vs浦和(6節・2020/7/22) 勇気を出してボールを繋ごう。

 ミッドウィークで時間もないことから、簡単かつ手短に振り返る。先制点について、少し強引に理由を付けてみるエントリー。

前半もしっかりと守備が機能していた。相手が前がかりに攻撃を仕掛けてくる時間帯もあった。前半は守備が機能していたが、ボールを引っかけてから効率よく攻撃に出ていくということがなかなか出来ていなかった。(ハーフタイムに)しっかりとボールを握ろう、相手のスペースに攻撃に出ていくことに急ぎすぎているので、しっかりとボールを握りながら空いているスペースを見つけて攻撃の形を作っていこうと指示した。 

前半良くなかったところは、前でなかなかタメが作れなかったところ。良い守備から入れたが、そこでボールを引っかけてから攻撃に出ていくタイミングでボールロストするシーンが目立った。慌て急いで前にボールを蹴り込んで空中戦に持っていっても我々のゲームのペースを握ることはできないので、簡単にボールロストするのをやめようと話をした。

 ネルシーニョ監督のコメントを読むと、この試合は「ボールを持つことで主導権を握る」プランだったと理解することが可能だ。しかしながら、序盤は柏がボールを保持できない(浦和がボールを保持する)展開でゲームが推移していく。
 理由は、浦和が高強度のプレッシングを行うことで、柏からボールと時間を奪おうと振る舞ったからだ。
 浦和のプレッシングをまともに受けることとなった柏のビルドップ隊は、ボールを繋ぐことができず、ロングボールでの回避を図る。つまり、意図しないロングボールによる回避だ。(降雨の影響でピッチコンディションが読めず、安全を最優先とした判断だった可能性もあるが) 

 苦し紛れのロングボールが前進に寄与する場面は少なく、セカンドボールの回収には及ばない。全体の押し上げ、つまりは陣地の回復が図られず、撤退を強いられる展開となった。
 ボールを保持できないということは、攻撃の時間が減少することであり、守備の時間が増加することを意味する。自分たちのペースで試合を進めるためには、ボールを握ることが求められる展開となった。
 ネルシーニョ監督は、前半の守備についても一定の評価を与えたものの、ライン間や背後を攻略される機会は一度ではなかった。前半だけで被シュートは6本だったことや、航輔の好セーブが目立ったこということは、それだけ決定機を与えていたと考えていいだろう。

 しかしながら、給水タイム以降、徐々に変化が起こる。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレッシングを回避しようとボールポゼッションを開始する。具体的には、横幅に広くポジションを取ることで、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで時間を確保する。つまり、浦和のプレッシング隊に長い距離を走らせる(動かす)ことで、プレッシングの連動性低下を図る。集音マイクがタニの「動かせ」という指示を拾っていることもその裏付けと言える。
 柏のビルドアップ隊は、浦和のプレスの連動性低下によって、パスコースを認識する時間を確保することに成功する。浦和の守備陣を動かすことで、中央へのパスコースを作り、ヒシャやタニ、中盤へ降りてきた江坂がボールを受ける。チーム全体でボールを握る時間が増加していく。
 浦和は何がなんでもプレッシング!というチームではなく、プレッシングが回避された際は、中盤に442のブロックを形成する。プレスと撤退を使い分けることができる。つまり、最初のプレッシングを回避することができれば、一旦は柏がボールを保持する局面を生み出すことが可能だということだ。

勇気が掴んだ先制点

 ボールを保持することの有効性は理解しているものの、自陣低い位置でのポゼッションには恐怖が伴う。1つのミスが失点に直結するからだ。
 それでも恐れずに勇気を出してボールを繋いだことが先制点に繋がった。浦和のパスミスも要因のひとつではあるものの、なぜあの位置でボールを奪えたのか、ミスを誘発できたのか、という点を大きな流れとして捉える必要がある。
 30:06〜のビルドアップが先制点に繋がっている。自陣低い位置からのボール保持ではあったものの、恐れずに足元でボールを繋ぎ中盤を経由したことで、全体の押し上げ(陣地の回復)を図ることができた。
 全体での前進に成功したことから、浦和のビルドアップ(ゴールキック)に対して高い位置でプレッシングを開始することができたものと考える。浦和のゴールキックという状況は、柏は敵陣まで前進が成功している状況でもあるからだ。浦和が繋ごうとしてくれたことで、高い位置でのプレッシングに移行できたという幸運は確かにあるのだけど。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 先制点に理由を付けてみた。これを解釈と呼ぶのかもしれない。正解なんてないから、間違いもないと言い訳をしておく。
 しかし、サッカーにおける唯一ある正解は、現場の声である監督や選手のコメントだと私は考えている。何かひとつ正解や基準が存在しなければ前には進めない(書くことが難しい)。だからこのブログでは引用を多用している。コメントを重要視する。メディアの前で、本当を全て語ってくれるとは思わない。しかし、僕にできることはせめて言葉の端々から本当を読み取り、肯定することくらいだと考えている。

 

vs湘南(5節・2020/7/18) 532の攻略とロングボール

 長えよ!と思った方は※太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 今節の勝因は、攻撃が良かったことだと考えます。
 それを踏まえて、

  1. 湘南の532脇から前進
  2. ハイプレスにロングボールという定石
  3. 良い[攻撃]は、良い[守備]から

をピックアップしていきます。

1、湘南の532脇から前進

 システムの噛み合わせの問題です。湘南は守備時532で陣形をセットします。図を見ると一目瞭然、柏のSBが空く(前を向き、時間的余裕がある)状態でビルドアップを開始することができます。当然、湘南もそれは織り込んでいるので、対策は講じています。つまり、柏の攻撃は、SBの振る舞いに大きく左右される展開となりました。結果的に、左利きでボールを扱う技術に長けてた三丸選手からの効果的な前進が勝利へ寄与しました。

図解します①(オープンになるSBと湘南のスライド)

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 SBが空くとは図のような状況を示します。
 しかしながら、「空く」とは言うものの、この状況は構造的な問題であり、湘南も予め織り込んでいます。前々節(マリノス戦)の湘南は中盤3枚のスライドによるSBへのアプローチを行っていました。素早く片方のサイドに寄り(圧縮なんて表現も)、柏のSBにボールを持たせる(出すところがない状況)ことで圧力を与えます。

図解します②(スライドに対する柏の対策)

 中盤3枚のスライドによる圧縮は、事前のスカウティングにおいて把握できることから、柏も対応策を講じます。

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対応策①スライドさせない

 「じゃあスライドさせなきゃいいじゃん!」という発想で打開を図ります。SHの仲間選手は、サイドに開くのではなく内側にポジションを取ることで湘南のIHをピン留めします。
 質的優位(個人での打開力)を有する三丸選手を放置することができない湘南は、WBを押し上げることでアプローチを行います。

 

対応策②WBの裏を狙え

 対応策①でWBを引っ張り出すことに成功した柏が次に狙うのは、背後のスペース(主にWBの裏)です。
 
仲間選手が内側に絞っていることから、裏への抜け出しは江坂選手(とミカ)のタスクとなっています。三丸選手からの縦パスによる裏へのロングボールが効果的に機能しました。
 WBの裏であるサイドの深い位置を攻略します。ミカが中央に控えていることからシンプルなクロスによる攻撃や、江坂選手が時間を確保することで全体の押し上げを待つ場面など多様な攻撃でPAに迫ることができました。

 

三丸選手の質的優位性を活かした532の攻略

 「放置するわけにはいかない」とWBを引っ張り出すことができたのも、背後のスペースへボールが出たことも、三丸選手の質的な優位性を活かしたものとなりました。
 待望の左利きのSBとして、左足で縦へ前進のパスが出せる三丸選手の存在は今後、より存在感を増していくものと思われます。
 結局、左SBが左足でボールを保持できないと、パスを受けたところでCBに戻すか、苦し紛れのロングボール程度しか選択肢がなくなってしまいます。
 昨年の序盤や今季に入って効果的なビルドアップができなかった要因の1つであり、課題でもました。

2、ハイプレスにロングボールという定石

 湘南はハイプレスの得意なチームです。その目的は、ボールを相手に与えないことよりも、奪ってからのショートカウンターにあるものと考えます。 
 上述したSBが空いてしまう構造を踏まえ、プレッシング・スタートの合図は、柏のSB→CBにパスが出た瞬間です。中川(寛)選手のクレバーなプレッシングと驚異的な運動量によるチェイシングは、ボール保持をアイデンティティとするマリノスさえ苦しめるものとなっていました。

ハイプレスへの対応策としてロングボール

 マリノスさえも苦しめたハイプレスに対して、柏が講じた対応策はロングボールです。
 ハイプレスを行うということは、背後には広大なスペースが存在していることとなります。細かいことは考えず、シンプルにそのスペースを突くことで攻略を図りました。プレッシングへの打開策として、ポゼッションで回避を図った川崎戦(回避できなかったけど)とは対照的な方法で攻略を図ります。
 苦し紛れのロングボール(ただのクリア)になってしまった川崎戦との相違点は、予め蹴ることを織り込んで試合に臨んだことです。つまり、プランとして組み込んでいたことです。
 ロングボールが前提だったことから、江坂選手を初めとする2列目の選手はセカンドボールの回収を前提としたポジショニングが可能となります。江坂選手が前を向いてプレーする機会・時間が多かったことがその証明です。ミカが競る準備ができたことは言うまでもありません。

 

3、良い[攻撃]は、良い[守備]から

 攻撃について触れてきましたが、[守備]がよかったことも特筆すべき点です。
 442(4411)によるブロック形成は、適切な立ち位置に配置されていることから、攻撃への移行がスムーズ(効果的なカウンター)です。上述したように、ロングボールが前提であり、セカンドボールを回収する必要があったことから、SHがスムーズに攻撃へ移行できることは重要です。
 また、パスの出し手となる茨田選手からのビルドップを阻止するために、江坂選手をマンツーマンで対応させましたこれによって、江坂選手は中央にポジションを取ることが可能となります。つまり、奪った瞬間に茨田選手(アンカー)の脇で起点を作ることができることに加え、ミカとの距離が近いことから、セカンドボールの回収可能性が格段に向上することとなりました。

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締めの言葉というほどのものではないけれど

 仲間選手や三丸選手の活躍は言うまでもありませんが、個人的に影の立役者として江坂選手を上げたいと思っています。もう、今は江坂選手に依存する部分が多すぎて、逆に少し不安要素ではあります。「個人のリソースに依存する組織なんてもろい」的なことを漫画『左ききのエレン』で誰かが言っていた気がします。まあ、代えが効かないというのは、それだけ特別であることだと思いますが・・・。

 

vs川崎(4節・2020/7/11) ボールの保持と撤退。

太字だけ読んでもらえばある程度は内容がわかるようになっています。

 敗因は、川崎にボールを握られてしまったことです。ボールを川崎に渡したことで、主導権を握られたまま時間が推移していきました。
 今回は、なぜボールを握られてしまったのか?について3つ理由を挙げました。

  1. そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

  2. 柏はプレッシングよりも撤退を選択した

  3. 相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

1、そもそも川崎はボールの保持によって強さを発揮するチーム

 このゲームを解釈する上での前提として、川崎のゲームモデルはボール保持によってゲームの主導権を握ることです(今更ですが)。つまり、ボール保持に自信を持っています。ボールを保持した際の強さ、クオリティについては、身を持って体験したばかりです。

 ボールを保持すること=ボールを奪うこと

 ボールを持った状態で強さを発揮するチームということは、川崎自身がボールを保持する(相手にボールを渡さない)必要があります。

失った瞬間のプレッシング(ゲーゲンプレス)によって相手にボールと時間を与えず、自分たちがボールを保持する時間を増やすことで主導権を握ります。
 前半で、2得点かつボール保持率は60%を上回るなど、結果・内容ともに川崎の思惑通りに推移する展開となりました。スタッヅという定量的な記録ほど真実を雄弁に物語るものはありません。

2、柏はプレッシングよりも撤退を選択

 柏は、ボールを持つことが得意な川崎に対して、撤退からのカウンターという対策を講じました。ミカによるCB→CHへのパスコース遮断や、3CHによる縦パス封じなど、中央を堅めながら、奪ってからは素早いカウンターで川崎の背後を刺すというプランです。しかしながら、撤退は川崎に時間とボールを与えることと同義でした。つまり、撤退する柏への打開策を考える時間を与えることとなり、結果・内容ともに圧倒されることとなりました。

対川崎のプランは、撤退からのカウンター。

 ネルシーニョ監督のコメントを読んでみます。

序盤、相手に対して守備のところ、ポジショニングもそれほど悪くなかったが、クオリティの高い川崎に対して、ボールを引っかけてからの効率的なカウンターに出て行けなかった。ボールを奪った後に、カウンターに出ていく際のオプションがなかった。

 コメントの内容と、後述する守備陣形を踏まえ、撤退からのカウンターというプランでゲームに臨んだと解釈しました。ボールの保持を得意とする川崎に対して、守備の時間は増加してしまうものの、自陣に引き寄せることで空いた背後のスペースをカウンターで狙うということです。

 

451で守りたかったもの

 撤退時に451を採用した目的は2つです。①アンカー経由の中央からの前進を阻止と、②3CHによる縦パス封じです。

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①アンカー経由の中央からの前進を阻止

 中央からの前進を阻止するために、ミカに与えられてタスクは、CBからCHへのパスコースを遮断することです。プレッシングによるボールの奪取よりも、パスコースを限定することを優先的なタスクとしました。

3CHによる縦パス封じ

 中央に3枚を並べることで、ハーフスペース(大外でも中央でもないレーン)への縦パスを牽制します。

 ゾーンは言い過ぎかもしれませんが、①も②も根本的な考え方は、中央を使われたくないというものです。特に狭いスペースでもパスを回すことができる力のある川崎というチームなら尚のことです。危険な位置で奪うよりも、そもそも危険な場所に入れなければ良いという、発想自体は主体的なものです。

撤退によって与えたものと川崎の打開策

 ネルシーニョ監督は「序盤は良かった(意訳)」としたように、立ち上がりは嵌ったように見えたものの、結果として、この対応策は機能しませんでした。理由は、撤退=川崎にボールと時間を与えることだったからです。つまり、対応策を考える時間まで与えてしまったということです。


 川崎のCBにプレッシングを行わない=川崎のビルドアップに時間を与えることです。時間を与えるということは、考える時間を与えることとなりました。
 鬼木体制4年目である川崎は、撤退されたときの引き出しの多さに、継続することの強さと大切さを痛感せずにはいられませんでした。


川崎の打開策・・・CHのレーン移動
 多彩な崩しを見せていたので一例ですが、川崎はCHがレーンを移動することで打開を図りました。つまり、ハーフスペースから大外レーンへの移動によって、柏のSHに迷いを与えました。この迷いこそが、守備の基準点を逸らすことです。

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 江坂(神谷)が担当する大外レーンに相手の選手が来ることで、「どちらを見るべきか」という迷いが生じます。中央に絞っていた江坂(神谷)が引っ張られる形で外に開いてしまうことで、CB→SHという縦のパスコースが開いてしまう局面が見られました。
 また、CHの瀬川が付いていくと中央パスコース、つまりダミアンへのコースが空いてしまいます。
 このように小さな判断を柏に強いることで、後方で得た時間を前線に届けることに成功した川崎が、撤退した柏を崩していく展開で試合が推移しました。

3、相手の強さが保持にあるのなら、自分たちが保持すればいいという発想

 攻め込まれた柏は対応を迫られます。相手から主導権を奪うために何をするべきか、と。相手はボールのを保持することが得意・・・それなら、自分たちがボールを持てば、相手が得意な状況を消す(ニュートラルにする)ことが出来るのではないか、という発想です。
 つまり、低い位置での奪取後やゴールキックにおいて、蹴らずに繋ぐことです。

 全体が想定以上に押し込まれたことで、カウンターへの移行を試みるも走る距離が長くなりました。ロングボールはミカのコンディション不良もあって競り勝てず、セカンドボールについても2列目のサポートは遠く、ただボールを相手に渡すだけで、再び川崎の保持の局面という悪循環に陥りました。

攻め込まれたことで増えたゴールキックを無駄にしない・・・

 柏は圧倒的に攻め込まれたことで、ゴールキックから攻撃を開始する局面が多くありました。つまり、川崎のゲーゲンプレスを受けずに攻撃を開始する機会を得られたということです。
 しかしながら、足元の技術よりも対人の強さを優先した先発(というか今年の編成)だったことから、繋ぐ意志は見せながらも効果的な保持・前進には至らず、結局ボールを失うこととなりました。

 昨年からの課題でもあるボールを保持できない、ビルドアップできない弱点が露呈した格好です。編成の問題でもある一方、ネルシーニョの好みとして対人に強い選手というリクエストがあったものと思われます。そもそも、足元に技術がありながら、対人も強い選手を獲得するとなると日立台に屋根を付ける方が安上がりになる気はしますが・・・。
 プランとして繋ぐ気があったのか、状況を見て試合途中で変えたのかまでは読み取れませんでしたが、まだ後者であった方がポジティブな印象を持てる気がします。

締めの言葉というほどのものではないけれど

 後半については、リードによって川崎がテンポを落とし、クロージングに入ったことで柏がボール保持する時間が増加しました。呉屋や仲間の強度の高いプレッシングもボール奪取に寄与したものと思われます。
 前線でのターゲットとしてはミカよりも呉屋の方が適していることや、待望の左利きSBである三丸は個人で打開できる能力を有していることなど収穫はありました。
 次郎はコメントで、

自分たちのコンディションもまだ100%には戻っていないが、試合に入る気持ちや球際のところで川崎が1枚上だった。盛り返せる力がまだまだなかったと思う。練習試合をせずリーグ再開したことは、序盤はキツくなるだろうと覚悟はしていた。

  と話しており、ある程度は織り込んだ状況ではあるようです。次節は待ちに待った、有観客での日立台です。

vs横浜FC(3節・2020/7/8) ネルシーニョ監督のコメントから始める異世界生活

 タイトルに意味は全くありません。リゼロの2期が昨夜から始まりました。私は、猛追という表現が相応しい勢いで1期を消化しております。

 今回はネルシーニョ監督のコメントを出発点として書き進めていきます。
 コメントは公式サイト、または柏フットボールジャーナルからお願いします。(内容は全く同じです)

2020明治安田生命J1リーグ 第3節 2020年7月8日(水) 18:33KICKOFF 三協フロンテア柏スタジアム

ネルシーニョ監督「今日のゲームはチームとして機能しなかった」/J1 第3節 柏 vs 横浜FC【試合終了後コメント】 - 「柏フットボールジャーナル」鈴木潤


 ネルシーニョ監督はコメントの中で、敗戦について[守備]がよくなかった、との見解を示し、理由について、

  1. ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない
  2. 相手のWBを意識した3バック
  3. 相手のビルドアップにスペースを与えた(コンパクトを保てなかった)

 としました。今日のエントリーは、この3つについてどういう意味なのかを解釈してみました。
 早速、ネルシーニョ監督のコメントを引用します。

特に前半のゲームの入りが非常に悪く、ポジショニングも良くなくて守備がはまらなかった。相手のビルドアップに不必要にスペースを空けてしまう時間帯が続き失点を許してしまった。 

相手の攻撃の起点となる左右のウイングバックを対応するために3バックで臨んだ。サイドを気にしていた分、守備のオーガナイズが揃わず、(ディフェンス)ラインをコンパクトに保てずに攻撃の形を作られてしまう展開になった。  

 この2文に全てが詰まっていると私は考えましたので、図解しました。
(文章など書かずとも、この図解だけで十分な気がする。)

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理由①ポジショニングが悪くプレスがプレスが嵌らない

  プレスが嵌らないとは、守備の枚数が相手の攻撃に合致せず、どこかを埋めるとどこか空いてしまう状況を指すものです。
 横浜FCは、3バック+ゴールキーパーの4枚を中心に[攻撃]の組み立て(=ビルドアップ)を行うことで、前進を図りました。
 [攻撃]の起点となる4枚に対して、柏は2枚(呉屋・ミカ)での対応を迫られました。2対4という数的にも不利な上、足元の技術に長け、ボールの保持を強さとする横浜FCのビルドアップ隊に、圧力を掛けることができませんでした。
 2列目以降の選手がサポートに出ることが望ましいのかもしれませんが、理由②「相手のWBを意識した3バック」や理由③「コンパクトに保てない」の影響で封じられています(後述)。

 柏のプレッシングが無策だったわけではありません。なぜなら、横浜FCはボールを扱う技術に長けたチームだからです。下平監督の哲学・指導の下、全選手が恐れずにボールを扱うことで強さを発揮する秩序だったチームです。柏のプレッシングに対して、フリーな味方を見つける状況の認知と、そこにボールを通す技術と判断は、リーグでも屈指の水準です。自陣ゴール前でのパス回しは、一つのミスが失点に直結するという恐怖が伴うことから、大変な勇気が必要です。

 結果的に柏のプレスは、枚数が合致せず噛み合わなかったことから、横浜FCに余裕を持った前進を許すこととなります。前半途中から神谷を投入し、状況の整理を試みるも解決には至らず、90分という時間が経過しました。


理由②相手のWBを意識した3バック

 「相手のWBを意識した3バック」とは両WBに対応するために右は峻希に、左は瀬川に対応させることです。
 横浜FCはボールを保持する局面で、両WBがサイドの高い位置にポジションを取ります。横浜の再開初戦・札幌戦では、この両WBの攻撃参加、主に裏への抜け出しによって、PAへ迫る再現性のある攻撃を展開していました。足の早いWBが裏を狙うことで、守備側は陣地を押し下げられてしまいます。
 また、横浜FCのWBはスピードを備え、個人での打開が可能であることから、柏としても個の質で劣らない選手を配置する必要がありました。

理由③相手のビルドアップにスペースを与えた

 しかしながら、3バックが裏目にでる格好となりました。結果的にこの二人は最終ラインに押し留められてしまうこととなりました。一部コアなサッカーファンが使う言葉で言うところのピン留めです。
 峻希と瀬川が最終ラインにピン留めされたことで、横浜FCのビルドアップ隊は横幅を使いたい放題となりました。横幅を使いたい放題=ビルドアップにスペースを与えたという解釈です。
 横幅を自由に使えるということは、陣形を横に広げることで柏のプレッシング隊に長い距離を走らせることが可能となります。守備に隙間を作ることができるということです。

 峻希(と瀬川)は横幅を埋めたくても、前へ出れば裏のスペースを使われてしまうので、高い位置までプレッシングに出られない状況です。実際に「出てきたら(瀬川の)裏を使え!」という下平監督の指示を集音マイクが拾っています。

 瀬川について、もう一つ言及したいことがあります。低い位置にピン留めされてしまったことで、攻撃への移行の際に長い距離を走る必要があったことです。昨夏〜秋に掛けてSBを経験しているものの、強みは攻撃であることに違いありません。後半のカウンターの場面で、アウトサイドを使ったパスが逸れてしまいました。これは、運動量が多かったことで疲労が蓄積し、プレーの精度が低下してしまったことが要因のひとつだと考えています。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど 

 これだけ書いて前半20分くらいまでの内容です。失点直後、早々と選手交代に踏み切るなど、触れたい事象はたくさんあるものの、次の試合が迫る中ではこの程度が限界です。

  相手を「ニュートラル」にすることは、ネルシーニョ監督の基本的な戦術の考え方です。ニュートラルというのは、相手の良さや強みを消すことです。今回も入念なスカウティングや分析があった上での3バックという判断です。
 過密日程かつ、コンディションが不十分な中で、戦術的に妥協することなく、たたひたすらに勝利を追求していく姿勢は、ネルシーニョ監督の生き方そのものだと感じました。
 そして、そのネルシーニョ監督に真正面から立ち向かい、勝利を収めた下平監督の手腕もまた類稀なものです。名将対決を現地で見られなかったことは残念でなりません。秋のニッパツではSS席を購入する予定です(何の話?)。

 

vs東京(2節・2020/7/4) 世界はそれを”塩試合”と呼んだ

 タイトルに深い意味はありません。
 堅い内容の試合となったことから、退屈に感じた方も多いのではないでしょうか。停滞感・・・世界はそれを”塩試合”と呼んでいます。
 個人的には、ネガティブな響きなので好きな言葉ではありません。特に、お互いに意図があってそういう展開になったゲームに使いたい言葉ではありません。
 本エントリーでは、リスペクトを込めて「手堅いゲーム」と呼びます。
 それでは理由を探っていきます。

 ※60分以降のことは一切触れません。 

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2節東京戦

 結論からですが、ゲームが膠着した理由は、

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから
理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

 の2つだと私は考えます。繋がっている事象でもあるので、表裏一体と表現してもいいかもしれません。

 

戦前から予想できた膠着(堅守速攻の東京)

 試合の展開としては戦前から予想できるものでした。

 手堅いゲームとなった理由は、東京の戦い方に起因します。
 東京の戦い方を一言で表現するならば、堅守速攻
 読んで字の如く、撤退によるブロックの形成と、奪ってからの素早いカウンターで仕留めることです。エルゴラ選手名鑑には、「今年はボール保持の部分にもこだわる(意訳)」としているものの、ベースにある考え方は堅守速攻です。

 

理由①:東京が撤退→カウンターを選択したから 

1、カウンターの阻止(=背後のスペースを与えない)とカウンターの準備

f:id:hitsujiotoko09:20200705100435p:plain 撤退を選択することで、①柏のカウンターを阻止する(背後のスペースを消す)とともに、②自分たちがカウンターを発動するための準備を整えることができます。
 ここでいう柏のカウンターとは、東京の背後のスペースを使うことです。
 ①柏のカウンター阻止については、ボールを失った直後、東京の選手は撤退のための準備をします。撤退する時間を得るためにFWやSHは牽制のプレッシングを行います。自陣でブロックを形成することで、背後のスペースを消し(裏抜けをさせない)、失点のリスクを限りなく抑えます。柏がDFラインでボールを回す時間が多かったのは、背後のスペースを与えてもらえなかったからです。
 そして、東京は自分たちがカウンターを発動するために、柏に背後のスペースを空けてもらう必要があります。
 自陣にブロックを形成することで柏はボールを保持することとなります。つまり、前掛かりとなり、ほぼ全選手が東京陣地に侵入することとなります。逆に言えばそれは、柏の背後に広大なスペースが存在するということでもあるのです。

2、諸刃の剣である東京のカウンター

 東京はボールを奪った直後、ポジティブ・トランジションでは、ボールの回復(パス回し)よりも前線の選手にボールを届けることを優先します。
 奪った瞬間に柏の背後のスペースを付くことで、一気に畳み掛ける算段です。ディエゴ、レアンドロアダイウトンという圧倒的な質的優位によるカウンターは驚異そのものです。
 ボールを保持することで主導権を握るのではなく、柏のゴールへ迫ることで主導権を握ります。ヒシャルジソンはカウンターの阻止によって退場に追い込まれましたが、まさに象徴ともいえる現象です。
 しかしながら、前に急ぐことは、それだけボールを失うリスクも内包していることにもなります。自陣でのパス交換をでボールを保持した方が、失うリスクを減らすことができるからです。前線の質的優位を活かす、つまり1対1は、不確実なシチュエーションの連続という意味でもあります。ボールを失う可能性が相対的に高いという意味で、諸刃の剣と表現しました。
 理由②である柏のポゼッションで時間が推移したのは、東京がボールを失う回数が多かったからでもあります。

理由②:柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したから

  ゲームが膠着した理由2つ目は、柏のポゼッション(ボール保持)で時間が推移したからです。
 理由①で述べたように、強固なブロックを形成する東京に対して、ボールを保持する柏という構図となります。

1、ブロックを崩すためのパス回しとサヴィオの起用

 ブロックを形成する東京は、そこまで強いプレッシングは行いません。言い換えると、柏のビルドアップ隊は、時間とボールを得ることになります。大谷がサイドバックの位置に降りることや、江坂が中盤へボールを受けにいくなど、相手の守備の基準を狂わせることで打開を図ります。
 リモートマッチのお陰でベンチからの指示がよく通ります。「ポゼッション!」や「ボールを大事に」といった声がよく聞こえたことから、無理な前進よりも後方でボールを保持しながら、主導権を握る狙いがあったものと思われます。

2、サヴィオの起用

 ヴィオの起用についても、ボールを保持する時間が増えることは、スカウティングの段階から予想できたことから、至った判断だと思われます。裏へのランニングが持ち味のクリスティアーノよりも、間で受けることを得意とするサヴィオの方がこのゲームの性質に適していると考えます。クリスの大好物である裏のスペースは、東京の撤退によって消されてしまっているからです。
 クリスの欠場理由は不明ですが、過密日程への対応も兼ねた、戦術的な理由なのではないか、というのが私の考えです。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 ゲームが膠着した理由について書いてきました。つまりは、両チームが意図的を持って行動した結果、生まれた均衡ということになります。

東京の撤退→柏の時間を使ったボール保持(ブロックの外でのパス回し)→東京ボール奪取からカウンター→柏がボールを回収、再びボール保持

 お互いが主導権を握ろうと目論む中で、このようなサイクルになりました。サイクルの循環による既視感と、ブロックの外でボールを回す柏の時間が長かったことが、停滞感の正体と思われます。
 ヒシャルジソンの退場直後のセットプレーで失点を喫し、一人少ない状況で追い掛けるという再開初戦にしてはタフな内容となりました。退場をヒシャルジソンのせいにするのは簡単ではあるものの、退場に至るまでの経緯は(特に1枚目や、あわや退場の場面)、まさに東京の狙い通りだったことは認めなくてはなりません。
 しかしながら、ブロックを敷いた東京を相手にしても、ゴールへ迫ることができた点はポジティブに捉えることができそうです。ポジショナルな配置や、後方の数的優位を前線に届けることなど、昨シーズンに積み上げたものが、J1でも通用するとを証明したゲームでもありました。

ネルシーニョ監督「結果は残念だが準備してきたパフォーマンスは表れていた」/J1 第2節 柏 vs FC東京【試合終了後コメント】

 監督も最後の崩しの部分は課題として認めながらも、全体的なパフォーマンスには満足しているようです。対外試合を行っていなかったことや、公式戦の中でコンディションの向上を図る方針であることなどを踏まえると、そこまで悲観する内容ではないと思います。

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(貸借対照表編)

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・収益編) - 羊をめぐる冒険

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編) - 羊をめぐる冒険

 

・クラブの規模拡大とは何を指しているのか?
・なぜ貸借対照表が大きくならないのか?
・やっぱり難しいスタジアム拡張
・なぜ流動負債に対して流動資産が少ないのか

 

・クラブの規模拡大とはどういう意味か?

 そもそも「クラブの規模を拡大する」とは、どういう意味でしょうか。頻繁に使われる表現ですが、とても抽象的です。
 売上を増やすこと、タイトル常連クラブになること・・・考え方はいくつもあると思います。
 そんな中でも私は、貸借対照表を大きくすることだと考えています。
 それは、貸借対照表とは企業の「資産」と「負債」の状況を表しているからです。
 どのように資金を調達し、どのように財産を使って稼ぐのか?それは企業活動そのものだと思います。

 

1、「貸借対照表」とは何か?

 貸借対照表とは、バランスシート(B/S)と呼ばれています。細い説明はリンクからお願いします。

https://kessan-online.jp/column/finance/%25e8%25b2%25b8%25e5%2580%259f%25e5%25af%25be%25e7%2585%25a7%25e8%25a1%25a8%25e3%2581%25ae%25e8%25a6%258b%25e6%2596%25b9%25e3%2581%258c%25ef%25bc%2593%25e5%2588%2586%25e3%2581%25a7%25e3%2582%258f%25e3%2581%258b%25e3%2582%258b%25ef%25bc%2581

 「負債(右側)」は資金調達(どのようにお金を集めて)、「資産(左側)」は所有財産(どのような財産を持っているか)を示しています。企業はその「資産」を元に利益を獲得(収益の拡大or費用の削減)、要は損益計算書上の「純利益」を大きくします。そしてその「純利益」は決算日(3月31日)決算処理として貸借対照表上の「純資産」に計上(振替)されます。この一連の循環こそが財務諸表です。
 

2、貸借対照表が大きくならないのはなぜか?

 今回も過去の3期と比較しながら、なぜ貸借対照表が大きくならないのか考えていきます。

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 例のごとく・・・変化がありません。当然です。
 変化がないということは、クラブが拡大されていないということです。当然、小さくもなっていませんが。現状維持といっていいでしょう。
 一サポーターとして感じる停滞感は、ここにあると考えています。
 貸借対照表が大きくならない理由を2つ挙げていきます。

 

理由①【利益を出していないから】

 理由の1つ目が、利益を出していないからです。柏レイソル損益計算書上、僅かな「利益」しか計上していません。これが継続的な事象であることは「利益編」でも触れました。
 「利益」を計上していないという点が、貸借対照表が拡大されない要因です。どういうことでしょうか。
 利益=収益ー費用です。「利益」とは、簡単に言えば最終的に手元に残った儲けを指します。その単年の利益(または損失)は決算日に、貸借対照表上の純資産の部「利益剰余金」に振り替えられます。純資産は、自己資本ともいいます。最終的に手元に残った儲けということは、ある意味では「資金調達」と同義となることから、貸借対照表右側(調達サイド)に計上します。
 そして、「利益剰余金」とは、クラブ(企業)創設以来の1年ごとの利益(または損失)の積み重ねを意味しています。どういうことか。柏レイソルは創設以来20数年間、事業を継続してきました。その20年間の利益の合計が▲1百万円(2019年3月期時点)ということです。要は、負け越しているということです。
 「純利益」とは返済不要の資金調達なのです。返済不要の資金調達・・・最強です。何に使おうが誰にも文句を言われません。
 継続的に利益を計上し、「利益剰余金」を積み重ねることで自己資本の増強を図ることが可能です。換言すれば、自己資本の増強とは、自由に使えるお金が増えることを意味しています。利益を出す重要性はここにあります。

理由②【資産が増えていないから】

 2つ目は、資産が増えていないからです。当たり前だろうという話ですが。
 流動資産がわずかながら増加しているものの、増収幅を考えれば意図的に増加させたものではないと考えられます。
 予算のほぼ全てを人件費や販管費に使っていることを裏付ける根拠もここにあります
 
 流動資産(現預金など)が少ない+固定資産の額が変化していない=資産に資金を使っていない
 と考えるのが妥当です。
 企業は「資産」を元手に(使って)収益を獲得、または費用の削減を行います。要は「利益」の最大化を図ります。
 具体的には、日立台に屋根を付けた場合(設備投資した場合)、屋根の取り付けに掛かった金額を固定資産に計上することから、その分だけ資産が増加します。貸借対照表を拡大するとはこのことです。屋根が付くことで観戦における快適性や利便性が向上し、入場料収入の増加につながります。資産への投資(設備投資)は、収益の獲得に繋がることになります。
 ただ、設備投資による固定資産の増加は、減価償却費や修繕費が発生するので、単純に全額が利益となるわけではありあせん。

スタジアムの拡張は難しい

 では何に投資するか?と言われれば、やはり真っ先に浮かぶのがスタジアムの拡張です。
 しかしながら、前回のイエローハウスで議題にも上がったように実現のハードルは想像以上に高く特に、行政・近隣住民への理解(電波・騒音・交通)は困難と思われます。財務基盤以前の問題です。

『2020柏レイソルイエローハウス』要旨|お知らせ情報

 では、現状の日立台を満員にすべく経営リソースを割くか?と言われば、答えはノーです。
 日立台で満員になるゲームは年に数えられる程度です。しかしながら、収容率は70%程度を維持しており、それなりに稼働していると言えます。それは即ち、今のサイズが適しているということです。
 「収益編」でも触れたように、残りの30%を埋めることで得られる「利益」は微々たるものです。むしろ、現場のスタッフへの負荷を考慮すれば、やらない方が良いという経営判断になっても仕方がないように思います。

だからこそできる投資を

 設備投資といっても、スタジアム拡張や屋根の取り付けだけではありません。システムに投資することで利便性の向上を図ることも可能です。
 例えば、インターネット上で待機列の抽選を完結するシステムを構築するなどです(アウトソーシングでもいいですが)。
 待機列・・・。普段から並んでいる僕らのような比較的コア層には当たり前として受け入れている行為・文化です。しかし、新規層に魅力を訴求するにはハードルが余りにも高すぎます。現代人は、そこまでの可処分時間を持ち合わせていません。優良なコンテンツが溢れるこの時代、エンタメとは可処分時間の奪い合いです。
 自由席を最安値とする席割りを継続するのであれば、新規層を取り込む障壁でしかない文化だと個人的には考えています。新規層を取り込めない文化、エンタメが衰退の一途を辿ることは歴史が証明しています。
 費用面についても、ナイトゲームにも関わらず午前中から警備員やアルバイトを配置している光景には疑問を感じます。
 また、今後は感染症予防対策が重要な経営課題となることが予想されます。待機列での密集などもどのような捉え方をしていくのか、興味深い点ではあります。「新しい生活様式」ではありませんが、時代に合わせて変化に順応していくことができなければ生き残ることはできません。開門前の酒盛りタイムは大好きなのですが・・・。

 

番外編【流動負債に対して流動資産が少ない理由】

 柏レイソル貸借対照表で最も印象的な点は、流動負債に対して流動資産が少ない点だと思います。
 流動資産とは、1年以内に現金化できる資産を指します。現金や預金を中心に、売掛金や有価証券などが含まれます。
 流動資産が1年以内に現金化できる資産であることに対し、流動負債は1年以内に支払い期日が到来する負債となります。流動資産465百万円に対し、流動資産1,508百万円・・・あれ?返済できなくない?と思いますよね。
ただ、これは「利益」が少ないことと同様に毎期発生している現象です。それにも関わらず、資金繰りや事業の継続について懸念があるような話を聞いたことがありません。あくまで推察ですが、ここから柏レイソルの資金の流れが読み取れるように思います。

 貸借対照表とは、決算日である3月31日の資産と負債の状況であると説明しました。たった1日を切り取ったものということは、もしかしたら翌日4月1日には1年分のスポンサー料である20億円近い現金が振り込まれている可能性だってあるはずです。

 なので、流動資産が少ない理由としては、

①期首に一括してスポンサー料を受け取っている→1年間で使い切っているから期末に現預金(流動資産)が少ない
②スポンサー料は月割りだけど、月初に受け取るけど、月末に支払い(給料とか)が集中している

 こればかりは貸借対照表から読み取るのは難しいのであくまで推察です。しかしながら、当期に限った事象ではないことから、おそらくはこ2点のどちらかが要因だと思われます。

 また、流動負債が多い流動資産と比べて)理由は、

年間シートやファンクラブの会員費を前受収益として負債に計上

 していることが挙げられます。
 年間シートの代金は、シーズン前に一括して受取(サポーターから見れば支払い)ますが、試合が開催されるまでは、サービスの提供義務(サポーターから見れば、試合を観る権利)が残ります。この「提供義務」を会計上、「負債」として認識します。なぜなら、仮に試合が中止(例えば、コロナの影響で無観客開催など)となった場合に、払い戻しとなる可能性があるからです。実際にサービスの提供(試合の開催)を行うまでは負債と認識しておくということです。
 3月31日時点では、シーズン開幕から間もないことから、試合を消化しておらず、前受収益が減っていないことが要因の一つだと考えられます。
  ただ、年パスとファンクラブの会員費で15億は多すぎると思うので、他に考えられるのは移籍金の未払いを期首に貰うスポンサー収入で賄っている・・・とかそのくらいしか私には思い浮かびませんでした。
 月次で数字の推移を追うことが出来ればもう少しわかることも増えてくると思いますが、そこまでの開示義務はありませんし、スタッフの負担が尋常ではなくなってしまいます。

 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 3回に分けて柏レイソルの財務諸表を読んできました。数字から見る柏レイソルは、いかがだったでしょうか。
 あれこれ文句を言われることが多い経営ですが、確かに自分がこのクラブの社長だったとしても、これまでの社長とそう変わらない経営判断をするのではないか、と思います。出来る範囲で最も資金効率が良い経営をされている印象を受けました。
 ましてや、親会社からの出向という形を取っている社長も多かったことから、保守的にならざるを得ない心情も理解できます。
 コロナの影響によって、エンタメの在り方などが大きく変わっていくことが予想されます。このクラブが変化にどう対応、適応していくのか楽しみです。

底辺銀行員が柏レイソルの財務諸表を読んでみるブログ(損益計算書・「費用」「利益」編)

 損益計算書の「費用」および「利益」編です。

 今回は「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」という話をします。

 前回からの引用ですが、前提を頭に浮かべながら進めていきましょう。
 ※今回も2019年3月期を「当期」と呼びます。

初めに会計期間を把握しましょう。損益計算書とは、一定期間における収益と費用の成績表です。
 2019年3月期(以降、当期と呼ぶ)損益計算書とは、「2018年4月1日〜2019年3月31日」の間にいくら稼いで、いくら使って、いくら手元に残ったかを記したものとなります。
 会計期間はクラブ(企業)によって変わります。3月決算であるレイソルは、期中にシーズンが変わる点に注意する必要があります(3月決算は全52クラブのうち、3クラブのみ)。
 要は、当期は「4月〜12月はJ1」「1月〜3月はJ2」だった、ということです。

 次に、この期間のトピックス(例年とは違う点)を把握します。後述しますが、突発的な事象を頭に浮かべながら仮説を立てることが重要です。

(大前提)成績不振に伴いJ2降格
ACLに出場していた(4月・GL敗退)
②監督交代(5月・下さん→望さん)
③中谷が移籍(6月・移籍金が2.5億円との報道あり)
④オルンガ加入(8月)
⑤監督交代(11月・望さん→岩瀬さん)
⑥ネル爺就任決定(12月)
⑦中山・安西、ブライアンが海外移籍(1月)

・二度の監督交代
・アカデミー卒の移籍が多い

 「二回も監督交代をしたということは、費用が増えてるはず!」とか、「移籍が多かったということは、移籍金がたくさん貰えたはずだから、売上が伸びいるはず!」という仮説に基づいて読み進めると理解が深まります。財務諸表単体では数字の羅列でしかありません。方向感を持つことが重要なのです。
 また、上記で列挙した事象は突発的な事象です。どういうことか。例えば中谷の名古屋への移籍は既に完了しているので、2020年シーズンには起こり得ません。
 損益計算書に限らず財務諸表を読む際、事前に突発的な事象を把握することで、前年(や例年)との比較において、異常値の原因を捉える手助けとなります。

 

1、「費用」編

 営業費用全体では、対2017年2月期比で約45%の増加

 前回同様、過去の自分たちとの比較を行ないます。
 まずは、全体から確認していきます。「営業費用」全体では、当期は対2017年3月期比約45%の増加となっています。1年間に掛かる費用が2年間で倍近くなったということです。
 この「45%」という数字に見覚えがありませんか?そうです。「営業収益」の増加率も約45%です(前回のエントリー参照)。
 「収益」が増加した分だけ「費用」も増加したということになります。一般的に「収益」が増加すれば「費用」も増加するものです。収益が増える=仕事が増えるとほぼ同義だからです。他方、資金が増えたことで、できることが増えるからという解釈も可能です。したがって、「費用」の増加は決して悪いことではありません。
 

 増減要因を読み取ろう

 全体から個別の事象に掘り下げていきます。初めに結論から話します。「人件費」以外は(ほぼ)変化ありません。

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 「人件費」が対2017年3月期比で約10億円の増加しています。「人件費」とは、主に監督・コーチ・選手の給料や、移籍金の償却などを指しています。(ちなみに、フロント陣の給料は「販管費」に計上されています。)
 移籍金は一度全額を無形固定資産に計上し、契約期間に渡って償却します。償却方法等は会計の話題になるので一番最後に記載しました。
 経営陣からサポーターに対し「現場に資金を投下したい」と、イエローハウス等を通じ繰り返し説明を行なっています。敢えて触れる必要はないと思いますが、詳しくは過去のイエローハウス議事録をご覧ください。
 勝ち点1を獲得するために掛かった費用(人件費)を比較したものを、デロイト・トーマツが公開しております。興味のある方はどうぞ。(2019年版が見つからず)

Jリーグ マネジメントカップ 2018|スポーツビジネス|デロイト トーマツ グループ|Deloitte

 「トップ運営費」の増加については、ACLの遠征費やW杯中断期間中に行ったキャンプなど、例年にはない費用が計上されているものと思われます。しかし、全体から見れば影響は限定的です。
 当期の費用についてまとめると、

「収益が増えた分は、ほぼ人件費に使いました」

 ということになります。最大限、チームに資金を投下することで、強いレイソルを見せるという経営判断です。結果的に降格を喫した

わけですが・・・。
 

 費用構造を理解しよう

 次に比率で費用構造を把握していきます。
 一目瞭然、周知の通り「人件費」が最も大きなウエイトを占めています。

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 継続、一貫して現場主義、ピッチに資金を注ぐのだという姿勢が数字から読み取ることができます。
 クラブのリソースをなるべく現場に投下することで強いレイソルを見せる、勝利こそが最大のファンサービスということです。
 変化がないというのが最大の特徴といったところでしょうか。「収益」が増加し、使えるお金は増えているものの、使い方は変わらないということです。

 また、「人件費」が約70%を占めていることが意味するものは何でしょうか。
 それは「費用」の使い方が「収益」の増加を図る(例えば設備投資)ためではなく、不確定要素が大きいゲーム(ピッチ)の部分に「費用」(使えるお金)の7割を注いでいるということです。

 

2、「利益」編 

 毎期プラスマイナス0近辺の純利益が意味するもの

 予算を使い切るためにお金を使っているのではないか?という話をします。
 
「利益」=「収益」ー「費用」です。1年間でいくら儲かったのか?を示しています。

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 当期は2百万円の純利益ということで、黒字達成です。しかしながら、前期は13百万円の黒字だったので、若干減少してしまいした。
 対前期比で売上は増加したものの利益が減少・・・これを一般的に増収減益と表現します。
 
 3期分だとよくわからないので、過去10期分を横並びにしてみます。(グラフが上手に作れなかった)

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 綺麗にプラスマイナス0近辺で推移していることがわかります。(純利益が1億円を超えたのは一度。)
 この事象から感じることがあります。
 それは、

「収益」を増やすために費用を使っているのではなく、「予算」を使い切るために使っていないか?

 予算を使い切ることが目的となっているのではないか?ということです。ここで、振り返ります。

①収入の50%を占めるスポンサー収入はしばらく横ばい(一定)で推移。(収益編、参照)
②収益が増えてもお金の使い途は変わらない(上記、費用編)
③純利益が毎期一定

 ネガティブな表現をすれば、まるで公共事業だと思います。ポジティブに捉えれば、身の丈にあった経営とも言えるでしょう。
 

「収益」を増やすためのお金の使い方はしないから、クラブの成長(規模拡大)は期待しないでね!赤字出さない程度に現場に資金を投下して、できる限り勝率を上げるよ!

 というのが今の柏レイソルの経営方針です。特別新しい発見ではありません。イエローハウスで瀧川社長が話されたことを数字という角度で見ただけです。
 お金の使い途を知るためには、厳密には、貸借対照表も確認する必要があります。詳細は次回触れますが、現預金(流動資産)が異常に少ないことや、資産が増えていないことなどが裏付けています。
 収益編でも取り上げたように、当面の間は、収益の増加は見込めません。新型コロナ感染拡大によるスポンサー企業の業績悪化が懸念されるからです。また、当期の増収要因であった配分金についても、公式戦延期に伴う救済資金等に充当されるものと思われ、現水準の維持は困難と予想します。
 

締めの言葉というほどのものではないけれど

 クラブの規模拡大を考えた時、使えるお金(予算)の増加が見込めないのであれば、増やす努力をするべきです。その努力を成長と表現するのだと思います。
 「クラブの規模拡大」というと抽象的ですが、財務の観点から言えば貸借対照表の拡大を指します。現預金を厚くすること、設備投資すること、資金調達(借入・増資)することなど手法はさまざまですが、詳細は次回にします。
 周りくどい表現を続けてきました。冒頭で述べたように「そのお金の使い方は、未来に繋がっていますか?」というテーマで書いてきました。
 ネルシーニョが2025年まで契約を延長したとツイートを拝見しましたが、アフタ・ネルシーニョに備えた方向性の提示、スキーム作りは必須と感じます。収益の大幅な増加が見込めない以上、長期的な視点に立ったクラブ運営でしか強くはなれないと思います。

 

移籍金の資産計上と費用認識について

 こちらを参考に見ていきます。

第185回 (A) 「サッカー選手の移籍金と会計処理」【ケース・スタディー】 | 連結会計・グループガバナンス・経営管理のディーバ(DIVA)

 当期に加入したオルンガを例にします。報道レベルですが、条件は(移籍金:約3億3,000万円、契約期間3年)となっています。

https://qoly.jp/2018/08/11/kashiwa-raysol-signed-with-michael-olunga-kgn-1

 契約が決定した時点で移籍金を無形固定資産に全額計上します。

(借方)移籍金・無形固定資産 3億3,000万円 /(貸方)現金預金・流動資産 3億3,000万円

 仕訳です。この時点では費用計上されておらず、損益計算書には反映されません。
 そこで移籍金を契約期間に渡って費用認識する、要は償却する必要が出てきます。どういうことか。今回の契約では、柏レイソルがオルンガを3年間所有する権利を3億3,000万円で獲得したと考えます。この3億3,000万円で3年間というのがポイントです。3年間の権利であるはずなのに、契約時点で一括して費用計上するのはおかしいよね、3年間で均等に計上しましょうよ、という理屈です。
 当期のオルンガの償却額を計算します。
 3億3,000万円×8ヶ月/36ヶ月(3年)=約7,300万円となります。(8月加入=当期に属する期間は8月〜3月の8ヶ月)。

 (借方)減価償却費・費用勘定 7,300万円 /(貸方)移籍金・無形固定資産 7,300万円

 この7,300万円が人件費に計上されているものと思われます。