vsガンバ(15節・2020/9/9)【4312】とか、ポゼッションとか、ロングボールとか。

 良記事と戸田さんのレビュー動画をシュアします。正直、この2つだけで充分だと思いました。


柏 vs ガンバ 簡単レビューを帰りの車内から 

 

【4312】でボールを保持する立ち上がり

 ガンバのロングボールから始まったキックオフ。ボールが落ち着いた最初の保持の局面から、柏は丁寧にボールをつないでいく姿勢を見せました。

 2枚のCB(太陽・次郎)+アンカーに入った大谷を含めた3枚で、ガンバの2トップに対して【3vs2】の数的優位を確保します。2枚のCBは少し開いた【ハーフスペースの入り口】にポジションを取ることで、ガンバのプレッシング隊の基準を逸らしていきます。

 また、復帰を果たしたスンギュも足元でボールを扱う技術に長けていることから、ビルドアップに加わるシーンが見られました。その際は4枚で菱形を作り【4vs2】を作ります。柏CBはプレッシングを受けてボールが詰まったとしても、スンギュまでボールを預ければある程度ポゼッションを確保できる構図となりました。 

 加えてガンバ2トップは柏のビルドアップ隊3枚(もしくは4枚)を見なくてはならないことから、強度の高いプレッシングを行うことができませんでした。2トップの脇からの前進、縦パスを許すようになっていきます。

 余裕を持ってボールを保持する柏CB(主に太陽)は、運ぶドリブルによってガンバのCHを引っ張り出すことに成功します。ガンバも基本的な考え方としてはボールを保持したい。であれば、やっぱり柏のビルドアップ隊にはアプローチを行いたいという葛藤の中、井手口選手が飛び出す格好で牽制を図ります。

 しかしながら、ポジションを離れるということは、そのスペースを空けてしまうことになります。柏は、井手口選手を誘い出す形で、中央から(守備の)人を動かすことに成功します。人を動かしたことで縦パスのコース確保に成功し、相手の背後を突いていきます。先制点はまさにその形からのものでした。

 柏の配置による数的・質的優位に加えて、ガンバの2トップのプレッシング強度がそこまで高くなかったことから、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保した状態で試合は進みました。

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ロングボールによる前進という選択肢

 前述した通り、ガンバはボールを保持して試合を進めたい。だからボールを奪わなくてはならない。ということで、柏のビルドップに対して前から人数を合わせる形でプレッシングを行うことで反撃を目指します。特に柏陣地ではスペースよりも人への意識が強い印象を受けました。失った瞬間のゲーゲンプレスによって、即時回収を図ります。

 ガンバのゲームモデルがボール保持であることを織り込んでいる柏は、【ロングボールによる前進】という回答を用意します。【ロングボールによる前進】を選択できた理由は2つあります。①ガンバが前プレ(+ゲーゲンプレス)を選択したことで後方が数的同数だったこと、②柏の後方でのボール保持が安定していることです。

 まず、①についてです。
 【前プレ】とは、守備の枚数を前線からのプレッシングに合わせることです。そしてそれは、裏を返すと後方での数的同数を許容することです(最終ラインの守備は、1枚多く残すことがセオリーです)。

 加えて【前プレ】は、自分たちの背後に広大なスペースを空けてしまうことにも繋がります。つまり、この試合のガンバは、オルンガと呉屋の2トップ+江坂に対して後方が数的同数で守るリスクや、背後のスペースを突かれるリスクを受け入れることで前から守備、前プレを行ったということです。

 続いて②についてです。前述した通り後方でのボール保持が安定している柏は、自陣でボールを保持する時間が増えていきます。自陣からのビルドアップによる前進という狙いがあったほか、自陣でボールを持つことで相手の前プレを誘発する、つまり相手を柏陣地に引き込む狙いもあったものと思われます。

 相手の背後をつくためには、相手に出てきてもらう必要があるからです。 ネルシーニョ監督もオルンガと呉屋の併用について以下のように述べています。

相手が3バックだったというところで、大翔とミカの2トップにしたのは、2人が相手の最終ラインと駆け引きすることで相手には脅威になり、ボールを奪った瞬間に背後を取りに行ったりするプレーをやってほしいという狙いがあった。

 

【ロングボールによる前進】は機能したのか?

 【ロングボールによる前進】は効果的に機能する結果となりました。

 要因は3つです。①チーム全体で【ロングボールによる前進】を想定していたこと、②スンギュのキックの精度が高かったこと、②2トップが役割を果たした(ガンバのDF陣に負けなかった)ことが挙げられます。

 一番大きな理由としては、①チームとしてこの仕組みを事前に準備・想定していたことです。前プレを受けてのネガティヴなボールの放棄ではなく、狙いをもったポジティブなロングボールでした。だからこそ先手を打つこと、セカンドボールの回収に適したポジションを取ることが可能となりました。2トップが競ったセカンドボールを江坂が回収し速攻に繋ぐ流れには再現性を感じました。

 加えて、②スンギュのキック精度が相変わらず高いこと、③ネルシーニョ監督が2トップに求めた「駆け引き」の部分で勝利したことも、ロングボールによる前進が効果的だった要因です。

 3点目はこの形で呉屋が競り勝つ→江坂が回収→呉屋が裏を取るという流れからのものでした。

ボールを保持できなくなっていく柏

 しかしながら給水タイム以降、徐々にボールの支配はガンバに移ろう展開となりました。ガンバのシステム変更によって柏のプレッシング、守備の基準点が曖昧になったことで、ボールを奪えなくなったことが要因です。守備の基準が曖昧になったことで、プレッシングが定まらず、非保持の時間が増加しました。ここでいう【守備の基準】とは、「誰が誰を見るか?」を指してます。

 柏の守備は、ガンバの3CHに江坂+三原+サチローをぶつける形でスタートしました。大谷が余る格好となったのは、宇佐美選手(時にはアデミウソン選手)が中盤に降りることで前進を手助けする傾向にあることから、その対策のためだったと思われます。

 清水戦の【532】とシステムこそ違えど、奪いたい場所は同じです。中央からの前進を阻止し、サイドへ誘導したところでチーム全体のスライドによる圧縮でボールを奪う狙いがありました。CHが3枚であることから、横幅を使われたくないからです。

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 思うようにボールを運べないガンバは給水タイムに調整を行います。

 具体的には、ビルドアップ時の立ち位置の変更です。①中盤の底を1枚から2枚に増やすことで江坂のタスクを増加させる(迷わせる、判断を強いる)こと、②倉田選手を1列挙げて大谷の脇にポジションを取ることです。

 元々、ガンバの3CBに対して柏は2枚(オルンガ・呉屋)で追い掛けていることから、基本的には数的不利な状況です。なので、ガンバのビルドアップ隊には時間がある状況は立ち上がりと同様です。

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 立ち位置の変更後は、特に倉田選手のポジションが厄介でした。中間ポジションに立つことで、柏の守備の基準点を逸らしました。

大谷が見る→中央からの移動を意味。ガンバのトップに空けたスペースを使われてしまう
峻希が見る→ピン留めされてWBに自由を与えてしまう
三原が見る→江坂を助けにいけない

 という状況に状況に陥った柏は、徐々にガンバにボールを保持される展開で前半の残り時間を過ごしていきます。2トップで3枚を追うのも難しく、加えてガンバの中盤を捕まえることに苦労することで、前進を許す時間が続きます。

 この状況に柏は、「江坂・サチロー・三原が走りまくる」で対応していました。当然、プレッシングが後手に回ることから、ボールを奪う位置は低くなっていきます。

 しかしながら、低い位置でのボール奪取はガンバが攻撃している状況、つまり柏はカウンターを発動させる機会でもあるわけです。前を向いて奪った際は躊躇なく前線の2枚にボールを届け、局面を引っ繰り返すことで攻略を図りました。実際に2点目はカウンターから始まった攻撃の組み立てでした。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 今季のベストゲームといえそうです。オルンガ対策によってボールを持たされるゲームが続いたことで、カウンター以外にもポゼッションによる前進という手段の向上が図られました。保持もカウンターできるという、戦い方の幅を持つことは上位争いを続けていく上で絶対に必要な要素です。

 後半は、4バックに変更したガンバに対して間髪を入れず3バックに変更するなど、さすがの手腕を見せたネルシーニョ監督でした。(書きたかったけど、文字数・・・)

 怪我人続出で野戦病院と化していること、加えて過密日程の影響で練習がほとんどできない状況下で、これほどのチームを作り上げるネルシーニョ監督は尋常ではないと改めて思わずにはいられません。

 叶うなら、もう一度この監督とトロフィーを掲げたいと強く思った水曜日の夜でした。

vs清水(14節・2020/9/5) ビルドアップとか【532】とか。

柏のビルドアップ、前進について

 ルヴァン杯セレッソ戦と同様に【532】で試合に臨みました。

 清水は、ボールを保持することで主導権を握るゲームモデルを採用しています。ボールを持つことを強みとする相手を無効化、ネルシーニョ監督風にいうところの”ニュートにする”方法として、「ボールを与えなければいいよね」という考え方があります。以下、ネルシーニョ監督のコメントです。

相手の守備のオーガナイズ・空いたスペース、最終ラインの背後をしっかりと狙い、自分たちとしてはしっかりボールを握りポゼッションしながら攻撃の入口を作るということが非常に効率よくできていた 

  ということで、ボールを保持しながら主導権を握ろう!というプランで臨んだ我が軍のビルドアップを観ていきます。

サイドバックがフリーになるビルドアップ

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 ビルドアップは、CB3枚+ヒシャ・タニのCH2枚(たまに江坂かサチローが降りて3枚)で始まります。左右のCBはハーフスペースの入り口にポジションを取ります。

 清水の1トップもさすがに1枚で柏のCB3枚を見ることはできません。「ボールを持つことが信条だし、持つためには奪う必要があるから、プレッシングは行いたい。そもそも自由にさせると、古賀の縦パスもえげつない。」という問題に対して、SHがプレッシングに出るという解決策を講じます。

 しかしここで、「SHが出るなら、三丸を見るのは誰?」という新たな問題が降りかかる清水。清水のSHは三丸を気にしながらのプレッシングとなることから強度が低下、もしくは遅れが生じます。つまり、守備の基準点が逸らされている状況です。

 三丸に対しては、清水SBが出ていくことがセオリー通りではあるものの、そこに立ちはだかるのはサチロー。列を移動し、清水SBの前にポジションを取ることで、前に出られないように”ピン留め”をします(この役割は、サチローだけではなく呉屋だったり、江坂だったりと流動的に対応していました。)。

 「SBはプレッシング、SBはピン留めで出られない」・・・つまり、柏の三丸がオープンになる構造で前進を図ります。先制点についてもここからの前進によるものです。

 列の移動(大谷が降りたり)を行わなくても、初期状態で中央と左右のハーフスペースに人を配置できることはCBを3枚にしたことのメリットです。列移動は効果的な前進方法ではあるものの、移動に時間を要することと、本来いるべき場所から人が動くリスクを内包しています。

 相手のプレッシングに合わせてビルドアップの形を変えていくことが求められるのは当然ですが、この試合については初期配置の3枚が効果的な前進に寄与したものと思われます。

【532】について考える

 セレッソ戦から採用している【532】について考えていきます。この2戦は、効果的に機能している印象を受けます。

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どこで奪いたいのか

 【532】の構造上、清水のSBはオープンな状態になります。この構造で前から追い掛けてしまうと、オープンなSBに対応するために、少しずつ歪みが生じて前進を許してしまいます。プレッシングで後手を踏む状況が生まれます。

 【532】は中盤を広く使われることが弱点です。横幅の枚数が圧倒的に不足しているからです。これまで柏が使ってきた【4411】は横幅を4枚で見ることができたことから、1枚少ない格好です。

 そこで柏は、ボールの奪取位置をミドルゾーンに設定しました。相手のビルドアップに対して時間とボールを与えることを許容する代わりに、3CHのスライドで対応可能な位置での迎撃を目指しました。ミドルゾーンまで後退することで、相手の背後にスペースが生まれることから、カウンターを仕掛けやすいという狙いもあったかもしれません。

 ミドルゾーンでボールを奪うにあたって、重要な役割を担うこととなったのは2トップ(江坂・呉屋)です。前進を遅らせつつ、ボールをサイドに誘導するというタスクを与えられました。

 前からプレッシングに飛び込むのではなく、CHの状態・状況を確認しながら、中央のコースを牽制します。江坂も呉屋も相手のCBがボールを持った際に、首を後ろに振りながら(後方を確認しながら)パスコースを牽制している様子が窺えました。

 超人のヒシャ・タニ・サチローといえども、3枚で横幅を見ることは難しいものです。であれば、2トップが中央へのパスコースを牽制し、サイドへの誘導に連動する形で、CHの3枚がスライドすることで横幅の不足を補います。

 状況によってはCHが前に出ることで前から枚数を合わせていく”前プレ”を行う時もありましたが、効果的な奪取につながった場面は少なかったと思います。

(余談)ミカが復帰したら、【532】は採用しないんじゃないか

 横幅の不足を補うことで生じる歪み、つまり、どこかのスペースが空いてしまうことや、誰かが人一倍走ることで解決を図る際の消耗。完璧なシステムなど存在しないことから、許容可能なリスクをどこで取っていくかという判断になってきます。選手の個性や編成、相手の戦術や日程、大会のレベルなどを勘案して判断されます。

 【532】を採用するチームの横幅不足に対する一般的な対応方法は、①FW2枚で相手の4枚(CB+SB)を見る(2トップが走りまくる)、②CHがSBまでアプローチ(中盤が消耗)、③WB(柏の場合は三丸+北爪)の上下動(WBが死ぬ)といった3パターンが挙げられます。

 柏は、どちらといえば①に近い、2トップに負荷が掛かっている印象を受けました。絶え間ないコミュニケーションとポジショニングの調整は、この二人だからできたことだと思います。

 いや待てよ、江坂と呉屋の2人だからできたこと?じゃあ、ミカが帰ってきたらどうなるんだ?という話になってきます。メンバー外の要因については、ターンオーバーだったことがネルシーニョ監督から明かされており、早期の復帰が想定されます。

(ミカの不在について)連戦が続いていたことも踏まえてメディカルと協議をし、(ルヴァンカップC大阪戦から)アウェイの2連戦に関してはしっかり休ませようという判断でチームに帯同していなかった。

 意図的なターンオーバーを行った2試合でのシステム変更。

 この事実から、【532】の採用は、ミカ不在による特別オプションなのではないか、と解釈することも可能かと思います。

 なぜそうなるのか。

 一番に守備の強度です。守備の強度を求めるのなら、ミカよりも呉屋という選択になります。ネルシーニョ監督もミカの守備について、改善は認めながらも、ポジショニングについての課題を言及することが稀にあります。守備の強度を補って余りあるほどのリターン(得点)を得ていることから、目を瞑っている部分もあるものと思われます。

 また、コミュニケーションについて前述しましたが、江坂も以下のようなコメントを残しています。

(ミカと呉屋の違いについて)ヒロトとは喋って細かいことが共有できるので、そこで相手のポジショニングを見て話しながらプレーしている。 

 【532】の2トップに求められるタスクの量・質を考慮すると、ミカの復帰後に同布陣の継続採用については懐疑的な印象を持ちました。ミカを活かすことができずに消耗させるばかりか、守備に強度も不足するといった、誰も幸せになれない未来が想像できる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ただ、ネルシーニョ監督のこれまでを考えると、結果を残した【532】は負けるまで続けるような気がしないでもない。けど、ミカも使いたい・・・という状況で監督がどのような判断を下すのかは興味深いものがあります。当然、怪我人の回復状況によっても変わってくると思いますし。

 どちらにせよ、ミカ不在+CBが次郎だけという組み合わせ、かつ【532】という新システムで結果を残したことは非常にポジティブで自信につながったことは間違いありません。

vs鹿島(13節・2020/8/29) タイトルが思い浮かばない

 試合は、ボールを保持したい柏vs撤退からカウンターの機会を窺う鹿島といった構図で推移しました。

鹿島が撤退を選択した理由3つの理由

  1. 保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること
  2. そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること
  3. 柏のCBが本職ではないこと

 中5日の柏に対して鹿島は中2日。連戦を考慮し省エネモードで試合に入る鹿島は、442でミドルゾーン自陣よりに守備の陣形をセットしました。鹿島の2トップは、柏のビルドアップ隊に対して時間を与えないというよりも、コースを牽制する程度の強度でプレッシングを行い、サイドへ誘導したところを圧縮して回収します。

  鹿島はボールを奪取した際、シンプルに柏DFラインの背後にボールを放り込みます。理由は①保持しながらの前進・攻撃は、柏の長所であるカウンターの機会を誘発すること②そのカウンターを防ぐためには、トランジションに一定の強度が求められること(試合間隔が少ない鹿島にとって体力的に不利)③柏のCBが本職ではないこと・・・などが挙げられます。

 ①と②は大枠で解釈すれば同義かもしれません。チーム全体でボールを持ちながら、陣地を押し上げる・・・それは自分たちの背後にスペースを作ってしまうことになります。その背後のスペースを使わせないためには、失った瞬間にゲーゲンプレスを行う必要があります。背後を突く時間すら与えない強度のプレッシングを続けることが求められます。日程・気候等の諸条件を考慮すれば、断続的なプレッシングを行うことは懸命ではありません。

 ③については、柏の厳しい台所事情によるものです。既知の通り、CBに怪我人が続出しています。川口の投入直後、ロングボールへの対応がナーバスになったシーンが見られました。であるならば、ボールを保持しながら攻めることもないよね、シンプルにCB目掛けてボールを蹴っ飛ばした方が効果的だよね、という判断だったものと思われます。

 また、①②と同じ理屈で、ボールを持ちながら攻撃をする柏の背後にはスペースが存在します。そこを突こうという考え方は至極真っ当な選択です。

 鹿島・ザーゴ監督のコメントからも、柏のボール保持を織り込んだ状態で試合に臨んだことを読み取れます。

特に相手は中日に試合がなかったということで、おそらく戦略的にウチらにプレッシャーを掛けてくると予測した上で、逆にその強度を利用してひっくり返す

柏のボール保持について

 柏は鹿島が撤退を選択したことによって、ボールを持つ時間を得ることができたのは前述の通りです。

 柏のボール保持は、大谷が後方へ降りること(たまにヒシャもやる)で2トップに対して3枚で数的優位を確保する形となりました。そこにヒシャを加わえた【3-1】での前進を図りました。後方で数的優位を確保し、ボール保持の安定化を図ることで、SBを高い位置に押し上げる(SBが横幅を取る)時間を確保します。

 大谷は左のCB-SB間に降りることが多く、チーム全体としても左サイドからの前進が増えていきます。442でブロックを敷く鹿島に対して横幅を取る三丸のクロスからの得点を目指しました。深い位置を取った三丸のクロスボールからPA内へ侵入する場面が多数見られ、再現性を感じました。得点には至らなかったものの、あと一歩のところまでは崩すことができたと解釈しました。

 スタートの配置はサヴィオ左SH、江坂トップ下。これについても、クロスボールが増加することを織り込み、江坂を中央に配置することで中で合わせる枚数を確保する狙いがあったと考えられます。

 加えて休息なしに出場を続ける江坂のタスク・運動量の軽減を図る目的もあったものと思われます。

 しかしながら、江坂をトップ下に配置することは、サヴィオをサイドに配置することになります。サヴィオはウイングとして独力で打開を図るタイプの選手ではないことから、なるべく中央に配置したいというのが本音のところです。神戸、大分と連続でトップ下で起用されています。

 その落とし所、解決策として、横幅をSBに取らせ、サヴィオは内側の絞ったところからビルドアップを開始することが多かったように見えました。

最近のボール保持について

 柏は(リーグの)セレッソ戦以降、ボールの保持をゲームのプランに据えることが多くなっています。要因としては、オルンガを中心としたカウンターへの対策として「カウンターが怖いなら、柏にボールを持たせればいいよね」という戦い方を選択するチームが増えてきたことが挙げられます。つまり、外的要因によるパラダイムシフトを迫られた、と。

 加えてCB陣には負傷者が続出している状況にあり、撤退で守り切ることへの不安が生じます。事実として、鹿島戦後半は一人少なかったこと、前半で交代カードを2枚切っていたことなどイレギュラーな事態があったにせよ、撤退を迫られた展開で2度のリードを守ることができませんでした。

 撤退での守備に不安が残るなら、攻撃の時間を増加させること、ボールを保持する時間を増加させることで守備の時間を減らしていこう、と考えるのは論理的な判断と思われます。

vs大分(12節・2020/8/23) ボールを持ちたかったのだけど

柏のゲームプラン

ネルシーニョ監督

自分たちは幅を使ってじっくりボールを動かしながら攻撃の入口を見つけようというプランでこのゲームに臨んでいたが、相手の人数の揃ったコンパクトな守備に攻撃を阻止されるというシーンが非常に多かった。

  柏のプランは、ボールを保持しながらゲームを支配することでした。そのプランの中で、大分の組織的な守備を崩すことができなかった、というのが大きなゲームの流れだと解釈しました。
 余談ではありますが、「今季一番」と評したセレッソ戦以降、ボールを保持しながらゲームを進めることに自信を持った印象を受けます。大分を崩し切ることはできなかったものの、攻撃の選択肢に速攻(カウンター)と遅攻の2パターンを有することで、相手に的を絞らせないことが可能です。
 大分・片野坂監督も「始まってから見極める」主旨のコメントをダゾーンに残しており、「どのプランで来るかわからない」という幅を持つことは、立ち上がりから主導権を握る上で有効だと思われます。

大分のゲームプラン

 大分は、柏のカウンターを最小限に抑える(威力・回数)ことを前提として、ゲームプランを組み上げたものと思われます。
 

大分・鈴木選手

相手(柏)の一番の特長はカウンターだと思っていたので、そこでのリスク管理ルーズボールの処理はシンプルにやろうと臨んだ。

 柏のカウンターを警戒していたことを読みとることが可能です。カウンターが強みなら、ボールを持たせてしまえば良いという考え方であったものと思われます。
 守備では、柏のビルドアップに対して541の撤退を選択しました。自陣に低く構え、背後のスペースを埋めつつ、カウンターでの得点を目指すというプランだったものと思われます。
 ネルシーニョ監督も大分のプランと印象について以下のように述べています。

おそらく相手もカウンター狙いでゲームプランを立ててこのゲームに臨んだと思う

前半は自分たちのミスをうまく使われてカウンターに出て行かれるシーンが多く見られた

理想と現実(プランと実際)

 立ち上がりこそ柏のボール保持で試合が推移したものの、次第に大分がボールを保持する時間が増えていきます。柏の支配率は前半の給水タイムで43%、前半終了時点で48%、試合を通じて44%程度と、大分がボールを保持する展開で試合が進みました。

 非保持の時間が増加した要因は、

  1. 攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)
  2. ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 などが挙げられます。

1、攻撃が上手くいかなかったこと(大分の541撤退を攻略できなかった)

大谷選手

大分は守備の時にしっかりと組織的に戦うチームだとスカウティングの段階から理解していたが、自分たちが(攻撃の)最初の入り口のところで上手くボールを前線に運べなかったし、なかなか相手の嫌なところ、ライン間でボールを運べなかった。 後半は選手を入れ替えながら何度かサイドからワンタッチで中に入る場面はあったけれど、回数自体は多くなかったので、攻撃のところは課題が残ったと思う。

 柏の非保持の時間の増加(大分のボール保持の時間が増加)した要因は、監督や選手も述べているように、大分の組織的かつコンパクトな守備ブロックを崩せなかったからです。柏は横幅を広く保ち、ボールを左右に動かしながら、攻撃の糸口を探りました。
 しかしながら、大分の541という強固なブロックを前に攻撃が完結しないシーンや、ブロックに引っ掛かり、ボールをロストするシーンが目立ちました。
 大分がプレッシングに出てこない戦い方を選択したことから、大分陣内にはスペースがなく、柏は前進に難儀する様子が伺えました。ランニングによって裏へ抜けるスペースも、ライン間で受けるスペースもなく、難易度の高い(成功確率の低い)パスやドリブルでの打開が増加しました。

2、ボールを奪い返せなかったこと(大分のポゼッション、連戦によるプレッシングの強度不足)

 また、自陣のブロック内でボールを回収した大分は、ゴールキーパーを含めたパス交換によって、柏のプレッシング回避を図りました。自分たちがボールを保持することは、相手にボールを渡さないことでもあります。つまり、守備の時間を減少させることになります。
 元より大分は、ボールを保持しながら相手を自陣に招き入れつつ、空いた背後のスペースを突く「擬似カウンター」と呼ばれる攻撃を得意としています。
(擬似カウンター:本来は相手の攻撃→守備の瞬間に相手の背後を突くことをカウンターと表現します。「擬似カウンター」は、自分たちがボールを持った状況でカウンターに似た状況を作ることから、「擬似」と形容詞がついたものと思われます。) 
 大分は、擬似カウンターのきっかけでもある自陣でのボール保持を得意としていることから、容易に柏のプレッシングを回避に成功しました。
 
 柏としては、奪い返せなかった局面と、体力の消耗を考慮して自陣に構えた局面とが存在しており一様に断じることは難しいものの、結果的に大分にボールを渡す時間が増加しました。
 連戦に次ぐ連戦の影響でプレッシングの強度を保つことが出来なかった側面も強かったものと思われます。

www.targma.jp

 三原選手が鹿島戦前のコメントで大分戦について言及しました。有料記事であることから引用は差し控えます。要約すると、「もう少しボール保持の時間を増やしつつ、前で奪ってショートカウンターを仕掛けたかった」旨の発言です。

vs神戸(11節・2020/8/19) これぞポジショナル・プレーな神戸

疑問1:なぜ劣勢だったのか?(特に前半)

答え:神戸のポジショナル・プレーに守備(プレッシング)の基準点を崩されたから

前半の戦い方が良くなかった。(中略)どうしても守備においてラインが低くなってしまう時間帯が続き、相手にそこを突かれてボールを握られる中で相手に先制点を許してしまい0対1で折り返したという展開だった。

 ネルシーニョ監督も述べているように、前半は神戸に主導権を握られる展開で推移しました。プレッシングを行うことができず、守備ラインの後退を強いられたことで、ボールと時間を神戸に与える展開となりました。
 私は、理由を以下の3つだと解釈しました。
  1. 後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
  2. SHが援護射撃に出るべきか、という迷い
  3. 降りないことで柏のDHを留める神戸のCH
①後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップ
 柏のプレッシングが嵌らなかった要因の1つ目は、後方で数的優位を確保する神戸のビルドアップへの対応に苦慮したことです。
 柏のプレッシング2枚(江坂、ミカ)に対して、神戸は2CB+CHもしくはGKがビルドアップに加わることで数的優位を確保します。神戸は、後方での数的優位によってボールと時間を確保(ポゼッション)し、柏の2トップのプレッシングを無効化することで前進を図りました。

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 柏は2トップのプレッシング(パスコースの限定や、ロングボールの誘発)に中盤が連動することでボールを奪う守備を採用しています。つまり、柏の2トップのプレッシングが守備のスタートであり、守備の基準点となります。神戸は後方で数的優位を確保するポゼッションによって、柏の守備の基準点を逸らすことに成功したことから、主導権を握りました。
 この「守備の基準点を逸らされた状態」こそが、「プレスが嵌らない」と表現される状態です。ネルシーニョ監督がコメントとしている「守備ラインの後退」とは、プレッシングが嵌らなかったことから、中盤が連動できず撤退を強いられた状況を指しているものと思われます。

 
②SHは援護射撃に出るべきか、という迷い
 プレスが嵌らなかった要因の2つ目は、SHが援護射撃にできるべきか?と判断を強いられたことです。
 数的優位を確保する神戸のビルドアップ隊に対して、柏はFWが全力で走ることで解決を図るのか、SHが持ち場を離れてアプローチに出ていくべきか、という判断を強いられました。判断を要することこそが迷いです。そして、その迷いこそが基準点を逸らすこととなります。

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 柏は、FWとSH(CHも含む)の連動によってサイドでボールを刈り取ることを強みとしています。その連動に迷いが生じたことから、中途半端(強度不足もしくは、そもそもアプローチに出られない)な対応を強いられる展開となりました。
 判断を強いられた柏のSHは、無理なアプローチに出るよりも、守備ブロックの維持を優先したことから、大きく陣形が崩れる事態には至りませんでした。持ち場を離れてアプローチに出て行った場合、大外からの前進を許すこととなるからです。何度かそのようなシーンが見られたことも事実です。
 44という守備ブロックは維持できたものの、FWのプレッシングに連動出来なかったことから、守備ブロックが押し下げれる状況、つまり神戸にボールを保持される展開での推移を許しました。
 
③降りないことで柏のCHを留める神戸のCH
 プレッシングが嵌らなかった3つ目の要因は、柏のDHが前に出られなかったことが挙げられます。神戸のCH2枚の立ち位置によって、柏のCH2枚(タニ・ヒシャ)はプレッシングに出られない状況にありました。

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 神戸のCHは、ボールを貰いに後方へ降りていくことはせず、中盤に留まることで柏CHをピン留めすることに成功します。自分が降りていくことで、相手選手を引き連れてしまうことを理解したインテリジェンスを感じる立ち位置です。仮に柏の2CHが2トップの援護射撃に出るのであれば、中央でボールを受けることができます。
 柏のCHとしても、ボールと時間を有している神戸のビルドアップ隊に対し、中央の持ち場を離れてでもアプローチに出て行くという選択肢はリスクが大きすぎます。中央からの前進は、ゴールへ最短ルートでの攻略を許すことと同義です。イニエスタと山口蛍というクオリティの高い選手が相手だということを考慮する必要もありました。
 繰り返しますが、神戸CHがボールを受けるために後方へ降りないことで、柏の中盤がプレッシングに出て行くことを牽制しました。これこそがポジショナル・プレーでいうところの位置的優位です。
 ポゼッションを志向するチームだからといって、中盤の選手が必ずしもボールを貰いに降りて行くわけではありません。降りないことが、結果的に後方で数的優位を確保することにつながっています。
 

疑問2:後半、少し改善したように見えたのはなぜ?

答え:プレッシング(守備)の基準点を明確にしたから

 後半に入り、攻撃に出ていく場面が増えました。この疑問への回答については、ネルシーニョ監督が簡潔に答えています。

ヴィオを投入して相手のビルドアップに対してより高い位置でプレッシングに出ていき、前からボールを引っかけてショートカウンターを狙った。
ヴィオの特徴であるボールを持って相手に対して仕掛けられる、ボールが運べるところ、ゲームのテンポを変えてアクセントがつけられるような選手が必要だった。任はボールを引っかけてからショートカウンターに出ていく際により攻撃に出て行けるようなポジションでプレーさせたいという狙いを持ったポジション配置だった。

  前から嵌められる時は嵌めていこうという考え方を整理して臨んだ印象です。仲間選手も以下のように述べています。

ちょっとしたことだが、後半は全員の前に行く意識が一つになったことが大きかった。 

 「SHが援護射撃に出るかという判断」について「疑問1」で述べました。最もわかりやすい修正はこの点だったと思いました。後半開始以降、SHがCBまでアプローチに行く回数が増えました。「前から枚数を合わせていく」という考え方を今一度整理することで、守備の基準点を明確にしました。神戸のビルドアップ隊から時間とボールを奪い、少ない手数での得点を目指しました。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半は、前から行く意識を強くしたことでプレスを回避されることもありました。後方に存在するスペースを突かれ、オープンな状態で前進を許す場面が増えたことも事実です。決定機は後半の方が多かった印象(僕調べ)です。リードを許していた状態であることから、失うものは何もない!という考えもあったものと思われます。
 

vsセレッソ(10節・2020/8/15) ボールを持てるようになってきたかもしれない。

 結果は残念なものとなりましたが、内容は悲観するものではありませんでした。ネルシーニョ監督も「内容は今季一番」との認識を示し、自分たちの現在地が間違ってはいないこと、継続することの重要性を選手にも伝えたとコメントを残しています。

(内容は今季一番とだと見えたが、勝敗を分けたのは?)
自分もそう思っている。ゲームの入りから良いテンポで選手たちのクオリティ・個々の特徴も生きていたと思う。ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。

今日の戦い方を続けていけば、おのずと結果は訪れると選手たちにはロッカーで伝えた。しっかり次節に向けて継続しながら準備をしていこうと選手たちに伝えた。 

 疑問1:なぜボールを保持できたのか?

答え1:セレッソの守備の最優先事項が「背後のスペースを空けない」だったから

 試合を通じて柏のボール支配率は60%に近い水準で推移しました。この現象は、セレッソのゲームプランが要因だと解釈しました。
 セレッソは、守備時の最優先事項を「背後のスペースを空けない」ことに設定していたものと思われます。前線からのハイプレスによるボール奪取を目指すというよりは、まずは自陣に撤退することでスペースを与えないことを優先事項とするプランだったように思われます。
 そのプランを選択した理由は、柏のカウンターを警戒したことや、猛暑と過密日程による消耗を最小限に抑えることなどが挙げられます。柏と同様にカウンターを長所とする東京との対戦時でも撤退を選択していたことから、そのように解釈いたしました。
 柏がボールを保持できた理由は、セレッソが撤退を選択したことで、柏のビルドアップ隊は時間とボールを確保したからということになります。「疑問2」で触れますが、CBに太陽を選択した理由もここにあるものと思われます。

答え2:柏の守備が良かったから

 以下はセレッソ大阪・ロティーナ監督のコメントです。

柏のプレスの前に、ボールを失い過ぎて、攻撃を受ける回数が増えました。

Q:ボール保持の時間も短く、苦しい展開が続いた中で、相手にクロスやシュートもかなり打たれたが、今日の守備で特に良かった点は?
「ビルドアップではうまくいかずに、守備の時間が長くなりましたが、チーム全体でいい守備ができたと思います」

 ロティーナ監督は、「柏の守備がよかったことから、ボールを失ってしまい守備の時間が増えた」と述べました。

柏の[守備]対応 

 柏の[守備]は、セレッソのビルドアップに対して、前から枚数を合わせる形でプレッシングを行いました。ミカの第1プレッシングで中央のパスコースを遮断し、江坂やCHが連動することで、サイドにボールを誘導したところで、奪い切るorロングボールを蹴らせるというのが基本的なスキームでした。柏のプレス回避のため、セレッソはロングボールによる前進を図る場面が増えていきます。しかしながら、太陽・祐治が競り勝つことで柏がボールを回収し、再び柏がボールを保持する時間が続きました。

柏の[攻撃→守備]の対応

 柏がボールポゼッションによって敵陣に押し込む展開でゲームが推移します。柏のボール保持の際、柏ベンチからCB(太陽と祐治)に対して「もっと押し上げろ」「コンパクトに」との指示が頻繁に飛んでいます。つまり、敵陣でボールを失った瞬間にすぐさまプレッシングを開始できるよう全体をコンパクトに保つ必要がありました。ボールの逃げ場所を潰しておくことで、前線で奪取に成功すればショートカウンターを、ロングボールを蹴ってくれば最終ラインでの回収によるボールポゼッションの回復を図るスキームです。

疑問2:なぜCBは川口ではなく太陽だったのか?

 マリノス戦、大分戦とCBとして十分な働きを見せた川口がメンバーから外れました。太陽が右SBとして好調を維持していたことから、CB川口・SB太陽を予想するメディアが多かったものの、ネルシーニョ監督はCBに太陽を起用しました。その理由を解釈してみます。

答え1:ボールを保持する展開を織り込み、ビルドアップを期待したから

 「疑問1」で触れたように、ボールを保持する展開でゲームが推移することは、スカウティングの段階で想定できたものでした。足元の技術に優れた太陽をCBに起用することで、後方からのポゼッションやビルドアップの質を向上させることが目的だったと思われます。ボールと時間を有する展開であったことから、相手のブロックを動かしながらの前進が求められました。柏アカデミー出身者らしい振る舞いによって、十分に与えられたタスクを遂行したものと思われます。ネルシーニョ監督も以下のように述べています。

古賀は終始落ち着いて良さや個性をしっかり全面に出しながら、攻守においてビルドアップでも起点になってくれていた。

答え2:ロングボール(空中戦)対策

 「疑問1」でも触れたように、前からのプレッシングによって被ロングボールの回数が多くなることが予想されました。空中線の対応はCBを本職とする選手に任せたい、という考えがあったものと解釈しています。前節・マリノス戦後に川口が興味深いコメントを残しています。

真ん中では普段と全く違う見慣れない光景で難しいところはあったが、足元で繋いできてくれる分、自分としては空中戦が多いよりは対応しやすかった。

  マリノスのゲームモデルを鑑み、空中戦にはならないことを織り込んだ上で、川口CBという判断に至ったのではないかと思われます。セレッソ戦では、空中戦やロングボールでの対応が求められることから、太陽を選択したと解釈すると筋が通っているように感じます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

ゲーム全体のボリュームを見ても非常にいい入りができた。あとはボールが(ゴールに)入るだけだったというゲームの内容だった。フィニッシュの数の数字を見ても自分たちが20本近く打っているの対して、相手は6本という結果もみている。ただ、敗戦という事実には真摯に向き合わなければいけない。

 ネルシーニョ監督のコメントがこの試合の全てを表しています。年に数回はこんな試合あるよね・・・というゲームだったと思います。
 ミカ対策(要はカウンター対策)によって背後のスペースを消してくるチームが増えてきました。自ずとボールを持つ時間が増えることとなります。ビルドアップやポゼッションの質を向上せざるを得ない状況です。
 ネルシーニョ監督もビルドアップの際のポジショニングや体の向きなど、以前よりも細い部分まで要求している様子が窺えます。特に、ボール保持者がオープンな状態(前が空いている状態)にもかかわらず、ドリブルでの持ち運ぶことを放棄した際には厳しく指摘しています。

vs横浜(9節・2020/8/8)この素晴らしいネルシーニョコメントに祝福を

 ネルシーニョ監督のコメントが簡潔明瞭に全ての疑問に答えてくれています。個人的にいくつか生じた疑問がありましたので、ネルシーニョ監督のコメントを参考に解釈していきます。

疑問1:今日のゲームプランは?

答え:撤退で耐えながら、相手の背後にあるスペースをカウンターで突く

 まずは、どのようなプランで試合に臨んだのかを探ります。
 マリノスのサッカーと言えば、ポジショナル・プレーを想像する人も多いのではないでしょうか。ポジショナル・プレーを端的に表現すれば、ボールを保持しながら3つの優位性(位置的優位、数的優位、質的優位)を活かしてプレーすることです。
 ボールを握ることで可能な限り[守備]の局面(時間)を減らします。ボールを失った瞬間(ネガティブ・トランジション)に強度の高いプレッシング(ゲーゲンプレス)を行います。また、相手のビルドアップに対しては、ハイプレスを行います。柏にボールと時間を与えず、[守備]の局面(時間)を減らすことで、[攻撃]にリソースを割くことが目的です。
 攻撃的かつ特徴が明確な相手に対して、ネルシーニョ監督は以下のプランで臨んだと述べています。

相手は非常に攻撃的なチームだが、ネガティブトランジッションであるボールを失ったタイミングで守備が揃わない時間帯は当然あると見ていた。ボールを奪ってから空いたスペースを攻撃的に攻めていこうという狙いを持っていたがなかなかうまくボールを握れず、相手の空けたスペースを効率よく突けなかった部分が当初のプランと違ったところだった。

  横浜がボールの保持を強みとしていることは前述しましたが、ボールを保持するためには相手からボールを奪う必要があります。そのための手段がゲーゲンプレスやハイプレスです。ゲーゲンプレスやハイプレスを行うためには、チーム全体が高い位置でコンパクトな陣形を維持する必要があります。つまり、背後には広大なスペースが存在していることとなります。
 ネルシーニョ監督は、横浜のネガティブ・トランジションの強度が低下する瞬間があると分析した上で、相手の背後を素早く突いていくことをプランとしました。背後へのランニングで強さを発揮するミカの存在も非常に大きいです。
 ボールの保持を強みとする相手に対して、こちらもボールの保持で対抗するのではなく、自陣に構えてボールを引っ掛けてから、素早くカウンターで刺すというプランで勝点の獲得を目指しました。

疑問2:あまりにも[守備]の時間が長かったと思うけど?

答え:カウンターに急ぎ過ぎて、ボールを放棄してしまったから

 文字通り手に汗握るゲーム展開となりました。体感時間としては、90分とは思えないほど長く感じました。それは押し込まれる時間、つまり、[守備]をする時間が長かったことが要因だと思われます。最終的なボール保持率は35%程度でした。
 なぜ[守備]の時間が増えたのか?について、ネルシーニョ監督の見解です。

それでも固くしっかりと相手の攻撃を許さない守備ができていたと思うが、(ボールを)引っかけてからカウンターに出ていくタイミングで縦に急ぎすぎて、ボールを入れるがすぐにボールを失うという流れが続いた。(ハーフタイムに)もう少ししっかりとボールを握る必要がある、相手が空けるスペースをしっかりと見つけて、ボールを奪ってから慌てて前に入れるのではなく、じっくりしっかりボールを握ろうと選手たちに伝えた。

 要約すると、縦に急ぎ(カウンターに)過ぎたことから簡単にボールを放棄してしまったことが原因です。換言すれば、ボールを保持できる場面でも手放してしまったということです。カウンターは、陣形の整っていない相手を崩す有効な手段ではあるものの、ボールを大切にする選択肢ではありません。当然、後方でボールを繋ぐ方が安全にボールを保持することが可能です。以下、三丸選手も同様のコメントを残しています。

もう少し自分たちのボールの時間帯を増やしたかった。ハーフタイムに監督からも話があり、ボールを取った後に前に急ぎすぎてしまっていたところもあった。 

 加えてマリノスのハイラインの攻略に苦労したことも要因の一つです。オフサイドに掛かってしまうことで、相手のボール保持が始まってしまう場面が目立ちました。
 カウンターでの攻略がメインプランではあったものの、ボールの保持を強みとする相手に対してボールを与えてしまうことは得策ではありませんでした。ネルシーニョ監督は、ボールを保持できる場面では保持する、何が何でもカウンターではないという、状況に応じた判断を選手に求めています。
 実際にゴールキックから[攻撃]が始まる場面では足元で繋いでいることから、「ボール保持=全て裏を狙う」というプランではなかったことを読み取ることが可能です。

疑問3:後半から良くなったと思うけど?

答え1:後半の立ち上がり選手の立ち位置を変更したから

 後半の立ち上がりから、442(4411)から433に近い形に変更することで、守備の基準点を整理しました。

システムの変更というよりポジショニングの変更だった。(仲間)隼斗をより真ん中に置いたのは相手のサイドバックの小池選手が中に入ってプレーをする時間帯がゲームの序盤から続いていたので、そこで引っかけてからカウンターに出ていくようにという指示を出した。

 前半は44で自陣にブロックを形成する形で守備をセットしました。マリノスのアンカーである喜田選手を江坂選手がマンツーマンで牽制する形です。しかしながら、結果的にはプレッシングが掛からず、前進を許す場面が多く見られました。
 原因は、小池選手がサイドから中央にポジションを移動すること(所謂、ロール)で中央に数的優位を作られてしまったからです。江坂選手は喜田選手を牽制する役目を担っています。CH(ヒシャ・タニ)は持ち場を離れてしまうと中央のスペースを空けることとなるので出られません。このようなギャップを生み出すスキームこそがポジショナル・プレーです。相手のビルドアップに自由を与え過ぎたことから、44でのブロックを動かされる原因となりました。
 相手のビルドアップを牽制することで、前進を制限する必要がありました。そこでネルシーニョ監督は、仲間選手を小池選手に付けることで、見るべき相手を明確にしました。守備の基準点を整理し、ビルドアップの牽制を図りました。

答え2:戸嶋選手の投入によって、守備の強度およびカウンターの質を向上させたから

 後半の開始から瀬川選手→戸嶋選手に交代カードを切りました。

前半なかなか中盤のところを使われて相手にボールを握られるという時間帯が続いていた。彼は左サイドに入って守備だけでなく、ボールを引っかけてから攻撃にもしっかり出てくる特徴の選手なので、少し流れが変わったと思う。

 中央の枚数が噛み合わない場面が多く見られました。相手は中盤が3枚であることに加え、小池選手が中央に入ってくることを通じて中央の攻略を図りました。相手選手を掴まえ切れずに、チャンスを与える場面がありました。
 そこで中盤に枚数を確保し、守備の強度向上を図ることで、ボールを奪うことを目的に戸嶋選手を投入しました。
 また、サイドハーフでの出場も増えてきていることからも、ネルシーニョ監督から攻撃の質を評価されていることが窺えます。前に出ていく走力と前で仕事をできる技術を有しています。本職である瀬川選手と比べ、攻撃の質に若干の見劣りは見えるものの、守備の強度等を含む総合的な判断によって至った意思決定だと思われます。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 非常に痺れるゲームでした。カウンターで刺すプランだったものの、構え過ぎてしまあった感は否めませんでした。ボールを保持できなかったことも含めて、ポゼッション志向のチームとの対戦では今後も苦戦を強いられることが予想されます。
 しかしながら、ここからは(大分、セレッソ、神戸)ボールの保持、ポゼッションを得意とするチームでとのゲームが続きます。リーグ戦も上位につけており、ACL圏内が十分に狙えるポジションです。怪我人の回復を待ちながら、何とか乗り越えたいとことです。耐える8月、我慢の8月となりそうです。