vs東京(2節・2020/7/4) 世界はそれを”塩試合”と呼んだ

 タイトルに深い意味はありません。
 堅い内容の試合となったことから、退屈に感じた方も多いのではないでしょうか。停滞感・・・世界はそれを”塩試合”と呼んでいます。
 個人的には、ネガティブな響きなので好きな言葉ではありません。特に、お互いに意図があってそういう展開になったゲームに使いたい言葉ではありません。
 本エントリーでは、リスペクトを込めて「手堅いゲーム」と呼びます。
 それでは理由を探っていきます。

 ※60分以降のことは一切触れません。 

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2節東京戦

 結論からですが、ゲームが膠着した理由は、

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから
理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

 の2つだと私は考えます。繋がっている事象でもあるので、表裏一体と表現してもいいかもしれません。

 

戦前から予想できた膠着(堅守速攻の東京)

 試合の展開としては戦前から予想できるものでした。

 手堅いゲームとなった理由は、東京の戦い方に起因します。
 東京の戦い方を一言で表現するならば、堅守速攻
 読んで字の如く、撤退によるブロックの形成と、奪ってからの素早いカウンターで仕留めることです。エルゴラ選手名鑑には、「今年はボール保持の部分にもこだわる(意訳)」としているものの、ベースにある考え方は堅守速攻です。

 

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから 

1、カウンターの阻止(=背後のスペースを与えない)とカウンターの準備

f:id:hitsujiotoko09:20200705100435p:plain 撤退を選択することで、①柏のカウンターを阻止する(背後のスペースを消す)とともに、②自分たちがカウンターを発動するための準備を整えることができます。
 ここでいう柏のカウンターとは、東京の背後のスペースを使うことです。
 ①柏のカウンター阻止については、ボールを失った直後、東京の選手は撤退のための準備をします。撤退する時間を得るためにFWやSHは牽制のプレッシングを行います。自陣でブロックを形成することで、背後のスペースを消し(裏抜けをさせない)、失点のリスクを限りなく抑えます。柏がDFラインでボールを回す時間が多かったのは、背後のスペースを与えてもらえなかったからです。
 そして、東京は自分たちがカウンターを発動するために、柏に背後のスペースを空けてもらう必要があります。
 自陣にブロックを形成することで柏はボールを保持することとなります。つまり、前掛かりとなり、ほぼ全選手が東京陣地に侵入することとなります。逆に言えばそれは、柏の背後に広大なスペースが存在するということでもあるのです。

2、諸刃の剣である東京のカウンター

 東京はボールを奪った直後、ポジティブ・トランジションでは、ボールの回復(パス回し)よりも前線の選手にボールを届けることを優先します。
 奪った瞬間に柏の背後のスペースを付くことで、一気に畳み掛ける算段です。ディエゴ、レアンドロアダイウトンという圧倒的な質的優位によるカウンターは驚異そのものです。
 ボールを保持することで主導権を握るのではなく、柏のゴールへ迫ることで主導権を握ります。ヒシャルジソンはカウンターの阻止によって退場に追い込まれましたが、まさに象徴ともいえる現象です。
 しかしながら、前に急ぐことは、それだけボールを失うリスクも内包していることにもなります。自陣でのパス交換をでボールを保持した方が、失うリスクを減らすことができるからです。前線の質的優位を活かす、つまり1対1は、不確実なシチュエーションの連続という意味でもあります。ボールを失う可能性が相対的に高いという意味で、諸刃の剣と表現しました。
 理由②である柏のポゼッションで時間が推移したのは、東京がボールを失う回数が多かったからでもあります。

理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

  ゲームが膠着した理由2つ目は、柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したからです。
 理由①で述べたように、強固なブロックを形成する東京に対して、ボールを保持する柏という構図となります。

1、ブロックを崩すためのパス回しとサヴィオの起用

 ブロックを形成する東京は、そこまで強いプレッシングは行いません。言い換えると、柏のビルドアップ隊は、時間とボールを得ることになります。大谷がサイドバックの位置に降りることや、江坂が中盤へボールを受けにいくなど、相手の守備の基準を狂わせることで打開を図ります。
 リモートマッチのお陰でベンチからの指示がよく通ります。「ポゼッション!」や「ボールを大事に」といった声がよく聞こえたことから、無理な前進よりも後方でボールを保持しながら、主導権を握る狙いがあったものと思われます。

2、サヴィオの起用

 ヴィオの起用についても、ボールを保持する時間が増えることは、スカウティングの段階から予想できたことから、至った判断だと思われます。裏へのランニングが持ち味のクリスティアーノよりも、間で受けることを得意とするサヴィオの方がこのゲームの性質に適していると考えます。クリスの大好物である裏のスペースは、東京の撤退によって消されてしまっているからです。
 クリスの欠場理由は不明ですが、過密日程への対応も兼ねた、戦術的な理由なのではないか、というのが私の考えです。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ゲームが膠着した理由について書いてきました。つまりは、両チームが意図的を持って行動した結果、生まれた均衡ということになります。

東京の撤退→柏の時間を使ったボール保持(ブロックの外でのパス回し)→東京ボール奪取からカウンター→柏がボールを回収、再びボール保持

 お互いが主導権を握ろうと目論む中で、このようなサイクルになりました。サイクルの循環による既視感と、ブロックの外でボールを回す柏の時間が長かったことが、停滞感の正体と思われます。
 ヒシャルジソンの退場直後のセットプレーで失点を喫し、一人少ない状況で追い掛けるという再開初戦にしてはタフな内容となりました。退場をヒシャルジソンのせいにするのは簡単ではあるものの、退場に至るまでの経緯は(特に1枚目や、あわや退場の場面)、まさに東京の狙い通りだったことは認めなくてはなりません。
 しかしながら、ブロックを敷いた東京を相手にしても、ゴールへ迫ることができた点はポジティブに捉えることができそうです。ポジショナルな配置や、後方の数的優位を前線に届けることなど、昨シーズンに積み上げたものが、J1でも通用するとを証明したゲームでもありました。

ネルシーニョ監督「結果は残念だが準備してきたパフォーマンスは表れていた」/J1 第2節 柏 vs FC東京【試合終了後コメント】

 監督も最後の崩しの部分は課題として認めながらも、全体的なパフォーマンスには満足しているようです。対外試合を行っていなかったことや、公式戦の中でコンディションの向上を図る方針であることなどを踏まえると、そこまで悲観する内容ではないと思います。