底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(貸借対照表編)

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・収益編) - 羊をめぐる冒険

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編) - 羊をめぐる冒険

 

・クラブの規模拡大とは何を指しているのか?
・なぜ貸借対照表が大きくならないのか?
・やっぱり難しいスタジアム拡張
・なぜ流動負債に対して流動資産が少ないのか

 

・クラブの規模拡大とはどういう意味か?

 そもそも「クラブの規模を拡大する」とは、どういう意味でしょうか。頻繁に使われる表現ですが、とても抽象的です。
 売上を増やすこと、タイトル常連クラブになること・・・考え方はいくつもあると思います。
 そんな中でも私は、貸借対照表を大きくすることだと考えています。
 それは、貸借対照表とは企業の「資産」と「負債」の状況を表しているからです。
 どのように資金を調達し、どのように財産を使って稼ぐのか?それは企業活動そのものだと思います。

 

1、「貸借対照表」とは何か?

 貸借対照表とは、バランスシート(B/S)と呼ばれています。細い説明はリンクからお願いします。

https://kessan-online.jp/column/finance/%25e8%25b2%25b8%25e5%2580%259f%25e5%25af%25be%25e7%2585%25a7%25e8%25a1%25a8%25e3%2581%25ae%25e8%25a6%258b%25e6%2596%25b9%25e3%2581%258c%25ef%25bc%2593%25e5%2588%2586%25e3%2581%25a7%25e3%2582%258f%25e3%2581%258b%25e3%2582%258b%25ef%25bc%2581

 「負債(右側)」は資金調達(どのようにお金を集めて)、「資産(左側)」は所有財産(どのような財産を持っているか)を示しています。企業はその「資産」を元に利益を獲得(収益の拡大or費用の削減)、要は損益計算書上の「純利益」を大きくします。そしてその「純利益」は決算日(3月31日)決算処理として貸借対照表上の「純資産」に計上(振替)されます。この一連の循環こそが財務諸表です。
 

2、貸借対照表が大きくならないのはなぜか?

 今回も過去の3期と比較しながら、なぜ貸借対照表が大きくならないのか考えていきます。

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 例のごとく・・・変化がありません。当然です。
 変化がないということは、クラブが拡大されていないということです。当然、小さくもなっていませんが。現状維持といっていいでしょう。
 一サポーターとして感じる停滞感は、ここにあると考えています。
 貸借対照表が大きくならない理由を2つ挙げていきます。

 

理由①【利益を出していないから】

 理由の1つ目が、利益を出していないからです。柏レイソル損益計算書上、僅かな「利益」しか計上していません。これが継続的な事象であることは「利益編」でも触れました。
 「利益」を計上していないという点が、貸借対照表が拡大されない要因です。どういうことでしょうか。
 利益=収益ー費用です。「利益」とは、簡単に言えば最終的に手元に残った儲けを指します。その単年の利益(または損失)は決算日に、貸借対照表上の純資産の部「利益剰余金」に振り替えられます。純資産は、自己資本ともいいます。最終的に手元に残った儲けということは、ある意味では「資金調達」と同義となることから、貸借対照表右側(調達サイド)に計上します。
 そして、「利益剰余金」とは、クラブ(企業)創設以来の1年ごとの利益(または損失)の積み重ねを意味しています。どういうことか。柏レイソルは創設以来20数年間、事業を継続してきました。その20年間の利益の合計が▲1百万円(2019年3月期時点)ということです。要は、負け越しているということです。
 「純利益」とは返済不要の資金調達なのです。返済不要の資金調達・・・最強です。何に使おうが誰にも文句を言われません。
 継続的に利益を計上し、「利益剰余金」を積み重ねることで自己資本の増強を図ることが可能です。換言すれば、自己資本の増強とは、自由に使えるお金が増えることを意味しています。利益を出す重要性はここにあります。

理由②【資産が増えていないから】

 2つ目は、資産が増えていないからです。当たり前だろうという話ですが。
 流動資産がわずかながら増加しているものの、増収幅を考えれば意図的に増加させたものではないと考えられます。
 予算のほぼ全てを人件費や販管費に使っていることを裏付ける根拠もここにあります
 
 流動資産(現預金など)が少ない+固定資産の額が変化していない=資産に資金を使っていない
 と考えるのが妥当です。
 企業は「資産」を元手に(使って)収益を獲得、または費用の削減を行います。要は「利益」の最大化を図ります。
 具体的には、日立台に屋根を付けた場合(設備投資した場合)、屋根の取り付けに掛かった金額を固定資産に計上することから、その分だけ資産が増加します。貸借対照表を拡大するとはこのことです。屋根が付くことで観戦における快適性や利便性が向上し、入場料収入の増加につながります。資産への投資(設備投資)は、収益の獲得に繋がることになります。
 ただ、設備投資による固定資産の増加は、減価償却費や修繕費が発生するので、単純に全額が利益となるわけではありあせん。

スタジアムの拡張は難しい

 では何に投資するか?と言われれば、やはり真っ先に浮かぶのがスタジアムの拡張です。
 しかしながら、前回のイエローハウスで議題にも上がったように実現のハードルは想像以上に高く特に、行政・近隣住民への理解(電波・騒音・交通)は困難と思われます。財務基盤以前の問題です。

『2020柏レイソルイエローハウス』要旨|お知らせ情報

 では、現状の日立台を満員にすべく経営リソースを割くか?と言われば、答えはノーです。
 日立台で満員になるゲームは年に数えられる程度です。しかしながら、収容率は70%程度を維持しており、それなりに稼働していると言えます。それは即ち、今のサイズが適しているということです。
 「収益編」でも触れたように、残りの30%を埋めることで得られる「利益」は微々たるものです。むしろ、現場のスタッフへの負荷を考慮すれば、やらない方が良いという経営判断になっても仕方がないように思います。

だからこそできる投資を

 設備投資といっても、スタジアム拡張や屋根の取り付けだけではありません。システムに投資することで利便性の向上を図ることも可能です。
 例えば、インターネット上で待機列の抽選を完結するシステムを構築するなどです(アウトソーシングでもいいですが)。
 待機列・・・。普段から並んでいる僕らのような比較的コア層には当たり前として受け入れている行為・文化です。しかし、新規層に魅力を訴求するにはハードルが余りにも高すぎます。現代人は、そこまでの可処分時間を持ち合わせていません。優良なコンテンツが溢れるこの時代、エンタメとは可処分時間の奪い合いです。
 自由席を最安値とする席割りを継続するのであれば、新規層を取り込む障壁でしかない文化だと個人的には考えています。新規層を取り込めない文化、エンタメが衰退の一途を辿ることは歴史が証明しています。
 費用面についても、ナイトゲームにも関わらず午前中から警備員やアルバイトを配置している光景には疑問を感じます。
 また、今後は感染症予防対策が重要な経営課題となることが予想されます。待機列での密集などもどのような捉え方をしていくのか、興味深い点ではあります。「新しい生活様式」ではありませんが、時代に合わせて変化に順応していくことができなければ生き残ることはできません。開門前の酒盛りタイムは大好きなのですが・・・。

 

番外編【流動負債に対して流動資産が少ない理由】

 柏レイソル貸借対照表で最も印象的な点は、流動負債に対して流動資産が少ない点だと思います。
 流動資産とは、1年以内に現金化できる資産を指します。現金や預金を中心に、売掛金や有価証券などが含まれます。
 流動資産が1年以内に現金化できる資産であることに対し、流動負債は1年以内に支払い期日が到来する負債となります。流動資産465百万円に対し、流動資産1,508百万円・・・あれ?返済できなくない?と思いますよね。
ただ、これは「利益」が少ないことと同様に毎期発生している現象です。それにも関わらず、資金繰りや事業の継続について懸念があるような話を聞いたことがありません。あくまで推察ですが、ここから柏レイソルの資金の流れが読み取れるように思います。

 貸借対照表とは、決算日である3月31日の資産と負債の状況であると説明しました。たった1日を切り取ったものということは、もしかしたら翌日4月1日には1年分のスポンサー料である20億円近い現金が振り込まれている可能性だってあるはずです。

 なので、流動資産が少ない理由としては、

①期首に一括してスポンサー料を受け取っている→1年間で使い切っているから期末に現預金(流動資産)が少ない
②スポンサー料は月割りだけど、月初に受け取るけど、月末に支払い(給料とか)が集中している

 こればかりは貸借対照表から読み取るのは難しいのであくまで推察です。しかしながら、当期に限った事象ではないことから、おそらくはこ2点のどちらかが要因だと思われます。

 また、流動負債が多い流動資産と比べて)理由は、

年間シートやファンクラブの会員費を前受収益として負債に計上

 していることが挙げられます。
 年間シートの代金は、シーズン前に一括して受取(サポーターから見れば支払い)ますが、試合が開催されるまでは、サービスの提供義務(サポーターから見れば、試合を観る権利)が残ります。この「提供義務」を会計上、「負債」として認識します。なぜなら、仮に試合が中止(例えば、コロナの影響で無観客開催など)となった場合に、払い戻しとなる可能性があるからです。実際にサービスの提供(試合の開催)を行うまでは負債と認識しておくということです。
 3月31日時点では、シーズン開幕から間もないことから、試合を消化しておらず、前受収益が減っていないことが要因の一つだと考えられます。
  ただ、年パスとファンクラブの会員費で15億は多すぎると思うので、他に考えられるのは移籍金の未払いを期首に貰うスポンサー収入で賄っている・・・とかそのくらいしか私には思い浮かびませんでした。
 月次で数字の推移を追うことが出来ればもう少しわかることも増えてくると思いますが、そこまでの開示義務はありませんし、スタッフの負担が尋常ではなくなってしまいます。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 3回に分けて柏レイソルの財務諸表を読んできました。数字から見る柏レイソルは、いかがだったでしょうか。
 あれこれ文句を言われることが多い経営ですが、確かに自分がこのクラブの社長だったとしても、これまでの社長とそう変わらない経営判断をするのではないか、と思います。出来る範囲で最も資金効率が良い経営をされている印象を受けました。
 ましてや、親会社からの出向という形を取っている社長も多かったことから、保守的にならざるを得ない心情も理解できます。
 コロナの影響によって、エンタメの在り方などが大きく変わっていくことが予想されます。このクラブが変化にどう対応、適応していくのか楽しみです。