vs鹿島(13節・2020/8/29) タイトルが思い浮かばない

 試合は、ボールを保持したい柏vs撤退からカウンターの機会を窺う鹿島といった構図で推移しました。

鹿島が撤退を選択した理由3つの理由

  1. 保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること
  2. そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること
  3. 柏のCBが本職ではないこと

 中5日の柏に対して鹿島は中2日。連戦を考慮し省エネモードで試合に入る鹿島は、442でミドルゾーン自陣よりに守備の陣形をセットしました。鹿島の2トップは、柏のビルドアップ隊に対して時間を与えないというよりも、コースを牽制する程度の強度でプレッシングを行い、サイドへ誘導したところを圧縮して回収します。

  鹿島はボールを奪取した際、シンプルに柏DFラインの背後にボールを放り込みます。理由は①保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること②そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること(試合間隔が少ない鹿島にとって体力的に不利)③柏のCBが本職ではないこと・・・などが挙げられます。

 ①と②は大枠で解釈すれば同義かもしれません。チーム全体でボールを持ちながら、陣地を押し上げる・・・それは自分たちの背後にスペースを作ってしまうことになります。その背後のスペースを使わせないためには、失った瞬間にゲーゲンプレスを行う必要があります。背後を突く時間すら与えない強度のプレッシングを続けることが求められます。日程・気候等の諸条件を考慮すれば、断続的なプレッシングを行うことは懸命ではありません。

 ③については、柏の厳しい台所事情によるものです。既知の通り、CBに怪我人が続出しています。川口の投入直後、ロングボールへの対応がナーバスになったシーンが見られました。であるならば、ボールを保持しながら攻めることもないよね、シンプルにCB目掛けてボールを蹴っ飛ばした方が効果的だよね、という判断だったものと思われます。

 また、①②と同じ理屈で、ボールを持ちながら攻撃をする柏の背後にはスペースが存在します。そこを突こうという考え方は至極真っ当な選択です。

 鹿島・ザーゴ監督のコメントからも、柏のボール保持を織り込んだ状態で試合に臨んだことを読み取れます。

特に相手は中日に試合がなかったということで、おそらく戦略的にウチらにプレッシャーを掛けてくると予測した上で、逆にその強度を利用してひっくり返す

柏のボール保持について

 柏は鹿島が撤退を選択したことによって、ボールを持つ時間を得ることができたのは前述の通りです。

 柏のボール保持は、大谷が後方へ降りること(たまにヒシャもやる)で2トップに対して3枚で数的優位を確保する形となりました。そこにヒシャを加わえた【3-1】での前進を図りました。後方で数的優位を確保し、ボール保持の安定化を図ることで、SBを高い位置に押し上げる(SBが横幅を取る)時間を確保します。

 大谷は左のCB-SB間に降りることが多く、チーム全体としても左サイドからの前進が増えていきます。442でブロックを敷く鹿島に対して横幅を取る三丸のクロスからの得点を目指しました。深い位置を取った三丸のクロスボールからPA内へ侵入する場面が多数見られ、再現性を感じました。得点には至らなかったものの、あと一歩のところまでは崩すことができたと解釈しました。

 スタートの配置はサヴィオ左SH、江坂トップ下。これについても、クロスボールが増加することを織り込み、江坂を中央に配置することで中で合わせる枚数を確保する狙いがあったと考えられます。

 加えて休息なしに出場を続ける江坂のタスク・運動量の軽減を図る目的もあったものと思われます。

 しかしながら、江坂をトップ下に配置することは、サヴィオをサイドに配置することになります。サヴィオはウイングとして独力で打開を図るタイプの選手ではないことから、なるべく中央に配置したいというのが本音のところです。神戸、大分と連続でトップ下で起用されています。

 その落とし所、解決策として、横幅をSBに取らせ、サヴィオは内側の絞ったところからビルドアップを開始することが多かったように見えました。

最近のボール保持について

 柏は(リーグの)セレッソ戦以降、ボールの保持をゲームのプランに据えることが多くなっています。要因としては、オルンガを中心としたカウンターへの対策として「カウンターが怖いなら、柏にボールを持たせればいいよね」という戦い方を選択するチームが増えてきたことが挙げられます。つまり、外的要因によるパラダイムシフトを迫られた、と。

 加えてCB陣には負傷者が続出している状況にあり、撤退で守り切ることへの不安が生じます。事実として、鹿島戦後半は一人少なかったこと、前半で交代カードを2枚切っていたことなどイレギュラーな事態があったにせよ、撤退を迫られた展開で2度のリードを守ることができませんでした。

 撤退での守備に不安が残るなら、攻撃の時間を増加させること、ボールを保持する時間を増加させることで守備の時間を減らしていこう、と考えるのは論理的な判断と思われます。

vs大分(12節・2020/8/23) ボールを持ちたかったのだけど

柏のゲームプラン

ネルシーニョ監督

自分たちは幅を使ってじっくりボールを動かしながら攻撃の入口を見つけようというプランでこのゲームに臨んでいたが、相手の人数の揃ったコンパクトな守備に攻撃を阻止されるというシーンが非常に多かった。

  柏のプランは、ボールを保持しながらゲームを支配することでした。そのプランの中で、大分の組織的な守備を崩すことができなかった、というのが大きなゲームの流れだと解釈しました。
 余談ではありますが、「今季一番」と評したセレッソ戦以降、ボールを保持しながらゲームを進めることに自信を持った印象を受けます。大分を崩し切ることはできなかったものの、攻撃の選択肢に速攻(カウンター)と遅攻の2パターンを有することで、相手に的を絞らせないことが可能です。
 大分・片野坂監督も「始まってから見極める」主旨のコメントをダゾーンに残しており、「どのプランで来るかわからない」という幅を持つことは、立ち上がりから主導権を握る上で有効だと思われます。

大分のゲームプラン

 大分は、柏のカウンターを最小限に抑える(威力・回数)ことを前提として、ゲームプランを組み上げたものと思われます。
 

大分・鈴木選手

相手(柏)の一番の特長はカウンターだと思っていたので、そこでのリスク管理ルーズボールの処理はシンプルにやろうと臨んだ。

 柏のカウンターを警戒していたことを読みとることが可能です。カウンターが強みなら、ボールを持たせてしまえば良いという考え方であったものと思われます。
 守備では、柏のビルドアップに対して541の撤退を選択しました。自陣に低く構え、背後のスペースを埋めつつ、カウンターでの得点を目指すというプランだったものと思われます。
 ネルシーニョ監督も大分のプランと印象について以下のように述べています。

おそらく相手もカウンター狙いでゲームプランを立ててこのゲームに臨んだと思う

前半は自分たちのミスをうまく使われてカウンターに出て行かれるシーンが多く見られた

理想と現実(プランと実際)

 立ち上がりこそ柏のボール保持で試合が推移したものの、次第に大分がボールを保持する時間が増えていきます。柏の支配率は前半の給水タイムで43%、前半終了時点で48%、試合を通じて44%程度と、大分がボールを保持する展開で試合が進みました。

 非保持の時間が増加した要因は、

  1. 攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)
  2. ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 などが挙げられます。

1、攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)

大谷選手

大分は守備の時にしっかりと組織的に戦うチームだとスカウティングの段階から理解していたが、自分たちが(攻撃の)最初の入り口のところで上手くボールを前線に運べなかったし、なかなか相手の嫌なところ、ライン間でボールを運べなかった。 後半は選手を入れ替えながら何度かサイドからワンタッチで中に入る場面はあったけれど、回数自体は多くなかったので、攻撃のところは課題が残ったと思う。

 柏の非保持の時間の増加(大分のボール保持の時間が増加)した要因は、監督や選手も述べているように、大分の組織的かつコンパクトな守備ブロックを崩せなかったからです。柏は横幅を広く保ち、ボールを左右に動かしながら、攻撃の糸口を探りました。
 しかしながら、大分の541という強固なブロックを前に攻撃が完結しないシーンや、ブロックに引っ掛かり、ボールをロストするシーンが目立ちました。
 大分がプレッシングに出てこない戦い方を選択したことから、大分陣内にはスペースがなく、柏は前進に難儀する様子が伺えました。ランニングによって裏へ抜けるスペースも、ライン間で受けるスペースもなく、難易度の高い(成功確率の低い)パスやドリブルでの打開が増加しました。

2、ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 また、自陣のブロック内でボールを回収した大分は、ゴールキーパーを含めたパス交換によって、柏のプレッシング回避を図りました。自分たちがボールを保持することは、相手にボールを渡さないことでもあります。つまり、守備の時間を減少させることになります。
 元より大分は、ボールを保持しながら相手を自陣に招き入れつつ、空いた背後のスペースを突く「擬似カウンター」と呼ばれる攻撃を得意としています。
(擬似カウンター:本来は相手の攻撃→守備の瞬間に相手の背後を突くことをカウンターと表現します。「擬似カウンター」は、自分たちがボールを持った状況でカウンターに似た状況を作ることから、「擬似」と形容詞がついたものと思われます。) 
 大分は、擬似カウンターのきっかけでもある自陣でのボール保持を得意としていることから、容易に柏のプレッシングを回避に成功しました。
 
 柏としては、奪い返せなかった局面と、体力の消耗を考慮して自陣に構えた局面とが存在しており一様に断じることは難しいものの、結果的に大分にボールを渡す時間が増加しました。
 連戦に次ぐ連戦の影響でプレッシングの強度を保つことが出来なかった側面も強かったものと思われます。

www.targma.jp

 三原選手が鹿島戦前のコメントで大分戦について言及しました。有料記事であることから引用は差し控えます。要約すると、「もう少しボール保持の時間を増やしつつ、前で奪ってショートカウンターを仕掛けたかった」旨の発言です。

vs神戸(11節・2020/8/19) これぞポジショナル・プレーな神戸

疑問1:なぜ劣勢だったのか?(特に前半)

答え:神戸のポジショナル・プレーに守備(プレッシング)の基準点を崩されたから

前半の戦い方が良くなかった。(中略)どうしても守備においてラインが低くなってしまう時間帯が続き、相手にそこを突かれてボールを握られる中で相手に先制点を許してしまい0対1で折り返したという展開だった。

 ネルシーニョ監督も述べているように、前半は神戸に主導権を握られる展開で推移しました。プレッシングを行うことができず、守備ラインの後退を強いられたことで、ボールと時間を神戸に与える展開となりました。
 私は、理由を以下の3つだと解釈しました。
  1. 後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
  2. SHが援護射撃に出るべきか、という迷い
  3. 降りないことで柏のDHを留める神戸のCH
①後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
 柏のプレッシングが嵌らなかった要因の1つ目は、後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップへの対応に苦慮したことです。
 柏のプレッシング2枚(江坂、ミカ)に対して、神戸は2CB+CHもしくはGKがビルドアップに加わることで数的優位を確保します。神戸は、後方での数的優位によってボールと時間を確保(ポゼッション)し、柏の2トップのプレッシングを無効化することで前進を図りました。

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 柏は2トップのプレッシング(パスコースの限定や、ロングボールの誘発)に中盤が連動することでボールを奪う守備を採用しています。つまり、柏の2トップのプレッシングが守備のスタートであり、守備の基準点となります。神戸は後方で数的優位を確保するポゼッションによって、柏の守備の基準点を逸らすことに成功したことから、主導権を握りました。
 この「守備の基準点を逸らされた状態」こそが、「プレスが嵌らない」と表現される状態です。ネルシーニョ監督がコメントとしている「守備ラインの後退」とは、プレッシングが嵌らなかったことから、中盤が連動できず撤退を強いられた状況を指しているものと思われます。

 
②SHは援護射撃に出るべきか、という迷い
 プレスが嵌らなかった要因の2つ目は、SHが援護射撃にできるべきか?と判断を強いられたことです。
 数的優位を確保する神戸のビルドアップ隊に対して、柏はFWが全力で走ることで解決を図るのか、SHが持ち場を離れてアプローチに出ていくべきか、という判断を強いられました。判断を要することこそが迷いです。そして、その迷いこそが基準点を逸らすこととなります。

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 柏は、FWとSH(CHも含む)の連動によってサイドでボールを刈り取ることを強みとしています。その連動に迷いが生じたことから、中途半端(強度不足もしくは、そもそもアプローチに出られない)な対応を強いられる展開となりました。
 判断を強いられた柏のSHは、無理なアプローチに出るよりも、守備ブロックの維持を優先したことから、大きく陣形が崩れる事態には至りませんでした。持ち場を離れてアプローチに出て行った場合、大外からの前進を許すこととなるからです。何度かそのようなシーンが見られたことも事実です。
 44という守備ブロックは維持できたものの、FWのプレッシングに連動出来なかったことから、守備ブロックが押し下げれる状況、つまり神戸にボールを保持される展開での推移を許しました。
 
③降りないことで柏のCHを留める神戸のCH
 プレッシングが嵌らなかった3つ目の要因は、柏のDHが前に出られなかったことが挙げられます。神戸のCH2枚の立ち位置によって、柏のCH2枚(タニ・ヒシャ)はプレッシングに出られない状況にありました。

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 神戸のCHは、ボールを貰いに後方へ降りていくことはせず、中盤に留まることで柏CHをピン留めすることに成功します。自分が降りていくことで、相手選手を引き連れてしまうことを理解したインテリジェンスを感じる立ち位置です。仮に柏の2CHが2トップの援護射撃に出るのであれば、中央でボールを受けることができます。
 柏のCHとしても、ボールと時間を有している神戸のビルドアップ隊に対し、中央の持ち場を離れてでもアプローチに出て行くという選択肢はリスクが大きすぎます。中央からの前進は、ゴールへ最短ルートでの攻略を許すことと同義です。イニエスタと山口蛍というクオリティの高い選手が相手だということを考慮する必要もありました。
 繰り返しますが、神戸CHがボールを受けるために後方へ降りないことで、柏の中盤がプレッシングに出て行くことを牽制しました。これこそがポジショナル・プレーでいうところの位置的優位です。
 ポゼッションを志向するチームだからといって、中盤の選手が必ずしもボールを貰いに降りて行くわけではありません。降りないことが、結果的に後方で数的優位を確保することにつながっています。
 

疑問2:後半、少し改善したように見えたのはなぜ?

答え:プレッシング(守備)の基準点を明確にしたから

 後半に入り、攻撃に出ていく場面が増えました。この疑問への回答については、ネルシーニョ監督が簡潔に答えています。

ヴィオを投入して相手のビルドアップに対してより高い位置でプレッシングに出ていき、前からボールを引っかけてショートカウンターを狙った。
ヴィオの特徴であるボールを持って相手に対して仕掛けられる、ボールが運べるところ、ゲームのテンポを変えてアクセントがつけられるような選手が必要だった。任はボールを引っかけてからショートカウンターに出ていく際により攻撃に出て行けるようなポジションでプレーさせたいという狙いを持ったポジション配置だった。

  前から嵌められる時は嵌めていこうという考え方を整理して臨んだ印象です。仲間選手も以下のように述べています。

ちょっとしたことだが、後半は全員の前に行く意識が一つになったことが大きかった。 

 「SHが援護射撃に出るかという判断」について「疑問1」で述べました。最もわかりやすい修正はこの点だったと思いました。後半開始以降、SHがCBまでアプローチに行く回数が増えました。「前から枚数を合わせていく」という考え方を今一度整理することで、守備の基準点を明確にしました。神戸のビルドアップ隊から時間とボールを奪い、少ない手数での得点を目指しました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半は、前から行く意識を強くしたことでプレスを回避されることもありました。後方に存在するスペースを突かれ、オープンな状態で前進を許す場面が増えたことも事実です。決定機は後半の方が多かった印象(僕調べ)です。リードを許していた状態であることから、失うものは何もない!という考えもあったものと思われます。
 

vsセレッソ(10節・2020/8/15) ボールを持てるようになってきたかもしれない。

 結果は残念なものとなりましたが、内容は悲観するものではありませんでした。ネルシーニョ監督も「内容は今季一番」との認識を示し、自分たちの現在地が間違ってはいないこと、継続することの重要性を選手にも伝えたとコメントを残しています。

(内容は今季一番とだと見えたが、勝敗を分けたのは?)
自分もそう思っている。ゲームの入りから良いテンポで選手たちのクオリティ・個々の特徴も生きていたと思う。ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。

今日の戦い方を続けていけば、おのずと結果は訪れると選手たちにはロッカーで伝えた。しっかり次節に向けて継続しながら準備をしていこうと選手たちに伝えた。 

 疑問1:なぜボールを保持できたのか?

答え1:セレッソの守備の最優先事項が「背後のスペースを空けない」だったから

 試合を通じて柏のボール支配率は60%に近い水準で推移しました。この現象は、セレッソのゲームプランが要因だと解釈しました。
 セレッソは、守備時の最優先事項を「背後のスペースを空けない」ことに設定していたものと思われます。前線からのハイプレスによるボール奪取を目指すというよりは、まずは自陣に撤退することでスペースを与えないことを優先事項とするプランだったように思われます。
 そのプランを選択した理由は、柏のカウンターを警戒したことや、猛暑と過密日程による消耗を最小限に抑えることなどが挙げられます。柏と同様にカウンターを長所とする東京との対戦時でも撤退を選択していたことから、そのように解釈いたしました。
 柏がボールを保持できた理由は、セレッソが撤退を選択したことで、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保したからということになります。「疑問2」で触れますが、CBに太陽を選択した理由もここにあるものと思われます。

答え2:柏の守備が良かったから

 以下はセレッソ大阪・ロティーナ監督のコメントです。

柏のプレスの前に、ボールを失い過ぎて、攻撃を受ける回数が増えました。

Q:ボール保持の時間も短く、苦しい展開が続いた中で、相手にクロスやシュートもかなり打たれたが、今日の守備で特に良かった点は?
「ビルドアップではうまくいかずに、守備の時間が長くなりましたが、チーム全体でいい守備ができたと思います」

 ロティーナ監督は、「柏の守備がよかったことから、ボールを失ってしまい守備の時間が増えた」と述べました。

柏の[守備]対応 

 柏の[守備]は、セレッソのビルドアップに対して、前から枚数を合わせる形でプレッシングを行いました。ミカの第1プレッシングで中央のパスコースを遮断し、江坂やCHが連動することで、サイドにボールを誘導したところで、奪い切るorロングボールを蹴らせるというのが基本的なスキームでした。柏のプレス回避のため、セレッソはロングボールによる前進を図る場面が増えていきます。しかしながら、太陽・祐治が競り勝つことで柏がボールを回収し、再び柏がボールを保持する時間が続きました。

柏の[攻撃→守備]の対応

 柏がボールポゼッションによって敵陣に押し込む展開でゲームが推移します。柏のボール保持の際、柏ベンチからCB(太陽と祐治)に対して「もっと押し上げろ」「コンパクトに」との指示が頻繁に飛んでいます。つまり、敵陣でボールを失った瞬間にすぐさまプレッシングを開始できるよう全体をコンパクトに保つ必要がありました。ボールの逃げ場所を潰しておくことで、前線で奪取に成功すればショートカウンターを、ロングボールを蹴ってくれば最終ラインでの回収によるボールポゼッションの回復を図るスキームです。

疑問2:なぜCBは川口ではなく太陽だったのか?

 マリノス戦、大分戦とCBとして十分な働きを見せた川口がメンバーから外れました。太陽が右SBとして好調を維持していたことから、CB川口・SB太陽を予想するメディアが多かったものの、ネルシーニョ監督はCBに太陽を起用しました。その理由を解釈してみます。

答え1:ボールを保持する展開を織り込み、ビルドアップを期待したから

 「疑問1」で触れたように、ボールを保持する展開でゲームが推移することは、スカウティングの段階で想定できたものでした。足元の技術に優れた太陽をCBに起用することで、後方からのポゼッションやビルドアップの質を向上させることが目的だったと思われます。ボールと時間を有する展開であったことから、相手のブロックを動かしながらの前進が求められました。柏アカデミー出身者らしい振る舞いによって、十分に与えられたタスクを遂行したものと思われます。ネルシーニョ監督も以下のように述べています。

古賀は終始落ち着いて良さや個性をしっかり全面に出しながら、攻守においてビルドアップでも起点になってくれていた。

答え2:ロングボール(空中戦)対策

 「疑問1」でも触れたように、前からのプレッシングによって被ロングボールの回数が多くなることが予想されました。空中線の対応はCBを本職とする選手に任せたい、という考えがあったものと解釈しています。前節・マリノス戦後に川口が興味深いコメントを残しています。

真ん中では普段と全く違う見慣れない光景で難しいところはあったが、足元で繋いできてくれる分、自分としては空中戦が多いよりは対応しやすかった。

  マリノスのゲームモデルを鑑み、空中戦にはならないことを織り込んだ上で、川口CBという判断に至ったのではないかと思われます。セレッソ戦では、空中戦やロングボールでの対応が求められることから、太陽を選択したと解釈すると筋が通っているように感じます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。フィニッシュの数の数字を見ても自分たちが20本近く打っているの対して、相手は6本という結果もみている。ただ、敗戦という事実には真摯に向き合わなければいけない。

 ネルシーニョ監督のコメントがこの試合の全てを表しています。年に数回はこんな試合あるよね・・・というゲームだったと思います。
 ミカ対策(要はカウンター対策)によって背後のスペースを消してくるチームが増えてきました。自ずとボールを持つ時間が増えることとなります。ビルドアップやポゼッションの質を向上せざるを得ない状況です。
 ネルシーニョ監督もビルドアップの際のポジショニングや体の向きなど、以前よりも細い部分まで要求している様子が窺えます。特に、ボール保持者がオープンな状態(前が空いている状態)にもかかわらず、ドリブルでの持ち運ぶことを放棄した際には厳しく指摘しています。

vs横浜(9節・2020/8/8)この素晴らしいネルシーニョコメントに祝福を

 ネルシーニョ監督のコメントが簡潔明瞭に全ての疑問に答えてくれています。個人的にいくつか生じた疑問がありましたので、ネルシーニョ監督のコメントを参考に解釈していきます。

疑問1:今日のゲームプランは?

答え:撤退で耐えながら、相手の背後にあるスペースをカウンターで突く

 まずは、どのようなプランで試合に臨んだのかを探ります。
 マリノスのサッカーと言えば、ポジショナル・プレーを想像する人も多いのではないでしょうか。ポジショナル・プレーを端的に表現すれば、ボールを保持しながら3つの優位性(位置的優位、数的優位、質的優位)を活かしてプレーすることです。
 ボールを握ることで可能な限り[守備]の局面(時間)を減らします。ボールを失った瞬間(ネガティブ・トランジション)に強度の高いプレッシング(ゲーゲンプレス)を行います。また、相手のビルドアップに対しては、ハイプレスを行います。柏にボールと時間を与えず、[守備]の局面(時間)を減らすことで、[攻撃]にリソースを割くことが目的です。
 攻撃的かつ特徴が明確な相手に対して、ネルシーニョ監督は以下のプランで臨んだと述べています。

相手は非常に攻撃的なチームだが、ネガティブトランジッションであるボールを失ったタイミングで守備が揃わない時間帯は当然あると見ていた。ボールを奪ってから空いたスペースを攻撃的に攻めていこうという狙いを持っていたがなかなかうまくボールを握れず、相手の空けたスペースを効率よく突けなかった部分が当初のプランと違ったところだった。

  横浜がボールの保持を強みとしていることは前述しましたが、ボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があります。そのための手段がゲーゲンプレスやハイプレスです。ゲーゲンプレスやハイプレスを行うためには、チーム全体が高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。つまり、背後には広大なスペースが存在していることとなります。
 ネルシーニョ監督は、横浜のネガティブ・トランジションの強度が低下する瞬間があると分析した上で、相手の背後を素早く突いていくことをプランとしました。背後へのランニングで強さを発揮するミカの存在も非常に大きいです。
 ボールの保持を強みとする相手に対して、こちらもボールの保持で対抗するのではなく、自陣に構えてボールを引っ掛けてから、素早くカウンターで刺すというプランで勝点の獲得を目指しました。

疑問2:あまりにも[守備]の時間が長かったと思うけど?

答え:カウンターに急ぎ過ぎて、ボールを放棄してしまったから

 文字通り手に汗握るゲーム展開となりました。体感時間としては、90分とは思えないほど長く感じました。それは押し込まれる時間、つまり、[守備]をする時間が長かったことが要因だと思われます。最終的なボール保持率は35%程度でした。
 なぜ[守備]の時間が増えたのか?について、ネルシーニョ監督の見解です。

それでも固くしっかりと相手の攻撃を許さない守備ができていたと思うが、(ボールを)引っかけてからカウンターに出ていくタイミングで縦に急ぎすぎて、ボールを入れるがすぐにボールを失うという流れが続いた。(ハーフタイムに)もう少ししっかりとボールを握る必要がある、相手が空けるスペースをしっかりと見つけて、ボールを奪ってから慌てて前に入れるのではなく、じっくりしっかりボールを握ろうと選手たちに伝えた。

 要約すると、縦に急ぎ(カウンターに)過ぎたことから簡単にボールを放棄してしまったことが原因です。換言すれば、ボールを保持できる場面でも手放してしまったということです。カウンターは、陣形の整っていない相手を崩す有効な手段ではあるものの、ボールを大切にする選択肢ではありません。当然、後方でボールを繋ぐ方が安全にボールを保持することが可能です。以下、三丸選手も同様のコメントを残しています。

もう少し自分たちのボールの時間帯を増やしたかった。ハーフタイムに監督からも話があり、ボールを取った後に前に急ぎすぎてしまっていたところもあった。 

 加えてマリノスのハイラインの攻略に苦労したことも要因の一つです。オフサイドに掛かってしまうことで、相手のボール保持が始まってしまう場面が目立ちました。
 カウンターでの攻略がメインプランではあったものの、ボールの保持を強みとする相手に対してボールを与えてしまうことは得策ではありませんでした。ネルシーニョ監督は、ボールを保持できる場面では保持する、何が何でもカウンターではないという、状況に応じた判断を選手に求めています。
 実際にゴールキックから[攻撃]が始まる場面では足元で繋いでいることから、「ボール保持=全て裏を狙う」というプランではなかったことを読み取ることが可能です。

疑問3:後半から良くなったと思うけど?

答え1:後半の立ち上がり選手の立ち位置を変更したから

 後半の立ち上がりから、442(4411)から433に近い形に変更することで、守備の基準点を整理しました。

システムの変更というよりポジショニングの変更だった。(仲間)隼斗をより真ん中に置いたのは相手のサイドバックの小池選手が中に入ってプレーをする時間帯がゲームの序盤から続いていたので、そこで引っかけてからカウンターに出ていくようにという指示を出した。

 前半は44で自陣にブロックを形成する形で守備をセットしました。マリノスのアンカーである喜田選手を江坂選手がマンツーマンで牽制する形です。しかしながら、結果的にはプレッシングが掛からず、前進を許す場面が多く見られました。
 原因は、小池選手がサイドから中央にポジションを移動すること(所謂、ロール)で中央に数的優位を作られてしまったからです。江坂選手は喜田選手を牽制する役目を担っています。CH(ヒシャ・タニ)は持ち場を離れてしまうと中央のスペースを空けることとなるので出られません。このようなギャップを生み出すスキームこそがポジショナル・プレーです。相手のビルドアップに自由を与え過ぎたことから、44でのブロックを動かされる原因となりました。
 相手のビルドアップを牽制することで、前進を制限する必要がありました。そこでネルシーニョ監督は、仲間選手を小池選手に付けることで、見るべき相手を明確にしました。守備の基準点を整理し、ビルドアップの牽制を図りました。

答え2:戸嶋選手の投入によって、守備の強度およびカウンターの質を向上させたから

 後半の開始から瀬川選手→戸嶋選手に交代カードを切りました。

前半なかなか中盤のところを使われて相手にボールを握られるという時間帯が続いていた。彼は左サイドに入って守備だけでなく、ボールを引っかけてから攻撃にもしっかり出てくる特徴の選手なので、少し流れが変わったと思う。

 中央の枚数が噛み合わない場面が多く見られました。相手は中盤が3枚であることに加え、小池選手が中央に入ってくることを通じて中央の攻略を図りました。相手選手を掴まえ切れずに、チャンスを与える場面がありました。
 そこで中盤に枚数を確保し、守備の強度向上を図ることで、ボールを奪うことを目的に戸嶋選手を投入しました。
 また、サイドハーフでの出場も増えてきていることからも、ネルシーニョ監督から攻撃の質を評価されていることが窺えます。前に出ていく走力と前で仕事をできる技術を有しています。本職である瀬川選手と比べ、攻撃の質に若干の見劣りは見えるものの、守備の強度等を含む総合的な判断によって至った意思決定だと思われます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 非常に痺れるゲームでした。カウンターで刺すプランだったものの、構え過ぎてしまあった感は否めませんでした。ボールを保持できなかったことも含めて、ポゼッション志向のチームとの対戦では今後も苦戦を強いられることが予想されます。
 しかしながら、ここからは(大分、セレッソ、神戸)ボールの保持、ポゼッションを得意とするチームでとのゲームが続きます。リーグ戦も上位につけており、ACL圏内が十分に狙えるポジションです。怪我人の回復を待ちながら、何とか乗り越えたいとことです。耐える8月、我慢の8月となりそうです。

vs名古屋(8節・2020/8/1)カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

コンパクトな守備から、前線の選手のスピードを生かした速いカウンターを長所としている

 ネルシーニョ監督は、名古屋についてこのように分析しました。一言で表現するならな、堅守速攻です。自陣に442のブロックを形成し、奪った瞬間にアタッカーの質的優位を活かしたカウンターで仕留めることを得意としています。
 ニュートラルにする(相手の長所を消す)ことで、主導権を握るネルシーニョ監督がどのようなプランで試合に臨んだのかを解釈していきます。

カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

 ネルシーニョ監督は、カウンターを強みとする相手にはカウンターを発動させなければ良いというアプローチで攻略を図ります。つまり、名古屋にボールを持たせることで、カウンターという局面を発動しない仕組みで対抗します。

2トップでCBから2CHへのパスコースを遮断する

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 (抽象的な考え方としての図解です。)
 名古屋の保持において、柏の2トップが名古屋CHへのパスコースを牽制することで、中央からの前進を阻止するとともに、名古屋のCBにボールと時間を与えます。これが、ボールを持たせている状況です。柏の守備のスタート(=名古屋の攻撃のスタート)はこの形を基本とするものでした。
 名古屋はカウンターによる攻撃を得意としていることから、ボール保持によるビルドアップに苦慮する様子が窺えました。ジョアン・シミッチ選手の列移動(最終ラインに落ちること)よって、柏プレッシング隊の基準点を逸らし、右サイド(柏の左サイド)から前進を図る場面は見られたものの、チームとして仕込まれたものかは懐疑的でした。シミッチ選手個人の工夫によるものだというのが私の見解です。非常にインテリジェンスの高い選手だと思いました。
 ビルドアップに苦慮する名古屋は、次第にロングボールが増加します。両サイドのSHに高いポジションを取らせ、柏SBの背後を狙うボールで攻略を図るものの、撤退によって背後のスペースを消している柏を崩すには至りませんでした。

柏のボール保持における被カウンター対策

 名古屋のロングボールによる前進が失敗に終わると、柏のボール保持という局面が始まります。柏のボール保持(攻撃)の局面は、名古屋の強みである撤退→カウンターを発動するには都合の良い局面です。なぜなら、柏がボールを保持することで、名古屋はブロックを形成し、カウンターの機会を窺うことが可能だからです。
 ゲームの大きな流れの中で、

名古屋の保持(柏撤退でボールを名古屋に持たせる)→名古屋ビルドアップに苦慮、ロングボール→柏の攻撃(ボール保持)開始→名古屋撤退からカウンター発動の機会

 というサイクルは、戦前より予想できたものと思われます。柏は、名古屋にカウンターを発動させないことで主導権を握ろうとする以上、ボール保持における振る舞いは非常に気を使わなければならない局面です。
 そこでネルシーニョ監督が仕込んだ保持における被カウンター対策は、大谷を最終ラインに加えるビルドアップです。

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 名古屋は撤退によるブロックの形成を選択することから、柏ビルドアップ隊は時間とボールを手にします。そこで、中盤に位置する大谷をCB間に下ろすこと(サリーなんとかっていう名称があるらしい)で前進を図ります。
 しかしながら、この大谷をCB間に下ろすことは、ビルドアップの効率化を図るとともに、被カウンターという局面において最後方に3枚を用意しておくという保険でもありました。中央のルートとは、ゴールへの最短距離です。最短距離を閉鎖することで、サイドへの迂回(時間を掛けさせることで、撤退する時間を確保する)や、カウンターという選択肢を放棄し、ボール保持を選択してもらうことを狙いとしています。

ボールを持たせるための立ち位置

 大谷の列移動はあくまで保険です。構造として、カウンターを発動させないために、ボールを持ってもらう必要があることは前述の通りです。そのために、名古屋がカウンターを諦める配置を整備しておく必要があります。カウンター対策とは、ネガティブ・トランジション([攻撃→守備])です。攻撃局面の時から、カウンターに備える必要がありました。
 この問題への回答は、ハーフスペースに選手を配置することでした。攻撃と守備は表裏一体、シームレスな関係です。ハーフスペースとは、大外でも中央でもない縦のラインを指します。ハーフスペースの重要性は、お近くのペップ・グアルディオラ先生に聞いていただくとして、柏はここから効果的な前進を目指します。
 ヒシャや江坂、両SHなど流動的なポジションチェンジを行っていたものの、ハーフスペースに立つというポイントは抑えているように思われました。
 そして、このハーフスペースにポジショニングすることで、例えボールをロストしたとしても、中央のカウンタールートは閉鎖されていることとなります。つまり名古屋は、サイドからのカウンターを余儀なくされるか、カウンターを諦めてボールの保持を選択することとなります。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 これだけの対応策を講じたものの、被カウンターによって決定機を与える場面は複数回存在しました。やはり、撤退した名古屋の守備ブロックは固く、ボール奪取直後のカウンターは非常に強力なものでした。
 大谷を下ろしたビルドアップや、ハーフスペースにポジションを取るなど、前進の手段は用意したものの、なかなか打開することができず、停滞する時間も存在しました。


 名古屋は、新型コロナ感染者の発生によって、非常にナーバスな一週間を過ごしたことから、柏対策を行う時間を確保できなかったものと思われます。
 柏についても徹底した予防策を講じているものの、いつ感染者が発生してもおかしくない状況に変わりはありません。非日常の中でメンタルやコンディションを維持することの難しさを痛感せずにはいられないゲームでした。

vs仙台(7節・2020/7/26) ボールの保持という選択肢

いかに前節で簡単にボールをロストしていたかを映像を用いて説明をし、選手たちの対話に基づいて戦術の理解を深めようとこのゲームに向けて準備してきた。(中略)前節うまくいかなかったポジティブトランジションという局面でのチームとしての戦術は非常に良くやってくれたと思う。

 ネルシーニョ監督コメントです。「前節うまくいかなったポジティブトランジション」とは、ボールを奪った瞬間の判断を指しています。つまり、カウンターへ移行するのかボールポゼッションの回復かの判断です。
 
 相手の背後のスペースを突くカウンターは、相手が守備を形成する前にゴールへと迫ることが可能です。守備陣形を整える前に攻撃を仕掛けることが可能なことから、比較的容易にゴールへ迫ることができます。
 しかしながら、縦へ急ぐカウンターは、ボールをロストするリスクを内包しています。相手陣地へ少ない人数で侵入することや、自チームの押し上げが追いつかず、全体が間延びしてしまう傾向があるからです。間延びしてしまうことで、失った瞬間にプレッシングが掛からない、セカンドボールが拾えないなどといった現象が起こります。絶え間のない上下運動、つまりは運動量が要求されます。
 自分たちがボールを失うということは、相手にボールが渡るということです。それは、相手の攻撃が始まることであり、自分たちの守備という局面が始まることを意味します。
 究極的に言えば、ボールを保持している限り守備をしなくていいわけです。自分たちがボールを保持している限り、失点することは有り得えないからです。
 しかしながら、ボールを保持し、パスを繋ぐポゼッションで攻撃をするということは、相手に守備の陣形を整える時間を与えることでもあります。整った陣形の相手を崩すことは、それなりの労力と技術を要します。

・航輔というボールの逃げ道

 仙台戦では、航輔がボールに触れる場面を多く見ることが出来ました。最後方にボールを預ける場所、ボールの逃げ道を作ることで、ボールを奪取した直後(ポジティブ・トランジション)の局面において、カウンター以外の選択肢を用意することができました。カウンター以外の選択肢とは、ボールポゼッションです。自分たちがボールを保持することで、不用意なボールロストを防ぎ、ゲームの主導権を握ります。
 また、このゲームで柏は守備時4411での撤退を選択していることから、必然的にボールを奪取する位置が自陣低い位置となります。自陣低い位置でボールを奪った際に、航輔というボールの逃げ道を作ることがポゼッションの回復・安定に寄与したものと思われます。(高い位置で奪うなら、そのままショートカウンターを仕掛ければ良い。)
 

ポゼッション回復後のビルドアップ

 ポゼッションという選択肢が生まれたことについて書いてきました。続いては、ポゼッション回復後のビルドアップについて考えていきます。選択肢を用意したところで、効果的な前進ができなければ意味がありません。
 ビルドアップは、航輔+2CB(大南、高橋)から始まります。この際のポイントは、3枚でのビルドアップによって、2CBが開いたポジションを取ることが可能なことです。

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 CBが開くことや、ビルドアップに3枚を用意することで仙台のプレッシング隊に判断強いる格好です。ビルドアップでCBが開くことで仙台のFWはプレッシングの距離が伸び、牽制が遅れることとなります。また、SHがアプローチに出るべきか?という判断を強いることで、プレッシングの強度を低下させることに成功します。強度の低下によって、柏のビルドアップ隊に時間とボールを確保します。
 柏のCBは、仙台のSHがプレッシングに来ればフリーになったSBをビルドアップの出口にします。三丸がオープンな状態でボールを受けることで前進に成功する場面が多く見られました。SS席で観戦しておりましたが、試合中のネルシーニョ監督は、三丸のポジショニングやボール受けてからの振る舞いに対して細かく指示を与えています。
 太陽サイドからの前進も同様で、後方3枚で時間とボールを握りながら、SBをビルドアップの出口にしたいという思惑、意図を感じました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ボールの保持について書いてきましたが、それでも5得点のうちの大半はカウンターが起点となっています。
 効果的なカウンターが成功したのは、ポゼッションという選択肢があったからだと考えます。2つの選択肢を用意することで、相手に守備の基準を絞らせないことができたからです。
 「ネルシーニョ監督のやりたいこと」というコメントが選手たちから時々出てきます。これまでの監督・選手の発言など勘案すると、要は保持とカウンターのどちらの局面でも「質を求める」という意味だと解釈しています。どっちもできないと勝てない、上位進出は難しいというのは現代サッカーの常識です。
 昨年の序盤、結果が出なかった時期にタニは「監督が『繋げ』と言っても、何がなんでも繋がなくてはいけないわけではない。」とコメントを残しました。つまり、状況に応じて最適な判断、選択をしなさいという意味です。保持もカウンターもあくまで試合を優位に進め、勝つ確率を上げるための手段でしかありません。
 リーグの終盤に向かって徐々にチームとしてのクオリティが向上するのは、判断や選択の基準となる原則の部分が浸透するからだと思われます。特に今季は新加入の選手も多かったことや、コロナの影響で中断が長かったことから例年よりも時間を要するものと考えています。