくとも負けることはないからだ。

そうした状況であったことから、チームはガンバ戦後の中断期間でネガティブ・トランジション(攻撃から守備への切り替え)とプレッシングの整備に着手する。

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ここでいう守備の整備とは、守備の優先順位としてボールへのアタックを徹底することだった。

大谷・栗澤コーチのコメントにもあるように中断期間以降、ボールロスト後のファーストアクションで相手ボール保持者へアタックする意識が非常に強くなっている。

そのまま奪回できれば相手の準備が整う前に細谷とサヴィオの質的優位を活かし、少ない手数でゴールに迫ることができる。

また、仮にそのまま奪回ができなくても相手の攻撃を遅らせることで自分たちがブロックを構築する時間を確保できれば、失点のリスクを減らすことができる。

実際にこの守備の整備によって1試合あたりの失点数は1~21節の1.6点から22~34節の1.1点まで0.5点ほど改善した。

そのほか、KAGIについては広島に次ぐリーグ2位でシーズンを終えた。KAGIは定義が少し難解なので簡単に説明すると相手のカウンターを許さなかったと捉えて良い(敵陣で守備する時間が長いとか一回当たりの攻撃を長くさせたという意味)。

「守備」の整備がもたらした「攻撃」の改善

また、この守備の整備は副産物として攻撃の改善にもつながった。

ポゼッションの低下により進入系データは軒並み低下したものの、1~21節と22~34節での比較では、得点は0.9点から1.2点へ、シュート本数も8.8回から9.4回へそれぞれ増加(1試合あたり)。少ない攻撃回数でより効果的にシュートまで持ち込んだと表現できる。

攻撃を仕込む時間がない中で得点力のアップや攻撃の再現性を高めていくためには、現状のスカッドでは細谷のスピードやサヴィオのクリエイティブなプレーを最大限に活かすことが手っ取り早かった。

二人が質的優位性を発揮できる局面とは、つまり、相手の守備が整っていない状況だ。守備からの速攻であれば、そのような状況で二人にボールを届けることができる。

そのため、相手がボールを保持してくれるポゼッション型のチームとの相性は良かった。実際に21節以降で勝ち星を挙げた4勝のうち3勝(マリノス横浜FC、札幌)はボールを保持したいチームが相手であったし、記憶に新しい天皇杯・決勝の川崎もまさにそのようなチームである。

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守備の改善を支えた2トップ

守備の改善についてもう少し掘り下げたい。

中断期間以降の守備を支えたのは細谷と山田康太の2トップといえる。

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細かい立ち位置の修正を繰り返し、中央を閉じながら選択肢を削るプレッシングの質は非常に高く、絶え間のないシームレスなトランジションはもはやチームの生命線であった。

相手がGKを混ぜながら柏のプレッシングを回避しようと試みても、深くまで追い掛ける。柏のFW-SH-CH間での連動に怪しさが窺える局面は散見されたが、2トップの2度追い3度追いはもちろん、プレスバックなどといった献身性が守備の安定を支えた。

敵陣に誘い込まれてラインが高くなったとしても、相手ボール保持者へ圧力を掛け続ければクリーンなボールが前線に入ることはない。

2トップのプレッシングとトランジションによって相手ビルドアップ隊から選択肢と自由を削り続けたことで、ロングボールの質を低下させることに成功した。

リーグ後期は相手のロングボールによる前進を最終ラインが跳ね返す場面が多く見られた。タイミング的にも途中加入した犬飼の功績であるようにも見えるが、これは2トップがクリーンなロングボールを入れさせなかったことが1番の要因だと個人的には解釈している。

このような観点から、守備の改善に一番貢献した選手は間違いなく細谷と山田康太の二人と言える。

 

しかし、これは諸刃の剣でもあった。

前述の通り、2トップには非常に高い強度が求められる。90分間それを維持することは難しい。

そのため試合が推移するにつれて次第に前線からのプレッシング強度が低下していく。相手のビルドアップ隊に牽制が掛からなくなり、徐々にラインの後退を余儀なくされるようにな展開は記憶に新しいだろう。

自陣でのプレー時間、それも守備の時間が増えれば当然失点のリスクは高まっていく。終盤のPK献上が印象的だが、高い位置でプレーをしていれば不慮の事故も回避することができる。

また、本来は攻撃でクオリティを発揮させたいはずの二人に守備でのハードワークを求めているということは、それだけリソースを割いているということでもある。

1選手が1試合の中で動ける量には限りがあるのだ。

再現性に欠けたチームビルディング

サステナブルではなかった? メンバー固定によるメリットと弊害

勝ちきれないゲームが多かった最大の要因は、厳しい言い方をするなら、再現性の低いチームビルディングが要因と考える。

サステナブルな組織を作ることができなかったということだ。

特に生命線であった細谷と山田康太のプレッシングやトランジションは組織的なものではなく、二人のインテリジェンスやセンスに依拠したものだった。

シーズン途中の監督交代で守備を仕込む時間がなかった側面も一定程度は同情しつつも、一向に列間で連動する気配のなかったプレッシングなどを見ると恐らく時間の問題ではないだろう。

強度の高いサッカーに再現性の低さはクリティカルな問題だ。

本来、試合終盤にかけて低下していく前線の強度を選手交代によって補っていくことが求められる中、途中投入された選手に細谷と山田康太のタスクを担うことは難しかった。それほど先発2人のクオリティが高かったとも言えるし、誰が出ても変わらない守備を仕込むことが出来なかったとも言える。

監督交代以降は、ルヴァン杯という実戦で戦術を落とし込む時間や控え組のテストを行う機会もほとんどなく、先発を固定し限りなく小さなユニット内で再現性を高めていくほかなかった。

その結果、短期的に勝ち点を積むことには成功し、「先発組がフレッシュな時間」に関してはある程度の内容を担保できた。

一方で、強度低下や負傷離脱、累積警告によってメンバー交代を余儀なくされると内容も結果も厳しい展開が続いた。

天皇杯は奇跡か?

このゲームはクラブにとっても貴重な財産になる。特に土屋や山本を中心に若手も出場機会を積むことができた。この経験は着実に未来へつながっていくはずだ。

ただ、ゲームの内容自体がサステナブルなものだったかと言えば疑問符が浮かぶ。

つまり、来季の開幕戦からこの強度のゲームを継続できるのか?という意味である。

決勝が拮抗した展開となった要因は、ボールを保持したい川崎に対してトランジションが武器の柏という戦術の噛み合わせが良かった点は見逃せない。さらにいえば、ピッチコンディションも味方した。

また、強度を維持できた要因がどこにあったかと言われたら、6万人超の観客が集まる決勝という特殊な舞台がいい方向に作用した側面が非常に大きいと個人的には思う。決勝補正と僕は呼んでいる。

厳しいことを言うなら、あの強度のゲームを来季開幕から、更にはシーズンを通じて継続することは難しいのではないか--というのが個人的な見解だ。

続投について思うこと

柏レイソルはどこに向かうのか

井原監督の続投が発表された。

今季ピッチ上で表現されたアウトプットには限界と将来性に疑問は感じつつも、準備期間の少なさや歪なスカッドネルシーニョ体制で蓄積された負債を支払わされた側面など一定同情の余地はあると考える。

実際に敢えて攻撃には手を付けなかった旨のコメントが大谷コーチから出ており、スカッド構築段階から関与できる来季はもう少し違ったサッカーが観られるかもしれない。

ただ、前体制が終了したタイミングで公開した記事でも言及しているが、僕は井原体制を継続すること対して常に疑問を投げかけている。

この体制で「結果」が出たとして本当にそれでいいのか、と。

これは体制批判ではなく、ただの問いである。

仮に井原監督で結果を残したとして、本当にそれで良いのか。

もしも結果が出なかった時に受け入れることはできるか。

もしも結果が出なかった時にクラブとして何が積み上がるのか。

その「勝ち方」や「負け方」に信念はあるのか。

「ただ勝てば良い」という思考は、この6年間の停滞をもたらした思考そのものではないか。

このクラブがどのようなサッカーで、何を成し遂げたくて、なぜ井原監督にお願いしているのか。

こうした部分を整理し、経営層とコンセンサスを握り、人事や補強など具体に落とし込むことがGMに求められる仕事である。

布部GMにはこのあたりの説明は求めたいところであり、ここがクリアにならない限り、本当の意味でネルシーニョ体制から前進したとは言えないと個人的には考えている。

何れにせよ、来季の監督人事が固まったことでストーブリーグも本格的に開幕である。続投ということであれば補強すべきポジションや必要なタイプの選手は明確だ。ここ数シーズンも強化部はしっかり現場の要望に応えている。来季に期待できるかどうかは……スカッドが固まったころにまたここで書いてみよう。

来季こそ、このブログを更新したいと思えるゲームが増えることを祈って。

vs湘南ベルマーレ(2023明治安田生命J1リーグ 第20節)

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「ミドルゾーンに構えたところからカウンターを狙う湘南vsボールを握る柏」

前半は柏がキックオフ直後、後ろに戻さず縦に付けた"奇襲"を行ったこと以外は、基本的に「ミドルゾーンに構えたところからカウンターを狙う湘南vsボールを握る柏」という展開で推移した。

今季の湘南は【5-3-2】を基本布陣として採用しているものの、この日は【3-4-1-2】を選択。変更の意図を読み取ることができなかったが、山口監督のコメントを読んだ限りでは、対柏プランだった模様。椎橋のコメントにもあった通り、このシステム変更は柏としても予想外であったことが窺える。

柏が保持の時間を増やすことの出来た要因

立ち上がりから数分が経過したところで、試合は柏がボールを保持して進んでいく。

要因はいくつか存在するが、一つは柏のGKを用いたプレス回避。

湘南はロスト直後、強度の高いプレッシングでボール奪取を目指す素振りを見せたが、柏は松本にボールを戻しながらプレッシングを回避していく。湘南の2トップに対して、柏は古賀+立田+松本の3枚で数的優位を確保することで、自分たちがボールを保持して時計の針を進めることに成功した。

2つ目は、湘南がミドルゾーンに【5-2-1-2】を構え、カウンターを目指す構図だ構える選択をしたこと。失った直後はボールを奪う素振りを見せた湘南だが、夏場であることなどを踏まえ、二度追い三度追いのようなどこまでも追い掛けるアグレッシブな選択はしなかった。少しずつラインを後退させていく。ラインを下げるということは、相手のビルドアップ隊が時間を得ることを許容することでもある。

柏のポジトラは原則ありきではなく、その場の判断での最適解を選択していくというものだ。行ける時は行く!という曖昧さが結果的に良い方向に作用した。一方、困った時に立ち返る場所……基準が存在しないことでもあり、諸刃の剣でもあるのかもしれない。良くも悪くもネルシーニョ体制時代の名残と言えるだろう。

更に付け加えるならば、柏が時折見せるボール奪取直後のフロートやサヴィオ、小屋松が背後を取るカウンターも湘南のラインを後退に寄与した。深さを取る担当がフロートで湘南の最終ラインを引っ張りつつ、サヴィオや小屋松が個の力でドリブルで運ぶ。

個人的にはこれこそがフロートの正しい使い方だと考えていて、ロングボールを入れて空中戦という起用法には再現性が感じられないと思っている。

「考える時間」を手にした柏、次の作業はプレッシングを越えていくこと

何はともあれGKをプレッシングの回避先としたことで、ボールを保持することに成功した柏は、ビルドアップの出口を探るようになる。ボール保持に成功した次は、湘南の2トップをどのように越えていくかという作業に移行していく。

直近の柏は保持に際して右肩上がりの可変を行い、反対サイドのWBをビルドアップの出口としている。ただ、湘南は元より最終ラインを5枚で横幅を封じる布陣であるためシンプルな可変では効果的な攻撃は難しい。

そのような中で、印象的だったのは椎橋を古賀の横に降ろし、ジエゴに高い位置を取らせる形だ(先制点のシーンなど)。【立田-古賀-椎橋】で組み立てながら、湘南の2トップ脇を出口にしていく。椎橋のコメントにもある通り、当初の想定とは違うシステムを用意してきた湘南に対して、どこが空くのかを考えながらプレーする事ができたという意味で、前から来られなかったのはとても有難いと感じた。

「考える時間」の確保に成功した要因の一つとしてジエゴの貢献は大きかったと思う。無闇にボールへ近寄らず、高い位置に張ることで、相手のWBを張り付けることに成功した。高い位置に留まることで、柏のビルドアップ隊に掛かる圧力を軽減し、スペースや時間を所有したままプレーすることが出来る。つまり、降りてこないことがCBへのサポートである。

2トップ脇やトップ下の脇で戸嶋や椎橋にボールが入る場面も多く見られ、二人を経由してから大外の深い場所へ小屋松をランニングさせるシーンが何度か見られた。

ただ、そこから先の前進〜崩しの部分の仕込みは今一歩で、攻撃がシュートに至ったシーンは少なかった。換言すれば、湘南の陣地でボールを失うことが多かったという意味でもある。

それでも湘南のカウンターが効果的に作用する回数が少なかったのは、やはり湘南のWBを押し下げることに成功したからだという側面は大きい。

余談だが、最終ラインを5枚にする形で撤退した場合に、後ろに重たくなって陣地を回復できず防戦一方という展開は、昨季の柏を想起させるものだった。ドウグラスの離脱と町野の放出は似ているところがあるかもしれない。

話は逸れたが、相手陣内でのプレー時間増加は、苦し紛れの打開を強いるという点でCBの古賀・立田が迎撃でほとんど負けなかったことからも非常に良い方向に作用していた事が分かる。普段、彼らが強いられている負担を少しでも良いので理解してあげて欲しいと思う。

逆に湘南が柏のネガトラを回避し反対サイドのWBを押し上げることに成功したシーンでは、【4-4-2】の柏としては横幅に蓋が出来ないことから一気に後退を強いられた。左サイド(柏から見て右サイド)から一気に攻め込まれるシーンが何度かあったと思うが、それは大半がこのパターンだった。

陣地を回復すれば、敵陣で守備が開始できる

敵陣までボールを運ぶことが出来れば、守るべきゴールから遠い場所で守備を始めることが出来るというメリットもある。

特にプレッシングについては、スカウティングと前回対戦(5月、平塚)の分析を徹底した様子が窺えた。

結果の出ていない今、特に守備では、臨機応変よりも規律によるタスクの整理・削減が重要なことだと思う。球際の厳しさ、デュエルに負けない意識はネルシーニョ体制から引き継ぐべきもの。

湘南のビルドアップ隊はCB3枚。そこに対して、フロートと両SH(小屋松、サヴィオ)を正面からぶつける。また、フロートと細谷は縦関係で、細谷-椎橋-戸嶋で相手の3CHを消す役割を徹底したことは、強みでもある強度を発揮することにも繋がった。

前述した通り、相手陣内で守備を開始することができれば(プレッシングを開始できれば)、苦し紛れのロングボールを蹴らせることができる。特に湘南のような今現在ポゼッションにトライしている段階のチームに対しては非常に効果的な一手だ。

前半はCBの古賀・立田が迎撃でほとんど負けなかったことからも非常に良い方向に作用していた事が分かる。決して退場を擁護する訳ではないが、普段彼らがどれだけの負担を強いられているのかを我々はもう少し理解してもいいと思っている。

 

vsヴィッセル神戸(2023明治安田生命J1リーグ 第14節)

「構築」より「整備」が求められる段階

現時点では最高の仕事

井原監督の初陣について雑感です。

即興の部分や選手の質に依拠したシーン、チャンス・クリエイトが多かったものの、それは織り込み済みだったような印象を受けました。

むしろその即興や選手の質を発揮することこそが狙いであり、細かい立ち位置やボールの動かし方など細部にこだわるよりも、選手を信じてある程度の自由を与え、ポテンシャルを引き出すことに徹した采配は、このタイミングに最も求められる振る舞いです。そういう意味で、現時点では最高の仕事だったと感じました。

「整備」とは何か? 今するべきこと・出来ること

準備期間が限られた中、目の前の勝ち点を獲得するために出来ることと出来ないことがあると思います。

「整備」と「構築」は全く違う仕事で、今するべきこと・出来ることは前者になるのかなと考えています。安全圏に浮上するまでは、理想よりも堅実さを優先し、手堅く勝点を拾っていくことが求められます。

前体制からの積み上げがない現状は、まず「整備」を行うフェーズにあります。荒れた田畑を耕す段階と言って良いかもしれません。少なくとも種まきのフェーズではありません。

では、柏の場合における「整備」とは一体何を指しているのか?

それは、選手のポテンシャルを発揮させる戦い方を選ぶことだと思います。

何故かというと不振の要因は大きく分けて、①予算規模が相対的に小さく選手の質で上回ることができないパターン、②選手個人の質は有しているものの戦術的な問題で力を発揮できないパターンの2つ存在すると個人的には思っていて、柏の場合は後者が原因です。

質で劣る場合は細部にこだわる戦術が必要で、長期的なチーム・ビルディングが求められます。ただ今回の柏の場合は、選手の室は有していることから、個性の発揮で勝点を稼ぐことは可能と思われます。

と、前置きが少し長くなりましたが、井原新監督がどのように「整備」を行ったのか書いていきたいと思います。

一番の変化は保持の配置

柏は、序盤から人を基準としたシンプルな【4-4-2】で前からプレッシングを行いました。人を基準とするシンプルな構造としたことでタスクが単純化され、強度を発揮しやすくする狙いがあったと思われます。

これまでのFWが一旦構えたところから出ていく、というよりは相手に時間を与えずに奪いに行くという選択は、準備期間を考慮すると非常に合理的だと感じました。

神戸は柏のプレッシング回避としては地上での前進は行わず、長いボールでの脱出を選択しました。風上にあったことや大迫という圧倒的な質を有する選手がターゲットとして存在することもあったと思います。柏がどのように振る舞うのか様子を見たかった側面もあるでしょう。

古賀・立田が大迫を抑える場面が多く、柏がボールを保持しながらゲームは推移していきます。

右肩上がりの【3-2-5】

一番大きな変化は保持での配置や振る舞いだと感じました。右肩上がりの【3-2-5】は、現時点での最適解です。

左右非対称 片山の秀逸なポジショニング

右から観ていきましょう。大外が川口で、内側が山田です。

これは、山田に中でボールを触って欲しいという側面と長いボールを蹴った時の回収役を担って欲しいという狙いが大きかったと思います。山田は強度の高い守備ができる(デュエルでは簡単に負けない)ことと、奪ったあとに中央で前を向いた際、クリエイティブなプレーによる攻撃の活性化が期待できます。

一方の左は小屋松が大外で、片山を内側もしくはCBと並行くらいの立ち位置を取ります。片山のような右利きの左SBは、大外に立ってしまうとプレーの選択が限定されるので、そこへの配慮かなと思いました。

内側であれば右利きでも小屋松やCHへのパスコースに角度を付けることができるほか、流れで大外に立ったときは、敢えて低い位置(CBと並行くらい)の立ち位置を取ることで、相手のプレスを引き込みつつ時間を稼ぐことをしていました。恐らく、片山の独断という印象を受けましたが、そのような選手の個人のクリエイティブなプレーを期待した采配だったと思います。

中盤に降りていく細谷と深さを取る山田

また、ネルシーニョ体制時は裏へのランニングに専念していた細谷が中盤に降りることで中盤に数的優位を与えた動きも大きな変化でした。

古賀や立田から縦パスが刺さる場面が多く観られましたが、これは細谷が降りること(山田が内側に絞ることも含めて)で相手の守備者を撹乱させたことが効果的に作用したものと思われます。

でもトップが降りてくると深さを取る人間がいなくなる!というのが問題が浮上しますが、その役割を担ったのが山田でした。

背後へのランニングというハードワークを繰り返すことで相手のラインが後退します。相手の守備者を引っ張ることで(味方に時間を与える動き)川口やCHにボールを運ぶ余裕が生まれます。相手の陣地が押し下がる即ち、自分たちの陣地が回復することでもあります。

二人して裏を取りに行って被ってしまうシーンがあったり、細谷の特徴的に列移動をさせることが果たして最適解かなど深掘る余地は残されているものの、この短い準備期間の中では充分すぎるほどの「整備」であったと考えられます。

解き放たれたCH

個人的にはCHが敵陣の高い位置でプレーする時間が増加したことも印象的でした。

高嶺のコメントにもありましたが、恐らくリスクを取るようなプレーを制限されていたのだと思います。CHが推進力を発揮する場面がこれまでほとんど観られませんでしたが、神戸戦では積極的に攻撃参加する場面も多くありました。

これはチーム全体で陣地が押し上げることができていることの証明でもあります。敵陣に枚数を割くことができれば得点の可能性も高くなるほか、ネガティブ・トランジションに際してカウンタープレスを敢行できれば一から攻撃を構築する必要もありません。

もちろんネルシーニョ監督はそこから引っ繰り返されるリスクに対するマネジメントを行っていた訳で、決してその選択に優劣がある訳ではありませんが、攻撃の停滞感に対する解答として、CHの攻撃参加を組み込んだ選択はそれはそれで悪くないなと思いました。

第二期ネルシーニョ体制について思うこと

戦術面について

まずは戦術面について、時系列で振り返ってみたいと思います。

2019年

昇格が至上命題のシーズン。

しかし、序盤は大苦戦。編成が強度寄りだったこともあり、柏に対して構えてブロックを形成するチームに対して保持せざるを得ない展開や強度の高いプレッシングに対応できない試合も多かった。

システムや選手の入れ替えながら、最適解を見つけるまでに時間を要した。

オルンガがリーグに適応し、【4-4-2】でシンプルに質的優位で殴っていく形が嵌った夏場以降は順調に勝ち点を積んで無事に一年での復帰。

2020年

大型補強でJ1へ殴り込んだ昇格初年度。

コロナでの中断空け直後はコンディション面に不安があり(TM実施せず)連敗を喫したものの、リーグ全体でのトレンドとして保持に振ったチームが多かったことから「撤退カウンター型」の戦術が躍進に寄与した。また、一発勝負のカップ戦に向いている戦術でもあるためルヴァン杯は決勝進出を果たした。

しかし、シーズン中盤以降はオルンガを中心としたロング・カウンターを警戒して、柏にボールを渡してくるチームが増える。柏がボールを握る時間が増加してからは勝ち点が伸び悩むこととなった。

保持が出来ないながらも質的優位で殴ることの出来た2019年(J2)とオルンガの質による「撤退カウンター」が嵌った2020年。

ある意味ここまでの2シーズンは本気で保持に取り組む必要性に迫られなかったと考えられる。保持を放棄しながらも結果を残すことが出来たのは、相対的な質的優位とオルンガという特別な人材によるものであった。

2021年

オルンガ最大の被害者は柏――。

その言葉が示す通り、オルンガの去った柏は「撤退カウンター」の威力が大幅に低下する。強みと思われたロング・カウンターは、オルンガという強烈な個の質に依拠していたことが浮き彫りとなった。

2020年、2021年に質的優位性とオルンガの個で誤魔化していた「保持」という課題にここで正面から向き合うことになる。

当然この時まで全く取り組んで来なかった……というよりは、取り組まなくても何とかなってしまったので、積み上げはゼロに等しい。

カウンターも保持も出来ないという、先行逃げ切り以外に勝機はない非常にピーキーなチームになってしまった。

保持が出来ないから守備の時間が長くなり、失点が増加する。守備の時間が長くなるから、陣地が後退しボールの奪取位置が低くなる……そんな悪循環に陥り、21敗を喫し終盤まで残留争いに巻き込まれたシーズンだった。

2022年

前年の停滞に加え攻撃陣の主力大放出もあいまったことで、開幕前の予想では降格候補筆頭。

しかし蓋を開けてみれば、一時は暫定で首位に踊り出るほどの躍進を果たした。

シーズン序盤の細谷・ドウグラスを頂点にした【5-3-2】は、二人の質的優位性によってビルドアップ問題を覆い隠すことに成功した。

また、開幕・2節と相手に前半で退場者が出たことでスタートダッシュ。監督人事に揺れる相手との対戦が多かった事も大きかった。

とはいえ前期の躍進も基本的には相手に起因するものが多く、その証拠にリーグ後期は8月から未勝利。

原因は昨季から変わらず、結局保持が出来ないことが悪循環の始まりで、陣地後退と守備時間の増加を招くことになった。

2023年

昨年の攻撃陣に加えて、守備陣をほぼ総取り替え。

ただ、個人的にそれほど悲壮感はなく、補強戦略や最終的なスカッドの方向性としては、「保持」という課題を解決する為の補強であり、ロジカルな印象を受けた。

実際にちばぎん〜2節ぐらいまでは、キャンプから取り組んでいた保持が効果的に作用していた。チーム全体で前進するための配置もポジショナルなテイストが盛り込まれており、好意的に解釈できる内容だったと個人的には考える。

保持の時間を長くすることでチーム全体で陣地を回復し、敵陣でプレーをする。そうすることで、前年後期と比べて高い位置で過ごす時間が増え、ネルシーニョ監督の強みであるトランジションを発揮することができた。

これまでの課題に対して真摯に向き合い、ロジカルなアプローチで解決を図っている印象だった。ここまでの積み上げがゼロであることを踏まえると完成度を高めるためには今しばらく時間を要するだろうとは思ったものの、着実に良い方向に進んでいる手応えがあった。

しかし、3節の福岡に敗れてブレる。スカッドが変わっているのにも関わらず、昨年までの戦い方に戻したことで、保持も守備も出来ないチームになってしまった。

チーム状態の悪かった鹿島と戦術的な相性が噛み合った湘南に何とか勝利したものの、内容は乏しく最下位の横浜FCに敗れて時間切れ、ついに決断に至った。

解決しなかった「保持」と同情の余地がある「事業面」での負担

解決しなかった「保持」

在任期間にわたって「保持」という課題に解決策を見出すことができなかった。

「保持」の優先順位が低かった2019年〜2020年はともかく、オルンガ移籍後(2021年〜)は目も当てられないクオリティであった。

前述したように「保持」という課題を解決できなかったことが、守備時間の長期化を招き、守備ラインの後退に陥ったことが成績低迷の大きな要因であった。

柏レイソルというクラブのアイデンティティに「アカデミー」があることや下平・前監督による保持型での躍進の反動も大きかった。サポーター感情としても、この戦い方での低迷は中々受け入れ難いものがあった。

ニュートラル」にならない守備、内向きになっていく選手起用

また、選手起用についても少しずつ内向きになっていった。

コンディションの良い選手を起用し競争を促すスタイルこそがネルシーニョで、2011年の優勝はこの戦い方がマッチしことが要因である。

しかし、組み合わせによる最適解を見つける戦い方は、ある意味で内向きの戦術でもあった。数年前の人件費がトップクラスにあった時期であれば、質的優位性の確保により効果的に作用した可能性も否定できないが、現代のフットボールにはそぐわなかった。

相手をスカウティングし、特徴を潰す「ニュートラル」が強みであったはずが、いつからか正解を自分たちに求めるようになってしまった。

個人的には「保持」を仕込めなかったことよりも、「ニュートラル」な展開に持ち込むことができなくなったことが一番悲しく、切なさを感じた。

「事業面」での皺寄せには同情する部分も

ただ、同情する部分も確かに存在する。

それは財務の悪化という「事業面」(クラブ運営は「事業面」と「競技面」を分けて考える)での負担を強いられた点だ。直近2シーズンでスカッドの総入れ替えを図ることとなった点については、経営サイドにも大きな責任があると考える。

5シーズンという長期政権ではあったものの「事業面」での皺寄せが「競技面」へ影響を及ぼしたことで、長期的なチーム・ビルディングができなった点は否定できない。

そういった事情からクラブとしても「解任」というアクションを早期に取ることが難しかった側面もあるのだろう。

何故この時期か? 財務への影響は?

ではその「事業面」、つまり財務についてはどうだろう。

そもそも何故この時期まで引っ張ったのか?

それは、柏の決算は3月であり新たな決算期を迎えたことで「身動きが取りやすくなったから」というのが一番の要因ではないかと考えている。「3月下旬から対話」とあるように決算期が変わるまでは実行できなかった側面も大きかったのではないか。

リリース文章における「双方合意の上で、退任」という表現から、恐らく違約金は発生しないと推察され、財務面への影響は軽微なものと思われる。

2020年の大型補強による10億円の赤字で財務状態は大幅に悪化したものの、ここ2シーズンの放出を伴う緊縮によって、2023年3月期決算で債務超過は解消に至ったのではないかというのが個人的な見解だ(開示は例年7月末なので、実態は今のところ不明)。

違約金が発生していた場合も、契約の残存期間を考えれば、それほど高額になるとは考えられない。仮に高額であった場合でも、柏レイソルのPL(損益計算書)は基本的には与えられた予算を使い切るような、つまり最終的な損益が±ゼロ近傍で落ち着くような運営を行っている。そのため、新たな決算期が始まったばかりであることから、調整を図るバッファーは残されている(夏冬の市場で獲得を控えるor売却にるキャピタル獲得)と考えられる。

退任に際して費用が生じなかったのであれば、新たな体制の構築へ資金を投下することも可能では?と考えることもできるが、クラブは井原HCの昇格を選択した。「事業面」の実態、つまり財務状態がどうなっているのかは現時点では分からない。7月末の開示を待ちたい。

VITORIA? この5年間は何の時間だったのか?

ネルシーニョというプロジェクトは、「失敗」と断言して良いでしょう。

得られたものよりも失ったものの方が多く、何一つとして成し遂げられないまま結末を迎えました。

この5年間……ネルシーニョ招聘に至ったきっかけである2018年の下平監督解任まで遡るなら、この6年間はクラブがただ停滞しただけ――悲観的に見るならば、何歩か後退した時間だったと僕は思います。

タイトルや優勝争いといった目に見える結果が出なかったことはもちろん、フットボールそのものの質を積み上げることも、財務状況を含む経営基盤の強化を図ることもできなかった。

文字通り、何も残らなかった。

クラブ運営についても排他的かつ閉鎖的な姿勢は強まるばかりで、コミュニケーション不足によってフラストレーションは溜まっていく一方。心の距離さえ離れてしまったと思います。

「結果」という相対的で不確実なものに全ての経営資源を投下し、対話やコミュニケーションを避ける状況にありながら、結果が出ていないのだから当然とも言えますが。

これが、「結果」だけを求めた「結果」です。

「結果」さえ出ていればそれでいいの? 柏レイソルの存在意義は何?

「勝ち」ではなく、「勝ち方」にこだわること

ネルシーニョの再登板に至った理由は「結果」を求めたからだと思います。

しかし、予算の大半を現場に投下する「現場主義」を含めて、僕はクラブの在り方について再考する時期に差し掛かっていると考えています。

ピッチ内外におけるこの6年間の停滞は、結局「勝ち」にこだわらなかったことではなく、「勝ち方」にこだわらなかったことが原因だと僕は思います。もっと抽象度を高めて言うなら、クラブの存在意義について考えることを放棄し「結果」という表層的なものだけを追い求めたことが原因です。

なぜなら、勝敗や成績というものは、相対的かつ自分たちでコントロール出来ないものだからです。

どれだけ自分たちが現場に全力を注いでも、それを上回る相手が出てきたら結果を出すことは難しいのです。勝負事であり、不確定要素の多いサッカーです。時の運が左右することだってあるでしょう。

事実、かつてリーグトップだった人件費は、いつからか柏を上回るクラブがいくつも出てきました。質的優位とは結局「資金力」に他ならないのです。自分たちだけの論理で勝負できる時代は終わりました。

スポンサーからの資金捻出のみならず、自助努力による収益拡大、経営基盤の強化を図らない限りジリ貧です。周囲が大人になって可処分所得を増やしているのにも関わらず、自分だけお小遣い制による節制を迫らている状況と違いはありません。

柏レイソルの存在意義は何? 強いことはアイデンティティ

勝敗以外の部分に信念や拠り所、貫くことのできる芯があれば、目の前の結果や成績に一喜一憂せずとも前に進めるのではないでしょうか。

少し回りくどく感じようとも、そうやって着実に歩みを進めることでしか届かない場所まで後退しています。このクラブとアジアの距離は以前よりも開いているのです。

その事実を我々サポーターも認識すべきです。今の柏レイソルには、アジアを戦う力はありません。

そこで重要なものが、クラブの存在意義……在り方です。

何のために、誰のために存在しているのか。柏レイソルの存在意義は何でしょうか。

僕自身は以下3点が柏レイソルの存在意義であると思います。無論、異論は認めます。

  • アカデミーを大切にすること
  • 千葉県柏市がホームタウンであること
  • 日立台がホームスタジアムであり、相手を飲み込むほどの熱狂があること

決して、強いことがアイデンティティではないはずです。

スポーツクラブ経営は、「事業面」と「競技面」を分けて考えることが一般的になってきました。比較的コントロールのしやすい事業面とアンコントローラブルな競技面です。

柏レイソルは競技面に経営資源のほぼ全てを注いでいる状況です。この際サポーターはさておくとしても、スポンサー様や地域の人々、この街に対して柏レイソルの存在意義を還元できているでしょうか。

もはや親会社からの資金拠出だけではリーグさえ勝ち抜くことはできなくなった今、さらなる事業規模、収益拡大のためにできることは本当にありませんか?

現状維持は衰退の未来――ではありませんか?

せめてこの失敗を価値ある時間にするために

新体制で状況が改善したとしても、それでいいのか

最後に「競技面」、新体制について思うことがあります。

それは、本当に井原さんで大丈夫ですか?

ということです。

体制批判ではありません。ただ問いかけているだけです。

仮に井原さんで結果を残したとして、本当にそれで良いですか?

もしも結果が出なかった時に受け入れることはできますか?

もしも結果が出なかった時にクラブとして何かが積み上がりますか?

その「勝ち方」に信念はありますか?

 

「ただ勝てば良い」という思考は、この6年間の停滞をもたらした思考そのものです。人は歴史から学ぶことができるはずですし、学ばなければなりません。

 

何れにせよ、新たな旅立ちです。

だからこそ、対症療法的な人事に思考停止をせず、今一度、柏レイソルに関わる全ての人が、柏レイソルがどんな存在であるのかを考える機会にして欲しいと思います。

このクラブの歴史を築き、前に進めた偉大な監督との2期目は悲しい結末に終わりました。

しかし、だからこそせめてこの時間を価値あるものとするために、僕たちはこの失敗から学ばなければなりません。

過去は変えられるんです。

今の僕たち次第で。

vs浦和レッズ(2023明治安田生命J1リーグ 第6節)

柏の【5-3-2】の狙いはどこにあったのか?

ボールを握る浦和に対して、柏はルヴァン杯・福岡戦同様【5-3-2】で迎撃という構図でゲームはスタート。

噛み合わせとネルシーニョ監督が【5-3-2】を採用する狙い、メリット・デメリットを確認する。

  • 浦和のビルドアップ隊3枚に対して柏は2トップ
  • 2トップ脇からの前進への対応が課題で、今季はここまでそこへの対応が曖昧だった
  • 一方で、前線での数的不利を受け入れる代わりに、最終ラインは同数で対応できることから後方のタスクは明確

今季の柏は4バックでも3バックでもFWのタスクは基本的に変わらない。CB-CH間のパスコースを遮断し、中央からの前進を阻止することが最優先。その影響もあって守備は一度、ミドルサードに陣形をセットしたところから開始される。ミドルサードに引き込み人を捕まえて、相手がボールを戻したらプレスのスイッチを入れて奪いに行く、というのがメインシナリオだった。

整理されたFWとIHのタスク

しかし、浦和戦はこれまでよりも前線からのプレッシングに意欲的だった。

特にFWとIHのタスクが変わった印象だ。

CB-CH間のパスコースを遮断するタスクをIHが担う場面が多く見られた。そのため、2トップはサイドを限定するというタスクに専念することが出来る。

前半開始から〜15分ぐらいまでは柏の守備が嵌り、浦和が理想どおりに地上で前進できなかったことから、柏は敵陣で長くプレーすることに成功している。

左へ誘導することの多かったプレッシング

プレッシングについては左に誘導することが多かった。

これはボール奪取後、縦に早くボールを入れるに際して、フロートとサヴィオが中央でボールを受けられる状況を作りたかったからではないかと僕は考えている。

右サイドの深い位置に追い込んだ場合では、フロートとサヴィオがサイドに位置しているため、窒息することになるからだ。

実際にその仕組が再現性のあるカウンターに繋がったかどうかはさておき、2022年シーズン序盤の連勝中も左で奪って右のサヴィオへというのは多く見られたシーンでもある。

同時にサヴィオが守備に忙殺されて消耗しないための配慮でもあるだろう。

守備は嵌る。しかし、ボールを運べない。故に相手にボールが渡る。

仕込んだ守備で浦和のビルドアップを牽制し主導権を握りつつあった柏。

しかし、ここで「ポゼッションが出来ない」課題と再び向き合うこととなる。相手からボールを奪うということは、自分達がボールを保持するということだからだ。

ここで、柏の自陣保持vs浦和のプレッシングを見ていく。

柏の自陣保持は後ろを4枚に近い形に可変する。2CB-3CHで斜めのパスをコースを用意したいというのが狙いと思われる。

しかし、これは浦和もスカウティングの段階で織り込み済みとあって、【4-2-3-1】で噛み合わせて柏のパスコースを同数で遮断。 

パスコースを失った柏U18は、やはり地上で前進ができずフロートに長いボールを入れることになる。浦和はそこも含んだ上でプレッシングを仕掛けていることもあり、柏は相手にボールを渡し続ける展開に。浦和視点で言えば、ボールを取り上げることに成功する。

柏はここで地上での前進や、前進ができないにしても、ボールを握りながら時計の針を進めることができれば世界線が変わったかも知れない。

しかし、柏としては、守備が上手く嵌っている展開だったため、自分達がボールを保持することに固執する必要がなかったというのもあるだろう。相手にボールを渡せば、仕込んできた守備の局面を維持したまま試合を推移させることができる。

実際に試合後の選手コメントを読んでも「保持率は低いけれど、守備で主導権を握ることは出来ている」という印象を抱いていたようだ。

俗にいうニュートラル。ネルシーニョ監督の志向するサッカーが発揮された展開だったと言える。

次第に露見するビルドアップの出口

とはいえ、相手にボールを何度も渡すということは、良くも悪くも相手のビルドアップ隊に時間……つまり、前進のルートや柏の守備の仕組みについて考える時間を与えることでもある。

片方のサイドに圧縮しているといことは、反対サイドにスペースが生じることでもある。

浦和は、ポゼッションの時間とビルドアップの試行回数を増やすうちに、反対サイドに生じるスペースに気が付く。詰まったら後方で作り直して、反対サイドにボールを送ったらいい。それに気がついてから、CB間に下りなくなった岩尾のインテリジェンスもさすがというほかない。

柏のFWと3CHは横スライドを強いられる。気力で何とかする前半だったが、じわじわとボディブローのように体力を削られる。(後半にプレスの強度が落ちた一因)。WBの迎撃で対応するシーンも見られたが、出て行った裏のスペースや手薄になったポケット周辺を刺されて前半終了間際に失点。

簡単に振り返れば、「柏の守備が嵌る」→「柏がボールを奪うけど保持ができずに、浦和がボールを握る」→「浦和が攻撃を繰り返す内に穴がバレて沈む」という展開の前半だった。

最後に

ネルシーニョ監督らしさが発揮された前半で、プランAで過ごすことの出来た時間帯(特に前半開始〜15分くらいまで)は評価のできる内容だったと思う。

ポゼッション、ビルドアップ問題を隠すには、いかに敵陣でボールを奪うことができるかが重要で、もはや今の柏にそれ以外の解決方法はないように思う。

ただ、プランAがはまらなかった際に修正ができなかった、次の一手が打てなかった点に改めて限界を突きつけられたのも事実だ。

さすがにあれだけ攻撃の機会を与えれば、当初のプランに対する攻略法を見出してくるのが現代サッカーである。プランAだけで何とかできるほど易しい時代ではない。

リードした浦和が後半に入ってからも思いの外ボールを握ってくれたことで、柏が準備してきた守備を打ち出すことのできる展開で推移したが、あの状況を自ら作り出したわけではない点は加えておきたい。保持にこだわらず、シンプルにボールを渡してくるような相手だったら更に厳しい展開になっていたということだ。

 

点を取るためにはボールを奪わなければならない。

しかしながら、後半の勝負どころで消耗しきっていた前線。ボールを相手に渡し続けたツケはいつか支払う必要がある。ある意味で当然の結果とも言えるだろう。

消耗に合わせて交代カード切って人を変えるものの、あの手この手でプレッシング回避を目論む浦和のビルドアップに対応するチーム戦術レベルの修正は行えず、気がつけば大敗。

プランAしか用意のできない監督の限界を再び露呈する非常に厳しい試合だった。

vsアビスパ福岡(2023YBCルヴァンカップGS2節)

ルヴァン杯でも主力を起用 システムは【3-4-2-1】から【5-3-2】へ

ルヴァン杯ではあるものの、主力メンバーを起用。

試合後のネルシーニョ監督のコメントにもあった通り、主力により長い時間をプレーさせ、連携面の向上を図る狙いがあった。

システムについては、今季はキャンプから3枚と4枚を併用する旨の発言が監督からあったため、対戦相手に応じて選択することは想定どおりである。直近では名古屋戦で【5-3-2】、広島戦で【3-4-2-1】を採用している。

そして、この福岡戦では広島戦の【3-4-2-1】から【5-3-2】へ変更された。

その意図するところは、広島戦後に行われた監督会見の中で以下のように述べられている。

「良い形でボールを奪ってから簡単にボールロストする時間帯が非常に長く続いてしまった。たった5本のパスが続かない、そうこうしているうちに相手にボールを奪われて、逆にカウンターを喰らってしまう、そういう状況が続いてしまうと、当然ながら相手の攻撃も勢い付く」

長いボールでの前進に際して、フロートが孤立し時間を作れなかったことを問題点として認識している様子がうかがえる。

このため、初期配置で前線にFWを2枚配置することで、ターゲットを増やすことで前進を図りたかったものと思われる。

考え方としては昨シーズン序盤の細谷・ドウグラスの同時起用と似ているかもしれない。

序盤〜リードまで

柏はボール奪取後、縦に付けられる時はシンプルにボールを送る。

一方の福岡も基本的にはカウンター型のチームであることから、お互いに奪ってからは縦に急ぐ展開で、トランジション合戦の様相を呈した序盤戦。

ただ柏は、縦が無理ならポゼッションへ。

初期配置では3CBが福岡の3トップに噛み合う形となるため、状況に応じて古賀を上げて4枚っぽい形に。

ただ左は形が違って、三丸を高い位置に配して小屋松が降りたり降りなかったりしながらルキアンの周辺を漂うことで、ボール保持者(田中)に時間を与えるプレー。非常に知的な振る舞いだった。

また、土屋が福岡の1トップを引きつけてから高嶺に入れるシーンも何度か見られた。ビルドアップでも徐々に持ち味を出しつつあり、今後が非常に楽しみだ。

いくつか前進の手段を用意してきたものの、福岡の3トップのプレッシングは質が高くサイドで詰まってカウンターを食らう、もしくはボールを渡してしまう時間が増えていく。

 

しかし、何が起こるのか分からないのがサッカー。

不穏な空気になり始めたところで、セットプレーと相手のリフレクションに救われたカウンターで、柏が2点を先取する。

リード後の過ごし方

柏はリードを得たことで、ボールを保持しない時間が増える。

ミドルサードに【5-3-2】のブロックを敷くことで対応。

2トップはCB-CHのパスコースを遮断し、中央からの前進を防ぐことが最優先のタスク。

一方の福岡は3バックでビルドアップを行うため、【2トップvs3CB】という数的不利な状況。

福岡のビルドアップ隊は、この数的優位によってボールを握りながら、考える時間を稼ぐことができた。

福岡は柏の2トップ脇から前進し、柏のブロックを崩そうとする。

今季の柏はどのシステムでも2トップ脇から前進された際の対応が曖昧であるということがスカウティングの段階で浮き彫りになっていたようだった。FWが追い直すのか、IHが対応するのか、WBが出ていくのか。

これまでの監督会見等を鑑みると、直近で3バックを採用している一番の目的は、「最終ラインが相手の攻撃陣に対して同数で対応できる」ところにあると思われる。そのため、IHとFWで対応することが監督の求める正解なのでは?というのは余談。

プレッシングの枚数が合わない帳尻は最終ラインで合わせる!ということで、基本的に後ろはマンツーマン。CBはシャドーに付いていく構造。

そして、福岡はこの構造を逆手にとり、柏攻略を試みる。

保持時に山岸が降りることで、そこに付いていく古賀の空けたスペースから裏を突く。

古賀の背後に生じたスペースを狙う福岡。

柏は、福岡のビルドアップ隊にプレッシングが掛からない状態(数的不利のため)にありながら高いライン設定をしたことで、背走を強いられるシーンが散見された。

実際に1失点目も同じ構造から生まれたものであった。

 

【5-2-3】へのシフトで3バックに噛み合わせた形で縦のコースを牽制しながら前で奪う、もしくは、ラインを後退させることで背後のスペースを消すという手段を打つことができなかった。

ビハインドを負った相手に反撃の機会を与え続けることになり、2点差にも関わらず心を折ることの出来なかったリード時の過ごし方には大きな課題を感じた。

後半〜雑感

後半からラインを後退させる修正が入る。

これによって背後のスペースを突かれるシーンは減少した。

カウンター型の相手にボールを渡すことで「ニュートラル」な状況に持ち込んだとも言える。

なので、ラインを後退させる選択自体は、論理的な印象を受けた。

 

しかしながら、ラインを後退させるということは、ボールの奪取位置が低くなることを意味する。

つまり、ポゼッションで時間を作ることができない・陣地を回復できない柏にとっては、相手にボールを渡し続ける展開を受け入れる、ということでもある。

相手のパスミスから3点目を奪い一時的に2点差へと突き放したものの、守備の時間を減らすことができないためにひたすらサンドバック状態に陥った。

そして、最終的にはリードを守れずドロー。

 

失点シーンも個別・具体の現象にまで落とし込めば、不運なリフレクションとセットプレーに沈んだと考えることもできる。

しかし一方で、抽象度を上げて構造で考えたとき、相手にゴールの近くで攻撃する時間と機会を与えれば事故での失点が起こるのもある意味で当然の帰結と捉えることもできるだろう。

今回はchatGPTさんに書いて貰いました。

正確には、箇条書きでメモしたものをchatGPTに投げて、文章として返ってきたものを手直した形です。

僕の指示出しが微妙だったせいか普通に書くのと変わらないぐらいの時間が掛かりましたが、慣れたら結構使えそうな気がします。

次からは真面目に書きます。