底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・収益編)
柏レイソルの財務諸表を読んでみます。
表題にも記載しましたが、底辺銀行員(入社5年目)です。職業柄、日常的に財務諸表に触れていることから、いずれレイソルについて書きたいと考えていました。昨今の事情から、自宅にいる時間も増えています。勉強も兼ねて書いてみようと思い立った次第です。
決算書(財務諸表)からは、クラブができることやできないこと、考え方までもが、ある程度読み解くことができるものと考えます。
安定的な収益の獲得が、ピッチ上での継続的な勝利や好成績に貢献します。収益を獲得し、資産の拡大を図り、拡大した資産を元に更に収益を獲得していく・・・あくまで理想ですが、それこそが成長です。
補強も育成もお金があってこそです。中長期的な視点に立ったクラブ運営などとよく言いますが、持続的かつ安定的な収益の確保が大前提です。明日の資金繰りに苦心する状態で数年先の未来を描くことは、現実的にも精神的にも厳しいように思います。お金があれば勝てるわけではありませんが、お金を持つことで強くなる可能性を高めることが可能です。
今回は「損益計算書」の「収益」をクローズアップしていきます。クラブ(企業)の良し悪しは損益計算書だけ、ましてや「収益」だけで語ることはできません。しかしながら「費用」や「利益」、「貸借対照表」にまで触れるとあまりにも長文になってしまうため、複数回に分けて更新します(多分)。
※Jクラブの財務諸表は、勘定科目の開示がされていません。あくまで憶測の範囲であることはご留意ください。
※間違いや不適切な箇所はバシバシご指摘ください!
前提
初めに会計期間を把握しましょう。損益計算書とは、一定期間における収益と費用の成績表です。
2019年3月期(以降、当期と呼ぶ)損益計算書とは、「2018年4月1日〜2019年3月31日」の間にいくら稼いで、いくら使って、いくら手元に残ったかを記したものとなります。
会計期間はクラブ(企業)によって変わります。3月決算であるレイソルは、期中にシーズンが変わる点に注意する必要があります(3月決算は全52クラブのうち、3クラブのみ)。
要は、当期は「4月〜12月はJ1」「1月〜3月はJ2」だった、ということです。
次に、この期間のトピックス(例年とは違う点)を把握します。後述しますが、突発的な事象を頭に浮かべながら仮説を立てることが重要です。
(大前提)成績不振に伴いJ2降格
①ACLに出場していた(4月・GL敗退)
②監督交代(5月・下さん→望さん)
③中谷が移籍(6月・移籍金が2.5億円との報道あり)
④オルンガ加入(8月)
⑤監督交代(11月・望さん→岩瀬さん)
⑥ネル爺就任決定(12月)
⑦中山・安西、ブライアンが海外移籍(1月)
・二度の監督交代
・アカデミー卒の移籍が多い
「二回も監督交代をしたということは、費用が増えてるはず!」とか、「移籍が多かったということは、移籍金がたくさん貰えたはずだから、売上が伸びいるはず!」という仮説に基づいて読み進めると理解が深まります。財務諸表単体では数字の羅列でしかありません。方向感を持つことが重要なのです。
また、上記で列挙した事象は突発的な事象です。どういうことか。例えば中谷の名古屋への移籍は既に完了しているので、2020年シーズンには起こり得ません。
損益計算書に限らず財務諸表を読む際、事前に突発的な事象を把握することで、前年(や例年)との比較において、異常値の原因を捉える手助けとなります。
1、解釈(増減要因を読み取ろう)
初めに増減要因を探ります。財務分析とは比較です。
比較することで異常値(前年・例年との変化)が判明します。その異常値こそが、その決算の「特筆すべき点」と言っていいでしょう。
また、異常値が存在する一方で、特段変化のない数字というものも当然存在します。「横ばいで推移」などと表現されますが、安定・継続した事業(分野)と位置付けることができます。反対に、成長していない事業(分野)と捉えることもできます。
比較する重要性がわかったところで、3期分を並べてみましょう。
連続で増収(売上の増加)を達成しています。営業収益全体では、2017年3月期比で約44%増加と驚異的な成長を遂げています。
あれ?と思われた方も多いのではないでしょうか。スポンサーも増えていないだろうし、観客増やす努力もしていないはずなのに、と。これも仮説です。疑って掛かりましょう。
更に掘り下げます。
内訳を比較していくと「スポンサー収入」・「入場料」・「アカデミー」・「物販」は横ばいで推移しており、これら4科目は増収要因ではないことが読み取れます。
大きく動いている科目は2つ、「配分金」と「その他収入」です。
まずは「配分金」。
Jリーグからの配分金を指しています。2年間で約6億円の増加ですが、これはDAZNマネーの恩恵に起因するものです。ACLの出場による配分金の増加(2017年4位フィニッシュ含む)が影響していると思われます。
DAZNマネーによって、継続して結果を残す(上位に入る)重要性はこれまでに以上に増しています。富めるもの・強いものが賞金を手にすることで、より富んでいく、強くなる時代になることが予想されます。・・・え?色々と見失ったせいで、たくさん賞金貰ったのに降格したチームがあるのですか・・・?静かにしてください。
(余談:配分金については計上時期が疑問。配分金の受取が2018年4月だったとしても、2017年シーズンの結果に起因する収益であることから、2018年3月期に計上することが望ましいように思う(仕訳:未収/配分金?)が、実態はどうなんでしょう。)
続いて「その他収入」です。
これは、主に「移籍金収入」などを指しています。
対2018年比で約6億円の増加です。上記トピックスに、アカデミー卒の移籍が多かったことを挙げました。移籍金を残してくれるクラブ思いの選手達です。選手も大切な資産です。育成にはクラブのリソース(ヒト・モノ・カネ)を注いでいます。選手の意向を尊重しながらも、移籍金を獲得できる契約を結ぶことは重要です。ゼロ円移籍の時代は終わりました。
以上のことから、2019年3月期の「収益」について簡単に総括すると、
「『スポンサー料』および『入場料収入』は横ばいで推移したものの、『配分金』および『その他収入』の大幅増加が増収に寄与したことで過去最高(多分)の営業収益を達成」
という表現になります。
2、分析(収益構造を理解しよう)
当期の決算(収益)内容を把握したところで、続いては分析です。収益構造を理解しましょう。
前述した通り、財務分析とは比較です。対象は、過去の自分や同業他社など、目的によって変わります。今回は、自社の収益構造を理解することが趣旨なので、過去の自分との比較を行います。
3期分の内訳を横(縦)に並べてみます。上から順に2019年→2018年→2017年です。
(iPadの表計算ソフトが難しすぎて、これ以上のグラフは作れません。サイズもタイトルの位置も意味不明・・・ご容赦下さい。)
1、スポンサー収入が最大の収益源であること
2、売上高スポンサー収入比率(スポンサー収入/営業収益:全体に占めるスポンサー収入の割合)は年々低下していること
簡単に読み取れる情報がこの2点かと思います。
・スポンサー料が最大の収益源
一目瞭然、既知の通りだとは思いますが、スポンサー収入が一番大きなウェイトを占めています。
日立製作所や三協フロンテア、マブチモーターなどから受け取る広告料を指しています。(当然ですが、内訳までは公開されていません。)
売上高スポンサー収入比率(スポンサー収入/営業収益全体)は、2017年3月期の約70%をピークに低下基調をたどり、当期は50%を下回る水準です。「スポンサー収入」の実収(比率ではない)が横ばいだったにも関わらず、割合が低下した要因は「1、増減要因を探る」で触れたように、「配分金」および「その他の収入」の増加です。スポンサー収入(分子)が横ばいで、営業収益全体(分母)が増えた(大きくなった)ことから、比率は低下しました。
収益を1つ(事業や販売先)に依存することは継続的・安定的な成長の観点では極めて不安定です。リスク分散をすべきです。
そうすると、徐々に売上高スポンサー収入比率が低下している(スポンサーだけに頼らなくなっている)ということは、
「柏レイソルには健全な成長を遂げている」
という仮説を立てることができます。
「レイソルは健全な成長を遂げている」・・・違和感ありまくりですね。検証していきます。
「スポンサー収入」の比率が高い理由は、親会社を持つクラブだからです。筆頭株主は日立製作所であり、「大企業サッカー部」という皮肉な表現をされることもあります。日立製作所をはじめとする大企業のバックアップ(スタジアムの広告は大企業ばかりです。)の下、余裕を持ったクラブ経営を続けてきました。ネル爺一次政権時代、人件費が全クラブトップを記録したこともありました。リーグトップクラスの営業収益を有した時期もありましたが、スポンサーあってのことです。時代の変遷とと共に、相対的(他クラブとの比較)な収益力は低下していますが、それは本筋から逸れるので、別の機会にします。
直近3期については、「スポンサー収入」は横ばいで推移しています。「頭打ち」という表現は不適切でしょうか。
何度も述べますが、当期の増収(スポンサー収入比率の低下)は、2017年の好成績による「配分金」の増加と、移籍金獲得による「その他収入」の増加が要因です。
これらは性質として突発的な事象によるものという認識です。事実、2018年シーズンは降格を喫しており、継続して結果を残しているわけではありません。勝負は水物です。また、冒頭で中谷の例を挙げましたが、移籍金収入は毎期継続して獲得できるものではありません。獲得できないというと語弊がありますが、不確定要素が多いといっていいでしょう。移籍は相対ですから、買い手が存在してはじめて成立するものです。
移籍金が発生するということは、自クラブの戦力ダウンであることとほぼ同義でもあります。
このように増収要因を掘り下げた時、スポンサー収入比率の低下を根拠に、「健全に成長しているとは言い難い」ことがわかります。
・「入場料収入」は微減
微減となった「入場料収入」ついてはどうでしょうか。
観客動員数は、残留争いを演じながらも、2017年シーズン比で1試合あたり▲418人程度です。大きな影響はありませんでした。チームの好不調はそれほど動員に影響を与えないと捉えることもできます。
当期の「入場料収入」は減少してしまいましたが、今後回復を図り、クラブ全体の収益力の向上に寄与することは可能でしょうか。
日立台のキャパシティと現状の収容率(2018シーズンは平均11,000人/キャパ15,000人=約70%)を考慮すれば、今後の増加余地は限定的と考えられます。残り4,000人(15,000人-11,000人)を単価2,500円で埋めると、1試合あたり10百万円、ホームゲーム17試合で170百万円です。多いか、少ないか。現状の柏レイソルは、少ないという結論を出しています。というのも、これはあくまで「収益」の話しです。そこから経費や人的資源の問題を勘案し、手元にどれだけ「利益」が残るかを考慮する必要があります。「収益」という論点からすると少し逸れることから次回にします。(「費用」の項目の「試合関連経費」から1試合あたりの経費を求めることができます。)
寺坂氏が以前に話されたように、経営リソースを割くことで入場者数の増加を図ることは、現実的ではないという経営判断に納得感があるのも事実です。
我々サポーターが「営業努力」と表現している部分は、「スポンサー収入」と「入場料収入」の2点を指しているものと認識しています。
「突発的事象ではなく、主体的に変化を起こせる部分かつ、継続して収益を獲得できるその2点の成長余地が限りなくゼロに近い」という状況ではないか、という解釈ができます。
また、最大の収益源であるスポンサー収入についても減少が予想されます。
なぜかというと、2020年3月期(例年7月頃?発表)については、会計期間の大半をJ2で過ごしています。J1と比べてメディア露出の減少が予想されます。スポンサー視点では投資妙味(広告宣伝効果)に欠けることとなります。広告料の減額を行ったスポンサーも多数あったのではないかと、推察されます。ただ、例年以上に積極的な補強を敢行しており、蓋を開けて見なければわかりません。降格にも関わらず、スポンサー収入が横ばいだとしたら、良好な関係が構築されている証とも言えます。今のうちから仮説を立てるのも楽しいです。
気になるコロナの影響
新型コロナウイルス感染拡大によって公式戦の中断長期化が懸念されます。
中断が経営に与える影響については、収益構造からある程度推察することが可能です。
延期・中止で最も懸念されるのが「入場料」の減少ですが、上記グラフでも読み取れるように、収益全体に占める割合は10%程度です。親会社や大きなスポンサーを持たず、「入場料収入」が収益源というクラブに比べれば影響は限定的だと思われます。
しかしながら、試合が開催されないということは、スポンサー(広告)料というテイクに対して、ギブを果たしていないということです。レイソルが懸念すべき点は、収益源である「スポンサー収入」というです。
感染拡大阻止による移動制限・外出自粛要請から、様々な需要が蒸発しています。急速な消費・経済の停滞よる企業業績の悪化は避けられません。景気の後退局面、業績の悪化局面では、企業心理は当然ながら、広告宣伝よりも雇用の維持など保守的なものとなります。「スポンサー収入」は減少が予想されます。
客観的根拠はないものの、「スポンサー収入」の大半が日立製作所からのものだと推測されます。
日立といえば、「選択と集中」による徹底的な経営の効率化によって成長を遂げてきました。近年の成長を支えた「選択と集中」はBリーグ所属のサンロッカーズにも及び、売却を模索しているとの報道がなされています。
日立が傘下バスケットチーム売却模索 事業の「選択と集中」の犠牲に | 【公式】三万人のための総合情報誌『選択』- 選択出版
レイソルも例外ではありません。売上に占める白物家電の割合を踏まえると、一般大衆に対しての広告が日立にとってどれだけ効果があるのか疑問に思います。仮に日立が撤退ということになれば、クラブの存続すら危ぶまれる状況です。1つの事業や販売先に依存するリスクとはこのことを指しています。
少し悲観的になりました。日立の決算を注視していくことも、ある意味ではレイソルを知ることに繋がるかもしれません。
参考:短信が手軽です。(桁が大きすぎて意味不明です。私は読むことを諦めました。)
決算短信:株主・投資家向け情報:日立
締めの言葉というほどのものではないけれど
損益計算書の「収益」というたった1部分だけでここまで掘り下げることができます。「費用」も「貸借対照表」にも触れていません。そして、それら全ては密接に関わりあっています。「収益」だけで全てを理解することはできません。
次回は損益計算書の下半分である「費用(何にお金を使ったか)」と「利益(いくら残ったか)」について書いてみます(多分)。