柏レイソルの2020年3月期決算について 10億円の赤字を考える

リーグ戦は小休止ということで、今更にもほどがありますが、2020年3月期決算について振り返ってみたいと思います。

結論からいきましょう。10億円の赤字(純損失計上)減収減益(売上と利益が減少)です。

柏が10億円超の赤字もJリーグ「攻めの予算。特に想定外ではない」19年度単年赤字は合計23クラブ

今回は10億円の純損失計上に至った背景と影響をメインに触れていきます。

 1、損益計算書

損益計算書全体の総括

「売上が10億円減ったけど、去年と同じお金の使い方をしたので、売上が減った10億円分だけ赤字になりました」という内容となっています。

しかしながら、決算内容自体、損益計算書上はそれほどネガティブなものではないと考えます。恐らくある程度の赤字は覚悟の上、織り込んだ上での決算だったものと思われます。

理由は、前年度(2019年3月期)にクラブ史上初めて営業収益(売上高)が40億円を突破しており、その要因が移籍金収入(中谷とか)や賞金、好成績※による突発的な収入だったからです。

あくまで特殊要因が剥落しただけと捉えるのが正しいのではないかと思います。

2019年度の40億円突破が異常であり、2020年度は例年の水準に戻っただけなのです。10億円の減収という数字のインパクトは大きいものの、理由が明確かつ例年の水準を下回るものではないことから、現時点で悲観的になる必要はないというのが僕の見解です。

※2018年シーズンの4位フィニッシュ、天皇杯ベスト4、ACL出場

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

営業収益計

4150

3,140

(1,010)

スポンサー

1,968

2,206

238

入場料

449

414

(35)

配分金

708

208

(500)

アカデミー関連

25

22

(3)

物販収入

67

52

(15)

その他

933

238

(695)

営業費用

4,128

4,206

78

人件費

2,806

2,940

134

試合関連経費

135

126

(9)

トップ運営費

314

326

12

アカデミー運営費

37

31

(6)

女子チーム

0

0

0

物販関連費

53

41

(12)

販管費

783

742

(41)

営業利益

22

-1,066

(1,088)

営業外収益

21

115

94

営業外費用

21

61

40

経常利益

22

-1,012

(1,034)

特別利益

0

0

0

特別損失

0

0

0

税引き前

22

-1,012

(1,034)

法人税

20

1

(19)

当期純利益

2

-1,013

(1,015)

収益について

「配分金」と「その他の収入」で11億円減少

前述した通り、10億円の減収要因は明確に「配分金」「その他の収入」です。

「配分金(成績等に応じてリーグから貰える)」と「その他の収入(移籍金とか賞金)」だけで11億円減少しています。2017シーズンの4位フィニッシュから一転、翌2018シーズンはJ2降格を喫するなど成績急降下による配分金や賞金の減少がダイレクトに損益に影響を与えた格好です。

加えて、2019年度は移籍金収入を確保した(と思われる)移籍が多数ありました(中谷、中谷、安西、ブライアンなど)。一転して、2020シーズンはレンタルでの放出が大半を占めたことから、売却益の計上が軽微なものとなったことも要因と思われます。

レンタル移籍での放出が多い(バックするケースも少ない)あたりから、移籍金収入(キャピタルゲイン)を積極的に取る経営方針ではないことも読み取れる気がしますが、それは違う機会にしましょう。

スポンサー収入は238百万円増加

J2を戦うシーズンであったものの、スポンサー収入が増加に転じたことはポジティブに捉えることができる事象です。

スポンサー収入については、ここ数年19億円台で頭打ちとなっていたものの、ようやく20億円を突破しました。日立ビルシステム様がユニフォームスポンサーに加わったことが大きなトピックスですが、目に見えないところで既存スポンサー様への広告料増額など地道な交渉を続けていたものと思われます。

自分たちのコントロールが及ばない移籍金や賞金などとは違い、改善・向上・拡大余地のあるスポンサー収入を伸ばしていくことは、柏レイソルの更なる飛躍に必要不可欠な要素であると考えます。

利益について

費用については、特段の変化が認められないため割愛し、利益に移ります。

大幅減収にも関わらず費用が前年同水準で推移したことから、最終的な当期純利益についてはマイナス10億円となりました。報道にあった「柏、10億円の赤字」というのはここを指しています。

収益が減少(賞金や分配金、移籍金が減ること)することは予期できたはずであり、10億円の赤字についてもある程度早い段階から織り込んでいたものと思われます。

貸借対照表

10億円の赤字が貸借対照表に与えた影響

10億円の赤字が与えた最も大きな影響は、自己資本の毀損であると考えます。

柏レイソルの「利益剰余金」は2019年度まで±0近辺を推移していましたが、2020年度の当期純損失10億円の計上によって、一気にマイナス圏まで突っ込むこととなりました。

それに伴い「純資産の部」についても2019年度1,031百万円から、2020年度はわずか18百万円まで減少し、債務超過(資産よりも負債の方が多い状態)寸前の水準まで落ち込むこととなりました。

損益計算書上の最終損益である当期純利益は、決算仕訳によって「純資産の部」の「利益剰余金」に振り替えられます。毎年の利益を「利益剰余金」勘定に積み重ねることで、「自己資本(=純資産)※」の充実を図ります。

 ※「自己資本」とは、返済不要の資金調達です。毎年の利益の積み重ねである「利益剰余金」は自分たちで蓄えた自分たちが自由に使える資金です。

一般的に財務の健全性とは自己資本の充実度で測られることが多く、自己資本が限りなくゼロに近い状態というのは財務的な観点からは、褒められた状態とは言えません。

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

流動資産

465

459

(6)

固定資産

2,074

2,369

295

資産の部合計

2,539

2,828

289

流動負債

1,508

2,809

1,301

固定負債

0

1

1

負債の部合計

1,508

2,808

1,300

資本金

100

100

0

資本剰余金等

932

932

0

利益剰余金

-1

-1,014

(1,013)

純資産の部合計

1,031

18

(1,013)

元々、債務超過だった?日立台の現物出資という財務改善策(2011年)

これまで柏レイソルが売上高の70%近い割合を人件費に投入し、利益をそれほど計上せずとも現場主義を実践できた理由の一つに、充実した自己資本という背景がありました。

というのも、元来、柏レイソルの財務基盤は、お世辞にも強固とは言えないものでした。

2010年3月期時点では219百万円の債務超過に陥っています。

2009年度(平成21年度)Jクラブ個別情報開示資料

しかしながら、翌2011年3月期には、819百万円の資産超過へと転じています。

なぜでしょう。

2010年度(平成22年度)Jクラブ個別情報開示資料

答えは、日立台の現物出資です。

2011年春、親会社である日立製作所より”日立台”を現物出資で譲り受け、自己資本の増強に成功しています(優勝のお祝い?)。

当時は流動資産と固定資産の内訳は開示されておらず、総資産という表記となっていますが、

2010年3月期466百万円→2011年3月期1,819百万円

へ大幅に増加していることがその証拠です。

文字通り、”日立台”が救世主となってくれたものと思われます。

日立台の現物出資に係る仕訳
借方(固定資産 約900百万円)/貸方(資本剰余金等 約900百万円) 

企業規模の拡大よりも、現場に資金を投下してサッカーで勝負したいという理想。

この理想を貫くことのできる背景には、親会社による広告料の拠出にとどまらない、資本の増強をも引き受けてくれる手厚い支援があってこそ、なのです。

感謝してもしきれません。

利益剰余金マイナス10億円を取り返すには43年掛かる?

クラブライセンス的に長期的な債務超過は受け入れられないことから(コロナ禍とあって基準は緩和される見込み)、身動きは取りにくくなってしまったというのが本音です。

現時点で債務超過ではないことから、大幅な経営スタンスの変更を求められる水準にはないものの、自己資本の充実は今後避けては通れない課題となるものと思われます。

自助努力で資本を増強する方法は、基本的には毎期利益を積み重ねることで、利益剰余金を厚くする一点のみであります。

そして、まずは債務超過の解消を図ることから、一歩を踏み出すこととなります。

現在の利益水準を維持した場合、10億円の損失を取り戻すためにどれ程の時間を要するのかというと、

  • 2017年3月期〜2019年3月期の純利益の平均23百万円を基準
  • 1,000百万円/17年〜19年3期分の純利益の平均23百万円=43年

10億円の利益剰余金マイナスを取り返すのに43年掛かる計算です。

いかに途方もない決算であったか?ことがわかります。

(あくまで利益のみで財務改善を図った場合で、親会社による損失補填で一発解消という世界線もあり得ます)

日立台”という貯金を使い果たしてでも補強に動いたのは覚悟なのか

日立台”という貯金を使い果たしでも、補強に積極的にチームの強化に動いた理由は推測の域を出ません。

2020シーズンを勝負の年と銘打ち、何としてでも結果を残すことだったのか、親会社からの更なる支援を取り付けたのか・・・

どちらにせよ、年商30億円規模の企業が10億円もの純損失を計上するというのは並大抵の覚悟ではなかったものと思われます。

コロナ禍とあって夏の補強規模から財政状況を伺うことができず、現時点で10億円の赤字についての真相は闇の中です。結果だけがそこにあるといったところでしょうか。今のところ答え合わせをする方法はありません。

オフシーズンの補強動向がここ数年続いた積極的なものになるのか、興味深く注視していきたいと思います。