vsセレッソ(10節・2020/8/15) ボールを持てるようになってきたかもしれない。

 結果は残念なものとなりましたが、内容は悲観するものではありませんでした。ネルシーニョ監督も「内容は今季一番」との認識を示し、自分たちの現在地が間違ってはいないこと、継続することの重要性を選手にも伝えたとコメントを残しています。

(内容は今季一番とだと見えたが、勝敗を分けたのは?)
自分もそう思っている。ゲームの入りから良いテンポで選手たちのクオリティ・個々の特徴も生きていたと思う。ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。

今日の戦い方を続けていけば、おのずと結果は訪れると選手たちにはロッカーで伝えた。しっかり次節に向けて継続しながら準備をしていこうと選手たちに伝えた。 

 疑問1:なぜボールを保持できたのか?

答え1:セレッソの守備の最優先事項が「背後のスペースを空けない」だったから

 試合を通じて柏のボール支配率は60%に近い水準で推移しました。この現象は、セレッソのゲームプランが要因だと解釈しました。
 セレッソは、守備時の最優先事項を「背後のスペースを空けない」ことに設定していたものと思われます。前線からのハイプレスによるボール奪取を目指すというよりは、まずは自陣に撤退することでスペースを与えないことを優先事項とするプランだったように思われます。
 そのプランを選択した理由は、柏のカウンターを警戒したことや、猛暑と過密日程による消耗を最小限に抑えることなどが挙げられます。柏と同様にカウンターを長所とする東京との対戦時でも撤退を選択していたことから、そのように解釈いたしました。
 柏がボールを保持できた理由は、セレッソが撤退を選択したことで、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保したからということになります。「疑問2」で触れますが、CBに太陽を選択した理由もここにあるものと思われます。

答え2:柏の守備が良かったから

 以下はセレッソ大阪・ロティーナ監督のコメントです。

柏のプレスの前に、ボールを失い過ぎて、攻撃を受ける回数が増えました。

Q:ボール保持の時間も短く、苦しい展開が続いた中で、相手にクロスやシュートもかなり打たれたが、今日の守備で特に良かった点は?
「ビルドアップではうまくいかずに、守備の時間が長くなりましたが、チーム全体でいい守備ができたと思います」

 ロティーナ監督は、「柏の守備がよかったことから、ボールを失ってしまい守備の時間が増えた」と述べました。

柏の[守備]対応 

 柏の[守備]は、セレッソのビルドアップに対して、前から枚数を合わせる形でプレッシングを行いました。ミカの第1プレッシングで中央のパスコースを遮断し、江坂やCHが連動することで、サイドにボールを誘導したところで、奪い切るorロングボールを蹴らせるというのが基本的なスキームでした。柏のプレス回避のため、セレッソはロングボールによる前進を図る場面が増えていきます。しかしながら、太陽・祐治が競り勝つことで柏がボールを回収し、再び柏がボールを保持する時間が続きました。

柏の[攻撃→守備]の対応

 柏がボールポゼッションによって敵陣に押し込む展開でゲームが推移します。柏のボール保持の際、柏ベンチからCB(太陽と祐治)に対して「もっと押し上げろ」「コンパクトに」との指示が頻繁に飛んでいます。つまり、敵陣でボールを失った瞬間にすぐさまプレッシングを開始できるよう全体をコンパクトに保つ必要がありました。ボールの逃げ場所を潰しておくことで、前線で奪取に成功すればショートカウンターを、ロングボールを蹴ってくれば最終ラインでの回収によるボールポゼッションの回復を図るスキームです。

疑問2:なぜCBは川口ではなく太陽だったのか?

 マリノス戦、大分戦とCBとして十分な働きを見せた川口がメンバーから外れました。太陽が右SBとして好調を維持していたことから、CB川口・SB太陽を予想するメディアが多かったものの、ネルシーニョ監督はCBに太陽を起用しました。その理由を解釈してみます。

答え1:ボールを保持する展開を織り込み、ビルドアップを期待したから

 「疑問1」で触れたように、ボールを保持する展開でゲームが推移することは、スカウティングの段階で想定できたものでした。足元の技術に優れた太陽をCBに起用することで、後方からのポゼッションやビルドアップの質を向上させることが目的だったと思われます。ボールと時間を有する展開であったことから、相手のブロックを動かしながらの前進が求められました。柏アカデミー出身者らしい振る舞いによって、十分に与えられたタスクを遂行したものと思われます。ネルシーニョ監督も以下のように述べています。

古賀は終始落ち着いて良さや個性をしっかり全面に出しながら、攻守においてビルドアップでも起点になってくれていた。

答え2:ロングボール(空中戦)対策

 「疑問1」でも触れたように、前からのプレッシングによって被ロングボールの回数が多くなることが予想されました。空中線の対応はCBを本職とする選手に任せたい、という考えがあったものと解釈しています。前節・マリノス戦後に川口が興味深いコメントを残しています。

真ん中では普段と全く違う見慣れない光景で難しいところはあったが、足元で繋いできてくれる分、自分としては空中戦が多いよりは対応しやすかった。

  マリノスのゲームモデルを鑑み、空中戦にはならないことを織り込んだ上で、川口CBという判断に至ったのではないかと思われます。セレッソ戦では、空中戦やロングボールでの対応が求められることから、太陽を選択したと解釈すると筋が通っているように感じます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。フィニッシュの数の数字を見ても自分たちが20本近く打っているの対して、相手は6本という結果もみている。ただ、敗戦という事実には真摯に向き合わなければいけない。

 ネルシーニョ監督のコメントがこの試合の全てを表しています。年に数回はこんな試合あるよね・・・というゲームだったと思います。
 ミカ対策(要はカウンター対策)によって背後のスペースを消してくるチームが増えてきました。自ずとボールを持つ時間が増えることとなります。ビルドアップやポゼッションの質を向上せざるを得ない状況です。
 ネルシーニョ監督もビルドアップの際のポジショニングや体の向きなど、以前よりも細い部分まで要求している様子が窺えます。特に、ボール保持者がオープンな状態(前が空いている状態)にもかかわらず、ドリブルでの持ち運ぶことを放棄した際には厳しく指摘しています。

vs横浜(9節・2020/8/8)この素晴らしいネルシーニョコメントに祝福を

 ネルシーニョ監督のコメントが簡潔明瞭に全ての疑問に答えてくれています。個人的にいくつか生じた疑問がありましたので、ネルシーニョ監督のコメントを参考に解釈していきます。

疑問1:今日のゲームプランは?

答え:撤退で耐えながら、相手の背後にあるスペースをカウンターで突く

 まずは、どのようなプランで試合に臨んだのかを探ります。
 マリノスのサッカーと言えば、ポジショナル・プレーを想像する人も多いのではないでしょうか。ポジショナル・プレーを端的に表現すれば、ボールを保持しながら3つの優位性(位置的優位、数的優位、質的優位)を活かしてプレーすることです。
 ボールを握ることで可能な限り[守備]の局面(時間)を減らします。ボールを失った瞬間(ネガティブ・トランジション)に強度の高いプレッシング(ゲーゲンプレス)を行います。また、相手のビルドアップに対しては、ハイプレスを行います。柏にボールと時間を与えず、[守備]の局面(時間)を減らすことで、[攻撃]にリソースを割くことが目的です。
 攻撃的かつ特徴が明確な相手に対して、ネルシーニョ監督は以下のプランで臨んだと述べています。

相手は非常に攻撃的なチームだが、ネガティブトランジッションであるボールを失ったタイミングで守備が揃わない時間帯は当然あると見ていた。ボールを奪ってから空いたスペースを攻撃的に攻めていこうという狙いを持っていたがなかなかうまくボールを握れず、相手の空けたスペースを効率よく突けなかった部分が当初のプランと違ったところだった。

  横浜がボールの保持を強みとしていることは前述しましたが、ボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があります。そのための手段がゲーゲンプレスやハイプレスです。ゲーゲンプレスやハイプレスを行うためには、チーム全体が高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。つまり、背後には広大なスペースが存在していることとなります。
 ネルシーニョ監督は、横浜のネガティブ・トランジションの強度が低下する瞬間があると分析した上で、相手の背後を素早く突いていくことをプランとしました。背後へのランニングで強さを発揮するミカの存在も非常に大きいです。
 ボールの保持を強みとする相手に対して、こちらもボールの保持で対抗するのではなく、自陣に構えてボールを引っ掛けてから、素早くカウンターで刺すというプランで勝点の獲得を目指しました。

疑問2:あまりにも[守備]の時間が長かったと思うけど?

答え:カウンターに急ぎ過ぎて、ボールを放棄してしまったから

 文字通り手に汗握るゲーム展開となりました。体感時間としては、90分とは思えないほど長く感じました。それは押し込まれる時間、つまり、[守備]をする時間が長かったことが要因だと思われます。最終的なボール保持率は35%程度でした。
 なぜ[守備]の時間が増えたのか?について、ネルシーニョ監督の見解です。

それでも固くしっかりと相手の攻撃を許さない守備ができていたと思うが、(ボールを)引っかけてからカウンターに出ていくタイミングで縦に急ぎすぎて、ボールを入れるがすぐにボールを失うという流れが続いた。(ハーフタイムに)もう少ししっかりとボールを握る必要がある、相手が空けるスペースをしっかりと見つけて、ボールを奪ってから慌てて前に入れるのではなく、じっくりしっかりボールを握ろうと選手たちに伝えた。

 要約すると、縦に急ぎ(カウンターに)過ぎたことから簡単にボールを放棄してしまったことが原因です。換言すれば、ボールを保持できる場面でも手放してしまったということです。カウンターは、陣形の整っていない相手を崩す有効な手段ではあるものの、ボールを大切にする選択肢ではありません。当然、後方でボールを繋ぐ方が安全にボールを保持することが可能です。以下、三丸選手も同様のコメントを残しています。

もう少し自分たちのボールの時間帯を増やしたかった。ハーフタイムに監督からも話があり、ボールを取った後に前に急ぎすぎてしまっていたところもあった。 

 加えてマリノスのハイラインの攻略に苦労したことも要因の一つです。オフサイドに掛かってしまうことで、相手のボール保持が始まってしまう場面が目立ちました。
 カウンターでの攻略がメインプランではあったものの、ボールの保持を強みとする相手に対してボールを与えてしまうことは得策ではありませんでした。ネルシーニョ監督は、ボールを保持できる場面では保持する、何が何でもカウンターではないという、状況に応じた判断を選手に求めています。
 実際にゴールキックから[攻撃]が始まる場面では足元で繋いでいることから、「ボール保持=全て裏を狙う」というプランではなかったことを読み取ることが可能です。

疑問3:後半から良くなったと思うけど?

答え1:後半の立ち上がり選手の立ち位置を変更したから

 後半の立ち上がりから、442(4411)から433に近い形に変更することで、守備の基準点を整理しました。

システムの変更というよりポジショニングの変更だった。(仲間)隼斗をより真ん中に置いたのは相手のサイドバックの小池選手が中に入ってプレーをする時間帯がゲームの序盤から続いていたので、そこで引っかけてからカウンターに出ていくようにという指示を出した。

 前半は44で自陣にブロックを形成する形で守備をセットしました。マリノスのアンカーである喜田選手を江坂選手がマンツーマンで牽制する形です。しかしながら、結果的にはプレッシングが掛からず、前進を許す場面が多く見られました。
 原因は、小池選手がサイドから中央にポジションを移動すること(所謂、ロール)で中央に数的優位を作られてしまったからです。江坂選手は喜田選手を牽制する役目を担っています。CH(ヒシャ・タニ)は持ち場を離れてしまうと中央のスペースを空けることとなるので出られません。このようなギャップを生み出すスキームこそがポジショナル・プレーです。相手のビルドアップに自由を与え過ぎたことから、44でのブロックを動かされる原因となりました。
 相手のビルドアップを牽制することで、前進を制限する必要がありました。そこでネルシーニョ監督は、仲間選手を小池選手に付けることで、見るべき相手を明確にしました。守備の基準点を整理し、ビルドアップの牽制を図りました。

答え2:戸嶋選手の投入によって、守備の強度およびカウンターの質を向上させたから

 後半の開始から瀬川選手→戸嶋選手に交代カードを切りました。

前半なかなか中盤のところを使われて相手にボールを握られるという時間帯が続いていた。彼は左サイドに入って守備だけでなく、ボールを引っかけてから攻撃にもしっかり出てくる特徴の選手なので、少し流れが変わったと思う。

 中央の枚数が噛み合わない場面が多く見られました。相手は中盤が3枚であることに加え、小池選手が中央に入ってくることを通じて中央の攻略を図りました。相手選手を掴まえ切れずに、チャンスを与える場面がありました。
 そこで中盤に枚数を確保し、守備の強度向上を図ることで、ボールを奪うことを目的に戸嶋選手を投入しました。
 また、サイドハーフでの出場も増えてきていることからも、ネルシーニョ監督から攻撃の質を評価されていることが窺えます。前に出ていく走力と前で仕事をできる技術を有しています。本職である瀬川選手と比べ、攻撃の質に若干の見劣りは見えるものの、守備の強度等を含む総合的な判断によって至った意思決定だと思われます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 非常に痺れるゲームでした。カウンターで刺すプランだったものの、構え過ぎてしまあった感は否めませんでした。ボールを保持できなかったことも含めて、ポゼッション志向のチームとの対戦では今後も苦戦を強いられることが予想されます。
 しかしながら、ここからは(大分、セレッソ、神戸)ボールの保持、ポゼッションを得意とするチームでとのゲームが続きます。リーグ戦も上位につけており、ACL圏内が十分に狙えるポジションです。怪我人の回復を待ちながら、何とか乗り越えたいとことです。耐える8月、我慢の8月となりそうです。

vs名古屋(8節・2020/8/1)カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

コンパクトな守備から、前線の選手のスピードを生かした速いカウンターを長所としている

 ネルシーニョ監督は、名古屋についてこのように分析しました。一言で表現するならな、堅守速攻です。自陣に442のブロックを形成し、奪った瞬間にアタッカーの質的優位を活かしたカウンターで仕留めることを得意としています。
 ニュートラルにする(相手の長所を消す)ことで、主導権を握るネルシーニョ監督がどのようなプランで試合に臨んだのかを解釈していきます。

カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

 ネルシーニョ監督は、カウンターを強みとする相手にはカウンターを発動させなければ良いというアプローチで攻略を図ります。つまり、名古屋にボールを持たせることで、カウンターという局面を発動しない仕組みで対抗します。

2トップでCBから2CHへのパスコースを遮断する

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 (抽象的な考え方としての図解です。)
 名古屋の保持において、柏の2トップが名古屋CHへのパスコースを牽制することで、中央からの前進を阻止するとともに、名古屋のCBにボールと時間を与えます。これが、ボールを持たせている状況です。柏の守備のスタート(=名古屋の攻撃のスタート)はこの形を基本とするものでした。
 名古屋はカウンターによる攻撃を得意としていることから、ボール保持によるビルドアップに苦慮する様子が窺えました。ジョアン・シミッチ選手の列移動(最終ラインに落ちること)よって、柏プレッシング隊の基準点を逸らし、右サイド(柏の左サイド)から前進を図る場面は見られたものの、チームとして仕込まれたものかは懐疑的でした。シミッチ選手個人の工夫によるものだというのが私の見解です。非常にインテリジェンスの高い選手だと思いました。
 ビルドアップに苦慮する名古屋は、次第にロングボールが増加します。両サイドのSHに高いポジションを取らせ、柏SBの背後を狙うボールで攻略を図るものの、撤退によって背後のスペースを消している柏を崩すには至りませんでした。

柏のボール保持における被カウンター対策

 名古屋のロングボールによる前進が失敗に終わると、柏のボール保持という局面が始まります。柏のボール保持(攻撃)の局面は、名古屋の強みである撤退→カウンターを発動するには都合の良い局面です。なぜなら、柏がボールを保持することで、名古屋はブロックを形成し、カウンターの機会を窺うことが可能だからです。
 ゲームの大きな流れの中で、

名古屋の保持(柏撤退でボールを名古屋に持たせる)→名古屋ビルドアップに苦慮、ロングボール→柏の攻撃(ボール保持)開始→名古屋撤退からカウンター発動の機会

 というサイクルは、戦前より予想できたものと思われます。柏は、名古屋にカウンターを発動させないことで主導権を握ろうとする以上、ボール保持における振る舞いは非常に気を使わなければならない局面です。
 そこでネルシーニョ監督が仕込んだ保持における被カウンター対策は、大谷を最終ラインに加えるビルドアップです。

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 名古屋は撤退によるブロックの形成を選択することから、柏ビルドアップ隊は時間とボールを手にします。そこで、中盤に位置する大谷をCB間に下ろすこと(サリーなんとかっていう名称があるらしい)で前進を図ります。
 しかしながら、この大谷をCB間に下ろすことは、ビルドアップの効率化を図るとともに、被カウンターという局面において最後方に3枚を用意しておくという保険でもありました。中央のルートとは、ゴールへの最短距離です。最短距離を閉鎖することで、サイドへの迂回(時間を掛けさせることで、撤退する時間を確保する)や、カウンターという選択肢を放棄し、ボール保持を選択してもらうことを狙いとしています。

ボールを持たせるための立ち位置

 大谷の列移動はあくまで保険です。構造として、カウンターを発動させないために、ボールを持ってもらう必要があることは前述の通りです。そのために、名古屋がカウンターを諦める配置を整備しておく必要があります。カウンター対策とは、ネガティブ・トランジション([攻撃→守備])です。攻撃局面の時から、カウンターに備える必要がありました。
 この問題への回答は、ハーフスペースに選手を配置することでした。攻撃と守備は表裏一体、シームレスな関係です。ハーフスペースとは、大外でも中央でもない縦のラインを指します。ハーフスペースの重要性は、お近くのペップ・グアルディオラ先生に聞いていただくとして、柏はここから効果的な前進を目指します。
 ヒシャや江坂、両SHなど流動的なポジションチェンジを行っていたものの、ハーフスペースに立つというポイントは抑えているように思われました。
 そして、このハーフスペースにポジショニングすることで、例えボールをロストしたとしても、中央のカウンタールートは閉鎖されていることとなります。つまり名古屋は、サイドからのカウンターを余儀なくされるか、カウンターを諦めてボールの保持を選択することとなります。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 これだけの対応策を講じたものの、被カウンターによって決定機を与える場面は複数回存在しました。やはり、撤退した名古屋の守備ブロックは固く、ボール奪取直後のカウンターは非常に強力なものでした。
 大谷を下ろしたビルドアップや、ハーフスペースにポジションを取るなど、前進の手段は用意したものの、なかなか打開することができず、停滞する時間も存在しました。


 名古屋は、新型コロナ感染者の発生によって、非常にナーバスな一週間を過ごしたことから、柏対策を行う時間を確保できなかったものと思われます。
 柏についても徹底した予防策を講じているものの、いつ感染者が発生してもおかしくない状況に変わりはありません。非日常の中でメンタルやコンディションを維持することの難しさを痛感せずにはいられないゲームでした。

vs仙台(7節・2020/7/26) ボールの保持という選択肢

いかに前節で簡単にボールをロストしていたかを映像を用いて説明をし、選手たちの対話に基づいて戦術の理解を深めようとこのゲームに向けて準備してきた。(中略)前節うまくいかなかったポジティブトランジションという局面でのチームとしての戦術は非常に良くやってくれたと思う。

 ネルシーニョ監督コメントです。「前節うまくいかなったポジティブトランジション」とは、ボールを奪った瞬間の判断を指しています。つまり、カウンターへ移行するのかボールポゼッションの回復かの判断です。
 
 相手の背後のスペースを突くカウンターは、相手が守備を形成する前にゴールへと迫ることが可能です。守備陣形を整える前に攻撃を仕掛けることが可能なことから、比較的容易にゴールへ迫ることができます。
 しかしながら、縦へ急ぐカウンターは、ボールをロストするリスクを内包しています。相手陣地へ少ない人数で侵入することや、自チームの押し上げが追いつかず、全体が間延びしてしまう傾向があるからです。間延びしてしまうことで、失った瞬間にプレッシングが掛からない、セカンドボールが拾えないなどといった現象が起こります。絶え間のない上下運動、つまりは運動量が要求されます。
 自分たちがボールを失うということは、相手にボールが渡るということです。それは、相手の攻撃が始まることであり、自分たちの守備という局面が始まることを意味します。
 究極的に言えば、ボールを保持している限り守備をしなくていいわけです。自分たちがボールを保持している限り、失点することは有り得えないからです。
 しかしながら、ボールを保持し、パスを繋ぐポゼッションで攻撃をするということは、相手に守備の陣形を整える時間を与えることでもあります。整った陣形の相手を崩すことは、それなりの労力と技術を要します。

・航輔というボールの逃げ道

 仙台戦では、航輔がボールに触れる場面を多く見ることが出来ました。最後方にボールを預ける場所、ボールの逃げ道を作ることで、ボールを奪取した直後(ポジティブ・トランジション)の局面において、カウンター以外の選択肢を用意することができました。カウンター以外の選択肢とは、ボールポゼッションです。自分たちがボールを保持することで、不用意なボールロストを防ぎ、ゲームの主導権を握ります。
 また、このゲームで柏は守備時4411での撤退を選択していることから、必然的にボールを奪取する位置が自陣低い位置となります。自陣低い位置でボールを奪った際に、航輔というボールの逃げ道を作ることがポゼッションの回復・安定に寄与したものと思われます。(高い位置で奪うなら、そのままショートカウンターを仕掛ければ良い。)
 

ポゼッション回復後のビルドアップ

 ポゼッションという選択肢が生まれたことについて書いてきました。続いては、ポゼッション回復後のビルドアップについて考えていきます。選択肢を用意したところで、効果的な前進ができなければ意味がありません。
 ビルドアップは、航輔+2CB(大南、高橋)から始まります。この際のポイントは、3枚でのビルドアップによって、2CBが開いたポジションを取ることが可能なことです。

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 CBが開くことや、ビルドアップに3枚を用意することで仙台のプレッシング隊に判断強いる格好です。ビルドアップでCBが開くことで仙台のFWはプレッシングの距離が伸び、牽制が遅れることとなります。また、SHがアプローチに出るべきか?という判断を強いることで、プレッシングの強度を低下させることに成功します。強度の低下によって、柏のビルドアップ隊に時間とボールを確保します。
 柏のCBは、仙台のSHがプレッシングに来ればフリーになったSBをビルドアップの出口にします。三丸がオープンな状態でボールを受けることで前進に成功する場面が多く見られました。SS席で観戦しておりましたが、試合中のネルシーニョ監督は、三丸のポジショニングやボール受けてからの振る舞いに対して細かく指示を与えています。
 太陽サイドからの前進も同様で、後方3枚で時間とボールを握りながら、SBをビルドアップの出口にしたいという思惑、意図を感じました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ボールの保持について書いてきましたが、それでも5得点のうちの大半はカウンターが起点となっています。
 効果的なカウンターが成功したのは、ポゼッションという選択肢があったからだと考えます。2つの選択肢を用意することで、相手に守備の基準を絞らせないことができたからです。
 「ネルシーニョ監督のやりたいこと」というコメントが選手たちから時々出てきます。これまでの監督・選手の発言など勘案すると、要は保持とカウンターのどちらの局面でも「質を求める」という意味だと解釈しています。どっちもできないと勝てない、上位進出は難しいというのは現代サッカーの常識です。
 昨年の序盤、結果が出なかった時期にタニは「監督が『繋げ』と言っても、何がなんでも繋がなくてはいけないわけではない。」とコメントを残しました。つまり、状況に応じて最適な判断、選択をしなさいという意味です。保持もカウンターもあくまで試合を優位に進め、勝つ確率を上げるための手段でしかありません。
 リーグの終盤に向かって徐々にチームとしてのクオリティが向上するのは、判断や選択の基準となる原則の部分が浸透するからだと思われます。特に今季は新加入の選手も多かったことや、コロナの影響で中断が長かったことから例年よりも時間を要するものと考えています。

vs浦和(6節・2020/7/22) 勇気を出してボールを繋ごう。

 ミッドウィークで時間もないことから、簡単かつ手短に振り返る。先制点について、少し強引に理由を付けてみるエントリー。

前半もしっかりと守備が機能していた。相手が前がかりに攻撃を仕掛けてくる時間帯もあった。前半は守備が機能していたが、ボールを引っかけてから効率よく攻撃に出ていくということがなかなか出来ていなかった。(ハーフタイムに)しっかりとボールを握ろう、相手のスペースに攻撃に出ていくことに急ぎすぎているので、しっかりとボールを握りながら空いているスペースを見つけて攻撃の形を作っていこうと指示した。 

前半良くなかったところは、前でなかなかタメが作れなかったところ。良い守備から入れたが、そこでボールを引っかけてから攻撃に出ていくタイミングでボールロストするシーンが目立った。慌て急いで前にボールを蹴り込んで空中戦に持っていっても我々のゲームのペースを握ることはできないので、簡単にボールロストするのをやめようと話をした。

 ネルシーニョ監督のコメントを読むと、この試合は「ボールを持つことで主導権を握る」プランだったと理解することが可能だ。しかしながら、序盤は柏がボールを保持できない(浦和がボールを保持する)展開でゲームが推移していく。
 理由は、浦和が高強度のプレッシングを行うことで、柏からボールと時間を奪おうと振る舞ったからだ。
 浦和のプレッシングをまともに受けることとなった柏のビルドップ隊は、ボールを繋ぐことができず、ロングボールでの回避を図る。つまり、意図しないロングボールによる回避だ。(降雨の影響でピッチコンディションが読めず、安全を最優先とした判断だった可能性もあるが) 

 苦し紛れのロングボールが前進に寄与する場面は少なく、セカンドボールの回収には及ばない。全体の押し上げ、つまりは陣地の回復が図られず、撤退を強いられる展開となった。
 ボールを保持できないということは、攻撃の時間が減少することであり、守備の時間が増加することを意味する。自分たちのペースで試合を進めるためには、ボールを握ることが求められる展開となった。
 ネルシーニョ監督は、前半の守備についても一定の評価を与えたものの、ライン間や背後を攻略される機会は一度ではなかった。前半だけで被シュートは6本だったことや、航輔の好セーブが目立ったこということは、それだけ決定機を与えていたと考えていいだろう。

 しかしながら、給水タイム以降、徐々に変化が起こる。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレッシングを回避しようとボールポゼッションを開始する。具体的には、横幅に広くポジションを取ることで、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで時間を確保する。つまり、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで、プレッシングの連動性低下を図る。集音マイクがタニの「動かせ」という指示を拾っていることもその裏付けと言える。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレスの連動性低下によって、パスコースを認識する時間を確保することに成功する。浦和の守備陣を動かすことで、中央へのパスコースを作り、ヒシャやタニ、中盤へ降りてきた江坂がボールを受ける。チーム全体でボールを握る時間が増加していく。
 浦和は何がなんでもプレッシング!というチームではなく、プレッシングが回避された際は、中盤に442のブロックを形成する。プレスと撤退を使い分けることができる。つまり、最初のプレッシングを回避することができれば、一旦は柏がボールを保持する局面を生み出すことが可能だということだ。

勇気が掴んだ先制点

 ボールを保持することの有効性は理解しているものの、自陣低い位置でのポゼッションには恐怖が伴う。1つのミスが失点に直結するからだ。
 それでも恐れずに勇気を出してボールを繋いだことが先制点に繋がった。浦和のパスミスも要因のひとつではあるものの、なぜあの位置でボールを奪えたのか、ミスを誘発できたのか、という点を大きな流れとして捉える必要がある。
 30:06〜のビルドアップが先制点に繋がっている。自陣低い位置からのボール保持ではあったものの、恐れずに足元でボールを繋ぎ中盤を経由したことで、全体の押し上げ(陣地の回復)を図ることができた。
 全体での前進に成功したことから、浦和のビルドアップ(ゴールキック)に対して高い位置でプレッシングを開始することができたものと考える。浦和のゴールキックという状況は、柏は敵陣まで前進が成功している状況でもあるからだ。浦和が繋ごうとしてくれたことで、高い位置でのプレッシングに移行できたという幸運は確かにあるのだけど。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 先制点に理由を付けてみた。これを解釈と呼ぶのかもしれない。正解なんてないから、間違いもないと言い訳をしておく。
 しかし、サッカーにおける唯一ある正解は、現場の声である監督や選手のコメントだと私は考えている。何かひとつ正解や基準が存在しなければ前には進めない(書くことが難しい)。だからこのブログでは引用を多用している。コメントを重要視する。メディアの前で、本当を全て語ってくれるとは思わない。しかし、僕にできることはせめて言葉の端々から本当を読み取り、肯定することくらいだと考えている。

 

vs湘南(5節・2020/7/18) 532の攻略とロングボール

 長えよ!と思った方は※太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 今節の勝因は、攻撃が良かったことだと考えます。
 それを踏まえて、

  1. 湘南の532脇から前進
  2. ハイプレスにロングボールという定石
  3. 良い[攻撃]は、良い[守備]から

をピックアップしていきます。

1、湘南の532脇から前進

 システムの噛み合わせの問題です。湘南は守備時532で陣形をセットします。図を見ると一目瞭然、柏のSBが空く(前を向き、時間的余裕がある)状態でビルドアップを開始することができます。当然、湘南もそれは織り込んでいるので、対策は講じています。つまり、柏の攻撃は、SBの振る舞いに大きく左右される展開となりました。結果的に、左利きでボールを扱う技術に長けてた三丸選手からの効果的な前進が勝利へ寄与しました。

図解します①(オープンになるSBと湘南のスライド)

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 SBが空くとは図のような状況を示します。
 しかしながら、「空く」とは言うものの、この状況は構造的な問題であり、湘南も予め織り込んでいます。前々節(マリノス戦)の湘南は中盤3枚のスライドによるSBへのアプローチを行っていました。素早く片方のサイドに寄り(圧縮なんて表現も)、柏のSBにボールを持たせる(出すところがない状況)ことで圧力を与えます。

図解します②(スライドに対する柏の対策)

 中盤3枚のスライドによる圧縮は、事前のスカウティングにおいて把握できることから、柏も対応策を講じます。

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対応策①スライドさせない

 「じゃあスライドさせなきゃいいじゃん!」という発想で打開を図ります。SHの仲間選手は、サイドに開くのではなく内側にポジションを取ることで湘南のIHをピン留めします。
 質的優位(個人での打開力)を有する三丸選手を放置することができない湘南は、WBを押し上げることでアプローチを行います。

 

対応策②WBの裏を狙え

 対応策①でWBを引っ張り出すことに成功した柏が次に狙うのは、背後のスペース(主にWBの裏)です。
 
仲間選手が内側に絞っていることから、裏への抜け出しは江坂選手(とミカ)のタスクとなっています。三丸選手からの縦パスによる裏へのロングボールが効果的に機能しました。
 WBの裏であるサイドの深い位置を攻略します。ミカが中央に控えていることからシンプルなクロスによる攻撃や、江坂選手が時間を確保することで全体の押し上げを待つ場面など多様な攻撃でPAに迫ることができました。

 

三丸選手の質的優位性を活かした532の攻略

 「放置するわけにはいかない」とWBを引っ張り出すことができたのも、背後のスペースへボールが出たことも、三丸選手の質的な優位性を活かしたものとなりました。
 待望の左利きのSBとして、左足で縦へ前進のパスが出せる三丸選手の存在は今後、より存在感を増していくものと思われます。
 結局、左SBが左足でボールを保持できないと、パスを受けたところでCBに戻すか、苦し紛れのロングボール程度しか選択肢がなくなってしまいます。
 昨年の序盤や今季に入って効果的なビルドアップができなかった要因の1つであり、課題でもました。

2、ハイプレスにロングボールという定石

 湘南はハイプレスの得意なチームです。その目的は、ボールを相手に与えないことよりも、奪ってからのショートカウンターにあるものと考えます。 
 上述したSBが空いてしまう構造を踏まえ、プレッシング・スタートの合図は、柏のSB→CBにパスが出た瞬間です。中川(寛)選手のクレバーなプレッシングと驚異的な運動量によるチェイシングは、ボール保持をアイデンティティとするマリノスさえ苦しめるものとなっていました。

ハイプレスへの対応策としてロングボール

 マリノスさえも苦しめたハイプレスに対して、柏が講じた対応策はロングボールです。
 ハイプレスを行うということは、背後には広大なスペースが存在していることとなります。細かいことは考えず、シンプルにそのスペースを突くことで攻略を図りました。プレッシングへの打開策として、ポゼッションで回避を図った川崎戦(回避できなかったけど)とは対照的な方法で攻略を図ります。
 苦し紛れのロングボール(ただのクリア)になってしまった川崎戦との相違点は、予め蹴ることを織り込んで試合に臨んだことです。つまり、プランとして組み込んでいたことです。
 ロングボールが前提だったことから、江坂選手を初めとする2列目の選手はセカンドボールの回収を前提としたポジショニングが可能となります。江坂選手が前を向いてプレーする機会・時間が多かったことがその証明です。ミカが競る準備ができたことは言うまでもありません。

 

3、良い[攻撃]は、良い[守備]から

 攻撃について触れてきましたが、[守備]がよかったことも特筆すべき点です。
 442(4411)によるブロック形成は、適切な立ち位置に配置されていることから、攻撃への移行がスムーズ(効果的なカウンター)です。上述したように、ロングボールが前提であり、セカンドボールを回収する必要があったことから、SHがスムーズに攻撃へ移行できることは重要です。
 また、パスの出し手となる茨田選手からのビルドップを阻止するために、江坂選手をマンツーマンで対応させましたこれによって、江坂選手は中央にポジションを取ることが可能となります。つまり、奪った瞬間に茨田選手(アンカー)の脇で起点を作ることができることに加え、ミカとの距離が近いことから、セカンドボールの回収可能性が格段に向上することとなりました。

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締めの言葉というほどのものではないけれど

 仲間選手や三丸選手の活躍は言うまでもありませんが、個人的に影の立役者として江坂選手を上げたいと思っています。もう、今は江坂選手に依存する部分が多すぎて、逆に少し不安要素ではあります。「個人のリソースに依存する組織なんてもろい」的なことを漫画『左ききのエレン』で誰かが言っていた気がします。まあ、代えが効かないというのは、それだけ特別であることだと思いますが・・・。

 

vs川崎(4節・2020/7/11) ボールの保持と撤退。

太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 敗因は、川崎にボールを握られてしまったことです。ボールを川崎に渡したことで、主導権を握られたまま時間が推移していきました。
 今回は、なぜボールを握られてしまったのか?について3つ理由を挙げました。

  1. そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

  2. 柏はプレッシングよりも撤退を選択した

  3. 相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

1、そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

 このゲームを解釈する上での前提として、川崎のゲームモデルはボール保持によってゲームの主導権を握ることです(今更ですが)。つまり、ボール保持に自信を持っています。ボールを保持した際の強さ、クオリティについては、身を持って体験したばかりです。

 ボールを保持すること=ボールを奪うこと

 ボールを持った状態で強さを発揮するチームということは、川崎自身がボールを保持する(相手にボールを渡さない)必要があります。

失った瞬間のプレッシング(ゲーゲンプレス)によって相手にボールと時間を与えず、自分たちがボールを保持する時間を増やすことで主導権を握ります。
 前半で、2得点かつボール保持率は60%を上回るなど、結果・内容ともに川崎の思惑通りに推移する展開となりました。スタッヅという定量的な記録ほど真実を雄弁に物語るものはありません。

2、柏はプレッシングよりも撤退を選択

 柏は、ボールを持つことが得意な川崎に対して、撤退からのカウンターという対策を講じました。ミカによるCB→CHへのパスコース遮断や、3CHによる縦パス封じなど、中央を堅めながら、奪ってからは素早いカウンターで川崎の背後を刺すというプランです。しかしながら、撤退は川崎に時間とボールを与えることと同義でした。つまり、撤退する柏への打開策を考える時間を与えることとなり、結果・内容ともに圧倒されることとなりました。

対川崎のプランは、撤退からのカウンター。

 ネルシーニョ監督のコメントを読んでみます。

序盤、相手に対して守備のところ、ポジショニングもそれほど悪くなかったが、クオリティの高い川崎に対して、ボールを引っかけてからの効率的なカウンターに出て行けなかった。ボールを奪った後に、カウンターに出ていく際のオプションがなかった。

 コメントの内容と、後述する守備陣形を踏まえ、撤退からのカウンターというプランでゲームに臨んだと解釈しました。ボールの保持を得意とする川崎に対して、守備の時間は増加してしまうものの、自陣に引き寄せることで空いた背後のスペースをカウンターで狙うということです。

 

451で守りたかったもの

 撤退時に451を採用した目的は2つです。①アンカー経由の中央からの前進を阻止と、②3CHによる縦パス封じです。

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①アンカー経由の中央からの前進を阻止

 中央からの前進を阻止するために、ミカに与えられてタスクは、CBからCHへのパスコースを遮断することです。プレッシングによるボールの奪取よりも、パスコースを限定することを優先的なタスクとしました。

3CHによる縦パス封じ

 中央に3枚を並べることで、ハーフスペース(大外でも中央でもないレーン)への縦パスを牽制します。

 ゾーンは言い過ぎかもしれませんが、①も②も根本的な考え方は、中央を使われたくないというものです。特に狭いスペースでもパスを回すことができる力のある川崎というチームなら尚のことです。危険な位置で奪うよりも、そもそも危険な場所に入れなければ良いという、発想自体は主体的なものです。

撤退によって与えたものと川崎の打開策

 ネルシーニョ監督は「序盤は良かった(意訳)」としたように、立ち上がりは嵌ったように見えたものの、結果として、この対応策は機能しませんでした。理由は、撤退=川崎にボールと時間を与えることだったからです。つまり、対応策を考える時間まで与えてしまったということです。


 川崎のCBにプレッシングを行わない=川崎のビルドアップに時間を与えることです。時間を与えるということは、考える時間を与えることとなりました。
 鬼木体制4年目である川崎は、撤退されたときの引き出しの多さに、継続することの強さと大切さを痛感せずにはいられませんでした。


川崎の打開策・・・CHのレーン移動
 多彩な崩しを見せていたので一例ですが、川崎はCHがレーンを移動することで打開を図りました。つまり、ハーフスペースから大外レーンへの移動によって、柏のSHに迷いを与えました。この迷いこそが、守備の基準点を逸らすことです。

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 江坂(神谷)が担当する大外レーンに相手の選手が来ることで、「どちらを見るべきか」という迷いが生じます。中央に絞っていた江坂(神谷)が引っ張られる形で外に開いてしまうことで、CB→SHという縦のパスコースが開いてしまう局面が見られました。
 また、CHの瀬川が付いていくと中央パスコース、つまりダミアンへのコースが空いてしまいます。
 このように小さな判断を柏に強いることで、後方で得た時間を前線に届けることに成功した川崎が、撤退した柏を崩していく展開で試合が推移しました。

3、相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

 攻め込まれた柏は対応を迫られます。相手から主導権を奪うために何をするべきか、と。相手はボールのを保持することが得意・・・それなら、自分たちがボールを持てば、相手が得意な状況を消す(ニュートラルにする)ことが出来るのではないか、という発想です。
 つまり、低い位置での奪取後やゴールキックにおいて、蹴らずに繋ぐことです。

 全体が想定以上に押し込まれたことで、カウンターへの移行を試みるも走る距離が長くなりました。ロングボールはミカのコンディション不良もあって競り勝てず、セカンドボールについても2列目のサポートは遠く、ただボールを相手に渡すだけで、再び川崎の保持の局面という悪循環に陥りました。

攻め込まれたことで増えたゴールキックを無駄にしない・・・

 柏は圧倒的に攻め込まれたことで、ゴールキックから攻撃を開始する局面が多くありました。つまり、川崎のゲーゲンプレスを受けずに攻撃を開始する機会を得られたということです。
 しかしながら、足元の技術よりも対人の強さを優先した先発(というか今年の編成)だったことから、繋ぐ意志は見せながらも効果的な保持・前進には至らず、結局ボールを失うこととなりました。

 昨年からの課題でもあるボールを保持できない、ビルドアップできない弱点が露呈した格好です。編成の問題でもある一方、ネルシーニョの好みとして対人に強い選手というリクエストがあったものと思われます。そもそも、足元に技術がありながら、対人も強い選手を獲得するとなると日立台に屋根を付ける方が安上がりになる気はしますが・・・。
 プランとして繋ぐ気があったのか、状況を見て試合途中で変えたのかまでは読み取れませんでしたが、まだ後者であった方がポジティブな印象を持てる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半については、リードによって川崎がテンポを落とし、クロージングに入ったことで柏がボール保持する時間が増加しました。呉屋や仲間の強度の高いプレッシングもボール奪取に寄与したものと思われます。
 前線でのターゲットとしてはミカよりも呉屋の方が適していることや、待望の左利きSBである三丸は個人で打開できる能力を有していることなど収穫はありました。
 次郎はコメントで、

自分たちのコンディションもまだ100%には戻っていないが、試合に入る気持ちや球際のところで川崎が1枚上だった。盛り返せる力がまだまだなかったと思う。練習試合をせずリーグ再開したことは、序盤はキツくなるだろうと覚悟はしていた。

  と話しており、ある程度は織り込んだ状況ではあるようです。次節は待ちに待った、有観客での日立台です。