vs神戸(11節・2020/8/19) これぞポジショナル・プレーな神戸

疑問1:なぜ劣勢だったのか?(特に前半)

答え:神戸のポジショナル・プレーに守備(プレッシング)の基準点を崩されたから

前半の戦い方が良くなかった。(中略)どうしても守備においてラインが低くなってしまう時間帯が続き、相手にそこを突かれてボールを握られる中で相手に先制点を許してしまい0対1で折り返したという展開だった。

 ネルシーニョ監督も述べているように、前半は神戸に主導権を握られる展開で推移しました。プレッシングを行うことができず、守備ラインの後退を強いられたことで、ボールと時間を神戸に与える展開となりました。
 私は、理由を以下の3つだと解釈しました。
  1. 後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
  2. SHが援護射撃に出るべきか、という迷い
  3. 降りないことで柏のDHを留める神戸のCH
①後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
 柏のプレッシングが嵌らなかった要因の1つ目は、後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップへの対応に苦慮したことです。
 柏のプレッシング2枚(江坂、ミカ)に対して、神戸は2CB+CHもしくはGKがビルドアップに加わることで数的優位を確保します。神戸は、後方での数的優位によってボールと時間を確保(ポゼッション)し、柏の2トップのプレッシングを無効化することで前進を図りました。

f:id:hitsujiotoko09:20200822070645p:plain

 柏は2トップのプレッシング(パスコースの限定や、ロングボールの誘発)に中盤が連動することでボールを奪う守備を採用しています。つまり、柏の2トップのプレッシングが守備のスタートであり、守備の基準点となります。神戸は後方で数的優位を確保するポゼッションによって、柏の守備の基準点を逸らすことに成功したことから、主導権を握りました。
 この「守備の基準点を逸らされた状態」こそが、「プレスが嵌らない」と表現される状態です。ネルシーニョ監督がコメントとしている「守備ラインの後退」とは、プレッシングが嵌らなかったことから、中盤が連動できず撤退を強いられた状況を指しているものと思われます。

 
②SHは援護射撃に出るべきか、という迷い
 プレスが嵌らなかった要因の2つ目は、SHが援護射撃にできるべきか?と判断を強いられたことです。
 数的優位を確保する神戸のビルドアップ隊に対して、柏はFWが全力で走ることで解決を図るのか、SHが持ち場を離れてアプローチに出ていくべきか、という判断を強いられました。判断を要することこそが迷いです。そして、その迷いこそが基準点を逸らすこととなります。

f:id:hitsujiotoko09:20200822071352p:plain

 柏は、FWとSH(CHも含む)の連動によってサイドでボールを刈り取ることを強みとしています。その連動に迷いが生じたことから、中途半端(強度不足もしくは、そもそもアプローチに出られない)な対応を強いられる展開となりました。
 判断を強いられた柏のSHは、無理なアプローチに出るよりも、守備ブロックの維持を優先したことから、大きく陣形が崩れる事態には至りませんでした。持ち場を離れてアプローチに出て行った場合、大外からの前進を許すこととなるからです。何度かそのようなシーンが見られたことも事実です。
 44という守備ブロックは維持できたものの、FWのプレッシングに連動出来なかったことから、守備ブロックが押し下げれる状況、つまり神戸にボールを保持される展開での推移を許しました。
 
③降りないことで柏のCHを留める神戸のCH
 プレッシングが嵌らなかった3つ目の要因は、柏のDHが前に出られなかったことが挙げられます。神戸のCH2枚の立ち位置によって、柏のCH2枚(タニ・ヒシャ)はプレッシングに出られない状況にありました。

f:id:hitsujiotoko09:20200822072158p:plain

 神戸のCHは、ボールを貰いに後方へ降りていくことはせず、中盤に留まることで柏CHをピン留めすることに成功します。自分が降りていくことで、相手選手を引き連れてしまうことを理解したインテリジェンスを感じる立ち位置です。仮に柏の2CHが2トップの援護射撃に出るのであれば、中央でボールを受けることができます。
 柏のCHとしても、ボールと時間を有している神戸のビルドアップ隊に対し、中央の持ち場を離れてでもアプローチに出て行くという選択肢はリスクが大きすぎます。中央からの前進は、ゴールへ最短ルートでの攻略を許すことと同義です。イニエスタと山口蛍というクオリティの高い選手が相手だということを考慮する必要もありました。
 繰り返しますが、神戸CHがボールを受けるために後方へ降りないことで、柏の中盤がプレッシングに出て行くことを牽制しました。これこそがポジショナル・プレーでいうところの位置的優位です。
 ポゼッションを志向するチームだからといって、中盤の選手が必ずしもボールを貰いに降りて行くわけではありません。降りないことが、結果的に後方で数的優位を確保することにつながっています。
 

疑問2:後半、少し改善したように見えたのはなぜ?

答え:プレッシング(守備)の基準点を明確にしたから

 後半に入り、攻撃に出ていく場面が増えました。この疑問への回答については、ネルシーニョ監督が簡潔に答えています。

ヴィオを投入して相手のビルドアップに対してより高い位置でプレッシングに出ていき、前からボールを引っかけてショートカウンターを狙った。
ヴィオの特徴であるボールを持って相手に対して仕掛けられる、ボールが運べるところ、ゲームのテンポを変えてアクセントがつけられるような選手が必要だった。任はボールを引っかけてからショートカウンターに出ていく際により攻撃に出て行けるようなポジションでプレーさせたいという狙いを持ったポジション配置だった。

  前から嵌められる時は嵌めていこうという考え方を整理して臨んだ印象です。仲間選手も以下のように述べています。

ちょっとしたことだが、後半は全員の前に行く意識が一つになったことが大きかった。 

 「SHが援護射撃に出るかという判断」について「疑問1」で述べました。最もわかりやすい修正はこの点だったと思いました。後半開始以降、SHがCBまでアプローチに行く回数が増えました。「前から枚数を合わせていく」という考え方を今一度整理することで、守備の基準点を明確にしました。神戸のビルドアップ隊から時間とボールを奪い、少ない手数での得点を目指しました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半は、前から行く意識を強くしたことでプレスを回避されることもありました。後方に存在するスペースを突かれ、オープンな状態で前進を許す場面が増えたことも事実です。決定機は後半の方が多かった印象(僕調べ)です。リードを許していた状態であることから、失うものは何もない!という考えもあったものと思われます。