vs横浜FC(3節・2020/7/8) ネルシーニョ監督のコメントから始める異世界生活

 タイトルに意味は全くありません。リゼロの2期が昨夜から始まりました。私は、猛追という表現が相応しい勢いで1期を消化しております。

 今回はネルシーニョ監督のコメントを出発点として書き進めていきます。
 コメントは公式サイト、または柏フットボールジャーナルからお願いします。(内容は全く同じです)

2020明治安田生命J1リーグ 第3節 2020年7月8日(水) 18:33KICKOFF 三協フロンテア柏スタジアム

ネルシーニョ監督「今日のゲームはチームとして機能しなかった」/J1 第3節 柏 vs 横浜FC【試合終了後コメント】 - 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤


 ネルシーニョ監督はコメントの中で、敗戦について[守備]がよくなかった、との見解を示し、理由について、

  1. ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない
  2. 相手のWBを意識した3バック
  3. 相手のビルドアップにスペースを与えた(コンパクトを保てなかった)

 としました。今日のエントリーは、この3つについてどういう意味なのかを解釈してみました。
 早速、ネルシーニョ監督のコメントを引用します。

特に前半のゲームの入りが非常に悪く、ポジショニングも良くなくて守備がはまらなかった。相手のビルドアップに不必要にスペースを空けてしまう時間帯が続き失点を許してしまった。 

相手の攻撃の起点となる左右のウイングバックを対応するために3バックで臨んだ。サイドを気にしていた分、守備のオーガナイズが揃わず、(ディフェンス)ラインをコンパクトに保てずに攻撃の形を作られてしまう展開になった。  

 この2文に全てが詰まっていると私は考えましたので、図解しました。
(文章など書かずとも、この図解だけで十分な気がする。)

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理由①ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない

  プレスが嵌らないとは、守備の枚数が相手の攻撃に合致せず、どこかを埋めるとどこか空いてしまう状況を指すものです。
 横浜FCは、3バック+ゴールキーパーの4枚を中心に[攻撃]の組み立て(=ビルドアップ)を行うことで、前進を図りました。
 [攻撃]の起点となる4枚に対して、柏は2枚(呉屋・ミカ)での対応を迫られました。2対4という数的にも不利な上、足元の技術に長け、ボールの保持を強さとする横浜FCのビルドアップ隊に、圧力を掛けることができませんでした。
 2列目以降の選手がサポートに出ることが望ましいのかもしれませんが、理由②「相手のWBを意識した3バック」や理由③「コンパクトに保てない」の影響で封じられています(後述)。

 柏のプレッシングが無策だったわけではありません。なぜなら、横浜FCはボールを扱う技術に長けたチームだからです。下平監督の哲学・指導の下、全選手が恐れずにボールを扱うことで強さを発揮する秩序だったチームです。柏のプレッシングに対して、フリーな味方を見つける状況の認知と、そこにボールを通す技術と判断は、リーグでも屈指の水準です。自陣ゴール前でのパス回しは、一つのミスが失点に直結するという恐怖が伴うことから、大変な勇気が必要です。

 結果的に柏のプレスは、枚数が合致せず噛み合わなかったことから、横浜FCに余裕を持った前進を許すこととなります。前半途中から神谷を投入し、状況の整理を試みるも解決には至らず、90分という時間が経過しました。


理由②相手のWBを意識した3バック

 「相手のWBを意識した3バック」とは両WBに対応するために右は峻希に、左は瀬川に対応させることです。
 横浜FCはボールを保持する局面で、両WBがサイドの高い位置にポジションを取ります。横浜の再開初戦・札幌戦では、この両WBの攻撃参加、主に裏への抜け出しによって、PAへ迫る再現性のある攻撃を展開していました。足の早いWBが裏を狙うことで、守備側は陣地を押し下げられてしまいます。
 また、横浜FCのWBはスピードを備え、個人での打開が可能であることから、柏としても個の質で劣らない選手を配置する必要がありました。

理由③相手のビルドアップにスペースを与えた

 しかしながら、3バックが裏目にでる格好となりました。結果的にこの二人は最終ラインに押し留められてしまうこととなりました。一部コアなサッカーファンが使う言葉で言うところのピン留めです。
 峻希と瀬川が最終ラインにピン留めされたことで、横浜FCのビルドアップ隊は横幅を使いたい放題となりました。横幅を使いたい放題=ビルドアップにスペースを与えたという解釈です。
 横幅を自由に使えるということは、陣形を横に広げることで柏のプレッシング隊に長い距離を走らせることが可能となります。守備に隙間を作ることができるということです。

 峻希(と瀬川)は横幅を埋めたくても、前へ出れば裏のスペースを使われてしまうので、高い位置までプレッシングに出られない状況です。実際に「出てきたら(瀬川の)裏を使え!」という下平監督の指示を集音マイクが拾っています。

 瀬川について、もう一つ言及したいことがあります。低い位置にピン留めされてしまったことで、攻撃への移行の際に長い距離を走る必要があったことです。昨夏〜秋に掛けてSBを経験しているものの、強みは攻撃であることに違いありません。後半のカウンターの場面で、アウトサイドを使ったパスが逸れてしまいました。これは、運動量が多かったことで疲労が蓄積し、プレーの精度が低下してしまったことが要因のひとつだと考えています。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど 

 これだけ書いて前半20分くらいまでの内容です。失点直後、早々と選手交代に踏み切るなど、触れたい事象はたくさんあるものの、次の試合が迫る中ではこの程度が限界です。

  相手を「ニュートラル」にすることは、ネルシーニョ監督の基本的な戦術の考え方です。ニュートラルというのは、相手の良さや強みを消すことです。今回も入念なスカウティングや分析があった上での3バックという判断です。
 過密日程かつ、コンディションが不十分な中で、戦術的に妥協することなく、たたひたすらに勝利を追求していく姿勢は、ネルシーニョ監督の生き方そのものだと感じました。
 そして、そのネルシーニョ監督に真正面から立ち向かい、勝利を収めた下平監督の手腕もまた類稀なものです。名将対決を現地で見られなかったことは残念でなりません。秋のニッパツではSS席を購入する予定です(何の話?)。

 

vs東京(2節・2020/7/4) 世界はそれを”塩試合”と呼んだ

 タイトルに深い意味はありません。
 堅い内容の試合となったことから、退屈に感じた方も多いのではないでしょうか。停滞感・・・世界はそれを”塩試合”と呼んでいます。
 個人的には、ネガティブな響きなので好きな言葉ではありません。特に、お互いに意図があってそういう展開になったゲームに使いたい言葉ではありません。
 本エントリーでは、リスペクトを込めて「手堅いゲーム」と呼びます。
 それでは理由を探っていきます。

 ※60分以降のことは一切触れません。 

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2節東京戦

 結論からですが、ゲームが膠着した理由は、

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから
理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

 の2つだと私は考えます。繋がっている事象でもあるので、表裏一体と表現してもいいかもしれません。

 

戦前から予想できた膠着(堅守速攻の東京)

 試合の展開としては戦前から予想できるものでした。

 手堅いゲームとなった理由は、東京の戦い方に起因します。
 東京の戦い方を一言で表現するならば、堅守速攻
 読んで字の如く、撤退によるブロックの形成と、奪ってからの素早いカウンターで仕留めることです。エルゴラ選手名鑑には、「今年はボール保持の部分にもこだわる(意訳)」としているものの、ベースにある考え方は堅守速攻です。

 

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから 

1、カウンターの阻止(=背後のスペースを与えない)とカウンターの準備

f:id:hitsujiotoko09:20200705100435p:plain 撤退を選択することで、①柏のカウンターを阻止する(背後のスペースを消す)とともに、②自分たちがカウンターを発動するための準備を整えることができます。
 ここでいう柏のカウンターとは、東京の背後のスペースを使うことです。
 ①柏のカウンター阻止については、ボールを失った直後、東京の選手は撤退のための準備をします。撤退する時間を得るためにFWやSHは牽制のプレッシングを行います。自陣でブロックを形成することで、背後のスペースを消し(裏抜けをさせない)、失点のリスクを限りなく抑えます。柏がDFラインでボールを回す時間が多かったのは、背後のスペースを与えてもらえなかったからです。
 そして、東京は自分たちがカウンターを発動するために、柏に背後のスペースを空けてもらう必要があります。
 自陣にブロックを形成することで柏はボールを保持することとなります。つまり、前掛かりとなり、ほぼ全選手が東京陣地に侵入することとなります。逆に言えばそれは、柏の背後に広大なスペースが存在するということでもあるのです。

2、諸刃の剣である東京のカウンター

 東京はボールを奪った直後、ポジティブ・トランジションでは、ボールの回復(パス回し)よりも前線の選手にボールを届けることを優先します。
 奪った瞬間に柏の背後のスペースを付くことで、一気に畳み掛ける算段です。ディエゴ、レアンドロアダイウトンという圧倒的な質的優位によるカウンターは驚異そのものです。
 ボールを保持することで主導権を握るのではなく、柏のゴールへ迫ることで主導権を握ります。ヒシャルジソンはカウンターの阻止によって退場に追い込まれましたが、まさに象徴ともいえる現象です。
 しかしながら、前に急ぐことは、それだけボールを失うリスクも内包していることにもなります。自陣でのパス交換をでボールを保持した方が、失うリスクを減らすことができるからです。前線の質的優位を活かす、つまり1対1は、不確実なシチュエーションの連続という意味でもあります。ボールを失う可能性が相対的に高いという意味で、諸刃の剣と表現しました。
 理由②である柏のポゼッションで時間が推移したのは、東京がボールを失う回数が多かったからでもあります。

理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

  ゲームが膠着した理由2つ目は、柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したからです。
 理由①で述べたように、強固なブロックを形成する東京に対して、ボールを保持する柏という構図となります。

1、ブロックを崩すためのパス回しとサヴィオの起用

 ブロックを形成する東京は、そこまで強いプレッシングは行いません。言い換えると、柏のビルドアップ隊は、時間とボールを得ることになります。大谷がサイドバックの位置に降りることや、江坂が中盤へボールを受けにいくなど、相手の守備の基準を狂わせることで打開を図ります。
 リモートマッチのお陰でベンチからの指示がよく通ります。「ポゼッション!」や「ボールを大事に」といった声がよく聞こえたことから、無理な前進よりも後方でボールを保持しながら、主導権を握る狙いがあったものと思われます。

2、サヴィオの起用

 ヴィオの起用についても、ボールを保持する時間が増えることは、スカウティングの段階から予想できたことから、至った判断だと思われます。裏へのランニングが持ち味のクリスティアーノよりも、間で受けることを得意とするサヴィオの方がこのゲームの性質に適していると考えます。クリスの大好物である裏のスペースは、東京の撤退によって消されてしまっているからです。
 クリスの欠場理由は不明ですが、過密日程への対応も兼ねた、戦術的な理由なのではないか、というのが私の考えです。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ゲームが膠着した理由について書いてきました。つまりは、両チームが意図的を持って行動した結果、生まれた均衡ということになります。

東京の撤退→柏の時間を使ったボール保持(ブロックの外でのパス回し)→東京ボール奪取からカウンター→柏がボールを回収、再びボール保持

 お互いが主導権を握ろうと目論む中で、このようなサイクルになりました。サイクルの循環による既視感と、ブロックの外でボールを回す柏の時間が長かったことが、停滞感の正体と思われます。
 ヒシャルジソンの退場直後のセットプレーで失点を喫し、一人少ない状況で追い掛けるという再開初戦にしてはタフな内容となりました。退場をヒシャルジソンのせいにするのは簡単ではあるものの、退場に至るまでの経緯は(特に1枚目や、あわや退場の場面)、まさに東京の狙い通りだったことは認めなくてはなりません。
 しかしながら、ブロックを敷いた東京を相手にしても、ゴールへ迫ることができた点はポジティブに捉えることができそうです。ポジショナルな配置や、後方の数的優位を前線に届けることなど、昨シーズンに積み上げたものが、J1でも通用するとを証明したゲームでもありました。

ネルシーニョ監督「結果は残念だが準備してきたパフォーマンスは表れていた」/J1 第2節 柏 vs FC東京【試合終了後コメント】

 監督も最後の崩しの部分は課題として認めながらも、全体的なパフォーマンスには満足しているようです。対外試合を行っていなかったことや、公式戦の中でコンディションの向上を図る方針であることなどを踏まえると、そこまで悲観する内容ではないと思います。

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(貸借対照表編)

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・収益編) - 羊をめぐる冒険

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編) - 羊をめぐる冒険

 

・クラブの規模拡大とは何を指しているのか?
・なぜ貸借対照表が大きくならないのか?
・やっぱり難しいスタジアム拡張
・なぜ流動負債に対して流動資産が少ないのか

 

・クラブの規模拡大とはどういう意味か?

 そもそも「クラブの規模を拡大する」とは、どういう意味でしょうか。頻繁に使われる表現ですが、とても抽象的です。
 売上を増やすこと、タイトル常連クラブになること・・・考え方はいくつもあると思います。
 そんな中でも私は、貸借対照表を大きくすることだと考えています。
 それは、貸借対照表とは企業の「資産」と「負債」の状況を表しているからです。
 どのように資金を調達し、どのように財産を使って稼ぐのか?それは企業活動そのものだと思います。

 

1、「貸借対照表」とは何か?

 貸借対照表とは、バランスシート(B/S)と呼ばれています。細い説明はリンクからお願いします。

https://kessan-online.jp/column/finance/%25e8%25b2%25b8%25e5%2580%259f%25e5%25af%25be%25e7%2585%25a7%25e8%25a1%25a8%25e3%2581%25ae%25e8%25a6%258b%25e6%2596%25b9%25e3%2581%258c%25ef%25bc%2593%25e5%2588%2586%25e3%2581%25a7%25e3%2582%258f%25e3%2581%258b%25e3%2582%258b%25ef%25bc%2581

 「負債(右側)」は資金調達(どのようにお金を集めて)、「資産(左側)」は所有財産(どのような財産を持っているか)を示しています。企業はその「資産」を元に利益を獲得(収益の拡大or費用の削減)、要は損益計算書上の「純利益」を大きくします。そしてその「純利益」は決算日(3月31日)決算処理として貸借対照表上の「純資産」に計上(振替)されます。この一連の循環こそが財務諸表です。
 

2、貸借対照表が大きくならないのはなぜか?

 今回も過去の3期と比較しながら、なぜ貸借対照表が大きくならないのか考えていきます。

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 例のごとく・・・変化がありません。当然です。
 変化がないということは、クラブが拡大されていないということです。当然、小さくもなっていませんが。現状維持といっていいでしょう。
 一サポーターとして感じる停滞感は、ここにあると考えています。
 貸借対照表が大きくならない理由を2つ挙げていきます。

 

理由①【利益を出していないから】

 理由の1つ目が、利益を出していないからです。柏レイソル損益計算書上、僅かな「利益」しか計上していません。これが継続的な事象であることは「利益編」でも触れました。
 「利益」を計上していないという点が、貸借対照表が拡大されない要因です。どういうことでしょうか。
 利益=収益ー費用です。「利益」とは、簡単に言えば最終的に手元に残った儲けを指します。その単年の利益(または損失)は決算日に、貸借対照表上の純資産の部「利益剰余金」に振り替えられます。純資産は、自己資本ともいいます。最終的に手元に残った儲けということは、ある意味では「資金調達」と同義となることから、貸借対照表右側(調達サイド)に計上します。
 そして、「利益剰余金」とは、クラブ(企業)創設以来の1年ごとの利益(または損失)の積み重ねを意味しています。どういうことか。柏レイソルは創設以来20数年間、事業を継続してきました。その20年間の利益の合計が▲1百万円(2019年3月期時点)ということです。要は、負け越しているということです。
 「純利益」とは返済不要の資金調達なのです。返済不要の資金調達・・・最強です。何に使おうが誰にも文句を言われません。
 継続的に利益を計上し、「利益剰余金」を積み重ねることで自己資本の増強を図ることが可能です。換言すれば、自己資本の増強とは、自由に使えるお金が増えることを意味しています。利益を出す重要性はここにあります。

理由②【資産が増えていないから】

 2つ目は、資産が増えていないからです。当たり前だろうという話ですが。
 流動資産がわずかながら増加しているものの、増収幅を考えれば意図的に増加させたものではないと考えられます。
 予算のほぼ全てを人件費や販管費に使っていることを裏付ける根拠もここにあります
 
 流動資産(現預金など)が少ない+固定資産の額が変化していない=資産に資金を使っていない
 と考えるのが妥当です。
 企業は「資産」を元手に(使って)収益を獲得、または費用の削減を行います。要は「利益」の最大化を図ります。
 具体的には、日立台に屋根を付けた場合(設備投資した場合)、屋根の取り付けに掛かった金額を固定資産に計上することから、その分だけ資産が増加します。貸借対照表を拡大するとはこのことです。屋根が付くことで観戦における快適性や利便性が向上し、入場料収入の増加につながります。資産への投資(設備投資)は、収益の獲得に繋がることになります。
 ただ、設備投資による固定資産の増加は、減価償却費や修繕費が発生するので、単純に全額が利益となるわけではありあせん。

スタジアムの拡張は難しい

 では何に投資するか?と言われれば、やはり真っ先に浮かぶのがスタジアムの拡張です。
 しかしながら、前回のイエローハウスで議題にも上がったように実現のハードルは想像以上に高く特に、行政・近隣住民への理解(電波・騒音・交通)は困難と思われます。財務基盤以前の問題です。

『2020柏レイソルイエローハウス』要旨|お知らせ情報

 では、現状の日立台を満員にすべく経営リソースを割くか?と言われば、答えはノーです。
 日立台で満員になるゲームは年に数えられる程度です。しかしながら、収容率は70%程度を維持しており、それなりに稼働していると言えます。それは即ち、今のサイズが適しているということです。
 「収益編」でも触れたように、残りの30%を埋めることで得られる「利益」は微々たるものです。むしろ、現場のスタッフへの負荷を考慮すれば、やらない方が良いという経営判断になっても仕方がないように思います。

だからこそできる投資を

 設備投資といっても、スタジアム拡張や屋根の取り付けだけではありません。システムに投資することで利便性の向上を図ることも可能です。
 例えば、インターネット上で待機列の抽選を完結するシステムを構築するなどです(アウトソーシングでもいいですが)。
 待機列・・・。普段から並んでいる僕らのような比較的コア層には当たり前として受け入れている行為・文化です。しかし、新規層に魅力を訴求するにはハードルが余りにも高すぎます。現代人は、そこまでの可処分時間を持ち合わせていません。優良なコンテンツが溢れるこの時代、エンタメとは可処分時間の奪い合いです。
 自由席を最安値とする席割りを継続するのであれば、新規層を取り込む障壁でしかない文化だと個人的には考えています。新規層を取り込めない文化、エンタメが衰退の一途を辿ることは歴史が証明しています。
 費用面についても、ナイトゲームにも関わらず午前中から警備員やアルバイトを配置している光景には疑問を感じます。
 また、今後は感染症予防対策が重要な経営課題となることが予想されます。待機列での密集などもどのような捉え方をしていくのか、興味深い点ではあります。「新しい生活様式」ではありませんが、時代に合わせて変化に順応していくことができなければ生き残ることはできません。開門前の酒盛りタイムは大好きなのですが・・・。

 

番外編【流動負債に対して流動資産が少ない理由】

 柏レイソル貸借対照表で最も印象的な点は、流動負債に対して流動資産が少ない点だと思います。
 流動資産とは、1年以内に現金化できる資産を指します。現金や預金を中心に、売掛金や有価証券などが含まれます。
 流動資産が1年以内に現金化できる資産であることに対し、流動負債は1年以内に支払い期日が到来する負債となります。流動資産465百万円に対し、流動資産1,508百万円・・・あれ?返済できなくない?と思いますよね。
ただ、これは「利益」が少ないことと同様に毎期発生している現象です。それにも関わらず、資金繰りや事業の継続について懸念があるような話を聞いたことがありません。あくまで推察ですが、ここから柏レイソルの資金の流れが読み取れるように思います。

 貸借対照表とは、決算日である3月31日の資産と負債の状況であると説明しました。たった1日を切り取ったものということは、もしかしたら翌日4月1日には1年分のスポンサー料である20億円近い現金が振り込まれている可能性だってあるはずです。

 なので、流動資産が少ない理由としては、

①期首に一括してスポンサー料を受け取っている→1年間で使い切っているから期末に現預金(流動資産)が少ない
②スポンサー料は月割りだけど、月初に受け取るけど、月末に支払い(給料とか)が集中している

 こればかりは貸借対照表から読み取るのは難しいのであくまで推察です。しかしながら、当期に限った事象ではないことから、おそらくはこ2点のどちらかが要因だと思われます。

 また、流動負債が多い流動資産と比べて)理由は、

年間シートやファンクラブの会員費を前受収益として負債に計上

 していることが挙げられます。
 年間シートの代金は、シーズン前に一括して受取(サポーターから見れば支払い)ますが、試合が開催されるまでは、サービスの提供義務(サポーターから見れば、試合を観る権利)が残ります。この「提供義務」を会計上、「負債」として認識します。なぜなら、仮に試合が中止(例えば、コロナの影響で無観客開催など)となった場合に、払い戻しとなる可能性があるからです。実際にサービスの提供(試合の開催)を行うまでは負債と認識しておくということです。
 3月31日時点では、シーズン開幕から間もないことから、試合を消化しておらず、前受収益が減っていないことが要因の一つだと考えられます。
  ただ、年パスとファンクラブの会員費で15億は多すぎると思うので、他に考えられるのは移籍金の未払いを期首に貰うスポンサー収入で賄っている・・・とかそのくらいしか私には思い浮かびませんでした。
 月次で数字の推移を追うことが出来ればもう少しわかることも増えてくると思いますが、そこまでの開示義務はありませんし、スタッフの負担が尋常ではなくなってしまいます。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 3回に分けて柏レイソルの財務諸表を読んできました。数字から見る柏レイソルは、いかがだったでしょうか。
 あれこれ文句を言われることが多い経営ですが、確かに自分がこのクラブの社長だったとしても、これまでの社長とそう変わらない経営判断をするのではないか、と思います。出来る範囲で最も資金効率が良い経営をされている印象を受けました。
 ましてや、親会社からの出向という形を取っている社長も多かったことから、保守的にならざるを得ない心情も理解できます。
 コロナの影響によって、エンタメの在り方などが大きく変わっていくことが予想されます。このクラブが変化にどう対応、適応していくのか楽しみです。

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編)

 損益計算書の「費用」および「利益」編です。

 今回は「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」という話をします。

 前回からの引用ですが、前提を頭に浮かべながら進めていきましょう。
 ※今回も2019年3月期を「当期」と呼びます。

初めに会計期間を把握しましょう。損益計算書とは、一定期間における収益と費用の成績表です。
 2019年3月期(以降、当期と呼ぶ)損益計算書とは、「2018年4月1日〜2019年3月31日」の間にいくら稼いで、いくら使って、いくら手元に残ったかを記したものとなります。
 会計期間はクラブ(企業)によって変わります。3月決算であるレイソルは、期中にシーズンが変わる点に注意する必要があります(3月決算は全52クラブのうち、3クラブのみ)。
 要は、当期は「4月〜12月はJ1」「1月〜3月はJ2」だった、ということです。

 次に、この期間のトピックス(例年とは違う点)を把握します。後述しますが、突発的な事象を頭に浮かべながら仮説を立てることが重要です。

(大前提)成績不振に伴いJ2降格
ACLに出場していた(4月・GL敗退)
②監督交代(5月・下さん→望さん)
③中谷が移籍(6月・移籍金が2.5億円との報道あり)
④オルンガ加入(8月)
⑤監督交代(11月・望さん→岩瀬さん)
⑥ネル爺就任決定(12月)
⑦中山・安西、ブライアンが海外移籍(1月)

・二度の監督交代
・アカデミー卒の移籍が多い

 「二回も監督交代をしたということは、費用が増えてるはず!」とか、「移籍が多かったということは、移籍金がたくさん貰えたはずだから、売上が伸びいるはず!」という仮説に基づいて読み進めると理解が深まります。財務諸表単体では数字の羅列でしかありません。方向感を持つことが重要なのです。
 また、上記で列挙した事象は突発的な事象です。どういうことか。例えば中谷の名古屋への移籍は既に完了しているので、2020年シーズンには起こり得ません。
 損益計算書に限らず財務諸表を読む際、事前に突発的な事象を把握することで、前年(や例年)との比較において、異常値の原因を捉える手助けとなります。

 

1、「費用」編

 営業費用全体では、対2017年2月期比で約45%の増加

 前回同様、過去の自分たちとの比較を行ないます。
 まずは、全体から確認していきます。「営業費用」全体では、当期は対2017年3月期比約45%の増加となっています。1年間に掛かる費用が2年間で倍近くなったということです。
 この「45%」という数字に見覚えがありませんか?そうです。「営業収益」の増加率も約45%です(前回のエントリー参照)。
 「収益」が増加した分だけ「費用」も増加したということになります。一般的に「収益」が増加すれば「費用」も増加するものです。収益が増える=仕事が増えるとほぼ同義だからです。他方、資金が増えたことで、できることが増えるからという解釈も可能です。したがって、「費用」の増加は決して悪いことではありません。
 

 増減要因を読み取ろう

 全体から個別の事象に掘り下げていきます。初めに結論から話します。「人件費」以外は(ほぼ)変化ありません。

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 「人件費」が対2017年3月期比で約10億円の増加しています。「人件費」とは、主に監督・コーチ・選手の給料や、移籍金の償却などを指しています。(ちなみに、フロント陣の給料は「販管費」に計上されています。)
 移籍金は一度全額を無形固定資産に計上し、契約期間に渡って償却します。償却方法等は会計の話題になるので一番最後に記載しました。
 経営陣からサポーターに対し「現場に資金を投下したい」と、イエローハウス等を通じ繰り返し説明を行なっています。敢えて触れる必要はないと思いますが、詳しくは過去のイエローハウス議事録をご覧ください。
 勝ち点1を獲得するために掛かった費用(人件費)を比較したものを、デロイト・トーマツが公開しております。興味のある方はどうぞ。(2019年版が見つからず)

Jリーグ マネジメントカップ 2018|スポーツビジネス|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

 「トップ運営費」の増加については、ACLの遠征費やW杯中断期間中に行ったキャンプなど、例年にはない費用が計上されているものと思われます。しかし、全体から見れば影響は限定的です。
 当期の費用についてまとめると、

「収益が増えた分は、ほぼ人件費に使いました」

 ということになります。最大限、チームに資金を投下することで、強いレイソルを見せるという経営判断です。結果的に降格を喫した

わけですが・・・。
 

 費用構造を理解しよう

 次に比率で費用構造を把握していきます。
 一目瞭然、周知の通り「人件費」が最も大きなウエイトを占めています。

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 継続、一貫して現場主義、ピッチに資金を注ぐのだという姿勢が数字から読み取ることができます。
 クラブのリソースをなるべく現場に投下することで強いレイソルを見せる、勝利こそが最大のファンサービスということです。
 変化がないというのが最大の特徴といったところでしょうか。「収益」が増加し、使えるお金は増えているものの、使い方は変わらないということです。

 また、「人件費」が約70%を占めていることが意味するものは何でしょうか。
 それは「費用」の使い方が「収益」の増加を図る(例えば設備投資)ためではなく、不確定要素が大きいゲーム(ピッチ)の部分に「費用」(使えるお金)の7割を注いでいるということです。

 

2、「利益」編 

 毎期プラスマイナス0近辺の純利益が意味するもの

 予算を使い切るためにお金を使っているのではないか?という話をします。
 
「利益」=「収益」ー「費用」です。1年間でいくら儲かったのか?を示しています。

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 当期は2百万円の純利益ということで、黒字達成です。しかしながら、前期は13百万円の黒字だったので、若干減少してしまいした。
 対前期比で売上は増加したものの利益が減少・・・これを一般的に増収減益と表現します。
 
 3期分だとよくわからないので、過去10期分を横並びにしてみます。(グラフが上手に作れなかった)

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 綺麗にプラスマイナス0近辺で推移していることがわかります。(純利益が1億円を超えたのは一度。)
 この事象から感じることがあります。
 それは、

「収益」を増やすために費用を使っているのではなく、「予算」を使い切るために使っていないか?

 予算を使い切ることが目的となっているのではないか?ということです。ここで、振り返ります。

①収入の50%を占めるスポンサー収入はしばらく横ばい(一定)で推移。(収益編、参照)
②収益が増えてもお金の使い途は変わらない(上記、費用編)
③純利益が毎期一定

 ネガティブな表現をすれば、まるで公共事業だと思います。ポジティブに捉えれば、身の丈にあった経営とも言えるでしょう。
 

「収益」を増やすためのお金の使い方はしないから、クラブの成長(規模拡大)は期待しないでね!赤字出さない程度に現場に資金を投下して、できる限り勝率を上げるよ!

 というのが今の柏レイソルの経営方針です。特別新しい発見ではありません。イエローハウスで瀧川社長が話されたことを数字という角度で見ただけです。
 お金の使い途を知るためには、厳密には、貸借対照表も確認する必要があります。詳細は次回触れますが、現預金(流動資産)が異常に少ないことや、資産が増えていないことなどが裏付けています。
 収益編でも取り上げたように、当面の間は、収益の増加は見込めません。新型コロナ感染拡大によるスポンサー企業の業績悪化が懸念されるからです。また、当期の増収要因であった配分金についても、公式戦延期に伴う救済資金等に充当されるものと思われ、現水準の維持は困難と予想します。
 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 クラブの規模拡大を考えた時、使えるお金(予算)の増加が見込めないのであれば、増やす努力をするべきです。その努力を成長と表現するのだと思います。
 「クラブの規模拡大」というと抽象的ですが、財務の観点から言えば貸借対照表の拡大を指します。現預金を厚くすること、設備投資すること、資金調達(借入・増資)することなど手法はさまざまですが、詳細は次回にします。
 周りくどい表現を続けてきました。冒頭で述べたように「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」というテーマで書いてきました。
 ネルシーニョが2025年まで契約を延長したとツイートを拝見しましたが、アフタ・ネルシーニョに備えた方向性の提示、スキーム作りは必須と感じます。収益の大幅な増加が見込めない以上、長期的な視点に立ったクラブ運営でしか強くはなれないと思います。

 

移籍金の資産計上と費用認識について

 こちらを参考に見ていきます。

第185回 (A) 「サッカー選手の移籍金と会計処理」【ケース・スタディー】 | 連結会計・グループガバナンス・経営管理のディーバ(DIVA)

 当期に加入したオルンガを例にします。報道レベルですが、条件は(移籍金:約3億3,000万円、契約期間3年)となっています。

https://qoly.jp/2018/08/11/kashiwa-raysol-signed-with-michael-olunga-kgn-1

 契約が決定した時点で移籍金を無形固定資産に全額計上します。

(借方)移籍金・無形固定資産 3億3,000万円 /(貸方)現金預金・流動資産 3億3,000万円

 仕訳です。この時点では費用計上されておらず、損益計算書には反映されません。
 そこで移籍金を契約期間に渡って費用認識する、要は償却する必要が出てきます。どういうことか。今回の契約では、柏レイソルがオルンガを3年間所有する権利を3億3,000万円で獲得したと考えます。この3億3,000万円で3年間というのがポイントです。3年間の権利であるはずなのに、契約時点で一括して費用計上するのはおかしいよね、3年間で均等に計上しましょうよ、という理屈です。
 当期のオルンガの償却額を計算します。
 3億3,000万円×8ヶ月/36ヶ月(3年)=約7,300万円となります。(8月加入=当期に属する期間は8月〜3月の8ヶ月)。

 (借方)減価償却費・費用勘定 7,300万円 /(貸方)移籍金・無形固定資産 7,300万円

 この7,300万円が人件費に計上されているものと思われます。

vs全北現代(ACL・2018/2/13)HDDを旅しようvol.3

 ネル一次政権、達磨さんと続いたので、今回は下さん時代の試合を振り返ります。

 先日、この本が届きました。まだプロローグしか読んでいませんが、久しぶりに下さんのサッカーが観たいと思いました。
 しかし、よりにもよってこの試合。下さん時代の録画はこれしか残っていませんでした。残念です。



 メンバーや試合経過など公式記録は上記ツイートからお願いします。
 そして、予めご了承頂きたいのは、私は下さん教(狂)だということです。
 今回はただひたすらに、全力で下さんを肯定します。

 

ボール保持を放棄した理由

 このゲームを一言で表現すれば、「ロングボール」だ。それは全北はもちろん、柏も含めてである。下さんのポジショナルなビルドアップを観たかったのだが、ロングボールに終始する展開となった。
 ボールを保持することでゲームの主導権を握ることが、下さんの(当時の柏レイソルというクラブ全体の)ゲームモデルであったと記憶している。しかし、余りにもボールを蹴っ飛ばす。ボールの保持を放棄している。「ゲームモデルとゲームプランは違う。」とは、奈良クラブの林監督。ボールを放棄した理由を探っていきたい。

理由① ピッチコンディション 

伊東純也「一瞬の隙を突かれてもったいなかった」/ACL 全北 vs 柏【試合終了後の選手コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

 第一に物理的な問題だ。有料記事なので引用は差し控えるが、ピッチが凍っていたようだ。公式記録には1度とある。極寒も極寒だ。
 自陣低い位置でのボール保持、ビルドアップでは、ミスが失点に直結する。GL初戦という重要度を鑑みるならば、不確定要素を最大限排除し、リスクを撤退的に取り払うことは理に適っている。ボールを自陣から遠い位置へ素早く運ぶという論理に破綻はないだろう。

理由② 相手のストロング・ポイントを消すため?

 第二に相手のストロング・ポイントを消すためのロングボール選択だ。ネルシーニョが言うところのニュートラルな状況といえる。
 なぜ、ロングボールがニュートラルな状況を作ることに繋がるのか。
 全北といえば、前線の選手へ目掛けたロングボールがストロング・ポイントである。ロングボールによる前進によって、全体の押し上げを図る。全体の(組織的な)押し上げによって、コンパクトな陣形の維持が可能となる。コンパクトな陣形の維持は、ボールロスト時(ネガティヴ・トランジション)において即時奪回が容易になることから、ボールの保持(攻撃)の局面を継続して行うことができる。
 ただ、全体が押し上がっているということは、構造として、背後に広大なスペースが存在することと同義だ。これは事前のスカウティングで知り得たことである。柏は徹底的にこの「背後のスペース」を素早く狙うことをゲームプランに据えているようだった。要は、カウンターである。
 ピッチ・コンディションが悪く、ボールを保持する時間がない状況であれば至極全うな選択といえるだろう。ボールを奪った瞬間(ポジティヴ・トランジション)の優先事項は、前を見ることだ。とにかくボールを前に付けることで、素早く仕留めることだ。
 結果としてこのゲームプランは、2点を先制することに成功するものの、3失点を喫する要因ともなってしまった。

 

ロングボールは手段であり、目的ではない

大谷秀和「簡単に勝たせてもらえないという厳しさを味わった試合だった」/ACL 全北 vs 柏【試合終了後の選手コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

キム ボギョン「個人的にはどうしても勝ちたい試合だった」/ACL 全北 vs 柏【試合終了後の選手コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

 タニとボギョンに限らず、口を揃えて「もう少しボールを繋ぐことが出来れば」とコメントを残している。
 裏のスペースを素早く狙うことや、前にボールを付けることを意識するあまり攻め急いでしまう・・・よくある話しだ。だから、ロングボールが増えていく。確かに、素早く相手の背後にボールを届けるだけなら、中盤を省略した方が早いかもしれない。しかしながら、相手の背後を突くことが出来る状況とは、自分たちが撤退を強いられている状況である。下さんといえば、美しいほどに圧縮された(コンパクトな)442のブロックだ。撤退した状況でのロングボールは、ただ相手にボールを与えているだけであり(蹴らされている、とも言う)、相手に攻撃の機会を与えることである。
 空中戦に強い選手を前線に配置することで、強引に打開を図ることが可能なチームが存在することも確かだ。全北がまさにそういうチームだ。ただ、柏レイソルは違う。最前線にクリスを配置していることからも、空中戦を挑んだわけではないことが読み取れる。
 後半の3失点についても、ボールを相手に渡すことで守備の時間が増えたことが原因だ。ボール保持を行うことが前提のチーム編成だったこともあり、被ロングボールへの対応は非常に不安定なものとなった。ファウルを与える回数も増加してしまった。

①手段の目的化が相手にボールを与えた。(裏を狙うこと・カウンターが目的のはずが、一手段に過ぎないロングボールに固執してしまった。)
②ボールを相手に与えたことで、守備の時間が増加することに繋がった。
③守備の時間が増えたことで、被ロングボール(空中戦)の弱さが露呈してしまった。

締めの言葉というほどのものではないけれど

下平隆宏監督の試合終了後の会見コメント/ACL 全北 vs 柏【コメント】 : 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤

 下さんも「攻撃の時間を増やしたかった」と言及しているように、守備の時間を減らしたかったのは事実だろう。
 それでも、ゲームプランにカウンターを据えることについては理に適っており、論理的な判断だと感じる。問題はそれ以前のところにあると考える。
 特に編成面だ。ACLを戦うにはFWもDFも、空中戦に強い選手が不足している。シーズン序盤、試合終了間際の失点を繰り返すこととなるが、結局のところ編成や過密日程によるところが大きい。
 その編成についても、天皇杯を年末まで戦ったことで、編成が後手に回ってしまったことが原因だ。そこまで勝ち残ったからこそ、ACLに出場できたのだが、結果的にGLの敗退が下さんを解任に追い込んだ。解任後、オルンガやナタンを獲得していることから、下さんなりに感じるところがあったのだろう。後にエルゴラッソにて「まだやれたのに」と回想している。やはり自分は、未だに下さんの解任は腑に落ちていない。それがこのブログを始めるきっかけになったのだが、それはまたの機会に・・・。

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・収益編)

 柏レイソルの財務諸表を読んでみます。
 表題にも記載しましたが、底辺銀行員(入社5年目)です。職業柄、日常的に財務諸表に触れていることから、いずれレイソルについて書きたいと考えていました。昨今の事情から、自宅にいる時間も増えています。勉強も兼ねて書いてみようと思い立った次第です。

 決算書(財務諸表)からは、クラブができることやできないこと、考え方までもが、ある程度読み解くことができるものと考えます。
 安定的な収益の獲得が、ピッチ上での継続的な勝利や好成績に貢献します。収益を獲得し、資産の拡大を図り、拡大した資産を元に更に収益を獲得していく・・・あくまで理想ですが、それこそが成長です。
 補強も育成もお金があってこそです。中長期的な視点に立ったクラブ運営などとよく言いますが、持続的かつ安定的な収益の確保が大前提です。明日の資金繰りに苦心する状態で数年先の未来を描くことは、現実的にも精神的にも厳しいように思います。お金があれば勝てるわけではありませんが、お金を持つことで強くなる可能性を高めることが可能です。


 今回は「損益計算書」の「収益」をクローズアップしていきます。クラブ(企業)の良し悪しは損益計算書だけ、ましてや「収益」だけで語ることはできません。しかしながら「費用」や「利益」、「貸借対照表」にまで触れるとあまりにも長文になってしまうため、複数回に分けて更新します(多分)。


※Jクラブの財務諸表は、勘定科目の開示がされていません。あくまで憶測の範囲であることはご留意ください。
※間違いや不適切な箇所はバシバシご指摘ください!


前提

 初めに会計期間を把握しましょう。損益計算書とは、一定期間における収益と費用の成績表です。
 2019年3月期(以降、当期と呼ぶ)損益計算書とは、「2018年4月1日〜2019年3月31日」の間にいくら稼いで、いくら使って、いくら手元に残ったかを記したものとなります。
 会計期間はクラブ(企業)によって変わります。3月決算であるレイソルは、期中にシーズンが変わる点に注意する必要があります(3月決算は全52クラブのうち、3クラブのみ)。
 要は、当期は「4月〜12月はJ1」「1月〜3月はJ2」だった、ということです。

 次に、この期間のトピックス(例年とは違う点)を把握します。後述しますが、突発的な事象を頭に浮かべながら仮説を立てることが重要です。

(大前提)成績不振に伴いJ2降格
ACLに出場していた(4月・GL敗退)
②監督交代(5月・下さん→望さん)
③中谷が移籍(6月・移籍金が2.5億円との報道あり)
④オルンガ加入(8月)
⑤監督交代(11月・望さん→岩瀬さん)
⑥ネル爺就任決定(12月)
⑦中山・安西、ブライアンが海外移籍(1月)

・二度の監督交代
・アカデミー卒の移籍が多い

 「二回も監督交代をしたということは、費用が増えてるはず!」とか、「移籍が多かったということは、移籍金がたくさん貰えたはずだから、売上が伸びいるはず!」という仮説に基づいて読み進めると理解が深まります。財務諸表単体では数字の羅列でしかありません。方向感を持つことが重要なのです。
 また、上記で列挙した事象は突発的な事象です。どういうことか。例えば中谷の名古屋への移籍は既に完了しているので、2020年シーズンには起こり得ません。
 損益計算書に限らず財務諸表を読む際、事前に突発的な事象を把握することで、前年(や例年)との比較において、異常値の原因を捉える手助けとなります。


1、解釈(増減要因を読み取ろう)

 初めに増減要因を探ります。財務分析とは比較です。

 比較することで異常値(前年・例年との変化)が判明します。その異常値こそが、その決算の「特筆すべき点」と言っていいでしょう。
 また、異常値が存在する一方で、特段変化のない数字というものも当然存在します。「横ばいで推移」などと表現されますが、安定・継続した事業(分野)と位置付けることができます。反対に、成長していない事業(分野)と捉えることもできます。

 比較する重要性がわかったところで、3期分を並べてみましょう。 
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 連続で増収(売上の増加)を達成しています。営業収益全体では、2017年3月期比で約44%増加と驚異的な成長を遂げています。
 あれ?と思われた方も多いのではないでしょうか。スポンサーも増えていないだろうし、観客増やす努力もしていないはずなのに、と。これも仮説です。疑って掛かりましょう。
 更に掘り下げます。
 内訳を比較していくと「スポンサー収入」・「入場料」・「アカデミー」・「物販」は横ばいで推移しており、これら4科目は増収要因ではないことが読み取れます。

 大きく動いている科目は2つ、「配分金」と「その他収入」です。

 まずは「配分金」。

 Jリーグからの配分金を指しています。2年間で約6億円の増加ですが、これはDAZNマネーの恩恵に起因するものです。ACLの出場による配分金の増加(2017年4位フィニッシュ含む)が影響していると思われます。
 DAZNマネーによって、継続して結果を残す(上位に入る)重要性はこれまでに以上に増しています。富めるもの・強いものが賞金を手にすることで、より富んでいく、強くなる時代になることが予想されます。・・・え?色々と見失ったせいで、たくさん賞金貰ったのに降格したチームがあるのですか・・・?静かにしてください。
(余談:配分金については計上時期が疑問。配分金の受取が2018年4月だったとしても、2017年シーズンの結果に起因する収益であることから、2018年3月期に計上することが望ましいように思う(仕訳:未収/配分金?)が、実態はどうなんでしょう。)

 続いて「その他収入」です。

 これは、主に「移籍金収入」などを指しています。
 対2018年比で約6億円の増加です。上記トピックスに、アカデミー卒の移籍が多かったことを挙げました。移籍金を残してくれるクラブ思いの選手達です。選手も大切な資産です。育成にはクラブのリソース(ヒト・モノ・カネ)を注いでいます。選手の意向を尊重しながらも、移籍金を獲得できる契約を結ぶことは重要です。ゼロ円移籍の時代は終わりました。

 以上のことから、2019年3月期の「収益」について簡単に総括すると、

「『スポンサー料』および『入場料収入』は横ばいで推移したものの、『配分金』および『その他収入』の大幅増加が増収に寄与したことで過去最高(多分)の営業収益を達成」

 という表現になります。

 

2、分析(収益構造を理解しよう) 

 当期の決算(収益)内容を把握したところで、続いては分析です。収益構造を理解しましょう。
 前述した通り、財務分析とは比較です。対象は、過去の自分や同業他社など、目的によって変わります。今回は、自社の収益構造を理解することが趣旨なので、過去の自分との比較を行います。
 3期分の内訳を横(縦)に並べてみます。上から順に2019年→2018年→2017年です。
iPad表計算ソフトが難しすぎて、これ以上のグラフは作れません。サイズもタイトルの位置も意味不明・・・ご容赦下さい。)


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 1、スポンサー収入が最大の収益源であること
 2、売上高スポンサー収入比率(スポンサー収入/営業収益:全体に占めるスポンサー収入の割合)は年々低下していること
 簡単に読み取れる情報がこの2点かと思います。

・スポンサー料が最大の収益源

 一目瞭然、既知の通りだとは思いますが、スポンサー収入が一番大きなウェイトを占めています。
 日立製作所や三協フロンテア、マブチモーターなどから受け取る広告料を指しています。(当然ですが、内訳までは公開されていません。)
 売上高スポンサー収入比率(スポンサー収入/営業収益全体)は、2017年3月期の約70%をピークに低下基調をたどり、当期は50%を下回る水準です。「スポンサー収入」の実収(比率ではない)が横ばいだったにも関わらず、割合が低下した要因は「1、増減要因を探る」で触れたように、「配分金」および「その他の収入」の増加です。スポンサー収入(分子)が横ばいで、営業収益全体(分母)が増えた(大きくなった)ことから、比率は低下しました。
 収益を1つ(事業や販売先)に依存することは継続的・安定的な成長の観点では極めて不安定です。リスク分散をすべきです。
 そうすると、徐々に売上高スポンサー収入比率が低下している(スポンサーだけに頼らなくなっている)ということは、
柏レイソルには健全な成長を遂げている」
という仮説を立てることができます。

 レイソルは健全な成長を遂げている」・・・違和感ありまくりですね。検証していきます。
 「スポンサー収入」の比率が高い理由は、親会社を持つクラブだからです。筆頭株主日立製作所であり、「大企業サッカー部」という皮肉な表現をされることもあります。日立製作所をはじめとする大企業のバックアップ(スタジアムの広告は大企業ばかりです。)の下、余裕を持ったクラブ経営を続けてきました。ネル爺一次政権時代、人件費が全クラブトップを記録したこともありました。リーグトップクラスの営業収益を有した時期もありましたが、スポンサーあってのことです。時代の変遷とと共に、相対的(他クラブとの比較)な収益力は低下していますが、それは本筋から逸れるので、別の機会にします。

 直近3期については、「スポンサー収入」は横ばいで推移しています。「頭打ち」という表現は不適切でしょうか。
 何度も述べますが、当期の増収(スポンサー収入比率の低下)は、2017年の好成績による「配分金」の増加と、移籍金獲得による「その他収入」の増加が要因です。
 これらは性質として突発的な事象によるものという認識です。事実、2018年シーズンは降格を喫しており、継続して結果を残しているわけではありません。勝負は水物です。また、冒頭で中谷の例を挙げましたが、移籍金収入は毎期継続して獲得できるものではありません。獲得できないというと語弊がありますが、不確定要素が多いといっていいでしょう。移籍は相対ですから、買い手が存在してはじめて成立するものです。
 移籍金が発生するということは、自クラブの戦力ダウンであることとほぼ同義でもあります。
 このように増収要因を掘り下げた時、スポンサー収入比率の低下を根拠に、「健全に成長しているとは言い難い」ことがわかります。

・「入場料収入」は微減

 微減となった「入場料収入」ついてはどうでしょうか。
 観客動員数は、残留争いを演じながらも、2017年シーズン比で1試合あたり▲418人程度です。大きな影響はありませんでした。チームの好不調はそれほど動員に影響を与えないと捉えることもできます。
 当期の「入場料収入」は減少してしまいましたが、今後回復を図り、クラブ全体の収益力の向上に寄与することは可能でしょうか。
 日立台のキャパシティと現状の収容率(2018シーズンは平均11,000人/キャパ15,000人=約70%)を考慮すれば、今後の増加余地は限定的と考えられます。残り4,000人(15,000人-11,000人)を単価2,500円で埋めると、1試合あたり10百万円、ホームゲーム17試合で170百万円です。多いか、少ないか。現状の柏レイソルは、少ないという結論を出しています。というのも、これはあくまで「収益」の話しです。そこから経費や人的資源の問題を勘案し、手元にどれだけ「利益」が残るかを考慮する必要があります。「収益」という論点からすると少し逸れることから次回にします。(「費用」の項目の「試合関連経費」から1試合あたりの経費を求めることができます。)
 寺坂氏が以前に話されたように、経営リソースを割くことで入場者数の増加を図ることは、現実的ではないという経営判断に納得感があるのも事実です。

 我々サポーターが「営業努力」と表現している部分は、「スポンサー収入」と「入場料収入」の2点を指しているものと認識しています。
 「突発的事象ではなく、主体的に変化を起こせる部分かつ、継続して収益を獲得できるその2点の成長余地が限りなくゼロに近い」という状況ではないか、という解釈ができます。
 また、最大の収益源であるスポンサー収入についても減少が予想されます。
 なぜかというと、2020年3月期(例年7月頃?発表)については、会計期間の大半をJ2で過ごしています。J1と比べてメディア露出の減少が予想されます。スポンサー視点では投資妙味(広告宣伝効果)に欠けることとなります。広告料の減額を行ったスポンサーも多数あったのではないかと、推察されます。ただ、例年以上に積極的な補強を敢行しており、蓋を開けて見なければわかりません。降格にも関わらず、スポンサー収入が横ばいだとしたら、良好な関係が構築されている証とも言えます。今のうちから仮説を立てるのも楽しいです。

気になるコロナの影響

 新型コロナウイルス感染拡大によって公式戦の中断長期化が懸念されます。
 中断が経営に与える影響については、収益構造からある程度推察することが可能です。
 延期・中止で最も懸念されるのが「入場料」の減少ですが、上記グラフでも読み取れるように、収益全体に占める割合は10%程度です。親会社や大きなスポンサーを持たず、「入場料収入」が収益源というクラブに比べれば影響は限定的だと思われます。
 しかしながら、試合が開催されないということは、スポンサー(広告)料というテイクに対して、ギブを果たしていないということです。レイソルが懸念すべき点は、収益源である「スポンサー収入」というです。
 感染拡大阻止による移動制限・外出自粛要請から、様々な需要が蒸発しています。急速な消費・経済の停滞よる企業業績の悪化は避けられません。景気の後退局面、業績の悪化局面では、企業心理は当然ながら、広告宣伝よりも雇用の維持など保守的なものとなります。「スポンサー収入」は減少が予想されます。
 客観的根拠はないものの、「スポンサー収入」の大半が日立製作所からのものだと推測されます。
 日立といえば、「選択と集中」による徹底的な経営の効率化によって成長を遂げてきました。近年の成長を支えた「選択と集中」はBリーグ所属のサンロッカーズにも及び、売却を模索しているとの報道がなされています。

日立が傘下バスケットチーム売却模索 事業の「選択と集中」の犠牲に | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版

 レイソルも例外ではありません。売上に占める白物家電の割合を踏まえると、一般大衆に対しての広告が日立にとってどれだけ効果があるのか疑問に思います。仮に日立が撤退ということになれば、クラブの存続すら危ぶまれる状況です。1つの事業や販売先に依存するリスクとはこのことを指しています。
 少し悲観的になりました。日立の決算を注視していくことも、ある意味ではレイソルを知ることに繋がるかもしれません。

 参考:短信が手軽です。(桁が大きすぎて意味不明です。私は読むことを諦めました。)
決算短信:株主・投資家向け情報:日立

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 損益計算書の「収益」というたった1部分だけでここまで掘り下げることができます。「費用」も「貸借対照表」にも触れていません。そして、それら全ては密接に関わりあっています。「収益」だけで全てを理解することはできません。
 次回は損益計算書の下半分である「費用(何にお金を使ったか)」と「利益(いくら残ったか)」について書いてみます(多分)。

vs広州恒大(ACL・2015/08/25)HDDを旅しようvol.2

 淡々と書いていきます。第二回目は、2015年のACLから準々決勝1stレグ広州戦。
 平日(火曜日)の日立台に14,000人もの動員は、この試合に懸ける思いを物語っています。
 ACLの準々決勝という舞台はもちろん、2年前の雪辱に燃えたサポーターも多かったはずです。
 リーグ戦が残念な展開だったこともあって、今季の全てをこの試合に委ねるような空気だったと記憶しています。
 余談ですが、この段階でリーグ戦は3位(2ndステージ)に付けていたようで、勢いには乗っていたようです。全く記憶にありません。

AFCチャンピオンズリーグ2015 準々決勝第1戦|柏レイソル Official Site

 先発は、菅野、チャンス、大輔、エドゥアルド、藤田、バラ、雄太、多部ちゃん(小林)、クリス、工藤、武富。
 直近のゲームからは、タニと輪湖が負傷でベンチ外。
 武富がトップ。バラがアンカーで、雄太と小林CH。やっぱりアカデミー卒業で組む3CHには夢がある。秋野はどうしたんだろう。

弱い?脆い?繊細?


 フルマッチを観た率直な感想は、やっぱり弱い。弱いという表現が不適切だとしたら、脆い、繊細、神経質という言葉でもいいかもしれない。
 失点が全てセットプレーだったことも含め、そのような印象を抱いた。

 達磨さんの哲学といえば、ボール保持やパスサッカーと言っていいだろう。達磨さんに限らず、当時の柏レイソル(アカデミー含む)がそんなチームだった。
 それ自体が悪いわけではない。むしろ目指すサッカー、ゲームモデルが明確なチームは強い。 
 柏レイソルは、ボールを保持する必要がある。そのために、ボールを奪う必要がある。
 例えば、トランジションではゲーゲンプレッシングによる即時奪取を試みることや、ハイプレスで相手に時間とボールを与えないなどといった振る舞いが求められる。
 しかしながら、トランジションの局面では明かに強度が不足していた。強度以前に、そもそも仕組が整備されていない。[攻撃]→[攻撃→守備]→[守備]→[守備→攻撃]という4局目の循環の中で、次の局面を想定したポジションを取ることが大切だ。柏の場合は、ボール保持を続けるための準備だ。すぐにボールを奪い返すことが出来る配置、ないしはすぐにプレッシングを開始できるポジションを取ることだ。
 
 広州戦に至っては、そのトランジション時の振る舞いが不安定だった。コンパクトな陣形を維持できず、プレッシングが掛からない。前後が分断し、アンカー脇にスペースを与えることから、プレッシングが外されてしまう。
 トランジションの機能不全が、ボール保持(時間)の減少に繋がった。

 だが、ここで考える。そもそもなぜ、コンパクトな陣形を維持できなかったのか。トランジションが機能しなかったのか。
 その答えは至ってシンプルなもので、ボールを持つことや、パスを繋ぐことでしか前進ができないチームだったからだ。
 広州恒大が序盤から高強度のプレッシングを選択したことから、柏はボールと時間が奪われてしまった。ボールを繋げない。保持できない状況のまま試合が推移していく。広州恒大の視点に立てば、ネルシーニョが表現するところの「ニュートラル」な状況を再現していると言える。
 ボール保持やパスサッカーという理想・哲学を掲げた以上、全力でボールと時間を奪いに来る相手との対峙は避けられない。
 その打開策や手段は、監督やチームによってそれぞれだ。配置、つまりはポジショナル・プレーを突き詰めることや、ボールを握るためにロングボールを選択すること等々・・・。
  この日(もしくはこの年)は、その状況を打開する術を持たなかったことが大きな敗因だと考える。打開策がなかったのか、理想に殉じるを良しとしたかは、微妙なところではあるが恐らくは前者であろう。

 ビルドアップでは、茨田がCB間に移動することで後方の数的優位の確保を図る。
 特徴的なのはFWの武富に与えられたタスクだ。ゼロトップに近いかもしれない。前線で裏を狙うことや、相手のCBをピン留めすることではなく、中盤での数的優位を確保するために降りていくこと、ビルドアップの出口になることが求められた。

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 しかしながら、全体が後ろに重くなった結果、相手を自陣に招き入れてしまうこととなる。味方同士の距離が近くなったことから、自分たちでスペースやパスコースを消してしまった。パスでの前進ができない。
 プレッシングを間に受ける状況だ。回避の手段は、ゴールキーパーをビルドアップに組み込むことや、ロングボールなどが挙げられる。
 これだけ後ろに重たい配置になるとロングボールでの前進は困難だ。そもそもボールを蹴ることを織り込んでいない(全体が低い位置にいる)ため、2ndボールの回収が出来ず、相手にボールが渡る。
 ボール保持のための列移動(バラと武富)が、却って自分たちを苦しめることとなった。パスサッカーだけど、ポジショナル・プレーではない。あくまでパスのためのパスだと表現していいだろう。
 そして、この状況のまま3点を先行される。3点取ったことで、次第に広州恒大はプレッシングの強度を落とすことになるが、そこでようやくボールを保持することができるようになった。つまり相手が強度を落とすまで何もできず、殴られっぱなしだったということだ。理想に殉じたといえば聞こえはいいかもしれない。しかし、そもそもボールすら保持できない仕組では、理想も何もあったものではない。
 冒頭で述べた弱さや脆さというのは、一つの戦い方しかできなかったことを指したつもりだ。強みを封じられた際の振る舞いは、弱さそのものだった。

 

ネルシーニョ→達磨への移行はなぜ

 

 そもそも、なぜクラブの最繁栄期を築き上げたネルシーニョから、達磨政権への移行を図ったのか。
 2015年を語る時、その背景を触れないことは達磨さんに対して誠意を欠く行為だと思っている。
 簡単に表現すれば、アジアで勝つため(獲るため)だ。

「このままでは広州(=中国マネー)には勝てないし、スポンサーからもそこまでの資金は引っ張れない。だから金ではなく。育成をクラブのアイデンティティに据え、アカデミー主体のシームレスな『組織』の下、アジアの頂点を目指そう。」

 当時を知らない柏サポーターが聞けば、「何を言ってるの?」と正気を疑うだろう。
 それでも当時は、クラブも選手も、サポーターも含めて全員が、これなら大丈夫、きっとアジアで勝てる。俺たちは間違っていない。そう本気で思っていた(少なくとも僕は)。
 ネルシーニョの後任が達磨さんであることは、暗黙の了解として認識されたていた。クラブもそのために要職を経験させ、時間を掛けて周到な準備を行った。
 それでも結果として達磨政権は1年で幕を下ろすこととなる。柏レイソルにとって、「アカデミー」とはどんな存在なのかということを考え直すことになった。後に寺坂さんはこの年のことを「変化を好まない、排他的な組織になってしまった」と表現した。広州戦に見た弱さや脆さは、確かにその表現に納得できる。
 その後、紆余曲折を経て下さんが引継ぐこととなる。結果的に2018年に降格を喫することになるが、この挑戦(アカデミーとのシームレス化)自体は決して間違いではなかったと個人的には思っている。しかし、それについては別の機会を設けたい。
 クラブもサポーターも非常にポジティブな思いを抱いて、走り始めたシーズンだったことは間違いない。それでも、数年の時を経て見返したこのゲームに、限界を感じずにはいられなかった。