vsジェフ千葉(ちばぎん杯・2022.02.11)

5-3-2プレッシング

【2:07:狙いを読み解く】

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  • 2トップ(細谷・ドウグラス)でコースを限定し、サイドに誘導、ミドルゾーンよりも前で奪ってカウンターという狙い
    →反対サイドに通されないように蓋をする形でのプレッシング
    →追い込んだあとは、反対サイドへの展開に注意しながら、カウンターの準備(詳細は後述)
  • 相手のCB→CHへのパスによる中央からの前進を防ぐために戸嶋(逆サイドの場合はサヴィオ)椎橋はマンツーマン(人基準)で付いていく
  • ヴィオは絞るだけでいいので、守備タスクが軽減される+カウンターの際に前に出やすくなる
  • CHより後ろは、原則としてマンツーマン(人基準)
    →故に、一つ剥がされると芋づる式に展開される

【9:20:狙い通りの先制点】

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  • 反対サイドでも同様にサイドで窒息させる
  • 2トップは反対サイドへの展開に蓋をする
  • それは同時に、数的同数のポジショニングでもある
    →奪ってから速攻の局面では1vs1の状況なので、質的優位で勝負
    →個人技がモノを言うので、ここで負けると再びボールが相手に渡ってしまう

【4:14:蓋ができないとどうなるか】

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  • 上手くプレッシングが嵌まらなかったり、トランジションの局面で剥がされると、反対サイドに広大なスペースが生じるのが【5-3-2】の泣きどころ
    →これは4分の場面だが、この日も度々散見された。
    ネルシーニョ監督も口酸っぱく言っているようで、25分頃に寄せをサボったサヴィオに対してブチ切れる一幕も
  • 特に後半、守備の時間が増加したのは、運動量が落ちて2トップの誘導が追いつかなくなったことが要因と思われる。というか監督も運動量の低下が原因だと言及している。
  • 陣形が押し下げられると、当然ボールを奪う位置も低くなる。
    →ポゼッションが落とし込めていないので攻撃の開始位置が低くなると無理やりなロングボールが増えて、結局相手にボールを渡してしまう

www.targma.jp

雑感

  • 昨季からの課題であるポゼッションは依然として属人的な側面の強い内容であったため、なるべく自陣から攻撃が開始される展開は避けたい。ロングカウンターも再現性のあるシーンは見られなかった。
  • つまり、高い位置で過ごす時間、プレッシングの掛かる展開でゲームを進めたい
  • とはいえ、時間経過とともに運動量が落ちることは人間である以上避けがたく、過密日程の中をどのように戦っていくのか少しばかり不安の残る内容であった。

柏レイソルのスカッドについて(2022シーズン)

 近年、稀に見る阿鼻叫喚なオフシーズンを終え(ほ、本当に終えたのか!?と未だに不安になるが)、気がつけば日程も発表されている今日この頃です。あけましておめでとうございます。

 過去は振り返らない!ということで、早速ではありますが、簡単に2022シーズンのスカッドを見ていきます。 

スカッドを見た印象(ざっくり全体感)

  • CBの選手層はリーグ屈指
  • 2列目より前は「量より質」
 今年のスカッド全体を見たときに抱いた印象です。もはや、この二点に尽きると思います。
 ネガティブな印象の放出が多かったことは否めませんが、しかし、全ポジション満遍なく放出を行ったわけではありません。
 よくよく見ると、
 死守すべきところは死守できたのではないか?
 と。
 また、大放出についても、実際問題そこまで悲観する必要もない……?
 御託を並べても仕方がないので、そのように思った理由を一つずつ掘り下げていきます。

CBの選手層はリーグ屈指

  • 死守すべきところ--それは、つまりCBです。最悪、最終ラインとキーパーが体を張れば失点しませんから(暴論)。
  • まあ、冗談はさておき、なんと言ってもCBは、ほぼ全員の残留に成功
  • 山下の放出はあったものの、田中くんの昇格があるので、実質的な差し引きはゼロ(枚数的に)。
  • なんと言っても、目玉は田中くんの昇格。数年前から指摘されている補強ポイントである左利きCB。
  • 才能の片鱗は、昨季のルヴァン杯で披露済み。普通に試合に絡んでくるものと思われます。というか、すぐに海外へ行ってしまう気がします。
  • さらに、ポジショナル・プレーをやりたいチームに持っていかれると思った太陽と、しばらく音沙汰のなかったエメルソンも残留。
  • 虚無だったビルドアップの部分は、田中くん、太陽、エメルソンと人的リソースは十分なので、あとは戦術に落とし込めるかどうかだと思います。
  • また、強度や高さの観点からは、エメルソン、祐治、染谷、上島、そして終盤は右SBにコンバートされていたけど大南も控えています。
  • こうして改めて見るとCBの選手層は普通にリーグ屈指だ思います。間違いなく、ストロングな部分。強度寄りな気はするものの、そこは監督としても譲れない部分だったのかもしれません。

2列目より前は、「量より質」

  • 「量より質」、我ながら惚れ惚れするくらいポジティブな表現だと思いますが、まるっきり根拠がないわけでもない。
  • 昨季は確かに、あれだけのメンバーを擁していたものの、シーズンを通してメンバーを固定することができませんでした。つまり、最適解を見つけることができなかったのです。
  • その事実を如実にあらわしているデータが【出場時間】です。
  • 二列目より前の選手で、最も【出場時間】が長ったのは、

    クリスティアーノ 28試合先発 2,481分(2,481分/3,420分で72%)

    これは、まあ、印象通りです。
    しかし、その次に長い出場時間を記録したのは、

    江坂 任 15試合先発 1,329分(1,329分/3,420分で38.5%)

    まさかの5月までしか在籍していない選手が二番目!(仲間はCHでカウント)

www.football-lab.jp

  • 定着しなかった理由が、戦術的なものなのか、負傷による離脱なのか、という点は練習が非公開だったので闇の中ですが。
  • 監督もラスト1/3の崩しは選手に任せているので、こうもメンバーを固定できないとコンビネーションの部分で物足らなくなってしまう。
  • ただ、先日の会見で前線の再編成については言及しているので(有料部分なので詳細は省きます)、やっぱりもうどうしようもなくなっていた部分もあったのでしょう。
  • まさしくスクラップ・アンド・ビルド。

www.targma.jp

  • 何事においても、「量か?質か?」みたいな議論は永遠のテーマだとは思いますが、2020〜2021が量だとしたら、2022シーズンは「質」
  • ヴィオや武藤といった戦力は維持。新戦力の中村、小屋松、ドウグラスの実力は言うまでもないし、細谷も台頭著しい。森くんも即戦力として計算されているものと思われます。
  • つまり、質は保たれています。
  • だからこそ、負傷者を出さないことはとても重要です。
  • 昨季のように「負傷者続出です」では、質も何もあったものではありません。中断なく流れて行くシーズンになるので、回復を待っている間に次から次へと試合がやってきます。
  • ルヴァン決勝で正月まで戦った昨季とは違い、今年に関しては、オフもプレシーズンもしっかりと時間を取ることができたのでコンディショニングの部分は問題ないだろうと思っています。
  • 「質」の方向性についても聖域なき再編成によって、全員がハードワーク!インテンシティ!を実行できるような構成に。
  • 死ぬ気で前プレ!トランジション!を全員で行ってボールを回収して少ない手数で仕留める、もしくは、長いボールを蹴らせてCB陣に回収してもらう展開になりそうな気がします。

大放出について思うこと。

スクラップ・アンド・ビルドのシーズンに

 ざっくりとした感想はこんなところです。

 敢えてポジティブな側面にスポットを当てて書いてみましたが、総出場時間の30%を上回る選手たちが流出したことはどう考えても苦しい。

 思うところはあります。

 ただ、それでも、2022シーズンをネルシーニョ監督で戦うならば、編成の組み直しは必要不可欠であったとも思います。昨季終盤はチームとしての体をなしていませんでしたから。戦術以前の問題です。

 だから、スクラップ・アンド・ビルド。一度、全てを壊す必要があった、と。「今季をネルシーニョ監督で戦う」、それが前提条件なれば、一度壊すしかない。

 賽は投げられたとでも言いましょうか。

 クラブもそこは理解した上で、一枚岩となって支援している様子が伝わってきますし、腹を括ったなら、そうすべきだと思います。(そうせざるを得ない側面もあるのでしょうし、そうせざるを得ない状況に嫌気が刺すのもわかります)。

 「予想システムは?」みたいなのは相手を全く考慮していないような気がして好きではないのですが、やはり、自分たちの強さ――この厚い(熱い!)CBたちを活かすならば、3バックが合っているでは?と個人的には思います(4枚っぽいですが)。

 というか、3でも4でも対応できなければ、今の時代を勝ち抜くことは難しい。

それでも

 それでも。

 あれだけ悲しみに暮れていたのも束の間、チームが始動し日程も決まると「意外となんとかなるんでは?」と思い初めるおめでたい脳みその持ち主です。

 結局、期待してしまう自分がいるから不思議なもの。たぶん、アウェイもたくさん行くだろうし。

 願わくば、みんなが幸せな一年でありますように、とそんなことを思いながら。

 あ、30周年記念ユニは森選手にしました。

ポジション別

僕が付けていたメモを置いておきます。お暇な方はどうぞ(しっかり検証していないので、抜けている選手がいるかも)。

GK

  • スンギュ、佐々木、猿田、松本
  • 滝本を期限付き。
  • スンギュ神の流出を阻止。
  • 加えて横浜FCから猿田が復帰。
  • 佐々木についてもすでに充分通用することを証明しており、盤石の4枚体制。
  • 少し多い気がするのは、スンギュの離脱(代表招集による隔離とか)を織り込んだもの?

右SB(右WB)

  • 北爪、川口、大南
  • 峻希アウトで1枚減も、大南のコンバートを加味すれば差し引きはゼロ
  • というか、おそらくファーストチョイスは大南。高さ、速さでネルシーニョ監督好みの人材。シーズン終盤は、得点に絡む場面も見られるなど、本人も手応えがあるのでは。
  • 本職の北爪、川口については、SBのタスクによって使い分けたい。高い位置に配してビルドアップの出口役を期待するならば北爪、逆にビルドアップの入り口、配給役なら川口。

CB

  • 祐治、太陽、エメルソン、染谷、田中、上島、(大南)
  • 絶賛大放出のストーブリーグにありながらも、山下の放出のみにとどまり、ほぼほぼ無風。
  • ビルドアップに苦しんだ我が軍、カップ戦ながらも力を示したアカデミー卒の田中くんへの期待は高まるばかり。加えて、太陽、エメルソンもビルドアップ前線に時間を届けることのできる人材。あとはそれを戦術に落とし込むことができるかどうか。
  •  また、祐治、染谷、上島と対人、空中戦で強さを発揮する人材も。
  • 足元や強度とバリエーションに富んだ人材が揃っているため、対戦相手によって使い分けながら戦っていきたい。

左SB(左WB)

  • 三丸、岩下、大嶽、(太陽)
  • 岩下が加入。時折コンバートされる太陽を加えると4枚。大嶽が絡んでこられると幾分、厚い。
  • 昨季は散々だった左からのクロスボール。ドウグラスの加入で良質なクロスボールの供給は貴重な得点源となり得る。岩下は両足を使えるとのことなので、期待しています。

CH

  • 椎橋、大谷、ドッジ、三原、戸嶋、加藤、土屋、山田
  • ヒシャルジソンの流出もドッジ残留。
  • 「怪我人の復帰が最大の補強」ではないが、大谷キャプテンの復帰が待望される。
  • 最終節・大分戦出場の山田が通年でゲームに絡めると心強い。
  • 全体的にはポゼッションよりも強度重視で、なんともネルシーニョ監督好みといった印象。時間をつなぐタイプの選手はドッジぐらいか。山田がそのような仕事を担えると嬉しい。

SH、シャドー、トップ下、IH

  • 中村、サヴィオ、小屋松、細谷、(武藤)
  • (江坂)、仲間、神谷、クリス、瀬川、イッペイと大放出。そして、小屋松、中村を補強。
  • 最も懸念されるポジションではあるが、結局、2021年を通して最適解を見つけられなかった。戦術的な問題か怪我か不明な離脱も多く、真相は闇の中。
  • 大外に張って仕掛けるタイプよりは内側で仕事をする選手が中心。まあ、大外レーンはSBやWBにお任せが主流だからそんなもの。
  • 細谷をサイドで使う旨の報道を見かけた。とはいえ、ネルシーニョ監督の2列目より前の選手は、かなり流動的な部分があるから、普通にトップでも使われそう。
  • クオリティについては申し分のない選手たちばかりなので、試合で出られさえすれば問題ないとは思う。が、やはり圧倒的に層が薄いことは間違いないので、負傷者を出さないこと、コンディションの維持が重要。中断期間もないし。

FW

  • 武藤、アンジェロ、森、枡掛、真家、ドウグラス
  • やはり目玉はドウグラス。空中戦は言わずもがな。稼働率の低さが懸念。
  • 9番を背負う武藤の実力は今更いうまでもなく、クラブからの期待が厚いことが伺える。
  • 台頭著しい細谷が2桁取れたら最高。
  • 森くんも即戦力として結果を残してくれそう。5得点という謙虚な目標はあっさり越えてほしい。
  • 見ての通り、若手に結果を出して貰わないと困るといったところ。
  • アンジェロの刺青が見たい。

 

柏レイソルの2021年3月期決算について 神様仏様スポンサー様

営業収益:前期比+1,473百万円で過去最高を達成

 コロナ禍にありながらも、増収を達成。営業収益は過去最高を記録し、50億円の大台目前に到達。
 しかしながら、【スポンサー収入】の増加は、後述するコロナ対策費用に係るものと推察される。また、【その他収入】の大幅増加についても、オルンガの売却益が大半を占めると考えられる。
 以上のことから、2021年3月期の増収は、一過性・突発的事象によるものであり、今後もこの水準を維持することは難しいものと思われる。

 以下、要因分析。

  • スポンサー収入+687百万円
     【スポンサー収入】の増加分は、【試合関連経費】の増加分(+527百万円)とほぼほぼイコールになることから、コロナ対策費用として支援してもらったのではないか?というのが個人的な見解だ。
     2019シーズンのJ2から2020シーズンはJ1となったことで、増額してくれたスポンサー様もいたのではないかと思われる。

  • 入場料収入▲173百万円
    無観客、観客数制限による減少。

  • Jリーグ配分金+180百万円

  J2からJ1へ

  • アカデミー、物販は割愛
    物販1百万円。スタジアムでのグッズ販売のみを認識しているからだと思われる。
  • その他収入+939百万円
    オルンガの売却益、航輔は0円との報道あり
 

営業費用:前期比+409百万円 「試合関連経費」が増加

 営業費用は、微増にとどまる。増加分についても「試合関連経費」によるもので、コロナ対策関連費用の支出増加が影響したと考えらる。

 以下、要因分析。

  • チーム人件費▲61百万円
     人件費は微減。
     2020シーズン前に大型補強に動いたこともあって依然として高止まり。高級取りと思われるオルンガを放出も、新外国人の大量加入によって、引続き人件費は現水準を維持するものと思われる。
     呉屋の放出が完全だったことで改めて感じたことだが、やはりサラリーや償却負担(移籍金を契約期間に応じて費用計上)を軽くしたい思惑があるのだろうという印象を受けた。売却益が少なかったとしても、選手の保有権を手放し、固定費の圧縮を図ることで、僅かでも損益水準の向上を図りたい、と。
     純利益は昨年の▲10億円を除けば、プラスマイナス0近辺を推移していることから、相当シビアな予算編成であることが推察される。コストに見合わないパフォーマンスであれば、売却益で元が取れなかろうと放出していくことで、固定費の削減を図りながら、浮いた分で新たな選手を獲得していく……という、悪く言えば「ガチャを回し続ける」、良く言えば「新陳代謝を繰り返す」スタンスは変わらない。まあ、それこそが、クラブが主張するところの「現場主義」 であるわけだが。
  • 試合関連経費は割愛
    無観客、観客数制限試合の開催によって減少するかと思ったが、横ばいだった。 
  • トップチーム運営費+527百万円
     主に「移動関連費」や「施設関連費」などが含まれることから、コロナ対策関連費用の増加が一因と推察される。クラブハウス内の感染対策や遠征に際しても相当気を使っていたとの報道あり。
     また、「代理人手数料」などもここに含まれることから、ブラジル人大量獲得に係る手数料の発生も要因と考えられる。 
  • 物販関連経費、販管費は割愛
    特筆すべき変化はなし。

当期純利益は21百万円

 前期の▲1,013百万円からは大幅回復。費用は前期より微増も、大幅増収が補ったことでプラスでの着地を達成。営業収益の大半を「人件費」に投入する経営方針は継続しており、損益構造に特段の変化は見られなかった。

 コロナ禍において入場料収入が減少する中でも、スポンサー収入増加によって増収を達成するなど、さすがは親会社様……というほかない決算内容となった。

 しかしながら、サポーターが経営に与える影響が極めて小さいことを改めて示すものでもある。未だに太鼓が解禁にならない点など、サポーター向けの対応で重い腰が上がらないのには、そういった背景があると個人的には考えている。

 企業として、どこを向いて仕事をするか。株式会社である以上、株主が最優先であるのは当たり前。それならば、次はサポーターか?いやいや、事業活動を営むことがでるのは、誰のお陰?営業収益全体の60%にも及ぶスポンサー料を提供してくれるスポンサー様の存在あってこそ。当然、そこが二番目になる。販売会社に置き換えれば、大して買い物もしないお客様より、一定額を定期的に購入してくれるお客様の方が大切なのは明白。ちまちま日銭を稼いだところで仕方がない。

 企業としては至極真っ当な優先順位に基づいているとは思う。それがサポーターにとって、良いか悪いかはまた別の話。

 余談はさておき、損益水準が例年並みであったことから、貸借対照表に与える影響も限定的となった。特筆すべき変化は見受けられないことから、貸借対照表については、割愛する。

 2020年3月期の10億円もの赤字によって傷んだ財務状態は今のところ放置されている状況ではあるが、きっと、そのうち親会社が何とかしてくれるのであろう。やはり、持つべきものは親会社。世界の日立は半端じゃないことを、改めて思い知らされる柏レイソルの2021年3月期決算だった。

vs横浜F・マリノス(15節・2021.05.22) 課題は克服できたのか?

4月の3連勝も束の間、リーグ戦・カップ戦ともに約1か月にわたって勝利から見放されている我が軍。

今回の相手は横浜F・マリノス。前節は鹿島アントラーズに敗戦を喫したものの、ポステコグルー監督の下、ボール保持での主導権獲得を目指すサッカーを着実に積み上げており、その強さは言うまでもない。

そんな強敵に対して、ネルシーニョ監督の選択した対策を確認していく。 

3バック→4バックへの変更について

そもそも、3バックで戦っていた理由を整理すると、

  • 9節・ガンバ戦以降、3バックを採用
  • その目的は、ボール保持・ビルドアップの改善
  • 4バックでスタートした今季であったものの、昨季からの課題であるビルドアップ・保持という課題の克服には至らずに連敗
  • 4バックではボールを持てないと判断、応急措置的な対応としての3バック

という点が挙げられるが、ここにきて5-4-1から4-4-2へ変更に至った理由を、ネルシーニョ監督は、以下のように言及している。

  • 我々としては相手の最終ラインの背後の空けたスペースをカウンターで取りに行くプランを持っていた。
  • 4バックで臨んだ狙いは、ここ最近5バックでやってきている中で思うように結果が出ていないので何かを変えないといけないと見ていた。
  • 相手の特徴もある中で、まずしっかりとセンターのレーンを固めてライン間で動き回る選手のマークを補強することをポイントに置いていたのも今日4バックにした狙いでもある。
www.reysol.co.jp

自分たちの課題を克服するための3バックであったけれど、とりあえずは棚上げ。

今は、目先の勝ち点にこだわる必要があると判断、相手をニュートラルにするという初心へ戻ることを選択したものと思われる。

サッカーというゲームの攻略対象を、「自分たち」から「相手」に変更したと換言することもできるかもしれない。

4-4-2はどうだったのか

立ち上がりから戦前の予想どおり、横浜F・マリノスがボールを支配しながらゲームは進む。後方でのポゼッションで時間を確保しながら、柏レイソル陣内への侵入を目論む。

対する柏レイソル

横浜F・マリノスのボール保持に対して、時間もボールも与えない!強度ぶち上げてガンガンいくぜ!的な前からのプレッシングを採用することも考えられたものの、結果的には、4-4-2のブロックをミドルゾーンにセットすることを採用

ネルシーニョ監督のコメントから、狙いは主に以下の2点であったと推察される。

  1. ボールの「出し手」に圧力を掛けるのではなく、「受け手」を窒息させるコンパクトなブロック形成での対抗を選択。
  2. 中盤に構えることで、マリノスの背後にスペースを作る

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1.ボールの「出し手」に圧力を掛けるのではなく、「受け手」を窒息させるコンパクトなブロック形成での対抗を選択 について

横浜F・マリノスのビルドアップでは、ボールの「受け手(ビルドアップの出口)」であるSBや中盤の選手が流動的に立ち位置を変更することで、プレッシングの回避を目指すといったものである。

SB(松原・ティーラトン)が内側に絞ることや、マルコス・ジュニオール・天野・喜田が柏レイソルの2トップ(細谷・江坂)〜CH(椎橋・ドッジ)周辺を彷徨うことで、前進を目指すシーンが見られた。

横浜F・マリノスとしては、プレッシングに来られることは慣れている。だから、当然にそれを外す手段も擁している。

柏レイソルは、プレッシングに行ったとしても無効化されて前進される……という展開を避ける狙いから、「出し手」よりも「受け手」に基準を合わせたブロックを選択したと思われる。

そしてその選択は、80分以上も得点を与えずにゲームが進んだことから、十分に効果的に作用したと考えて差し支えない。

2.中盤に構えることで、マリノスの背後にスペースを作る について

柏レイソルがミドルゾーンにブロックを構える。そこに、横浜F・マリノスがボールを持って前進してくれれば、背後にスペースを生み出すことができる。

自陣に相手をおびき寄せた上で、コンパクトなブロックの中でボールを奪い、素早く背後を突くカウンターという戦い方は、昨季まで積み上げてきた形である。

オルンガほどの質的優位を有する選手が存在しない分、FWを2枚(細谷・江坂)とすることでターゲットを増やす狙いもあったものと思われる。

また、5-4-1ではなく4-4-2としたことで、重心が下がり過ぎず、スムーズなカウンターへの移行が可能となったことも付け加えておく。

  • 狙い通りに攻守が切り替わったタイミングで空けたスペースをうまくカウンターに出ていくこともできていた。
  • いい守備からカウンターに出ていく流れ、形は非常に良かったが、最後のアタッキングサードに入ってからボックス付近でのラストパスの精度やボールを持った選手がよりいい状態にある味方の選手がいるのに無理してクロスやシュートを打ってしまうことがあった。
  • ただ、今日のゲームに関しては再三チャンスを作れていたことが評価のポイントだと思う。

ネルシーニョ監督のコメントも、最後の精度には言及しつつも、概ねプラン通りの試合運びであった様子が窺える。

課題は克服できたのか

4-4-2選択は実に論理的で、ネルシーニョ監督らしさ溢れるものとなった。プレーする選手たちから迷いは感じられず、コメントからも充実を感じさせる内容となった。

それでは、長いトンネルを抜け、課題の克服に至ったからこその善戦だったのか?というと、答えは否である。

そもそも、4-4-2を選択できたのは、横浜F・マリノスの採用する戦術に起因するもの。

相手がボールを保持するサッカーを採用するチームであったからこそ、柏レイソルはボールを保持しなくても良いシチュエーションでゲームを進めることができた。

ボールを保持しなくても良いシュチュエーションとは、柏レイソルの弱点が露呈しないシチュエーションだ。

少し振り返ると、4月の3連勝についても、コンディション不良であったガンバ大阪はともかく、大分トリニータ徳島ヴォルティスともにボールを保持しながらゲームを進めることを好むチームである。

つまり、横浜F・マリノス戦の善戦は自分たち課題を解決して為し得たものというよりは、戦術的な相性によるものであると考えられる。

 

また、もう一つの懸念材料として、唯一の強みであるカウンターの精度が低調という点が挙げられる。

精度の低下がコンディションによるもの、ゲームの時間経過に伴うインテンシティの低下によるものであれば仕方のない部分があるものの、一見したところ、そんな様子は見られなかった。前半から今一歩であった。

焦りか、不安か。

チームとして結果が出ない中で求められるチーム内の競争が悪い方向に作用していなければいいと思うばかりである。

積み上げたと考えていたカウンターが、実はオルンガの質的な優位性によるものでしかなかったのだとしたら……杞憂で終わって欲しいものだが。

今後のチームの動向を注意深く見守っていきたい。

vsC大阪(1節・2021/2/27)アフター・オルンガの時代に

迫られるパラダイムシフト

 年間30点近くを叩き出すFWの移籍は、否が応でも戦術の変革を迫られます。パラダイムシフトです。

 柏レイソルは、これまで最大の武器であった【撤退〜ロング・カウンター】を捨て、【前プレ〜ショート・カウンター】という戦い方を選択することになりました。選択せざるを得なかったともいえますが。

 今回は、「なぜそのようなパラダイムシフトが起こったのか?」と「ぶっちゃけ開幕戦どうだったよ?」といったところに触れつつ書いていきたいと思います。

これまでの課題って何だっけ?

 オルンガの快足を最大限に活かすべく、【撤退〜ロング・カウンター】を選択した結果、2020年序盤は爆発的な得点力を発揮しました。

 しかし一方で、対策が取られ始めた晩夏以降、ボール保持できない・前進(ビルドアップ)できないという課題と向き合うことになります。つまり、「カウンターはエグいけど、保持はザル」というピーキーなチームになってしまいました。

 DF陣が保持よりも強度を優先した編成だったことや続出する負傷者、ボール保持を仕込むにしても過密日程でそこまで手が回らないなど、要因はたくさんありましたが、結局最後まで課題解決には至りませんでした。

 「カウンターはエグいけど保持はザル」という特徴から、それなら「柏にボールを持たせてしまえ」という対策を実践する相手チームが増加しました。

 撤退され(オルンガの走るスペースを消され)、ボールを持たされた挙句、苦し紛れのビルドアップがミスを誘発し、逆にカウンターを喫する展開を繰り返しました。

 得点パターンの少なさによって、上位進出を逃すことになりました。 

 それで、どうして前プレに?

 端的に以下の2点だと考えます。

  1. ボールの奪取位置を低くする(撤退する)必要がなくなった
    →オルンガ移籍でロング・カウンターの威力低下
  2. 高い位置で奪うことができれば、苦手なボール保持・ビルドアップという手段を省略できるから
    →ビルドアップ問題は未解決

 オルンガが不在となったことで、ロング・カウンターのために撤退を選択する必要がなくなりました。つまり、前からプレッシングを行うという選択が可能になりました。

 「前からのプレッシング=高い位置で奪うこと」です。

 30点取ったFWの代わりを獲得することは容易ではありません。

 それならば、高い位置、敵陣でのプレー時間を増やすことで補おうという解答です。

 ボールを奪取する位置を高くすることができれば、自陣での保持・ビルドアップの局面を省略することが可能です。

 

 また、補強でビルドアップ問題を解決できなかったことも要因として挙げられます。

 入国制限で新加入の外国籍選手が合流できていないことに加え、足元の技術に長けたCBの補強は叶いませんでした(今朝方、獲得に動いているとの報道あり)。上島のレンタルバックには期待が高まるものの、J1未経験とあって若干不安は残ります。

 保持・ビルドアップという課題に対して「人的リソースで解決!(=補強)」という解答を用意できなかったことから、「仕組み(戦術)で解決するしかない!」と前プレを選択したとも考えられます。

 

不安しかない開幕戦

 ここまでパラダイムシフトに至った理由を挙げてきましたが、ネガティブな印象は拭えません。

 唯一の武器であったロング・カウンターの威力は低下、もはや、武器ですらなくなってしまった上に、保持・ビルドアップという課題が未解決……厳しい船出となりました。

 加えて、始動から開幕戦までの準備期間はわずか3週間程度と、前プレという戦術を仕込む以前にコンディションがやべえんじゃないかと不安しかない開幕戦となりました。

 

あまり参考にならないかもしれない開幕戦

思いの外、上々だった立ち上がり

守備(前プレについて)

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 注目していたボール奪取位置については予想通り高い位置を選択しました。

 高強度のプレッシング、即時奪回(ゲーゲンプレス)による主導権の確保は、一定の再現性が認められたものと思われます。

 特徴としては、

  • 奪ったら縦に早く(ショートカウンター
  • 2トップは外切り気味で中に追い込む
  • 江坂はCB→CHのパスコースを隠しながら
  • 3CHのタスクは尋常ではない
    ①横スライドで相手のSBに出たところをケア
    ②場合によっては相手のCBまでプレッシング
    ③セカンドボールの回収
    ④ビルドアップの出口役

保持について

 課題の保持については、キャンプでトライ中とのことでしたが、思ったよりも改善が進んでいる印象を受けました。セレッソのプレッシングが緩やかであったことも一因だと思いますが。

 少なくとも、仕組みで解決しようという姿勢は感じられました。

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上島の退場で覆い隠された今後について

 以上のように立ち上がりは準備してきたものを体現できているように見えました。

 しかしながら、次第に柏のプレッシングに慣れていくセレッソは、ロングボールやサイドチェンジを行うことで、ボール保持の時間を増やしていきます。

 噛み合わせ的にも相手のSBにプレッシングが届きにくいことやCHのスライドが遅れるとサイドにスペースを与えてしまうことになります。

 柏は前プレ→ショートカウンターという循環が断ち切られ、次第に守備の時間が増加する展開となりました。

 用意したものをぶつけてゲームを支配→対応した相手が主導権を握り返す→対応した相手に対応する……という対話の積み重ねこそがサッカーです。

 ですから、柏のプレスに慣れたセレッソに対して、どのように対応していくのか……という点に注目していたところで上島が退場してしまいます。

 前からプレスを行うということは、背後にスペースが生ずることでもあるのだよな……と、サッカーは難しいなと考えさせられる場面でもありました。

 その後は、一人欠けた状態で前からプレスに出られるはずもなく、撤退を強いられる展開となりました。

 ボールを奪う位置が低くなれば、自陣からの保持・ビルドアップを行う必要があります。その部分の課題については、前述した通り未解決であることから、苦しい時間を過ごす展開となりました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 10人での時間があまりにも長かったことから、開幕戦はあまり参考にはならないのではないか、というのが僕の考えです。

 しかしながら、立ち上がり15分間の振る舞いに関してはポジティブな印象を受けました。

 プレッシングを剥がされた際のリアクションについては、上島の退場で有耶無耶となってしまいましたが、ネルシーニョ監督はその辺りの”対話”ができる監督だと思います。

 オルンガの移籍によってパラダイムシフトを迫られた柏レイソルは、前からのプレッシングによってボール奪取位置を高くするという解答を用意しました。

 厳しい状況に変わりありませんが、2021シーズンは始まったばかり……。Jリーグのある週末を、終なきアジアへの旅を、今はただただ楽しみたいと思います。

vsFC東京(ルヴァン杯決勝・2021/1/4) 大谷「一番上の『景色』をもう一度」

 大谷「一番上の『景色』をもう一度」

戦えることに喜びを

 これからつらつらと妄想を垂れ流しますけれども、そもそも、まずはこのような妄想を垂れ流せることに感謝を、戦えることに喜びを示すべきなのだと思います。

 棄権や辞退という選択肢が存在し、開催すらも危ぶまれた状況の中で、それでも決勝を戦う機会が残されていること。それは、この上なく奇跡なのではないのか、と。

 僕たちには積み上げてきたものがあって、自分たちの実力で勝ち上がってきた自信と自負があります。

 そして、このメンバーで戦い、結果を残せるのはこれが最後の機会になります。

 しかし、それにもかかわらず、積み上げてきたものを表現することができない、結果すら残らない。そのような結末は、あまりにも悲しい。何よりも悔しい。

 例えどんな結果になろうとも、結果すら残らないよりはずっと良い、と。

 だから、まずは、決勝という舞台を戦う機会を僕たちに与えてくれた関係者の方々に感謝するところから、戦いは始まるのでないかと思います。

大谷が使う「景色」という言葉について

北嶋秀明
「あの『景色』をもう一度見たかったから。」
(1999年のナビスコ優勝を指して)

 僕のアイドルである北嶋秀明は、2011年の優勝を語るときに「景色」という言葉を使います。

 当時、インタビューなどで頻繁に口にしていたことを覚えています。

 詩的で、それでいて胸に秘めた熱い思いが伝わる美しい表現だと思いました。言葉を大切にするキタジならではの言い回しが、個人的にものすごく気に入っていました。

 そしてここにきて、大谷キャプテンが同じように「景色」という言葉を使っていることに気がつきました。


【柏レイソル】2020YBCルヴァンカップFINALティザー~1999_2013_2020~

 キタジを意識した言葉なのか、自然と出た言葉なのかはわかりませんけれど、それでも、脈々と受け継がれてきたものがこのクラブにあることを誇りに思いました。

 それはまさに、文化が継承されている証なのだと。

 「受け継がれてきた」と言っても、たかが言葉でしょう?そんな大袈裟な……と言われてしまうかもしれません。

 しかし。

 たかが言葉、されど言葉です。

 言葉は歴史です。言葉には、魂と意志が宿ります。

 言葉一つで背負っているもの、積み重ねたものの重さを計ることができると思うのです。

 北嶋秀明という「言葉」を大切に扱う人間が発した言葉が、10年という時間を超えて今でも使われていることに、「このクラブはもっと大きく羽ばたける」と可能性を感じずにはいられません。

 このクラブにはタイトルを獲ってきた歴史と、世界を戦ってきた経験があります。

 「一番上の景色」を積み重ねたからこそ掴めるものがあるはずです。

 柏レイソルは強くなければならないのです。

 絶対に勝ちましょう。勝って、柏に帰りましょう。

 そして、どんな時も支えてくれた桐畑和繁警備隊に、はなむけのトロフィーを送りましょう。

 FC東京を知る

 ここから先は、蛇足です。興味のある方だけお付き合いください。

 ネルシーニョ監督の根幹にある考え方として「ニュートラル」を挙げることができると思います。

 「ニュートラル」とは端的に言えば、相手の長所を消すことであることから、FC東京を知ることは大切です。

https://www.football-lab.jp/fctk/

www.football-lab.jp

 FC東京の直近試合を観られなかったので、データから特徴を見ていきます。

攻撃について
  • シュートまで至った割合は・・・
    ショートカウンター19.4%・ロングカウンター20%
  • 一方で、敵陣ボール保持18.1%・自陣ボール保持5.6%
守備について
  • 「コンパクトネス」「※ハイプレス」の指数が高い
    ※このサイトでは、「ハイプレス」の定義を位置よりも強度としているようです。

  • 「フィジカルコンタクト」の指数が高い
  • 「最終ライン(ピッチの1/3より自陣寄り)」の指数が低い
    (撤退守備が少ない?)
カウンターを得意とする一方、自陣からの繋ぎは得意ではない

 データから読み取るFC東京は、ミドルゾーンにコンパクトなブロックを形成しながら、ボール奪取後の素早いカウンターで得点・チャンスを生み出しているようです。

 一方で、自陣からのボール保持がシュートに至ったのはわずか5.6%と、後方からボールを繋ぐ攻撃を行うチームではないことがわかります。

比較(2020年・柏 vs 2020年・東京)と展望

www.football-lab.jp

まずは守備から?カウンターを刺すために

 柏レイソルについては触れるまでもないと思いますが、基本的には両チームとも、

  • カウンターがシュートに繋がる確率が高い
  • 自陣からの保持がシュートに繋がる確率が低い

 という特徴を挙げることができます。

 一発勝負の決勝であることなどを鑑みると、両チームとも守備に基準を置きながら、強みであるカウンターを刺す機会を窺う試合展開になることが予想されます。

 しかしながら、カウンターを刺すためには、相手に高い位置を取ってもらう(=背後のスペースを空けてもらう)必要があります。

 相手のカウンターを驚異に感じる以上、自分達の背後を無防備に晒してまで(空けてまで)前からプレッシングを行うとは考えにくい、というのが私の見解です。

 少なくとも立ち上がりについては、両チームとも自陣低い位置にブロックを形成しつつ、自分たちの背後を消すことを優先する立ち上がりになるものと思われます。

柏レイソルはどう戦うか?

ロングボールによる前進が増加するケース

 背後のスペースを空けたくない、だから、積極的に前から奪いに行く選択をするとは思えないというロジックです。

 ただ、相手にボール保持されるということは、守備の時間が増加することを意味します。

 背後のスペースは空けたくないものの、守備の時間があまりにも増加するのは望ましくない、というのが本音しょう。

 しかしながら、上部データからも分かるように両チームともボール保持による前進は得意ではなく、再現性が見られません。

 自分たちのビルドップが相手の守備に引っ掛かること、それは即ち相手にカウンターを打ち出す機会を与えることを意味します。

 柏レイソルは今シーズン終盤、幾度となくビルドアップのミスから失点を喫しています。

 ある意味で、ボールを保持することがリスクになっている、と考えられます。カウンターの得意なFC東京が相手であれば尚更、その点は意識せざるを得ません。

 シーズンを通じて解決できなかったビルドアップが、たったの二週間で改善できると考えるのは、あまりにも楽観的、希望的観測だと思います。

 では、どうするか?

 繋げないのなら、自陣でボールを持たなければ良いのではないか?という発想がシンプルでわかりやすい答えではないか、と。

 地上でのボールポゼッションを避け、ロングボールによる前進を増加させることで、リスクを極力排除していくことです。

 相手の背後を狙ったものよりも、人に向けて蹴ったものが多くなるものと思われます。なぜなら、FC東京も当然に柏のカウンターを警戒し、背後を空けないような振る舞いをしてくるはずだからです。

 「ターゲットのFWvs跳ね返すCB」「セカンドボールの回収を巡る中盤の主導権争い」という試合展開で推移するものと思われます。

蹴らせてすら貰えないケース

 以上を踏まえた上で、次に考えられるのは、蹴らせてすら貰えないケースです。

 上記データでは、FC東京はボールホルダーへのアプローチが厳しいことがわかります。

 結果如何に関わらず、この日でシーズンが終了することから、日程を考慮する必要はありません。換言すれば、どれほど疲れようが関係ない。死なば諸共。高強度のプレッシングを行うことで、柏に時間とボールを与えないという戦い方を選択することも可能です。

 蹴る時間すら、押し上げる時間すら与えなければ、背後にスペースが空いていようが関係ありません。プレッシングを掛け続ければ良いのです。激しい運度量と高い集中力が求められます(ハイ・インテンシティ)が、早い時間でゲームを決めてしまえば、撤退を選択することも可能です。

 柏レイソル陣地でのボール奪取は、FC東京の得意なショートカウンター発動という状況でもあります。

 このケースで柏レイソルが求められる振る舞いとしては、キーパーを含めた後方の選手でボールを回しながら、相手のプレッシングを剥がす(回避する)こと、もしくは背後へ蹴っ飛ばす余裕を見つけることなどです。

 しかしながら、前述したようにプレッシングに対する耐性が乏しい現状では、ひたすら我慢する時間を過ごすことになりそうな予感がします。

ボールを持たされるケース

 続いて、ボールを持たされるケースです。

 ミドルゾーン〜自陣低い位置でブロックを構えながら、柏レイソルのビルドアップ隊に時間を与えつつ、ブロック内に侵入してきたら引っ掛けてカウンターを打ち出すという戦い方です。

 FC東京の代名詞的な戦い方です。

 柏レイソルとしては、12月の名古屋戦が記憶に新しいことと思います。ボールを持たされ、低い位置に撤退した相手を崩せず非常に苦しんだ末に敗戦を喫しました。

 ボールは保持しているものの、カウンターに怯えながら時間を過ごす、といいましょうか。

 「ボールは支配しているけれど、ゲームは支配されている」と表現される展開です。

 繰り返しにはなりますけれど、やはりボール保持による前進に再現性が見られない中で、不用意なボール保持、ビルドアップは被カウンターのリスクを増大させるものと思われます。

4枚なのか、5枚なのか

 今季は4バックと5バック(3バック)を状況に応じて併用した柏レイソル

 一発勝負の決勝で、果たしてどちらを選択するのか。非常に興味深いものがあります。

4バックのメリット・デメリット
  • メリット
    ①ポジトラ(守備→攻撃)および攻撃の局面でオルンガの周辺に人が居ることでカウンターの威力が向上する
    (オルンガが孤立しない、江坂が中央でプレーできる)
    ②バランスが良く陣地の回復、トランジションがスムーズ
    (ピッチ全体に満遍なく配置できるので)
    ②恐らく4バックでスタートするFC東京に対してプレッシングが噛み合う

  • デメリット
    ①太陽をSBで使うことになるのでビルドアップはより厳しく
    (東京に撤退されると崩せない、バランス崩した配置で被カウンターのリスク増)
    ②CBを3枚並べる3バックよりも守備の強度は低下

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5バック(3バック)のメリット・デメリット
  • メリット
    ①CBを3枚並べられる
    (決勝とあって守備を重要視)
    ②542(523)の布陣になる分、撤退を選択することになる=ロングカウンターを刺せる状況
    ③ビルドアップにおいて、太陽をハーフスペースに初期配置できることで、わずかながら保持の質が向上する

  • デメリット
    ①オルンガが孤立
    ②シャドー(江坂、クリス)のタスク増加
    (クリスの守備を免除すると守備の強度が低下)
    ③後ろに重たくなるので、押し込まれると厳しい

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 怪我人の回復状況次第・・・

 そしてもう一つ、戦い方を予想する上で重要な要素があります。

 それは、怪我人の回復状況です。

 特に三丸(10月18日の湘南戦以来、出場なし)。

 442採用時に太陽を左SBに置くことをデメリットとして挙げましたが、三丸が戻ってくれば、太陽を中央に戻すという選択肢が生まれます。それはそれで、守備の強度に問題が出てきますが、ビルドアップに限れば太陽+三丸の組み合わせは最適解だと考えます。

 また、リーグ戦で守備を支えた大南が代表を辞退したこと、神谷のベンチ外が続いたことなど、ここにきて怪我人が増加しています。前者は守備・空中戦の強度確保には不可欠であり、後者は個で打開可能なアタッカーであることは言うまでもありません。

 個人的な予想としては、三丸が回復していれば4枚、回復していなければ5枚なのではないかと予想します。

 「守備の強度を確保しながら、カウンターを刺すタイミングを窺う」がゲームモデルだとしたら、それを実行するための戦術が「ゲームプラン」です。

 皆さんも、あれこれ想像を、妄想を巡らせてみてはいかがでしょうか。

 

柏レイソルの2020年3月期決算について 10億円の赤字を考える

リーグ戦は小休止ということで、今更にもほどがありますが、2020年3月期決算について振り返ってみたいと思います。

結論からいきましょう。10億円の赤字(純損失計上)減収減益(売上と利益が減少)です。

柏が10億円超の赤字もJリーグ「攻めの予算。特に想定外ではない」19年度単年赤字は合計23クラブ

今回は10億円の純損失計上に至った背景と影響をメインに触れていきます。

 1、損益計算書

損益計算書全体の総括

「売上が10億円減ったけど、去年と同じお金の使い方をしたので、売上が減った10億円分だけ赤字になりました」という内容となっています。

しかしながら、決算内容自体、損益計算書上はそれほどネガティブなものではないと考えます。恐らくある程度の赤字は覚悟の上、織り込んだ上での決算だったものと思われます。

理由は、前年度(2019年3月期)にクラブ史上初めて営業収益(売上高)が40億円を突破しており、その要因が移籍金収入(中谷とか)や賞金、好成績※による突発的な収入だったからです。

あくまで特殊要因が剥落しただけと捉えるのが正しいのではないかと思います。

2019年度の40億円突破が異常であり、2020年度は例年の水準に戻っただけなのです。10億円の減収という数字のインパクトは大きいものの、理由が明確かつ例年の水準を下回るものではないことから、現時点で悲観的になる必要はないというのが僕の見解です。

※2018年シーズンの4位フィニッシュ、天皇杯ベスト4、ACL出場

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

営業収益計

4150

3,140

(1,010)

スポンサー

1,968

2,206

238

入場料

449

414

(35)

配分金

708

208

(500)

アカデミー関連

25

22

(3)

物販収入

67

52

(15)

その他

933

238

(695)

営業費用

4,128

4,206

78

人件費

2,806

2,940

134

試合関連経費

135

126

(9)

トップ運営費

314

326

12

アカデミー運営費

37

31

(6)

女子チーム

0

0

0

物販関連費

53

41

(12)

販管費

783

742

(41)

営業利益

22

-1,066

(1,088)

営業外収益

21

115

94

営業外費用

21

61

40

経常利益

22

-1,012

(1,034)

特別利益

0

0

0

特別損失

0

0

0

税引き前

22

-1,012

(1,034)

法人税

20

1

(19)

当期純利益

2

-1,013

(1,015)

収益について

「配分金」と「その他の収入」で11億円減少

前述した通り、10億円の減収要因は明確に「配分金」「その他の収入」です。

「配分金(成績等に応じてリーグから貰える)」と「その他の収入(移籍金とか賞金)」だけで11億円減少しています。2017シーズンの4位フィニッシュから一転、翌2018シーズンはJ2降格を喫するなど成績急降下による配分金や賞金の減少がダイレクトに損益に影響を与えた格好です。

加えて、2019年度は移籍金収入を確保した(と思われる)移籍が多数ありました(中谷、中谷、安西、ブライアンなど)。一転して、2020シーズンはレンタルでの放出が大半を占めたことから、売却益の計上が軽微なものとなったことも要因と思われます。

レンタル移籍での放出が多い(バックするケースも少ない)あたりから、移籍金収入(キャピタルゲイン)を積極的に取る経営方針ではないことも読み取れる気がしますが、それは違う機会にしましょう。

スポンサー収入は238百万円増加

J2を戦うシーズンであったものの、スポンサー収入が増加に転じたことはポジティブに捉えることができる事象です。

スポンサー収入については、ここ数年19億円台で頭打ちとなっていたものの、ようやく20億円を突破しました。日立ビルシステム様がユニフォームスポンサーに加わったことが大きなトピックスですが、目に見えないところで既存スポンサー様への広告料増額など地道な交渉を続けていたものと思われます。

自分たちのコントロールが及ばない移籍金や賞金などとは違い、改善・向上・拡大余地のあるスポンサー収入を伸ばしていくことは、柏レイソルの更なる飛躍に必要不可欠な要素であると考えます。

利益について

費用については、特段の変化が認められないため割愛し、利益に移ります。

大幅減収にも関わらず費用が前年同水準で推移したことから、最終的な当期純利益についてはマイナス10億円となりました。報道にあった「柏、10億円の赤字」というのはここを指しています。

収益が減少(賞金や分配金、移籍金が減ること)することは予期できたはずであり、10億円の赤字についてもある程度早い段階から織り込んでいたものと思われます。

貸借対照表

10億円の赤字が貸借対照表に与えた影響

10億円の赤字が与えた最も大きな影響は、自己資本の毀損であると考えます。

柏レイソルの「利益剰余金」は2019年度まで±0近辺を推移していましたが、2020年度の当期純損失10億円の計上によって、一気にマイナス圏まで突っ込むこととなりました。

それに伴い「純資産の部」についても2019年度1,031百万円から、2020年度はわずか18百万円まで減少し、債務超過(資産よりも負債の方が多い状態)寸前の水準まで落ち込むこととなりました。

損益計算書上の最終損益である当期純利益は、決算仕訳によって「純資産の部」の「利益剰余金」に振り替えられます。毎年の利益を「利益剰余金」勘定に積み重ねることで、「自己資本(=純資産)※」の充実を図ります。

 ※「自己資本」とは、返済不要の資金調達です。毎年の利益の積み重ねである「利益剰余金」は自分たちで蓄えた自分たちが自由に使える資金です。

一般的に財務の健全性とは自己資本の充実度で測られることが多く、自己資本が限りなくゼロに近い状態というのは財務的な観点からは、褒められた状態とは言えません。

 

2019年3月期

2020年3月期

増減

流動資産

465

459

(6)

固定資産

2,074

2,369

295

資産の部合計

2,539

2,828

289

流動負債

1,508

2,809

1,301

固定負債

0

1

1

負債の部合計

1,508

2,808

1,300

資本金

100

100

0

資本剰余金等

932

932

0

利益剰余金

-1

-1,014

(1,013)

純資産の部合計

1,031

18

(1,013)

元々、債務超過だった?日立台の現物出資という財務改善策(2011年)

これまで柏レイソルが売上高の70%近い割合を人件費に投入し、利益をそれほど計上せずとも現場主義を実践できた理由の一つに、充実した自己資本という背景がありました。

というのも、元来、柏レイソルの財務基盤は、お世辞にも強固とは言えないものでした。

2010年3月期時点では219百万円の債務超過に陥っています。

2009年度(平成21年度)Jクラブ個別情報開示資料

しかしながら、翌2011年3月期には、819百万円の資産超過へと転じています。

なぜでしょう。

2010年度(平成22年度)Jクラブ個別情報開示資料

答えは、日立台の現物出資です。

2011年春、親会社である日立製作所より”日立台”を現物出資で譲り受け、自己資本の増強に成功しています(優勝のお祝い?)。

当時は流動資産と固定資産の内訳は開示されておらず、総資産という表記となっていますが、

2010年3月期466百万円→2011年3月期1,819百万円

へ大幅に増加していることがその証拠です。

文字通り、”日立台”が救世主となってくれたものと思われます。

日立台の現物出資に係る仕訳
借方(固定資産 約900百万円)/貸方(資本剰余金等 約900百万円) 

企業規模の拡大よりも、現場に資金を投下してサッカーで勝負したいという理想。

この理想を貫くことのできる背景には、親会社による広告料の拠出にとどまらない、資本の増強をも引き受けてくれる手厚い支援があってこそ、なのです。

感謝してもしきれません。

利益剰余金マイナス10億円を取り返すには43年掛かる?

クラブライセンス的に長期的な債務超過は受け入れられないことから(コロナ禍とあって基準は緩和される見込み)、身動きは取りにくくなってしまったというのが本音です。

現時点で債務超過ではないことから、大幅な経営スタンスの変更を求められる水準にはないものの、自己資本の充実は今後避けては通れない課題となるものと思われます。

自助努力で資本を増強する方法は、基本的には毎期利益を積み重ねることで、利益剰余金を厚くする一点のみであります。

そして、まずは債務超過の解消を図ることから、一歩を踏み出すこととなります。

現在の利益水準を維持した場合、10億円の損失を取り戻すためにどれ程の時間を要するのかというと、

  • 2017年3月期〜2019年3月期の純利益の平均23百万円を基準
  • 1,000百万円/17年〜19年3期分の純利益の平均23百万円=43年

10億円の利益剰余金マイナスを取り返すのに43年掛かる計算です。

いかに途方もない決算であったか?ことがわかります。

(あくまで利益のみで財務改善を図った場合で、親会社による損失補填で一発解消という世界線もあり得ます)

日立台”という貯金を使い果たしてでも補強に動いたのは覚悟なのか

日立台”という貯金を使い果たしでも、補強に積極的にチームの強化に動いた理由は推測の域を出ません。

2020シーズンを勝負の年と銘打ち、何としてでも結果を残すことだったのか、親会社からの更なる支援を取り付けたのか・・・

どちらにせよ、年商30億円規模の企業が10億円もの純損失を計上するというのは並大抵の覚悟ではなかったものと思われます。

コロナ禍とあって夏の補強規模から財政状況を伺うことができず、現時点で10億円の赤字についての真相は闇の中です。結果だけがそこにあるといったところでしょうか。今のところ答え合わせをする方法はありません。

オフシーズンの補強動向がここ数年続いた積極的なものになるのか、興味深く注視していきたいと思います。