vsヴィッセル神戸(2023明治安田生命J1リーグ 第14節)

「構築」より「整備」が求められる段階

現時点では最高の仕事

井原監督の初陣について雑感です。

即興の部分や選手の質に依拠したシーン、チャンス・クリエイトが多かったものの、それは織り込み済みだったような印象を受けました。

むしろその即興や選手の質を発揮することこそが狙いであり、細かい立ち位置やボールの動かし方など細部にこだわるよりも、選手を信じてある程度の自由を与え、ポテンシャルを引き出すことに徹した采配は、このタイミングに最も求められる振る舞いです。そういう意味で、現時点では最高の仕事だったと感じました。

「整備」とは何か? 今するべきこと・出来ること

準備期間が限られた中、目の前の勝ち点を獲得するために出来ることと出来ないことがあると思います。

「整備」と「構築」は全く違う仕事で、今するべきこと・出来ることは前者になるのかなと考えています。安全圏に浮上するまでは、理想よりも堅実さを優先し、手堅く勝点を拾っていくことが求められます。

前体制からの積み上げがない現状は、まず「整備」を行うフェーズにあります。荒れた田畑を耕す段階と言って良いかもしれません。少なくとも種まきのフェーズではありません。

では、柏の場合における「整備」とは一体何を指しているのか?

それは、選手のポテンシャルを発揮させる戦い方を選ぶことだと思います。

何故かというと不振の要因は大きく分けて、①予算規模が相対的に小さく選手の質で上回ることができないパターン、②選手個人の質は有しているものの戦術的な問題で力を発揮できないパターンの2つ存在すると個人的には思っていて、柏の場合は後者が原因です。

質で劣る場合は細部にこだわる戦術が必要で、長期的なチーム・ビルディングが求められます。ただ今回の柏の場合は、選手の室は有していることから、個性の発揮で勝点を稼ぐことは可能と思われます。

と、前置きが少し長くなりましたが、井原新監督がどのように「整備」を行ったのか書いていきたいと思います。

一番の変化は保持の配置

柏は、序盤から人を基準としたシンプルな【4-4-2】で前からプレッシングを行いました。人を基準とするシンプルな構造としたことでタスクが単純化され、強度を発揮しやすくする狙いがあったと思われます。

これまでのFWが一旦構えたところから出ていく、というよりは相手に時間を与えずに奪いに行くという選択は、準備期間を考慮すると非常に合理的だと感じました。

神戸は柏のプレッシング回避としては地上での前進は行わず、長いボールでの脱出を選択しました。風上にあったことや大迫という圧倒的な質を有する選手がターゲットとして存在することもあったと思います。柏がどのように振る舞うのか様子を見たかった側面もあるでしょう。

古賀・立田が大迫を抑える場面が多く、柏がボールを保持しながらゲームは推移していきます。

右肩上がりの【3-2-5】

一番大きな変化は保持での配置や振る舞いだと感じました。右肩上がりの【3-2-5】は、現時点での最適解です。

左右非対称 片山の秀逸なポジショニング

右から観ていきましょう。大外が川口で、内側が山田です。

これは、山田に中でボールを触って欲しいという側面と長いボールを蹴った時の回収役を担って欲しいという狙いが大きかったと思います。山田は強度の高い守備ができる(デュエルでは簡単に負けない)ことと、奪ったあとに中央で前を向いた際、クリエイティブなプレーによる攻撃の活性化が期待できます。

一方の左は小屋松が大外で、片山を内側もしくはCBと並行くらいの立ち位置を取ります。片山のような右利きの左SBは、大外に立ってしまうとプレーの選択が限定されるので、そこへの配慮かなと思いました。

内側であれば右利きでも小屋松やCHへのパスコースに角度を付けることができるほか、流れで大外に立ったときは、敢えて低い位置(CBと並行くらい)の立ち位置を取ることで、相手のプレスを引き込みつつ時間を稼ぐことをしていました。恐らく、片山の独断という印象を受けましたが、そのような選手の個人のクリエイティブなプレーを期待した采配だったと思います。

中盤に降りていく細谷と深さを取る山田

また、ネルシーニョ体制時は裏へのランニングに専念していた細谷が中盤に降りることで中盤に数的優位を与えた動きも大きな変化でした。

古賀や立田から縦パスが刺さる場面が多く観られましたが、これは細谷が降りること(山田が内側に絞ることも含めて)で相手の守備者を撹乱させたことが効果的に作用したものと思われます。

でもトップが降りてくると深さを取る人間がいなくなる!というのが問題が浮上しますが、その役割を担ったのが山田でした。

背後へのランニングというハードワークを繰り返すことで相手のラインが後退します。相手の守備者を引っ張ることで(味方に時間を与える動き)川口やCHにボールを運ぶ余裕が生まれます。相手の陣地が押し下がる即ち、自分たちの陣地が回復することでもあります。

二人して裏を取りに行って被ってしまうシーンがあったり、細谷の特徴的に列移動をさせることが果たして最適解かなど深掘る余地は残されているものの、この短い準備期間の中では充分すぎるほどの「整備」であったと考えられます。

解き放たれたCH

個人的にはCHが敵陣の高い位置でプレーする時間が増加したことも印象的でした。

高嶺のコメントにもありましたが、恐らくリスクを取るようなプレーを制限されていたのだと思います。CHが推進力を発揮する場面がこれまでほとんど観られませんでしたが、神戸戦では積極的に攻撃参加する場面も多くありました。

これはチーム全体で陣地が押し上げることができていることの証明でもあります。敵陣に枚数を割くことができれば得点の可能性も高くなるほか、ネガティブ・トランジションに際してカウンタープレスを敢行できれば一から攻撃を構築する必要もありません。

もちろんネルシーニョ監督はそこから引っ繰り返されるリスクに対するマネジメントを行っていた訳で、決してその選択に優劣がある訳ではありませんが、攻撃の停滞感に対する解答として、CHの攻撃参加を組み込んだ選択はそれはそれで悪くないなと思いました。