vs名古屋(8節・2020/8/1)カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

コンパクトな守備から、前線の選手のスピードを生かした速いカウンターを長所としている

 ネルシーニョ監督は、名古屋についてこのように分析しました。一言で表現するならな、堅守速攻です。自陣に442のブロックを形成し、奪った瞬間にアタッカーの質的優位を活かしたカウンターで仕留めることを得意としています。
 ニュートラルにする(相手の長所を消す)ことで、主導権を握るネルシーニョ監督がどのようなプランで試合に臨んだのかを解釈していきます。

カウンターが強みなら、ボールを持たせれば良い

 ネルシーニョ監督は、カウンターを強みとする相手にはカウンターを発動させなければ良いというアプローチで攻略を図ります。つまり、名古屋にボールを持たせることで、カウンターという局面を発動しない仕組みで対抗します。

2トップでCBから2CHへのパスコースを遮断する

f:id:hitsujiotoko09:20200802112842p:plain

 (抽象的な考え方としての図解です。)
 名古屋の保持において、柏の2トップが名古屋CHへのパスコースを牽制することで、中央からの前進を阻止するとともに、名古屋のCBにボールと時間を与えます。これが、ボールを持たせている状況です。柏の守備のスタート(=名古屋の攻撃のスタート)はこの形を基本とするものでした。
 名古屋はカウンターによる攻撃を得意としていることから、ボール保持によるビルドアップに苦慮する様子が窺えました。ジョアン・シミッチ選手の列移動(最終ラインに落ちること)よって、柏プレッシング隊の基準点を逸らし、右サイド(柏の左サイド)から前進を図る場面は見られたものの、チームとして仕込まれたものかは懐疑的でした。シミッチ選手個人の工夫によるものだというのが私の見解です。非常にインテリジェンスの高い選手だと思いました。
 ビルドアップに苦慮する名古屋は、次第にロングボールが増加します。両サイドのSHに高いポジションを取らせ、柏SBの背後を狙うボールで攻略を図るものの、撤退によって背後のスペースを消している柏を崩すには至りませんでした。

柏のボール保持における被カウンター対策

 名古屋のロングボールによる前進が失敗に終わると、柏のボール保持という局面が始まります。柏のボール保持(攻撃)の局面は、名古屋の強みである撤退→カウンターを発動するには都合の良い局面です。なぜなら、柏がボールを保持することで、名古屋はブロックを形成し、カウンターの機会を窺うことが可能だからです。
 ゲームの大きな流れの中で、

名古屋の保持(柏撤退でボールを名古屋に持たせる)→名古屋ビルドアップに苦慮、ロングボール→柏の攻撃(ボール保持)開始→名古屋撤退からカウンター発動の機会

 というサイクルは、戦前より予想できたものと思われます。柏は、名古屋にカウンターを発動させないことで主導権を握ろうとする以上、ボール保持における振る舞いは非常に気を使わなければならない局面です。
 そこでネルシーニョ監督が仕込んだ保持における被カウンター対策は、大谷を最終ラインに加えるビルドアップです。

f:id:hitsujiotoko09:20200802121500p:plain

 名古屋は撤退によるブロックの形成を選択することから、柏ビルドアップ隊は時間とボールを手にします。そこで、中盤に位置する大谷をCB間に下ろすこと(サリーなんとかっていう名称があるらしい)で前進を図ります。
 しかしながら、この大谷をCB間に下ろすことは、ビルドアップの効率化を図るとともに、被カウンターという局面において最後方に3枚を用意しておくという保険でもありました。中央のルートとは、ゴールへの最短距離です。最短距離を閉鎖することで、サイドへの迂回(時間を掛けさせることで、撤退する時間を確保する)や、カウンターという選択肢を放棄し、ボール保持を選択してもらうことを狙いとしています。

ボールを持たせるための立ち位置

 大谷の列移動はあくまで保険です。構造として、カウンターを発動させないために、ボールを持ってもらう必要があることは前述の通りです。そのために、名古屋がカウンターを諦める配置を整備しておく必要があります。カウンター対策とは、ネガティブ・トランジション([攻撃→守備])です。攻撃局面の時から、カウンターに備える必要がありました。
 この問題への回答は、ハーフスペースに選手を配置することでした。攻撃と守備は表裏一体、シームレスな関係です。ハーフスペースとは、大外でも中央でもない縦のラインを指します。ハーフスペースの重要性は、お近くのペップ・グアルディオラ先生に聞いていただくとして、柏はここから効果的な前進を目指します。
 ヒシャや江坂、両SHなど流動的なポジションチェンジを行っていたものの、ハーフスペースに立つというポイントは抑えているように思われました。
 そして、このハーフスペースにポジショニングすることで、例えボールをロストしたとしても、中央のカウンタールートは閉鎖されていることとなります。つまり名古屋は、サイドからのカウンターを余儀なくされるか、カウンターを諦めてボールの保持を選択することとなります。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 これだけの対応策を講じたものの、被カウンターによって決定機を与える場面は複数回存在しました。やはり、撤退した名古屋の守備ブロックは固く、ボール奪取直後のカウンターは非常に強力なものでした。
 大谷を下ろしたビルドアップや、ハーフスペースにポジションを取るなど、前進の手段は用意したものの、なかなか打開することができず、停滞する時間も存在しました。


 名古屋は、新型コロナ感染者の発生によって、非常にナーバスな一週間を過ごしたことから、柏対策を行う時間を確保できなかったものと思われます。
 柏についても徹底した予防策を講じているものの、いつ感染者が発生してもおかしくない状況に変わりはありません。非日常の中でメンタルやコンディションを維持することの難しさを痛感せずにはいられないゲームでした。

vs仙台(7節・2020/7/26) ボールの保持という選択肢

いかに前節で簡単にボールをロストしていたかを映像を用いて説明をし、選手たちの対話に基づいて戦術の理解を深めようとこのゲームに向けて準備してきた。(中略)前節うまくいかなかったポジティブトランジションという局面でのチームとしての戦術は非常に良くやってくれたと思う。

 ネルシーニョ監督コメントです。「前節うまくいかなったポジティブトランジション」とは、ボールを奪った瞬間の判断を指しています。つまり、カウンターへ移行するのかボールポゼッションの回復かの判断です。
 
 相手の背後のスペースを突くカウンターは、相手が守備を形成する前にゴールへと迫ることが可能です。守備陣形を整える前に攻撃を仕掛けることが可能なことから、比較的容易にゴールへ迫ることができます。
 しかしながら、縦へ急ぐカウンターは、ボールをロストするリスクを内包しています。相手陣地へ少ない人数で侵入することや、自チームの押し上げが追いつかず、全体が間延びしてしまう傾向があるからです。間延びしてしまうことで、失った瞬間にプレッシングが掛からない、セカンドボールが拾えないなどといった現象が起こります。絶え間のない上下運動、つまりは運動量が要求されます。
 自分たちがボールを失うということは、相手にボールが渡るということです。それは、相手の攻撃が始まることであり、自分たちの守備という局面が始まることを意味します。
 究極的に言えば、ボールを保持している限り守備をしなくていいわけです。自分たちがボールを保持している限り、失点することは有り得えないからです。
 しかしながら、ボールを保持し、パスを繋ぐポゼッションで攻撃をするということは、相手に守備の陣形を整える時間を与えることでもあります。整った陣形の相手を崩すことは、それなりの労力と技術を要します。

・航輔というボールの逃げ道

 仙台戦では、航輔がボールに触れる場面を多く見ることが出来ました。最後方にボールを預ける場所、ボールの逃げ道を作ることで、ボールを奪取した直後(ポジティブ・トランジション)の局面において、カウンター以外の選択肢を用意することができました。カウンター以外の選択肢とは、ボールポゼッションです。自分たちがボールを保持することで、不用意なボールロストを防ぎ、ゲームの主導権を握ります。
 また、このゲームで柏は守備時4411での撤退を選択していることから、必然的にボールを奪取する位置が自陣低い位置となります。自陣低い位置でボールを奪った際に、航輔というボールの逃げ道を作ることがポゼッションの回復・安定に寄与したものと思われます。(高い位置で奪うなら、そのままショートカウンターを仕掛ければ良い。)
 

ポゼッション回復後のビルドアップ

 ポゼッションという選択肢が生まれたことについて書いてきました。続いては、ポゼッション回復後のビルドアップについて考えていきます。選択肢を用意したところで、効果的な前進ができなければ意味がありません。
 ビルドアップは、航輔+2CB(大南、高橋)から始まります。この際のポイントは、3枚でのビルドアップによって、2CBが開いたポジションを取ることが可能なことです。

f:id:hitsujiotoko09:20200801084048p:plain

 CBが開くことや、ビルドアップに3枚を用意することで仙台のプレッシング隊に判断強いる格好です。ビルドアップでCBが開くことで仙台のFWはプレッシングの距離が伸び、牽制が遅れることとなります。また、SHがアプローチに出るべきか?という判断を強いることで、プレッシングの強度を低下させることに成功します。強度の低下によって、柏のビルドアップ隊に時間とボールを確保します。
 柏のCBは、仙台のSHがプレッシングに来ればフリーになったSBをビルドアップの出口にします。三丸がオープンな状態でボールを受けることで前進に成功する場面が多く見られました。SS席で観戦しておりましたが、試合中のネルシーニョ監督は、三丸のポジショニングやボール受けてからの振る舞いに対して細かく指示を与えています。
 太陽サイドからの前進も同様で、後方3枚で時間とボールを握りながら、SBをビルドアップの出口にしたいという思惑、意図を感じました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ボールの保持について書いてきましたが、それでも5得点のうちの大半はカウンターが起点となっています。
 効果的なカウンターが成功したのは、ポゼッションという選択肢があったからだと考えます。2つの選択肢を用意することで、相手に守備の基準を絞らせないことができたからです。
 「ネルシーニョ監督のやりたいこと」というコメントが選手たちから時々出てきます。これまでの監督・選手の発言など勘案すると、要は保持とカウンターのどちらの局面でも「質を求める」という意味だと解釈しています。どっちもできないと勝てない、上位進出は難しいというのは現代サッカーの常識です。
 昨年の序盤、結果が出なかった時期にタニは「監督が『繋げ』と言っても、何がなんでも繋がなくてはいけないわけではない。」とコメントを残しました。つまり、状況に応じて最適な判断、選択をしなさいという意味です。保持もカウンターもあくまで試合を優位に進め、勝つ確率を上げるための手段でしかありません。
 リーグの終盤に向かって徐々にチームとしてのクオリティが向上するのは、判断や選択の基準となる原則の部分が浸透するからだと思われます。特に今季は新加入の選手も多かったことや、コロナの影響で中断が長かったことから例年よりも時間を要するものと考えています。

vs浦和(6節・2020/7/22) 勇気を出してボールを繋ごう。

 ミッドウィークで時間もないことから、簡単かつ手短に振り返る。先制点について、少し強引に理由を付けてみるエントリー。

前半もしっかりと守備が機能していた。相手が前がかりに攻撃を仕掛けてくる時間帯もあった。前半は守備が機能していたが、ボールを引っかけてから効率よく攻撃に出ていくということがなかなか出来ていなかった。(ハーフタイムに)しっかりとボールを握ろう、相手のスペースに攻撃に出ていくことに急ぎすぎているので、しっかりとボールを握りながら空いているスペースを見つけて攻撃の形を作っていこうと指示した。 

前半良くなかったところは、前でなかなかタメが作れなかったところ。良い守備から入れたが、そこでボールを引っかけてから攻撃に出ていくタイミングでボールロストするシーンが目立った。慌て急いで前にボールを蹴り込んで空中戦に持っていっても我々のゲームのペースを握ることはできないので、簡単にボールロストするのをやめようと話をした。

 ネルシーニョ監督のコメントを読むと、この試合は「ボールを持つことで主導権を握る」プランだったと理解することが可能だ。しかしながら、序盤は柏がボールを保持できない(浦和がボールを保持する)展開でゲームが推移していく。
 理由は、浦和が高強度のプレッシングを行うことで、柏からボールと時間を奪おうと振る舞ったからだ。
 浦和のプレッシングをまともに受けることとなった柏のビルドップ隊は、ボールを繋ぐことができず、ロングボールでの回避を図る。つまり、意図しないロングボールによる回避だ。(降雨の影響でピッチコンディションが読めず、安全を最優先とした判断だった可能性もあるが) 

 苦し紛れのロングボールが前進に寄与する場面は少なく、セカンドボールの回収には及ばない。全体の押し上げ、つまりは陣地の回復が図られず、撤退を強いられる展開となった。
 ボールを保持できないということは、攻撃の時間が減少することであり、守備の時間が増加することを意味する。自分たちのペースで試合を進めるためには、ボールを握ることが求められる展開となった。
 ネルシーニョ監督は、前半の守備についても一定の評価を与えたものの、ライン間や背後を攻略される機会は一度ではなかった。前半だけで被シュートは6本だったことや、航輔の好セーブが目立ったこということは、それだけ決定機を与えていたと考えていいだろう。

 しかしながら、給水タイム以降、徐々に変化が起こる。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレッシングを回避しようとボールポゼッションを開始する。具体的には、横幅に広くポジションを取ることで、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで時間を確保する。つまり、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで、プレッシングの連動性低下を図る。集音マイクがタニの「動かせ」という指示を拾っていることもその裏付けと言える。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレスの連動性低下によって、パスコースを認識する時間を確保することに成功する。浦和の守備陣を動かすことで、中央へのパスコースを作り、ヒシャやタニ、中盤へ降りてきた江坂がボールを受ける。チーム全体でボールを握る時間が増加していく。
 浦和は何がなんでもプレッシング!というチームではなく、プレッシングが回避された際は、中盤に442のブロックを形成する。プレスと撤退を使い分けることができる。つまり、最初のプレッシングを回避することができれば、一旦は柏がボールを保持する局面を生み出すことが可能だということだ。

勇気が掴んだ先制点

 ボールを保持することの有効性は理解しているものの、自陣低い位置でのポゼッションには恐怖が伴う。1つのミスが失点に直結するからだ。
 それでも恐れずに勇気を出してボールを繋いだことが先制点に繋がった。浦和のパスミスも要因のひとつではあるものの、なぜあの位置でボールを奪えたのか、ミスを誘発できたのか、という点を大きな流れとして捉える必要がある。
 30:06〜のビルドアップが先制点に繋がっている。自陣低い位置からのボール保持ではあったものの、恐れずに足元でボールを繋ぎ中盤を経由したことで、全体の押し上げ(陣地の回復)を図ることができた。
 全体での前進に成功したことから、浦和のビルドアップ(ゴールキック)に対して高い位置でプレッシングを開始することができたものと考える。浦和のゴールキックという状況は、柏は敵陣まで前進が成功している状況でもあるからだ。浦和が繋ごうとしてくれたことで、高い位置でのプレッシングに移行できたという幸運は確かにあるのだけど。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 先制点に理由を付けてみた。これを解釈と呼ぶのかもしれない。正解なんてないから、間違いもないと言い訳をしておく。
 しかし、サッカーにおける唯一ある正解は、現場の声である監督や選手のコメントだと私は考えている。何かひとつ正解や基準が存在しなければ前には進めない(書くことが難しい)。だからこのブログでは引用を多用している。コメントを重要視する。メディアの前で、本当を全て語ってくれるとは思わない。しかし、僕にできることはせめて言葉の端々から本当を読み取り、肯定することくらいだと考えている。

 

vs湘南(5節・2020/7/18) 532の攻略とロングボール

 長えよ!と思った方は※太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 今節の勝因は、攻撃が良かったことだと考えます。
 それを踏まえて、

  1. 湘南の532脇から前進
  2. ハイプレスにロングボールという定石
  3. 良い[攻撃]は、良い[守備]から

をピックアップしていきます。

1、湘南の532脇から前進

 システムの噛み合わせの問題です。湘南は守備時532で陣形をセットします。図を見ると一目瞭然、柏のSBが空く(前を向き、時間的余裕がある)状態でビルドアップを開始することができます。当然、湘南もそれは織り込んでいるので、対策は講じています。つまり、柏の攻撃は、SBの振る舞いに大きく左右される展開となりました。結果的に、左利きでボールを扱う技術に長けてた三丸選手からの効果的な前進が勝利へ寄与しました。

図解します①(オープンになるSBと湘南のスライド)

f:id:hitsujiotoko09:20200719105049p:plain

 SBが空くとは図のような状況を示します。
 しかしながら、「空く」とは言うものの、この状況は構造的な問題であり、湘南も予め織り込んでいます。前々節(マリノス戦)の湘南は中盤3枚のスライドによるSBへのアプローチを行っていました。素早く片方のサイドに寄り(圧縮なんて表現も)、柏のSBにボールを持たせる(出すところがない状況)ことで圧力を与えます。

図解します②(スライドに対する柏の対策)

 中盤3枚のスライドによる圧縮は、事前のスカウティングにおいて把握できることから、柏も対応策を講じます。

f:id:hitsujiotoko09:20200719105943p:plain

対応策①スライドさせない

 「じゃあスライドさせなきゃいいじゃん!」という発想で打開を図ります。SHの仲間選手は、サイドに開くのではなく内側にポジションを取ることで湘南のIHをピン留めします。
 質的優位(個人での打開力)を有する三丸選手を放置することができない湘南は、WBを押し上げることでアプローチを行います。

 

対応策②WBの裏を狙え

 対応策①でWBを引っ張り出すことに成功した柏が次に狙うのは、背後のスペース(主にWBの裏)です。
 
仲間選手が内側に絞っていることから、裏への抜け出しは江坂選手(とミカ)のタスクとなっています。三丸選手からの縦パスによる裏へのロングボールが効果的に機能しました。
 WBの裏であるサイドの深い位置を攻略します。ミカが中央に控えていることからシンプルなクロスによる攻撃や、江坂選手が時間を確保することで全体の押し上げを待つ場面など多様な攻撃でPAに迫ることができました。

 

三丸選手の質的優位性を活かした532の攻略

 「放置するわけにはいかない」とWBを引っ張り出すことができたのも、背後のスペースへボールが出たことも、三丸選手の質的な優位性を活かしたものとなりました。
 待望の左利きのSBとして、左足で縦へ前進のパスが出せる三丸選手の存在は今後、より存在感を増していくものと思われます。
 結局、左SBが左足でボールを保持できないと、パスを受けたところでCBに戻すか、苦し紛れのロングボール程度しか選択肢がなくなってしまいます。
 昨年の序盤や今季に入って効果的なビルドアップができなかった要因の1つであり、課題でもました。

2、ハイプレスにロングボールという定石

 湘南はハイプレスの得意なチームです。その目的は、ボールを相手に与えないことよりも、奪ってからのショートカウンターにあるものと考えます。 
 上述したSBが空いてしまう構造を踏まえ、プレッシング・スタートの合図は、柏のSB→CBにパスが出た瞬間です。中川(寛)選手のクレバーなプレッシングと驚異的な運動量によるチェイシングは、ボール保持をアイデンティティとするマリノスさえ苦しめるものとなっていました。

ハイプレスへの対応策としてロングボール

 マリノスさえも苦しめたハイプレスに対して、柏が講じた対応策はロングボールです。
 ハイプレスを行うということは、背後には広大なスペースが存在していることとなります。細かいことは考えず、シンプルにそのスペースを突くことで攻略を図りました。プレッシングへの打開策として、ポゼッションで回避を図った川崎戦(回避できなかったけど)とは対照的な方法で攻略を図ります。
 苦し紛れのロングボール(ただのクリア)になってしまった川崎戦との相違点は、予め蹴ることを織り込んで試合に臨んだことです。つまり、プランとして組み込んでいたことです。
 ロングボールが前提だったことから、江坂選手を初めとする2列目の選手はセカンドボールの回収を前提としたポジショニングが可能となります。江坂選手が前を向いてプレーする機会・時間が多かったことがその証明です。ミカが競る準備ができたことは言うまでもありません。

 

3、良い[攻撃]は、良い[守備]から

 攻撃について触れてきましたが、[守備]がよかったことも特筆すべき点です。
 442(4411)によるブロック形成は、適切な立ち位置に配置されていることから、攻撃への移行がスムーズ(効果的なカウンター)です。上述したように、ロングボールが前提であり、セカンドボールを回収する必要があったことから、SHがスムーズに攻撃へ移行できることは重要です。
 また、パスの出し手となる茨田選手からのビルドップを阻止するために、江坂選手をマンツーマンで対応させましたこれによって、江坂選手は中央にポジションを取ることが可能となります。つまり、奪った瞬間に茨田選手(アンカー)の脇で起点を作ることができることに加え、ミカとの距離が近いことから、セカンドボールの回収可能性が格段に向上することとなりました。

f:id:hitsujiotoko09:20200719123927p:plain

締めの言葉というほどのものではないけれど

 仲間選手や三丸選手の活躍は言うまでもありませんが、個人的に影の立役者として江坂選手を上げたいと思っています。もう、今は江坂選手に依存する部分が多すぎて、逆に少し不安要素ではあります。「個人のリソースに依存する組織なんてもろい」的なことを漫画『左ききのエレン』で誰かが言っていた気がします。まあ、代えが効かないというのは、それだけ特別であることだと思いますが・・・。

 

vs川崎(4節・2020/7/11) ボールの保持と撤退。

太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 敗因は、川崎にボールを握られてしまったことです。ボールを川崎に渡したことで、主導権を握られたまま時間が推移していきました。
 今回は、なぜボールを握られてしまったのか?について3つ理由を挙げました。

  1. そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

  2. 柏はプレッシングよりも撤退を選択した

  3. 相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

1、そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

 このゲームを解釈する上での前提として、川崎のゲームモデルはボール保持によってゲームの主導権を握ることです(今更ですが)。つまり、ボール保持に自信を持っています。ボールを保持した際の強さ、クオリティについては、身を持って体験したばかりです。

 ボールを保持すること=ボールを奪うこと

 ボールを持った状態で強さを発揮するチームということは、川崎自身がボールを保持する(相手にボールを渡さない)必要があります。

失った瞬間のプレッシング(ゲーゲンプレス)によって相手にボールと時間を与えず、自分たちがボールを保持する時間を増やすことで主導権を握ります。
 前半で、2得点かつボール保持率は60%を上回るなど、結果・内容ともに川崎の思惑通りに推移する展開となりました。スタッヅという定量的な記録ほど真実を雄弁に物語るものはありません。

2、柏はプレッシングよりも撤退を選択

 柏は、ボールを持つことが得意な川崎に対して、撤退からのカウンターという対策を講じました。ミカによるCB→CHへのパスコース遮断や、3CHによる縦パス封じなど、中央を堅めながら、奪ってからは素早いカウンターで川崎の背後を刺すというプランです。しかしながら、撤退は川崎に時間とボールを与えることと同義でした。つまり、撤退する柏への打開策を考える時間を与えることとなり、結果・内容ともに圧倒されることとなりました。

対川崎のプランは、撤退からのカウンター。

 ネルシーニョ監督のコメントを読んでみます。

序盤、相手に対して守備のところ、ポジショニングもそれほど悪くなかったが、クオリティの高い川崎に対して、ボールを引っかけてからの効率的なカウンターに出て行けなかった。ボールを奪った後に、カウンターに出ていく際のオプションがなかった。

 コメントの内容と、後述する守備陣形を踏まえ、撤退からのカウンターというプランでゲームに臨んだと解釈しました。ボールの保持を得意とする川崎に対して、守備の時間は増加してしまうものの、自陣に引き寄せることで空いた背後のスペースをカウンターで狙うということです。

 

451で守りたかったもの

 撤退時に451を採用した目的は2つです。①アンカー経由の中央からの前進を阻止と、②3CHによる縦パス封じです。

f:id:hitsujiotoko09:20200712102024p:plain

①アンカー経由の中央からの前進を阻止

 中央からの前進を阻止するために、ミカに与えられてタスクは、CBからCHへのパスコースを遮断することです。プレッシングによるボールの奪取よりも、パスコースを限定することを優先的なタスクとしました。

3CHによる縦パス封じ

 中央に3枚を並べることで、ハーフスペース(大外でも中央でもないレーン)への縦パスを牽制します。

 ゾーンは言い過ぎかもしれませんが、①も②も根本的な考え方は、中央を使われたくないというものです。特に狭いスペースでもパスを回すことができる力のある川崎というチームなら尚のことです。危険な位置で奪うよりも、そもそも危険な場所に入れなければ良いという、発想自体は主体的なものです。

撤退によって与えたものと川崎の打開策

 ネルシーニョ監督は「序盤は良かった(意訳)」としたように、立ち上がりは嵌ったように見えたものの、結果として、この対応策は機能しませんでした。理由は、撤退=川崎にボールと時間を与えることだったからです。つまり、対応策を考える時間まで与えてしまったということです。


 川崎のCBにプレッシングを行わない=川崎のビルドアップに時間を与えることです。時間を与えるということは、考える時間を与えることとなりました。
 鬼木体制4年目である川崎は、撤退されたときの引き出しの多さに、継続することの強さと大切さを痛感せずにはいられませんでした。


川崎の打開策・・・CHのレーン移動
 多彩な崩しを見せていたので一例ですが、川崎はCHがレーンを移動することで打開を図りました。つまり、ハーフスペースから大外レーンへの移動によって、柏のSHに迷いを与えました。この迷いこそが、守備の基準点を逸らすことです。

f:id:hitsujiotoko09:20200712111046p:plain

 江坂(神谷)が担当する大外レーンに相手の選手が来ることで、「どちらを見るべきか」という迷いが生じます。中央に絞っていた江坂(神谷)が引っ張られる形で外に開いてしまうことで、CB→SHという縦のパスコースが開いてしまう局面が見られました。
 また、CHの瀬川が付いていくと中央パスコース、つまりダミアンへのコースが空いてしまいます。
 このように小さな判断を柏に強いることで、後方で得た時間を前線に届けることに成功した川崎が、撤退した柏を崩していく展開で試合が推移しました。

3、相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

 攻め込まれた柏は対応を迫られます。相手から主導権を奪うために何をするべきか、と。相手はボールのを保持することが得意・・・それなら、自分たちがボールを持てば、相手が得意な状況を消す(ニュートラルにする)ことが出来るのではないか、という発想です。
 つまり、低い位置での奪取後やゴールキックにおいて、蹴らずに繋ぐことです。

 全体が想定以上に押し込まれたことで、カウンターへの移行を試みるも走る距離が長くなりました。ロングボールはミカのコンディション不良もあって競り勝てず、セカンドボールについても2列目のサポートは遠く、ただボールを相手に渡すだけで、再び川崎の保持の局面という悪循環に陥りました。

攻め込まれたことで増えたゴールキックを無駄にしない・・・

 柏は圧倒的に攻め込まれたことで、ゴールキックから攻撃を開始する局面が多くありました。つまり、川崎のゲーゲンプレスを受けずに攻撃を開始する機会を得られたということです。
 しかしながら、足元の技術よりも対人の強さを優先した先発(というか今年の編成)だったことから、繋ぐ意志は見せながらも効果的な保持・前進には至らず、結局ボールを失うこととなりました。

 昨年からの課題でもあるボールを保持できない、ビルドアップできない弱点が露呈した格好です。編成の問題でもある一方、ネルシーニョの好みとして対人に強い選手というリクエストがあったものと思われます。そもそも、足元に技術がありながら、対人も強い選手を獲得するとなると日立台に屋根を付ける方が安上がりになる気はしますが・・・。
 プランとして繋ぐ気があったのか、状況を見て試合途中で変えたのかまでは読み取れませんでしたが、まだ後者であった方がポジティブな印象を持てる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半については、リードによって川崎がテンポを落とし、クロージングに入ったことで柏がボール保持する時間が増加しました。呉屋や仲間の強度の高いプレッシングもボール奪取に寄与したものと思われます。
 前線でのターゲットとしてはミカよりも呉屋の方が適していることや、待望の左利きSBである三丸は個人で打開できる能力を有していることなど収穫はありました。
 次郎はコメントで、

自分たちのコンディションもまだ100%には戻っていないが、試合に入る気持ちや球際のところで川崎が1枚上だった。盛り返せる力がまだまだなかったと思う。練習試合をせずリーグ再開したことは、序盤はキツくなるだろうと覚悟はしていた。

  と話しており、ある程度は織り込んだ状況ではあるようです。次節は待ちに待った、有観客での日立台です。

vs横浜FC(3節・2020/7/8) ネルシーニョ監督のコメントから始める異世界生活

 タイトルに意味は全くありません。リゼロの2期が昨夜から始まりました。私は、猛追という表現が相応しい勢いで1期を消化しております。

 今回はネルシーニョ監督のコメントを出発点として書き進めていきます。
 コメントは公式サイト、または柏フットボールジャーナルからお願いします。(内容は全く同じです)

2020明治安田生命J1リーグ 第3節 2020年7月8日(水) 18:33KICKOFF 三協フロンテア柏スタジアム

ネルシーニョ監督「今日のゲームはチームとして機能しなかった」/J1 第3節 柏 vs 横浜FC【試合終了後コメント】 - 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤


 ネルシーニョ監督はコメントの中で、敗戦について[守備]がよくなかった、との見解を示し、理由について、

  1. ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない
  2. 相手のWBを意識した3バック
  3. 相手のビルドアップにスペースを与えた(コンパクトを保てなかった)

 としました。今日のエントリーは、この3つについてどういう意味なのかを解釈してみました。
 早速、ネルシーニョ監督のコメントを引用します。

特に前半のゲームの入りが非常に悪く、ポジショニングも良くなくて守備がはまらなかった。相手のビルドアップに不必要にスペースを空けてしまう時間帯が続き失点を許してしまった。 

相手の攻撃の起点となる左右のウイングバックを対応するために3バックで臨んだ。サイドを気にしていた分、守備のオーガナイズが揃わず、(ディフェンス)ラインをコンパクトに保てずに攻撃の形を作られてしまう展開になった。  

 この2文に全てが詰まっていると私は考えましたので、図解しました。
(文章など書かずとも、この図解だけで十分な気がする。)

f:id:hitsujiotoko09:20200709114008p:plain

 

理由①ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない

  プレスが嵌らないとは、守備の枚数が相手の攻撃に合致せず、どこかを埋めるとどこか空いてしまう状況を指すものです。
 横浜FCは、3バック+ゴールキーパーの4枚を中心に[攻撃]の組み立て(=ビルドアップ)を行うことで、前進を図りました。
 [攻撃]の起点となる4枚に対して、柏は2枚(呉屋・ミカ)での対応を迫られました。2対4という数的にも不利な上、足元の技術に長け、ボールの保持を強さとする横浜FCのビルドアップ隊に、圧力を掛けることができませんでした。
 2列目以降の選手がサポートに出ることが望ましいのかもしれませんが、理由②「相手のWBを意識した3バック」や理由③「コンパクトに保てない」の影響で封じられています(後述)。

 柏のプレッシングが無策だったわけではありません。なぜなら、横浜FCはボールを扱う技術に長けたチームだからです。下平監督の哲学・指導の下、全選手が恐れずにボールを扱うことで強さを発揮する秩序だったチームです。柏のプレッシングに対して、フリーな味方を見つける状況の認知と、そこにボールを通す技術と判断は、リーグでも屈指の水準です。自陣ゴール前でのパス回しは、一つのミスが失点に直結するという恐怖が伴うことから、大変な勇気が必要です。

 結果的に柏のプレスは、枚数が合致せず噛み合わなかったことから、横浜FCに余裕を持った前進を許すこととなります。前半途中から神谷を投入し、状況の整理を試みるも解決には至らず、90分という時間が経過しました。


理由②相手のWBを意識した3バック

 「相手のWBを意識した3バック」とは両WBに対応するために右は峻希に、左は瀬川に対応させることです。
 横浜FCはボールを保持する局面で、両WBがサイドの高い位置にポジションを取ります。横浜の再開初戦・札幌戦では、この両WBの攻撃参加、主に裏への抜け出しによって、PAへ迫る再現性のある攻撃を展開していました。足の早いWBが裏を狙うことで、守備側は陣地を押し下げられてしまいます。
 また、横浜FCのWBはスピードを備え、個人での打開が可能であることから、柏としても個の質で劣らない選手を配置する必要がありました。

理由③相手のビルドアップにスペースを与えた

 しかしながら、3バックが裏目にでる格好となりました。結果的にこの二人は最終ラインに押し留められてしまうこととなりました。一部コアなサッカーファンが使う言葉で言うところのピン留めです。
 峻希と瀬川が最終ラインにピン留めされたことで、横浜FCのビルドアップ隊は横幅を使いたい放題となりました。横幅を使いたい放題=ビルドアップにスペースを与えたという解釈です。
 横幅を自由に使えるということは、陣形を横に広げることで柏のプレッシング隊に長い距離を走らせることが可能となります。守備に隙間を作ることができるということです。

 峻希(と瀬川)は横幅を埋めたくても、前へ出れば裏のスペースを使われてしまうので、高い位置までプレッシングに出られない状況です。実際に「出てきたら(瀬川の)裏を使え!」という下平監督の指示を集音マイクが拾っています。

 瀬川について、もう一つ言及したいことがあります。低い位置にピン留めされてしまったことで、攻撃への移行の際に長い距離を走る必要があったことです。昨夏〜秋に掛けてSBを経験しているものの、強みは攻撃であることに違いありません。後半のカウンターの場面で、アウトサイドを使ったパスが逸れてしまいました。これは、運動量が多かったことで疲労が蓄積し、プレーの精度が低下してしまったことが要因のひとつだと考えています。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど 

 これだけ書いて前半20分くらいまでの内容です。失点直後、早々と選手交代に踏み切るなど、触れたい事象はたくさんあるものの、次の試合が迫る中ではこの程度が限界です。

  相手を「ニュートラル」にすることは、ネルシーニョ監督の基本的な戦術の考え方です。ニュートラルというのは、相手の良さや強みを消すことです。今回も入念なスカウティングや分析があった上での3バックという判断です。
 過密日程かつ、コンディションが不十分な中で、戦術的に妥協することなく、たたひたすらに勝利を追求していく姿勢は、ネルシーニョ監督の生き方そのものだと感じました。
 そして、そのネルシーニョ監督に真正面から立ち向かい、勝利を収めた下平監督の手腕もまた類稀なものです。名将対決を現地で見られなかったことは残念でなりません。秋のニッパツではSS席を購入する予定です(何の話?)。

 

vs東京(2節・2020/7/4) 世界はそれを”塩試合”と呼んだ

 タイトルに深い意味はありません。
 堅い内容の試合となったことから、退屈に感じた方も多いのではないでしょうか。停滞感・・・世界はそれを”塩試合”と呼んでいます。
 個人的には、ネガティブな響きなので好きな言葉ではありません。特に、お互いに意図があってそういう展開になったゲームに使いたい言葉ではありません。
 本エントリーでは、リスペクトを込めて「手堅いゲーム」と呼びます。
 それでは理由を探っていきます。

 ※60分以降のことは一切触れません。 

f:id:hitsujiotoko09:20200705091858p:plain

2節東京戦

 結論からですが、ゲームが膠着した理由は、

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから
理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

 の2つだと私は考えます。繋がっている事象でもあるので、表裏一体と表現してもいいかもしれません。

 

戦前から予想できた膠着(堅守速攻の東京)

 試合の展開としては戦前から予想できるものでした。

 手堅いゲームとなった理由は、東京の戦い方に起因します。
 東京の戦い方を一言で表現するならば、堅守速攻
 読んで字の如く、撤退によるブロックの形成と、奪ってからの素早いカウンターで仕留めることです。エルゴラ選手名鑑には、「今年はボール保持の部分にもこだわる(意訳)」としているものの、ベースにある考え方は堅守速攻です。

 

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから 

1、カウンターの阻止(=背後のスペースを与えない)とカウンターの準備

f:id:hitsujiotoko09:20200705100435p:plain 撤退を選択することで、①柏のカウンターを阻止する(背後のスペースを消す)とともに、②自分たちがカウンターを発動するための準備を整えることができます。
 ここでいう柏のカウンターとは、東京の背後のスペースを使うことです。
 ①柏のカウンター阻止については、ボールを失った直後、東京の選手は撤退のための準備をします。撤退する時間を得るためにFWやSHは牽制のプレッシングを行います。自陣でブロックを形成することで、背後のスペースを消し(裏抜けをさせない)、失点のリスクを限りなく抑えます。柏がDFラインでボールを回す時間が多かったのは、背後のスペースを与えてもらえなかったからです。
 そして、東京は自分たちがカウンターを発動するために、柏に背後のスペースを空けてもらう必要があります。
 自陣にブロックを形成することで柏はボールを保持することとなります。つまり、前掛かりとなり、ほぼ全選手が東京陣地に侵入することとなります。逆に言えばそれは、柏の背後に広大なスペースが存在するということでもあるのです。

2、諸刃の剣である東京のカウンター

 東京はボールを奪った直後、ポジティブ・トランジションでは、ボールの回復(パス回し)よりも前線の選手にボールを届けることを優先します。
 奪った瞬間に柏の背後のスペースを付くことで、一気に畳み掛ける算段です。ディエゴ、レアンドロアダイウトンという圧倒的な質的優位によるカウンターは驚異そのものです。
 ボールを保持することで主導権を握るのではなく、柏のゴールへ迫ることで主導権を握ります。ヒシャルジソンはカウンターの阻止によって退場に追い込まれましたが、まさに象徴ともいえる現象です。
 しかしながら、前に急ぐことは、それだけボールを失うリスクも内包していることにもなります。自陣でのパス交換をでボールを保持した方が、失うリスクを減らすことができるからです。前線の質的優位を活かす、つまり1対1は、不確実なシチュエーションの連続という意味でもあります。ボールを失う可能性が相対的に高いという意味で、諸刃の剣と表現しました。
 理由②である柏のポゼッションで時間が推移したのは、東京がボールを失う回数が多かったからでもあります。

理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

  ゲームが膠着した理由2つ目は、柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したからです。
 理由①で述べたように、強固なブロックを形成する東京に対して、ボールを保持する柏という構図となります。

1、ブロックを崩すためのパス回しとサヴィオの起用

 ブロックを形成する東京は、そこまで強いプレッシングは行いません。言い換えると、柏のビルドアップ隊は、時間とボールを得ることになります。大谷がサイドバックの位置に降りることや、江坂が中盤へボールを受けにいくなど、相手の守備の基準を狂わせることで打開を図ります。
 リモートマッチのお陰でベンチからの指示がよく通ります。「ポゼッション!」や「ボールを大事に」といった声がよく聞こえたことから、無理な前進よりも後方でボールを保持しながら、主導権を握る狙いがあったものと思われます。

2、サヴィオの起用

 ヴィオの起用についても、ボールを保持する時間が増えることは、スカウティングの段階から予想できたことから、至った判断だと思われます。裏へのランニングが持ち味のクリスティアーノよりも、間で受けることを得意とするサヴィオの方がこのゲームの性質に適していると考えます。クリスの大好物である裏のスペースは、東京の撤退によって消されてしまっているからです。
 クリスの欠場理由は不明ですが、過密日程への対応も兼ねた、戦術的な理由なのではないか、というのが私の考えです。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ゲームが膠着した理由について書いてきました。つまりは、両チームが意図的を持って行動した結果、生まれた均衡ということになります。

東京の撤退→柏の時間を使ったボール保持(ブロックの外でのパス回し)→東京ボール奪取からカウンター→柏がボールを回収、再びボール保持

 お互いが主導権を握ろうと目論む中で、このようなサイクルになりました。サイクルの循環による既視感と、ブロックの外でボールを回す柏の時間が長かったことが、停滞感の正体と思われます。
 ヒシャルジソンの退場直後のセットプレーで失点を喫し、一人少ない状況で追い掛けるという再開初戦にしてはタフな内容となりました。退場をヒシャルジソンのせいにするのは簡単ではあるものの、退場に至るまでの経緯は(特に1枚目や、あわや退場の場面)、まさに東京の狙い通りだったことは認めなくてはなりません。
 しかしながら、ブロックを敷いた東京を相手にしても、ゴールへ迫ることができた点はポジティブに捉えることができそうです。ポジショナルな配置や、後方の数的優位を前線に届けることなど、昨シーズンに積み上げたものが、J1でも通用するとを証明したゲームでもありました。

ネルシーニョ監督「結果は残念だが準備してきたパフォーマンスは表れていた」/J1 第2節 柏 vs FC東京【試合終了後コメント】

 監督も最後の崩しの部分は課題として認めながらも、全体的なパフォーマンスには満足しているようです。対外試合を行っていなかったことや、公式戦の中でコンディションの向上を図る方針であることなどを踏まえると、そこまで悲観する内容ではないと思います。