底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編)

 損益計算書の「費用」および「利益」編です。

 今回は「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」という話をします。

 前回からの引用ですが、前提を頭に浮かべながら進めていきましょう。
 ※今回も2019年3月期を「当期」と呼びます。

初めに会計期間を把握しましょう。損益計算書とは、一定期間における収益と費用の成績表です。
 2019年3月期(以降、当期と呼ぶ)損益計算書とは、「2018年4月1日〜2019年3月31日」の間にいくら稼いで、いくら使って、いくら手元に残ったかを記したものとなります。
 会計期間はクラブ(企業)によって変わります。3月決算であるレイソルは、期中にシーズンが変わる点に注意する必要があります(3月決算は全52クラブのうち、3クラブのみ)。
 要は、当期は「4月〜12月はJ1」「1月〜3月はJ2」だった、ということです。

 次に、この期間のトピックス(例年とは違う点)を把握します。後述しますが、突発的な事象を頭に浮かべながら仮説を立てることが重要です。

(大前提)成績不振に伴いJ2降格
ACLに出場していた(4月・GL敗退)
②監督交代(5月・下さん→望さん)
③中谷が移籍(6月・移籍金が2.5億円との報道あり)
④オルンガ加入(8月)
⑤監督交代(11月・望さん→岩瀬さん)
⑥ネル爺就任決定(12月)
⑦中山・安西、ブライアンが海外移籍(1月)

・二度の監督交代
・アカデミー卒の移籍が多い

 「二回も監督交代をしたということは、費用が増えてるはず!」とか、「移籍が多かったということは、移籍金がたくさん貰えたはずだから、売上が伸びいるはず!」という仮説に基づいて読み進めると理解が深まります。財務諸表単体では数字の羅列でしかありません。方向感を持つことが重要なのです。
 また、上記で列挙した事象は突発的な事象です。どういうことか。例えば中谷の名古屋への移籍は既に完了しているので、2020年シーズンには起こり得ません。
 損益計算書に限らず財務諸表を読む際、事前に突発的な事象を把握することで、前年(や例年)との比較において、異常値の原因を捉える手助けとなります。

 

1、「費用」編

 営業費用全体では、対2017年2月期比で約45%の増加

 前回同様、過去の自分たちとの比較を行ないます。
 まずは、全体から確認していきます。「営業費用」全体では、当期は対2017年3月期比約45%の増加となっています。1年間に掛かる費用が2年間で倍近くなったということです。
 この「45%」という数字に見覚えがありませんか?そうです。「営業収益」の増加率も約45%です(前回のエントリー参照)。
 「収益」が増加した分だけ「費用」も増加したということになります。一般的に「収益」が増加すれば「費用」も増加するものです。収益が増える=仕事が増えるとほぼ同義だからです。他方、資金が増えたことで、できることが増えるからという解釈も可能です。したがって、「費用」の増加は決して悪いことではありません。
 

 増減要因を読み取ろう

 全体から個別の事象に掘り下げていきます。初めに結論から話します。「人件費」以外は(ほぼ)変化ありません。

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 「人件費」が対2017年3月期比で約10億円の増加しています。「人件費」とは、主に監督・コーチ・選手の給料や、移籍金の償却などを指しています。(ちなみに、フロント陣の給料は「販管費」に計上されています。)
 移籍金は一度全額を無形固定資産に計上し、契約期間に渡って償却します。償却方法等は会計の話題になるので一番最後に記載しました。
 経営陣からサポーターに対し「現場に資金を投下したい」と、イエローハウス等を通じ繰り返し説明を行なっています。敢えて触れる必要はないと思いますが、詳しくは過去のイエローハウス議事録をご覧ください。
 勝ち点1を獲得するために掛かった費用(人件費)を比較したものを、デロイト・トーマツが公開しております。興味のある方はどうぞ。(2019年版が見つからず)

Jリーグ マネジメントカップ 2018|スポーツビジネス|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

 「トップ運営費」の増加については、ACLの遠征費やW杯中断期間中に行ったキャンプなど、例年にはない費用が計上されているものと思われます。しかし、全体から見れば影響は限定的です。
 当期の費用についてまとめると、

「収益が増えた分は、ほぼ人件費に使いました」

 ということになります。最大限、チームに資金を投下することで、強いレイソルを見せるという経営判断です。結果的に降格を喫した

わけですが・・・。
 

 費用構造を理解しよう

 次に比率で費用構造を把握していきます。
 一目瞭然、周知の通り「人件費」が最も大きなウエイトを占めています。

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 継続、一貫して現場主義、ピッチに資金を注ぐのだという姿勢が数字から読み取ることができます。
 クラブのリソースをなるべく現場に投下することで強いレイソルを見せる、勝利こそが最大のファンサービスということです。
 変化がないというのが最大の特徴といったところでしょうか。「収益」が増加し、使えるお金は増えているものの、使い方は変わらないということです。

 また、「人件費」が約70%を占めていることが意味するものは何でしょうか。
 それは「費用」の使い方が「収益」の増加を図る(例えば設備投資)ためではなく、不確定要素が大きいゲーム(ピッチ)の部分に「費用」(使えるお金)の7割を注いでいるということです。

 

2、「利益」編 

 毎期プラスマイナス0近辺の純利益が意味するもの

 予算を使い切るためにお金を使っているのではないか?という話をします。
 
「利益」=「収益」ー「費用」です。1年間でいくら儲かったのか?を示しています。

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 当期は2百万円の純利益ということで、黒字達成です。しかしながら、前期は13百万円の黒字だったので、若干減少してしまいした。
 対前期比で売上は増加したものの利益が減少・・・これを一般的に増収減益と表現します。
 
 3期分だとよくわからないので、過去10期分を横並びにしてみます。(グラフが上手に作れなかった)

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 綺麗にプラスマイナス0近辺で推移していることがわかります。(純利益が1億円を超えたのは一度。)
 この事象から感じることがあります。
 それは、

「収益」を増やすために費用を使っているのではなく、「予算」を使い切るために使っていないか?

 予算を使い切ることが目的となっているのではないか?ということです。ここで、振り返ります。

①収入の50%を占めるスポンサー収入はしばらく横ばい(一定)で推移。(収益編、参照)
②収益が増えてもお金の使い途は変わらない(上記、費用編)
③純利益が毎期一定

 ネガティブな表現をすれば、まるで公共事業だと思います。ポジティブに捉えれば、身の丈にあった経営とも言えるでしょう。
 

「収益」を増やすためのお金の使い方はしないから、クラブの成長(規模拡大)は期待しないでね!赤字出さない程度に現場に資金を投下して、できる限り勝率を上げるよ!

 というのが今の柏レイソルの経営方針です。特別新しい発見ではありません。イエローハウスで瀧川社長が話されたことを数字という角度で見ただけです。
 お金の使い途を知るためには、厳密には、貸借対照表も確認する必要があります。詳細は次回触れますが、現預金(流動資産)が異常に少ないことや、資産が増えていないことなどが裏付けています。
 収益編でも取り上げたように、当面の間は、収益の増加は見込めません。新型コロナ感染拡大によるスポンサー企業の業績悪化が懸念されるからです。また、当期の増収要因であった配分金についても、公式戦延期に伴う救済資金等に充当されるものと思われ、現水準の維持は困難と予想します。
 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 クラブの規模拡大を考えた時、使えるお金(予算)の増加が見込めないのであれば、増やす努力をするべきです。その努力を成長と表現するのだと思います。
 「クラブの規模拡大」というと抽象的ですが、財務の観点から言えば貸借対照表の拡大を指します。現預金を厚くすること、設備投資すること、資金調達(借入・増資)することなど手法はさまざまですが、詳細は次回にします。
 周りくどい表現を続けてきました。冒頭で述べたように「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」というテーマで書いてきました。
 ネルシーニョが2025年まで契約を延長したとツイートを拝見しましたが、アフタ・ネルシーニョに備えた方向性の提示、スキーム作りは必須と感じます。収益の大幅な増加が見込めない以上、長期的な視点に立ったクラブ運営でしか強くはなれないと思います。

 

移籍金の資産計上と費用認識について

 こちらを参考に見ていきます。

第185回 (A) 「サッカー選手の移籍金と会計処理」【ケース・スタディー】 | 連結会計・グループガバナンス・経営管理のディーバ(DIVA)

 当期に加入したオルンガを例にします。報道レベルですが、条件は(移籍金:約3億3,000万円、契約期間3年)となっています。

https://qoly.jp/2018/08/11/kashiwa-raysol-signed-with-michael-olunga-kgn-1

 契約が決定した時点で移籍金を無形固定資産に全額計上します。

(借方)移籍金・無形固定資産 3億3,000万円 /(貸方)現金預金・流動資産 3億3,000万円

 仕訳です。この時点では費用計上されておらず、損益計算書には反映されません。
 そこで移籍金を契約期間に渡って費用認識する、要は償却する必要が出てきます。どういうことか。今回の契約では、柏レイソルがオルンガを3年間所有する権利を3億3,000万円で獲得したと考えます。この3億3,000万円で3年間というのがポイントです。3年間の権利であるはずなのに、契約時点で一括して費用計上するのはおかしいよね、3年間で均等に計上しましょうよ、という理屈です。
 当期のオルンガの償却額を計算します。
 3億3,000万円×8ヶ月/36ヶ月(3年)=約7,300万円となります。(8月加入=当期に属する期間は8月〜3月の8ヶ月)。

 (借方)減価償却費・費用勘定 7,300万円 /(貸方)移籍金・無形固定資産 7,300万円

 この7,300万円が人件費に計上されているものと思われます。