vsG大阪(24節・2020/10/24)たまには【予習】的な内容を書いてみる

【予習】をしてみよう(ここは読まなくて大丈夫)

  1か月近く更新が滞りました。お久しぶりでございます。
 仕事が最高潮に忙しかったこと、10月末に検定試験を控えていることが原因です(言い訳です)。半分経理的なセクションに在籍しているため、半期の締め作業で土日も出勤するほど繁忙期でした。季節要因ですが、どうしてもこの時期はサッカーどころではなくなってしまう嫌いがあります。横浜FC戦も仕事で見られませんでした。下さんに会いたかったものです・・・。

 閑話休題

 今回から試合の「振り返り」ではなく、予習的なもの(プレビュー?)を書いてみようと思います。またすぐに「振り返り」に戻すかもしれませんが(今回だけで終わりかも)、そこは弱小ブログならではの迷走ということで暖かく見守ってください。
 予習的な内容を書こうと思った理由は、単に終わった試合を見返すのが辛いからです。基本的に過去は振り返らず、常に前を、未来を見ていたいタイプなので・・・。

 冗談はさておき。終わった試合について語るのも楽しいですが、これから起こるであろうことを想像しながら、試合を観るのもこれはこれで面白いものです。予想通りの展開ならドヤ顔が出来ますし、違った場合はその差異から学ぶもことも出来るでしょう。答え合わせをしている感覚ともいいましょうか。

 ただ、主語が「柏」ではなく相手チームになってしまうことから、柏サポが読んで面白いのかわからない点、継続して追えないことから点で物を語ってしまう点を懸念しています。が、その辺りもやってみないとわからないでしょうということで、完全に見切り発車、思いつきでのスタートとなりますが、お付き合いください。

ガンバ大阪定量的なデータから見る

www.football-lab.jp

データから見る長所

 「敵陣ポゼッション」、「右サイド攻撃」、「守備→攻撃」を強みとしていることがわかります。
 敵陣でボールを保持し、失った直後のゲーゲンプレスによって、高い位置でのプレー時間増加を目指します。敵陣でボールを保持し積極的に守備を行うことで、自陣における守備の時間を減少させ、試合の主導権を握るゲームモデルであることを示しています。
 「右サイド攻撃」については、外に張ることで持ち味を発揮する小野瀬選手を右SHに、中央での仕事を好む倉田選手を左SHに配置していることに起因するものと思われます。

データから見る不得手

 逆に「自陣ポゼッション」、「攻撃セットプレー」は得意としていないことも読み取ることが可能です。
 「自陣ポゼッション」については、やはり上記で挙げたゲームモデルとの繋がりを感じます、敵陣で過ごす時間を増加させる狙いの中で、自陣でのプレーは避けたい、減らしたいといった狙いでしょうか。

実際に試合を観た印象

www.jleague.jp

www.jleague.jp

攻撃

  • 敵陣でボールを保持する時間を増やしたい
  • 2トップ(主に宇佐美選手)がサイドに流れることで、敵陣高い位置のサイドに起点を作る
  • 自陣からのビルアップ、特に足元で繋ぐパスについてはポジショナルな配置よりも、個の質を活かす場面が多かった
    →大きく立ち位置を変えることが少なく、相手の守備と噛み合ってしまうことで、ビルドアップが詰まる局面が見受けられた(トランジション対策かもしれない)
  • 2トップの組み合わせで印象が変わる
    宇佐美・パトリック:ボールを納めることができることから、遅攻ができる。パトリックへシンプルに蹴っても起点となれる。
    渡辺・アデミウソン:足元よりも縦へ早い印象。カウンター。
  • 高い位置で奪ってからのショートカウンターには再現性有り

守備

  • ハイプレス+ゲーゲンプレス
  • 相手に時間とボールを与えないことを優先
    →CHがCBに対してプレッシングに出る場面も見受けられた
  • プレッシングが掛からなかった時は、一度ミドルゾーンに442をセットし、中央のレーンから大外のレーンにパスが出たタイミングでプレッシングをスタート
    →サイドに追い込んでから、圧縮。改修後はミドルカウンターもしくはポゼッションの回復
  • なるべく自陣低い位置への撤退は避けたい
  • 高い位置で奪い、素早く攻撃につなげる

2試合を振り返って

 マリノス、大分とともにボールを握ることを強みとするチームとの対戦ではあったものの、自分たちのゲームモデルを貫かんとする積極的な姿勢は勇敢そのものでした。
 特筆すべきは90分間に渡ってネガティヴ・トランジションの強度を維持したことです(マリノス戦)。試合を通してのボール保持率はわずかにマリノスが上回ったものの、数字以上に試合を支配していた印象を受けました。ボールを握り続けること、それは換言すればボールを奪い続けることでもあります。
 中3日で臨んだ大分戦は2トップの組み合わせを変更したものの、全体的な強度は今一歩とあって、盤面のひっくり返しに合う局面、つまりはプレッシングが掛かり切らずにカウンターを食らう場面が見られました。(大分は擬似カウンターを狙いとしていた節もありますが)
 ボールを保持するために、プレッシングが生命線である印象を受けました。ミッドウィークにゲームがなかったことから、コンディションは悪くない状態であるものと思われます。

【本題】柏レイソルはどう立ち向かうのか

 いよいよ本題です。
 相手の強みを消しつつ、弱点を殴る・・・ネルシーニョ監督が言うところの「ニュートラル」という視点でゲームの攻略を考えたとき、柏は、ガンバ陣地でボールを保持する状況を目指すことがベターな選択になると思います。

 逆に、自陣への撤退を強いられる(かつガンバがボールを保持)という状況は避けるべきです。これは守りきれなかった湘南戦、3失点を喫した神戸戦と同様の状況でもあります。

 相手に撤退を強いる手段として①背後のスペース目掛けて蹴っ飛ばしまくる、②ボールを保持するの2パターンが挙げられます。

①背後のスペース目掛けて蹴っ飛ばしまくる

 背後にあるスペースの攻略を目指し、ミカとクリスを走らせることで、少ない手数で攻撃を完結させます。ガンバのプレッシングに対し、盤面のひっくり返しを試みることは非常に有効な手段です。「プレッシングを受けている」ということは、相手の背後にはスペースが広がっている状況でもあります。裏のスペースを突くことで、ガンバの守備陣に対して撤退を強いることができます。

 しかしながら、ボールを蹴っ飛ばすということは、相手にボールを渡してしまうリスクも内包しています。陣形が縦に伸びることで中盤が空洞化し、オープンな展開からのトランジション合戦は、消耗戦の様相を呈します。

 まさに湘南戦、神戸戦の二の前です。特にボール保持を得意としているガンバを相手に、ボールを失い続ける状況は得策とは思えません。

②ボールを保持する

 「ボールを保持したい相手にボールを与えない」というのは非常に論理的で、これこそがまさに「ニュートラル」であると考えます。

 まあ、それができれば、湘南にも神戸にもあそこまで苦戦はしなかったわけですが。

 如何せんボールが保持できない今日この頃。立ち位置やポジションチェンジで何とかしようという意図は見えるものの、ポゼッションとはつまるところ、前線の味方にどれだけ時間を届けられるか、というものです。最終ラインに負傷者続出の現状で、後方からのボール保持が可能かと問われると非常に難しい印象を受けます。

結局どう戦うのか?

 現実的にネルシーニョ監督が採用しそうな戦い方は、「撤退からのロングカウンター」もしくは、自陣へ相手を引き寄せて裏に蹴っ飛ばす「擬似カウンター(と呼んでよい代物かは微妙)」と予想します。

 手段はさておき、とりあえずは背後を突くことを考えるのではないか、と。繰り返し背後を狙うことで、敵陣で過ごす時間を作ること(増やすこと)ができれば、ガンバの強みを消すことにも繋がります。

 ですが、場合によってはガンバにボールを渡すだけ、自分たちの守備の時間が増えるだけになるリスクを背負う諸刃の剣であることは肝に命じるべきかと思われます。現在の柏は、トランジショ合戦で勝てるほどの強度は有しておりません。

 仮にトランジション合戦になってしまった場合は、ミカとクリスがどれだけ時間を作れるか、起点となれるかという完全に個の質に頼る展開になるのではないかと予想します。

vs鳥栖(16節・2020/9/13) 【4312】による前進と急所について

 

柏のプランと【4312】による前進

自陣でのボール保持について

 柏のボール保持から試合が始まりました。鳥栖の非保持は【442】。陣形をミドルゾーンにセットし、2トップは大谷へのパスコースを消しながら、味方の位置に合わせてプレッシングをスタート。後方が整うまでは、柏の前進を牽制するにとどめ、無闇に突っ込まない。鳥栖の2トップは、何度も後方に首を振りながら(味方の位置を確認)プレッシングのスタートタイミングを図る姿勢には洗練を感じました。次郎には持たせるけど、太陽には持たせたくないような印象も受けましたが、気のせいかもしれません。

 なので柏のビルドアップ隊は、一旦時間が得られます。鳥栖が陣形を整えている間は、2トップはプレッシングに来ない。柏は、スンギュ+2CB+大谷の4枚で菱形を作りながら、まったりボール保持から試合に入るという立ち上がりとなりました。

 また、2トップに対して4枚を用意し、後方での数的優位を確保したことで、ボール保持に安定感が生まれました。スンギュがボールを扱えることに加え、大谷が2トップ間に立つことで鳥栖のプレッシングを牽制する動きが見られました。2トップを牽制することで、太陽に時間とボールを届けることが出来ます。(縦パスを通しまくる!)

前進方法について

 続いて、後方でのボール保持に成功した柏がどこから前進したのかを見ていきます。

 【4313】vs【442】。システムの噛み合わせ的にかならず浮く選手、つまりギャップが出てきます。それは柏に限らずお互いに、というのが前提ですが、それは後述します。

 当然ですが、柏はギャップの部分から前進を図ることで【4312】のメリットを享受していきます。具体的には、戸嶋+三原とトップ下の江坂が降り3枚を用意することで、鳥栖のCH2枚に対して数的優位を確保します。

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 CH-CB間で前を向いてボールを受ける場面を複数回確認できたことからも、再現性が認められます。

 そして、鳥栖のSHが内側に絞ることで中央を固めるなら、横幅を取る三丸が空くことになるので、大外からの前進を図ります。複数の前進経路を用意することで、守備の基準点を狂わせること、相手に的を絞らせないことが可能です。

 【442】に対して【4312】を用意した背景には、攻撃で主導権を握りたいとの考え方があったものと思われます。理由としては、鳥栖がボール保持をゲームモデルに採用しているからです。ボールを持ちたい相手にはボールを与えないことで、「ニュートラル」にするネルシーニョ監督らしさが垣間見えました。

 加えて、前節・ガンバ戦は【4312】が嵌ったことで、今季最高とも言えるパフォーマンス、内容を残したことから、「良かったから変えない」という判断に至ったものと思われます。これもネルシーニョ監督らしさが現れています。

 後方でのボール保持の安定を図ながらも、前節同様に前線3枚の準備が整えば躊躇なくロングボールで前進を行います。相手のプレッシングを誘発して背後のスペースを突くという狙いは選択肢として常に頭にあったものと思われます。「繋ぐ」ことができるから、「蹴る」ことが出来る。相手に判断を強いる、迷わせる、それこそが駆け引きです。

【4312】の急所への対処

 では、守備はどうだったのか。

 簡単に【4312】の守備における急所について確認します。セットした状態では、敵陣のサイドの深い位置へのアプローチが遅れること、中盤が3枚なので横幅が足らないことが構造的に抱える急所です。

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 万能なシステムなどはなく、必ずどこかに急所が存在するものですが、その反面、得られるメリットも当然に存在します。得られるメリットと支払うコストの収支にどう折り合いを付けていくか。それを考えることも指揮官の仕事の一つです。対戦相手や自チームの状況に合わせて最適なものを選択していくことが重要です。(全く変えないチームもありますが)

 話は逸れましたが、撤退を強いられる状況は好ましくなかった、というのが本音のところだと思います。守備が噛み合わないというコストを支払ってでも、攻撃で得られるメリットを享受したかった、と解釈しました。

 攻撃でメリットが得られる【4312】。だからこそ柏は、ボールを保持する時間を増やさなければならない。しかし、ボールを保持するためには、相手からボールを奪わなければならない。相手にボールを与えてはならない。ということで、柏はゲーゲンプレスによる即時回収を目指しました。

 ゲーゲンプレス。失った瞬間のプレッシングで相手に時間とボールを与えず、高い位置で奪い返し、再びゴールに迫ります。自分達がボールを持ち続ければ、守備の時間を減らすことができるからです。

 そして、ゲーゲンプレスを仕掛け続けるためには、高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。[攻撃→守備]へ直ちに移行できるように、チーム全体がボールと共に前進する必要がありました。

 その前進については、前述した通りです。後方の数的優位、【4312】vs【442】によるギャップを活かしながら効果的な前進に成功していたように思います。

 つまりは、ボールを保持する時間を増やすことで、【4312】の弱点を隠す狙いがあったのだと思われます。

次第に主導権が鳥栖に流れていく

 しかしながら、次第にボールと主導権が鳥栖に移ろうこととなります。鳥栖のボール保持は、柏としては避けたい状況であったはずです。

 鳥栖にボールと主導権が移った理由は主に2つでふ。鳥栖のプレッシングが変化したこと②プレッシングを受けてロングボールが増えたことです。

鳥栖のプレッシングに変化

 鳥栖のプレッシングに変化が現れます。

 序盤は2トップでタイミングを合わせてプレッシングとマークの受け渡しを行なっていました。しかしながら、給水前後で2トップの1枚が大谷へのコースを消しつつ、もう1枚が柏のボール保持者にアプローチをする対応に変更しました。つまりはタスクの明確化による守備の基準点の整理です。

 やるべきこと、守備の基準点が明確になったことで、プレッシングの強度が次第に向上していきました。ゴールキーパーまで追いかける連動性も見られ、柏は序盤ほど余裕を持ってボールを保持できない時間が増えていきます。

②プレッシングを受けてロングボールが増える柏

 序盤ほどボールを保持できない柏は、次第にロングボールが増加していきます。ロングボールによる前進については、前節・ガンバ戦では効果的に機能したことは周知の通りです。

 しかし、この日はセカンドボールが拾えない。江坂が回収して背後を突くということが出来ない。

 理由は、ロングボールを「蹴った」のではなく「蹴らされた」からだと解釈しました。前節の成功体験から、安易なロングボールが増えた印象を受けました。プレッシングの背後をシンプルに突くという、効率的に見える攻撃も裏を返せばボールを手放すリスクを孕んでいます。

ロングボールの回収から鳥栖のポゼッションと前進経路

 鳥栖は、柏のポゼッションによる前進とネガティブ・トランジションにおけるゲーゲンプレスを受ける形で、自陣でのプレーかつボールの非保持という、哲学とは相入れない体勢で給水タイム近くまでを過ごすこととなりました。

 そこからプレッシングの基準点を整理することで柏のロングボールを誘発し、ボールを回収することに成功したことは既に記しました。

 鳥栖のビルドアップは【3241(325)】です。

 ここで柏はようやく、自分達が避けていた守備の局面に対面することとなります。嵌らないプレッシングによって、ボール保持の時間が減少し、後退を迫られました。

 鳥栖は、柏の2トップに対して3枚のCBでビルドアップを開始し、数的優位を確保します。加えて、ボール保持については、ゲームモデルにも掲げていることから、ストレスなく行うことができるという背景もありました。ボールを持つことを苦としないチームです。

 鳥栖の前進経路は2つ。

 1つ目は、左右のCBです。柏のプレッシングが届かないサイドの深い位置を起点としました。呉屋なのか、江坂なのか、三原なのか。誰かがアプローチに出ると、必ずどこかが空く。柏と同じようギャップからの前進を図ります。

 2つ目は、トップ下の江坂の脇です。変態的な運動量を誇る江坂といえども、自分の脇に2つも起点を作れれるとさすがに対応に苦慮します。鳥栖のビルドアップ隊は状況を見ながら、空いてる方を使いながら前進を図りました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 柏は試合を通して【4312】を継続しました。上記で述べたように、攻撃で得られるメリットを享受したかったものと思われます。ビハインドを追った展開であったことから、是が非でも点が欲しい状況でした。

 しかしながら、攻撃をするためにはボールを保持しなければ、相手からボールを奪い返さなければならない。

 鳥栖にボールを保持される展開の中で、守備が嵌らず奪い返すことができないまま時間が流れていきました。メリットを享受をする以前の問題のように感じました。僕個人としては狙いが読み取れなかったというのが本音です。

 監督の試合後コメントも、アウェイだったことから会見時間が短く戦術についての言及はありませんでした。

vsガンバ(15節・2020/9/9)【4312】とか、ポゼッションとか、ロングボールとか。

 良記事と戸田さんのレビュー動画をシュアします。正直、この2つだけで充分だと思いました。


柏 vs ガンバ 簡単レビューを帰りの車内から 

 

【4312】でボールを保持する立ち上がり

 ガンバのロングボールから始まったキックオフ。ボールが落ち着いた最初の保持の局面から、柏は丁寧にボールをつないでいく姿勢を見せました。

 2枚のCB(太陽・次郎)+アンカーに入った大谷を含めた3枚で、ガンバの2トップに対して【3vs2】の数的優位を確保します。2枚のCBは少し開いた【ハーフスペースの入り口】にポジションを取ることで、ガンバのプレッシング隊の基準を逸らしていきます。

 また、復帰を果たしたスンギュも足元でボールを扱う技術に長けていることから、ビルドアップに加わるシーンが見られました。その際は4枚で菱形を作り【4vs2】を作ります。柏CBはプレッシングを受けてボールが詰まったとしても、スンギュまでボールを預ければある程度ポゼッションを確保できる構図となりました。 

 加えてガンバ2トップは柏のビルドアップ隊3枚(もしくは4枚)を見なくてはならないことから、強度の高いプレッシングを行うことができませんでした。2トップの脇からの前進、縦パスを許すようになっていきます。

 余裕を持ってボールを保持する柏CB(主に太陽)は、運ぶドリブルによってガンバのCHを引っ張り出すことに成功します。ガンバも基本的な考え方としてはボールを保持したい。であれば、やっぱり柏のビルドアップ隊にはアプローチを行いたいという葛藤の中、井手口選手が飛び出す格好で牽制を図ります。

 しかしながら、ポジションを離れるということは、そのスペースを空けてしまうことになります。柏は、井手口選手を誘い出す形で、中央から(守備の)人を動かすことに成功します。人を動かしたことで縦パスのコース確保に成功し、相手の背後を突いていきます。先制点はまさにその形からのものでした。

 柏の配置による数的・質的優位に加えて、ガンバの2トップのプレッシング強度がそこまで高くなかったことから、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保した状態で試合は進みました。

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ロングボールによる前進という選択肢

 前述した通り、ガンバはボールを保持して試合を進めたい。だからボールを奪わなくてはならない。ということで、柏のビルドップに対して前から人数を合わせる形でプレッシングを行うことで反撃を目指します。特に柏陣地ではスペースよりも人への意識が強い印象を受けました。失った瞬間のゲーゲンプレスによって、即時回収を図ります。

 ガンバのゲームモデルがボール保持であることを織り込んでいる柏は、【ロングボールによる前進】という回答を用意します。【ロングボールによる前進】を選択できた理由は2つあります。①ガンバが前プレ(+ゲーゲンプレス)を選択したことで後方が数的同数だったこと、②柏の後方でのボール保持が安定していることです。

 まず、①についてです。
 【前プレ】とは、守備の枚数を前線からのプレッシングに合わせることです。そしてそれは、裏を返すと後方での数的同数を許容することです(最終ラインの守備は、1枚多く残すことがセオリーです)。

 加えて【前プレ】は、自分たちの背後に広大なスペースを空けてしまうことにも繋がります。つまり、この試合のガンバは、オルンガと呉屋の2トップ+江坂に対して後方が数的同数で守るリスクや、背後のスペースを突かれるリスクを受け入れることで前から守備、前プレを行ったということです。

 続いて②についてです。前述した通り後方でのボール保持が安定している柏は、自陣でボールを保持する時間が増えていきます。自陣からのビルドアップによる前進という狙いがあったほか、自陣でボールを持つことで相手の前プレを誘発する、つまり相手を柏陣地に引き込む狙いもあったものと思われます。

 相手の背後をつくためには、相手に出てきてもらう必要があるからです。 ネルシーニョ監督もオルンガと呉屋の併用について以下のように述べています。

相手が3バックだったというところで、大翔とミカの2トップにしたのは、2人が相手の最終ラインと駆け引きすることで相手には脅威になり、ボールを奪った瞬間に背後を取りに行ったりするプレーをやってほしいという狙いがあった。

 

【ロングボールによる前進】は機能したのか?

 【ロングボールによる前進】は効果的に機能する結果となりました。

 要因は3つです。①チーム全体で【ロングボールによる前進】を想定していたこと、②スンギュのキックの精度が高かったこと、②2トップが役割を果たした(ガンバのDF陣に負けなかった)ことが挙げられます。

 一番大きな理由としては、①チームとしてこの仕組みを事前に準備・想定していたことです。前プレを受けてのネガティヴなボールの放棄ではなく、狙いをもったポジティブなロングボールでした。だからこそ先手を打つこと、セカンドボールの回収に適したポジションを取ることが可能となりました。2トップが競ったセカンドボールを江坂が回収し速攻に繋ぐ流れには再現性を感じました。

 加えて、②スンギュのキック精度が相変わらず高いこと、③ネルシーニョ監督が2トップに求めた「駆け引き」の部分で勝利したことも、ロングボールによる前進が効果的だった要因です。

 3点目はこの形で呉屋が競り勝つ→江坂が回収→呉屋が裏を取るという流れからのものでした。

ボールを保持できなくなっていく柏

 しかしながら給水タイム以降、徐々にボールの支配はガンバに移ろう展開となりました。ガンバのシステム変更によって柏のプレッシング、守備の基準点が曖昧になったことで、ボールを奪えなくなったことが要因です。守備の基準が曖昧になったことで、プレッシングが定まらず、非保持の時間が増加しました。ここでいう【守備の基準】とは、「誰が誰を見るか?」を指してます。

 柏の守備は、ガンバの3CHに江坂+三原+サチローをぶつける形でスタートしました。大谷が余る格好となったのは、宇佐美選手(時にはアデミウソン選手)が中盤に降りることで前進を手助けする傾向にあることから、その対策のためだったと思われます。

 清水戦の【532】とシステムこそ違えど、奪いたい場所は同じです。中央からの前進を阻止し、サイドへ誘導したところでチーム全体のスライドによる圧縮でボールを奪う狙いがありました。CHが3枚であることから、横幅を使われたくないからです。

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 思うようにボールを運べないガンバは給水タイムに調整を行います。

 具体的には、ビルドアップ時の立ち位置の変更です。①中盤の底を1枚から2枚に増やすことで江坂のタスクを増加させる(迷わせる、判断を強いる)こと、②倉田選手を1列挙げて大谷の脇にポジションを取ることです。

 元々、ガンバの3CBに対して柏は2枚(オルンガ・呉屋)で追い掛けていることから、基本的には数的不利な状況です。なので、ガンバのビルドアップ隊には時間がある状況は立ち上がりと同様です。

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 立ち位置の変更後は、特に倉田選手のポジションが厄介でした。中間ポジションに立つことで、柏の守備の基準点を逸らしました。

大谷が見る→中央からの移動を意味。ガンバのトップに空けたスペースを使われてしまう
峻希が見る→ピン留めされてWBに自由を与えてしまう
三原が見る→江坂を助けにいけない

 という状況に状況に陥った柏は、徐々にガンバにボールを保持される展開で前半の残り時間を過ごしていきます。2トップで3枚を追うのも難しく、加えてガンバの中盤を捕まえることに苦労することで、前進を許す時間が続きます。

 この状況に柏は、「江坂・サチロー・三原が走りまくる」で対応していました。当然、プレッシングが後手に回ることから、ボールを奪う位置は低くなっていきます。

 しかしながら、低い位置でのボール奪取はガンバが攻撃している状況、つまり柏はカウンターを発動させる機会でもあるわけです。前を向いて奪った際は躊躇なく前線の2枚にボールを届け、局面を引っ繰り返すことで攻略を図りました。実際に2点目はカウンターから始まった攻撃の組み立てでした。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 今季のベストゲームといえそうです。オルンガ対策によってボールを持たされるゲームが続いたことで、カウンター以外にもポゼッションによる前進という手段の向上が図られました。保持もカウンターできるという、戦い方の幅を持つことは上位争いを続けていく上で絶対に必要な要素です。

 後半は、4バックに変更したガンバに対して間髪を入れず3バックに変更するなど、さすがの手腕を見せたネルシーニョ監督でした。(書きたかったけど、文字数・・・)

 怪我人続出で野戦病院と化していること、加えて過密日程の影響で練習がほとんどできない状況下で、これほどのチームを作り上げるネルシーニョ監督は尋常ではないと改めて思わずにはいられません。

 叶うなら、もう一度この監督とトロフィーを掲げたいと強く思った水曜日の夜でした。

vs清水(14節・2020/9/5) ビルドアップとか【532】とか。

柏のビルドアップ、前進について

 ルヴァン杯セレッソ戦と同様に【532】で試合に臨みました。

 清水は、ボールを保持することで主導権を握るゲームモデルを採用しています。ボールを持つことを強みとする相手を無効化、ネルシーニョ監督風にいうところの”ニュートにする”方法として、「ボールを与えなければいいよね」という考え方があります。以下、ネルシーニョ監督のコメントです。

相手の守備のオーガナイズ・空いたスペース、最終ラインの背後をしっかりと狙い、自分たちとしてはしっかりボールを握りポゼッションしながら攻撃の入口を作るということが非常に効率よくできていた 

  ということで、ボールを保持しながら主導権を握ろう!というプランで臨んだ我が軍のビルドアップを観ていきます。

サイドバックがフリーになるビルドアップ

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 ビルドアップは、CB3枚+ヒシャ・タニのCH2枚(たまに江坂かサチローが降りて3枚)で始まります。左右のCBはハーフスペースの入り口にポジションを取ります。

 清水の1トップもさすがに1枚で柏のCB3枚を見ることはできません。「ボールを持つことが信条だし、持つためには奪う必要があるから、プレッシングは行いたい。そもそも自由にさせると、古賀の縦パスもえげつない。」という問題に対して、SHがプレッシングに出るという解決策を講じます。

 しかしここで、「SHが出るなら、三丸を見るのは誰?」という新たな問題が降りかかる清水。清水のSHは三丸を気にしながらのプレッシングとなることから強度が低下、もしくは遅れが生じます。つまり、守備の基準点が逸らされている状況です。

 三丸に対しては、清水SBが出ていくことがセオリー通りではあるものの、そこに立ちはだかるのはサチロー。列を移動し、清水SBの前にポジションを取ることで、前に出られないように”ピン留め”をします(この役割は、サチローだけではなく呉屋だったり、江坂だったりと流動的に対応していました。)。

 「SBはプレッシング、SBはピン留めで出られない」・・・つまり、柏の三丸がオープンになる構造で前進を図ります。先制点についてもここからの前進によるものです。

 列の移動(大谷が降りたり)を行わなくても、初期状態で中央と左右のハーフスペースに人を配置できることはCBを3枚にしたことのメリットです。列移動は効果的な前進方法ではあるものの、移動に時間を要することと、本来いるべき場所から人が動くリスクを内包しています。

 相手のプレッシングに合わせてビルドアップの形を変えていくことが求められるのは当然ですが、この試合については初期配置の3枚が効果的な前進に寄与したものと思われます。

【532】について考える

 セレッソ戦から採用している【532】について考えていきます。この2戦は、効果的に機能している印象を受けます。

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どこで奪いたいのか

 【532】の構造上、清水のSBはオープンな状態になります。この構造で前から追い掛けてしまうと、オープンなSBに対応するために、少しずつ歪みが生じて前進を許してしまいます。プレッシングで後手を踏む状況が生まれます。

 【532】は中盤を広く使われることが弱点です。横幅の枚数が圧倒的に不足しているからです。これまで柏が使ってきた【4411】は横幅を4枚で見ることができたことから、1枚少ない格好です。

 そこで柏は、ボールの奪取位置をミドルゾーンに設定しました。相手のビルドアップに対して時間とボールを与えることを許容する代わりに、3CHのスライドで対応可能な位置での迎撃を目指しました。ミドルゾーンまで後退することで、相手の背後にスペースが生まれることから、カウンターを仕掛けやすいという狙いもあったかもしれません。

 ミドルゾーンでボールを奪うにあたって、重要な役割を担うこととなったのは2トップ(江坂・呉屋)です。前進を遅らせつつ、ボールをサイドに誘導するというタスクを与えられました。

 前からプレッシングに飛び込むのではなく、CHの状態・状況を確認しながら、中央のコースを牽制します。江坂も呉屋も相手のCBがボールを持った際に、首を後ろに振りながら(後方を確認しながら)パスコースを牽制している様子が窺えました。

 超人のヒシャ・タニ・サチローといえども、3枚で横幅を見ることは難しいものです。であれば、2トップが中央へのパスコースを牽制し、サイドへの誘導に連動する形で、CHの3枚がスライドすることで横幅の不足を補います。

 状況によってはCHが前に出ることで前から枚数を合わせていく”前プレ”を行う時もありましたが、効果的な奪取につながった場面は少なかったと思います。

(余談)ミカが復帰したら、【532】は採用しないんじゃないか

 横幅の不足を補うことで生じる歪み、つまり、どこかのスペースが空いてしまうことや、誰かが人一倍走ることで解決を図る際の消耗。完璧なシステムなど存在しないことから、許容可能なリスクをどこで取っていくかという判断になってきます。選手の個性や編成、相手の戦術や日程、大会のレベルなどを勘案して判断されます。

 【532】を採用するチームの横幅不足に対する一般的な対応方法は、①FW2枚で相手の4枚(CB+SB)を見る(2トップが走りまくる)、②CHがSBまでアプローチ(中盤が消耗)、③WB(柏の場合は三丸+北爪)の上下動(WBが死ぬ)といった3パターンが挙げられます。

 柏は、どちらといえば①に近い、2トップに負荷が掛かっている印象を受けました。絶え間ないコミュニケーションとポジショニングの調整は、この二人だからできたことだと思います。

 いや待てよ、江坂と呉屋の2人だからできたこと?じゃあ、ミカが帰ってきたらどうなるんだ?という話になってきます。メンバー外の要因については、ターンオーバーだったことがネルシーニョ監督から明かされており、早期の復帰が想定されます。

(ミカの不在について)連戦が続いていたことも踏まえてメディカルと協議をし、(ルヴァンカップC大阪戦から)アウェイの2連戦に関してはしっかり休ませようという判断でチームに帯同していなかった。

 意図的なターンオーバーを行った2試合でのシステム変更。

 この事実から、【532】の採用は、ミカ不在による特別オプションなのではないか、と解釈することも可能かと思います。

 なぜそうなるのか。

 一番に守備の強度です。守備の強度を求めるのなら、ミカよりも呉屋という選択になります。ネルシーニョ監督もミカの守備について、改善は認めながらも、ポジショニングについての課題を言及することが稀にあります。守備の強度を補って余りあるほどのリターン(得点)を得ていることから、目を瞑っている部分もあるものと思われます。

 また、コミュニケーションについて前述しましたが、江坂も以下のようなコメントを残しています。

(ミカと呉屋の違いについて)ヒロトとは喋って細かいことが共有できるので、そこで相手のポジショニングを見て話しながらプレーしている。 

 【532】の2トップに求められるタスクの量・質を考慮すると、ミカの復帰後に同布陣の継続採用については懐疑的な印象を持ちました。ミカを活かすことができずに消耗させるばかりか、守備に強度も不足するといった、誰も幸せになれない未来が想像できる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ただ、ネルシーニョ監督のこれまでを考えると、結果を残した【532】は負けるまで続けるような気がしないでもない。けど、ミカも使いたい・・・という状況で監督がどのような判断を下すのかは興味深いものがあります。当然、怪我人の回復状況によっても変わってくると思いますし。

 どちらにせよ、ミカ不在+CBが次郎だけという組み合わせ、かつ【532】という新システムで結果を残したことは非常にポジティブで自信につながったことは間違いありません。

vs鹿島(13節・2020/8/29) タイトルが思い浮かばない

 試合は、ボールを保持したい柏vs撤退からカウンターの機会を窺う鹿島といった構図で推移しました。

鹿島が撤退を選択した理由3つの理由

  1. 保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること
  2. そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること
  3. 柏のCBが本職ではないこと

 中5日の柏に対して鹿島は中2日。連戦を考慮し省エネモードで試合に入る鹿島は、442でミドルゾーン自陣よりに守備の陣形をセットしました。鹿島の2トップは、柏のビルドアップ隊に対して時間を与えないというよりも、コースを牽制する程度の強度でプレッシングを行い、サイドへ誘導したところを圧縮して回収します。

  鹿島はボールを奪取した際、シンプルに柏DFラインの背後にボールを放り込みます。理由は①保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること②そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること(試合間隔が少ない鹿島にとって体力的に不利)③柏のCBが本職ではないこと・・・などが挙げられます。

 ①と②は大枠で解釈すれば同義かもしれません。チーム全体でボールを持ちながら、陣地を押し上げる・・・それは自分たちの背後にスペースを作ってしまうことになります。その背後のスペースを使わせないためには、失った瞬間にゲーゲンプレスを行う必要があります。背後を突く時間すら与えない強度のプレッシングを続けることが求められます。日程・気候等の諸条件を考慮すれば、断続的なプレッシングを行うことは懸命ではありません。

 ③については、柏の厳しい台所事情によるものです。既知の通り、CBに怪我人が続出しています。川口の投入直後、ロングボールへの対応がナーバスになったシーンが見られました。であるならば、ボールを保持しながら攻めることもないよね、シンプルにCB目掛けてボールを蹴っ飛ばした方が効果的だよね、という判断だったものと思われます。

 また、①②と同じ理屈で、ボールを持ちながら攻撃をする柏の背後にはスペースが存在します。そこを突こうという考え方は至極真っ当な選択です。

 鹿島・ザーゴ監督のコメントからも、柏のボール保持を織り込んだ状態で試合に臨んだことを読み取れます。

特に相手は中日に試合がなかったということで、おそらく戦略的にウチらにプレッシャーを掛けてくると予測した上で、逆にその強度を利用してひっくり返す

柏のボール保持について

 柏は鹿島が撤退を選択したことによって、ボールを持つ時間を得ることができたのは前述の通りです。

 柏のボール保持は、大谷が後方へ降りること(たまにヒシャもやる)で2トップに対して3枚で数的優位を確保する形となりました。そこにヒシャを加わえた【3-1】での前進を図りました。後方で数的優位を確保し、ボール保持の安定化を図ることで、SBを高い位置に押し上げる(SBが横幅を取る)時間を確保します。

 大谷は左のCB-SB間に降りることが多く、チーム全体としても左サイドからの前進が増えていきます。442でブロックを敷く鹿島に対して横幅を取る三丸のクロスからの得点を目指しました。深い位置を取った三丸のクロスボールからPA内へ侵入する場面が多数見られ、再現性を感じました。得点には至らなかったものの、あと一歩のところまでは崩すことができたと解釈しました。

 スタートの配置はサヴィオ左SH、江坂トップ下。これについても、クロスボールが増加することを織り込み、江坂を中央に配置することで中で合わせる枚数を確保する狙いがあったと考えられます。

 加えて休息なしに出場を続ける江坂のタスク・運動量の軽減を図る目的もあったものと思われます。

 しかしながら、江坂をトップ下に配置することは、サヴィオをサイドに配置することになります。サヴィオはウイングとして独力で打開を図るタイプの選手ではないことから、なるべく中央に配置したいというのが本音のところです。神戸、大分と連続でトップ下で起用されています。

 その落とし所、解決策として、横幅をSBに取らせ、サヴィオは内側の絞ったところからビルドアップを開始することが多かったように見えました。

最近のボール保持について

 柏は(リーグの)セレッソ戦以降、ボールの保持をゲームのプランに据えることが多くなっています。要因としては、オルンガを中心としたカウンターへの対策として「カウンターが怖いなら、柏にボールを持たせればいいよね」という戦い方を選択するチームが増えてきたことが挙げられます。つまり、外的要因によるパラダイムシフトを迫られた、と。

 加えてCB陣には負傷者が続出している状況にあり、撤退で守り切ることへの不安が生じます。事実として、鹿島戦後半は一人少なかったこと、前半で交代カードを2枚切っていたことなどイレギュラーな事態があったにせよ、撤退を迫られた展開で2度のリードを守ることができませんでした。

 撤退での守備に不安が残るなら、攻撃の時間を増加させること、ボールを保持する時間を増加させることで守備の時間を減らしていこう、と考えるのは論理的な判断と思われます。

vs大分(12節・2020/8/23) ボールを持ちたかったのだけど

柏のゲームプラン

ネルシーニョ監督

自分たちは幅を使ってじっくりボールを動かしながら攻撃の入口を見つけようというプランでこのゲームに臨んでいたが、相手の人数の揃ったコンパクトな守備に攻撃を阻止されるというシーンが非常に多かった。

  柏のプランは、ボールを保持しながらゲームを支配することでした。そのプランの中で、大分の組織的な守備を崩すことができなかった、というのが大きなゲームの流れだと解釈しました。
 余談ではありますが、「今季一番」と評したセレッソ戦以降、ボールを保持しながらゲームを進めることに自信を持った印象を受けます。大分を崩し切ることはできなかったものの、攻撃の選択肢に速攻(カウンター)と遅攻の2パターンを有することで、相手に的を絞らせないことが可能です。
 大分・片野坂監督も「始まってから見極める」主旨のコメントをダゾーンに残しており、「どのプランで来るかわからない」という幅を持つことは、立ち上がりから主導権を握る上で有効だと思われます。

大分のゲームプラン

 大分は、柏のカウンターを最小限に抑える(威力・回数)ことを前提として、ゲームプランを組み上げたものと思われます。
 

大分・鈴木選手

相手(柏)の一番の特長はカウンターだと思っていたので、そこでのリスク管理ルーズボールの処理はシンプルにやろうと臨んだ。

 柏のカウンターを警戒していたことを読みとることが可能です。カウンターが強みなら、ボールを持たせてしまえば良いという考え方であったものと思われます。
 守備では、柏のビルドアップに対して541の撤退を選択しました。自陣に低く構え、背後のスペースを埋めつつ、カウンターでの得点を目指すというプランだったものと思われます。
 ネルシーニョ監督も大分のプランと印象について以下のように述べています。

おそらく相手もカウンター狙いでゲームプランを立ててこのゲームに臨んだと思う

前半は自分たちのミスをうまく使われてカウンターに出て行かれるシーンが多く見られた

理想と現実(プランと実際)

 立ち上がりこそ柏のボール保持で試合が推移したものの、次第に大分がボールを保持する時間が増えていきます。柏の支配率は前半の給水タイムで43%、前半終了時点で48%、試合を通じて44%程度と、大分がボールを保持する展開で試合が進みました。

 非保持の時間が増加した要因は、

  1. 攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)
  2. ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 などが挙げられます。

1、攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)

大谷選手

大分は守備の時にしっかりと組織的に戦うチームだとスカウティングの段階から理解していたが、自分たちが(攻撃の)最初の入り口のところで上手くボールを前線に運べなかったし、なかなか相手の嫌なところ、ライン間でボールを運べなかった。 後半は選手を入れ替えながら何度かサイドからワンタッチで中に入る場面はあったけれど、回数自体は多くなかったので、攻撃のところは課題が残ったと思う。

 柏の非保持の時間の増加(大分のボール保持の時間が増加)した要因は、監督や選手も述べているように、大分の組織的かつコンパクトな守備ブロックを崩せなかったからです。柏は横幅を広く保ち、ボールを左右に動かしながら、攻撃の糸口を探りました。
 しかしながら、大分の541という強固なブロックを前に攻撃が完結しないシーンや、ブロックに引っ掛かり、ボールをロストするシーンが目立ちました。
 大分がプレッシングに出てこない戦い方を選択したことから、大分陣内にはスペースがなく、柏は前進に難儀する様子が伺えました。ランニングによって裏へ抜けるスペースも、ライン間で受けるスペースもなく、難易度の高い(成功確率の低い)パスやドリブルでの打開が増加しました。

2、ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 また、自陣のブロック内でボールを回収した大分は、ゴールキーパーを含めたパス交換によって、柏のプレッシング回避を図りました。自分たちがボールを保持することは、相手にボールを渡さないことでもあります。つまり、守備の時間を減少させることになります。
 元より大分は、ボールを保持しながら相手を自陣に招き入れつつ、空いた背後のスペースを突く「擬似カウンター」と呼ばれる攻撃を得意としています。
(擬似カウンター:本来は相手の攻撃→守備の瞬間に相手の背後を突くことをカウンターと表現します。「擬似カウンター」は、自分たちがボールを持った状況でカウンターに似た状況を作ることから、「擬似」と形容詞がついたものと思われます。) 
 大分は、擬似カウンターのきっかけでもある自陣でのボール保持を得意としていることから、容易に柏のプレッシングを回避に成功しました。
 
 柏としては、奪い返せなかった局面と、体力の消耗を考慮して自陣に構えた局面とが存在しており一様に断じることは難しいものの、結果的に大分にボールを渡す時間が増加しました。
 連戦に次ぐ連戦の影響でプレッシングの強度を保つことが出来なかった側面も強かったものと思われます。

www.targma.jp

 三原選手が鹿島戦前のコメントで大分戦について言及しました。有料記事であることから引用は差し控えます。要約すると、「もう少しボール保持の時間を増やしつつ、前で奪ってショートカウンターを仕掛けたかった」旨の発言です。

vs神戸(11節・2020/8/19) これぞポジショナル・プレーな神戸

疑問1:なぜ劣勢だったのか?(特に前半)

答え:神戸のポジショナル・プレーに守備(プレッシング)の基準点を崩されたから

前半の戦い方が良くなかった。(中略)どうしても守備においてラインが低くなってしまう時間帯が続き、相手にそこを突かれてボールを握られる中で相手に先制点を許してしまい0対1で折り返したという展開だった。

 ネルシーニョ監督も述べているように、前半は神戸に主導権を握られる展開で推移しました。プレッシングを行うことができず、守備ラインの後退を強いられたことで、ボールと時間を神戸に与える展開となりました。
 私は、理由を以下の3つだと解釈しました。
  1. 後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
  2. SHが援護射撃に出るべきか、という迷い
  3. 降りないことで柏のDHを留める神戸のCH
①後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
 柏のプレッシングが嵌らなかった要因の1つ目は、後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップへの対応に苦慮したことです。
 柏のプレッシング2枚(江坂、ミカ)に対して、神戸は2CB+CHもしくはGKがビルドアップに加わることで数的優位を確保します。神戸は、後方での数的優位によってボールと時間を確保(ポゼッション)し、柏の2トップのプレッシングを無効化することで前進を図りました。

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 柏は2トップのプレッシング(パスコースの限定や、ロングボールの誘発)に中盤が連動することでボールを奪う守備を採用しています。つまり、柏の2トップのプレッシングが守備のスタートであり、守備の基準点となります。神戸は後方で数的優位を確保するポゼッションによって、柏の守備の基準点を逸らすことに成功したことから、主導権を握りました。
 この「守備の基準点を逸らされた状態」こそが、「プレスが嵌らない」と表現される状態です。ネルシーニョ監督がコメントとしている「守備ラインの後退」とは、プレッシングが嵌らなかったことから、中盤が連動できず撤退を強いられた状況を指しているものと思われます。

 
②SHは援護射撃に出るべきか、という迷い
 プレスが嵌らなかった要因の2つ目は、SHが援護射撃にできるべきか?と判断を強いられたことです。
 数的優位を確保する神戸のビルドアップ隊に対して、柏はFWが全力で走ることで解決を図るのか、SHが持ち場を離れてアプローチに出ていくべきか、という判断を強いられました。判断を要することこそが迷いです。そして、その迷いこそが基準点を逸らすこととなります。

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 柏は、FWとSH(CHも含む)の連動によってサイドでボールを刈り取ることを強みとしています。その連動に迷いが生じたことから、中途半端(強度不足もしくは、そもそもアプローチに出られない)な対応を強いられる展開となりました。
 判断を強いられた柏のSHは、無理なアプローチに出るよりも、守備ブロックの維持を優先したことから、大きく陣形が崩れる事態には至りませんでした。持ち場を離れてアプローチに出て行った場合、大外からの前進を許すこととなるからです。何度かそのようなシーンが見られたことも事実です。
 44という守備ブロックは維持できたものの、FWのプレッシングに連動出来なかったことから、守備ブロックが押し下げれる状況、つまり神戸にボールを保持される展開での推移を許しました。
 
③降りないことで柏のCHを留める神戸のCH
 プレッシングが嵌らなかった3つ目の要因は、柏のDHが前に出られなかったことが挙げられます。神戸のCH2枚の立ち位置によって、柏のCH2枚(タニ・ヒシャ)はプレッシングに出られない状況にありました。

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 神戸のCHは、ボールを貰いに後方へ降りていくことはせず、中盤に留まることで柏CHをピン留めすることに成功します。自分が降りていくことで、相手選手を引き連れてしまうことを理解したインテリジェンスを感じる立ち位置です。仮に柏の2CHが2トップの援護射撃に出るのであれば、中央でボールを受けることができます。
 柏のCHとしても、ボールと時間を有している神戸のビルドアップ隊に対し、中央の持ち場を離れてでもアプローチに出て行くという選択肢はリスクが大きすぎます。中央からの前進は、ゴールへ最短ルートでの攻略を許すことと同義です。イニエスタと山口蛍というクオリティの高い選手が相手だということを考慮する必要もありました。
 繰り返しますが、神戸CHがボールを受けるために後方へ降りないことで、柏の中盤がプレッシングに出て行くことを牽制しました。これこそがポジショナル・プレーでいうところの位置的優位です。
 ポゼッションを志向するチームだからといって、中盤の選手が必ずしもボールを貰いに降りて行くわけではありません。降りないことが、結果的に後方で数的優位を確保することにつながっています。
 

疑問2:後半、少し改善したように見えたのはなぜ?

答え:プレッシング(守備)の基準点を明確にしたから

 後半に入り、攻撃に出ていく場面が増えました。この疑問への回答については、ネルシーニョ監督が簡潔に答えています。

ヴィオを投入して相手のビルドアップに対してより高い位置でプレッシングに出ていき、前からボールを引っかけてショートカウンターを狙った。
ヴィオの特徴であるボールを持って相手に対して仕掛けられる、ボールが運べるところ、ゲームのテンポを変えてアクセントがつけられるような選手が必要だった。任はボールを引っかけてからショートカウンターに出ていく際により攻撃に出て行けるようなポジションでプレーさせたいという狙いを持ったポジション配置だった。

  前から嵌められる時は嵌めていこうという考え方を整理して臨んだ印象です。仲間選手も以下のように述べています。

ちょっとしたことだが、後半は全員の前に行く意識が一つになったことが大きかった。 

 「SHが援護射撃に出るかという判断」について「疑問1」で述べました。最もわかりやすい修正はこの点だったと思いました。後半開始以降、SHがCBまでアプローチに行く回数が増えました。「前から枚数を合わせていく」という考え方を今一度整理することで、守備の基準点を明確にしました。神戸のビルドアップ隊から時間とボールを奪い、少ない手数での得点を目指しました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半は、前から行く意識を強くしたことでプレスを回避されることもありました。後方に存在するスペースを突かれ、オープンな状態で前進を許す場面が増えたことも事実です。決定機は後半の方が多かった印象(僕調べ)です。リードを許していた状態であることから、失うものは何もない!という考えもあったものと思われます。