vs清水(14節・2020/9/5) ビルドアップとか【532】とか。

柏のビルドアップ、前進について

 ルヴァン杯セレッソ戦と同様に【532】で試合に臨みました。

 清水は、ボールを保持することで主導権を握るゲームモデルを採用しています。ボールを持つことを強みとする相手を無効化、ネルシーニョ監督風にいうところの”ニュートにする”方法として、「ボールを与えなければいいよね」という考え方があります。以下、ネルシーニョ監督のコメントです。

相手の守備のオーガナイズ・空いたスペース、最終ラインの背後をしっかりと狙い、自分たちとしてはしっかりボールを握りポゼッションしながら攻撃の入口を作るということが非常に効率よくできていた 

  ということで、ボールを保持しながら主導権を握ろう!というプランで臨んだ我が軍のビルドアップを観ていきます。

サイドバックがフリーになるビルドアップ

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 ビルドアップは、CB3枚+ヒシャ・タニのCH2枚(たまに江坂かサチローが降りて3枚)で始まります。左右のCBはハーフスペースの入り口にポジションを取ります。

 清水の1トップもさすがに1枚で柏のCB3枚を見ることはできません。「ボールを持つことが信条だし、持つためには奪う必要があるから、プレッシングは行いたい。そもそも自由にさせると、古賀の縦パスもえげつない。」という問題に対して、SHがプレッシングに出るという解決策を講じます。

 しかしここで、「SHが出るなら、三丸を見るのは誰?」という新たな問題が降りかかる清水。清水のSHは三丸を気にしながらのプレッシングとなることから強度が低下、もしくは遅れが生じます。つまり、守備の基準点が逸らされている状況です。

 三丸に対しては、清水SBが出ていくことがセオリー通りではあるものの、そこに立ちはだかるのはサチロー。列を移動し、清水SBの前にポジションを取ることで、前に出られないように”ピン留め”をします(この役割は、サチローだけではなく呉屋だったり、江坂だったりと流動的に対応していました。)。

 「SBはプレッシング、SBはピン留めで出られない」・・・つまり、柏の三丸がオープンになる構造で前進を図ります。先制点についてもここからの前進によるものです。

 列の移動(大谷が降りたり)を行わなくても、初期状態で中央と左右のハーフスペースに人を配置できることはCBを3枚にしたことのメリットです。列移動は効果的な前進方法ではあるものの、移動に時間を要することと、本来いるべき場所から人が動くリスクを内包しています。

 相手のプレッシングに合わせてビルドアップの形を変えていくことが求められるのは当然ですが、この試合については初期配置の3枚が効果的な前進に寄与したものと思われます。

【532】について考える

 セレッソ戦から採用している【532】について考えていきます。この2戦は、効果的に機能している印象を受けます。

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どこで奪いたいのか

 【532】の構造上、清水のSBはオープンな状態になります。この構造で前から追い掛けてしまうと、オープンなSBに対応するために、少しずつ歪みが生じて前進を許してしまいます。プレッシングで後手を踏む状況が生まれます。

 【532】は中盤を広く使われることが弱点です。横幅の枚数が圧倒的に不足しているからです。これまで柏が使ってきた【4411】は横幅を4枚で見ることができたことから、1枚少ない格好です。

 そこで柏は、ボールの奪取位置をミドルゾーンに設定しました。相手のビルドアップに対して時間とボールを与えることを許容する代わりに、3CHのスライドで対応可能な位置での迎撃を目指しました。ミドルゾーンまで後退することで、相手の背後にスペースが生まれることから、カウンターを仕掛けやすいという狙いもあったかもしれません。

 ミドルゾーンでボールを奪うにあたって、重要な役割を担うこととなったのは2トップ(江坂・呉屋)です。前進を遅らせつつ、ボールをサイドに誘導するというタスクを与えられました。

 前からプレッシングに飛び込むのではなく、CHの状態・状況を確認しながら、中央のコースを牽制します。江坂も呉屋も相手のCBがボールを持った際に、首を後ろに振りながら(後方を確認しながら)パスコースを牽制している様子が窺えました。

 超人のヒシャ・タニ・サチローといえども、3枚で横幅を見ることは難しいものです。であれば、2トップが中央へのパスコースを牽制し、サイドへの誘導に連動する形で、CHの3枚がスライドすることで横幅の不足を補います。

 状況によってはCHが前に出ることで前から枚数を合わせていく”前プレ”を行う時もありましたが、効果的な奪取につながった場面は少なかったと思います。

(余談)ミカが復帰したら、【532】は採用しないんじゃないか

 横幅の不足を補うことで生じる歪み、つまり、どこかのスペースが空いてしまうことや、誰かが人一倍走ることで解決を図る際の消耗。完璧なシステムなど存在しないことから、許容可能なリスクをどこで取っていくかという判断になってきます。選手の個性や編成、相手の戦術や日程、大会のレベルなどを勘案して判断されます。

 【532】を採用するチームの横幅不足に対する一般的な対応方法は、①FW2枚で相手の4枚(CB+SB)を見る(2トップが走りまくる)、②CHがSBまでアプローチ(中盤が消耗)、③WB(柏の場合は三丸+北爪)の上下動(WBが死ぬ)といった3パターンが挙げられます。

 柏は、どちらといえば①に近い、2トップに負荷が掛かっている印象を受けました。絶え間ないコミュニケーションとポジショニングの調整は、この二人だからできたことだと思います。

 いや待てよ、江坂と呉屋の2人だからできたこと?じゃあ、ミカが帰ってきたらどうなるんだ?という話になってきます。メンバー外の要因については、ターンオーバーだったことがネルシーニョ監督から明かされており、早期の復帰が想定されます。

(ミカの不在について)連戦が続いていたことも踏まえてメディカルと協議をし、(ルヴァンカップC大阪戦から)アウェイの2連戦に関してはしっかり休ませようという判断でチームに帯同していなかった。

 意図的なターンオーバーを行った2試合でのシステム変更。

 この事実から、【532】の採用は、ミカ不在による特別オプションなのではないか、と解釈することも可能かと思います。

 なぜそうなるのか。

 一番に守備の強度です。守備の強度を求めるのなら、ミカよりも呉屋という選択になります。ネルシーニョ監督もミカの守備について、改善は認めながらも、ポジショニングについての課題を言及することが稀にあります。守備の強度を補って余りあるほどのリターン(得点)を得ていることから、目を瞑っている部分もあるものと思われます。

 また、コミュニケーションについて前述しましたが、江坂も以下のようなコメントを残しています。

(ミカと呉屋の違いについて)ヒロトとは喋って細かいことが共有できるので、そこで相手のポジショニングを見て話しながらプレーしている。 

 【532】の2トップに求められるタスクの量・質を考慮すると、ミカの復帰後に同布陣の継続採用については懐疑的な印象を持ちました。ミカを活かすことができずに消耗させるばかりか、守備に強度も不足するといった、誰も幸せになれない未来が想像できる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ただ、ネルシーニョ監督のこれまでを考えると、結果を残した【532】は負けるまで続けるような気がしないでもない。けど、ミカも使いたい・・・という状況で監督がどのような判断を下すのかは興味深いものがあります。当然、怪我人の回復状況によっても変わってくると思いますし。

 どちらにせよ、ミカ不在+CBが次郎だけという組み合わせ、かつ【532】という新システムで結果を残したことは非常にポジティブで自信につながったことは間違いありません。