vsC大阪(1節・2021/2/27)アフター・オルンガの時代に

迫られるパラダイムシフト

 年間30点近くを叩き出すFWの移籍は、否が応でも戦術の変革を迫られます。パラダイムシフトです。

 柏レイソルは、これまで最大の武器であった【撤退〜ロング・カウンター】を捨て、【前プレ〜ショート・カウンター】という戦い方を選択することになりました。選択せざるを得なかったともいえますが。

 今回は、「なぜそのようなパラダイムシフトが起こったのか?」と「ぶっちゃけ開幕戦どうだったよ?」といったところに触れつつ書いていきたいと思います。

これまでの課題って何だっけ?

 オルンガの快足を最大限に活かすべく、【撤退〜ロング・カウンター】を選択した結果、2020年序盤は爆発的な得点力を発揮しました。

 しかし一方で、対策が取られ始めた晩夏以降、ボール保持できない・前進(ビルドアップ)できないという課題と向き合うことになります。つまり、「カウンターはエグいけど、保持はザル」というピーキーなチームになってしまいました。

 DF陣が保持よりも強度を優先した編成だったことや続出する負傷者、ボール保持を仕込むにしても過密日程でそこまで手が回らないなど、要因はたくさんありましたが、結局最後まで課題解決には至りませんでした。

 「カウンターはエグいけど保持はザル」という特徴から、それなら「柏にボールを持たせてしまえ」という対策を実践する相手チームが増加しました。

 撤退され(オルンガの走るスペースを消され)、ボールを持たされた挙句、苦し紛れのビルドアップがミスを誘発し、逆にカウンターを喫する展開を繰り返しました。

 得点パターンの少なさによって、上位進出を逃すことになりました。 

 それで、どうして前プレに?

 端的に以下の2点だと考えます。

  1. ボールの奪取位置を低くする(撤退する)必要がなくなった
    →オルンガ移籍でロング・カウンターの威力低下
  2. 高い位置で奪うことができれば、苦手なボール保持・ビルドアップという手段を省略できるから
    →ビルドアップ問題は未解決

 オルンガが不在となったことで、ロング・カウンターのために撤退を選択する必要がなくなりました。つまり、前からプレッシングを行うという選択が可能になりました。

 「前からのプレッシング=高い位置で奪うこと」です。

 30点取ったFWの代わりを獲得することは容易ではありません。

 それならば、高い位置、敵陣でのプレー時間を増やすことで補おうという解答です。

 ボールを奪取する位置を高くすることができれば、自陣での保持・ビルドアップの局面を省略することが可能です。

 

 また、補強でビルドアップ問題を解決できなかったことも要因として挙げられます。

 入国制限で新加入の外国籍選手が合流できていないことに加え、足元の技術に長けたCBの補強は叶いませんでした(今朝方、獲得に動いているとの報道あり)。上島のレンタルバックには期待が高まるものの、J1未経験とあって若干不安は残ります。

 保持・ビルドアップという課題に対して「人的リソースで解決!(=補強)」という解答を用意できなかったことから、「仕組み(戦術)で解決するしかない!」と前プレを選択したとも考えられます。

 

不安しかない開幕戦

 ここまでパラダイムシフトに至った理由を挙げてきましたが、ネガティブな印象は拭えません。

 唯一の武器であったロング・カウンターの威力は低下、もはや、武器ですらなくなってしまった上に、保持・ビルドアップという課題が未解決……厳しい船出となりました。

 加えて、始動から開幕戦までの準備期間はわずか3週間程度と、前プレという戦術を仕込む以前にコンディションがやべえんじゃないかと不安しかない開幕戦となりました。

 

あまり参考にならないかもしれない開幕戦

思いの外、上々だった立ち上がり

守備(前プレについて)

f:id:hitsujiotoko09:20210227212714p:plain    

 注目していたボール奪取位置については予想通り高い位置を選択しました。

 高強度のプレッシング、即時奪回(ゲーゲンプレス)による主導権の確保は、一定の再現性が認められたものと思われます。

 特徴としては、

  • 奪ったら縦に早く(ショートカウンター
  • 2トップは外切り気味で中に追い込む
  • 江坂はCB→CHのパスコースを隠しながら
  • 3CHのタスクは尋常ではない
    ①横スライドで相手のSBに出たところをケア
    ②場合によっては相手のCBまでプレッシング
    ③セカンドボールの回収
    ④ビルドアップの出口役

保持について

 課題の保持については、キャンプでトライ中とのことでしたが、思ったよりも改善が進んでいる印象を受けました。セレッソのプレッシングが緩やかであったことも一因だと思いますが。

 少なくとも、仕組みで解決しようという姿勢は感じられました。

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上島の退場で覆い隠された今後について

 以上のように立ち上がりは準備してきたものを体現できているように見えました。

 しかしながら、次第に柏のプレッシングに慣れていくセレッソは、ロングボールやサイドチェンジを行うことで、ボール保持の時間を増やしていきます。

 噛み合わせ的にも相手のSBにプレッシングが届きにくいことやCHのスライドが遅れるとサイドにスペースを与えてしまうことになります。

 柏は前プレ→ショートカウンターという循環が断ち切られ、次第に守備の時間が増加する展開となりました。

 用意したものをぶつけてゲームを支配→対応した相手が主導権を握り返す→対応した相手に対応する……という対話の積み重ねこそがサッカーです。

 ですから、柏のプレスに慣れたセレッソに対して、どのように対応していくのか……という点に注目していたところで上島が退場してしまいます。

 前からプレスを行うということは、背後にスペースが生ずることでもあるのだよな……と、サッカーは難しいなと考えさせられる場面でもありました。

 その後は、一人欠けた状態で前からプレスに出られるはずもなく、撤退を強いられる展開となりました。

 ボールを奪う位置が低くなれば、自陣からの保持・ビルドアップを行う必要があります。その部分の課題については、前述した通り未解決であることから、苦しい時間を過ごす展開となりました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 10人での時間があまりにも長かったことから、開幕戦はあまり参考にはならないのではないか、というのが僕の考えです。

 しかしながら、立ち上がり15分間の振る舞いに関してはポジティブな印象を受けました。

 プレッシングを剥がされた際のリアクションについては、上島の退場で有耶無耶となってしまいましたが、ネルシーニョ監督はその辺りの”対話”ができる監督だと思います。

 オルンガの移籍によってパラダイムシフトを迫られた柏レイソルは、前からのプレッシングによってボール奪取位置を高くするという解答を用意しました。

 厳しい状況に変わりありませんが、2021シーズンは始まったばかり……。Jリーグのある週末を、終なきアジアへの旅を、今はただただ楽しみたいと思います。

vsFC東京(ルヴァン杯決勝・2021/1/4) 大谷「一番上の『景色』をもう一度」

 大谷「一番上の『景色』をもう一度」

戦えることに喜びを

 これからつらつらと妄想を垂れ流しますけれども、そもそも、まずはこのような妄想を垂れ流せることに感謝を、戦えることに喜びを示すべきなのだと思います。

 棄権や辞退という選択肢が存在し、開催すらも危ぶまれた状況の中で、それでも決勝を戦う機会が残されていること。それは、この上なく奇跡なのではないのか、と。

 僕たちには積み上げてきたものがあって、自分たちの実力で勝ち上がってきた自信と自負があります。

 そして、このメンバーで戦い、結果を残せるのはこれが最後の機会になります。

 しかし、それにもかかわらず、積み上げてきたものを表現することができない、結果すら残らない。そのような結末は、あまりにも悲しい。何よりも悔しい。

 例えどんな結果になろうとも、結果すら残らないよりはずっと良い、と。

 だから、まずは、決勝という舞台を戦う機会を僕たちに与えてくれた関係者の方々に感謝するところから、戦いは始まるのでないかと思います。

大谷が使う「景色」という言葉について

北嶋秀明
「あの『景色』をもう一度見たかったから。」
(1999年のナビスコ優勝を指して)

 僕のアイドルである北嶋秀明は、2011年の優勝を語るときに「景色」という言葉を使います。

 当時、インタビューなどで頻繁に口にしていたことを覚えています。

 詩的で、それでいて胸に秘めた熱い思いが伝わる美しい表現だと思いました。言葉を大切にするキタジならではの言い回しが、個人的にものすごく気に入っていました。

 そしてここにきて、大谷キャプテンが同じように「景色」という言葉を使っていることに気がつきました。


【柏レイソル】2020YBCルヴァンカップFINALティザー~1999_2013_2020~

 キタジを意識した言葉なのか、自然と出た言葉なのかはわかりませんけれど、それでも、脈々と受け継がれてきたものがこのクラブにあることを誇りに思いました。

 それはまさに、文化が継承されている証なのだと。

 「受け継がれてきた」と言っても、たかが言葉でしょう?そんな大袈裟な……と言われてしまうかもしれません。

 しかし。

 たかが言葉、されど言葉です。

 言葉は歴史です。言葉には、魂と意志が宿ります。

 言葉一つで背負っているもの、積み重ねたものの重さを計ることができると思うのです。

 北嶋秀明という「言葉」を大切に扱う人間が発した言葉が、10年という時間を超えて今でも使われていることに、「このクラブはもっと大きく羽ばたける」と可能性を感じずにはいられません。

 このクラブにはタイトルを獲ってきた歴史と、世界を戦ってきた経験があります。

 「一番上の景色」を積み重ねたからこそ掴めるものがあるはずです。

 柏レイソルは強くなければならないのです。

 絶対に勝ちましょう。勝って、柏に帰りましょう。

 そして、どんな時も支えてくれた桐畑和繁警備隊に、はなむけのトロフィーを送りましょう。

 FC東京を知る

 ここから先は、蛇足です。興味のある方だけお付き合いください。

 ネルシーニョ監督の根幹にある考え方として「ニュートラル」を挙げることができると思います。

 「ニュートラル」とは端的に言えば、相手の長所を消すことであることから、FC東京を知ることは大切です。

https://www.football-lab.jp/fctk/

www.football-lab.jp

 FC東京の直近試合を観られなかったので、データから特徴を見ていきます。

攻撃について
  • シュートまで至った割合は・・・
    ショートカウンター19.4%・ロングカウンター20%
  • 一方で、敵陣ボール保持18.1%・自陣ボール保持5.6%
守備について
  • 「コンパクトネス」「※ハイプレス」の指数が高い
    ※このサイトでは、「ハイプレス」の定義を位置よりも強度としているようです。

  • 「フィジカルコンタクト」の指数が高い
  • 「最終ライン(ピッチの1/3より自陣寄り)」の指数が低い
    (撤退守備が少ない?)
カウンターを得意とする一方、自陣からの繋ぎは得意ではない

 データから読み取るFC東京は、ミドルゾーンにコンパクトなブロックを形成しながら、ボール奪取後の素早いカウンターで得点・チャンスを生み出しているようです。

 一方で、自陣からのボール保持がシュートに至ったのはわずか5.6%と、後方からボールを繋ぐ攻撃を行うチームではないことがわかります。

比較(2020年・柏 vs 2020年・東京)と展望

www.football-lab.jp

まずは守備から?カウンターを刺すために

 柏レイソルについては触れるまでもないと思いますが、基本的には両チームとも、

  • カウンターがシュートに繋がる確率が高い
  • 自陣からの保持がシュートに繋がる確率が低い

 という特徴を挙げることができます。

 一発勝負の決勝であることなどを鑑みると、両チームとも守備に基準を置きながら、強みであるカウンターを刺す機会を窺う試合展開になることが予想されます。

 しかしながら、カウンターを刺すためには、相手に高い位置を取ってもらう(=背後のスペースを空けてもらう)必要があります。

 相手のカウンターを驚異に感じる以上、自分達の背後を無防備に晒してまで(空けてまで)前からプレッシングを行うとは考えにくい、というのが私の見解です。

 少なくとも立ち上がりについては、両チームとも自陣低い位置にブロックを形成しつつ、自分たちの背後を消すことを優先する立ち上がりになるものと思われます。

柏レイソルはどう戦うか?

ロングボールによる前進が増加するケース

 背後のスペースを空けたくない、だから、積極的に前から奪いに行く選択をするとは思えないというロジックです。

 ただ、相手にボール保持されるということは、守備の時間が増加することを意味します。

 背後のスペースは空けたくないものの、守備の時間があまりにも増加するのは望ましくない、というのが本音しょう。

 しかしながら、上部データからも分かるように両チームともボール保持による前進は得意ではなく、再現性が見られません。

 自分たちのビルドップが相手の守備に引っ掛かること、それは即ち相手にカウンターを打ち出す機会を与えることを意味します。

 柏レイソルは今シーズン終盤、幾度となくビルドアップのミスから失点を喫しています。

 ある意味で、ボールを保持することがリスクになっている、と考えられます。カウンターの得意なFC東京が相手であれば尚更、その点は意識せざるを得ません。

 シーズンを通じて解決できなかったビルドアップが、たったの二週間で改善できると考えるのは、あまりにも楽観的、希望的観測だと思います。

 では、どうするか?

 繋げないのなら、自陣でボールを持たなければ良いのではないか?という発想がシンプルでわかりやすい答えではないか、と。

 地上でのボールポゼッションを避け、ロングボールによる前進を増加させることで、リスクを極力排除していくことです。

 相手の背後を狙ったものよりも、人に向けて蹴ったものが多くなるものと思われます。なぜなら、FC東京も当然に柏のカウンターを警戒し、背後を空けないような振る舞いをしてくるはずだからです。

 「ターゲットのFWvs跳ね返すCB」「セカンドボールの回収を巡る中盤の主導権争い」という試合展開で推移するものと思われます。

蹴らせてすら貰えないケース

 以上を踏まえた上で、次に考えられるのは、蹴らせてすら貰えないケースです。

 上記データでは、FC東京はボールホルダーへのアプローチが厳しいことがわかります。

 結果如何に関わらず、この日でシーズンが終了することから、日程を考慮する必要はありません。換言すれば、どれほど疲れようが関係ない。死なば諸共。高強度のプレッシングを行うことで、柏に時間とボールを与えないという戦い方を選択することも可能です。

 蹴る時間すら、押し上げる時間すら与えなければ、背後にスペースが空いていようが関係ありません。プレッシングを掛け続ければ良いのです。激しい運度量と高い集中力が求められます(ハイ・インテンシティ)が、早い時間でゲームを決めてしまえば、撤退を選択することも可能です。

 柏レイソル陣地でのボール奪取は、FC東京の得意なショートカウンター発動という状況でもあります。

 このケースで柏レイソルが求められる振る舞いとしては、キーパーを含めた後方の選手でボールを回しながら、相手のプレッシングを剥がす(回避する)こと、もしくは背後へ蹴っ飛ばす余裕を見つけることなどです。

 しかしながら、前述したようにプレッシングに対する耐性が乏しい現状では、ひたすら我慢する時間を過ごすことになりそうな予感がします。

ボールを持たされるケース

 続いて、ボールを持たされるケースです。

 ミドルゾーン〜自陣低い位置でブロックを構えながら、柏レイソルのビルドアップ隊に時間を与えつつ、ブロック内に侵入してきたら引っ掛けてカウンターを打ち出すという戦い方です。

 FC東京の代名詞的な戦い方です。

 柏レイソルとしては、12月の名古屋戦が記憶に新しいことと思います。ボールを持たされ、低い位置に撤退した相手を崩せず非常に苦しんだ末に敗戦を喫しました。

 ボールは保持しているものの、カウンターに怯えながら時間を過ごす、といいましょうか。

 「ボールは支配しているけれど、ゲームは支配されている」と表現される展開です。

 繰り返しにはなりますけれど、やはりボール保持による前進に再現性が見られない中で、不用意なボール保持、ビルドアップは被カウンターのリスクを増大させるものと思われます。

4枚なのか、5枚なのか

 今季は4バックと5バック(3バック)を状況に応じて併用した柏レイソル

 一発勝負の決勝で、果たしてどちらを選択するのか。非常に興味深いものがあります。

4バックのメリット・デメリット
  • メリット
    ①ポジトラ(守備→攻撃)および攻撃の局面でオルンガの周辺に人が居ることでカウンターの威力が向上する
    (オルンガが孤立しない、江坂が中央でプレーできる)
    ②バランスが良く陣地の回復、トランジションがスムーズ
    (ピッチ全体に満遍なく配置できるので)
    ②恐らく4バックでスタートするFC東京に対してプレッシングが噛み合う

  • デメリット
    ①太陽をSBで使うことになるのでビルドアップはより厳しく
    (東京に撤退されると崩せない、バランス崩した配置で被カウンターのリスク増)
    ②CBを3枚並べる3バックよりも守備の強度は低下

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5バック(3バック)のメリット・デメリット
  • メリット
    ①CBを3枚並べられる
    (決勝とあって守備を重要視)
    ②542(523)の布陣になる分、撤退を選択することになる=ロングカウンターを刺せる状況
    ③ビルドアップにおいて、太陽をハーフスペースに初期配置できることで、わずかながら保持の質が向上する

  • デメリット
    ①オルンガが孤立
    ②シャドー(江坂、クリス)のタスク増加
    (クリスの守備を免除すると守備の強度が低下)
    ③後ろに重たくなるので、押し込まれると厳しい

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 怪我人の回復状況次第・・・

 そしてもう一つ、戦い方を予想する上で重要な要素があります。

 それは、怪我人の回復状況です。

 特に三丸(10月18日の湘南戦以来、出場なし)。

 442採用時に太陽を左SBに置くことをデメリットとして挙げましたが、三丸が戻ってくれば、太陽を中央に戻すという選択肢が生まれます。それはそれで、守備の強度に問題が出てきますが、ビルドアップに限れば太陽+三丸の組み合わせは最適解だと考えます。

 また、リーグ戦で守備を支えた大南が代表を辞退したこと、神谷のベンチ外が続いたことなど、ここにきて怪我人が増加しています。前者は守備・空中戦の強度確保には不可欠であり、後者は個で打開可能なアタッカーであることは言うまでもありません。

 個人的な予想としては、三丸が回復していれば4枚、回復していなければ5枚なのではないかと予想します。

 「守備の強度を確保しながら、カウンターを刺すタイミングを窺う」がゲームモデルだとしたら、それを実行するための戦術が「ゲームプラン」です。

 皆さんも、あれこれ想像を、妄想を巡らせてみてはいかがでしょうか。

 

柏レイソルの2020年3月期決算について 10億円の赤字を考える

リーグ戦は小休止ということで、今更にもほどがありますが、2020年3月期決算について振り返ってみたいと思います。

結論からいきましょう。10億円の赤字(純損失計上)減収減益(売上と利益が減少)です。

柏が10億円超の赤字もJリーグ「攻めの予算。特に想定外ではない」19年度単年赤字は合計23クラブ

今回は10億円の純損失計上に至った背景と影響をメインに触れていきます。

 1、損益計算書

損益計算書全体の総括

「売上が10億円減ったけど、去年と同じお金の使い方をしたので、売上が減った10億円分だけ赤字になりました」という内容となっています。

しかしながら、決算内容自体、損益計算書上はそれほどネガティブなものではないと考えます。恐らくある程度の赤字は覚悟の上、織り込んだ上での決算だったものと思われます。

理由は、前年度(2019年3月期)にクラブ史上初めて営業収益(売上高)が40億円を突破しており、その要因が移籍金収入(中谷とか)や賞金、好成績※による突発的な収入だったからです。

あくまで特殊要因が剥落しただけと捉えるのが正しいのではないかと思います。

2019年度の40億円突破が異常であり、2020年度は例年の水準に戻っただけなのです。10億円の減収という数字のインパクトは大きいものの、理由が明確かつ例年の水準を下回るものではないことから、現時点で悲観的になる必要はないというのが僕の見解です。

※2018年シーズンの4位フィニッシュ、天皇杯ベスト4、ACL出場

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

営業収益計

4150

3,140

(1,010)

スポンサー

1,968

2,206

238

入場料

449

414

(35)

配分金

708

208

(500)

アカデミー関連

25

22

(3)

物販収入

67

52

(15)

その他

933

238

(695)

営業費用

4,128

4,206

78

人件費

2,806

2,940

134

試合関連経費

135

126

(9)

トップ運営費

314

326

12

アカデミー運営費

37

31

(6)

女子チーム

0

0

0

物販関連費

53

41

(12)

販管費

783

742

(41)

営業利益

22

-1,066

(1,088)

営業外収益

21

115

94

営業外費用

21

61

40

経常利益

22

-1,012

(1,034)

特別利益

0

0

0

特別損失

0

0

0

税引き前

22

-1,012

(1,034)

法人税

20

1

(19)

当期純利益

2

-1,013

(1,015)

収益について

「配分金」と「その他の収入」で11億円減少

前述した通り、10億円の減収要因は明確に「配分金」「その他の収入」です。

「配分金(成績等に応じてリーグから貰える)」と「その他の収入(移籍金とか賞金)」だけで11億円減少しています。2017シーズンの4位フィニッシュから一転、翌2018シーズンはJ2降格を喫するなど成績急降下による配分金や賞金の減少がダイレクトに損益に影響を与えた格好です。

加えて、2019年度は移籍金収入を確保した(と思われる)移籍が多数ありました(中谷、中谷、安西、ブライアンなど)。一転して、2020シーズンはレンタルでの放出が大半を占めたことから、売却益の計上が軽微なものとなったことも要因と思われます。

レンタル移籍での放出が多い(バックするケースも少ない)あたりから、移籍金収入(キャピタルゲイン)を積極的に取る経営方針ではないことも読み取れる気がしますが、それは違う機会にしましょう。

スポンサー収入は238百万円増加

J2を戦うシーズンであったものの、スポンサー収入が増加に転じたことはポジティブに捉えることができる事象です。

スポンサー収入については、ここ数年19億円台で頭打ちとなっていたものの、ようやく20億円を突破しました。日立ビルシステム様がユニフォームスポンサーに加わったことが大きなトピックスですが、目に見えないところで既存スポンサー様への広告料増額など地道な交渉を続けていたものと思われます。

自分たちのコントロールが及ばない移籍金や賞金などとは違い、改善・向上・拡大余地のあるスポンサー収入を伸ばしていくことは、柏レイソルの更なる飛躍に必要不可欠な要素であると考えます。

利益について

費用については、特段の変化が認められないため割愛し、利益に移ります。

大幅減収にも関わらず費用が前年同水準で推移したことから、最終的な当期純利益についてはマイナス10億円となりました。報道にあった「柏、10億円の赤字」というのはここを指しています。

収益が減少(賞金や分配金、移籍金が減ること)することは予期できたはずであり、10億円の赤字についてもある程度早い段階から織り込んでいたものと思われます。

貸借対照表

10億円の赤字が貸借対照表に与えた影響

10億円の赤字が与えた最も大きな影響は、自己資本の毀損であると考えます。

柏レイソルの「利益剰余金」は2019年度まで±0近辺を推移していましたが、2020年度の当期純損失10億円の計上によって、一気にマイナス圏まで突っ込むこととなりました。

それに伴い「純資産の部」についても2019年度1,031百万円から、2020年度はわずか18百万円まで減少し、債務超過(資産よりも負債の方が多い状態)寸前の水準まで落ち込むこととなりました。

損益計算書上の最終損益である当期純利益は、決算仕訳によって「純資産の部」の「利益剰余金」に振り替えられます。毎年の利益を「利益剰余金」勘定に積み重ねることで、「自己資本(=純資産)※」の充実を図ります。

 ※「自己資本」とは、返済不要の資金調達です。毎年の利益の積み重ねである「利益剰余金」は自分たちで蓄えた自分たちが自由に使える資金です。

一般的に財務の健全性とは自己資本の充実度で測られることが多く、自己資本が限りなくゼロに近い状態というのは財務的な観点からは、褒められた状態とは言えません。

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

流動資産

465

459

(6)

固定資産

2,074

2,369

295

資産の部合計

2,539

2,828

289

流動負債

1,508

2,809

1,301

固定負債

0

1

1

負債の部合計

1,508

2,808

1,300

資本金

100

100

0

資本剰余金等

932

932

0

利益剰余金

-1

-1,014

(1,013)

純資産の部合計

1,031

18

(1,013)

元々、債務超過だった?日立台の現物出資という財務改善策(2011年)

これまで柏レイソルが売上高の70%近い割合を人件費に投入し、利益をそれほど計上せずとも現場主義を実践できた理由の一つに、充実した自己資本という背景がありました。

というのも、元来、柏レイソルの財務基盤は、お世辞にも強固とは言えないものでした。

2010年3月期時点では219百万円の債務超過に陥っています。

2009年度(平成21年度)Jクラブ個別情報開示資料

しかしながら、翌2011年3月期には、819百万円の資産超過へと転じています。

なぜでしょう。

2010年度(平成22年度)Jクラブ個別情報開示資料

答えは、日立台の現物出資です。

2011年春、親会社である日立製作所より”日立台”を現物出資で譲り受け、自己資本の増強に成功しています(優勝のお祝い?)。

当時は流動資産と固定資産の内訳は開示されておらず、総資産という表記となっていますが、

2010年3月期466百万円→2011年3月期1,819百万円

へ大幅に増加していることがその証拠です。

文字通り、”日立台”が救世主となってくれたものと思われます。

日立台の現物出資に係る仕訳
借方(固定資産 約900百万円)/貸方(資本剰余金等 約900百万円) 

企業規模の拡大よりも、現場に資金を投下してサッカーで勝負したいという理想。

この理想を貫くことのできる背景には、親会社による広告料の拠出にとどまらない、資本の増強をも引き受けてくれる手厚い支援があってこそ、なのです。

感謝してもしきれません。

利益剰余金マイナス10億円を取り返すには43年掛かる?

クラブライセンス的に長期的な債務超過は受け入れられないことから(コロナ禍とあって基準は緩和される見込み)、身動きは取りにくくなってしまったというのが本音です。

現時点で債務超過ではないことから、大幅な経営スタンスの変更を求められる水準にはないものの、自己資本の充実は今後避けては通れない課題となるものと思われます。

自助努力で資本を増強する方法は、基本的には毎期利益を積み重ねることで、利益剰余金を厚くする一点のみであります。

そして、まずは債務超過の解消を図ることから、一歩を踏み出すこととなります。

現在の利益水準を維持した場合、10億円の損失を取り戻すためにどれ程の時間を要するのかというと、

  • 2017年3月期〜2019年3月期の純利益の平均23百万円を基準
  • 1,000百万円/17年〜19年3期分の純利益の平均23百万円=43年

10億円の利益剰余金マイナスを取り返すのに43年掛かる計算です。

いかに途方もない決算であったか?ことがわかります。

(あくまで利益のみで財務改善を図った場合で、親会社による損失補填で一発解消という世界線もあり得ます)

日立台”という貯金を使い果たしてでも補強に動いたのは覚悟なのか

日立台”という貯金を使い果たしでも、補強に積極的にチームの強化に動いた理由は推測の域を出ません。

2020シーズンを勝負の年と銘打ち、何としてでも結果を残すことだったのか、親会社からの更なる支援を取り付けたのか・・・

どちらにせよ、年商30億円規模の企業が10億円もの純損失を計上するというのは並大抵の覚悟ではなかったものと思われます。

コロナ禍とあって夏の補強規模から財政状況を伺うことができず、現時点で10億円の赤字についての真相は闇の中です。結果だけがそこにあるといったところでしょうか。今のところ答え合わせをする方法はありません。

オフシーズンの補強動向がここ数年続いた積極的なものになるのか、興味深く注視していきたいと思います。

vsG大阪(24節・2020/10/24)たまには【予習】的な内容を書いてみる

【予習】をしてみよう(ここは読まなくて大丈夫)

  1か月近く更新が滞りました。お久しぶりでございます。
 仕事が最高潮に忙しかったこと、10月末に検定試験を控えていることが原因です(言い訳です)。半分経理的なセクションに在籍しているため、半期の締め作業で土日も出勤するほど繁忙期でした。季節要因ですが、どうしてもこの時期はサッカーどころではなくなってしまう嫌いがあります。横浜FC戦も仕事で見られませんでした。下さんに会いたかったものです・・・。

 閑話休題

 今回から試合の「振り返り」ではなく、予習的なもの(プレビュー?)を書いてみようと思います。またすぐに「振り返り」に戻すかもしれませんが(今回だけで終わりかも)、そこは弱小ブログならではの迷走ということで暖かく見守ってください。
 予習的な内容を書こうと思った理由は、単に終わった試合を見返すのが辛いからです。基本的に過去は振り返らず、常に前を、未来を見ていたいタイプなので・・・。

 冗談はさておき。終わった試合について語るのも楽しいですが、これから起こるであろうことを想像しながら、試合を観るのもこれはこれで面白いものです。予想通りの展開ならドヤ顔が出来ますし、違った場合はその差異から学ぶもことも出来るでしょう。答え合わせをしている感覚ともいいましょうか。

 ただ、主語が「柏」ではなく相手チームになってしまうことから、柏サポが読んで面白いのかわからない点、継続して追えないことから点で物を語ってしまう点を懸念しています。が、その辺りもやってみないとわからないでしょうということで、完全に見切り発車、思いつきでのスタートとなりますが、お付き合いください。

ガンバ大阪定量的なデータから見る

www.football-lab.jp

データから見る長所

 「敵陣ポゼッション」、「右サイド攻撃」、「守備→攻撃」を強みとしていることがわかります。
 敵陣でボールを保持し、失った直後のゲーゲンプレスによって、高い位置でのプレー時間増加を目指します。敵陣でボールを保持し積極的に守備を行うことで、自陣における守備の時間を減少させ、試合の主導権を握るゲームモデルであることを示しています。
 「右サイド攻撃」については、外に張ることで持ち味を発揮する小野瀬選手を右SHに、中央での仕事を好む倉田選手を左SHに配置していることに起因するものと思われます。

データから見る不得手

 逆に「自陣ポゼッション」、「攻撃セットプレー」は得意としていないことも読み取ることが可能です。
 「自陣ポゼッション」については、やはり上記で挙げたゲームモデルとの繋がりを感じます、敵陣で過ごす時間を増加させる狙いの中で、自陣でのプレーは避けたい、減らしたいといった狙いでしょうか。

実際に試合を観た印象

www.jleague.jp

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攻撃

  • 敵陣でボールを保持する時間を増やしたい
  • 2トップ(主に宇佐美選手)がサイドに流れることで、敵陣高い位置のサイドに起点を作る
  • 自陣からのビルアップ、特に足元で繋ぐパスについてはポジショナルな配置よりも、個の質を活かす場面が多かった
    →大きく立ち位置を変えることが少なく、相手の守備と噛み合ってしまうことで、ビルドアップが詰まる局面が見受けられた(トランジション対策かもしれない)
  • 2トップの組み合わせで印象が変わる
    宇佐美・パトリック:ボールを納めることができることから、遅攻ができる。パトリックへシンプルに蹴っても起点となれる。
    渡辺・アデミウソン:足元よりも縦へ早い印象。カウンター。
  • 高い位置で奪ってからのショートカウンターには再現性有り

守備

  • ハイプレス+ゲーゲンプレス
  • 相手に時間とボールを与えないことを優先
    →CHがCBに対してプレッシングに出る場面も見受けられた
  • プレッシングが掛からなかった時は、一度ミドルゾーンに442をセットし、中央のレーンから大外のレーンにパスが出たタイミングでプレッシングをスタート
    →サイドに追い込んでから、圧縮。改修後はミドルカウンターもしくはポゼッションの回復
  • なるべく自陣低い位置への撤退は避けたい
  • 高い位置で奪い、素早く攻撃につなげる

2試合を振り返って

 マリノス、大分とともにボールを握ることを強みとするチームとの対戦ではあったものの、自分たちのゲームモデルを貫かんとする積極的な姿勢は勇敢そのものでした。
 特筆すべきは90分間に渡ってネガティヴ・トランジションの強度を維持したことです(マリノス戦)。試合を通してのボール保持率はわずかにマリノスが上回ったものの、数字以上に試合を支配していた印象を受けました。ボールを握り続けること、それは換言すればボールを奪い続けることでもあります。
 中3日で臨んだ大分戦は2トップの組み合わせを変更したものの、全体的な強度は今一歩とあって、盤面のひっくり返しに合う局面、つまりはプレッシングが掛かり切らずにカウンターを食らう場面が見られました。(大分は擬似カウンターを狙いとしていた節もありますが)
 ボールを保持するために、プレッシングが生命線である印象を受けました。ミッドウィークにゲームがなかったことから、コンディションは悪くない状態であるものと思われます。

【本題】柏レイソルはどう立ち向かうのか

 いよいよ本題です。
 相手の強みを消しつつ、弱点を殴る・・・ネルシーニョ監督が言うところの「ニュートラル」という視点でゲームの攻略を考えたとき、柏は、ガンバ陣地でボールを保持する状況を目指すことがベターな選択になると思います。

 逆に、自陣への撤退を強いられる(かつガンバがボールを保持)という状況は避けるべきです。これは守りきれなかった湘南戦、3失点を喫した神戸戦と同様の状況でもあります。

 相手に撤退を強いる手段として①背後のスペース目掛けて蹴っ飛ばしまくる、②ボールを保持するの2パターンが挙げられます。

①背後のスペース目掛けて蹴っ飛ばしまくる

 背後にあるスペースの攻略を目指し、ミカとクリスを走らせることで、少ない手数で攻撃を完結させます。ガンバのプレッシングに対し、盤面のひっくり返しを試みることは非常に有効な手段です。「プレッシングを受けている」ということは、相手の背後にはスペースが広がっている状況でもあります。裏のスペースを突くことで、ガンバの守備陣に対して撤退を強いることができます。

 しかしながら、ボールを蹴っ飛ばすということは、相手にボールを渡してしまうリスクも内包しています。陣形が縦に伸びることで中盤が空洞化し、オープンな展開からのトランジション合戦は、消耗戦の様相を呈します。

 まさに湘南戦、神戸戦の二の前です。特にボール保持を得意としているガンバを相手に、ボールを失い続ける状況は得策とは思えません。

②ボールを保持する

 「ボールを保持したい相手にボールを与えない」というのは非常に論理的で、これこそがまさに「ニュートラル」であると考えます。

 まあ、それができれば、湘南にも神戸にもあそこまで苦戦はしなかったわけですが。

 如何せんボールが保持できない今日この頃。立ち位置やポジションチェンジで何とかしようという意図は見えるものの、ポゼッションとはつまるところ、前線の味方にどれだけ時間を届けられるか、というものです。最終ラインに負傷者続出の現状で、後方からのボール保持が可能かと問われると非常に難しい印象を受けます。

結局どう戦うのか?

 現実的にネルシーニョ監督が採用しそうな戦い方は、「撤退からのロングカウンター」もしくは、自陣へ相手を引き寄せて裏に蹴っ飛ばす「擬似カウンター(と呼んでよい代物かは微妙)」と予想します。

 手段はさておき、とりあえずは背後を突くことを考えるのではないか、と。繰り返し背後を狙うことで、敵陣で過ごす時間を作ること(増やすこと)ができれば、ガンバの強みを消すことにも繋がります。

 ですが、場合によってはガンバにボールを渡すだけ、自分たちの守備の時間が増えるだけになるリスクを背負う諸刃の剣であることは肝に命じるべきかと思われます。現在の柏は、トランジショ合戦で勝てるほどの強度は有しておりません。

 仮にトランジション合戦になってしまった場合は、ミカとクリスがどれだけ時間を作れるか、起点となれるかという完全に個の質に頼る展開になるのではないかと予想します。

vs鳥栖(16節・2020/9/13) 【4312】による前進と急所について

 

柏のプランと【4312】による前進

自陣でのボール保持について

 柏のボール保持から試合が始まりました。鳥栖の非保持は【442】。陣形をミドルゾーンにセットし、2トップは大谷へのパスコースを消しながら、味方の位置に合わせてプレッシングをスタート。後方が整うまでは、柏の前進を牽制するにとどめ、無闇に突っ込まない。鳥栖の2トップは、何度も後方に首を振りながら(味方の位置を確認)プレッシングのスタートタイミングを図る姿勢には洗練を感じました。次郎には持たせるけど、太陽には持たせたくないような印象も受けましたが、気のせいかもしれません。

 なので柏のビルドアップ隊は、一旦時間が得られます。鳥栖が陣形を整えている間は、2トップはプレッシングに来ない。柏は、スンギュ+2CB+大谷の4枚で菱形を作りながら、まったりボール保持から試合に入るという立ち上がりとなりました。

 また、2トップに対して4枚を用意し、後方での数的優位を確保したことで、ボール保持に安定感が生まれました。スンギュがボールを扱えることに加え、大谷が2トップ間に立つことで鳥栖のプレッシングを牽制する動きが見られました。2トップを牽制することで、太陽に時間とボールを届けることが出来ます。(縦パスを通しまくる!)

前進方法について

 続いて、後方でのボール保持に成功した柏がどこから前進したのかを見ていきます。

 【4313】vs【442】。システムの噛み合わせ的にかならず浮く選手、つまりギャップが出てきます。それは柏に限らずお互いに、というのが前提ですが、それは後述します。

 当然ですが、柏はギャップの部分から前進を図ることで【4312】のメリットを享受していきます。具体的には、戸嶋+三原とトップ下の江坂が降り3枚を用意することで、鳥栖のCH2枚に対して数的優位を確保します。

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 CH-CB間で前を向いてボールを受ける場面を複数回確認できたことからも、再現性が認められます。

 そして、鳥栖のSHが内側に絞ることで中央を固めるなら、横幅を取る三丸が空くことになるので、大外からの前進を図ります。複数の前進経路を用意することで、守備の基準点を狂わせること、相手に的を絞らせないことが可能です。

 【442】に対して【4312】を用意した背景には、攻撃で主導権を握りたいとの考え方があったものと思われます。理由としては、鳥栖がボール保持をゲームモデルに採用しているからです。ボールを持ちたい相手にはボールを与えないことで、「ニュートラル」にするネルシーニョ監督らしさが垣間見えました。

 加えて、前節・ガンバ戦は【4312】が嵌ったことで、今季最高とも言えるパフォーマンス、内容を残したことから、「良かったから変えない」という判断に至ったものと思われます。これもネルシーニョ監督らしさが現れています。

 後方でのボール保持の安定を図ながらも、前節同様に前線3枚の準備が整えば躊躇なくロングボールで前進を行います。相手のプレッシングを誘発して背後のスペースを突くという狙いは選択肢として常に頭にあったものと思われます。「繋ぐ」ことができるから、「蹴る」ことが出来る。相手に判断を強いる、迷わせる、それこそが駆け引きです。

【4312】の急所への対処

 では、守備はどうだったのか。

 簡単に【4312】の守備における急所について確認します。セットした状態では、敵陣のサイドの深い位置へのアプローチが遅れること、中盤が3枚なので横幅が足らないことが構造的に抱える急所です。

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 万能なシステムなどはなく、必ずどこかに急所が存在するものですが、その反面、得られるメリットも当然に存在します。得られるメリットと支払うコストの収支にどう折り合いを付けていくか。それを考えることも指揮官の仕事の一つです。対戦相手や自チームの状況に合わせて最適なものを選択していくことが重要です。(全く変えないチームもありますが)

 話は逸れましたが、撤退を強いられる状況は好ましくなかった、というのが本音のところだと思います。守備が噛み合わないというコストを支払ってでも、攻撃で得られるメリットを享受したかった、と解釈しました。

 攻撃でメリットが得られる【4312】。だからこそ柏は、ボールを保持する時間を増やさなければならない。しかし、ボールを保持するためには、相手からボールを奪わなければならない。相手にボールを与えてはならない。ということで、柏はゲーゲンプレスによる即時回収を目指しました。

 ゲーゲンプレス。失った瞬間のプレッシングで相手に時間とボールを与えず、高い位置で奪い返し、再びゴールに迫ります。自分達がボールを持ち続ければ、守備の時間を減らすことができるからです。

 そして、ゲーゲンプレスを仕掛け続けるためには、高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。[攻撃→守備]へ直ちに移行できるように、チーム全体がボールと共に前進する必要がありました。

 その前進については、前述した通りです。後方の数的優位、【4312】vs【442】によるギャップを活かしながら効果的な前進に成功していたように思います。

 つまりは、ボールを保持する時間を増やすことで、【4312】の弱点を隠す狙いがあったのだと思われます。

次第に主導権が鳥栖に流れていく

 しかしながら、次第にボールと主導権が鳥栖に移ろうこととなります。鳥栖のボール保持は、柏としては避けたい状況であったはずです。

 鳥栖にボールと主導権が移った理由は主に2つでふ。鳥栖のプレッシングが変化したこと②プレッシングを受けてロングボールが増えたことです。

鳥栖のプレッシングに変化

 鳥栖のプレッシングに変化が現れます。

 序盤は2トップでタイミングを合わせてプレッシングとマークの受け渡しを行なっていました。しかしながら、給水前後で2トップの1枚が大谷へのコースを消しつつ、もう1枚が柏のボール保持者にアプローチをする対応に変更しました。つまりはタスクの明確化による守備の基準点の整理です。

 やるべきこと、守備の基準点が明確になったことで、プレッシングの強度が次第に向上していきました。ゴールキーパーまで追いかける連動性も見られ、柏は序盤ほど余裕を持ってボールを保持できない時間が増えていきます。

②プレッシングを受けてロングボールが増える柏

 序盤ほどボールを保持できない柏は、次第にロングボールが増加していきます。ロングボールによる前進については、前節・ガンバ戦では効果的に機能したことは周知の通りです。

 しかし、この日はセカンドボールが拾えない。江坂が回収して背後を突くということが出来ない。

 理由は、ロングボールを「蹴った」のではなく「蹴らされた」からだと解釈しました。前節の成功体験から、安易なロングボールが増えた印象を受けました。プレッシングの背後をシンプルに突くという、効率的に見える攻撃も裏を返せばボールを手放すリスクを孕んでいます。

ロングボールの回収から鳥栖のポゼッションと前進経路

 鳥栖は、柏のポゼッションによる前進とネガティブ・トランジションにおけるゲーゲンプレスを受ける形で、自陣でのプレーかつボールの非保持という、哲学とは相入れない体勢で給水タイム近くまでを過ごすこととなりました。

 そこからプレッシングの基準点を整理することで柏のロングボールを誘発し、ボールを回収することに成功したことは既に記しました。

 鳥栖のビルドアップは【3241(325)】です。

 ここで柏はようやく、自分達が避けていた守備の局面に対面することとなります。嵌らないプレッシングによって、ボール保持の時間が減少し、後退を迫られました。

 鳥栖は、柏の2トップに対して3枚のCBでビルドアップを開始し、数的優位を確保します。加えて、ボール保持については、ゲームモデルにも掲げていることから、ストレスなく行うことができるという背景もありました。ボールを持つことを苦としないチームです。

 鳥栖の前進経路は2つ。

 1つ目は、左右のCBです。柏のプレッシングが届かないサイドの深い位置を起点としました。呉屋なのか、江坂なのか、三原なのか。誰かがアプローチに出ると、必ずどこかが空く。柏と同じようギャップからの前進を図ります。

 2つ目は、トップ下の江坂の脇です。変態的な運動量を誇る江坂といえども、自分の脇に2つも起点を作れれるとさすがに対応に苦慮します。鳥栖のビルドアップ隊は状況を見ながら、空いてる方を使いながら前進を図りました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 柏は試合を通して【4312】を継続しました。上記で述べたように、攻撃で得られるメリットを享受したかったものと思われます。ビハインドを追った展開であったことから、是が非でも点が欲しい状況でした。

 しかしながら、攻撃をするためにはボールを保持しなければ、相手からボールを奪い返さなければならない。

 鳥栖にボールを保持される展開の中で、守備が嵌らず奪い返すことができないまま時間が流れていきました。メリットを享受をする以前の問題のように感じました。僕個人としては狙いが読み取れなかったというのが本音です。

 監督の試合後コメントも、アウェイだったことから会見時間が短く戦術についての言及はありませんでした。

vsガンバ(15節・2020/9/9)【4312】とか、ポゼッションとか、ロングボールとか。

 良記事と戸田さんのレビュー動画をシュアします。正直、この2つだけで充分だと思いました。


柏 vs ガンバ 簡単レビューを帰りの車内から 

 

【4312】でボールを保持する立ち上がり

 ガンバのロングボールから始まったキックオフ。ボールが落ち着いた最初の保持の局面から、柏は丁寧にボールをつないでいく姿勢を見せました。

 2枚のCB(太陽・次郎)+アンカーに入った大谷を含めた3枚で、ガンバの2トップに対して【3vs2】の数的優位を確保します。2枚のCBは少し開いた【ハーフスペースの入り口】にポジションを取ることで、ガンバのプレッシング隊の基準を逸らしていきます。

 また、復帰を果たしたスンギュも足元でボールを扱う技術に長けていることから、ビルドアップに加わるシーンが見られました。その際は4枚で菱形を作り【4vs2】を作ります。柏CBはプレッシングを受けてボールが詰まったとしても、スンギュまでボールを預ければある程度ポゼッションを確保できる構図となりました。 

 加えてガンバ2トップは柏のビルドアップ隊3枚(もしくは4枚)を見なくてはならないことから、強度の高いプレッシングを行うことができませんでした。2トップの脇からの前進、縦パスを許すようになっていきます。

 余裕を持ってボールを保持する柏CB(主に太陽)は、運ぶドリブルによってガンバのCHを引っ張り出すことに成功します。ガンバも基本的な考え方としてはボールを保持したい。であれば、やっぱり柏のビルドアップ隊にはアプローチを行いたいという葛藤の中、井手口選手が飛び出す格好で牽制を図ります。

 しかしながら、ポジションを離れるということは、そのスペースを空けてしまうことになります。柏は、井手口選手を誘い出す形で、中央から(守備の)人を動かすことに成功します。人を動かしたことで縦パスのコース確保に成功し、相手の背後を突いていきます。先制点はまさにその形からのものでした。

 柏の配置による数的・質的優位に加えて、ガンバの2トップのプレッシング強度がそこまで高くなかったことから、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保した状態で試合は進みました。

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ロングボールによる前進という選択肢

 前述した通り、ガンバはボールを保持して試合を進めたい。だからボールを奪わなくてはならない。ということで、柏のビルドップに対して前から人数を合わせる形でプレッシングを行うことで反撃を目指します。特に柏陣地ではスペースよりも人への意識が強い印象を受けました。失った瞬間のゲーゲンプレスによって、即時回収を図ります。

 ガンバのゲームモデルがボール保持であることを織り込んでいる柏は、【ロングボールによる前進】という回答を用意します。【ロングボールによる前進】を選択できた理由は2つあります。①ガンバが前プレ(+ゲーゲンプレス)を選択したことで後方が数的同数だったこと、②柏の後方でのボール保持が安定していることです。

 まず、①についてです。
 【前プレ】とは、守備の枚数を前線からのプレッシングに合わせることです。そしてそれは、裏を返すと後方での数的同数を許容することです(最終ラインの守備は、1枚多く残すことがセオリーです)。

 加えて【前プレ】は、自分たちの背後に広大なスペースを空けてしまうことにも繋がります。つまり、この試合のガンバは、オルンガと呉屋の2トップ+江坂に対して後方が数的同数で守るリスクや、背後のスペースを突かれるリスクを受け入れることで前から守備、前プレを行ったということです。

 続いて②についてです。前述した通り後方でのボール保持が安定している柏は、自陣でボールを保持する時間が増えていきます。自陣からのビルドアップによる前進という狙いがあったほか、自陣でボールを持つことで相手の前プレを誘発する、つまり相手を柏陣地に引き込む狙いもあったものと思われます。

 相手の背後をつくためには、相手に出てきてもらう必要があるからです。 ネルシーニョ監督もオルンガと呉屋の併用について以下のように述べています。

相手が3バックだったというところで、大翔とミカの2トップにしたのは、2人が相手の最終ラインと駆け引きすることで相手には脅威になり、ボールを奪った瞬間に背後を取りに行ったりするプレーをやってほしいという狙いがあった。

 

【ロングボールによる前進】は機能したのか?

 【ロングボールによる前進】は効果的に機能する結果となりました。

 要因は3つです。①チーム全体で【ロングボールによる前進】を想定していたこと、②スンギュのキックの精度が高かったこと、②2トップが役割を果たした(ガンバのDF陣に負けなかった)ことが挙げられます。

 一番大きな理由としては、①チームとしてこの仕組みを事前に準備・想定していたことです。前プレを受けてのネガティヴなボールの放棄ではなく、狙いをもったポジティブなロングボールでした。だからこそ先手を打つこと、セカンドボールの回収に適したポジションを取ることが可能となりました。2トップが競ったセカンドボールを江坂が回収し速攻に繋ぐ流れには再現性を感じました。

 加えて、②スンギュのキック精度が相変わらず高いこと、③ネルシーニョ監督が2トップに求めた「駆け引き」の部分で勝利したことも、ロングボールによる前進が効果的だった要因です。

 3点目はこの形で呉屋が競り勝つ→江坂が回収→呉屋が裏を取るという流れからのものでした。

ボールを保持できなくなっていく柏

 しかしながら給水タイム以降、徐々にボールの支配はガンバに移ろう展開となりました。ガンバのシステム変更によって柏のプレッシング、守備の基準点が曖昧になったことで、ボールを奪えなくなったことが要因です。守備の基準が曖昧になったことで、プレッシングが定まらず、非保持の時間が増加しました。ここでいう【守備の基準】とは、「誰が誰を見るか?」を指してます。

 柏の守備は、ガンバの3CHに江坂+三原+サチローをぶつける形でスタートしました。大谷が余る格好となったのは、宇佐美選手(時にはアデミウソン選手)が中盤に降りることで前進を手助けする傾向にあることから、その対策のためだったと思われます。

 清水戦の【532】とシステムこそ違えど、奪いたい場所は同じです。中央からの前進を阻止し、サイドへ誘導したところでチーム全体のスライドによる圧縮でボールを奪う狙いがありました。CHが3枚であることから、横幅を使われたくないからです。

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 思うようにボールを運べないガンバは給水タイムに調整を行います。

 具体的には、ビルドアップ時の立ち位置の変更です。①中盤の底を1枚から2枚に増やすことで江坂のタスクを増加させる(迷わせる、判断を強いる)こと、②倉田選手を1列挙げて大谷の脇にポジションを取ることです。

 元々、ガンバの3CBに対して柏は2枚(オルンガ・呉屋)で追い掛けていることから、基本的には数的不利な状況です。なので、ガンバのビルドアップ隊には時間がある状況は立ち上がりと同様です。

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 立ち位置の変更後は、特に倉田選手のポジションが厄介でした。中間ポジションに立つことで、柏の守備の基準点を逸らしました。

大谷が見る→中央からの移動を意味。ガンバのトップに空けたスペースを使われてしまう
峻希が見る→ピン留めされてWBに自由を与えてしまう
三原が見る→江坂を助けにいけない

 という状況に状況に陥った柏は、徐々にガンバにボールを保持される展開で前半の残り時間を過ごしていきます。2トップで3枚を追うのも難しく、加えてガンバの中盤を捕まえることに苦労することで、前進を許す時間が続きます。

 この状況に柏は、「江坂・サチロー・三原が走りまくる」で対応していました。当然、プレッシングが後手に回ることから、ボールを奪う位置は低くなっていきます。

 しかしながら、低い位置でのボール奪取はガンバが攻撃している状況、つまり柏はカウンターを発動させる機会でもあるわけです。前を向いて奪った際は躊躇なく前線の2枚にボールを届け、局面を引っ繰り返すことで攻略を図りました。実際に2点目はカウンターから始まった攻撃の組み立てでした。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 今季のベストゲームといえそうです。オルンガ対策によってボールを持たされるゲームが続いたことで、カウンター以外にもポゼッションによる前進という手段の向上が図られました。保持もカウンターできるという、戦い方の幅を持つことは上位争いを続けていく上で絶対に必要な要素です。

 後半は、4バックに変更したガンバに対して間髪を入れず3バックに変更するなど、さすがの手腕を見せたネルシーニョ監督でした。(書きたかったけど、文字数・・・)

 怪我人続出で野戦病院と化していること、加えて過密日程の影響で練習がほとんどできない状況下で、これほどのチームを作り上げるネルシーニョ監督は尋常ではないと改めて思わずにはいられません。

 叶うなら、もう一度この監督とトロフィーを掲げたいと強く思った水曜日の夜でした。

vs清水(14節・2020/9/5) ビルドアップとか【532】とか。

柏のビルドアップ、前進について

 ルヴァン杯セレッソ戦と同様に【532】で試合に臨みました。

 清水は、ボールを保持することで主導権を握るゲームモデルを採用しています。ボールを持つことを強みとする相手を無効化、ネルシーニョ監督風にいうところの”ニュートにする”方法として、「ボールを与えなければいいよね」という考え方があります。以下、ネルシーニョ監督のコメントです。

相手の守備のオーガナイズ・空いたスペース、最終ラインの背後をしっかりと狙い、自分たちとしてはしっかりボールを握りポゼッションしながら攻撃の入口を作るということが非常に効率よくできていた 

  ということで、ボールを保持しながら主導権を握ろう!というプランで臨んだ我が軍のビルドアップを観ていきます。

サイドバックがフリーになるビルドアップ

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 ビルドアップは、CB3枚+ヒシャ・タニのCH2枚(たまに江坂かサチローが降りて3枚)で始まります。左右のCBはハーフスペースの入り口にポジションを取ります。

 清水の1トップもさすがに1枚で柏のCB3枚を見ることはできません。「ボールを持つことが信条だし、持つためには奪う必要があるから、プレッシングは行いたい。そもそも自由にさせると、古賀の縦パスもえげつない。」という問題に対して、SHがプレッシングに出るという解決策を講じます。

 しかしここで、「SHが出るなら、三丸を見るのは誰?」という新たな問題が降りかかる清水。清水のSHは三丸を気にしながらのプレッシングとなることから強度が低下、もしくは遅れが生じます。つまり、守備の基準点が逸らされている状況です。

 三丸に対しては、清水SBが出ていくことがセオリー通りではあるものの、そこに立ちはだかるのはサチロー。列を移動し、清水SBの前にポジションを取ることで、前に出られないように”ピン留め”をします(この役割は、サチローだけではなく呉屋だったり、江坂だったりと流動的に対応していました。)。

 「SBはプレッシング、SBはピン留めで出られない」・・・つまり、柏の三丸がオープンになる構造で前進を図ります。先制点についてもここからの前進によるものです。

 列の移動(大谷が降りたり)を行わなくても、初期状態で中央と左右のハーフスペースに人を配置できることはCBを3枚にしたことのメリットです。列移動は効果的な前進方法ではあるものの、移動に時間を要することと、本来いるべき場所から人が動くリスクを内包しています。

 相手のプレッシングに合わせてビルドアップの形を変えていくことが求められるのは当然ですが、この試合については初期配置の3枚が効果的な前進に寄与したものと思われます。

【532】について考える

 セレッソ戦から採用している【532】について考えていきます。この2戦は、効果的に機能している印象を受けます。

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どこで奪いたいのか

 【532】の構造上、清水のSBはオープンな状態になります。この構造で前から追い掛けてしまうと、オープンなSBに対応するために、少しずつ歪みが生じて前進を許してしまいます。プレッシングで後手を踏む状況が生まれます。

 【532】は中盤を広く使われることが弱点です。横幅の枚数が圧倒的に不足しているからです。これまで柏が使ってきた【4411】は横幅を4枚で見ることができたことから、1枚少ない格好です。

 そこで柏は、ボールの奪取位置をミドルゾーンに設定しました。相手のビルドアップに対して時間とボールを与えることを許容する代わりに、3CHのスライドで対応可能な位置での迎撃を目指しました。ミドルゾーンまで後退することで、相手の背後にスペースが生まれることから、カウンターを仕掛けやすいという狙いもあったかもしれません。

 ミドルゾーンでボールを奪うにあたって、重要な役割を担うこととなったのは2トップ(江坂・呉屋)です。前進を遅らせつつ、ボールをサイドに誘導するというタスクを与えられました。

 前からプレッシングに飛び込むのではなく、CHの状態・状況を確認しながら、中央のコースを牽制します。江坂も呉屋も相手のCBがボールを持った際に、首を後ろに振りながら(後方を確認しながら)パスコースを牽制している様子が窺えました。

 超人のヒシャ・タニ・サチローといえども、3枚で横幅を見ることは難しいものです。であれば、2トップが中央へのパスコースを牽制し、サイドへの誘導に連動する形で、CHの3枚がスライドすることで横幅の不足を補います。

 状況によってはCHが前に出ることで前から枚数を合わせていく”前プレ”を行う時もありましたが、効果的な奪取につながった場面は少なかったと思います。

(余談)ミカが復帰したら、【532】は採用しないんじゃないか

 横幅の不足を補うことで生じる歪み、つまり、どこかのスペースが空いてしまうことや、誰かが人一倍走ることで解決を図る際の消耗。完璧なシステムなど存在しないことから、許容可能なリスクをどこで取っていくかという判断になってきます。選手の個性や編成、相手の戦術や日程、大会のレベルなどを勘案して判断されます。

 【532】を採用するチームの横幅不足に対する一般的な対応方法は、①FW2枚で相手の4枚(CB+SB)を見る(2トップが走りまくる)、②CHがSBまでアプローチ(中盤が消耗)、③WB(柏の場合は三丸+北爪)の上下動(WBが死ぬ)といった3パターンが挙げられます。

 柏は、どちらといえば①に近い、2トップに負荷が掛かっている印象を受けました。絶え間ないコミュニケーションとポジショニングの調整は、この二人だからできたことだと思います。

 いや待てよ、江坂と呉屋の2人だからできたこと?じゃあ、ミカが帰ってきたらどうなるんだ?という話になってきます。メンバー外の要因については、ターンオーバーだったことがネルシーニョ監督から明かされており、早期の復帰が想定されます。

(ミカの不在について)連戦が続いていたことも踏まえてメディカルと協議をし、(ルヴァンカップC大阪戦から)アウェイの2連戦に関してはしっかり休ませようという判断でチームに帯同していなかった。

 意図的なターンオーバーを行った2試合でのシステム変更。

 この事実から、【532】の採用は、ミカ不在による特別オプションなのではないか、と解釈することも可能かと思います。

 なぜそうなるのか。

 一番に守備の強度です。守備の強度を求めるのなら、ミカよりも呉屋という選択になります。ネルシーニョ監督もミカの守備について、改善は認めながらも、ポジショニングについての課題を言及することが稀にあります。守備の強度を補って余りあるほどのリターン(得点)を得ていることから、目を瞑っている部分もあるものと思われます。

 また、コミュニケーションについて前述しましたが、江坂も以下のようなコメントを残しています。

(ミカと呉屋の違いについて)ヒロトとは喋って細かいことが共有できるので、そこで相手のポジショニングを見て話しながらプレーしている。 

 【532】の2トップに求められるタスクの量・質を考慮すると、ミカの復帰後に同布陣の継続採用については懐疑的な印象を持ちました。ミカを活かすことができずに消耗させるばかりか、守備に強度も不足するといった、誰も幸せになれない未来が想像できる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ただ、ネルシーニョ監督のこれまでを考えると、結果を残した【532】は負けるまで続けるような気がしないでもない。けど、ミカも使いたい・・・という状況で監督がどのような判断を下すのかは興味深いものがあります。当然、怪我人の回復状況によっても変わってくると思いますし。

 どちらにせよ、ミカ不在+CBが次郎だけという組み合わせ、かつ【532】という新システムで結果を残したことは非常にポジティブで自信につながったことは間違いありません。